説明

銀微粉およびその製法並びにインク

【課題】銀微粉の分散性を良好に維持しながら、銀濃度を大幅に向上させた銀ナノインクを提供する。
【解決手段】有機保護材を表面に有する平均粒子径20nm以下の銀粒子で構成され、銀粒子と有機保護材の合計に対する有機保護材の存在割合が0.05〜25質量%である銀微粉。前記有機保護材には分子量100〜1000のアミン化合物が好適に使用され、1分子中に1個以上の不飽和結合を有する物質が特に適している。この銀微粉は、例えば銀粒子の(111)結晶面における結晶子径が20nm以下である。また本発明では、上記銀微粉の粒子が、銀濃度10質量%以上で有機溶媒中に分散してなり、かつ、粘度が50mPa・s以下であるインクが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な回路パターンをインクジェット法により形成するためのインクに好適な銀微粉およびその製法、並びにインクに関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は活性が高く、低温でも焼結が進むため、耐熱性の低い素材に対するパターニング材料として着目されて久しい。特に昨今ではナノテクノロジーの進歩により、シングルナノクラスの粒子の製造も比較的簡便に実施できるようになった。そのような技術として、例えば特許文献1には、出発原料を酸化銀として、アミン化合物を用いて、銀ナノ粒子を大量に合成する方法が開示されている。特許文献2には、アミンと銀化合物原料を混合し、溶融させることにより銀ナノ粒子を合成する方法が開示されている。非特許文献1には銀ナノ粒子を用いたペーストの作製技術が紹介されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−219693号公報
【特許文献2】国際公開第04/012884号パンフレット
【非特許文献1】中許昌美ほか、「銀ナノ粒子の導電ペーストへの応用」、化学工業、化学工業社、2005年10月号、p.749−754
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
銀ナノ粒子の用途のなかでも今後進展が予想されるものとして、インクジェット法による微細配線用途が挙げられる。ナノ粒子を微細配線用途に使用する主たるメリットは、従来用いられていたミクロンオーダーの粒子に比較して、より微細でよりピッチの細かい配線を描画できることにある。これは、今日の装置等の小型化傾向に合致し、従来同様の特性を有する基板をより小型のもので実現するのに役立っている。
【0005】
インクジェット法では、微細配線の形成が可能であり、しかも配線自体を直接描画することができる(エッチングが不要である)ので、高価な銀が無駄にならない。マスク、エッチング液も不要となる。ただし、インクジェット法は、非常に微小なドットを重ね合わせて線や面を形成する手法であるため、実用に適した配線を効率的に得るには銀濃度の高いインクを使用することが望まれる。
【0006】
しかし、従来の技術では、インク中に存在する界面活性剤が銀粒子の濃度を高める上で阻害要因となっている。すなわち、インク中の金属濃度を高めようとすると粒子が溶媒中で凝集してしまい均一なインクにはなり難い。このように、インク中における粒子の分散性確保と金属粒子の高濃度化は、従来の手法では相容れない関係にあるといえる。もし、この点が解消されると、銀ナノインクの利用可能性は飛躍的に高まるものと期待される。
【0007】
このような現状に鑑み、本発明は、銀ナノ粒子の分散性を良好に維持しながら、銀濃度を大幅に向上させた銀ナノインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、有機保護材を表面に有する平均粒子径20nm以下の銀粒子で構成され、銀粒子と有機保護材の合計に対する有機保護材の存在割合が0.05〜25質量%である銀微粉が提供される。前記有機保護材には分子量100〜1000のアミン化合物が好適に使用され、1分子中に1個以上の不飽和結合を有する物質が特に適している。この銀微粉は、例えば銀の(111)結晶面における結晶子径が20nm以下である。
【0009】
また本発明では、上記銀微粉の粒子が、銀濃度10質量%以上で有機溶媒中に分散しており、かつ、粘度が50mPa・s以下であるインクが提供される。銀濃度については30質量%以上、あるいはさらに50質量%以上に高めたもの(例えば60質量%以上のものや70質量%以上のもの)が提供可能である。ここでいう「インク」は、インクジェット法で微細配線を描画するのに適した銀粒子のインクを指す。
【0010】
