銀微粒子と核酸の複合体及びその製造方法
【課題】必要レベル以上の蛍光を示し、退色の影響が少なく、毒性が低いなどの性質を有する金属微粒子およびその製造方法の提供。
【解決手段】そのような課題は、直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸(例えば、アデニン及び/又はグアニンを含む5〜50個の塩基からなるDNA又はRNA)の複合体、銀イオンおよび核酸を含む溶液を用いて、前記銀微粒子と核酸の複合体を製造する方法、前記複合体を含む蛍光染色剤などに関する。
【解決手段】そのような課題は、直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸(例えば、アデニン及び/又はグアニンを含む5〜50個の塩基からなるDNA又はRNA)の複合体、銀イオンおよび核酸を含む溶液を用いて、前記銀微粒子と核酸の複合体を製造する方法、前記複合体を含む蛍光染色剤などに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀微粒子と核酸の複合体及びその製造方法に関する。また、本発明は、バイオ分野において用いられる、前記複合体を含む蛍光染色剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料を蛍光染色して特定の組織を識別する方法として、低分子蛍光色素自身や蛍光色素を含有あるいは結合させた高分子微粒子、発光性半導体微粒子(量子ドット)を用いる技術がある(例えば、非特許文献1:NANOTECHNOLOGY 16 (2): R9-R25 FEB 2005)。
しかし、有機色素を用いた場合は励起光による蛍光色素の退色の問題があり、粒径が100nm以下の蛍光性高分子微粒子の場合には蛍光強度が不足する問題点がある。また粒径が数ナノメートルでも発光する半導体微粒子はサイズ的には小さく量子収率が高いことから非常に注目されているが、カドミウムを用いているために細胞に対する毒性が強いことが問題となっている(例えば、非特許文献2:Langmuir, 23, 1974-1980,(2007))。
【0003】
一方、金、銀または銅等の金属ナノ粒子の凝集体表面に分子が吸着すると、吸着分子のラマン散乱断面積が通常のラマン散乱断面積に比べて106〜1014倍程度増強され、強いラマン散乱を示すことがレーザー分光測定で明らかにされている(例えば、非特許文献3:J. Raman Spectrosc. 36, 3421-3427(2005))。
しかし、従来の作製方法で得られる単一の金属ナノ粒子からは強いラマン散乱や発光を示すことはほとんど無く、光学顕微鏡で生体試料を観察する場合の染色剤としては好ましくない。また、従来の金属微粒子の作製方法の場合、還元剤、分散剤などの除去が困難であり、発光性や安全性等の点から、生体試料の染色剤として用いることはできない(例えば、非特許文4:J. Phys. Chem. 86, 3391-3395 (1982);非特許文献5:Mater. Lett. 60, 834-838 (2006))。
【0004】
【非特許文献1】NANOTECHNOLOGY 16 (2): R9-R25 FEB 2005
【非特許文献2】Langmuir, 23, 1974-1980,(2007)
【非特許文献3】J. Raman Spectrosc. 36, 3421-3427(2005)
【非特許文献4】J. Phys. Chem. 86, 3391-3395 (1982)
【非特許文献5】Mater. Lett.60, 834-838 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような状況下、比較的小さい粒径でも必要レベル以上の蛍光を示し、退色の影響が少なく、毒性が低いなどの性質を有する金属微粒子およびその製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の銀微粒子と核酸を複合してなる複合体が上記のような性質を満足すること、また、そのような複合体を容易に製作し得る方法を見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下に示す、銀微粒子と核酸の複合体、その製造方法、前記複合体を含む蛍光染色剤などを提供する。
【0007】
(1)直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸の複合体。
(2)直径が5nm〜50nmである、上記(1)に記載の複合体。
(3)前記銀微粒子が複数の結晶構造を有する、上記(1)又は(2)に記載の複合体。
(4)前記銀微粒子がモザイク状構造を有する、上記(3)に記載の複合体。
(5)前記核酸が、アデニン及び/又はグアニンを含む5〜50個の塩基からなるDNA又はRNAである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の複合体。
(6)前記核酸が、アデニン又はグアニンを含む一本鎖DNA又はRNAである、上記(5)に記載の複合体。
(7)前記核酸が、アデニンの5〜50量体から選択されるものである、上記(6)に記載の複合体。
(8)前記核酸が、グアニンの5〜50量体から選択されるものである、上記(6)に記載の複合体。
(9)前記DNA又はRNAが末端に官能基を有する、上記(5)〜(8)のいずれかに記載の複合体。
(10)前記官能基が、ビオチン又はチオールである、上記(9)に記載の複合体。
(11)前記銀微粒子内部及び/又は外部に前記核酸が存在する状態で該銀粒子と該核酸が複合化されている、上記(1)〜(10)のいずれかに記載の複合体。
(12)表面が前記核酸で覆われている、上記(1)〜(11)のいずれかに記載の複合体。
(13)ラマン散乱を示す、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の複合体。
(14)前記核酸と前記銀微粒子の相互作用による蛍光を示す上記(13)に記載の複合体。
(15)上記(1)〜(14)のいずれかに記載の複合体を含む蛍光染色剤。
(16)銀イオンおよび核酸を含む溶液を用いて、直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸の複合体を製造する方法。
(17)前記銀イオンおよび核酸を含む溶液中で、銀イオンを還元する、上記(16)に記載の方法。
(18)還元剤の添加によって還元を行う、上記(17)に記載の方法。
(19)紫外線照射によって還元を行う、上記(17)に記載の方法。
(20)上記(16)〜(19)のいずれかに記載の方法によって得られる、銀粒子と核酸の複合体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の好ましい態様に係る複合体は、比較的小さい粒径でも必要レベル以上の蛍光を示し、退色の影響が少なく、毒性が低いなどの利点を有する。したがって、そのような複合体は、バイオ分野で用いられる蛍光染色剤として好適である。
また、本発明の複合体の製造方法によれば、上記のような性質を有する銀微粒子と核酸の複合体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1.発明の概要
本発明は、銀微粒子と核酸の複合体及びその製造方法、前記複合体を含む蛍光染色剤などに関する。
通常の蛍光色素や発光微粒子は発光波長を制御するために、分子構造や微粒子サイズなどを制御する必要がある。しかしながら、本発明の銀微粒子と核酸の複合体では励起光に対して波長シフトを起こす発光(ラマン散乱)を利用しているために特別な構造制御を行う必要性はない。また、核酸(例えば、DNA)を分散剤として用いているために生体適合性が高く、細胞内に導入しても細胞死を誘起しにくいことを特徴としている。
本発明の製造方法においては、通常、水溶液中に生体高分子である核酸(DNA、RNAなど)と銀イオンを溶解し、還元剤や光照射によって銀イオンを還元することで、銀微粒子と核酸がDNAと複合化された複合体を作製する。核酸は銀イオンと相互作用しやすく、核酸/銀微粒子複合体を作製する際には分散剤および保護剤として有効な成分となる。同時に銀微粒子や核酸単体では蛍光を示すことはないが、核酸と銀微粒子が複合化することによって強い発光(ラマン散乱と電荷移動蛍光)を示すことによって生体適合性の高い発光性微粒子を提供することができる。
【0010】
2.銀微粒子と核酸の複合体
本発明の第1の態様は、直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸の複合体に関する。
本発明の複合体は、銀微粒子と核酸とが複合されてなる略球状の複合体であり、その直径は5〜500nm、好ましくは5〜50nm、さらに好ましくは、10〜20nmである。
ここで複合体に含まれる銀微粒子は、単一の結晶格子からできているものでもよいし、複数の結晶構造を有しているものでもよい。また、複数の結晶がモザイク状に融合した微粒子であるものも含まれる。ここでモザイク状とは、結晶が規則性を持たずに集合した状態であり、部分的には結晶間に核酸の一部が入り込んだ状態をいう。
【0011】
本発明が提供する銀粒子に複合化される核酸は、DNA、RNA、それらのホスホジエステル誘導体、PNA、2−O−メチルRNA、オリゴヌクレオチド、ペプチド核酸等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
本発明で用いられる核酸としては、DNA又はRNAが好ましく、特に、アデニン及び/又はグアニンを含む2個以上、好ましくは、5〜100個、より好ましくは5〜50個、さらに好ましくは10〜30個の塩基からなるDNA又はRNAが好ましい。ここで用いられるDNAまたはRNAは一本鎖であっても、二本鎖であってもよい。
ここで用いられる核酸はこれに限定されるわけではないが、プリン塩基構造を有するアデニン及び/またはグアニンを多く含むことが好ましい。したがって、ここで用いられる核酸は好ましくは、全構成ヌクレオチド中50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%、さらに好ましくは80%以上(ヌクレオチド数で換算)の構成ヌクレオチドが、アデニン及び/またはグアニンであることが好ましい。
