説明

銀粉、銀粉の製造方法、樹脂硬化型導電性ペーストおよび導電膜の形成方法

【課題】従来の方法によって得られる樹脂硬化型導電性ペーストを用いて形成される導電膜より、導電性の優れた導電膜の形成方法、そのような導電膜を得るための樹脂硬化型導電性ペースト、該樹脂硬化型導電性ペーストに配合される粒状銀粉およびその製造方法を得る。
【解決手段】多価カルボン酸を材料銀粉に対して0.01質量%〜0.5質量%被覆させた、粒状銀粉が提供される。該粒状銀粉は樹脂硬化型導電性ペーストに配合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体部品等の電子部品や太陽電池の電極および回路形成に用いられる導電性ペーストに配合される銀粉およびその銀粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば半導体部品等の電子部品や太陽電池の電極および回路形成には銀粉を有機成分中に分散させて形成される導電性ペーストが使用されている。そして、特に樹脂硬化型導電性ペーストにおいては、樹脂の体積収縮により銀粉同士が接触して導通が取られる。従って、樹脂硬化型導電性ペーストに配合される銀粉としては、接触面積が大きいフレーク状(鱗片状)銀粉が使用されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
一般的に、フレーク状銀粉は球状または不定形状の銀粉をフレーク状にすることで得られる。球状または不定形状の銀粉を製造する方法としては、例えばアトマイズ法や湿式還元法等が知られている。そして、球状または不定形状の銀粉をフレーク状にする方法としては、例えばアトライタを用いた湿式粉砕法や、ボールミル(例えば特許文献2参照)を用いる方法、あるいは振動ミル等を用いた乾式粉砕法などが知られている。
【0004】
また、樹脂硬化型導電性ペーストの用途としては、上述したように電子部品や太陽電池の電極および回路形成が挙げられる。そして、近年、電子部品の小型化・高性能化が進み、これに伴い実装に際しての高密度化、高信頼性が要求されるようになり、樹脂硬化型導電性ペーストを用いて形成する電極や回路の導電性向上が強く求められている。太陽電池の電極形成においても、電極の導電性が変換効率の向上につながることから、樹脂硬化型導電性ペーストを用いて形成する電極の導電性向上が求められている。
【0005】
上記フレーク状銀粉が配合された樹脂硬化型導電性ペーストを塗布・加熱(樹脂硬化)させることによって得られる導電膜は、球状銀粉のみを用いて得られる導電膜より抵抗が低くなるが、近年求められている導電性向上に寄与するほどの効果は得られない。そこで、導電膜の抵抗をさらに低減させる方法として、樹脂硬化型導電性ペーストに用いる銀粉として、フレーク状銀粉と球状銀粉の混合粉を用いる方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−150837号公報
【特許文献2】特開2003−55701号公報
【特許文献3】特開昭62−145602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記導電性の向上、即ち導電膜の抵抗の低減を実現させるため、本発明の目的は、従来の方法によって得られる樹脂硬化型導電性ペーストを用いて形成される導電膜より、導電性の優れた導電膜の形成方法、そのような導電膜を得るための樹脂硬化型導電性ペースト、該樹脂硬化型導電性ペーストに配合される粒状銀粉およびその製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑み、本発明によれば、多価カルボン酸を材料銀粉に対して0.01質量%〜0.5質量%被覆させた、粒状銀粉が提供される。該粒状銀粉は例えば樹脂硬化型導電性ペーストに配合される。前記多価カルボン酸は溶媒に溶解された状態で材料銀粉に添加され、その溶解濃度は1質量%〜20質量%であっても良い。また、前記多価カルボン酸を溶解させる溶媒はアルコール、アセトンまたはエーテルであっても良い。また、前記多価カルボン酸はアジピン酸、コハク酸、ジグリコール酸、グルタル酸またはマレイン酸であっても良い。また、前記材料銀粉は、比表面積が6m/g以下であり、平均粒径が0.1μm〜50μmであっても良い。
