説明

銀超微粒子分散液およびこれを含有した抗菌性窯業用表面処理剤

【課題】分散安定性に優れた銀超微粒子分散液および抗菌性窯業用表面処理剤を提供する。
【解決手段】水を主体に含有し、下記一般式(A)で表される化合物を含有することを特徴とする銀超微粒子分散液。
【化1】


一般式(A)において、Rは−SOM、−COOM、−OHおよび−NHRから成る群から選ばれた少くなくとも1種で置換された有機残基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属原子又は、四級アンモニウム基、四級ホスホニウム基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、−COR、−COORまたは−SOを表わす。Rは水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を主体に含有する銀超微粒子分散液に関するものであり、特に抗菌性を付与した窯業用表面処理剤に用いる銀超微粒子分散液、および抗菌性窯業用表面処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一次粒子径が1μm以下の銀超微粒子、特に100nm以下の銀超微粒子は、極めて高い表面エネルギーによる融点低下や、局在化表面プラズモンによる電場増強効果等の特徴を有することから、導電性材料、表面増強ラマン散乱分光、太陽電池、光輝性塗料、色材等の様々な分野での応用が期待されている一方、銀超微粒子を抗菌性金属として使用する検討も進んでいる。このような銀超微粒子の製造方法は、乾式法と湿式法に大別され、水および/または有機溶媒に分散された銀超微粒子分散液の形で使用される。
【0003】
例えば、特開平3−34211号公報には、乾式法であるガス中蒸発法により製造された銀を含む各種金属超微粒子を高沸点溶媒中に分散した金属超微粒子分散液の製造方法が開示されており、また特開2004−273205号公報には、ガス中蒸発法により合成された銀超微粒子を原料に用い、表面をアミン化合物によって被覆した銀超微粒子を高沸点溶媒中に分散した銀超微粒子分散液の製造方法が開示されている。
【0004】
湿式法による銀超微粒子の製造方法としてはCarey Leaが1889年に発表した方法(非特許文献1、Am.J.Sci.,vol.37,pp.491,1889)が古くから知られており、また特公平1−28084号公報(特許文献1)、特開平10−66861号公報(特許文献2)、特開2003−103158号公報(特許文献3)、特開2006−328472号公報(特許文献4)、特開2008−4375号公報(特許文献5)等には、水を主体に含有する水性媒体中に、保護コロイドあるいは分散剤として作用する水溶性高分子化合物と金属イオンを含有させ、還元剤により該金属イオンを還元し金属超微粒子を製造する方法が開示されている。しかしながらこのような製造方法において製造した銀超微粒子分散液は、経時によって銀超微粒子の分散安定性が低下するという問題があった。
【0005】
銀超微粒子の分散安定性に関しては、国際公開第2005/10100号パンフレット(特許文献6)では特定の重合体を用いて銀超微粒子の表面を修飾することで樹脂中での分散性を高める方法が開示され、特開2008−120863号公報(特許文献7)および国際公開第2002/013999号パンフレット(特許文献8)においてメルカプト酸、メルカプト酸塩およびメルカプトエタノール等のメルカプト化合物を用いて銀超微粒子分散液の分散安定性を改善する方法が開示されている。また、メルカプト化合物を銀を主成分とするペーストの防錆剤として利用することが、特開2007−116137号公報(特許文献9)に開示されている。
【0006】
一方、窯業製品の表面には、抗菌性を付与するための抗菌剤として、抗菌性金属を含有した窯業用表面処理剤を用いることによって、オリゴジナミー効果による(菌やカビ等の繁殖を抑制させる)抗菌性を発現することが知られている。
【0007】
例えば、特開平5−201747号公報には前記抗菌性金属をハイドロキシアパタイトに担持させた複合粒子や、特開平6−127975号公報にはリン酸カルシウム化合物に含有させた複合粒子、特開平7−196384号公報には酸化銀、金属銀、もしくは任意の銀化合物、および、特開2008−105920号公報(特許文献10)には金属超微粒子を用いる等の記載がされている。このような抗菌性金属は一般的には釉薬成分である、長石(珪酸)、粘土(カオリン)、珪石、ソーダ、カリ、アルミナ、石灰等の任意の組み合わせからなる窯業用表面処理剤に含有される。このような釉薬成分中に、前述した分散安定性を改良した銀超微粒子を抗菌性金属として用いたとしても、銀超微粒子が極めて低い低濃度で含有されることや、窯業用表面処理剤のpHが高い領域であることから分散液中の銀超微粒子が経時により凝集して粗大化あるいは沈降し、十分な分散安定性を得ることは極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平1−28084号公報
【特許文献2】特開平10−66861号公報
【特許文献3】特開2003−103158号公報
【特許文献4】特開2006−328472号公報
【特許文献5】特開2008−4375号公報
【特許文献6】国際公開第2005/10100号パンフレット
【特許文献7】特開2008−120863号公報
【特許文献8】国際公開第2002/013999号パンフレット
【特許文献9】特開2007−116137号公報
【特許文献10】特開2008−105920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、水を主体に含有した銀超微粒子分散液であって、特に抗菌性を付与した窯業用表面処理剤に用いることができる分散安定性に優れた銀超微粒子分散液、および抗菌性窯業用表面処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、以下の発明によって基本的に達成された。
1.水を主体に含有し、下記一般式(A)で表される化合物を含有することを特徴とする銀超微粒子分散液。
【0011】
【化1】

