説明

銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法

【課題】耐熱性に優れ、LED製造工程での加熱処理や、使用時に与えられる高温環境下に曝されても変色防止効果が高く、ワイヤーボンディング特性に優れた皮膜を銀または銀合金上に形成することができ、かつ表面処理による反射率の劣化がない銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法を提供する。
【解決手段】インヒビターとして(1)特定のベンゾトリアゾール系化合物、(2)特定のメルカプトベンゾチアゾール系化合物、及び(3)特定のトリアジン系化合物からなる群から選ばれた1種もしくは2種以上の化合物を0.01〜0.15g/Lの濃度で水に溶解または分散させ、pHを4〜7に調製した表面処理剤水溶液中で銀または銀合金めっきを施した金属材を陽極として特定の条件で直流電解することにより、耐熱性の高い皮膜を銀または銀合金上に形成する表面処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器用接続部品であるコネクタには、黄銅やリン青銅の表面に銅やニッケルの下地めっきを施し、さらにその上に銀めっきを施した材料が多く使用される。銀は電気および熱の良導体であるために、銀は上記のようにコネクタやリードフレームなどのめっきとして用いられる。しかし、銀めっき材は空気中で変色しやすく、特に硫黄を含む雰囲気中では腐食されて茶褐色や青黒色に変色し、電気的接触が悪くなるという問題を抱えている。
【0003】
この問題を解決する方法のひとつに表面処理法がある。すなわち、処理液で銀めっき表面を処理し、変色による外観の劣化や接触抵抗の上昇を防止しようとするものである。銀めっき材の従来の表面処理法としては、例えば、特許文献1に示されているように、インヒビターを含有する溶液中で銀めっき材を処理する方法である。この方法では、確かに銀めっきの腐食による変色を防止する効果は認められるものの、その防止効果は完全ではなく、雰囲気によってはまだ一部変色するという問題があった。
【0004】
また、銀めっき材の腐食による変色を防止し、さらにめっき表面に潤滑性を与える表面処理液および表面処理方法が特許文献2に記載されている。該表面処理液は、インヒビターとして特定のベンゾトリアゾール系化合物、メルカプトベンゾチアゾール系化合物、及びトリアジン系化合物からなる群から選ばれた1種もしくは2種以上を含有し、更に潤滑剤と、乳化剤とを含有する。該表面処理液はpH調整を行っていないので、pH8.8〜8.9で表面処理を行っていると考えられる。コネクタに使用される際に、変色防止とともに潤滑性を与えるものであるが、その変色防止効果は十分なものでなく、また耐熱性についても十分とは言えない。
【0005】
また、特許文献3には、銀めっき層、特には銀鏡反応を利用して形成された銀めっき層の強度及び耐腐食性を向上させる処理方法として、チオン基もしくはメルカプト基を有する含窒素ヘテロ環化合物等の銀と反応もしくは親和性を有する有機化合物を含有する処理液で処理する方法が記載されている。さらに前記処理液は亜硫酸塩、ヨウ化物もしくは臭化物を同時に含有させることにより銀めっき層の強度が向上し、安定性に優れた耐腐食性が得られるとしている。そして実施例においては、前記有機化合物を数g/Lの濃度で含有している処理液を用い、耐腐食性の評価として、5質量%の食塩水に少量の酢酸と塩化第二銅を添加した水溶液を噴霧し剥離、曇りを評価しており、耐熱性に関しては記載がない。
【0006】
ところで、発光ダイオード(LED)デバイスは、半導体のpn接合に順方向電流を流し、接合領域で電子と正孔とを再結合させることにより発光させるダイオードであり、構造が単純で電気エネルギーを直接光エネルギーに変換するため、変換効率、信頼性が高く、すでに広く実用化されている。
近年、省エネルギー、延いては環境保全の観点からこれまでの白熱電球や蛍光灯に代わる新たな光源、照明器具として白色光発光ダイオードの利用が注目されている。
この発光ダイオードデバイスは、リードフレームの台座を加工し、反射部に囲まれた位置にLEDチップを載置し、LEDチップの発光を反射部で効率的に取り出す設計となっている。また必要に応じて前記LEDチップをエポキシ樹脂等の樹脂により封止する構成となっている。
【0007】
この発光ダイオードデバイスは、光源としても実用化されているが、種々改善すべき問題がある。その一つに、反射部の反射率を向上させる課題がある。
これまで光反射率の優れた材料としては銀やアルミニウム、あるいは金の皮膜が有用な材料として知られている(特許文献4、5)。中でも銀は光沢度、反射率が高く反射材として最も好適な材料として知られている。
【0008】
しかしながら、銀は活性であり、銀皮膜の表面は酸化などにより変色し易く、銀皮膜の光反射性に影響し、その性能を低下させる。特にLED製造工程の加熱処理による変色、使用時に与えられる高温環境下での変色により、光反射性能の低下が問題となる。
この問題を解決する方法の一つとしても表面処理方法がある。しかし、これまでの表面処理剤は、得られる皮膜の耐熱性が十分ではなく、銀めっき表面に処理しても、熱処理を行うと銀めっき表面に形成された皮膜が分解し、変色防止特性等が大幅に劣化し、光反射性能が低下するという問題があった。
上記、銀皮膜の光反射性能の改善、あるいは酸化による変色、特に高温環境下での変色による光反射性能の低下に対する対策については、まだ有効な技術開発がなされておらず、特に車載用、照明用等に用いられる高輝度が要求される白色光源としての利用促進に資する上でこうした改善が要望されている。
即ち、LED製造工程での加熱処理や、使用時に与えられる高温環境下に曝されても変色防止効果が高く、ワイヤーボンディング特性に優れ、表面処理による反射率の劣化がない表面処理剤が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−311492号公報
【特許文献2】特開平9−249977号公報
【特許文献3】特開2004−169157号公報
【特許文献4】特開2005−56941号公報
【特許文献5】特開平9−293904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、耐熱性に優れ、LED製造工程での加熱処理や、使用時に与えられる高温環境下に曝されても変色防止効果が高く、ワイヤーボンディング特性に優れた皮膜を銀または銀合金上に形成することができ、かつ表面処理による反射率の劣化がない銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために本発明者が研究を行った結果、以下に示す表面処理剤を発明するに至った。
すなわち本発明は、
(1)基材金属に銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法において、インヒビターとして下記一般式(1)で示されるベンゾトリアゾール系化合物、下記一般式(2)で示されるメルカプトベンゾチアゾール系化合物、及び下記一般式(3)で示されるトリアジン系化合物からなる群から選ばれた1種もしくは2種以上の化合物を0.01〜0.15g/Lの濃度で水に溶解または分散させ、pHを4〜7に調製した表面処理剤水溶液を用い、該表面処理剤水溶液中で該金属材を陽極として、陽極電流密度を2mA/dm2以上、通電量を10〜600mC/dm2の範囲で直流電解し、該金属材の表面に皮膜を形成することを特徴とする銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法。
【化1】