【0009】
また、別な観点からの本発明によれば、粒状銀粉の製造方法であって、溶媒に溶解させた状態で多価カルボン酸を材料銀粉に対して0.01質量%〜0.5質量%添加させ、多価カルボン酸を添加させた材料銀粉を粉砕・解砕機で粉砕・解砕しながら混合させて前記多価カルボン酸を前記材料銀粉に被覆させ、前記溶媒を除去して粒状銀粉を得る、粒状銀粉の製造方法が提供される。該粒状銀粉の製造方法は例えば樹脂硬化型導電性ペーストに配合される粒状銀粉を製造するものである。前記材料銀粉に添加させる多価カルボン酸の溶液濃度は1質量%〜20質量%であっても良い。また、前記多価カルボン酸を溶解させる溶媒はアルコール、アセトンまたはエーテルであっても良い。
【0010】
さらに別の観点からの本発明によれば、上記記載の粒状銀粉を含有する樹脂硬化型導電性ペーストが提供され、また、この樹脂硬化型導電性ペーストを加熱させて導電膜を得る、導電膜の形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の方法によって得られる樹脂硬化型導電性ペーストを用いて形成される導電膜より、導電性の優れた導電膜の形成方法、そのような導電膜を得るための樹脂硬化型導電性ペースト、該樹脂硬化型導電性ペーストに配合される粒状銀粉およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】表1の測定結果を示すグラフである。
【図2】表1の測定結果を示すグラフである。
【図3】表1の測定結果のうち、カルボン酸粒状銀粉の平均粒径と得られた導電膜の体積抵抗との関係を示すグラフである。
【図4】アジピン酸の添加量と分析値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の一例について説明する。本発明者らは、多価カルボン酸を材料銀粉に対して0.01質量%〜0.5質量%添加させたカルボン酸粒状銀粉、フレーク状銀粉、樹脂および必要に応じて溶剤、硬化剤を混合することによって導電性の高い樹脂硬化型導電性ペーストが得られ、さらにこの樹脂硬化型導電性ペーストを塗布・加熱(樹脂硬化)することにより導電性の高い導電膜を得ることが可能となることを知見した。以下には、各種銀粉、樹脂硬化型導電性ペーストおよび導電膜を得る詳細な過程について説明する。
【0014】
(材料銀粉)
本実施の形態では、先ず、多価カルボン酸を添加させるための材料銀粉が必要となる。本発明において用いられる材料銀粉は、公知技術である湿式還元法によって得られる。ここで、材料銀粉としては、形状が粒状であり、比表面積が6m/g以下であり、平均粒径が0.1μm〜50μmであるものを用いることが好ましい。これは以下の理由からである。即ち、比表面積が6m/gを超えるものを用いると作製後の樹脂硬化型導電性ペーストの粘度が高すぎ、印刷性が悪化する等の不具合が生じる恐れがある。また、平均粒径が0.1μm未満のものを用いた場合にも作製後の樹脂硬化型導電性ペーストの粘度が高すぎ、印刷性が悪化する等の不具合が生じる恐れがあり、平均粒径が50μm超のものを用いた場合、作製後の樹脂硬化型導電性ペーストをスクリーン印刷に用いる場合に銀粉の目詰まりが発生して生産性が低下する恐れがあるといった問題点がある。
【0015】
なお、本明細書中では、銀粉の形状について、下記のように分類し、表現した。
「フレーク状銀粉」、「フレーク状」とは、アスペクト比が3以上である銀粉とその形状をいう。ここで、前記アスペクト比は、(平均長径L/平均厚みT)により求める。「平均長径L」と「平均厚みT」は、走査型電子顕微鏡で測定した粒子100個の平均長径と平均厚みを示す。また、「球状銀粉」、「球状」とは、SEMで銀粉を観察した場合、粒子形状が球形または略球形であり、粒子100個の球状度(球状度:SEM写真で粒子を観察した時の、(最も長径部の径)/(最も短径部の径))が1.5以下である銀粉とその形状をいう。また、「不定形銀粉」、「不定形状」とは、SEMで観察した場合、粒子形状が、前記球状銀粉(球状)、フレーク状銀粉(フレーク状)に分類されない銀粉(形状)のことをいう。また、「粒状銀粉」「粒状」とは、上記のうち、球状銀粉、不定形銀粉、およびこれらを混合した銀粉、銀粉の粒子形状を指す。
【0016】
(カルボン酸の添加)