【0012】
一般式(A)において、Rは−SOM、−COOM、−OHおよび−NHRから成る群から選ばれた少くなくとも1種で置換された有機残基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属原子又は、四級アンモニウム基、四級ホスホニウム基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、−COR、−COORまたは−SOを表わす。Rは水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
2.1記載の銀超微粒子分散液を含有する抗菌性窯業用表面処理剤。
【発明の効果】
【0013】
上記メルカプトテトラゾール化合物を含有した銀超微粒子分散液を用いることで、釉薬液中にて低濃度状態であっても優れた分散安定性および抗菌性を付与できる銀超微粒子分散液および抗菌性窯業用表面処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明者は、水を主体に含有した銀超微粒子分散液の分散安定性について鋭意検討した結果、上記した特定のメルカプトテトラゾール化合物を含有させることで釉薬液中において低濃度の分散状態であっても優れた分散安定性と抗菌性を付与できる銀超微粒子分散液が得られることを見いだした。
【0016】
本発明における、水を主体に含有した銀超微粒子分散液とは水性媒体の溶媒として、水が少なくとも80質量%以上であることを示し、好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは98質量%以上であることを意味する。水以外に含まれる溶媒としては、アルコール類、グリコール類、アセトン等の水と混和性の高い有機溶媒を例示することができる。
【0017】
本発明の銀超微粒子分散液が含有する銀超微粒子は、銀の占める割合が少なくとも50質量%以上である金属超微粒子であることが好ましく、より好ましくは銀の占める割合が70質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。銀以外に含まれる金属としては、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、ニッケル、ビスマスを挙げることができる。銀以外の金属は銀超微粒子中に含まれていても良く、銀超微粒子と銀以外の金属の超微粒子が混合していても良い。
【0018】
銀超微粒子の平均粒径は、得られる抗菌性の観点から0.1μm以下であることが好ましい。なお、銀超微粒子の平均粒径は、電子顕微鏡下での観察により求めることができる。詳細にはポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、銀超微粒子分散液を塗布、乾燥させ、走査型電子顕微鏡にて観察し、一定面積内に存在する100個の粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子径として平均し求める。
【0019】
銀超微粒子としては、不活性ガス中で金属を蒸発させガスとの衝突により冷却・凝縮し回収するガス中蒸発法、レーザー照射のエネルギーにより液中で蒸発・凝縮し回収するレーザーアブレーション法、水溶液中で溶液中金属イオンを還元し生成・回収する化学的還元法、有機金属化合物の熱分解による方法、金属塩化物の気相中での還元による方法、酸化物の水素中還元法等、公知の種々の方法により製造されたものを好ましく用いることができる。本発明においては、銀超微粒子分散液の作製が容易になる点より化学的還元法で作製された銀超微粒子がより好ましい。化学的還元法とは水溶性銀塩を塩基性化合物と水溶性高分子化合物の存在下で還元剤により還元する方法である。
【0020】
化学的還元法に用いられる水溶性銀塩は、水に対する溶解度の高い硝酸銀塩、フッ化銀塩、過塩素酸銀塩が好ましく、工業用途として広く用いられている硝酸銀塩が特に好ましい。また、水を主体に含有する水性媒体中に含有せしめる水溶性銀塩の量は、該水性媒体中に水溶性銀塩、塩基性化合物、水溶性高分子化合物および還元剤等を含有せしめた混合物1kgに対して、銀イオンに換算して0.1モル以上、より好ましくは0.5モル以上であることが好ましい。なお上限は、水溶性銀塩および塩基性化合物の溶解濃度の上限に到達することから、約2.8モル以下とすることが望ましい。
【0021】
本発明の銀超微粒子の製造方法において、塩基性化合物として、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム、リン酸三カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、アンモニア水等を用いることができ、併用することもできる。
【0022】
塩基性化合物の添加量は、水溶性銀塩由来の銀イオンと当量以上で添加することが好ましい。当量未満の場合、形成される銀超微粒子の量が減少し銀超微粒子の収率が低下する場合がある。上限は特にないが塩基性化合物の添加量を増やすと、反応後に得られる銀超微粒子を含有する分散液の総量が増加し生産性が低くなるため、2当量以下とすることが望ましい。
【0023】
水溶性高分子化合物は、反応過程で一時的に生成する酸化銀あるいは還元により形成された銀超微粒子の保護コロイドあるいは分散剤として作用し、銀超微粒子の製造に使用される公知の水溶性高分子化合物を使用すれば良く、例えばアラビアゴム、デキストラン、デキストリン等の多糖類やゼラチン等の天然高分子化合物、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリアリルアミン等の合成高分子化合物を広く用いることができる。
【0024】
水溶性高分子化合物の添加量は、種類および製造する銀超微粒子の粒径により変化するが、水溶性銀塩由来の銀イオン1モルに対して1gから200gが好ましく、より好ましくは20gから100gである。
【0025】
還元剤としては、公知の銀イオンを銀に還元することができる還元剤から溶解度の高いものを選択すれば良く、銀塩写真用の現像試薬として知られるハイドロキノン、ハイドロキノンモノスルフォネートカリウム塩、アスコルビン酸またはその塩、無電解鍍金の還元剤として知られる水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン化合物、ホルマリン、ホスフィン酸またはその塩、酒石酸またはその塩、他にデキストリン、マルトース、グルコース等の多糖類や二糖類、単糖類を例示することができる。
【0026】
還元剤の添加量は、水溶性銀塩由来の銀イオンと当量以上添加することが望ましい。上限は特にないが還元剤の添加量を増やすと、得られる銀超微粒子分散液の総量が増加し生産性が低くなるため、2当量以下が好ましい。但し、多糖類や二糖類および単糖類を用いる場合には、同時に加えられる塩基性化合物により加水分解され、アルドン酸を経てグリコール酸等のオキシ酸およびギ酸等の種々の酸を種々の割合により生じ、これらが還元に寄与するため、化学量論的に論じることができない。実際にはグルコースあるいはフルクトース単位あたり少なくとも5電子から10電子の還元が可能である。従って多糖類や二糖類および単糖類を使用する場合、グルコースあるいはフルクトース単位として水溶性銀塩由来の銀イオンに対して0.1〜0.4当量とすることが好ましい。
【0027】
還元剤として多糖類や二糖類および単糖類を用いる場合には、塩基性化合物が加水分解に消費されるため、塩基性化合物は、水溶性銀塩由来の銀イオンに対して少なくとも当量を超えて添加することが必要であり、1.15当量以上が好ましく、1.3当量以上が特に好ましい。また、多糖類を用いる場合には多糖類は水溶性高分子化合物としての効果を兼ねることもできる。
【0028】
次に本発明に含有する一般式(A)で示されるメルカプトテトラゾール化合物について説明する。
【0029】
【化2】

