説明

銅及び銅酸化物触媒を利用した大気環境修復方法

【課題】 比較的安価で毒性の低い銅及び銅酸化物触媒を利用した大気環境修復方法に係り、特に、大気環境改善及び大気環境浄化を充分に期待できる、炭酸ガスの有効な還元・変換方法並びに水溶液からの水素生成方法における、銅及び銅酸化物触媒を利用した促進効果を提供する。
【解決手段】 水溶液溶媒中に炭酸ガスを溶解し、炭酸ガスが溶解した水溶液溶媒中に銅又は銅酸化物を懸濁させ、その懸濁溶液に電極を挿入し、炭酸ガスを電解還元することを特徴とする大気環境修復方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的安価で毒性の低い銅及び銅酸化物触媒を利用した大気環境修復方法に係り、特に、大気環境改善及び大気環境浄化を充分に期待できる、炭酸ガスの有効な還元・変換方法並びに水溶液からの水素生成方法における、銅及び銅酸化物触媒を利用した促進効果に関するものである。
【背景技術】
【0002】
21世紀は環境の世紀と呼ばれており、地球環境問題が世界的な関心事となってきている。特に、人類及び生態系に直接関わってくる大気環境問題が非常に懸念されてきており、化石燃料などのエネルギー問題と密接に関連している地球温暖化問題が最も深刻な問題の一つになってきている。地球温暖化問題の原因は、化石燃料の使用による炭酸ガスの世界的な大量の排出にある。しかも、その排出量が近年非常に大きくなり、これに対処するための技術が多数提案されてきている。一方、化石燃料に代わる新エネルギーの開発も幅広く行われてきており、燃料電池システムなどを念頭においた水素エネルギー社会の移行も模索され始めている。
【0003】
炭酸ガスを大気から回収し、有用な原料物質や燃料物質に変換する炭酸ガス還元固定化技術が、世界的に研究されている。しかしながら、炭酸ガスは炭素の最も酸化された化合物であるので、化学的に極めて安定であるため、炭酸ガスを化学的に他の有用な原料物質や燃料物質に変換するには、苛酷な条件を必要とし、多大なエネルギーを投入しなければならない。例えば、300℃と100atmの高温高圧条件において、ニッケルなどの不均一触媒による炭酸ガスのメタンへの接触水素化反応が提案されているが、高温高圧条件を実現するためにエネルギーを利用しており、グローバルな観点から有効な炭酸ガス処理技術になり得ない。
【0004】
また、深海への炭酸ガスの投棄も提案されているが、深海での高濃度の炭酸ガスはプランクトンの生存に悪影響を及ぼすという指摘もあり、さらに長期的には大気中に戻ってくる可能性も指摘されており、生態系の維持との関係で危険性を伴う。
【0005】
現時点では、大気に放出される炭酸ガスを削減し、大気環境を修復する方法としては、化石燃料の消費量を低減することが効果的であるが、高度に発展した現代社会においてはその低減は極めて困難である。したがって、現代社会の文化水準を維持しながら、大気に放出される炭酸ガス等を含め、大気環境を修復にはマイルド(温和)な条件で、かつ少ないエネルギー消費で化学的に炭酸ガスを他の燃料・原料物質に変換する技術の開発、若しくは燃料電池システムなどの水素エネルギー社会を構築するために、マイルド(温和)な条件で水素を効率良く生成する技術の開発が渇望されている。
【0006】
炭酸ガスの化学的変換を試みた技術はこれまで多数報告されてきている。例えば、特許文献1に示されているように、触媒金属成分としてロジウムとリチウムと鉄とを含有し、ロジウムが金属ロジウムの形態で存在する触媒を使用し、加圧・加熱下に二酸化炭素を接触水素化することを特徴とするエタノールの製造方法を提案している。しかしながら、その好ましい製造条件は、200〜300℃の温度と30〜100kg/cmの圧力であり、苛酷な条件でのみ反応が進行する。したがって、このような高温高圧の条件を設定するためには、かなりのエネルギー源が必要であり、それを化石燃料に求めれば、二次的な大気汚染問題の発生を懸念する必要があるものであった。
【0007】
比較的マイルド(温和)な条件で、炭酸ガスを化学的変換する技術に、炭酸ガスの電気化学的還元・固定化技術がある。例えば、炭酸ガスを溶存した水溶液を電解すると、正極には酸素が発生し、負極には水素の他、メタン、エチレン等の炭化水素類が発生することが知られており、かかる電解還元を利用して、回収した炭酸ガスから炭化水素類等の有用な物質を製造する方法が提案されている。しかしながら、エチレンを高効率で生成するためには、特許文献2に示されているように、電極に特殊な処理を施す必要がある。具体的には、予めハロゲン化第1銅で被覆された銅電極をカソード電極として用い、炭酸ガスを電解還元する、又は電解液にハロゲンイオンと銅イオンを共存させ、かつ銅電極をカソード電極として用い、電解中にハロゲン化第1銅を該銅電極表面に析出させると共に、炭酸ガスを電解還元することにより、エチレンを製造する手法を提案している。ここで、予め電極を処理することは煩雑であり、電極の前処理の精度により還元結果が異なってくることは容易に予想される。
【0008】