次いで、上記材料銀粉にカルボキシル基を2個以上含む多価カルボン酸を添加する。カルボキシル基を2個以上含む多価カルボン酸としては、例えばアジピン酸、コハク酸、ジグリコール酸、グルタル酸およびマレイン酸が例示される。また、添加する多価カルボン酸の量は材料銀粉の質量に対して0.01質量%〜0.5質量%が好ましく、さらには0.02質量%〜0.4質量%が好ましい。これは、多価カルボン酸の添加量が材料銀粉の質量に対して0.01質量%〜0.5質量%の範囲外の量である場合、作製される導電膜の導電性向上効果が十分に得られないからである。
【0017】
多価カルボン酸を材料銀粉に添加する際、本実施の形態では、多価カルボン酸は溶媒に溶解された状態で材料銀粉に添加される。この時溶解させた多価カルボン酸の濃度は1質量%〜20質量%が好ましい。これは、多価カルボン酸の溶解濃度が1質量%未満の場合、溶液の量が多くなり溶媒除去のための乾燥時に溶液が偏在して、多価カルボン酸が均一に材料銀粉に被覆できない恐れがあり、また、溶解濃度が20質量%超の場合には、溶液の量が過少となり、多価カルボン酸が均一に材料銀粉に被覆できない恐れがあるからである。
【0018】
また、多価カルボン酸を溶解させる溶媒としては、多価カルボン酸を溶解可能であればよく、常温で蒸発させることが可能な溶媒であれば、被覆後の溶媒除去が容易になるので好ましい。例えばアルコール、アセトンおよびエーテル等が例示される。特に、アジピン酸は少量の添加でもって体積抵抗が低下する効果があるため、多価カルボン酸としてアジピン酸を用いることが好ましい。
【0019】
(カルボン酸の被覆)
多価カルボン酸が添加された材料銀粉においては、多価カルボン酸が材料銀粉に均一に被覆するように乾式の解砕が行われる。乾式の解砕は、多価カルボン酸が添加された材料銀粉を例えばヘンシェルミキサー、サンプルミル、ブレンダー、コーヒーミル等に入れることで行われる。そして、必要に応じて解砕による摩擦熱やもしくは乾燥工程によって多価カルボン酸を添加させるために用いた溶媒を蒸発させる。これにより多価カルボン酸の被覆された材料銀粉、即ち、本発明でいう粒状銀粉(以下カルボン酸が被覆されていることを示すためにカルボン酸粒状銀粉と呼称する)が得られることとなる。なお、材料銀粉への多価カルボン酸の被覆は、必ずしも銀粉表面を完全に均一に覆うものでなくとも良く、銀粉表面の一部に多価カルボン酸が付着したものをカルボン酸粒状銀粉としても良い。
【0020】
(カルボン酸の被覆量の定量分析)
材料銀粉に添加したカルボン酸は、材料銀粉の表面を被覆する。カルボン酸粒状銀粉からカルボン酸の被覆量を定量的に分析する方法としては、例えば、アジピン酸を表面に被覆させた銀粉(カルボン酸粒状銀粉)から塩酸溶出を用いてアジピン酸を溶出し、さらに、アジピン酸が溶出された塩酸溶液においてアジピン酸をメチル化し、有機溶媒に抽出してGC−MS(ガスクロマト質量分析計)による定量を行えばよい。なお、この定量分析の手法において、メタノールの代わりに他のエステル化をする薬品を用いるなど、適宜条件を変更しても良い。また、カルボン酸粒状銀粉におけるカルボン酸の被覆量は、他の方法によって定量されても良い。
【0021】
(樹脂硬化型導電性ペーストの作製)
続いて、上述してきた方法で得られたカルボン酸粒状銀粉とフレーク状銀粉、樹脂および必要に応じた溶剤・硬化剤を混合することによって樹脂硬化型導電性ペーストが作製される。ここで用いられるフレーク状銀粉は、平均粒径が0.2μm〜25μmであり、比表面積が5m/g以下であるものが好ましい。これは、以下の理由による。即ち、混合させるフレーク状銀粉の平均粒径が0.2μm未満である場合、作製された導電性ペーストの粘度が高すぎて印刷性が悪化する恐れがあり、フレーク状銀粉の平均粒径が25μm超である場合、作製された導電性ペーストをスクリーン印刷に用いる際に銀粉の目詰まりが発生して生産性が低下する恐れがあるからである。
【0022】
また、カルボン酸粒状銀粉とフレーク状銀粉を混合して混合銀粉を得る際の混合比率は、混合銀粉に対してカルボン酸粒状銀粉が30質量%〜70質量%の範囲であることが好ましい。これは、混合銀粉に対するカルボン酸粒状銀粉の混合比が上記30質量%〜70質量%の範囲外である場合、作製される導電性ペーストから得られる導電膜の導電性が十分に向上しないためである。