【0030】
一般式(A)において、Rは−SOM、−COOM、−OHおよび−NHRから成る群から選ばれた少くなくとも1種で置換された有機残基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属原子(例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなど)、四級アンモニウム基(例えばアンモニオ、テトラメチルアンモニオ、ベンジルトリメチルアンモニオ、テトラブチルアンモニオ)または四級ホスホニウム基(例えばテトラメチルホスホニオ)を表し、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、−COR、−COORまたは−SOを表わす。Rは水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
【0031】
ここで、有機残基とは、具体的には炭素数1〜10のアルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル、ヘキシル、シクロヘキシル)、炭素数6〜14のアリール基(例えばフェニル、ナフチル)を示す。
【0032】
一般式(A)のRで表される有機残基は更に置換されていても良く、置換基としては以下のものが挙げられる。
【0033】
ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、シアノ基、ニトロ基、アンモニオ基(例えば、トリメチルアンモニオ)、ホスホニオ基、スルホ基(塩を含む)、スルフィノ基(塩を含む)、カルボキシ基(塩を含む)、ホスホノ基(塩を含む)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ヒドラジノ基、アルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル,t−ブチル、n−オクチル、シクロペンチル、シクロへキシル)、アルケニル基(例えば、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニル)、アルキニル基(例えば、プロパギル、3−ペンチニル)、アラルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル)、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル、4−メチルフェニル)、ヘテロ環基(例えば、ピリジル、フリル、イミダゾリル、ピペリジル、モルホリノ)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、ブチルオキシ)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−ナフチルオキシ)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、エチルチオ)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ)、アミノ基(例えば、無置換のアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、アリニノ)、アシル基(例えば、アセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイル)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル)、カルバモイル基(例えば、無置換のカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N−エチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ、ベンゾイルオキシ)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ)、ウレイド基(例えば、無置換のウレイド、N−メチルウレイド、N−フェニルウレイド)、アルキルスルホニルアミノ基(例えば、メチルスルホニルアミノ)、アリールスルホニルアミノ基(例えば、フェニルスルホニルアミノ)、アルキルスルホニルオキシ基(例えば、メチルスルホニルオキシ)、アリールスルホニルオキシ基(例えば、フェニルスルホニルオキシ)、アルキルスルホニル基(例えば、メシル)、アリールスルホニル基(例えば、トシル)、アルコキシスルホニル基(例えば、メトキシスルホニル)、アリールオキシスルホニル基(例えば、フェノキシスルホニル)、スルファモイル基(例えば、無置換のスルファモイル、N−メチルスルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル)、アリールスルフィニル基(例えば、フェニルスルフィニル)、アルコキシスルフィニル基(例えば、メトキシスルフィニル)、アリールオキシスルフィニル基(例えば、フェノキシスルフィニル)、リン酸アミド基(例えば、N,N−ジエチルリン酸アミド)などである。これらの基は更に置換されていてもよい。また、置換基が2つ以上ある時は同じであっても、異なっていてもよい。
【0034】
ここでRの置換基−SOM、−COOM、−OHおよび−NHRが2個以上あってもよく、その置換基は同じであっても、異なっていてもよい。
【0035】
一般式(A)において、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、−COR、−CO、または−SOを表し、Rは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、シクロヘキシル、ドデシル、オクタデシル)、アリール基(例えばフェニル、ナフチル)を表す。これらの基は、Rの置換基として挙げた置換基が置換していてもよい。
【0036】
本発明に用いられるメルカプトテトラゾール化合物の使用量は、銀超微粒子の製造に使用する水溶性銀塩中より換算した銀1モルに対して、好ましくは10g〜0.01gであり、より好ましくは5g〜0.5gである。
【0037】
以下に一般式(A)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

