説明

銀粒子粉末およびその製造法

【課題】 微細で比表面積が大きくても耐候性・耐蝕性に優れた銀粒子粉末を安価に製造し、微細な回路パターンを形成するための配線形成用材料、特にインクジェット法による配線形成用材料として好適な銀の単分散液を得る。
【解決手段】 比表面積(CS)が50m2/cm3以上、X線結晶粒子径(Dx)が50nm以下、塩基性点が10.0個/nm2以下および酸性点が10.0個/nm2以下の銀粒子粉末である。この銀粒子粉末は、有機溶媒中で銀化合物を還元するさいに、還元剤として機能するアルコールまたはポリオールの1種または2種以上を使用し、その還元反応を有機保護剤および極性抑制剤の存在下で進行させることによって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細な(特に粒径がナノメートルオーダーの)銀の粒子粉末とその製造法に関する。詳しくは、微細な回路パターンを形成するための配線形成用材料例えばインクジェット法による配線形成用材料として好適な銀粒子粉末およびその製造法に関する。本発明の銀粒子粉末は、LSI基板の配線やFPD(フラットパネルディスプレイ)の電極と配線形成、さらには微細なトレンチ、ビアホール、コンタクトホールの埋め込みなど等の配線形成材料としても好適であり、車の塗装などの色材としても適用でき、医療・診断・バイオテクノロジー分野において生化学物質等を吸着させるキャリヤーにも適用できる。
【背景技術】
【0002】
固体物質の大きさがnmオーダー(ナノメートルオーダー)になると比表面積(CS)が非常に大きくなるために、固体でありながら気体や液体の界面が極端に大きくなる。したがって、その表面の特性が固体物質の性質を大きく左右する。金属粒子粉末の場合は、融点がバルク状態のものに比べ劇的に低下することが知られており、そのためにμmオーダーの粒子に比べて微細な配線の描画が可能になり、しかも低温焼結できるなどの利点を具備するようになる。金属粒子粉末の中でも銀粒子粉末は、低抵抗でかつ高い耐候性をもち、金属の価格も他の貴金属と比較して安価であることから、微細な配線幅をもつ次世代の配線材料として特に期待されている。
【0003】
nmオーダーの銀の粒子粉末の製造方法としては大別して気相法と液相法が知られている。気相法ではガス中での蒸着法が普通であり、特許文献1にはヘリウム等の不活性ガス雰囲気でかつ0.5Torr程度の低圧中で銀を蒸発させる方法が記載されている。液相法に関しては、特許文献2では、水相で銀イオンをアミンで還元し、得られた銀の析出相を有機溶媒相(高分子量の分散剤)に移動して銀のコロイドを得る方法を開示しており、特許文献3には、溶媒中でハロゲン化銀を還元剤(アルカリ金属水素化ホウ酸塩またはアンモニウム水素化ホウ酸塩)を用いてチオール系の保護剤の存在下で還元する方法が記載されている。特許文献4では水とホルマリンの混合水溶液中で硝酸銀を還元して銀粉を得る方法が記載されている。
【特許文献1】特開2001−35255号公報
【特許文献2】特開平11−319538号公報
【特許文献3】特開2003−253311号公報
【特許文献4】特開昭54−121270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の気相法で得られる銀粒子は、粒径が10nm以下で溶媒中での分散性が良好である。しかし、この技術は特別な装置が必要である。このため産業用の銀ナノ粒子を大量に合成するには難がある。これに対して液相法は、基本的に大量合成に適した方法であるが、液中では金属ナノ粒子は極めて凝集性が高いので単一粒子に分散したナノ粒子粉末を得難いという問題がある。一般に、金属ナノ粒子を製造するためには分散剤としてクエン酸を用いる例が多く、また液中の金属イオン濃度も10mmol/L(=0.01mol/L)以下と極めて低いのが通常であり、このため、産業上の応用面でのネックとなっている。
【0005】
特許文献2は、前記した方法で0.2〜0.6mol/Lの高い金属イオン濃度と、高い原料仕込み濃度で安定して分散した銀ナノ粒子を合成しているが、凝集を抑制するために数平均分子量が数万の高分子量の分散剤を用いている。高分子量の分散剤を用いたものでは、当該銀ナノ粒子を着色剤として用いる場合は問題ないが、回路形成用途に用いる場合には、高分子の沸点以上の焼成温度が必要となること、さらには焼成後も配線にポアが発生しやすいこと等から高抵抗や断線の問題が生じるので、微細な配線用途に好適とは言えない。