【0023】
樹脂硬化型導電性ペーストの作製において、樹脂、溶剤および硬化剤は、作製する導電性ペーストの用途等に応じて適宜選択すればよく、樹脂としては例えばエポキシ樹脂が例示される。また、以上の説明におけるフレーク状銀粉とは、アスペクト比(平均長径L/平均厚みT)が3以上である形状の銀粉を指しており、アスペクト比を求める際の平均長径L・平均厚みTは、走査型電子顕微鏡で100個の粒子の長径および厚みを測定して平均することで算出している。
【0024】
(導電膜の作製・評価)
上記方法で作製された樹脂硬化型導電性ペーストを塗布・加熱(樹脂硬化)することにより導電膜が得られ、得られた導電膜の体積抵抗を測定することで導電膜の評価が行われる。
【0025】
以上説明した方法によって、従来の方法により得られる樹脂硬化型導電性ペーストより、導電性に優れた樹脂硬化型導電性ペーストが得られ、それに伴い導電性に優れた導電膜を得ることができる。なお、実際に得られる導電膜の具体的な体積抵抗の一例については、以下の実施例において詳しく記載する。
【0026】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は上記説明した形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
本発明にかかる樹脂硬化型導電性ペーストおよび導電膜を以下のような条件で作製した。また、作製した導電膜についてはその特性について測定を行った。
【0028】
(材料銀粉の製造)
銀イオン水溶液としての5.7質量%の硝酸銀水溶液3,620gに、30質量%の苛性ソーダ水溶液545gを加えて、その後に還元剤として37質量%ホルマリン水溶液134gを加え、銀粉を含むスラリーを生成した。得られたスラリーをろ過、水洗した後、加熱乾燥して、材料銀粉を200g得た。
上記により得た材料銀粉を解砕し、BET1点法により測定した比表面積は0.7m/g、レーザー回折式粒度分布測定法により測定したD50は、5.9μmであった。
【0029】
(カルボン酸粒状銀粉の作製)
多価カルボン酸を含有する溶液として、アジピン酸をエタノールに溶解し、2質量%のアジピン酸エタノール溶液を準備した。上記で製造した材料銀粉50gを電動コーヒーミル(メリタジャパン株式会社製、セレクトグラインドMJ−518)に入れ、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。次に、この材料銀粉に2質量%のアジピン酸エタノール溶液0.25gを加えた後、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。さらに、2質量%のアジピン酸エタノール溶液0.25gを加えて(アジピン酸0.02質量%)、処理時間20秒間の条件にて解砕を行った。その後、このアジピン酸の添加された銀粉を室温で1時間、乾燥を行った。ここで得たカルボン酸粒状銀粉のBET1点法により測定した比表面積、レーザー回折式粒度分布測定法により測定した平均粒径D50の結果を表1に示す。体積抵抗は42.7μΩ・cm、比表面積は0.6m/g、平均粒径D50は6.2μm、アジピン酸分析値は0.016質量%であった。また、カルボン酸粒状銀粉の形状を走査型電子顕微鏡を用いて確認したところ、不定形形状であった。なお、表1には本実施例1以外の以下に説明する実施例2〜8および比較例1〜5の測定結果についても記載している。
【表1】

【0030】
(アジピン酸の定量方法)
本実施例1におけるカルボン酸粒状銀粉の作製においては、上述したように、材料銀粉に所定の濃度(アジピン酸の含有質量%)のアジピン酸エタノール溶液を加えることでカルボン酸粒状銀粉を得るものとしている。ここで得られたカルボン酸粒状銀粉におけるアジピン酸の被覆量(質量%)は、アジピン酸エタノール溶液に含有される量とほぼ同一の量となる。このことは、作製されるカルボン酸粒状銀粉におけるアジピン酸含有量の定量を行うことで明らかとなる。そこで、以下には、カルボン酸粒状銀粉におけるアジピン酸の含有量を定量する方法について説明する。
【0031】
本実施例1において作製されたカルボン酸粒状銀粉5gを濃度35質量%の塩酸50mLと共に弗素樹脂製の容器に仕込み、密閉した。そして、該容器を乾燥機において120℃、50分間の条件下で保持させ、その後、超音波分散と振とうを20分間行い、塩酸溶出工程を行った。