またより均質な複合体を調整する観点からは、全構成ヌクレオチドが単一のヌクレオチドであることが好ましい。したがって、全ヌクレオチドがアデニン、グアニン、チミンおよびシトシンのいずれかから構成される核酸は本発明において好ましく用いることができる。
また、本発明において特に好ましく用いられる核酸は、アデニンまたはグアニンの5〜50量体(好ましくは10〜30量体、より好ましくは10〜20量体)から選択される。
【0012】
また、本発明の複合体を蛍光染色剤として用いる場合には、ターゲットとなるタンパク質を認識する抗体などを結合させることが好ましい。このためには、複合体中の核酸の末端にビオチン、チオールなどの官能基を結合させるとよい。
本発明の複合体は、略球状である。この複合体の真球度は、特に限定されないが、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上である。
また、本発明の好ましい態様に係る複合体は、銀微粒子内部及び/又は外部に核酸が存在する状態で該銀粒子と該核酸が複合化されている。しかし、細胞毒性を低減化するためには、銀微粒子の表面が核酸で覆われていることが望ましい。核酸が銀微粒子の表面を被覆する程度は、細胞毒性を所望のレベルまでに低減させることができる限り特に限定されない。好ましくは、本発明の複合体において、銀微粒子の表面の30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上が核酸で覆われている。
【0013】
3.本発明の複合体の製造方法
次に、本発明の複合体の製造方法について説明する。
本発明は、銀イオンおよび核酸を含む溶液を用いて、上記した銀微粒子と核酸の複合体を製造する方法を提供する。より具体的には、本発明の製造方法においては、DNAやオリゴヌクレオチドなどの核酸を、水または緩衝液に溶解しておき、これを硝酸銀水溶液などの銀イオンを含む水溶液と混合する。この混合水溶液に紫外線等の光を照射することや還元剤を用いて、還元することによって、核酸で被膜され、核酸と複合化した銀微粒子を作製することができる。
【0014】
本発明の銀微粒子の作製に必要な銀イオンを生成する化合物として、塩化銀、硫酸銀、硝酸銀、リン酸銀、亜硫酸銀、亜硝酸銀、亜リン酸銀等を挙げることができる。なかでも
硝酸銀を好ましく使用することができる。これらの水溶液の濃度は10M〜10mMでが望ましいが、コスト等の点を考慮すると10mM〜100mMが好ましい。
【0015】
これらの銀イオンを生成する化合物は、水溶液として使用される。化合物は硫酸水溶液、あるいは塩酸水溶液、トリス-塩酸緩衝溶液(Tris-HCl buffer)が好ましいが、特にトリス-塩酸緩衝溶液が好ましい。
【0016】
銀イオンから銀を析出させるための還元剤としては、種々のものが使用できるが、水溶液中で安定な還元剤例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどの水溶液を用いることが好ましい。還元剤水溶液の濃度は、特に制限されないが、通常100mm〜100mMである。
【0017】
銀を析出させるための光による還元は、紫外線によって行うことができるが、紫外線照射方法としては、254nm から365nm までの領域にある波長を主波長とする紫外線を照射することが好ましい。例えば254nm を主波長とする低圧U V ランプ、365nm を主波長とする高圧U V ランプなどが使用できる。紫外線の照射量、照射時間に特に制限はないが、1時間以内が好ましく、さらに好ましくは10分以内である。
また、窒素ガスレーザー(337nm、10nsパルス)で還元して銀微粒子を得ることも可能である。
【0018】
4.本発明の蛍光染色剤
上記のような構造を有する本発明の複合体は、核酸と銀微粒子の相互作用による蛍光(特に、ラマン散乱)を示す。したがって、このような複合体は、バイオ分野で用いられる蛍光染色剤(あるいは蛍光標識剤)として用いることができる。蛍光染色剤として用いる場合は、前述のように、複合体中の核酸の末端にビオチン、チオールなどの官能基を結合させておき、その官能基とターゲットとなるタンパク質を認識する抗体などを結合させておく。本発明の蛍光染色剤は、公知の手法にしたがって用いることができる(nature biotechnology, 21(1) 41-46 (2003)。
上記で作製した銀微粒子と核酸の複合体は、水に安定に分散・溶解しており、生体適合性を示すために安全に細胞に取り込まれる。光照射を行えば、銀微粒子は細胞に取り込まれても発色する。特に内部に形成された粒子の構造がモザイク状を形成する微粒子は、粒子間に挟まれたホットスポットでラマン散乱が増強され、このラマン散乱のため長時間露光し続けても消光しない。したがって、本発明の蛍光染色剤は例えば細胞染色のイメージング試薬やゲル電気泳動用の染色試薬、タンパク質の蛍光定量法に用いる試薬等として利用可能である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を参照して本発明の詳細を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
実施例1:dA20(デオキシアデニン20量体)を用いた微粒子作製
ゲルろ過精製したオリゴヌクレオチドdA20(デオキシアデニン20量体)をユニット換算(塩基数濃度)で10mMとなるようにTris-HCl緩衝水溶液(10mM Tris-HCl (pH7.8 ,20℃))を用いて調製した。硝酸銀水溶液AgNO3 (和光純薬)を使用して10mMになるように調製した。
Nucleobase(塩基):Ag+イオン=1:1(モル比)でdA20と硝酸銀水溶液を混合し、最終濃度が100μMとなるように10mM Tris-HCl緩衝水溶液で希釈した。この混合水溶液1mlを4mlのガラス瓶に入れた。瓶の上部からUV(紫外線)スポット光源([LIGHTNINGCURETM L8868, HAMAMATSU],300μW/cm2 ,360nm)を用いて紫外線を5分間照射した。
【0021】
実施例2:微粒子の構造評価
実施例1で示されるUV照射後に、溶液のUV-Vis吸収スペクトル[UV-1650PC, SHIMADZU]を測定した。
銀イオンとdA20を含む緩衝溶液中に紫外線を照射した結果、410nm付近に新たな吸収が観測された(図1)。これは既に知られている銀ナノ微粒子のプラズモン吸収と一致することから、銀イオンとdA20を含む緩衝溶液中から銀ナノ微粒子の形成が確認された。
また、透過型電子顕微鏡(TEM)[ HD-2000,HITACHI ]による形状観察を行った。(図2)その結果、粒径20nm程度のナノ粒子が形成されることが明らかとなった。。
さらにEDAX(エネルギー分散型蛍光X線分光装置)により微粒子の元素分析を行った結果、Ag3d由来のピークが観察されさた。このことから作製された微粒子が銀ナノ微粒子であることが明らかとなった。
【0022】
実施例3:微粒子の内部構造
実施例1で形成した銀ナノ粒子の内部構造及び表面状態について、より詳細に観察を行った電子顕微鏡写真を図3に示す。図3(a)の銀ナノ粒子には複数の銀の格子像が確認できた。さらに図3(a)の銀ナノ粒子から(c)のような回折像が得られた。このことから微粒子内部に銀結晶の存在が確認された。通常、クエン酸還元法などの通常の方法にて作製した銀ナノ粒子では、粒子全体の結晶格子が一定方向に揃っているはずであるが、本方法で作製した銀ナノ粒子は格子の向きが場所により異なっている。すなわち、今回作製した微粒子は1つの結晶からなる粒子ではなく、粒子内部には多数の銀ナノ結晶が存在しており、それらが集合して1つの粒子を形成したモザイク状の粒子である。
さらに粒子表面を見ると厚さ3-4nmの保護層が存在している(図3(b))。このことからオリゴヌクレオチドが銀ナノ粒子表面を被覆していると考えられる。
また、写真での濃淡部分は電子照射で生じる帯電よる揺らぎが観測されることから、導電性でない成分の存在が明らかとなった。つまり、微粒子内部に非導電性成分であるdA20が含有されていることが示唆された。
以上の結果から、作製した微粒子がdA20と複数の銀ナノ結晶が複合化した微粒子であることが示唆された。
【0023】
実施例4:微粒子の表面状態の測定
実施例1で形成した、微粒子表面電荷状態をレーザーゼータ電位計[ELS-8000,大塚電子]を使用して測定した。その結果、ゼータ電位は-24.77mVであったことから、表面は負に荷電していることが分かった(図4)。これにより粒子同士の静電反発を引き起こすことで微粒子が凝集せずに分散状態を保つ。また、負電荷はdA20のリン酸基によると考えられる。
銀ナノ粒子表面にdA20が存在するかどうか調べるため、以下のような実験を行った。dA20を用いて作製した銀ナノ粒子分散溶液200μl(100μM)に、アデニンと相補的な塩基を持つdT20またはpoly(U)、非相補的な塩基であるdG20を200μl(100μM)を加え5分間室温で放置した。それぞれの溶液を洗浄したガラス基板上に10μl滴下し、窒素ガス雰囲気下で乾燥させた。そのサンプルを蛍光顕微鏡[BX51, U-LH100HGAPO, Olympus]、顕微鏡カメラ[DP71, Olympus]により観察した。対物レンズはUplanAPO 100x/1.35 oil Iris、暗視野照明により観察を行った。
作製した銀ナノ粒子を観察したところ(図5(a))、個々の銀ナノ粒子による暗視野像が観察され、凝集体は観察されなかった。次に、銀ナノ粒子にアデニンとは水素結合を形成しないグアニンの20量体であるdG20を加えた場合も同様の分散状態であった(図5(b))。一方、アデニンと相補的な塩基であるチミンの連続配列であるdT20、poly(U)を加えた場合には、図5(c),(d)のように多数の凝集体が観察された。このことから、銀ナノ粒子表面にdA20の核酸塩基(アデニン)が突出しており、チミンとアデニン間での水素結合が形成された結果、微粒子が凝集したためと考えられる。このことから銀ナノ粒子最表面にはdA20のリン酸基だけではなく、核酸塩基も存在していることが明らかとなった。
【0024】
実施例5:微粒子の発光特性評価
実施例1で作製した銀ナノ微粒子の発光特性を調べるために以下のような実験を行った。dA20を用いて作製した銀ナノ粒子分散溶液200μl(100μM)を洗浄したガラス基板上に10μl滴下し、窒素ガス雰囲気下で乾燥させた。そのサンプルを蛍光顕微鏡[BX51, U-LH100HGAPO, Olympus]、顕微鏡カメラ[DP71, Olympus]によりB励起、G励起、U励起で観察した。(対物レンズはUplanAPO 100x/1.35 oil Iris)その結果を図6に示すが、どの励起光波長を用いた場合においても微粒子からの発光が観察された。
