説明

銀−酸化物系電気接点材料

【課題】 銀−酸化物系電気接点材料において、加工性を維持しつつも高い耐溶着性を得ること。
【解決手段】 添加金属として重量%で、Sn:4.0〜9.5%、In:1.0〜5.0%、Te:0.1〜1.5%、Bi:0.0005〜0.009%を含有し、残りがAgと不可避不純物とからなる組成を有するAg合金を内部酸化してなる。この電気接点材料では、内部酸化処理によって材料中にTeとBiとの複合酸化物(例えば、BiTeO)の粒子を形成し、微細に分散分布されることで、該粒子が接点通電部の材料の溶融又は軟化によって生じる凝着現象を抑制し、接点の耐溶着性を極めて効果的に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車載及び交流リレー等に好適な銀−酸化物系電気接点材料に関する。
【背景技術】
【0002】
リレー、スイッチ、電磁開閉器及びブレーカ等に用いられる電気接点材料としては、耐溶着性や耐消耗性等の電気接点性能が要求され、種々の材料が提案されて広く実用に供されている。
これら電気接点材料のうち自動車搭載用リレーに用いられるものでは、小型化という市場の要求に伴い、接点にも小サイズ化が求められている。一方で、自動車の電装化が進んでいるために、リレーが開閉する回路電流は増加している。すなわち、従来よりも体積の小さな接点で、従来以上の電流の入り切りをしなければならない。さらに、ハイブリッド車や電気自動車では、高電圧回路を開閉することが必要となる。
【0003】
従来、実用化され、広く使用されている接点材料としては、例えば特許文献1には、質量%で、Sn:5.1〜8.5%、In:1.5〜3.5%、Te:0.1〜0.8%を含有し、さらにFe、Ni及びCoのうちの1種又は2種以上:0.03〜0.5%を含有し、残りがAgと不可避不純物とからなる組成を有するAg合金を内部酸化処理してなる内部酸化銀−酸化物系接点材料が知られている。
【0004】
また、特許文献2には、Snを1〜9質量%含み、不純物としてのCdが1質量%未満であるAg合金からなり、少なくとも接点表面部において所定の硬度以上とされた中央層と該中央層より硬度が高い外周層とを有し、Sn以外の添加成分として、In,Sb,Ca,Bi,Ni,Co,Zn,Te,Cr,Pbの群から選ばれた少なくとも1種の元素を含む電気接点が提案されている。なお、この電気接点では、ブレーカとしての耐溶着特性、温度特性及び生産性の観点から、Sbは0.05〜2%、Caは0.03〜0.3%、Biは0.01〜1%、Niは0.02〜1.5%、Coは0.02〜0.5%、Znは0.02〜8.5%、及びPb、Te、Crはいずれも0.05〜5%としている。
【0005】
【特許文献1】特開平4−314837号公報
【特許文献2】特開2005−36264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、近年、接点の開閉性能に対する要求はますます高まっているが、従来の接点材料では、このような要求に十分に応えることができなくなっているのが現状である。例えば、特許文献1の技術のように、Teを含有させた場合、その含有割合を多く設定すると耐溶着性等が向上するが、一定の含有割合を超えると加工性が悪化してしまう不都合があった。このため、加工性を維持しながら、さらなる耐溶着性の向上が要望されている。しかしながら、特許文献2に示すように、従来、種々の元素が添加金属として知られているが、開示されている含有量範囲では、加工性を維持しつつも高い耐溶着性を示す接点材料は得られていないのが現状である。
さらに、車載用途ではエンジンルーム等の高温環境における耐消耗性を維持しつつ、耐溶着性を向上させることが要望されるが、そのような要望を満足するような接点材料は得られていないのが現状である。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、加工性を維持しつつも高い耐溶着性を示す銀−酸化物系電気接点材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の銀−酸化物系電気接点材料は、添加金属として重量%で、Sn:4.0〜9.5%、In:1.0〜5.0%、Te:0.1〜1.5%、Bi:0.0005〜0.009%を含有し、残りがAgと不可避不純物とからなる組成を有するAg合金を内部酸化してなることを特徴とする。
【0009】
この銀−酸化物系電気接点材料では、添加金属としてSn、In、Te、Bi及びAgと不可避不純物とが上記組成成分の含有割合でAg合金とされて内部酸化されてなるので、内部酸化処理によって材料中にTeとBiとの複合酸化物(例えば、BiTeO)の粒子を形成し、微細に分散分布されることで、該粒子が接点通電部の材料の溶融又は軟化によって生じる凝着現象を抑制し、接点の耐溶着性を極めて効果的に向上させることができる。
【0010】
以下に、本発明に係る銀−酸化物系電気接点材料の内部酸化処理前のAg合金における成分組成を、上記の通りに限定した理由について説明する。
Sn成分は、内部酸化処理によって熱的に安定なSn系酸化物(例えばSnO)分散相を形成し、接点の開離性、耐溶着性及び耐消耗性を向上させる作用がある。なお、このSnの含有割合が4.0%未満では、析出するSn系酸化物の割合が十分でないために所望の接点耐久性能を得ることができず、一方、9.5%を超えると接触抵抗増大の問題が生じると共に加工性が著しく低下し、伸線加工やヘッダ加工等の形状付加が困難になる。
【0011】
In成分には、内部酸化処理でのSn系酸化物の析出を促進し、かつ自身も熱的に安定なIn系酸化物を形成して、Sn系酸化物との共存において、耐溶着性を向上させる作用がある。なお、このInの含有割合が1.0%未満では、Sn系酸化物の析出促進作用が不十分となり、一方、5.0%を超えると加工性が低下してしまう。
【0012】
Te成分は、内部酸化処理においてSn系及びIn系酸化物の析出を促進する作用を有し、自身もTe系酸化物を形成し、耐溶着性を向上させる作用を有する。なお、Teの含有割合が0.1%未満では、この作用が明確に現れず、一方、1.5%を超えると加工性が著しく低下する。
【0013】