【0032】
続いて、塩酸溶出工程後の試料液を0.5mL分取し、試験管に仕込み、更にメタノール0.5mLを添加させて乾燥機において50℃、30分間の条件で保持させた。これにより溶出されたアジピン酸のメチル化処理が行われ、アジピン酸ジメチルが生成された。
【0033】
次いで、メチル化が完了した試料液に、ジクロロメタンとn−ヘキサンの混合有機溶媒(混合比1:4)を5mL添加させ、1分間の振とう抽出を2回行うことで、アジピン酸ジメチルを混合有機溶媒に抽出させた。
【0034】
そして、アジピン酸ジメチルが抽出された混合有機溶媒に対し、ガスクロマト定量分析装置であるGC−MS(GC: Hewlett Packard HP 6890 Series MS: Hewlett Packrd
5973 Mass Selective Detector)を用いてMSイオン化EI法による測定を行い、求められたアジピン酸ジメチル量から換算計算によってアジピン酸量を算出した。この算出したアジピン酸量と試料銀粉量を比較することで、試料銀粉におけるアジピン酸被覆量(質量%)が定量化された。図4は、アジピン酸の添加量と分析値を示すグラフである。図4に示すように、アジピン酸の添加量と分析値には正の一次相関があることから、分析が精度良く行なわれたことがわかった。この分析値によりアジピン酸の被覆量が定量された。
【0035】
(平均粒径D50の測定方法)
平均粒径D50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(ハネウエル−日機装株式会社製、MICROTORAC HRA)を用いて、銀粉0.3gをイソプロパノール30mLに加え、45W超音波分散処理を5分間行って試料を準備し、全反射モードで測定を行った。
【0036】
(比表面積の測定方法)
比表面積は、MONOSORB装置(湯浅アイオニクス株式会社製)で、He70%、N30%のキャリアガスを用い、銀粉3gをセルに入れて脱気を60℃で10分間行った後、BET1点法により測定を行った。
【0037】
(ペーストの作製)
また、(1)被覆処理後のカルボン酸粒状銀粉、(2)フレーク状銀粉、(3)エポキシ樹脂、(4)溶剤および(5)硬化剤を含む組成物を下記組成比で混練することによりペーストを作製した。
(1)被覆処理後のカルボン酸粒状銀粉・・・45質量部
(2)フレーク状銀粉(DOWAハイテック株式会社製、平均粒径D50が9.2μm、比表面積が0.2m/g)・・・45質量部
(3)エポキシ樹脂(株式会社ADEKA製、EP−4901E)・・・10質量部
(4)溶剤(ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート)・・・5質量部
(5)硬化剤(味の素ファインテクノ株式会社製、アミキュアMY−24)・・・1質量部
前記組成物を混合し、3本ロール(オットハーマン社製、EXAKT80S)を用いて、ロールギャップを110μmから9μmまで通過させて混練処理を行うことによりペーストを得た。得られたペーストは完全に混練されていた。
【0038】
(導電膜の形成)
96%アルミナ基板上に、前記で得られたペーストを用い、幅500μm、長さ37500μmのペーストの膜をスクリーン印刷機(マイクロ・テック株式会社製、MT−320T)にて印刷した。得られた膜を大気循環式乾燥機を用い、200℃、40分間の条件で加熱処理し、導電膜を形成した。得られた導電膜は表面粗さ計(株式会社小坂研究所製、SE−30D)を用いて、アルミナ基板上で膜を印刷していない部分と導電膜の部分の段差を0.1mm/secで走査することにより導電膜の膜厚を測定した。導電膜の抵抗は、デジタルマルチメーター(ADVANTEST製、R6551)を用いて、導電膜の長さ(間隔)が37.5mmの位置の抵抗値を測定した。導電膜のサイズ(膜厚、幅、長さ)より、導電膜の体積を求め、この体積と測定した抵抗値から、比抵抗(体積抵抗率)を求めた。比抵抗の結果は表1に示す。実施例1の導電膜は、アジピン酸被覆処理を行わない粒状銀粉を用いて作製された後述する比較例1の導電膜に比べ、低い比抵抗を示した。
【0039】
(実施例2)