このことから、今回作製した微粒子が幅広い励起波長に対応した発光を示すことが明らかとなった。
【0025】
実施例6:微粒子の発光起源の同定
実施例1で作製した銀微粒子は、G励起の波長帯にはほとんど吸収が無いことがUV吸収スペクトルから判明している。そのため発光の起源を同定するために、微粒子からの発光スペクトルの顕微分光測定を行った。サンプルはガラス基板状に固定化した状態で測定を行った。励起光源としてアルゴンイオンレーザー(発振波長514nm)を用いた。レーザーを顕微鏡に導入し、対物レンズで集光してサンプルを励起した。励起光レーザーの散乱光をフィルターでカットし、サンプルからの発光を光ファイバーで集光後、分光器に導入した。分光された光をCCDカメラで検出し、スペクトル(図7)を得た。
このスペクトルには530nm〜570nmのブロードな発光と534nm(ラマンシフト730cm-1)、552nm(ラマンシフト1320cm-1)の鋭いピークが観察された。この鋭いピークはアデニンのラマン散乱に帰属される。
このことから微粒子からの発光はアデニンと銀微粒子が相互作用した結果の蛍光とラマン散乱であることが明らかとなった。ラマン散乱は励起光からシフトした波長で観測されることから、あらゆる励起波長で観察される。
【0026】
実施例7:微粒子の退色性についての評価
次に実施例1で作製した銀微粒子の退色性について検討を行った。
市販されている蛍光性半導体微粒子(EviDotsTMCdSe/ZnS core-shell型ナノ微粒子)
との比較を行った。EviDotsTMを銀微粒子と同様にガラス基板状に滴下したサンプルを用意した。EviDotsTM,銀微粒子サンプルに顕微鏡下でB励起(470-495nm)を10分間照射した。その後、それぞれの励起光を用いて発光強度について調べた。その結果、EviDotsTMはUV照射後に著しく蛍光強度が減衰したのに対し、銀微粒子は全く蛍光強度の減衰が観察されなかった。これは銀ナノ微粒子の発光がラマン散乱に起因する成分を含んでいるために退色が起こりにくく、蛍光性半導体微粒子よりも退色しにくいと考えられる。
【0027】
実施例8:細胞への毒性試験
次に実施例1で作製した銀微粒子の細胞毒性試験について示す。
作製した微粒子をHeLa細胞に滴下し、無血清培地中、 5% CO2 , 37℃ の条件で6時間培養を行った。その後、PBSで溶液を洗浄して不要な微粒子を取り除き、共焦点レーザー走査型顕微鏡(FV300、オリンパス)で観察を行った。
その結果を図9に示す。伸展したHeLa細胞内に緑色の発光が観察された。このことから作製した銀微粒子は細胞内へ取り込まれ、細胞内でも発光することが確認された。
また、銀微粒子溶液を滴下後、24時間培養を行った。
24時間培養後、細胞を観察したところ細胞は分裂し、増殖していることが観察された(図10)。このことから、銀微粒子はdA20という生体高分子で保護されているために細胞毒性がほとんど無いことが明らかとなった。
【0028】
比較実施例1:クエン酸を加えて作製した銀微粒子
Silver nitrate 36mgを200mlの超純水に溶解し、撹拌しながら沸騰させた。1重量%に調製したSodium citrate水溶液を4ml加え、沸騰させながら10分間撹拌して銀ナノ粒子を作製した。このようにして作製された銀ナノ粒子についての、電子顕微鏡写真(TEM)を図11に示す。図11に示されるようにクエン酸還元によって作製した場合には粒形、形状ともに不均一であった。また実施例1で作製された銀ナノ粒子のような内部構造は見られなかった。
【0029】
実施例9:銀ナノ粒子形成における溶液の効果
(1)試薬及び溶液の調製
DNAとしてアデニン20量体であるオリゴヌクレオチドdA20を用意した。また、銀イオン水溶液はSilver nitrate(AgNO3)[和光純薬]を使用して10 mMになるように超純水で調製した。
緩衝溶液として10mM Tris-HCl水溶液pH7.8,20℃、pH7.0、pH9.0,20℃を用意した。また、その他の溶液として10mM Bis-Tris緩衝水溶液(Bis(2-hydroxoyethyl)iminotirs-(hydroxymethyl)methane, pH 5.8, 20℃)、10mMリン酸緩衝水溶液(Sodium dihydrogenphosphate dehydrate, Sodium phosphate dibasic basic dodecahydrate, pH 6.8, 20℃)、10mM 2-アミノエタノール(AE)水溶液(2-Aminoethanol,pH 8.1, 20℃)、10mM 2-ジメチルアミノエタノール(DMAE)水溶液(N,N-Dimethylethanolamine, pH 8.0, 20℃)、トリメチロールエタン(TME)水溶液(Trimethylol ethane, pH 5.8, 20℃)を用意した。Bis-Tris緩衝水溶液、AE水溶液、DMAE水溶液は塩酸を用いてpHを調製した。Tris, Bis-Tris, AE, DMAE, TMEの構造を図12に示す。
【0030】
(2)UV照射実験
アデニン:Ag+イオン=1:1(モル比)を最終濃度100μMとなるように超純水、あるいは各種緩衝水溶液で希釈した混合水溶液を作製し、1mlを4mlのガラス瓶に入れた。それぞれ瓶の上部からUVスポット光源([LIGHTNINGCURETM L8868, HAMAMATSU],300μW/cm2 ,360nm)を用いて紫外線を5分間照射した。
【0031】
(3)様々な溶液中における光還元
超純水中で光還元を行った結果を図13 (a), (b)に、10mM Tris-HCl緩衝水溶液で光還元を行った結果を図13(c), (d)に示す。図13 (a),(c)はAgNO3のみ、図13(b),(d)はAgNO3とdA20を添加した溶液である。図13(a)、(b)の溶液は紫外線照射後にも吸収スペクトルの変化は見られないため、超純水中ではオリゴヌクレオチドであるdA20存在下においても銀ナノ粒子は形成しないことが明らかとなった。
それに対し、Tris-HCl緩衝水溶液中で光還元を行った場合には、dA20の有無にかかわらず410nm付近にプラズモン吸収由来のピークが観測されたので、銀イオンが還元し、銀ナノ粒子が形成していると考えられる。
次にTris-HCl緩衝水溶液中において銀イオンの光還元が起こる理由として、Trisの構造に含まれるアミンが光照射により還元剤として作用したことが考えられる。そこで図12に示すTrisと似た構造をもつ様々な分子を用いて光還元が進行するかどうか検討した。
結果を図14に示す。AE, DMAE, TMEは緩衝能を持たないため、ジアンミン銀(I)錯体が形成しないpHに調製してから実験を行った。アミンを有する2-アミノエタノール(AE)、2-ジメチルアミノエタノール(DMAE)中で光還元を行った場合(図14(a), (b))、それぞれ1級アミン、3級アミンの違いに関わらず銀ナノ粒子が形成した。それに対し、アミンを含まないトリメチロールエタン(TME)中(図14(c))、無機緩衝水溶液であるリン酸緩衝水溶液中では(図14(d))、UV照射前後において吸収スペクトルの変化が見られないことから、銀イオンの光還元は進行していないと考えられる。このことから光還元のメカニズムとして、UV光を照射することで溶液中に含まれるアミンが還元剤として働き、銀イオンを還元できることが明らかとなった。
【0032】
(4)光還元におけるpH依存性
次に溶液のpHの影響について検討した。Tris-HCl緩衝水溶液のpHを変化させた結果を図15に示す。pH5.8の条件ではTris-HClの緩衝能を超えているため、Bis-Trisを代用した。Trisのようなアミンを含む化合物(図12参照)が存在する場合、銀イオンはpHにより3つの状態をとる。
1. Ag+
2. Ag2O 2Ag+ + 2OH- ⇔ Ag2O + 2H2O
3. Ag(NH3)+ Ag2O + 4NH3(aq) + H2O ⇔ 2[Ag(NH3)2]+ + 2OH-
図15(b)から、pH5.8、pH7.0の条件ではpH7.8の場合と同様に、410nm付近の強いプラズモン吸収が観測された。また、pH9.0の溶液中においてもブロードではあるが410nmのプラズモン吸収が見られ、銀ナノ粒子の形成が確認された。
このことから、発光性銀ナノ微粒子作製にはアミンを有する水溶液、緩衝溶液が必要であり、pHには依存しないことが明らかとなった。
【0033】
実施例10:各種核酸塩基での微粒子作製
(1)試薬及び溶液の調製
核酸を含む分子として、オリゴヌクレオチド(dA5, dT5, dA20, dC20, dG20, dT20, dA50, dT50)は、すべてゲルろ過して精製したものを、3'末端ビオチン化オリゴヌクレオチド(3'-biotin-dA20)(図16)はHPLCで精製したものを用意した。また、モノヌクレオチド(AMP, CMP, GMP, TMP)、ポリヌクレオチド(Poly(A), Poly(C), Poly(G), Poly(U))、2本鎖DNA(λDNA)、環状DNA(M13mp8 RFIDNA)は精製せずに用いた。これら
はすべて塩基濃度で10mMとなるようにTris-HCl緩衝水溶液(10mM Tris-HCl (pH7.8, 20℃))を用いて調製した。
銀イオン水溶液はSilver nitrateを使用して10mMになるように超純水で調製した。
【0034】
(2)金属ナノ粒子の作製
DNAと硝酸銀水溶液を塩基数:Ag+イオン=1:1(モル比)、最終濃度100μMとなるように10mM Tris-HCl緩衝水溶液で希釈した混合水溶液を各DNAについて作製した。
この溶液1mlを4mlのガラス瓶に入れた。それぞれ瓶の上部からUVスポット光源([LIGHTNINGCURETM L8868, HAMAMATSU],300μW/cm2 ,360nm)を用いて紫外線を5分間照射した。
【0035】
(3)塩基配列の差異による効果
dA20. dC20, dG20, dT20の塩基配列のオリゴヌクレオチドを用いた場合のUV-Vis吸収スペクトル結果を図17に示す。各スペクトルを比較すると、dA20, dG20を用いた時、410nm近傍の強いプラズモン吸収が観測された。一方、dC20, dT20においても弱いながらプラズモン吸収が観察された。これらのサンプルをTEMにより観察したところ、dA20・dG20を用いた場合には平均粒径20nm程度の比較的均一な銀ナノ粒子が、dC20・dT20では50nm以上の粒子が多数見られ、それらが凝集していた(図18)。