上記のような銀微粉の製造法として、アルコール中またはポリオール中で、アルコールまたはポリオールを還元剤として、1分子中に1個以上の不飽和結合を有する有機化合物の存在下で、銀化合物を還元処理することにより銀粒子を析出させるに際し、前記有機化合物として分子量100〜1000のアミン化合物を使用する製法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、銀濃度が高く、かつ銀粒子の分散性が良好な銀ナノインクが提供可能になった。これは、従来の銀ナノインクより極めて高い銀濃度を実現したものであり、インクジェット法による微細配線の形成を顕著に効率化し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明者らは、有機溶媒中で極めて良好な分散性を呈する銀微粉として、銀ナノ粒子が有機保護材で覆われた銀微粉を開発してきた。ところが検討を進めていくと、このような銀微粉であっても、ある程度以上の高濃度のインクを調整しようとしても沈降が発生し、インク中の銀濃度を高めるのは難しいことが知見された。そこで、より高濃度でも良好な分散性が確保された粒子を提供すべく、検討を重ねた。その結果、銀微粉とともに存在する有機保護材の存在量を一定範囲に低減することにより、インク中の銀濃度を飛躍的に高めることに成功した。
【0013】
このような本発明の銀微粉は、銀粒子と有機保護材の合計に対する有機保護材の存在割合(以下、単に「有機保護材割合」という)が0.05〜25質量%に調整されているものである。有機保護材割合が低すぎると粒子の凝集が生じやすく、低濃度のインクでさえ作ることが難しくなる。逆に有機保護材割合が高くなると、インク中の銀濃度が向上できない。銀濃度10質量%以上という高い銀濃度を有する銀ナノインクを得るには、有機保護材割合を上記の範囲に調整することが極めて有効である。また、そのような銀微粉を使うと、銀濃度が30質量%以上のインクや、50質量%以上のインク、あるいはさらに60質量%以上のインクを作ることも可能である(後述実施例参照)。したがって本発明では有機保護材割合が0.05〜25質量%の銀微粒子を対象とする。後述する有機保護材割合の測定方法に従って算出される有機保護材割合が1〜20質量%であるものがより好ましく、また3〜15質量%程度に管理してもよい。また、有機保護材割合のコントロールは、主として、後述の製法において還元反応時に液中に存在させる有機化合物の量を調整することによって行うことができる。
【0014】
本発明の銀微粉は下記(ア)の工程で製造することができ、また本発明のインクはさらに下記(イ)の工程を実施することによって製造できる。
(ア)銀と、アルコールまたはポリオールと、有機化合物(例えば不飽和アミン類)を混合し、昇温して銀の還元反応を進行させる還元工程(場合により、還元を促進するために、反応途中で別途還元剤を添加しても構わない)、(イ)得られた銀微粉を母液から分離回収した後に、直鎖アルカンを主体とした有機溶媒に分散させることにより、銀微粉が分散したインクを形成する工程。
以下、各工程について説明する。
【0015】
(ア)還元工程
還元力のあるアルコールあるいはポリオールの溶媒に溶解させた銀塩を還元し、銀微粉を形成させる工程である。この工程では、溶媒であるアルコールまたはポリオールを還元剤として利用する。
【0016】
還元反応を進行させる際に、有機化合物を液中に共存させることが重要である。この有機化合物は後に銀微粒子の有機保護材を構成することになる。有機化合物としては高分子化合物、アミン類や脂肪酸が挙げられるが、とりわけアミン類、なかでも不飽和結合をもつものが適している。発明者らの検討によれば、この還元工程のように銀塩が溶解した均一性の高い溶媒から直接銀を析出させる手法において、不飽和結合を持たない有機化合物を使用した場合、現時点で銀微粉を合成するには至っていない。これに対し、不飽和結合を有する有機化合物を用いると、表面がその有機化合物で保護された銀微粉が合成されることが知見された。その理由については不明な点も多いが、今のところ、有機化合物がもつ不飽和結合の影響によって、析出した銀の表面にその有機化合物が吸着され、その有機化合物は銀の還元がある程度以上進行しないようにする保護材としての機能を発揮し、その結果、銀の粒成長が抑制され、銀ナノ粒子の形成が可能になるのではないかと推測している。また、こうした不飽和結合があったとしても、有機溶媒に対する分散性は十分確保できることが確認された。
【0017】
発明者らの知見では、このときの不飽和結合の数は有機化合物の1分子中に少なくとも1個あれば足りる。不飽和の結合数を増やすことによって、銀粒子表面に存在する有機保護材中の炭素数を調整することができるので、要求に応じて不飽和結合数の異なる有機化合物を添加すればよい。
