説明

鉛蓄電池

【課題】鉛蓄電池の極板に貼付されたペースト紙を化成時に除去しやすくして、化成効率を高める。
【解決手段】エキスパンド格子体を正極板および/または負極板に用いた液式の鉛蓄電池において、前記エキスパンド格子体を用いた極板の表面に貼付されたペースト紙に、極板の高さ方向の上縁と下縁にシリカ粉末の配合部を設ける。好ましくは、ペースト紙には、シリカ粉末の配合部以外の箇所に1本以上の切れ目を入れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液式の鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
正極または負極格子体に鉛−スズ−カルシウム系合金を用いた液式の鉛蓄電池は、自己放電が少なく、保存特性に優れているなどの特徴を有し、その保守の容易さから様々な用途に用いられている。このような電池において、鉛−スズ−カルシウム系合金を圧延加工してシート状とした後、これをエキスパンド加工してなるエキスパンド格子体を用いて極板を製造する方法が広く用いられている。
【0003】
このエキスパンド格子体を用いた極板を製造する工程では、格子体に活物質ペーストを充填する際、ペースト紙と呼ばれるセルロースを主体とする抄造紙が前記極板の表裏両面に配置される。これは、活物質ペーストを充填した後に、所定の大きさに切断した極板を複数枚積み重ねて熟成乾燥させるので、その際に極板相互が付着してしまうことを防止し、活物質を保持するためである。
【0004】
そのため、ペースト紙は、製造面において不可欠なものであるが、電池性能への寄与は無く、むしろ抵抗体のため化成時において極板への充電を妨げる働きをする。ペースト紙は、化成時において、正負極活物質と電解液(希硫酸)との反応を妨げるため、化成開始初期においてできるだけ極板表面に無いことが望ましい。
【0005】
化成時の充電効率を高めるために、ペースト紙に処理を施す手法としては、極板上縁付近でペースト紙に貫通孔もしくは厚みの薄い部分を設けることが提案されている(特許文献1)。遊離の電解液がないよう電解液量を制限した制御弁式の鉛蓄電池においては、捲回型電池のペースト紙にスリットを設ける手法(特許文献2)、ペースト紙全面にシリカを含有させる手法(特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−207635号公報
【特許文献2】特開2005−29194号公報
【特許文献3】特開2005−183238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の手法は、化成時に発生するガスの抜けを良くするためにペースト紙に貫通孔を設けている。特許文献2の手法は極板の捲回作業の効率化を図るものであり、特許文献3の手法は耐短絡性を向上させるものである。そして、特許文献2,3は、本発明が対象としている液式電池ではない。
本発明が解決しようとする課題は、液式の鉛蓄電池において、化成時にペースト紙を除去しやすくして、化成効率を高める手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の発明は、エキスパンド格子体を正極板および/または負極板に用いた液式の鉛蓄電池において、前記エキスパンド格子体を用いた極板の表面に貼付されたペースト紙に、極板の高さ方向の上縁と下縁にシリカ粉末の配合部を有したことを特徴とする。第2の発明は、好ましくは、前記ペースト紙のシリカ粉末の配合部以外の箇所に1本以上の切れ目を設けたことを特徴とするものである。
【0009】
組立てた鉛蓄電池の化成時に希硫酸を電池内に注液すると、極板に希硫酸が接触する。このとき、ペースト紙の前記上縁と下縁に配合したシリカ粉末が、いち早く希硫酸を吸収して体積膨張する。この体積膨張によって、ペースト紙には極板中央から上縁と下縁に向かって引っ張り応力が発生する。ペースト紙はこの応力により破断し極板表面から剥がれやすくなる。化成末期には、極板から発生したガスにより電解液が撹拌され、ペースト紙は極板から剥がれて電池の底部に沈殿する。
【0010】
また、前記ペースト紙のシリカ粉末の配合部以外の箇所に1本以上の切れ目を設けることで、切れ目を起点としてペースト紙が引き裂かれるので、より短時間で確実にペースト紙を剥がすことができる。
【発明の効果】
【0011】
上記のように化成時にペースト紙が剥がれやすくなることにより、極板表面への希硫酸の浸透拡散が促進され、化成効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の鉛蓄電池におけるエキスパンド格子体を用いた極板である。