【0006】
特許文献3は、前記した方法で仕込み濃度も0.1mol/L以上の比較的高い濃度で反応させ、得られた10nm以下の銀粒子を分散剤で分散させている。その分散剤としてチオール系の分散剤が提案されており、このものは分子量が200程度と低いことから、配線形成時に低温焼成で容易に揮発させることができる。しかし、チオール系界面活性剤には、硫黄(S)が含まれており、この硫黄分は、配線やその他電子部品を腐食させる原因となるため、配線形成用途には、不適な元素である。したがって配線形成用途には好ましくはない。
【0007】
また、耐候性・耐蝕性に優れると言われている銀でも、粒径が小さくなって比表面積が例えば(CS)で50m2/cm3以上のように大きくなると、活性になって酸化や硫化等の腐食の影響を受けやすくなることが知られている。したがって、粒径が小さく粒度分布がそろっていても、活性が高く酸化や腐食を起こしやすい銀粒子粉末では取り扱いが極めて困難となり、焼結するまで不活性雰囲気で取り扱うことが必要であったり、または特殊なコーティングを必要とされたりする。
【0008】
したがって本発明はこのような問題を解決し、微細な配線形成用途に適した粒度分布のそろった球状銀粒子粉末とその分散液を安価かつ大量に高い収率で得ること、さらには腐食物質である酸やアルカリなどの分子が吸着しにくい耐酸化特性および耐蝕性に優れた銀の微粒子粉末を得ることを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、比表面積(CS)が50m2/cm3以上、X線結晶粒子径(Dx)が50nm以下、塩基性点が10.0個/nm2以下および酸性点が10.0個/nm2以下である銀粒子粉末を提供する。更には、比表面積(CS)が50m2/cm3以上、X線結晶粒子径(Dx)が50nm以下で粒子表面に分子量100〜1000の有機保護剤(代表的には脂肪酸またはアミノ化合物の1種または2種以上)が被着している銀粒子粉末を提供する。
【0010】
このような銀粒子粉末は、有機溶媒中で銀化合物を還元する銀粒子粉末の製造方法において、その有機溶媒として、還元剤として機能する沸点が85℃以上のアルコールまたはポリオールの1種または2種以上を使用し、その還元反応を有機保護剤(代表的には脂肪酸またはアミノ化合物の1種または2種以上)および極性抑制剤(代表的には沸点85℃以上の炭化水素類)の存在下で進行させることによって製造することができる。
【0011】
このようにして得られる銀粒子粉末を沸点が60℃以上の無極性または低極性の分散媒に分散させ、得られた分散液から粗粒子を分離することによって、銀微粒子が独立分散し、動的光散乱法による平均粒径(D50)が100nm以下で、分散度=(D50)/(DTEM)が5.0以下である銀粒子の分散液が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、微細で比表面積が大きくても耐候性・耐蝕性に優れた銀粒子粉末を安価に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者は液相法で銀のナノ粒子粉末を製造する試験を重ねてきたが、沸点が85〜150℃のアルコール中で硝酸銀を、85〜150℃の温度で(蒸発したアルコールを液相に還流させながら)例えば分子量100〜400のアミノ化合物からなる保護剤の共存下で還元処理すると、粒径の揃った球状の銀のナノ粒子粉末が得られることを知見し、この発明を特願2005−26805号明細書および図面に記載した。また、沸点が85℃以上のアルコールまたはポリオール中で銀化合物(代表的には炭酸銀または酸化銀)を、85℃以上の温度で例えば分子量100〜400の脂肪酸からなる保護剤の共存下で還元処理すると、腐食性化合物の少ない粒径の揃った球状の銀の粒子粉末が得ることを知見し、この発明を特願2005−26866号明細書および図面に記載した。いずれの場合にも、その銀粒子粉末を非極性もしくは極性の小さな分散媒に分散させることによって銀粒子の分散液を得ることができ、この分散液から遠心分離等で粗粒子を除くと粒径のバラツキの少ない(CV値=標準偏差σ/個数平均粒子の百分率が40%未満の)銀粒子が単分散した分散液を得ることができる。