このことから、プリン塩基をもつDNAを用いた場合に、小さいナノ微粒子が生成することが明らかとなった。
【0036】
(4)DNAの鎖長の差異による効果
オリゴヌクレオチドの鎖長が銀ナノ粒子形成にどのような影響を及ぼすかを調べるため、鎖長の異なるアデニンの連続配列(AMP, dA5, dA20, dA50, poly(A))を用意した。AMPは単量体、poly(A)は数千塩基程度の不揃いな長さの高分子である。UV-Vis吸収スペクトル測定結果を図19に示す。5つのオリゴヌクレオチドのうち単量体であるAMPを用いた場合のみ、UV光照射後にも銀ナノ粒子形成を示すプラズモン吸収が観測されなかった。単量体では1分子DNAが銀クラスターを形成・集合させるといった役割を果たすことができないためだと考えられる。dA5・dA20・dA50に関しては、銀ナノ粒子の粒径増大に伴うプラズモン吸収のシフトは見られなかったが、Poly(A)を用いた場合には500-700nmのベースラインが上昇している(図20)ことから、様々な粒径の銀ナノ粒子が形成していることが明らかとなった。これはpoly(A)の鎖長が不揃いであるために、銀ナノ粒子も様々な粒径が生成したと考えられる。
以上の結果から、2量体以上の鎖長を持つことで微粒子の作製が可能であることが示された。また、鎖長を変化させることで形成される微粒子サイズを変化させることが可能である。
【0037】
(5)二本鎖DNAでの微粒子作製
ここまでの実験ではすべて1本鎖のオリゴヌクレオチドを使用してきた。そこで2本鎖の長鎖DNAであるλDNA (48,502bp, 16.5μm)、環状DNAであるM13mp8 RFIDNA (7,228
bp)を使用し、同様の実験を行った。λDNAを用いた場合のUV照射前後における吸収スペクトルの変化を図21に示す。これまでの実験方法と同様に5分間UV光を照射したところ、405nmを中心とするプラズモン吸収が観測されたことから、λDNAを用いた場合にも銀ナノ微粒子の作製が確認された。また、環状DNAを用いた場合には、1本鎖DNAにより作製した場合と同様、ナノ粒子が生成した。環状DNAの場合には平均粒径は約40nmであった。
このように1本鎖DNAだけでなく、直鎖2本鎖DNA、あるいは環状DNAにおいてもナノ粒子の形成が可能である。
【0038】
(6)ビオチンを提示した銀ナノ粒子の作製
作製した銀微粒子にDNAの核酸塩基以外の分子認識能を持たせるために、機能性の官能基や色素分子を付加したDNAでの微粒子作製を検討した。
末端をビオチン化したdA20を用いて銀ナノ粒子を他と同様の条件で作製した。UV照射前後における吸収スペクトルの変化および形成した粒子のTEM画像を図22、図23に示す。末端を修飾していないdA20を用いて作製した場合と同様、UV照射後には銀ナノ粒子形成を示すプラズモン吸収が見られ、TEM画像より平均粒径20nm程度の銀ナノ粒子が形成していた。DNA末端を修飾しても同様の銀ナノ粒子が形成することが明らかとなった。
次に微粒子表面にビオチンが存在するかどうか調べるため、ストレプトアビジンを加えて微粒子が凝集するか確認した(図24)。作製した銀ナノ粒子分散溶液に200μl(100μM)に0.2mg/mlに調製したストレプトアビジン溶液(ストレプトアビジンはStreptomyces avidinii由来のStreptavidin, TypeII[和光純薬]を使用し、TE buffer (1
0mM Tris-HCl, 1mM EDTA , pH 7.8 ,20℃)により0.2mg/mlに調製した)を20μl 混合して4℃で30分間放置した。溶液を洗浄したガラス基板上に10μl滴下し、窒素ガス雰囲気下で乾燥させた。その後、顕微鏡下の暗視野照明により観察を行った。
結果を図23に示す。dA20で被覆した銀ナノ粒子の場合と同様、末端ビオチン化したdA20で作製した銀ナノ粒子のみでは分散している様子が観察された(図25(a))。この銀ナノ粒子にストレプトアビジンを加えると、図24に示した模式図通り、銀ナノ粒子同士がストレプトアビジンにより架橋され、凝集体を形成していることが分かった(図25(b))。このことから、銀ナノ粒子表面にはビオチンが存在していることが明らかとなった。本実験では、ビオチンーアビジン結合を利用したが、オリゴヌクレオチドの末端に様々な官能基を修飾することで、分子認識能を有する銀ナノ粒子が非常に簡便に作製できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のように、本発明の銀微粒子と核酸の複合体は、通常、核酸で被覆されているため、細胞に取り込まれ易い。また、本発明の複合体は、細胞毒性も低く、細胞内で、長時間安定した発光を呈するので、例えば細胞染色のイメージング試薬、ゲル電気泳動用の染色試薬、タンパク質の蛍光定量法に用いる試薬等として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】溶液中のUV照射前後におけるUV-Vis吸収スペクトルの変化を示す。
【図2】金属微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】dA20で被膜された銀ナノ粒子の高解像度TEM画像(a,b)および回折像(c)である。
【図4】dA20で被覆した銀微粒子のゼータ電位測定結果を示す。
【図5】dA20で作製した銀ナノ粒子の暗視野像である((a)銀ナノ粒子のみ、(b) 銀ナノ粒子 + dG20、(c) 銀ナノ粒子 + dT20(d) 銀ナノ粒子 + poly(U))。
【図6】銀微粒子の蛍光顕微鏡像である。(左) B励起 (励起波長:470-495nm, 蛍光波長:510〜nm)(中央)G励起 (励起波長:530-550nm, 蛍光波長:575〜625nm)(右) U励起 (励起波長:360-370nm, 蛍光波長:420〜460nm)
【図7】dA20から作製した銀微粒子のスペクトルを示す。
【図8】上段はEvidotsTMの蛍光顕微鏡写真(左 UV照射前の蛍光、 右 UV10分照射後)であり、下段は銀ナノ微粒子の蛍光顕微鏡写真(左 UV照射前の蛍光、 右 UV10分照射後)である。
【図9】細胞に取り込まれたdA20から作製した銀微粒子の顕微鏡像を示す。
【図10】dA20から作製した銀微粒子を加えて24時間培養した細胞の顕微鏡像を示す。
【図11】クエン酸を加えて作製した銀微粒子のTEM画像を示す。
【図12】緩衝水溶液に用いた物質の構造式を示す。
【図13】UV照射前後におけるUV-Vis吸収スペクトルの変化を示す。
【図14】様々な溶液中での銀イオンの光還元(条件:dA20 100μM, AgNO3 100μM)を示す。
【図15】銀イオンの光還元におけるpH依存性(条件:dA20 100μM, AgNO3 100μM, (a)UV照射前, (b)UV照射後)を示す。
【図16】末端ビオチン化オリゴヌクレオチドの構造を示す。
【図17】異なる塩基配列を用いたときの吸収スペクトルの変化を示す。
【図18】異なる塩基配列を用いたときのTEM画像を示す。
【図19】異なる鎖長のアデニン配列を用いたときの吸収スペクトルの変化(1)を示す。
【図20】異なる鎖長のアデニン配列を用いたときの吸収スペクトルの変化(2)を示す。
【図21】2本鎖DNAであるλDNAを用いた場合のUV照射前後における吸収スペクトルの変化を示す。
【図22】UV照射前後における吸収スペクトルの変化を示す。
【図23】末端ビオチン化したdA20からなる銀ナノ粒子のTEM画像を示す。
【図24】ビオチンを提示した銀ナノ粒子凝集の模式図を示す。
【図25】ビオチンを提示した銀ナノ粒子の暗視野像を示す。 (a) ビオチンを提示した銀ナノ粒子、(b) ビオチンを提示した銀ナノ粒子 + ストレプトアビジンである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀微粒子と核酸の複合体及びその製造方法に関する。また、本発明は、バイオ分野において用いられる、前記複合体を含む蛍光染色剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料を蛍光染色して特定の組織を識別する方法として、低分子蛍光色素自身や蛍光色素を含有あるいは結合させた高分子微粒子、発光性半導体微粒子(量子ドット)を用いる技術がある(例えば、非特許文献1:NANOTECHNOLOGY 16 (2): R9-R25 FEB 2005)。
しかし、有機色素を用いた場合は励起光による蛍光色素の退色の問題があり、粒径が100nm以下の蛍光性高分子微粒子の場合には蛍光強度が不足する問題点がある。また粒径が数ナノメートルでも発光する半導体微粒子はサイズ的には小さく量子収率が高いことから非常に注目されているが、カドミウムを用いているために細胞に対する毒性が強いことが問題となっている(例えば、非特許文献2:Langmuir, 23, 1974-1980,(2007))。
【0003】
一方、金、銀または銅等の金属ナノ粒子の凝集体表面に分子が吸着すると、吸着分子のラマン散乱断面積が通常のラマン散乱断面積に比べて106〜1014倍程度増強され、強いラマン散乱を示すことがレーザー分光測定で明らかにされている(例えば、非特許文献3:J. Raman Spectrosc. 36, 3421-3427(2005))。
しかし、従来の作製方法で得られる単一の金属ナノ粒子からは強いラマン散乱や発光を示すことはほとんど無く、光学顕微鏡で生体試料を観察する場合の染色剤としては好ましくない。また、従来の金属微粒子の作製方法の場合、還元剤、分散剤などの除去が困難であり、発光性や安全性等の点から、生体試料の染色剤として用いることはできない(例えば、非特許文4:J. Phys. Chem. 86, 3391-3395 (1982);非特許文献5:Mater. Lett. 60, 834-838 (2006))。
【0004】
【非特許文献1】NANOTECHNOLOGY 16 (2): R9-R25 FEB 2005
【非特許文献2】Langmuir, 23, 1974-1980,(2007)
【非特許文献3】J. Raman Spectrosc. 36, 3421-3427(2005)
【非特許文献4】J. Phys. Chem. 86, 3391-3395 (1982)