(式中、R1は水素、置換又は無置換のアルキル基を表わし、R2はアルカリ金属、水素、置換又は無置換のアルキル基を表わす。)
【化2】

(式中、R3は水素、置換又は無置換のアルキル基、ハロゲンを表し、R4はアルカリ金属、水素、置換又は無置換のアルキル基、置換アミノ基を表す)
【化3】

〔式中、R5は−SH、アルキル基,アルケニル基又はアリール基で置換されたアミノ基、又はアルキル置換イミダゾリルアルキルを表し、R6、R7は−NH2、−SH又は−SM(Mはアルカリ金属を表わす)を表わす。〕
(2)前記表面処理剤水溶液が、更にヨウ化物及び/又は臭化物を0.1〜20g/Lを含有することを特徴とする前記(1)記載の銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法。
(3)前記表面処理剤水溶液が、更に界面活性剤を含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法で処理されたことを特徴とする表面に耐熱性の高い皮膜が形成された銀または銀めっきを有する金属材。
(5)前記金属材がLED反射材であることを特徴とする前記(4)記載の金属材。
【発明の効果】
【0012】
本発明の表面処理方法で処理された銀又は銀合金表面は、耐熱性に優れ、加熱処理後も変色防止効果が高く、ワイヤーボンディング特性に優れ、表面処理による反射率の劣化がない。また、本発明における表面処理剤は水溶性であり、有機溶剤や重金属を含んでいないので安全性にも優れ、処理ムラやシミの外観不良も生じない。また、接触抵抗が低く、はんだ濡れ性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に用いる表面処理剤水溶液に含有されるインヒビターは以下に示される化合物、すなわちベンゾトリアゾール系化合物、メルカプトベンゾチアゾール系化合物、トリアジン系化合物の中から1種もしくは2種以上選択される。これらのインヒビターは、表面処理剤水溶液中で、基材金属に銀又は銀合金めっきを施した金属材を陽極電極として電解処理することにより、銀と反応して銀又は銀合金表面に緻密で密着性が高く、薄い保護皮膜を生成する。この皮膜により銀又は銀合金内部が保護されるので、結果的に銀又は銀合金表面の耐食性(耐変色性)は向上する。
【0014】
本発明に使用されるベンゾトリアゾール系化合物は一般式(1)
【化4】