【0018】
ここで使用される有機化合物は、分子量が100〜1000、より好ましくは100〜400のものを使用するのがよい。分子量が大きすぎると沸点が高くなるので、インク塗布後の焼成時に有機保護材の揮散が起こりにくくなってしまう。このため、インクジェット法で作成した塗膜には不純物が多く含まれるようになってしまう。またインクにおいては銀粒子の表面に存在する有機物量が多くなってしまい、銀濃度の高いインクを得る上で不利となる。
【0019】
還元反応時に溶媒中に共存させる有機化合物(例えばアミン)の量は、銀に対して0.1〜20当量とすることができ、1.0〜15当量とすることがより好ましく、2.0〜10当量が一層好ましい。有機化合物の使用量が少なすぎると銀粒子表面の有機保護材の量が不足して、液中での分散性が十分に確保できなくなる。多すぎるとインク中における銀の相対的な割合が低下するとともに、有機化合物のコストが増大するので、工業的見地から好ましくない。例えば、銀に対するアミン添加量を25当量とすれば、液中の理論上の銀濃度は0.1mol/L程度にまで希薄化されてしまう。これは、10当量で実施したときの1/2程度の濃度割合になる。
【0020】
還元剤としては、溶媒であるアルコールまたはポリオールを使用する。これによって不純物の混入の少ない銀ナノ粒子を得ることができる。反応に際しては還流操作を行うことが効率的である。このため、アルコールまたはポリオールの沸点は低い方が好ましく、具体的には300℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下であるのがよい。また、アルコールはできるだけ、炭素鎖が長いほうが還元性の観点からは好ましい。
【0021】
アルコールとしては、プロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、シクロペンタノール等が使用できる。またポリオールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が使用できる。中でもイソブタノール、n−ブタノールが好適である。
【0022】
還元反応の温度は、50〜200℃の範囲内とすることが望ましい。反応温度が低すぎるとアルコール類の還元作用が発揮されにくく、反応が進みにくいと同時に還元不良を生じるおそれがある。反応温度が高すぎると還元が進み過ぎてしまい、粒子の粗大化や粒子径のばらつきが大きくなるおそれがある。インクジェット用途では平均粒子径DTEM(後述)が20nm以下の銀微粒子を形成させることが望ましい。反応温度は50〜150℃とすることがより好ましく、60〜140℃の範囲が一層好ましい。具体的には例えば80〜130℃の範囲に管理することにより良好な結果が得られる。
【0023】
また、場合によって還元を多段に分け実施することもできる。すなわち、還元が急激に進行すると粒子の成長が著しくなりすぎる場合がある。粒子径の制御を効果的に行うためには、還元をまずは低温で行い、その後温度を高温に切り替えて、あるいは徐々に高めながら還元を進行させるとよい。このとき、温度の差が大きいと粒度分布に著しい変化が生じることが懸念されるので、最も低い温度と最も高い温度の差を20℃以内とすることが望ましい。15℃以内、あるいはさらに10℃以内で厳密にコントロールすることが一層好ましい。
【0024】
高温としても銀塩が還元され切らないことが懸念された場合には、残りの銀塩を還元するために新たに有機化合物を添加することが有効である。このとき、残りの銀塩の還元が進行すれば十分であり、先に使用した有機化合物と同種のものを使用する必要はない。具体的には、還元力を有する2級アミン、3級アミンを添加するのがよい。反応温度は、新たに有機化合物を添加する前の温度をそのまま維持して実施してもよいが、若干変更してもよい。
【0025】
(イ)銀微粉粒子が分散したインクの形成
得られた銀微粉粒子が存在する液は、そのままでは反応残渣等が残存している可能性があるため、粒子と反応母液を分離してコロイド液を得る工程が必要である。具体的には、還元反応を経て生成した銀微粉は、洗浄、分散、分級、調整の各工程を経て有機溶媒中に分散させ、インクが形成される。
以下にインクを得るための工程について例示する。
【0026】
<洗浄工程>
[1]反応後のスラリーを、デカンテーション法または遠心分離機により固液分離し、上澄みを廃棄する。
[2]固液分離後の固形分(生成物)にメタノールを添加して超音波分散を加え、生成物の表面に付着している不純物を洗浄除去する。
[3]上記[1][2]を数回繰り返して行い、表面の不純物を可能な限り除去する。