【非特許文献5】Mater. Lett.60, 834-838 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような状況下、比較的小さい粒径でも必要レベル以上の蛍光を示し、退色の影響が少なく、毒性が低いなどの性質を有する金属微粒子およびその製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の銀微粒子と核酸を複合してなる複合体が上記のような性質を満足すること、また、そのような複合体を容易に製作し得る方法を見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下に示す、銀微粒子と核酸の複合体、その製造方法、前記複合体を含む蛍光染色剤などを提供する。
【0007】
(1)直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸の複合体。
(2)直径が5nm〜50nmである、上記(1)に記載の複合体。
(3)前記銀微粒子が複数の結晶構造を有する、上記(1)又は(2)に記載の複合体。
(4)前記銀微粒子がモザイク状構造を有する、上記(3)に記載の複合体。
(5)前記核酸が、アデニン及び/又はグアニンを含む5〜50個の塩基からなるDNA又はRNAである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の複合体。
(6)前記核酸が、アデニン又はグアニンを含む一本鎖DNA又はRNAである、上記(5)に記載の複合体。
(7)前記核酸が、アデニンの5〜50量体から選択されるものである、上記(6)に記載の複合体。
(8)前記核酸が、グアニンの5〜50量体から選択されるものである、上記(6)に記載の複合体。
(9)前記DNA又はRNAが末端に官能基を有する、上記(5)〜(8)のいずれかに記載の複合体。
(10)前記官能基が、ビオチン又はチオールである、上記(9)に記載の複合体。
(11)前記銀微粒子内部及び/又は外部に前記核酸が存在する状態で該銀粒子と該核酸が複合化されている、上記(1)〜(10)のいずれかに記載の複合体。
(12)表面が前記核酸で覆われている、上記(1)〜(11)のいずれかに記載の複合体。
(13)ラマン散乱を示す、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の複合体。
(14)前記核酸と前記銀微粒子の相互作用による蛍光を示す上記(13)に記載の複合体。
(15)上記(1)〜(14)のいずれかに記載の複合体を含む蛍光染色剤。
(16)銀イオンおよび核酸を含む溶液を用いて、直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸の複合体を製造する方法。
(17)前記銀イオンおよび核酸を含む溶液中で、銀イオンを還元する、上記(16)に記載の方法。
(18)還元剤の添加によって還元を行う、上記(17)に記載の方法。
(19)紫外線照射によって還元を行う、上記(17)に記載の方法。
(20)上記(16)〜(19)のいずれかに記載の方法によって得られる、銀粒子と核酸の複合体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の好ましい態様に係る複合体は、比較的小さい粒径でも必要レベル以上の蛍光を示し、退色の影響が少なく、毒性が低いなどの利点を有する。したがって、そのような複合体は、バイオ分野で用いられる蛍光染色剤として好適である。
また、本発明の複合体の製造方法によれば、上記のような性質を有する銀微粒子と核酸の複合体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1.発明の概要
本発明は、銀微粒子と核酸の複合体及びその製造方法、前記複合体を含む蛍光染色剤などに関する。
通常の蛍光色素や発光微粒子は発光波長を制御するために、分子構造や微粒子サイズなどを制御する必要がある。しかしながら、本発明の銀微粒子と核酸の複合体では励起光に対して波長シフトを起こす発光(ラマン散乱)を利用しているために特別な構造制御を行う必要性はない。また、核酸(例えば、DNA)を分散剤として用いているために生体適合性が高く、細胞内に導入しても細胞死を誘起しにくいことを特徴としている。
本発明の製造方法においては、通常、水溶液中に生体高分子である核酸(DNA、RNAなど)と銀イオンを溶解し、還元剤や光照射によって銀イオンを還元することで、銀微粒子と核酸がDNAと複合化された複合体を作製する。核酸は銀イオンと相互作用しやすく、核酸/銀微粒子複合体を作製する際には分散剤および保護剤として有効な成分となる。同時に銀微粒子や核酸単体では蛍光を示すことはないが、核酸と銀微粒子が複合化することによって強い発光(ラマン散乱と電荷移動蛍光)を示すことによって生体適合性の高い発光性微粒子を提供することができる。
【0010】
2.銀微粒子と核酸の複合体
本発明の第1の態様は、直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸の複合体に関する。
本発明の複合体は、銀微粒子と核酸とが複合されてなる略球状の複合体であり、その直径は5〜500nm、好ましくは5〜50nm、さらに好ましくは、10〜20nmである。
ここで複合体に含まれる銀微粒子は、単一の結晶格子からできているものでもよいし、複数の結晶構造を有しているものでもよい。また、複数の結晶がモザイク状に融合した微粒子であるものも含まれる。ここでモザイク状とは、結晶が規則性を持たずに集合した状態であり、部分的には結晶間に核酸の一部が入り込んだ状態をいう。
【0011】
本発明が提供する銀粒子に複合化される核酸は、DNA、RNA、それらのホスホジエステル誘導体、PNA、2−O−メチルRNA、オリゴヌクレオチド、ペプチド核酸等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
本発明で用いられる核酸としては、DNA又はRNAが好ましく、特に、アデニン及び/又はグアニンを含む2個以上、好ましくは、5〜100個、より好ましくは5〜50個、さらに好ましくは10〜30個の塩基からなるDNA又はRNAが好ましい。ここで用いられるDNAまたはRNAは一本鎖であっても、二本鎖であってもよい。
ここで用いられる核酸はこれに限定されるわけではないが、プリン塩基構造を有するアデニン及び/またはグアニンを多く含むことが好ましい。したがって、ここで用いられる核酸は好ましくは、全構成ヌクレオチド中50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%、さらに好ましくは80%以上(ヌクレオチド数で換算)の構成ヌクレオチドが、アデニン及び/またはグアニンであることが好ましい。
またより均質な複合体を調整する観点からは、全構成ヌクレオチドが単一のヌクレオチドであることが好ましい。したがって、全ヌクレオチドがアデニン、グアニン、チミンおよびシトシンのいずれかから構成される核酸は本発明において好ましく用いることができる。
また、本発明において特に好ましく用いられる核酸は、アデニンまたはグアニンの5〜50量体(好ましくは10〜30量体、より好ましくは10〜20量体)から選択される。
【0012】
また、本発明の複合体を蛍光染色剤として用いる場合には、ターゲットとなるタンパク質を認識する抗体などを結合させることが好ましい。このためには、複合体中の核酸の末端にビオチン、チオールなどの官能基を結合させるとよい。
本発明の複合体は、略球状である。この複合体の真球度は、特に限定されないが、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上である。
また、本発明の好ましい態様に係る複合体は、銀微粒子内部及び/又は外部に核酸が存在する状態で該銀粒子と該核酸が複合化されている。しかし、細胞毒性を低減化するためには、銀微粒子の表面が核酸で覆われていることが望ましい。核酸が銀微粒子の表面を被覆する程度は、細胞毒性を所望のレベルまでに低減させることができる限り特に限定されない。好ましくは、本発明の複合体において、銀微粒子の表面の30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上が核酸で覆われている。
【0013】
3.本発明の複合体の製造方法
次に、本発明の複合体の製造方法について説明する。
本発明は、銀イオンおよび核酸を含む溶液を用いて、上記した銀微粒子と核酸の複合体を製造する方法を提供する。より具体的には、本発明の製造方法においては、DNAやオリゴヌクレオチドなどの核酸を、水または緩衝液に溶解しておき、これを硝酸銀水溶液などの銀イオンを含む水溶液と混合する。この混合水溶液に紫外線等の光を照射することや還元剤を用いて、還元することによって、核酸で被膜され、核酸と複合化した銀微粒子を作製することができる。
【0014】
本発明の銀微粒子の作製に必要な銀イオンを生成する化合物として、塩化銀、硫酸銀、硝酸銀、リン酸銀、亜硫酸銀、亜硝酸銀、亜リン酸銀等を挙げることができる。なかでも
硝酸銀を好ましく使用することができる。これらの水溶液の濃度は10M〜10mMでが望ましいが、コスト等の点を考慮すると10mM〜100mMが好ましい。
【0015】
これらの銀イオンを生成する化合物は、水溶液として使用される。化合物は硫酸水溶液、あるいは塩酸水溶液、トリス-塩酸緩衝溶液(Tris-HCl buffer)が好ましいが、特にトリス-塩酸緩衝溶液が好ましい。
【0016】
銀イオンから銀を析出させるための還元剤としては、種々のものが使用できるが、水溶液中で安定な還元剤例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどの水溶液を用いることが好ましい。還元剤水溶液の濃度は、特に制限されないが、通常100mm〜100mMである。
【0017】
銀を析出させるための光による還元は、紫外線によって行うことができるが、紫外線照射方法としては、254nm から365nm までの領域にある波長を主波長とする紫外線を照射することが好ましい。例えば254nm を主波長とする低圧U V ランプ、365nm を主波長とする高圧U V ランプなどが使用できる。紫外線の照射量、照射時間に特に制限はないが、1時間以内が好ましく、さらに好ましくは10分以内である。