(式中、R1は水素、置換又は無置換のアルキル基を表わし、R2はアルカリ金属、水素、置換又は無置換のアルキル基を表わす。)
で表わされる。
【0015】
一般式(1)中のR1が表す置換又は無置換のアルキル基としては炭素数1〜24のアルキル基が好ましく、又R2が表す置換又は無置換のアルキル基としても炭素数1〜24のアルキル基が好ましい。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、オクチル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等がより好ましい。また、前記置換基としてはアミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基等が好ましい。前記アミノ基はまた炭素数1〜24のアルキル基で置換されたものであってもよい。
この一般式(1)で表わされる化合物のうち好ましいものを挙げると、例えば、ベンゾトリアゾール(R1,R2とも水素)、1−メチルベンゾトリアゾール(R1が水素、R2がメチル)、トリルトリアゾール(R1がメチル、R2が水素)、1−(N,N−ジオクチルアミノメチル)ベンゾトリアゾール(R1が水素、R2がN,N−ジオクチルアミノメチル)などである。
【0016】
本発明に使用されるメルカプトベンゾチアゾール系化合物は一般式(2)
【化5】

(式中、R3は水素、置換又は無置換のアルキル基、ハロゲンを表し、R4はアルカリ金属、水素、置換又は無置換のアルキル基、置換アミノ基を表す。)
で表わされる。
【0017】
3,R4で示されるアルキル基としては、例えば炭素数1〜10、好ましくは1〜3の直鎖状または分枝状アルキル基で、アルキル基の置換基としては、カルボキシル基、そのアルカリ金属塩、フッ化炭素などがある。また置換アミノ基としては(C492N−などが好ましい。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムが好ましい。式(2)で表わされるメルカプトベンゾチアゾール誘導体として好ましいものとして以下の化合物が挙げられる。
【化6】

【0018】
この一般式(2)で表わされる化合物のうち特に好ましいものを挙げると、例えばメルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩、メルカプトベンゾチアゾールのカリウム塩などがある。一般式(2)においてR4がアルカリ金属の場合メルカプトベンゾチアゾール系化合物の水への溶解が容易となる。
【0019】
トリアジン系化合物は一般式(3)
【化7】

〔式中、R5は−SH、アルキル基,アルケニル基又はアリール基で置換されたアミノ基、又はアルキル置換イミダゾリルアルキルを表し、R6、R7は−NH2、−SH又は−SM(Mはアルカリ金属を表わす)を表わす。〕
で表わされる。
一般式(3)中のR5が表すアミノ基の置換基である前記アルキル基、又はアルケニル基としては炭素数1〜24のアルキル基、アルケニル基が好ましく、アリール基としてはフェニル基が好ましい。
【0020】
この一般式(3)で表わされる化合物のうち好ましいものを挙げると例えば以下のものがある。
【化8】