【0014】
しかし、CV値で40%未満になるように分級すると、粗粒分が除かれる分だけ、銀粒子の独立分散液(以下、単分散液という)に存在する銀粒子の収率(以下、単分散率という)は低くなる。図1は先の特願2005−26805号の実施例1で得られた銀の単分散液(平均粒径6.6nm:CV値=10.5%)のTEM写真である。この図1の単分散液は、図2に示した反応直後の銀粒子粉末のスラリー(同じくTEM写真)を分級して得たものである。この分級操作は、特願2005−26805号の段落〔0029〕と〔0030〕に記載の方法で遠心分離により、粗粒子を沈殿・除去したものである。図2に見られるように、反応直後には多くの粗粒子を含んでいるが、これから図1の単分散液を得る場合の単分散率は31.2%であり、残りは粗粒子であった。すなわち、銀粒子の68.9%を除去することによって、粒径の揃ったnmオーダーの単分散液を得ることができるのであり、その収率(単分散率)は低かった。
【0015】
この問題についてさらに研究を進めた結果、炭化水素類を極性抑制剤として用いて該還元反応を行なわせると、高度に分散可能な銀粒子粉末が高い収率で得られることを見い出した。そして、反応媒体の溶媒の極性を適正に変化させると、得られる銀粒子粉末の酸性点と塩基性点の個数を少なくできることを見い出した。これは、溶媒兼還元剤として用いていたアルコールまたはポリオールに炭化水素類を添加すると溶液の極性が小さくなり、その結果、保護剤である脂肪酸やアミン化合物等が吸着した銀粒子粉末が凝集せずに安定に液中に存在できるようになること、また溶液の極性が変化したことにより粒子表面状態も変化すること等が寄与しているものと考えられる。
【0016】
このようにして本発明にると、比表面積(CS)が50m2/cm3以上でX線粒子径が(Dx)が50nm以下であって、塩基性点が10.0個/nm2以下で酸性点が10.0個/nm2以下の銀粒子粉末を得ることができた。この粉末は粒子表面に分子量100〜1000の有機保護剤が吸着しており、CSから換算される平均粒径D50とDxとの間でD50/Dx<10の関係を有する。
【0017】
以下に本発明で特定する事項を説明する。
【0018】
〔比表面積(CS:Calculeted Specific Surfaces Area 、単位m2/cm3)〕
本発明にしたがう銀粒子粉末の比表面積(CS)は50m2/cm3以上である。比表面積(CS)は、動的光散乱法による粒度分布測定結果から、粒子をすべて球形と仮定した場合に、次の式をつかって計算により求められる。
CS=(6/MA)
MAは面積平均径(Mean Area Diameter)であり、これは、面積で重みづけされた平均径である。いま一つの粉体の集団を仮定する。この中に粒子径の小さい順からd1, d2, d3・・di・・dkの粒子径をもつ粒子が、それぞれn1、n2、n3・・ni・・nk個あるとする。また粒子1個辺りの表面積をai、体積をViとする。表面積と体積は粒子を球形と仮定して求める。すると, MAは次式で求められる。
MA=Σ(ai・di)/Σ(ai)=Σ(Vi)/Σ(Vi/di )
これらの値は実際には銀粉末を分散させた液を動的光散乱法やレーザー回折法により測定することにより得ることができる。すなわち, マイクロトラックの測定でD50とともに自動的に算出される。
【0019】
〔X線結晶粒径(Dx)〕
本発明の銀ナノ粒子は結晶粒子径(Dx)が50nm以下である。銀粒子粉末のX線結晶粒径はX線回折結果から Scherrer の式を用いて求めることができる。
その求め方は、次のとおりである。 Scherrer の式は、次の一般式で表現される。
D=K・λ/β COSθ
式中、K:Scherrer定数、D:結晶粒子径、λ:測定X線波長、β:X線回折で得られたピークの半価幅、θ:回折線のブラッグ角をそれぞれ表す。
Kは0.94の値を採用し、X線の管球はCuを用いると、前式は下式のように書き換えられる。
D=0.94×1.5405/β COSθ
【0020】
〔塩基性点と酸性点の個数〕