[4]最後に[1]を再度行って、上澄みを廃棄し、固形分を採取する。
これらの工程を繰り返す。後述の実施例ではこれを3回繰り返している。
【0027】
生成した銀微粉の量(表面に存在する有機保護材を含んだ量)は以下の手順で求められる。
(i)上記[1]に供する前の反応後のスラリーの重量を測定し、これを重量値Aとする。 (ii)当該スラリーからサンプル(例えば40mL)を分取してその重量を測定し、これを重量値Bとする。
(iii)分取した40mLのスラリーについて、前記[2]〜[4]に準じて固形分を採取し、重量既知の容器に入れた後、200℃で12時間真空乾燥させる。得られた乾燥物の重量を測定し、これを重量値Cとする。
(iv)生成した銀微粉の量(表面に存在する有機保護材を含んだ量)Dは、D=C×(A/B)により算出される。
【0028】
本明細書において還元反応の進行の指標とする「還元率」は、反応開始前の銀塩に含まれる銀重量Eと、上記Dの比によって算出される。すなわち、
還元率(%)=D/E×100
となる。この還元率の値は、銀が反応生成物として回収できている割合を示すもので、完全に還元されていれば銀微粉の質量は表面に有機保護材を有した値になっているので100%よりも高い還元率を示すこともある。現在までの発明者らの知見では、本方法に従う銀微粉ではおおよそ85〜105%の還元率となることが確認されている。
【0029】
<分散工程>
[1]下記に示すような溶媒のいずれか、あるいは組み合わせにより調整した分散媒に対して、前記洗浄工程後に得られた固形分を添加する。
(分散媒)
非極性もしくは無極性の有機溶媒であって、具体的には25℃で比誘電率が15以下である有機溶媒である。例えば、イソオクタン、n−デカン、n−ウンデカン、n−テトラデカン、n−ドデカン、トリデカン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン等の芳香族炭化水素が好適に使用できる。この分散媒には、上記の条件を超えない範囲で、アミン族など別種の分散補助剤を添加することも可能である。
[2]次いで超音波分散にかけ、固形分を分散媒中に分散させる。
【0030】
<分級工程>
分散工程を経て得られた銀粒子のインクを3000rpmで30分間遠心分離にかけ、上澄みと沈降物質を分離する。本発明で対象とするインクは、このときに得られる上澄みを用いて作成される。
このときに得られる上澄みに含まれる銀量と、沈降物質量の比を、ここでは「分散効率」と呼び、以下のように定義される。これはナノ粒子の回収効率にも相当する。
分散効率(%)=([洗浄工程にて生成した銀微粉の重量(上記D)]−[遠心分離後、容器壁面に付着した粒子重量])/[洗浄工程にて生成した銀微粉の重量(上記D)]×100
ここで、壁面に付着した銀残量は、液の分離回収後に、200℃で6時間真空乾燥させることによって測定可能である。分散効率が高いほど粒子の分散コロイドとしての分散性が高いことを意味することになる。その値は60%以上であることが望ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが一層好ましい。
【0031】
<調整工程>
分級工程で得られた銀粒子分散液(上澄み)を真空乾燥機にかけ、液体が確認されなくなるまで濃縮する。この濃縮物を上で示した分散媒に分散させることにより、適宜銀濃度が調整されたインクが形成される。場合によっては90質量%近傍の銀濃度を得ることも可能である。
【0032】
以上の工程で得られるインクは、スケールを大きくしてもスケールファクターの生じにくい、安定した特性を有する銀ナノ粒子コロイド液である。
以下に、本発明に従う銀微粉あるいはインクの物性およびその測定法等について説明する。
【0033】
〔平均粒子径DTEM
本発明では、銀粒子の平均粒子径としてTEM(透過型電子顕微鏡)により求まる平均粒子径DTEMを採用する。すなわち、TEMにより倍率600,000倍で観察される粒子のうち、重なっていない独立した300個の粒子径を計測して、平均粒子径を算出する。本発明で対象とする銀微粉はDTEMが20nm以下であり、15nm以下のものがより好適な対象となり、10nm以下のものがさらに好適な対象となる。平均粒子径が小さいほど微細な配線を形成する上で有利となる。後述実施例では、TEMとして日本電子株式会社製JEM−2010を用いた。
【0034】
〔X線結晶子径Dx〕
X線回折装置により、Cu管球にてAg(111)面の回折線(2θ=38.115°)を用い、Scherrer式を用いて算出される。Scherrer式に用いる定数は0.94を使用する。ここで算出されるX線結晶子径も小さいほうが良く、20nm以下であることが望ましい。15nm以下であることがより好ましく、10nm以下が一層好ましい。後述実施例では理学電気株式会社製X線回折装置RAD−rBを用いた。