【図2】実施例1の鉛蓄電池における極板の作製工程図である。
【図3】実施例1において用いるペースト紙ロールである。
【図4】実施例1の鉛蓄電池において、化成工程で極板のペースト紙に発生する引っ張り応力の状態を説明した模式図である。
【図5】実施例2の鉛蓄電池におけるエキスパンド格子体を用いた極板である。
【図6】実施例2の鉛蓄電池における極板の作製工程図である。
【図7】実施例3の鉛蓄電池におけるエキスパンド格子体を用いた極板である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
鉛蓄電池の格子体には、製法により鋳造格子体とエキスパンド格子体がある。極性と製法の組み合わせには以下の種類がある。
(A)正極:鋳造格子体、負極:鋳造格子体
(B)正極:鋳造格子体、負極:エキスパンド格子体
(C)正極:エキスパンド格子体、負極:鋳造格子体
(D)正極:エキスパンド格子体、負極:エキスパンド格子体
本発明では、(B)(C)(D)を対象とする。
【0014】
図1に、本発明の鉛蓄電池において、エキスパンド格子体を用いた極板1を示す。基本的に正極板と負極板は同じ形状である。極板1は集電のための耳部2があり、上枠骨3を除いた極板部分にはペースト紙4が貼付されている。前記極板1の高さ方向のペースト紙4の上縁と下縁には、シリカ粉末の配合部5が帯状にある。
【0015】
図2に上記極板1の作製工程を示す。鉛合金コイル11から図示しない巻き出し装置で鉛合金シート12を引き出す。鉛合金シート12は、エキスパンド加工装置13で菱形のマス目を持つ格子体12’に加工される。次に、下方のペースト紙ロール14から巻き出したペースト紙4を加圧ロール15で格子体12’の下側に押し当てる。
【0016】
図1のように極板1の高さ方向のペースト紙4の上縁と下縁にシリカ粉末の配合部5を配置するために、ペースト紙ロール14には、図3のようにシリカ粉末の配合部5を両側縁にあらかじめ設けておく。これは、ペースト紙ロール14の製造工程において、ロール14の両端をシリカ粉末分散液に浸漬し、乾燥して巻き取ることで、ペースト紙の表裏にシリカ粉末の配合部5を形成させる。
【0017】
格子体12’には、ペースト充填機16で格子体のマス目に活物質ペーストが充填される。活物質ペーストは粘性があるため、格子体12’の下側のペースト紙4は充填された活物質ペーストに密着して貼付される。次の工程で、上方のペースト紙ロール14から巻き出したペースト紙4を、格子体12’に充填された活物質ペーストに加圧ロール15で押し当てる。このように活物質ペーストを充填されペースト紙を貼付された長尺の極板は、この後、切断工程に送られ、規定サイズに切断され極板1となる。このような極板を用いて、常法により鉛蓄電池を組立てる。
【0018】
次に、化成工程で希硫酸が注液された状態の極板を図4に示す。ペースト紙4の極板高さ方向の上縁と下縁に配合したシリカ粉末がいち早く希硫酸を吸収し、体積膨張する。この体積膨張によって、ペースト紙4には極板中央から上縁と下縁に向かって矢印で示す引っ張り応力が発生する。ペースト紙4はこの応力により破断し極板表面から剥がれやすくなる。さらに化成末期に極板から発生したガスにより電解液が撹拌され、ペースト紙4は極板から剥がれて電池の底部に沈殿する。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例を説明する。JIS規格D5301記載の55D23形電池に用いる極板を対象とした。以下の実施例は、前述の(D)正極:エキスパンド格子体、負極:エキスパンド格子体の構成とした。
【0020】
実施例1
図1を用いて説明した極板において、ペースト紙は、上下幅が10mmの帯状のシリカ粉末の配合部5を極板高さ方向の上縁と下縁に設けたものを使用した。組立てた電池に比重1.25(20℃換算)の希硫酸を注液し、18時間通電して化成した。
【0021】
実施例2
実施例1と同様の極板を使用して、ペースト紙に次の加工を施した。すなわち、図5に示すように、極板高さ方向中央で、幅方向に長さ145mmの切れ目20を入れた。この切れ目20はミシン目であり、長さ2mmの切れ目を1mm間隔で入れたものである。その他は実施例1と同じ電池を組立てた。
切れ目20を入れる本実施例の作製工程を図6に示す。活物質ペーストを充填されペースト紙を貼付された長尺の極板を切れ目加工装置17に導入する。切れ目加工装置17内では、極板を挟んでその上下でロータリカッタ18が回転しており、ロータリカッタ18には前記ミシン目に対応する刃が付いている。極板がロータリカッタ18を通過すると、ペースト紙4にロータリカッタ18の刃が接触し、図5に示すような切れ目20が形成される。