材料銀粉に添加するアジピン酸エタノール溶液の濃度を2質量%から10質量%に変更し、アジピン酸エタノール溶液の添加量を、2回の添加とも、0.25gから0.5gに変更した(アジピン酸0.2質量%)以外は、実施例1と同様に導電膜の形成、測定をおこなった。得られた結果を表1に示した。体積抵抗は38.4μΩ・cm、比表面積は0.7m/g、平均粒径D50は4.8μmであった。
【0040】
(実施例3)
アジピン酸エタノール溶液を添加する材料銀粉の量を50gから25gに変更し、材料銀粉に添加するアジピン酸エタノール溶液の濃度を2質量%から10質量%に変更し、アジピン酸エタノール溶液の添加量を、2回の添加とも、0.25gから0.375gに変更した(アジピン酸0.3質量%)以外は、実施例1と同様に導電膜の形成、測定をおこなった。得られた結果を表1に示した。体積抵抗は34.2μΩ・cm、比表面積は0.7m/g、平均粒径D50は4.9μm、アジピン酸分析値は0.289質量%であった。
【0041】
(実施例4)
アジピン酸エタノール溶液を添加する材料銀粉の量を50gから25gに変更し、材料銀粉に添加するアジピン酸エタノール溶液の濃度を2質量%から10質量%に変更し、アジピン酸エタノール溶液の添加量を、2回の添加とも、0.25gから0.5gに変更した(アジピン酸0.4質量%)以外は、実施例1と同様に導電膜の形成、測定をおこなった。得られた結果を表1に示した。体積抵抗は31.4μΩ・cm、比表面積は0.7m/g、平均粒径D50は5.2μmであった。
【0042】
(実施例5)
アジピン酸エタノール溶液を添加する材料銀粉の量を50gから25gに変更し、材料銀粉に添加するアジピン酸エタノール溶液の濃度を2質量%から10質量%に変更し、アジピン酸エタノール溶液の添加量を、2回の添加とも、0.25gから0.625gに変更した(アジピン酸0.5質量%)以外は、実施例1と同様に導電膜の形成、測定をおこなった。得られた結果を表1に示した。体積抵抗は46.3μΩ・cm、比表面積は0.6m/g、平均粒径D50は4.7μm、アジピン酸分析値は0.486質量%であった。
【0043】
(実施例6)
多価カルボン酸を含有する溶液として、コハク酸をエタノールに溶解し、5質量%のコハク酸エタノール溶液を準備した。実施例1で使用した多価カルボン酸を添加する前の材料銀粉と同じ銀粉50gを電動コーヒーミル(メリタジャパン株式会社製、セレクトグラインドMJ−518)に入れ、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。次に、この材料銀粉に5質量%のコハク酸エタノール溶液0.5gを加えて、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。さらに、5質量%のコハク酸エタノール溶液0.5gを加えて、処理時間20秒間の条件にて解砕を行った。即ち、添加したカルボン酸が異なること以外は、実施例1と同様の条件で試験を行った。得られた結果を表1に示した。体積抵抗は50.9μΩ・cm、比表面積は0.7m/g、平均粒径D50は4.4μmであった。
【0044】
(実施例7)
多価カルボン酸を含有する溶液として、ジグリコール酸をエタノールに溶解し、15質量%のジグリコール酸エタノール溶液を準備した。実施例1で使用した多価カルボン酸を添加する前の材料銀粉と同じ材料銀粉25gを電動コーヒーミル(メリタジャパン株式会社製、セレクトグラインドMJ−518)に入れ、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。次に、この材料銀粉に15質量%のジグリコール酸エタノール溶液0.083gを加えて、処理時間20秒間の条件にて解砕を行った。さらに、15質量%のジグリコール酸エタノール溶液0.083gを加えて、処理時間20秒間の条件にて解砕を行った。即ち、使用した銀粉量と添加したカルボン酸が異なること以外は、実施例1と同様の条件で試験を行った。得られた結果を表1に示した。体積抵抗は52.5μΩ・cm、比表面積は0.6m/g、平均粒径D50は4.1μmであった。
【0045】
(実施例8)