【0035】
〔単結晶化度DTEM/Dx〕
平均粒子径DTEMをX線結晶子径Dxで除した値を単結晶化度とする。これは、実視で確認される粒子径と、結晶子径とがどの程度乖離しているかを示す値である。この値により、実測粒子がどの程度の数の結晶からなっているかを評価することができる。この値が大きすぎる場合には、粒子が凝集しており単結晶化できていないため好ましくない。
【0036】
〔銀粒子表面に存在する有機保護材の割合〕
TG−DTA装置により算出されるチャートに従って、銀粒子表面に存在する有機保護材の割合(以下「有機保護材割合」という)が算出される。この割合が高すぎる場合、粒子の表面は有機物で幾重にも被覆されており、分散性のみならず、銀濃度をある程度以上向上させることが難しくなるため好ましくない。また、低すぎる場合には銀微粉の回収効率が下がってしまうので好ましくない。好ましい有機保護材割合の具体的な数値については前述したとおりである。
【0037】
有機保護材割合を算出するには、図1に示すヒートパターンを採用する。すなわち、はじめに、温度は室温から200℃まで10℃/分の割合で昇温し(ステージI)、200℃で60分維持して(ステージII)、分散液に含まれる有機溶媒を揮発させる。次いで200℃から700℃まで10℃/分の割合で昇温し(ステージIII)、200℃で再度60分維持する(ステージIV)。ステージI〜IIにおいて有機溶媒が全部揮発とともに有機保護材は残留し、ステージIII〜IVにおいて有機保護材は全部揮発するとみなすことができる。図1のヒートパターンでTG−DTA装置により測定される重量変化をモニターし、ステージIIが終了するまでに重量変化はほぼゼロになるので、この時点までに減じた重量分W1を有機溶媒(分散媒)の重量とする。そして、ステージIII開始後、再び重量減少が生じ、ステージIVが終了するまでに重量変化はほぼゼロになるので、ステージIII〜IVの間に新たに減じた重量分W2を有機保護材の重量とする。残りの重量W3を銀の正味の重量とする。
有機保護材割合は、W2/(W2+W3)によって算出される。
【0038】
インク中の銀濃度は、インク(コロイド液)の全体重量に対する、TG測定の最終段階で得られる銀量の比で算出され、ICPでインクを分析することにより求めることができる。
【0039】
〔粘度〕
本発明に従うと、低粘度の銀ナノインクが得られる。実施例において粘度は、東機産業株式会社製R550型粘度計RE550Lにコーンローター0.8°のものを取り付けて25℃の条件下で測定した。このとき、インクジェット法を用いた配線形成に適用するうえで、インクの粘度は50mPa・s以下であることが望まれ、40mPa・s以下であることがより好ましい。例えば0.1〜40mPa・sの範囲、好ましくは0.1〜20mPa・sの範囲に調整すればよい。この範囲内に粘度が調整された銀ナノインクを用いるとノズル詰まりが生じにくく、円滑な液滴形成が可能になる。粘度の下限については用途に応じて1mPa・s以上に規定することもできる。
【0040】
〔収率〕
最終的に銀がどの程度分級工程後にインクとして分散したかを示す指標として、「収率」を定める。すなわち収率は、
収率(%)=(還元率/100)×(分散効率/100)×100
で定義される。収率が高い場合には、高い還元率で粒子が得られ、かつ高分散であることを意味する。
【実施例】
【0041】
〔実施例1、2〕
還元力を有する有機溶媒としてイソブタノール(和光純薬株式会社製特級試薬)を使用し、有機保護材としてオレイルアミン(和光純薬株式会社製特級試薬)を混合したところに、銀化合物として硝酸銀結晶(関東化学株式会社製特級試薬)を添加して、マグネチックスターラーにて撹拌し、硝酸銀結晶を溶解させた。このときの物量は、硝酸銀20.59g、イソブチルアルコール96.24g、オレイルアミン165.5gとした。この場合、有機保護材のオレイルアミンは銀に対して5当量に相当する量となっている。
【0042】
この溶液を還流器が接続された300mL容器に移液した後に、オイルバスにて容器内に不活性ガスである窒素を400mL/minの流量で添加しながら、溶液を100rpmで撹拌しつつ、液温を108℃となるまで昇温速度2℃/minで上昇させた後に、300分間還流を行わせながら加熱を行って、反応を進行させた。反応終了後に、前記の洗浄、分散、分級の各工程を経て、銀ナノインクを得た。インクの溶媒の種類は、実施例1がドデカン、実施例2がテトラデカンである。
【0043】