Bi成分には、Teと共に複合酸化物(例えば、BiTeO)を形成し、耐溶着性を著しく向上させる作用がある。なお、Biの含有割合が0.0005%未満では、この作用が明確に現れず、一方、0.009%を超えると、加工性が著しく低下すると共に、車載等においてエンジンルーム内等で実用的に使用され得る温度領域である85℃以上で接点消耗が大きくなる。例えば、特許文献2に記載の電気接点では、Teが1.0%でBiが1%と本発明に比べて大幅に高い含有割合で添加されている例が示されているが、加工性が著しく低下すると共に、上記高温環境で接点消耗が大きくなるため実使用に耐えることができない。
【0014】
また、本発明の銀−酸化物系電気接点材料は、前記添加金属として、さらに重量%で、Ni:0.05〜0.5%を含有していることを特徴とする。すなわち、この銀−酸化物系電気接点材料では、添加金属として、さらに重量%で、Ni:0.05〜0.5%を含有しているので、Ni成分による酸化物の微細で均一な析出及び分散を促進する作用が得られる。なお、Niの含有割合が0.05%未満では、この作用が明確に現れず、一方、0.5%を超えると、加工性が低下してしまう。
【0015】
また、本発明の銀−酸化物系電気接点材料は、前記添加金属として、さらに重量%で、Cu:0.005〜0.2%を含有していることを特徴とする。すなわち、この銀−酸化物系電気接点材料では、添加金属として、さらに重量%で、Cu:0.005〜0.2%を含有しているので、Cu成分による内部酸化処理でのSn系及びIn系酸化物の析出を促進すると共に、材料の電気伝導度を向上させる作用がある。なお、Cuの含有割合が0.005%未満では、この作用が明確に現れず、一方、0.2%を超えると、耐溶着性、耐消耗性が低下してしまう。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る銀−酸化物系電気接点材料によれば、添加金属としてSn、In、Te、Bi及びAgと不可避不純物とが上記組成成分の含有割合でAg合金とされて内部酸化されてなるので、内部酸化処理によって材料中にTeとBiとの複合酸化物の粒子を形成し、微細に分散分布されることで、該粒子が接点通電部の材料の溶融又は軟化によって生じる凝着現象を抑制し、接点の耐溶着性を極めて効果的に向上させることができる。
したがって、加工性を維持しつつも高い耐溶着性を示し、車載用であってエンジンルーム等の高温環境においても接点消耗が少なく実用に耐える電気接点材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る銀−酸化物系電気接点材料の一実施形態を説明する。
本実施形態の銀−酸化物系電気接点材料は、添加金属として重量%で、
Sn:4.0〜9.5%、
In:1.0〜5.0%、
Te:0.1〜1.5%、
Bi:0.0005〜0.009%
を含有し、残りがAgと不可避不純物とからなる組成を有するAg合金を内部酸化してなるものである。
【0018】
また、添加金属として、さらに重量%で、Ni:0.05〜0.5%を含有させても構わない。
また、添加金属として、さらに重量%で、Cu:0.005〜0.2%を含有させても構わない。
【0019】
この本実施形態の銀−酸化物系電気接点材料では、添加金属としてSn、In、Te、Bi及びAgと不可避不純物とが上記組成成分でAg合金とされて内部酸化されてなるので、内部酸化処理によって材料中にTeとBiとの複合酸化物(例えば、BiTeO)の粒子を形成し、微細に分散分布されることで、該粒子が接点通電部の材料の溶融又は軟化によって生じる凝着現象を抑制し、接点の耐溶着性を極めて効果的に向上させることができる。
【0020】
また、添加金属として、さらに重量%で、Ni:0.05〜0.5%を含有することにより、Ni成分による酸化物の微細で均一な析出及び分散を促進する作用が得られる。
また、添加金属として、さらに重量%で、Cu:0.005〜0.2%を含有することにより、Cu成分による内部酸化処理でのSn系及びIn系酸化物の析出を促進すると共に、材料の電気伝導度を向上させる作用がある。
【実施例】
【0021】
次に、本発明に係る銀−酸化物系電気接点材料を実際に作製して評価した結果について、図1を参照して説明する。
【0022】
本発明に係る銀−酸化物系電気接点材料の実施例を、以下の工程で作製した。
まず、高周波溶解炉により、以下の表1に示される成分組成をもったAg合金を溶製し、インゴットに鋳造した。この後、インゴットを熱間押出しにて厚さ5mmの板状に加工し、この板を熱間及び冷間圧延にて幅30mm×厚さ0.6mmの薄板とした。さらに、この薄板を長さ方向に沿って幅2mmにスライス切断し、この切断片を酸素雰囲気中、700℃、24時間保持にて内部酸化処理を施した。
【0023】
次に、この内部酸化処理後の切断片をまとめて圧縮成形を施して直径70mmのビレット形状とし、このビレットを直径7mmに押出し加工し、引き続いて伸線加工にて直径2mmの線材とした。最終的に、この線材からヘッダーマシンにて、頭径3mm×頭厚0.6mm×足径2mm×足長22mmの寸法を持ったリベットを成形することにより、本発明に係る銀−酸化物系電気接点材料の実施例を作製した。
なお、比較のために、表2に示される従来成分組成に配向したAg合金についても、従来例として同様に製造した。
【0024】
これらの実施例(以下、本発明接点材料という)及び従来例(以下、従来接点材料という)について、ASTM(American Society for Testing and Materials:米国材料試験協会)試験機を用い、以下の条件で電気的開閉試験を行った。試験は、内部酸化処理後の材料の酸化物含有量によって三通りの以下の条件(条件(1)、条件(2)及び条件(3))で実施した。また、電気的開閉試験としては、耐久寿命(溶着発生時の回数)を評価した。なお、マイクロビッカース硬さ(Hv)及び電気伝導度(%IACS)も測定した。これらの評価結果も表1及び表2に示す。
さらに、3つの従来例(従−5,7,8)と2つの実施例(No.7,13)について、下記の条件(3)の試験条件で、開閉回数に対する累積溶着回数について調べた結果を図1及び表3に示す。
【0025】
<電気的開閉試験の条件>
条件(1)
・ハロゲンランプ2灯負荷
・負荷回路電圧DC14V
・突入電流55A、定常電流10A
・接点接触力40gf
・接点開離力30gf
【0026】
条件(2)
・ハロゲンランプ4灯負荷
・負荷回路電圧DC14V
・突入電流100A、定常電流20A
・接点接触力40gf
・接点開離力30gf
【0027】
条件(3)
・ハロゲンランプ6灯負荷
・負荷回路電圧DC14V
・突入電流120A、定常電流30A
・接点接触力40gf
・接点開離力30gf
・N=3のデータ平均値(溶着発生回数)
【0028】
【表1】

