説明

鉛蓄電池

【課題】自動車用の鉛蓄電池において、充放電サイクル初期に急激な容量低下が起こるが、メンテナンスフリータイプの電池では有効な対策が検討されていなかった。
【解決手段】化成液にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を少なくとも1つ以上添加して化成する。添加量は300〜4000ppmである。前記集電体中にAs、Sb、Bi(5族)、Se、Te(6族)元素が少なくとも1つ以上含有され、添加量の合計は30〜150ppmである。化成の通電電気量は鉛蓄電池の正極活物質理論容量の90〜160%が望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の始動用の鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉛蓄電池の充放電サイクル中に早期容量低下を発生させる問題があった。これは格子表面の放電により格子と活物質の導通が失われ容量が低下するものである。この対策の一つとして、格子近傍に放電しにくいα−PbOを生成させ深い放電をした場合でも格子表面が放電しないようにするものがある。その他にも代表的なものとして、未化成正極板に中性の硫酸塩溶液を含浸させた後、希硫酸を主体とした電解液中で化成し、化成初期に活物質中の中性電解液と格子近傍の活物質を反応させてα−PbOを生成させ、つづいて電解液中の硫酸が拡散して来て反応性の優れたβ−PbOを極板内部および表面に生成させる方法はある。しかし、この方法ではα−PbOの生成場所が不均一で生成量も少なく、また生成量の調整もし難い。
【0003】
また鉛蓄電池の早期容量低下という問題を解決するもので、正極格子合金としてアンチモンを0.8重量%以上かつ3重量%以下、砒素を0.1重量%以上かつ0.4重量%以下、銅を0.0005重量%以上かつ0.03重量%以下、銀を0.0005重量%以上かつ0.25重量%以下、錫を0.0005重量%以上かつ0.1重量%以下、ビスマスを0.001重量%以上かつ0.03重量%以下、そしてニッケルを0.0002重量%以上かつ0.003重量%以下含有させた鉛合金を用いたものがある(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平9−231981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような従来の方法でメンテナンスフリータイプの電池を作製した場合、減液量増大、比重低下大の問題が発生し著しくメンテナンスフリー性能が低下する。本発明が解決しようとする課題は、メンテナンスフリー性能を確保し更に早期容量低下を抑えた電池を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、鉛−カルシウム合金の集電体からなる未化極板を用いて成る鉛蓄電池において、化成液にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を少なくとも1つ以上添加して化成する。前記化成終了後の化成液中には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属が、300〜4000ppm含有されている。前記鉛蓄電池の集電体中に、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)(周期律表の5族)、セレン(Se)、テルル(Te)(同6族)元素が少なくとも1つ以上含有されている。前記集電体中に含まれる元素の合計が30〜150ppmである。前記化成の通電電気量は、鉛蓄電池の正極活物質理論容量の90〜160%である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、メンテナンスフリータイプの電池でも早期容量低下を抑えることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施することができる。
【実施例】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
(比較例)
比較例の鉛蓄電池は、次のようにして作製した。
【0011】
まず、鉛丹15kgと希硫酸(比重1.26:20℃換算以下同じ)110Lを混練ミキサー中に投入し鉛丹スラリーを作った。前記鉛丹スラリーと鉛粉850kgをペースト練合機に投入し、100Lの水と混練して正極活物質ペーストを作った。次に、この正極活物質ペースト85gをカルシウム合金からなる格子体に充填してから、温度50℃、湿度95%中に18時間放置して熟成した後に、温度110℃中に2時間放置して乾燥して未化成正極板を作った。
【0012】
次に負極板を作った。まず、鉛粉と、該鉛粉に対して15wt%の希硫酸(比重1.26)と、該鉛粉に対して12wt%の水とを混練して負極活物質ペーストを作った。次に、負極活物質ペースト80gをカルシウム合金の格子体からなる集電体に充填してから、温度50℃、湿度95%中に18時間放置して熟成した後に温度110℃中に2時間放置して乾燥して未化成負極板を作った。
【0013】
次に、未化成負極板8枚と未化成正極板7枚とをセパレータを介して交互に積層して各極板群を作った。
【0014】
次に化成を行った。25℃の雰囲気で22.5A、12時間の定電流で充電を行った。充電に用いた硫酸の比重は1.240とし、各セル700ml注入した。
【0015】
以上の手順により、定格電圧12V、定格容量(5時間率容量)55Ahである、比較例の80D26形自動車用鉛蓄電池(JIS D5301記載)を作製した。
【0016】
(実施の形態1)
実施の形態1の鉛蓄電池は、次のようにして作製した。
【0017】
比較例と同様の方法で未化成負極板及び未化成正極板を作製し、未化成負極板8枚と未化成正極板7枚とをセパレータを介して交互に積層して各極板群を作った。なお、正極集電体にはBi及びSbをそれぞれ100ppm含有した物を用いた。