得られた粒子の還元率は101.7%であった。Dx値は8.1nm、平均粒子径DTEMは9.5nm、結晶化度は1.18であり、効率よく還元が行われており、結晶化度も低い銀微粉が得られたことがわかる。インクの特性を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
これらは有機保護材割合が低く調整されており、非常に高い銀粒子濃度のインクが得られた。なお、銀粒子濃度は、実施例1では65%狙い、実施例2では75%狙いとした。銀粒子濃度の測定はインクをICP質量分析装置で分析して求めた。
【0046】
〔比較例1、2〕
実施例1、2と同様の方法でインクを作成した。ただし、ここでは原料の物量を、硝酸銀27.80g、イソブチルアルコール43.31g、オレイルアミン201.03gとした。この場合、有機保護材のオレイルアミンは銀に対して4.5当量に相当する量となっている。
【0047】
得られた粒子の還元率は110.0%であった。Dx値は4.9nm、平均粒子径DTEMは8.4nm、結晶化度は1.71であり、効率よく還元が行われており、結晶化度も低い銀微粉が得られたことがわかる。インクの特性を表2に示す。なお、比較例1、2は、異なる機会に同様のインク化操作(ドデカンへの分散操作)を行ったものである。
【0048】
【表2】

【0049】
これらの例では、銀濃度65%狙いとしたが、それを大幅に下回る低い銀濃度のインクしか得られなかった。TEM観察によるとこれらの銀粒子は、形状が均一で、平均粒子径DTEMも8.4nmとナノ粒子であったが、インク中には生成した粒子の約3〜6割程度しか分散できなかったことになる。これは、実施例1、2に比べ、比較例1、2の方が銀の仕込み濃度が高いにもかかわらず洗浄工程が同じであったため、粒子の洗浄が不十分となり、結果的に粒子の表面に有機保護材が多く残存してしまったことが原因と考えられる。
【0050】
〔比較例3、4〕
実施例1において、オレイルアミンの代わりに、有機化合物をシクロヘキシルアミン(比較例3)、エチルヘキシルアミン(比較例4)に変更した。これらの有機化合物は不飽和結合を持たないものである。それ以外は、実施例1と同様の条件で実験を試みた。その結果、粒子の生成がほとんど見られず、粒子物性の確認すらできなかった。還元率はそれぞれ、シクロヘキシルアミンの場合が3.9%、エチルヘキシルアミンの場合が3.8%であった。ただし、収率は両方とも0%であり、分散媒に分散する銀粒子は観察することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】有機保護材割合を測定するために採用するTG−DTA装置によるヒートパターンを模式的に示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機保護材を表面に有する平均粒子径20nm以下の銀粒子で構成され、銀粒子と有機保護材の合計に対する有機保護材の存在割合が0.05〜25質量%である銀微粉。
【請求項2】
前記有機保護材を構成する化合物にはアミン化合物が使用されている請求項1に記載の銀微粉。
【請求項3】
前記有機保護材を構成する化合物には1分子中に1個以上の不飽和結合を有する物質が使用されている請求項1または2に記載の銀微粉。
【請求項4】
前記有機保護材を構成する化合物は分子量100〜1000の物質である請求項1〜3のいずれかに記載の銀微粉。
【請求項5】
銀の(111)結晶面における結晶子径が20nm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の銀微粉。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の銀微粉の粒子が、銀濃度10質量%以上で有機溶媒中に分散してなり、かつ、粘度が50mPa・s以下であるインク。
【請求項7】
アルコール中またはポリオール中で、アルコールまたはポリオールを還元剤として、1分子中に1個以上の不飽和結合を有する有機化合物の存在下で、銀化合物を還元処理することにより銀粒子を析出させるに際し、前記有機化合物として分子量100〜1000のアミン化合物を使用する請求項1〜5のいずれかに記載の銀微粉の製法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−190025(P2008−190025A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173732(P2007−173732)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】