【0040】
【化5】

【0041】
【化6】

【0042】
【化7】

【0043】
本発明で得られた銀超微粒子分散液は抗菌用表面処理剤の用途以外にも使用可能であり、銀超微粒子と共に含まれている塩類や過剰な水溶性高分子化合物等を、限外濾過や遠心分離等の公知の方法により減少させ、含まれている銀超微粒子の濃度を目的に応じ調整し、必要に応じ粘度調整剤やバインダー等を添加して銀超微粒子含有組成物とし、導電性材料、表面増強ラマン散乱分光、太陽電池、光輝性塗料、色材等の公知の用途に使用することもできる。また、銀超微粒子を含有する分散液より銀超微粒子を乾燥等の方法により取り出し、粉体として利用することや、有機溶媒等に再分散させ利用することもできる。
【0044】
次に本発明の抗菌性窯業用表面処理剤について説明する。窯業用表面処理剤とは一般的には釉薬成分である、長石(珪酸)、粘土(カオリン)、珪石、ソーダ、カリ、アルミナ、石灰等の任意の組み合わせからなり、このような釉薬成分はアルカリ性のものが多く、窯業用表面処理剤はpHが10以上と高い領域で用いられることとなる。本発明の抗菌性窯業用表面処理剤は上記窯業用表面処理剤に銀超微粒子分散剤を含有させたものであり、特にpHが12以上で含有された場合により分散安定性の効果が顕著になる。
【0045】
本発明の抗菌性窯業用表面処理剤において含有する本発明の銀超微粒子の好ましい量は抗菌性を考慮し抗菌性窯業用表面処理剤の全量に対して0.0001〜1質量%であり、より好ましくは0.001〜0.1質量%である。
【0046】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【実施例】
【0047】
《実施例1》
<銀超微粒子分散液1の作製>
ビーカーに低分子量ゼラチン(分子量約1万)を16gと純水181gを加え膨潤後、50℃で溶解し、15℃まで冷却した後、グルコース6.3gを加えて溶解した。更にその液にメルカプトテトラゾール化合物A−1を1g添加し溶解後、純水78.5gに硝酸銀71.5gを溶解した液を加えて撹拌し、溶解した。この液を氷浴中にて約10℃まで冷却を行い、それに純水67.2gに水酸化カリウム32.8gを溶解した10℃の液を撹拌した状態で添加し30分間の還元反応を実施することで10質量%の銀超微粒子分散液1を得た。
【0048】
《実施例2》
<銀超微粒子分散液2の作製>
実施例1のメルカプトテトラゾール化合物A−1に替えてA−2を添加する以外は実施例1同様に10質量%の銀超微粒子分散液2を作製した。
【0049】
《実施例3》
<銀超微粒子分散液3の作製>
実施例1のメルカプトテトラゾール化合物A−1に替えてA−6を添加する以外は実施例1同様に10質量%の銀超微粒子分散液3を作製した。
【0050】
《実施例4》
<銀超微粒子分散液4の作製>
実施例1のメルカプトテトラゾール化合物A−1に替えてA−9を添加する以外は実施例1同様に10質量%の銀超微粒子分散液4を作製した。
【0051】
《比較例1》
<銀超微粒子分散液5の作製>
実施例1のメルカプトテトラゾール化合物を添加しない以外は実施例1同様に10質量%銀超微粒子分散液5を作製した。
【0052】
《比較例2》
<銀超微粒子分散液6の作製>
実施例1のメルカプトテトラゾール化合物A−1に替えてメルカプト酢酸を添加する以外は実施例1同様に10質量%銀超微粒子分散液6を作製した。
【0053】
《比較例3》
<銀超微粒子分散液7の作製>
実施例1のメルカプトテトラゾール化合物A−1に替えて2−メチルベンゾチアゾールを添加する以外は実施例1同様に10質量%銀超微粒子分散液7を作製した。