【0021】
あるいはこれらのNaまたはKなどのアルカリ金属塩がある。一般式(3)においてR6,R7が−SMである場合にはトリアジン系化合物の水への溶解が容易となる。
【0022】
インヒビターは、水に溶解または分散される。インヒビターの添加量は0.01〜0.15g/Lの範囲であり、好ましくは、0.01〜0.1g/Lであり、より好ましくは0.05〜0.1g/Lである。インヒビターの濃度が0.01g/L未満では処理効果が認められず、0.15g/Lを越えると接触抵抗やワイヤーボンディング特性に悪影響が認められる。
【0023】
本発明の表面処理剤水溶液は、ヨウ化物及び/又は臭化物を合計で0.1〜20g/L含有してもよい。ヨウ化物及び/又は臭化物を含有することにより耐熱性が更に改善される。ヨウ化物及び/又は臭化物の含有量が0.1g/L未満であると、耐熱性の向上が十分ではなく、また、20g/Lを超えると溶解性に問題が生じ、表面処理剤が濁り反射率が低下する。
ヨウ化物及び/又は臭化物の含有量は0.1〜10g/Lがより好ましく、更に好ましくは0.1〜1g/Lである。
ヨウ化物及び臭化物としては、水溶液とするためにヨウ化物塩及び臭化物塩を用いることが好ましい。ヨウ化物塩としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム等を用いることができる。臭化物塩としては、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム等を用いることができる。
【0024】
水は純水を用いることが好ましく、インヒビターを溶解又は分散させた後、pHを4〜7に調整する。pH調整剤として、リン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、コハク酸などの有機酸等を用いることが好ましい。
pHが低いと変色防止効果が高くなるが、液の安定性が悪くなる。また、インヒビターの溶解性も悪くなる。逆にpHが高いと液の安定性はよくなるが、変色防止効果が低くなる。変色防止効果と液の安定性から、pHは4〜7であり、pH5〜6がより好ましい。
【0025】
更に本発明の表面処理剤水溶液は、インヒビターを水溶液中に溶解させる、金属表面の濡れ性を高めて溶液が浸透しやすくする、金属の表面を洗浄する等の目的で界面活性剤を含有することができる。また、本発明の表面処理剤はインヒビターを水溶液中に溶解させる目的で、溶解助剤を含有することができる。
界面活性剤としては、天然アルコール系界面活性剤が、生分解性に優れ、環境に対する悪影響が少ないため好ましい。酸やアルカリでの分解が少ないアルキルフェノールエチレンオキシド付加物や高級アルコールエチレンオキシド付加物を好ましく用いることができる。
溶解助剤としては、メチルグリコール、イソプロピルグリコール、ブチルグリコールなどのエチレングリコール系エーテルや、メチルプロピレングリコール、プロピルプロピレングリコール、ブチルプロピレングリコールなどのプロピレングリコールエーテル系等を好ましく用いることができる。
【0026】
また、更に表面処理剤水溶液が含有してもよい成分としては、pH緩衝剤が挙げられる。
pH緩衝剤は、溶液のpHを一定にし、インヒビターの吸着性をコントロールする働きをする。pH緩衝剤としてはリン酸水素ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム等が挙げられる。コスト、使いやすさ等を考慮すると、クエン酸、酢酸ナトリウム等が好ましい。
本発明の表面処理剤水溶液は潤滑剤を含有しない。電子機器用接続部品であるコネクター用途に用いる表面処理剤の場合は、金属表面に潤滑性を付与することが必要であり潤滑剤を含有させるが、コネクター用途ではなく、LED反射材等に用いる本発明の表面処理剤は、潤滑性付与する必要がなく、又潤滑性を付与することでワイヤーボンディング特性に悪影響を与える可能性があるので、潤滑剤を含有しない。
また、本発明の表面処理剤水溶液は、ブタジエン・無水マレイン酸共重合体のような高分子化合物も、得られる皮膜が厚くなり、ワイヤーボンディング特性に悪影響を与える可能性があるので、含有しないことが好ましい。
【0027】
本発明の処理方法は、銀または銀合金めっきを施した金属材を表面処理剤水溶液中に浸漬し、該金属材に陽極端子を接続し、直流電解を行う。電解条件としては、陽極電流密度を2mA/dm2以上、好ましくは2〜100mA/dm2で、通電量を10〜600mC/dm2の範囲で実施する。通電量が少ないと効果が得られず、通電量が多すぎると、銀めっき面の外観不良(シミ、焼け)が生じる。
温度は20〜40℃が好ましい。電解前後に表面処理剤水溶液中に若干の間浸漬しても特に問題はない。その後水洗し、乾燥する。