また、窒素ガスレーザー(337nm、10nsパルス)で還元して銀微粒子を得ることも可能である。
【0018】
4.本発明の蛍光染色剤
上記のような構造を有する本発明の複合体は、核酸と銀微粒子の相互作用による蛍光(特に、ラマン散乱)を示す。したがって、このような複合体は、バイオ分野で用いられる蛍光染色剤(あるいは蛍光標識剤)として用いることができる。蛍光染色剤として用いる場合は、前述のように、複合体中の核酸の末端にビオチン、チオールなどの官能基を結合させておき、その官能基とターゲットとなるタンパク質を認識する抗体などを結合させておく。本発明の蛍光染色剤は、公知の手法にしたがって用いることができる(nature biotechnology, 21(1) 41-46 (2003)。
上記で作製した銀微粒子と核酸の複合体は、水に安定に分散・溶解しており、生体適合性を示すために安全に細胞に取り込まれる。光照射を行えば、銀微粒子は細胞に取り込まれても発色する。特に内部に形成された粒子の構造がモザイク状を形成する微粒子は、粒子間に挟まれたホットスポットでラマン散乱が増強され、このラマン散乱のため長時間露光し続けても消光しない。したがって、本発明の蛍光染色剤は例えば細胞染色のイメージング試薬やゲル電気泳動用の染色試薬、タンパク質の蛍光定量法に用いる試薬等として利用可能である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を参照して本発明の詳細を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
実施例1:dA20(デオキシアデニン20量体)を用いた微粒子作製
ゲルろ過精製したオリゴヌクレオチドdA20(デオキシアデニン20量体)をユニット換算(塩基数濃度)で10mMとなるようにTris-HCl緩衝水溶液(10mM Tris-HCl (pH7.8 ,20℃))を用いて調製した。硝酸銀水溶液AgNO3 (和光純薬)を使用して10mMになるように調製した。
Nucleobase(塩基):Ag+イオン=1:1(モル比)でdA20と硝酸銀水溶液を混合し、最終濃度が100μMとなるように10mM Tris-HCl緩衝水溶液で希釈した。この混合水溶液1mlを4mlのガラス瓶に入れた。瓶の上部からUV(紫外線)スポット光源([LIGHTNINGCURETM L8868, HAMAMATSU],300μW/cm2 ,360nm)を用いて紫外線を5分間照射した。
【0021】
実施例2:微粒子の構造評価
実施例1で示されるUV照射後に、溶液のUV-Vis吸収スペクトル[UV-1650PC, SHIMADZU]を測定した。
銀イオンとdA20を含む緩衝溶液中に紫外線を照射した結果、410nm付近に新たな吸収が観測された(図1)。これは既に知られている銀ナノ微粒子のプラズモン吸収と一致することから、銀イオンとdA20を含む緩衝溶液中から銀ナノ微粒子の形成が確認された。
また、透過型電子顕微鏡(TEM)[ HD-2000,HITACHI ]による形状観察を行った。(図2)その結果、粒径20nm程度のナノ粒子が形成されることが明らかとなった。。
さらにEDAX(エネルギー分散型蛍光X線分光装置)により微粒子の元素分析を行った結果、Ag3d由来のピークが観察されさた。このことから作製された微粒子が銀ナノ微粒子であることが明らかとなった。
【0022】
実施例3:微粒子の内部構造
実施例1で形成した銀ナノ粒子の内部構造及び表面状態について、より詳細に観察を行った電子顕微鏡写真を図3に示す。図3(a)の銀ナノ粒子には複数の銀の格子像が確認できた。さらに図3(a)の銀ナノ粒子から(c)のような回折像が得られた。このことから微粒子内部に銀結晶の存在が確認された。通常、クエン酸還元法などの通常の方法にて作製した銀ナノ粒子では、粒子全体の結晶格子が一定方向に揃っているはずであるが、本方法で作製した銀ナノ粒子は格子の向きが場所により異なっている。すなわち、今回作製した微粒子は1つの結晶からなる粒子ではなく、粒子内部には多数の銀ナノ結晶が存在しており、それらが集合して1つの粒子を形成したモザイク状の粒子である。
さらに粒子表面を見ると厚さ3-4nmの保護層が存在している(図3(b))。このことからオリゴヌクレオチドが銀ナノ粒子表面を被覆していると考えられる。
また、写真での濃淡部分は電子照射で生じる帯電よる揺らぎが観測されることから、導電性でない成分の存在が明らかとなった。つまり、微粒子内部に非導電性成分であるdA20が含有されていることが示唆された。
以上の結果から、作製した微粒子がdA20と複数の銀ナノ結晶が複合化した微粒子であることが示唆された。
【0023】
実施例4:微粒子の表面状態の測定
実施例1で形成した、微粒子表面電荷状態をレーザーゼータ電位計[ELS-8000,大塚電子]を使用して測定した。その結果、ゼータ電位は-24.77mVであったことから、表面は負に荷電していることが分かった(図4)。これにより粒子同士の静電反発を引き起こすことで微粒子が凝集せずに分散状態を保つ。また、負電荷はdA20のリン酸基によると考えられる。
銀ナノ粒子表面にdA20が存在するかどうか調べるため、以下のような実験を行った。dA20を用いて作製した銀ナノ粒子分散溶液200μl(100μM)に、アデニンと相補的な塩基を持つdT20またはpoly(U)、非相補的な塩基であるdG20を200μl(100μM)を加え5分間室温で放置した。それぞれの溶液を洗浄したガラス基板上に10μl滴下し、窒素ガス雰囲気下で乾燥させた。そのサンプルを蛍光顕微鏡[BX51, U-LH100HGAPO, Olympus]、顕微鏡カメラ[DP71, Olympus]により観察した。対物レンズはUplanAPO 100x/1.35 oil Iris、暗視野照明により観察を行った。
作製した銀ナノ粒子を観察したところ(図5(a))、個々の銀ナノ粒子による暗視野像が観察され、凝集体は観察されなかった。次に、銀ナノ粒子にアデニンとは水素結合を形成しないグアニンの20量体であるdG20を加えた場合も同様の分散状態であった(図5(b))。一方、アデニンと相補的な塩基であるチミンの連続配列であるdT20、poly(U)を加えた場合には、図5(c),(d)のように多数の凝集体が観察された。このことから、銀ナノ粒子表面にdA20の核酸塩基(アデニン)が突出しており、チミンとアデニン間での水素結合が形成された結果、微粒子が凝集したためと考えられる。このことから銀ナノ粒子最表面にはdA20のリン酸基だけではなく、核酸塩基も存在していることが明らかとなった。
【0024】
実施例5:微粒子の発光特性評価
実施例1で作製した銀ナノ微粒子の発光特性を調べるために以下のような実験を行った。dA20を用いて作製した銀ナノ粒子分散溶液200μl(100μM)を洗浄したガラス基板上に10μl滴下し、窒素ガス雰囲気下で乾燥させた。そのサンプルを蛍光顕微鏡[BX51, U-LH100HGAPO, Olympus]、顕微鏡カメラ[DP71, Olympus]によりB励起、G励起、U励起で観察した。(対物レンズはUplanAPO 100x/1.35 oil Iris)その結果を図6に示すが、どの励起光波長を用いた場合においても微粒子からの発光が観察された。
このことから、今回作製した微粒子が幅広い励起波長に対応した発光を示すことが明らかとなった。
【0025】
実施例6:微粒子の発光起源の同定
実施例1で作製した銀微粒子は、G励起の波長帯にはほとんど吸収が無いことがUV吸収スペクトルから判明している。そのため発光の起源を同定するために、微粒子からの発光スペクトルの顕微分光測定を行った。サンプルはガラス基板状に固定化した状態で測定を行った。励起光源としてアルゴンイオンレーザー(発振波長514nm)を用いた。レーザーを顕微鏡に導入し、対物レンズで集光してサンプルを励起した。励起光レーザーの散乱光をフィルターでカットし、サンプルからの発光を光ファイバーで集光後、分光器に導入した。分光された光をCCDカメラで検出し、スペクトル(図7)を得た。
このスペクトルには530nm〜570nmのブロードな発光と534nm(ラマンシフト730cm-1)、552nm(ラマンシフト1320cm-1)の鋭いピークが観察された。この鋭いピークはアデニンのラマン散乱に帰属される。
このことから微粒子からの発光はアデニンと銀微粒子が相互作用した結果の蛍光とラマン散乱であることが明らかとなった。ラマン散乱は励起光からシフトした波長で観測されることから、あらゆる励起波長で観察される。
【0026】
実施例7:微粒子の退色性についての評価
次に実施例1で作製した銀微粒子の退色性について検討を行った。
市販されている蛍光性半導体微粒子(EviDotsTMCdSe/ZnS core-shell型ナノ微粒子)
との比較を行った。EviDotsTMを銀微粒子と同様にガラス基板状に滴下したサンプルを用意した。EviDotsTM,銀微粒子サンプルに顕微鏡下でB励起(470-495nm)を10分間照射した。その後、それぞれの励起光を用いて発光強度について調べた。その結果、EviDotsTMはUV照射後に著しく蛍光強度が減衰したのに対し、銀微粒子は全く蛍光強度の減衰が観察されなかった。これは銀ナノ微粒子の発光がラマン散乱に起因する成分を含んでいるために退色が起こりにくく、蛍光性半導体微粒子よりも退色しにくいと考えられる。
【0027】
実施例8:細胞への毒性試験
次に実施例1で作製した銀微粒子の細胞毒性試験について示す。
作製した微粒子をHeLa細胞に滴下し、無血清培地中、 5% CO2 , 37℃ の条件で6時間培養を行った。その後、PBSで溶液を洗浄して不要な微粒子を取り除き、共焦点レーザー走査型顕微鏡(FV300、オリンパス)で観察を行った。
その結果を図9に示す。伸展したHeLa細胞内に緑色の発光が観察された。このことから作製した銀微粒子は細胞内へ取り込まれ、細胞内でも発光することが確認された。
また、銀微粒子溶液を滴下後、24時間培養を行った。
24時間培養後、細胞を観察したところ細胞は分裂し、増殖していることが観察された(図10)。このことから、銀微粒子はdA20という生体高分子で保護されているために細胞毒性がほとんど無いことが明らかとなった。
【0028】
比較実施例1:クエン酸を加えて作製した銀微粒子
Silver nitrate 36mgを200mlの超純水に溶解し、撹拌しながら沸騰させた。1重量%に調製したSodium citrate水溶液を4ml加え、沸騰させながら10分間撹拌して銀ナノ粒子を作製した。このようにして作製された銀ナノ粒子についての、電子顕微鏡写真(TEM)を図11に示す。図11に示されるようにクエン酸還元によって作製した場合には粒形、形状ともに不均一であった。また実施例1で作製された銀ナノ粒子のような内部構造は見られなかった。