【0022】
実施例3
実施例2において、2本の切れ目20を追加し、合計3本の切れ目20を入れた。すなわち、図7に示すように、中央に入れた切れ目から上方に5mmと下方に5mmの位置に同じサイズの切れ目20を入れた。その他は実施例1と同じ電池を組立てた。
この極板は、図6のロータリカッタ18を幅方向に三枚連ねた装置に通過させて作製した。
【0023】
比較例
シリカ粉末の配合部がなく実施例2と同じ切れ目を入れたペースト紙を用い、その他は実施例1と同じ電池を組立てた。
【0024】
従来例
シリカ粉末の配合部も切れ目もないペースト紙を用い、その他は実施例1と同じ電池を組立てた。
【0025】
上記各例の電池について、化成効率の指標として、正極活物質中の二酸化鉛量を比較した。化成効率が低いと、活物質中に硫酸鉛(PbSO)と低級鉛酸化物(PbOx)が残存しており、二酸化鉛量を比較することにより化成効率を比較できる。
具体的には、化成後に各例の電池を解体し、正極板10枚から活物質を採取した。この活物質を粉砕して、均一混合して二酸化鉛量を測定する。二酸化鉛を直接定量することはできないため、採取した活物質の質量から硫酸鉛と低級鉛酸化物の質量を引いて求める。硫酸鉛の定量は金属中の硫黄分析を、低級鉛酸化物の定量は酢酸溶解の化学分析を用いた。
表1に二酸化鉛含有率(二酸化鉛質量/活物質質量×100)の比較を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
従来例に比べて、実施例1では二酸化鉛含有率が増加した。これは、ペースト紙にシリカ粉末の配合部5を設けた効果といえる。実施例2では極板に切れ目20を入れたことで、さらに二酸化鉛含有率が増加し、実施例1の構成との組合せによる相乗効果が確認できた。実施例3では切れ目20の本数を増やすことでさらに二酸化鉛含有率が増加した。
【0028】
これに対して、比較例は従来例と二酸化鉛含有率の差があまりなかった。これより、切れ目20を入れただけでは、二酸化鉛含有率を増加させる効果はないといえる。
【0029】
解体した電池の正極板と負極板を目視観察すると、従来例と比較例ではペースト紙が貼り付いたままなのに対し、実施例1、2、3では細かいペースト紙片が付着している程度で、ペースト紙は破断した状態で電槽底部に沈降していた。これより、各実施例では、化成時にペースト紙が除去されたことを確認することができた。
【0030】
なお、実施例1ではシリカ粉末の配合部5と1本の切れ目を設け、実施例3では切れ目を3本に増やした例を示したが、この本数以上でも同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0031】
本実施例は、正極:エキスパンド格子体、負極:エキスパンド格子体の構成であるが、片方にエキスパンド格子体を用いた前述の(B)(D)でも同様の結果が得られた。
【0032】
また、シリカ粉末の配合部は、これに限定されるものではなく、希硫酸を吸収し膨張する材料で、電池反応に悪影響を及ぼさない材料であれば適宜選択できる。
【符号の説明】
【0033】
1 極板
2 耳部
3 上枠骨
4 ペースト紙
5 シリカ粉末の配合層
6 スリット
11 鉛合金コイル
12 鉛合金シート
12’ 格子体
13 エキスパンド加工装置
14 ペースト紙ロール
15 加圧ロール
16 ペースト充填機
17 切れ目加工装置
18 ロータリカッタ
20 切れ目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキスパンド格子体を正極板および/または負極板に用いた液式の鉛蓄電池において、前記エキスパンド格子体を用いた極板の表面に貼付されたペースト紙に、極板の高さ方向の上縁と下縁にシリカ粉末の配合部を有したことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記ペースト紙のシリカ粉末の配合部以外の箇所に1本以上の切れ目を設けたことを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−9134(P2011−9134A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153435(P2009−153435)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】