粒子表面に存在する塩基性点の数は、これに吸着する酸性物質の分子の数によって評価することができる。一つの塩基性点に1個の酸性物質が吸着すれば、吸着した酸性物質の分子の数が塩基性点の数に相当することになる。銀粒子粉末の塩基性点の数は銀粒子粉末に対するCO2吸着量(μL/g)とよい相関を有し、また酸性点の数は銀粒子粉末に対するNH3吸着量(μL/g)とよい相関を有することから、本明細書ではこの相関を用いて銀粒子粉末の塩基性点および酸性点の数を評価する。実際の測定は次のようにして行うことができる。
【0021】
〔塩基性点の評価試験〕
カンタクロム株式会社製の物理・化学吸着量測定装置「商品名ケムベット‐3000」に測定用粉末を装填し、吸着ガスとして高純度のCO2を使用して、試料粉末1gあたりのCO2吸着量(マイクロリットル・μL)を測定する。測定に際しては、この測定装置の操作手順に従って、試料粉末に付着している水分をN2ガスやアルゴンガス等の不活性ガス中で過熱脱水し、また測定経路中に存在する空気を不活性ガスにてパージする。その後CO2ガスを試料粉末に注入し、CO2吸着量の測定を開始する。
【0022】
〔酸性点の評価試験〕
カンタクロム株式会社製の物理・化学吸着量測定装置「商品名ケムベット‐3000」に測定用粉末を装填し、吸着ガスとして高純度のNH3を使用して、試料粉末1gあたりのNH3吸着量(マイクロリットル・μL)を測定する。測定に際しては、この測定装置の操作手順に従って、試料粉末に付着している水分をN2ガスやヘリウムガス等の不活性ガス中で過熱脱水し、また測定経路中に存在する空気を不活性ガスにてパージする。その後NH3ガスを試料粉末に注入し、NH3吸着量の測定を開始する。
【0023】
塩基性点または酸性点の個数はCO2吸着量またはNH3吸着量から次の基準で算出できる。或る銀粒子粉末を前記の方法で測定したCO2吸着量がQ(μL/g)であり、該粉末の比表面積がP(m2/g)、吸着気体の密度(25℃:25℃は気体の吸着量を測定したときの室温)がG(g/L)であると、Nをアボガドロ定数(6.02×1023個/mol)として、塩基性点の数(個/nm2)は次式で算出することができる。
塩基性点の数(個/nm2
={N・Q(μL/g)・G(g/L)・10-24}/{P(m2/g )・(CO2の分子量:44)}
【0024】
同様に酸性点の数(個/nm2)は、NH3の吸着重量がR(μL/g)であれば、酸洗点の数(個/nm2)は次式で算出することができる。
酸性点の数(個/nm2
={N・R(μL/g)・G(g/L)・10-24}/{P(m2/g )・(NH3の分子量:17)}
【0025】
なお、各吸着気体の密度G(g/L)は、標準状態(0℃、1atm )の気体密度をρ(NH3のρ=0.7710g/L、CO2のρ=1.9769g/Lの値を使用)としたとき、次式で算出できる。
G(g/L)=ρ×(273.15/298.15)
以上の関係より、吸着気体としてCO2またはNH3を用いる場合には、酸性点または塩基点の数を
求める式はそれぞれの定数を代入すると次のようになる。
塩基性点の数(個/nm2
=0.024779×Q/P
同様に酸性点の数(個/nm2
=0.0250131×R/P
なお、粉末の比表面積Pについては、段落[0018]で記載した方法で求められるCS(比表面積、
単位m2/cm3)に銀の密度(文献値10.50g/cm3)を掛けることによって求めることができ、本明細書ではこの求め方を採用している。
【0026】
この測定法に従って測定した塩基性点が10.0個/nm2以下で且つ酸性点が10.0個/nm2以下の銀粒子粉末であれば、比表面性が50m2/cm3以上の微細で高活性であっても、大気中で取り扱っても酸化し難くて耐候性が高く、また硫化等に対する耐蝕性にも優れることがわかった。
【0027】
〔単分散率〕
図1の場合のように、図2の粉体からCV値で40%未満になるように分級すると、粗粒分が除かれる分だけ、銀粒子の独立分散液(単分散液)に存在する銀粒子の単分散率はは低くなる。単分散率が低いほど焼結した粒子や強固に凝集した銀粒子が多いことを意味しており、このような二次粒子や粗粒子を除去しないと、CV値が40%以上になって配線材の用途に不適となる。この単分散率は次の式に従って求める。
単分散率(%)=(単分散液中の銀粒子の重量/仕込み原料から計算される理論収量)×100
単分散液中の銀粒子の重量については、次の洗浄、分散および分級工程を経て、下記の手順によって算出する。
【0028】
洗浄工程:
(1) 反応後のスラリー40mLを日立工機(株)製の遠心分離器CF7D2で3000rpmで30分固液分離を実施し、上澄みを廃棄する。
(2) 沈殿物にエタノール40mLを加えて超音波分散機で分散させる。
(3) 前記の(1) →(3) を3回繰り返す。
(4) 前記の(1) を実施して上澄み廃棄し沈殿物を得る。
【0029】
分散工程:
(1) 前記の洗浄工程を得た沈殿物にケロシンを40mL添加する。
(2) 次いで超音波分散機にかける。
【0030】
分級工程:
(1) 分散工程を得た銀粒子とケロシンの混濁液40mLを日立工機(株)製の遠心分離器CF7D2で3000rpmで30分間固液分離を実施する。
(2) 上澄み液を回収する。この上澄み液が銀粒子粉末独立分散液(単分散液)となる。
【0031】
単分散液中の銀粒子の重量算出法:
(1) 前記の分級工程で得られた単分散液を、重量既知の容器に移す。
(2) 真空乾燥機に該容器をセットして突沸しないように十分注意しながら真空度と温度を上げて濃縮・乾燥を行い、液体が観察されなくなってから、真空状態で240℃で12時間乾燥を行う。
(3) 室温まで冷却した後に真空乾燥機より取り出して重量を測定する。
(4) 前記(3) の重量から容器重量を減じて単分散液中の銀粒子の重量を求める。
(5) 前記(4) の値を用いて前記の式に従って単分散率を算出する。
【0032】
なお、前記の分級工程で得られた単分散液について動的光散乱法もしくはレーザー回折法によって粒度分布測定を行い、得られた粒度分布測定から前記の方法で比表面積(CS)を求める。X線回折についても、該単分散液を真空乾燥して濃縮したものを無反射基板に塗布して測定に供する。
【0033】
本発明に従う銀粒子粉末は、好ましくはTEM粒径(DTEM) が100nm以下、アスペクト比が2.0以下、CV値が40%以下、単結晶化度が5.0以下である。これらについては次のとおりである。
【0034】
〔TEM粒径(DTEM) 〕
本発明に従う銀ナノ粒子は、単分散液をTEM(透過電子顕微鏡)観察により測定される平均粒径(DTEM) が好ましくは100nm以下である。TEM観察では60万倍に拡大した画像から粒子300個をアトランダムに選んでその径を測定して平均値を求める。アスペクト比とCV値も同様の観察結果から求める。
【0035】
〔アスペクト比〕
本発明の銀ナノ粒子粉末のアスペクト比(長径/短径の比)は好ましくは2.0以下であり、このため配線形成用途に好適である。アスペクト比が2.0を超える場合には、その粒子の分散液を基板に塗布して乾燥したときに粒子の充填性が悪くなり、焼成時にポアが発生して抵抗が高くなり、場合によっては断線が起きることがある。
【0036】
〔CV値〕
CV値は粒径のバラツキを示す指標であり、CV値が小さいほど粒径が揃っていることを示す。CV値=100×標準偏差σ/個数平均粒径で表される。本発明の銀ナノ粒子粉末のCV値は好ましくは40%以下、さらに好ましくは25%未満であり、このため配線用途に好適である。CV値が40%を超えるものでは前記と同様に粒子の充填性が悪く焼成時のポアの発生による高抵抗化や断線が起きる可能性がある。
【0037】
〔単結晶化度〕
単結晶化度はTEM粒径/X線結晶粒径の比(DTEM) /(Dx)で表される。単結晶化度は1個の粒子中に存在する結晶の数に概略相当する。単結晶化度が大きいほど多結晶からなる粒子であると言える。本発明の銀ナノ粒子の単結晶化度は好ましくは5.0以下であり、このために粒子中の結晶粒界が少ない。結晶粒界が多くなるほど電気抵抗が高くなるが、本発明の銀ナノ粒子粉末は単結晶化度が低いので抵抗が低く、導電部材に用いる場合に好適である。
【0038】
〔動的光散乱法による平均粒径〕
本発明の銀粒子粉末を分散媒に混合して得られる本発明の分散液は,動的光散乱法による平均粒径(D50)が100nm以下であり,分散度=(D50)/(DTEM) が5.0以下である。本発明の銀粒子粉末は容易に分散媒中に分散し,かつその分散媒中において安定な分散状態をとり得る。
【0039】