【表2】

【表3】

【0029】
上記試験結果からわかるように、本発明接点材料は、従来接点材料に比べて高い耐溶着性を示している。特に、図1及び表3からわかるように、ASTM試験における累積溶着回数も5万回の開閉回数に対して従来接点材料が全て7回以上であるのに対し、本発明接点材料では、平均1回未満と非常に良好な耐溶着性が得られている。
【0030】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る銀−酸化物系電気接点材料の実施例及び従来例において、開閉回数に対する累積溶着回数を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加金属として重量%で、
Sn:4.0〜9.5%、
In:1.0〜5.0%、
Te:0.1〜1.5%、
Bi:0.0005〜0.009%
を含有し、残りがAgと不可避不純物とからなる組成を有するAg合金を内部酸化してなることを特徴とする銀−酸化物系電気接点材料。
【請求項2】
請求項1に記載の銀−酸化物系電気接点材料において、
前記添加金属として、さらに重量%で、
Ni:0.05〜0.5%を含有していることを特徴とする銀−酸化物系電気接点材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の銀−酸化物系電気接点材料において、
前記添加金属として、さらに重量%で、
Cu:0.005〜0.2%を含有していることを特徴とする銀−酸化物系電気接点材料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−100912(P2010−100912A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274886(P2008−274886)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(594111292)三菱マテリアルシ−エムアイ株式会社 (54)
【Fターム(参考)】