多価カルボン酸を含有する溶液として、グルタル酸をエタノールに溶解し、5質量%のグルタル酸エタノール溶液を準備した。実施例1で使用した多価カルボン酸を添加する前の材料銀粉と同じ銀粉25gを電動コーヒーミル(メリタジャパン株式会社製、セレクトグラインドMJ−518)に入れ、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。次に、この材料銀粉に5質量%のグルタル酸エタノール溶液0.25gを加えて、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。さらに、5質量%のグルタル酸エタノール溶液0.25gを加えて、処理時間20秒間の条件にて解砕を行った。即ち、添加したカルボン酸が異なること以外は、実施例1と同様の条件で試験を行った。得られた結果を表1に示した。体積抵抗は57.9μΩ・cm、比表面積は0.6m/g、平均粒径D50は5.4μmであった。
【0046】
(比較例1)
実施例1で使用した材料銀粉に多価カルボン酸の被覆処理を行わずに同様の条件で試験を行った。得られた結果を表1に示した。なお、アジピン酸は検出できなかった。
【0047】
(比較例2)
材料銀粉にアジピン酸エタノール溶液を添加して解砕する条件を下記に変更した以外は、実施例1と同様に導電膜の形成、測定をおこなった。実施例1で使用した材料銀粉と同じ材料銀粉25gを電動コーヒーミル(メリタジャパン株式会社製、セレクトグラインドMJ−518)に入れ、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。次に、この材料銀粉に10質量%のアジピン酸エタノール溶液1.125gを加えて、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。さらに、10質量%のアジピン酸エタノール溶液1.125gを加えて、処理時間20秒間の条件にて解砕を行った(アジピン酸0.9質量%)。得られた結果を表1に示した。
【0048】
(比較例3)
材料銀粉にアジピン酸エタノール溶液を添加して解砕する条件を下記に変更した以外は、実施例1と同様に導電膜の形成、測定をおこなった。実施例1で使用した材料銀粉と同じ材料銀粉25gを電動コーヒーミル(メリタジャパン株式会社製、セレクトグラインドMJ−518)に入れ、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。次に、この材料銀粉に12.5%のアジピン酸エタノール溶液1.5gを加えて、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。さらに、7.5%のアジピン酸エタノール溶液2.5gを加えて、処理時間20秒間の条件にて解砕を行った(アジピン酸1.5質量%)。得られた結果を表1に示した。
【0049】
(比較例4)
材料銀粉にアジピン酸エタノール溶液を添加して解砕、乾燥する条件を下記に変更した以外は、実施例1と同様に導電膜の形成、測定をおこなった。実施例1で使用した材料銀粉と同じ材料銀粉25gを電動コーヒーミル(メリタジャパン株式会社製、セレクトグラインドMJ−518)に入れ、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。次に、この材料銀粉に10質量%のアジピン酸エタノール溶液3.75gを加えて、処理時間10秒間の条件にて解砕を行った。さらに、10質量%のアジピン酸エタノール溶液3.75gを加えて、処理時間20秒間の条件にて解砕を行った(アジピン酸3.0質量%)。得られた結果を表1に示した。
【0050】
(比較例5)
実施例1で使用したフレーク状銀粉のみを使用し、粒状の材料銀粉を使用せずにペーストを作製した。
(1)フレーク状銀粉、(2)エポキシ樹脂、(3)溶剤及および(4)硬化剤を含む組成物を下記組成比で混練することによりペーストを作製した。
(1)フレーク状銀粉・・・90質量部
(2)エポキシ樹脂(株式会社ADEKA製、EP−4901E)・・・10質量部
(3)溶剤(ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート)・・・5質量部
(4)硬化剤(味の素ファインテクノ株式会社製、アミキュアMY−24)・・・1質量部
前記組成物を混合し、3本ロール(オットハーマン社製、EXAKT80S)を用いて、ロールギャップを110μmから9μmまで通過させて混練処理を行うことによりペーストを得た。