分散媒中での銀ナノ粒子の分散状態は動的散乱法によって評価でき,平均粒径も算出できる。その原理は次のとおりである。一般に粒径が約1nm〜5μmの範囲にある粒子は液中で並進・回転等のブラウン運動によってその位置と方位を時々刻々と変えているが,これらの粒子にレーザー光を照射し,出てくる散乱光を検出すると,ブラウン運動に依存した散乱光強度の揺らぎが観測される。この散乱光強度の時間の揺らぎを観測することで,粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)が得られ,さらには粒子の大きさを知ることができる。この原理を用いて分散媒中での平均粒径を測定し,その測定値がTEM観察で得られた平均粒径に近い場合には,液中の粒子が個々に単分散していること(粒子同士が接合したり凝集したりしていないこと)を意味する。すなわち,分散媒中において各粒子は互いに間隔をあけて分散しており,個々単独に独立して動くことができる状態にある。
【0040】
本発明に従う分散液中の銀粒子粉末に対して行った動的光散乱法による平均粒径は,TEM観察による平均粒径に比較して,それほど違わないレベルを示す。すなわち,本発明に従う分散液について測定した動的光散乱法による平均粒径は100nm以下,好ましくは50nm以下,さらに好ましくは30nm以下であり,TEM観察の平均粒径とは大きくは異ならない。したがって,単分散した状態が実現しており,本発明によれば,銀のナノ粒子粉末が独立分散した分散液が提供される。
【0041】
なお,分散媒中において粒子が完全に単分散していても測定誤差等により,TEM観察の平均粒径と
は違いが生ずる場合がある。例えば測定時の液濃度は測定装置の性能・散乱光検出方式に適していることが必要であり,光の透過量が十分に確保される濃度で行わないと誤差が発生する。またナノオーダーの粒子の測定の場合には,得られる信号強度が微弱なため,ゴミや埃の影響が強く出て誤差の原因となるので,サンプルの前処理や測定環境の清浄度に気を付ける必要がある。ナノオーダーの粒子測定には,散乱光強度を稼ぐためにレーザー光源は発信出力が100mW以上のものが適する。さらに,粒子に分散媒が吸着している場合には,その分散媒の吸着層の影響もでるため,完全に分散していても粒径が大きくなることが知られている。特に粒径が10nmをきったあたりから特に影響が顕著になる。そのため,分散した粒子でもTEM観察でえら得た値とは全く同じにならないが,分散度=(D50)/(DTEM) が5.0以下,好ましくは3.0以下であれば良好な分散が維持されていると見てよい。(D50)/(DTEM)が5.0を超えていると、その分散液中では粒子が凝集系であり、この分散液を塗布・焼成して配線として用いた場合に配線切れや高抵抗の原因となることがわかった。
【0042】
次に本発明の銀粒子粉末の製造法を説明する。
〔製造法〕
本発明の銀粒子粉末は、沸点が85℃以上のアルコールまたはポリオール中で銀化合物(各種の銀塩や銀酸化物等)を有機保護剤の共存下で85℃以上の温度で還元処理することによって製造することができる。そのさい、有機保護剤と共に適正な極性抑制剤の存在下で前記の還元反応を進行させることによって、前記の単分散率の高い銀粒子粉末を得ることができる。有機保護剤としては分子量100〜1000の脂肪酸またはアミノ化合物の1種または2種以上を使用し、極性抑制剤としては沸点が85℃以上の炭化水素類を使用する。
【0043】
沸点が85℃以上のアルコールまたはポリオールは銀化合物の還元剤としてまた反応系の溶媒として機能するものである。アルコールとしてはイソブタノール、n−ブタノール等が好ましい。還元反応は加熱下でこの溶媒兼還元剤の蒸発と凝縮を繰り返す還流条件下で行なわせるのがよい。使用する銀化合物としては、塩化銀、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀などがあるが、工業的観点から硝酸銀が好ましいが硝酸銀に限定するものではない。本発明法では反応時の液中のAgイオン濃度は50mmol/L以上で行うことができる。
【0044】