【0018】
次に化成を行った。25℃の雰囲気で17A、12時間の定電流で充電を行った。充電に用いた硫酸の比重は1.265とし、各セル700ml注入した。前記硫酸中には硫酸ナトリウムを充電後のNa量が3000ppmに成るように添加した。
【0019】
以上の手順により、定格電圧12V、定格容量(5時間率容量)55Ahである、実施の形態1の80D26形自動車用鉛蓄電池(JIS D5301記載)を作製した。
【0020】
図1にはJIS規定の重負荷寿命試験のサイクル容量変化を示した。試験条件は40℃の周囲温度で20A、1時間放電した後に、5Aで5時間充電する充放電を1サイクルとして充放電を繰り返し、25サイクル毎に20Aで端子電圧が10.2Vになるまで連続放電を行い、放電持続時間を測定した。寿命サイクル数は、容量が5時間率容量の半分、即ち22.5Ahとなる回数とした。
【0021】
実施の形態1は、比較例に見られるようなサイクル初期の容量低下がなく、寿命末期まで大きな容量低下が発生しない。また寿命判定容量を切るまでのサイクル数も多くなっている。比較例に見られるサイクル初期の容量低下は、深い充放電によって格子−活物質界面で活物質が放電し集電性が低下したことによる容量低下である。実施の形態1では格子−活物質界面に放電し難いα−PbOを存在させることにより格子−活物質界面の放電を抑制しサイクル中の急激な放電容量の低下を抑えている。なお、正極集電体中に含有させる元素はBi、Sb以外にAs、Se、Teでも同様の効果が得られる。
【0022】
図2には化成後の化成液中に含まれているナトリウム(Na)量と重負荷寿命のサイクル数の関係を示す。化成液中のナトリウム量が300ppm以上で比較例の180サイクルを超え、4000ppmで最高値を示す。これ以上添加すると、硫酸ナトリウムによる格子腐食が増加するため、化成液中のナトリウムの最適量は300〜4000ppmが望ましい。なお、その他のアルカリ金属、アルカリ土類金属でも検証し、同様の結果が得られた。よって、化成終了後の化成液中にアルカリ金属またはアルカリ土類金属が300〜4000ppm含有されていれば、寿命性能が向上することが分かる。また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属は1種類でも、複数の混合状態でも効果は同じであった。
【0023】
図3には、正極集電体中に添加するビスマス(Bi)の含有量と重負荷寿命のサイクル数との関係を示す。Bi量が30以上で比較例の180サイクルを超え、150ppmで最大値を示す。150ppm以上ではメンテナンスフリー性能の低下を招くことから正極集電体に含有するBiの添加量は30〜150ppmが望ましい。なお、Bi以外の5族の元素、As、Sb及び6族の元素Se、Teを用いた場合でも同様の傾向を示す。正極集電体中に5族、6族の元素がある一定量存在する場合、格子−活物質界面に生成する二酸化鉛は安定なα−PbO2またはより安定なβ−PbO2が生成すると考えられ、これにより深い放電を繰り返した場合に格子−活物質界面の活物質の放電を抑えて、早期容量低下を抑制することができる。
【0024】
図4には、理論容量に対する化成時の通電電気量の割合である課電量と重負荷寿命のサイクル数との関係を示す。課電量が160%以下で比較例の180サイクルを超え、約120%で最大値を示し、課電量低下に伴いサイクル数が徐々に低下する。尚、課電量90%以下では容量が大幅に低下することから課電量は90〜160%が望ましい。これは課電量が増加することで、早期容量低下の抑制を担う安定なα−PbO2量が減少しサイクル特性が低下するためである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】比較例、実施の形態1の重負荷寿命試験における容量変化を示す図である。
【図2】化成後の化成液中のNa量と重負荷寿命のサイクル数の関係を示した図である。
【図3】正極集電体中のBi含有量と重負荷寿命のサイクル数の関係を示した図である。
【図4】課電量と重負荷寿命のサイクル数の関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛−カルシウム合金の集電体からなる未化極板を用いた鉛蓄電池において、化成液にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を少なくとも1つ以上添加して化成することを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記化成終了後の化成液中にアルカリ金属またはアルカリ土類金属が300〜4000ppm含有することを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記鉛蓄電池の集電体中にAs、Sb、Bi(5族)、Se、Te(6族)元素を少なくとも1つ以上含有することを特徴とする請求項1又は2記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記集電体中に含まれる元素の合計が30〜150ppmであることを特徴とする請求項3記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記化成の通電電気量は、鉛蓄電池の正極活物質理論容量の90〜160%であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−177157(P2008−177157A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289193(P2007−289193)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】