【0029】
実施例9:銀ナノ粒子形成における溶液の効果
(1)試薬及び溶液の調製
DNAとしてアデニン20量体であるオリゴヌクレオチドdA20を用意した。また、銀イオン水溶液はSilver nitrate(AgNO3)[和光純薬]を使用して10 mMになるように超純水で調製した。
緩衝溶液として10mM Tris-HCl水溶液pH7.8,20℃、pH7.0、pH9.0,20℃を用意した。また、その他の溶液として10mM Bis-Tris緩衝水溶液(Bis(2-hydroxoyethyl)iminotirs-(hydroxymethyl)methane, pH 5.8, 20℃)、10mMリン酸緩衝水溶液(Sodium dihydrogenphosphate dehydrate, Sodium phosphate dibasic basic dodecahydrate, pH 6.8, 20℃)、10mM 2-アミノエタノール(AE)水溶液(2-Aminoethanol,pH 8.1, 20℃)、10mM 2-ジメチルアミノエタノール(DMAE)水溶液(N,N-Dimethylethanolamine, pH 8.0, 20℃)、トリメチロールエタン(TME)水溶液(Trimethylol ethane, pH 5.8, 20℃)を用意した。Bis-Tris緩衝水溶液、AE水溶液、DMAE水溶液は塩酸を用いてpHを調製した。Tris, Bis-Tris, AE, DMAE, TMEの構造を図12に示す。
【0030】
(2)UV照射実験
アデニン:Ag+イオン=1:1(モル比)を最終濃度100μMとなるように超純水、あるいは各種緩衝水溶液で希釈した混合水溶液を作製し、1mlを4mlのガラス瓶に入れた。それぞれ瓶の上部からUVスポット光源([LIGHTNINGCURETM L8868, HAMAMATSU],300μW/cm2 ,360nm)を用いて紫外線を5分間照射した。
【0031】
(3)様々な溶液中における光還元
超純水中で光還元を行った結果を図13 (a), (b)に、10mM Tris-HCl緩衝水溶液で光還元を行った結果を図13(c), (d)に示す。図13 (a),(c)はAgNO3のみ、図13(b),(d)はAgNO3とdA20を添加した溶液である。図13(a)、(b)の溶液は紫外線照射後にも吸収スペクトルの変化は見られないため、超純水中ではオリゴヌクレオチドであるdA20存在下においても銀ナノ粒子は形成しないことが明らかとなった。
それに対し、Tris-HCl緩衝水溶液中で光還元を行った場合には、dA20の有無にかかわらず410nm付近にプラズモン吸収由来のピークが観測されたので、銀イオンが還元し、銀ナノ粒子が形成していると考えられる。
次にTris-HCl緩衝水溶液中において銀イオンの光還元が起こる理由として、Trisの構造に含まれるアミンが光照射により還元剤として作用したことが考えられる。そこで図12に示すTrisと似た構造をもつ様々な分子を用いて光還元が進行するかどうか検討した。
結果を図14に示す。AE, DMAE, TMEは緩衝能を持たないため、ジアンミン銀(I)錯体が形成しないpHに調製してから実験を行った。アミンを有する2-アミノエタノール(AE)、2-ジメチルアミノエタノール(DMAE)中で光還元を行った場合(図14(a), (b))、それぞれ1級アミン、3級アミンの違いに関わらず銀ナノ粒子が形成した。それに対し、アミンを含まないトリメチロールエタン(TME)中(図14(c))、無機緩衝水溶液であるリン酸緩衝水溶液中では(図14(d))、UV照射前後において吸収スペクトルの変化が見られないことから、銀イオンの光還元は進行していないと考えられる。このことから光還元のメカニズムとして、UV光を照射することで溶液中に含まれるアミンが還元剤として働き、銀イオンを還元できることが明らかとなった。
【0032】
(4)光還元におけるpH依存性
次に溶液のpHの影響について検討した。Tris-HCl緩衝水溶液のpHを変化させた結果を図15に示す。pH5.8の条件ではTris-HClの緩衝能を超えているため、Bis-Trisを代用した。Trisのようなアミンを含む化合物(図12参照)が存在する場合、銀イオンはpHにより3つの状態をとる。
1. Ag+
2. Ag2O 2Ag+ + 2OH- ⇔ Ag2O + 2H2O
3. Ag(NH3)+ Ag2O + 4NH3(aq) + H2O ⇔ 2[Ag(NH3)2]+ + 2OH-
図15(b)から、pH5.8、pH7.0の条件ではpH7.8の場合と同様に、410nm付近の強いプラズモン吸収が観測された。また、pH9.0の溶液中においてもブロードではあるが410nmのプラズモン吸収が見られ、銀ナノ粒子の形成が確認された。
このことから、発光性銀ナノ微粒子作製にはアミンを有する水溶液、緩衝溶液が必要であり、pHには依存しないことが明らかとなった。
【0033】
実施例10:各種核酸塩基での微粒子作製
(1)試薬及び溶液の調製
核酸を含む分子として、オリゴヌクレオチド(dA5, dT5, dA20, dC20, dG20, dT20, dA50, dT50)は、すべてゲルろ過して精製したものを、3'末端ビオチン化オリゴヌクレオチド(3'-biotin-dA20)(図16)はHPLCで精製したものを用意した。また、モノヌクレオチド(AMP, CMP, GMP, TMP)、ポリヌクレオチド(Poly(A), Poly(C), Poly(G), Poly(U))、2本鎖DNA(λDNA)、環状DNA(M13mp8 RFIDNA)は精製せずに用いた。これら
はすべて塩基濃度で10mMとなるようにTris-HCl緩衝水溶液(10mM Tris-HCl (pH7.8, 20℃))を用いて調製した。
銀イオン水溶液はSilver nitrateを使用して10mMになるように超純水で調製した。
【0034】
(2)金属ナノ粒子の作製
DNAと硝酸銀水溶液を塩基数:Ag+イオン=1:1(モル比)、最終濃度100μMとなるように10mM Tris-HCl緩衝水溶液で希釈した混合水溶液を各DNAについて作製した。
この溶液1mlを4mlのガラス瓶に入れた。それぞれ瓶の上部からUVスポット光源([LIGHTNINGCURETM L8868, HAMAMATSU],300μW/cm2 ,360nm)を用いて紫外線を5分間照射した。
【0035】
(3)塩基配列の差異による効果
dA20. dC20, dG20, dT20の塩基配列のオリゴヌクレオチドを用いた場合のUV-Vis吸収スペクトル結果を図17に示す。各スペクトルを比較すると、dA20, dG20を用いた時、410nm近傍の強いプラズモン吸収が観測された。一方、dC20, dT20においても弱いながらプラズモン吸収が観察された。これらのサンプルをTEMにより観察したところ、dA20・dG20を用いた場合には平均粒径20nm程度の比較的均一な銀ナノ粒子が、dC20・dT20では50nm以上の粒子が多数見られ、それらが凝集していた(図18)。
このことから、プリン塩基をもつDNAを用いた場合に、小さいナノ微粒子が生成することが明らかとなった。
【0036】
(4)DNAの鎖長の差異による効果
オリゴヌクレオチドの鎖長が銀ナノ粒子形成にどのような影響を及ぼすかを調べるため、鎖長の異なるアデニンの連続配列(AMP, dA5, dA20, dA50, poly(A))を用意した。AMPは単量体、poly(A)は数千塩基程度の不揃いな長さの高分子である。UV-Vis吸収スペクトル測定結果を図19に示す。5つのオリゴヌクレオチドのうち単量体であるAMPを用いた場合のみ、UV光照射後にも銀ナノ粒子形成を示すプラズモン吸収が観測されなかった。単量体では1分子DNAが銀クラスターを形成・集合させるといった役割を果たすことができないためだと考えられる。dA5・dA20・dA50に関しては、銀ナノ粒子の粒径増大に伴うプラズモン吸収のシフトは見られなかったが、Poly(A)を用いた場合には500-700nmのベースラインが上昇している(図20)ことから、様々な粒径の銀ナノ粒子が形成していることが明らかとなった。これはpoly(A)の鎖長が不揃いであるために、銀ナノ粒子も様々な粒径が生成したと考えられる。
以上の結果から、2量体以上の鎖長を持つことで微粒子の作製が可能であることが示された。また、鎖長を変化させることで形成される微粒子サイズを変化させることが可能である。
【0037】
(5)二本鎖DNAでの微粒子作製
ここまでの実験ではすべて1本鎖のオリゴヌクレオチドを使用してきた。そこで2本鎖の長鎖DNAであるλDNA (48,502bp, 16.5μm)、環状DNAであるM13mp8 RFIDNA (7,228
bp)を使用し、同様の実験を行った。λDNAを用いた場合のUV照射前後における吸収スペクトルの変化を図21に示す。これまでの実験方法と同様に5分間UV光を照射したところ、405nmを中心とするプラズモン吸収が観測されたことから、λDNAを用いた場合にも銀ナノ微粒子の作製が確認された。また、環状DNAを用いた場合には、1本鎖DNAにより作製した場合と同様、ナノ粒子が生成した。環状DNAの場合には平均粒径は約40nmであった。
このように1本鎖DNAだけでなく、直鎖2本鎖DNA、あるいは環状DNAにおいてもナノ粒子の形成が可能である。
【0038】
(6)ビオチンを提示した銀ナノ粒子の作製
作製した銀微粒子にDNAの核酸塩基以外の分子認識能を持たせるために、機能性の官能基や色素分子を付加したDNAでの微粒子作製を検討した。
末端をビオチン化したdA20を用いて銀ナノ粒子を他と同様の条件で作製した。UV照射前後における吸収スペクトルの変化および形成した粒子のTEM画像を図22、図23に示す。末端を修飾していないdA20を用いて作製した場合と同様、UV照射後には銀ナノ粒子形成を示すプラズモン吸収が見られ、TEM画像より平均粒径20nm程度の銀ナノ粒子が形成していた。DNA末端を修飾しても同様の銀ナノ粒子が形成することが明らかとなった。
次に微粒子表面にビオチンが存在するかどうか調べるため、ストレプトアビジンを加えて微粒子が凝集するか確認した(図24)。作製した銀ナノ粒子分散溶液に200μl(100μM)に0.2mg/mlに調製したストレプトアビジン溶液(ストレプトアビジンはStreptomyces avidinii由来のStreptavidin, TypeII[和光純薬]を使用し、TE buffer (1