有機保護剤は分子量100〜1000の脂肪酸またはアミノ化合物であるのがよく、とくにこれらのうち、銀に配位性の金属配位性化合物であるのがよい。銀に配位性がないか又は低い化合物を使用した場合、銀ナノ粒子を作成するのに大量の保護剤が必要となり実用的でない。金属配位性化合物は、イソニトリル化合物、イオウ化合物、アミノ化合物、或いはカルボキシル基をもつ脂肪酸などがあるが、イオウ化合物はイオウを含むため腐食の原因となり電子部品にとっては信頼性を下げる原因になり、イソニトリル化合物は有毒である等の問題をもつ。アミノ化合物および脂肪酸ではこのような問題がない。アミノ化合物の中でも第1級アミンが好ましい。第2級アミンまたは第3級アミンはそれ自体還元剤として働くため、既にアルコールを還元剤として用いる系では還元剤が2種類となり還元速度等の制御が困難になる嫌いがある。脂肪酸またはアミン化合物は、分子量が100〜1000のものであるのがよく、分子量が100未満のものでは粒子の凝集抑制効果が低く、分子量が1000を超えるものでは凝集抑制力は高くても沸点も高くなるので銀粉末の分散液を塗布して焼成するときに粒子間の焼結を阻害して配線の抵抗が高くなってしまい、場合によっては、導電性をもたなくなることもある。
【0045】
極性抑制剤としての炭化水素類は、溶媒兼還元剤であるアルコールおよび/またはポリオールと相溶性があり、且つ融点が30℃以下で沸点が85℃以上のものを使用するのがよい。融点が30℃を超えるものでは取り扱い時に常に加温が必要となるので工業的に好ましくない。また沸点が85℃未満のものではオートクレーブのような特殊な反応器でないかぎり、反応温度を85℃以上にすることは困難となる。反応温度が85℃未満では還元力が極めて弱く、銀の析出量が極めて低下してしまうたので好ましくない。極性抑制剤の使用量としては、総液量の5〜90%であればよい。5%未満では分散効率の向上効果が少なく、また酸性点・塩基性点を減少させる効果も小さい。しかし90%を超える使用量では極性が小さくなりすぎて、硝酸銀等の銀原料の溶解度が極端に下がってしまい、その結果反応が不均一系になってしまうので望ましくない。極性抑制剤に使用できる炭化水素としては、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、エチルベンゼン、キシレン、オクタン、ジペンテン、デカン、デカリン、テトラリン、ケロシン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、ベンゼン、ヘプタンなどを挙げることができる。
【実施例】
【0046】
〔実施例1〕
溶媒兼還元剤としてイソブタノール(和光純薬株式会社製の特級)140mLに、極性抑制剤としてテトラデカン(東京化成株式会社製)を93.5mL添加し、さらに有機保護剤としてオレイルアミン(和光純薬株式会社)を92.92mLと、銀化合物としての硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)を9.609g添加し、マグネットスターラーにて攪拌して強酸銀を溶解させる。
【0047】
この溶液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ、容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/minの流量で吹込みながら、該溶液をマグネットスターラーにより200rpmの回転速度で撹拌しつつ加熱し、100℃の温度で5時間の還流を行って反応を終了した。そのさい100℃に至るまでの昇温速度は2℃/min とした。
【0048】
反応終了後のスラリーについて本文に記載した洗浄、分散および分級を実施し、本文に記載した方法で諸特性の評価を行なった。その結果、単分散率は81.5%であった。また単分散液の銀粒子粉末は、TEM平均粒径=7.0nm、アスペクト比=1.2、CV値=15.2%、比表面積(CS)=228.18m2/cm3、動的光散乱の平均粒径(D50)=26.4nm、分散度=3.77、X線結晶粒子径(Dx)=8.7nm、単結晶化度=1.24、塩基性点=0.08個/nm2、酸性点=0.70個/nm2であった。
【0049】
〔実施例2〕
極性抑制剤としてのテトラデカンをドデカンに変更した以外は、実施例1を繰り返し、得られた単分散液について同様の諸特性を評価した。その結果、単分散率は61.7%であり、単分散液の銀粒子粉末は、TEM平均粒径=7.4nm、アスペクト比=1.1、CV値=18.0%、比表面積(CS)=180.52m2/cm3、動的光散乱の平均粒径(D50)=31.0nm、分散度=4.19、X線結晶粒子径(Dx)=7.8nm、単結晶化度=1.05、塩基性点=0.11個/nm2、酸性点=0.89個/nm2であった。
【0050】
〔比較例1〕