導電性ペーストを製造するのに使用した銀粉が異なる(フレーク状銀粉である)こと以外は、実施例1と同様に導電膜の形成、測定をおこなった。得られた結果を表1に示した。
【0051】
図1および図2は表1の測定結果を示すグラフである。表1、図1および図2から分かるように、本発明の特徴である多価カルボン酸(アジピン酸、コハク酸、ジクリコール酸、グルタル酸)を材料銀粉に対して0.01質量%〜0.5質量%添加させたカルボン酸粒状銀粉を用いて作製した場合の導電膜の体積抵抗(実施例1〜実施例8)は、多価カルボン酸を材料銀粉に添加しない場合(比較例1)や多価カルボン酸を材料銀粉に多量に添加する場合(比較例2〜4)の導電膜の体積抵抗より低い。即ち、多価カルボン酸を材料銀粉に対して0.01質量%〜0.5質量%添加させたカルボン酸粒状銀粉を用いて作製した導電膜の方が導電性が高く電子部品や太陽電池等の電極や回路を形成するのに有用であることがわかった。また、フレーク状の銀粉のみを用いて導電膜を作製した場合(比較例5)も導電性の向上は見られず、上記実施の形態で述べたカルボン酸粒状銀粉とフレーク状銀粉を混合させて導電膜を作製する方法の方が有効であることが分かった。
【0052】
また、図3は、表1の測定結果のうち、カルボン酸粒状銀粉の平均粒径と得られた導電膜の体積抵抗の関係を示すグラフである。この結果から、カルボン酸粒状銀粉の平均粒径と導電膜の体積抵抗には、相関が見られなかった。即ち、本発明にかかる方法によって作製された導電膜の導電性の向上は、カルボン酸粒状銀粉の平均粒径の変動によるものではなく、多価カルボン酸を適量添加したことによるものであることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば半導体部品等の電子部品や太陽電池の電極および回路形成に用いられる導電性ペーストに配合される銀粉およびその銀粉の製造方法に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸を材料銀粉に対して0.01質量%〜0.5質量%被覆させた、粒状銀粉。
【請求項2】
樹脂硬化型導電性ペーストに配合される請求項1に記載の粒状銀粉。
【請求項3】
前記多価カルボン酸は溶媒に溶解された状態で材料銀粉に添加され、その溶解濃度は1質量%〜20質量%である、請求項1または2に記載の粒状銀粉。
【請求項4】
前記多価カルボン酸を溶解させる溶媒はアルコール、アセトンまたはエーテルである、請求項3に記載の粒状銀粉。
【請求項5】
前記多価カルボン酸はアジピン酸、コハク酸、ジグリコール酸、グルタル酸またはマレイン酸である、請求項1〜4のいずれかに記載の粒状銀粉。
【請求項6】
前記材料銀粉は、比表面積が6m/g以下であり、平均粒径が0.1μm〜50μmである、請求項1〜5のいずれかに記載の粒状銀粉。
【請求項7】
粒状銀粉の製造方法であって、
溶媒に溶解させた状態で多価カルボン酸を材料銀粉に対して0.01質量%〜0.5質量%添加させ、
多価カルボン酸を添加させた材料銀粉を粉砕・解砕機で粉砕・解砕しながら混合させて前記多価カルボン酸を前記材料銀粉に被覆させ、
前記溶媒を除去して粒状銀粉を得る、粒状銀粉の製造方法。
【請求項8】
樹脂硬化型導電性ペーストに配合される粒状銀粉を製造する、請求項7に記載の粒状銀粉の製造方法。
【請求項9】
前記材料銀粉に添加させる多価カルボン酸の溶液濃度は1質量%〜20質量%である、請求項7または8に記載の粒状銀粉の製造方法。
【請求項10】
前記多価カルボン酸を溶解させる溶媒はアルコール、アセトンまたはエーテルである、請求項7〜9のいずれかに記載の粒状銀粉の製造方法。
【請求項11】
請求項2に記載の粒状銀粉を含有する樹脂硬化型導電性ペースト。
【請求項12】
請求項11に記載の樹脂硬化型導電性ペーストを加熱して導電膜を得る、導電膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−140714(P2011−140714A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274596(P2010−274596)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】