水洗することにより、修理ムラやシミ等の外観不良がなくなる。
陰極端子としては、陰極端子として用いることができる金属であれば、どのような金属を用いてもよく、例えば、ステンレス、チタン、白金等を好ましく用いることができる。
【0028】
電解処理を行うことにより、銀又は銀合金めっき表面に緻密で密着性の高い皮膜が形成されるので、耐熱性に優れた皮膜が形成される。緻密で密着性の高い皮膜が形成されると、接触抵抗、はんだ濡れ性、ワイヤーボンディング性、反射率のいずれも劣る可能性があったが、本発明の処理方法で皮膜を形成した金属材は、接触抵抗、はんだ濡れ性、ワイヤーボンディング性、反射率のいずれも優れている。
【0029】
基材金属に銀又は銀合金めっきを施した金属材としては、基材金属に、公知の銀めっき液又は銀合金めっき液を用いてめっきを施し、表面に銀めっき膜または銀合金めっき膜を有する基材である。
基材金属としては、特に制限はなく、銀又は銀合金めっきが可能な金属でよく、例えば、銅及び銅合金、鉄及び鉄合金等の金属が挙げられる。
【0030】
本発明の表面処理剤は水溶液であり、有機溶剤や重金属を含んでいないので安全性に優れる。また、本発明の表面処理方法で処理し、得られる皮膜は、熱処理を行っても劣化することがなく、熱処理後に硫化水素ガス試験を行っても銀の変色が抑えられる。本発明の表面処理剤で処理された金属表面は、例えば200℃で1時間の熱処理、120℃で6時間の熱処理後も変色防止性に優れるだけでなく、接触抵抗が低く、はんだ濡れ性も良好で、ワイヤーボンディング特性に優れ、表面処理による反射率の劣化もない。
したがってLEDの反射材の表面処理方法として好適に用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
実施例1
金属材として、純銅基板に4μmの厚さの銀めっきを行ったものを用い、以下に示す組成の表面処理剤に浸漬し、銀めっき部に陽極端子を接続し、陰極端子として白金電極を用い、室温で、処理剤水溶液中に陰極を入れて、電流密度50mA/dm2、通電量250mC/dm2を加え、表面処理を行った。
表面処理剤組成
インヒビター:トリアジン−2,4,6−トリチオール 0.05g/L
界面活性剤:オレイルアルコールエトキシレート 0.1g/L
溶解助剤:ブチルプロピレングリコール 10g/L
pH緩衝剤:リン酸水素ナトリウム 10g/L
pH調整剤としてリン酸を用い、pH6に調整
【0032】
実施例1の表面処理後の金属材について、外観の肉眼観察を行った。次に、表面処理後の金属材を、熱処理をしないで、JISH 8502に基づき、硫化水素ガス試験(硫化水素濃度:3ppm、温度:40℃、湿度:80%RH、試験時間:8時間)を行い、外観の肉眼観察を行った。また、表面処理後の金属材を、熱風循環式乾燥機で200℃×10分+150℃×4時間の加熱処理を行った後に同様の硫化水素ガス試験を行い、外観の肉眼観察を行った。
評価基準
◎:肉眼観察にて、めっき表面の変色なし
○:肉眼観察にて、めっき表面が薄い黄色に変色
△:肉眼観察にて、めっき表面が薄い青色に変色
×:肉眼観察にて、めっき表面が濃い青黒色に変色
結果を表2に示す。
【0033】
実施例2〜18、比較例1〜14
実施例1におけるインヒビター、ヨウ化カリウム又は臭化カリウム、及びpH緩衝剤を表1記載の化合物及び濃度に変更し、pHをリン酸と水酸化ナトリウムを用いて表1に示す値とした以外は実施例1と同様にして金属材の表面処理を行い、実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0034】
実施例1〜18、比較例1〜4、6〜11、14の表面処理方法で表面処理を行った金属材は、表面処理後の銀表面の変色は見られなかったが、比較例5の表面処理剤は、沈殿が生じ、液の濁りが激しく、表面処理後の銀表面は薄く黄色に変色していることが肉眼で観察された。そのため、比較例5は硫化水素ガス試験の評価の対象外とした。
比較例12及び13の表面処理方法で表面処理を行った金属材は、通電量が多過ぎたため、表面処理後の銀表面が荒れ、焼けたように変化していた。そのため、硫化水素ガス試験の評価の対象外とした。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
次に、実施例1、5、12、及び比較例2,7の表面処理後の基材を用いて、以下のように接触抵抗、はんだ濡れ性、ワイヤーボンディング特性、反射率の評価を行った。
(1)接触抵抗
接触抵抗は、表面処理後、及び熱風循環式乾燥機で200℃×10分+150℃×4時間の加熱処理を行った後の基材を用いて、直流7.4mA、開放電圧20mV、荷重2.5〜50gで測定した。接触抵抗の判断基準は以下の通りである。