溶媒兼還元剤としてのイソブタノールをプロパノールに変更し且つ反応温度を80℃に変更しした以外は、実施例1を繰り返した。その結果、反応終了後のスラリー中の銀の収率は1.1%と極めて低く、その沈殿物のX線回折では銀に由来するピークだけが観察され、結晶粒子径(Dx)は15.9nmであった。X線回折測定以外の測定は、サンプル量が少ないために実施できなかった。
【0051】
〔比較例2〕
溶媒兼還元剤としてのイソブタノールをエタノールに変更し且つ反応温度を75℃に変更しした以外は、実施例1を繰り返した。その結果、反応終了後のスラリー中の銀の収率は0.9%と極めて低く、その沈殿物のX線回折では銀に由来するピークだけが観察され、結晶粒子径(Dx)は25.4nmであった。X線回折測定以外の測定は、サンプル量が少ないために実施できなかった。
これらの比較例に見られるように、沸点が85℃未満のアルコールを使用してもまた反応温度が80℃未満でも、極端に銀の収率が低く生産性がよくない。
【0052】
〔比較例3〕
特許文献3に記載の方法に従って水溶液を溶媒とする湿式還元法で銀粒子粉末の製造を試みた。還元反応の後はろ過・洗浄を行い、真空乾燥機にて60℃で12時間乾燥し、そのサンプルをサンプルミルで解砕し、解砕したサンプル0.45gをIPA20mLに添加して超音波ホモジナイザーによって分散し、レーザー回折法で比表面積を測定した。その結果、比表面積(CS)=0.734m2/cm3、動的光散乱の平均粒径(D50)=3.01μm、結晶粒子径(Dx)=34.8nm、単結晶化度=86.49、塩基性点=0.04個/nm2、酸性点は204.90個/nm2であった。得られた銀粒子粉末の走査型電子顕微鏡写真を図3に示した。図3見られるように粒子が不定形であり、このため、TEM粒径、アスペクト比およびCV値は測定不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】銀粒子粉末の単分散状態を示すTEM写真である。
【図2】還元反応直後の銀粒子粉末のTEM写真である。
【図3】比較例で得られた銀粒子粉末のTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積(CS)が50m2/cm3以上、X線結晶粒子径(Dx)が50nm以下、塩基性点が10.0個/nm2以下および酸性点が10.0個/nm2以下の銀粒子粉末。
【請求項2】
比表面積(CS)が50m2/cm3以上、X線結晶粒子径(Dx)が50nm以下で粒子表面に分子量100〜1000の有機保護剤が被着している銀粒子粉末。
【請求項3】
有機保護剤は脂肪酸またはアミノ化合物の1種または2種以上である請求項2に記載の銀粒子粉末。
【請求項4】
請求項1または2に記載の銀粒子粉末を無極性または低極性の有機分散媒に分散させてなる銀粒子の
分散液であって、動的光散乱法による平均粒径(D50)が100nm以下であり、分散度=(D50)/(DTEM) が5.0以下である銀粒子の分散液。
【請求項5】
有機溶媒中で銀化合物を還元する銀粒子粉末の製造方法において、前記の有機溶媒として、還元剤として機能するアルコールまたはポリオールの1種または2種以上を使用し、その還元反応を有機保護剤および極性抑制剤の存在下で進行させることを特徴とする銀粒子粉末の製造方法。
【請求項6】
有機保護剤が分子量100〜1000の脂肪酸またはアミノ化合物の1種または2種以上であり、極性抑制剤が炭化水素である請求項5に記載の銀粒子粉末の製造方法。
【請求項7】
アルコールまたはポリオールは沸点が85℃以上のものであり、極性抑制剤は沸点85℃以上の炭化水素である請求項5または6に記載の銀粒子粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の銀粒子粉末を沸点が60℃以上の無極性または低極性の分散媒に分散させ、得られた分散液から粗粒子を分離して銀微粒子が独立分散した銀分散液を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−241494(P2006−241494A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56035(P2005−56035)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】