0mM Tris-HCl, 1mM EDTA , pH 7.8 ,20℃)により0.2mg/mlに調製した)を20μl 混合して4℃で30分間放置した。溶液を洗浄したガラス基板上に10μl滴下し、窒素ガス雰囲気下で乾燥させた。その後、顕微鏡下の暗視野照明により観察を行った。
結果を図23に示す。dA20で被覆した銀ナノ粒子の場合と同様、末端ビオチン化したdA20で作製した銀ナノ粒子のみでは分散している様子が観察された(図25(a))。この銀ナノ粒子にストレプトアビジンを加えると、図24に示した模式図通り、銀ナノ粒子同士がストレプトアビジンにより架橋され、凝集体を形成していることが分かった(図25(b))。このことから、銀ナノ粒子表面にはビオチンが存在していることが明らかとなった。本実験では、ビオチンーアビジン結合を利用したが、オリゴヌクレオチドの末端に様々な官能基を修飾することで、分子認識能を有する銀ナノ粒子が非常に簡便に作製できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のように、本発明の銀微粒子と核酸の複合体は、通常、核酸で被覆されているため、細胞に取り込まれ易い。また、本発明の複合体は、細胞毒性も低く、細胞内で、長時間安定した発光を呈するので、例えば細胞染色のイメージング試薬、ゲル電気泳動用の染色試薬、タンパク質の蛍光定量法に用いる試薬等として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】溶液中のUV照射前後におけるUV-Vis吸収スペクトルの変化を示す。
【図2】金属微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】dA20で被膜された銀ナノ粒子の高解像度TEM画像(a,b)および回折像(c)である。
【図4】dA20で被覆した銀微粒子のゼータ電位測定結果を示す。
【図5】dA20で作製した銀ナノ粒子の暗視野像である((a)銀ナノ粒子のみ、(b) 銀ナノ粒子 + dG20、(c) 銀ナノ粒子 + dT20(d) 銀ナノ粒子 + poly(U))。
【図6】銀微粒子の蛍光顕微鏡像である。(左) B励起 (励起波長:470-495nm, 蛍光波長:510〜nm)(中央)G励起 (励起波長:530-550nm, 蛍光波長:575〜625nm)(右) U励起 (励起波長:360-370nm, 蛍光波長:420〜460nm)
【図7】dA20から作製した銀微粒子のスペクトルを示す。
【図8】上段はEvidotsTMの蛍光顕微鏡写真(左 UV照射前の蛍光、 右 UV10分照射後)であり、下段は銀ナノ微粒子の蛍光顕微鏡写真(左 UV照射前の蛍光、 右 UV10分照射後)である。
【図9】細胞に取り込まれたdA20から作製した銀微粒子の顕微鏡像を示す。
【図10】dA20から作製した銀微粒子を加えて24時間培養した細胞の顕微鏡像を示す。
【図11】クエン酸を加えて作製した銀微粒子のTEM画像を示す。
【図12】緩衝水溶液に用いた物質の構造式を示す。
【図13】UV照射前後におけるUV-Vis吸収スペクトルの変化を示す。
【図14】様々な溶液中での銀イオンの光還元(条件:dA20 100μM, AgNO3 100μM)を示す。
【図15】銀イオンの光還元におけるpH依存性(条件:dA20 100μM, AgNO3 100μM, (a)UV照射前, (b)UV照射後)を示す。
【図16】末端ビオチン化オリゴヌクレオチドの構造を示す。
【図17】異なる塩基配列を用いたときの吸収スペクトルの変化を示す。
【図18】異なる塩基配列を用いたときのTEM画像を示す。
【図19】異なる鎖長のアデニン配列を用いたときの吸収スペクトルの変化(1)を示す。
【図20】異なる鎖長のアデニン配列を用いたときの吸収スペクトルの変化(2)を示す。
【図21】2本鎖DNAであるλDNAを用いた場合のUV照射前後における吸収スペクトルの変化を示す。
【図22】UV照射前後における吸収スペクトルの変化を示す。
【図23】末端ビオチン化したdA20からなる銀ナノ粒子のTEM画像を示す。
【図24】ビオチンを提示した銀ナノ粒子凝集の模式図を示す。
【図25】ビオチンを提示した銀ナノ粒子の暗視野像を示す。 (a) ビオチンを提示した銀ナノ粒子、(b) ビオチンを提示した銀ナノ粒子 + ストレプトアビジンである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸の複合体。
【請求項2】
直径が5nm〜50nmである、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記銀微粒子が複数の結晶構造を有する、請求項1又は2記載の複合体。
【請求項4】
前記銀微粒子がモザイク状構造を有する、請求項3記載の複合体。
【請求項5】
前記核酸が、アデニン及び/又はグアニンを含む5〜50個の塩基からなるDNA又はRNAである、請求項1〜4のいずれかに記載の複合体。
【請求項6】
前記核酸が、アデニン又はグアニンを含む一本鎖DNA又はRNAである、請求項5記載の複合体。
【請求項7】
前記核酸が、アデニンの5〜50量体から選択されるものである、請求項6記載の複合体。
【請求項8】
前記核酸が、グアニンの5〜50量体から選択されるものである、請求項6記載の複合体。
【請求項9】
前記DNA又はRNAが末端に官能基を有する、請求項5〜8のいずれかに記載の複合体。
【請求項10】
前記官能基が、ビオチン又はチオールである、請求項9記載の複合体。
【請求項11】
前記銀微粒子内部及び/又は外部に前記核酸が存在する状態で該銀粒子と該核酸が複合化されている、請求項1〜10のいずれかに記載の複合体。
【請求項12】
表面が前記核酸で覆われている、請求項1〜11のいずれかに記載の複合体。
【請求項13】
ラマン散乱を示す、請求項1〜12のいずれかに記載の複合体。
【請求項14】
前記核酸と前記銀微粒子の相互作用による蛍光を示す請求項13記載の複合体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかの複合体を含む蛍光染色剤。
【請求項16】
銀イオンおよび核酸を含む溶液を用いて、直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸の複合体を製造する方法。
【請求項17】
前記銀イオンおよび核酸を含む溶液中で、銀イオンを還元する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
還元剤の添加によって還元を行う、請求項17記載の方法。
【請求項19】
紫外線照射によって還元を行う、請求項17記載の方法。
【請求項20】
請求項16〜19のいずれかに記載の方法によって得られる、銀粒子と核酸の複合体。
【請求項1】
直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸の複合体。
【請求項2】
直径が5nm〜50nmである、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記銀微粒子が複数の結晶構造を有する、請求項1又は2記載の複合体。
【請求項4】
前記銀微粒子がモザイク状構造を有する、請求項3記載の複合体。
【請求項5】
前記核酸が、アデニン及び/又はグアニンを含む5〜50個の塩基からなるDNA又はRNAである、請求項1〜4のいずれかに記載の複合体。
【請求項6】
前記核酸が、アデニン又はグアニンを含む一本鎖DNA又はRNAである、請求項5記載の複合体。
【請求項7】
前記核酸が、アデニンの5〜50量体から選択されるものである、請求項6記載の複合体。
【請求項8】
前記核酸が、グアニンの5〜50量体から選択されるものである、請求項6記載の複合体。
【請求項9】
前記DNA又はRNAが末端に官能基を有する、請求項5〜8のいずれかに記載の複合体。
【請求項10】
前記官能基が、ビオチン又はチオールである、請求項9記載の複合体。
【請求項11】
前記銀微粒子内部及び/又は外部に前記核酸が存在する状態で該銀粒子と該核酸が複合化されている、請求項1〜10のいずれかに記載の複合体。
【請求項12】
表面が前記核酸で覆われている、請求項1〜11のいずれかに記載の複合体。
【請求項13】
ラマン散乱を示す、請求項1〜12のいずれかに記載の複合体。
【請求項14】
前記核酸と前記銀微粒子の相互作用による蛍光を示す請求項13記載の複合体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかの複合体を含む蛍光染色剤。
【請求項16】
銀イオンおよび核酸を含む溶液を用いて、直径が5nm〜500nmである銀微粒子と核酸の複合体を製造する方法。
【請求項17】
前記銀イオンおよび核酸を含む溶液中で、銀イオンを還元する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
還元剤の添加によって還元を行う、請求項17記載の方法。
【請求項19】
紫外線照射によって還元を行う、請求項17記載の方法。
【請求項20】
請求項16〜19のいずれかに記載の方法によって得られる、銀粒子と核酸の複合体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
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【図9】
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【図11】
【図12】
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【図15】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2008−224274(P2008−224274A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59748(P2007−59748)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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