○:接触抵抗が0.02Ω未満
×:接触抵抗が0.02Ω以上
(2)はんだ濡れ性
はんだ濡れ性ははんだ槽平衡法により、ゼロクロスタイムを測定することにより評価した。はんだ槽の温度は265℃とし、はんだはSn−3Ag−0.5Cuを用いた。
はんだ濡れ性の判断基準は以下の通りである。
○:ゼロクロスタイムが0.2秒未満
×:ゼロクロスタイムが0.2秒以上
(3)ワイヤーボンディング特性
ワイヤーボンディング特性は金線のワイヤーを接合した後にワイヤーを500μm/秒で引っ張って切断し、ワイヤーの切断位置で評価した。ワイヤーボンディング特性の判断基準は以下の通りである。
○:ワイヤーが切断
×:ワイヤーとサンプルの接合面で剥離
(4)反射率
反射率は表面処理後、及び熱風循環式乾燥機で200℃×10分+150℃×4時間の加熱処理を行った後の基材を用いて、450〜900nmでの反射率を紫外可視分光光度計で測定することで評価した。反射率の判断基準は以下の通りである。
○:450〜900nmですべて反射率が90%以上である。
×:450〜900nmで反射率が90%未満の波長が存在する。
【0038】
実施例及び比較例のいずれの場合も、接触抵抗は、熱処理前、熱処理後のいずれにおいても0.02Ω未満であった。また、実施例、比較例いずれの場合も、はんだ濡れ性は、ゼロクロスタイムが0.2秒未満であり、ワイヤーボンディング性は、ワイヤーが切断するモードであった。反射率は、実施例及び比較例のいずれの場合も、熱処理前、熱処理後のいずれにおいても450〜900nmですべて反射率が90%以上であった。
【0039】
実施例1、5、12では、接触抵抗の上昇、はんだ濡れ性の劣化、反射率の劣化は見られなかったことから、変色防止処理による接触抵抗、はんだ濡れ性、反射率への悪影響はないことが分かる。また、実施例1、5、12では、ワイヤーとサンプルとの接合面での剥離が見られなかったことから、変色防止処理によるワイヤーボンディング特性への悪影響はないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材金属に銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法において、インヒビターとして下記一般式(1)で示されるベンゾトリアゾール系化合物、下記一般式(2)で示されるメルカプトベンゾチアゾール系化合物、及び下記一般式(3)で示されるトリアジン系化合物からなる群から選ばれた1種もしくは2種以上の化合物を0.01〜0.15g/Lの濃度で水に溶解または分散させ、pHを4〜7に調製した表面処理剤水溶液を用い、該表面処理剤水溶液中で該金属材を陽極として、陽極電流密度を2mA/dm2以上、通電量を10〜600mC/dm2の範囲で直流電解し、該金属材の表面に皮膜を形成することを特徴とする銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法。
【化1】

(式中、R1は水素、置換又は無置換のアルキル基を表わし、R2はアルカリ金属、水素、置換又は無置換のアルキル基を表わす。)
【化2】

(式中、R3は水素、置換又は無置換のアルキル基、ハロゲンを表し、R4はアルカリ金属、水素、置換又は無置換のアルキル基、置換アミノ基を表す。)
【化3】

〔式中、R5は−SH、アルキル基,アルケニル基又はアリール基で置換されたアミノ基、又はアルキル置換イミダゾリルアルキルを表し、R6、R7は−NH2、−SH又は−SM(Mはアルカリ金属を表わす)を表わす。〕
【請求項2】
前記表面処理剤水溶液が、更にヨウ化物及び/又は臭化物を0.1〜20g/Lを含有することを特徴とする請求項1記載の銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法。
【請求項3】
前記表面処理剤水溶液が、更に界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の銀または銀合金めっきを施した金属材の表面処理方法で処理されたことを特徴とする表面に耐熱性の高い皮膜が形成された銀または銀めっきを有する金属材。
【請求項5】
前記金属材がLED反射材であることを特徴とする請求項4記載の金属材。

【公開番号】特開2011−241409(P2011−241409A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111872(P2010−111872)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】