【0054】
《比較例4》
<銀超微粒子分散液8の作製>
実施例1のメルカプトテトラゾール化合物A−1に替えて2−メルカプトイミダゾールを添加する以外は実施例1同様に10質量%銀超微粒子分散液8を作製した。
【0055】
<抗菌性窯業用表面処理剤の調製>
釉薬成分として、70質量部の長石、25質量部の石灰、5質量部の粘土と100質量部の水と共に混合し、pHが12となるように窯業用表面処理剤を調製した。
【0056】
<抗菌性の評価1>
上記作製した窯業用表面処理剤100g中に、それぞれ銀超微粒子分散液1〜8を0.02g添加した抗菌性窯業用表面処理剤を、タイル素地の表面に吹き付け塗布、乾燥した後、電気炉にて30分間加熱焼成することで抗菌性釉薬層1〜8を形成した。それぞれの釉薬層表面に黄色ブドウ糖菌の菌株1ミリリットルを滴下した後、滅菌ポリエチレンフィルムを載置して、25℃で24時間静置し、{(対照生菌数−サンプル生菌数)/対照生菌数}×100=滅菌率(%)として求めたところ、1〜8全て99%を超える抗菌率であり、銀超微粒子分散液を添加することで抗菌性は良好であった。
【0057】
<分散安定性の評価1>
釉薬成分として35質量部の珪酸ソーダ2号と65質量部の水を混合しpHが12の窯業用表面処理剤を調製した。窯業用表面処理剤100g中に、それぞれ銀超微粒子分散液1〜8を0.02g添加した抗菌性窯業用表面処理剤1〜8を作製し、経時による分散安定性について評価した。評価方法としては銀超微粒子の黄色プラズモンを12時間ごとに目視で確認し、凝集沈降して色がなくなるまでの時間を最長1週間まで観察確認した。結果を表1に示す。
【0058】
<分散安定性の評価2>
銀超微粒子分散液1〜8の添加量を0.2gにした以外は分散安定性の評価1と同様にして実施した。その結果を表1に示す。
【0059】
<分散安定性の評価3>
銀超微粒子分散液1〜8の添加量を1.0gにした以外は分散安定性の評価1と同様にして実施した。その結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
以上の結果から、本発明の銀超微粒子分散液により、釉薬中にて低濃度状態であっても優れた分散安定性と抗菌性を付与できる銀超微粒子分散液が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を主体に含有し、下記一般式(A)で表される化合物を含有することを特徴とする銀超微粒子分散液。
【化1】

一般式(A)において、Rは−SOM、−COOM、−OHおよび−NHRから成る群から選ばれた少くなくとも1種で置換された有機残基を表し、Mは水素原子、アルカリ金属原子又は、四級アンモニウム基、四級ホスホニウム基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、−COR、−COORまたは−SOを表わす。Rは水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
【請求項2】
請求項1記載の銀超微粒子分散液を含有する抗菌性窯業用表面処理剤。

【公開番号】特開2012−82116(P2012−82116A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231428(P2010−231428)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】