一方、半導体光触媒を用いて水溶液から水素をマイルド(温和)な条件で生成し、燃料電池システムなどで新規なエネルギーとして利用しようとする試みも多数行われている。例えば、特許文献3に示されているように、半導体光触媒に複合金属硫化物ZnInの結晶格子中の亜鉛イオンの一部が銅イオンよりなる1価の金属イオンと、当該1価の金属イオンと等量のガリウムイオンまたはインジウムイオンよりなる3価の金属イオンとに置換されてなる構造を有する触媒物質を用い、硫黄系還元剤を含有する水溶液から水素ガスを発生させることを特徴とする手法が提案されている。この方法では、銅を半導体触媒中にドープして用いているが、複合金属硫化物の作成には、複雑の工程を有する場合がほとんどであり、生産コストが低廉でない場合がほとんどである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2611184号
【特許文献2】特許第3675793号
【特許文献3】特開2009−66529号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景に為されたものであって、その解決課題とするところは、比較的安価で毒性の低い銅及び銅酸化物触媒を利用した大気環境修復方法を提供することにあり、特に、大気環境改善及び大気環境浄化を充分に期待できる、炭酸ガスの有効な還元・変換方法並びに水溶液からの水素生成方法における、銅及び銅酸化物触媒を利用した促進効果を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明者が、大気環境改善及び大気環境浄化方法について鋭意検討を重ねた結果、比較的安価で毒性の低い銅及び銅酸化物触媒を利用することが、炭酸ガスの有効な還元・変換方法並びに水溶液からの水素生成方法に有効であることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0012】
すなわち、本発明は、水溶液溶媒中に炭酸ガスを溶解し、炭酸ガスが溶解した水溶液溶媒中に銅又は銅酸化物を懸濁させ、その懸濁溶液に電極を挿入し、炭酸ガスを電解還元することを特徴とする、大気環境修復方法をその要旨とするものである。
【0013】
なお、かかる本発明に従う大気環境修復方法の望ましい態様の一つによれば、前記水溶液溶媒としてメタノールを利用することとなる。
【0014】
また、このような本発明に従う大気環境修復方法の他の望ましい態様の一つによれば、前記水溶液溶媒温度を−30〜0℃で行うこととなる。
【0015】
さらに、かかる本発明に従う大気環境修復方法の別の望ましい態様の一つによれば、前記懸濁量が0〜60g/Lの範囲で利用することとなる。
【0016】
なお、本発明は、水溶液溶媒中に半導体光触媒粉末と銅粉末を懸濁させ、これに人工光源若しくは太陽光源からの紫外線及び可視光線を照射して水素を生成させ、発生した水素を有効利用することを特徴とする、大気環境修復方法もその要旨とするものである。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明に従う大気環境修復方法にあっては、比較的安価で毒性の低い銅及び銅酸化物触媒を利用し、比較的マイルドな条件で炭酸ガスの電解還元を進行させることができるため、懸濁溶液に挿入する電極材料に安価な金属を選択すれば、原料コストも低廉で、低コストで炭酸ガス還元・固定化を実施することができるようになっている。
【0018】
また、本発明に従う大気環境修復方法では比較的安価で毒性の低い銅及び銅酸化物触媒を利用して炭酸ガスの電気化学的還元固定化を行うため、懸濁溶液に挿入する電極材料の材質に依存することなく、炭化水素類を得ることが可能である。
【0019】
しかも、本発明に従う大気環境修復方法で利用する水溶液溶媒として、メタノール溶媒を利用していることから、水と比較して、炭酸ガスの溶解度が常温で4倍、0℃以下で8倍以上であることから、炭酸ガスの溶媒への吸収速度が速く、産業排ガス中の炭酸ガスを有効に利用でき得ることとなる。メタノール電解液中に炭酸ガスを溶存させる方法としては、炭酸ガスを吹き込む方法が一般的であり、本発明においても有効である。なお、炭酸ガスの吹き込みは、電解還元の最中に継続的に行っても良いし、断続的に行っても良い。
【0020】
さらに、本発明に従う大気環境修復方法で利用する水溶液溶媒温度は、好ましくは低温であり、炭酸ガスの還元固定化処理の操作温度を低温にすることにより、炭酸ガスの溶媒への吸収速度がより向上し、産業排ガス中の炭酸ガスをさらに有効に利用でき得ることとなり得る。
【0021】
また、本発明に従う大気環境修復方法によれば、水溶液溶媒中に半導体光触媒粉末と銅粉末を懸濁させ、これに人工光源若しくは太陽光源からの紫外線及び可視光線を照射して水素を生成させ、発生した水素を有効利用するが、半導体光触媒粉末のみで水素を発生させるより、安価な銅粉末を共に懸濁させた方が、より有利に水素を得ることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】銀棒擬似参照電極に対して、−2.7Vの電位を用いてCuO粉末を懸濁させた場合の電解還元における、還元生成物でメタンとエチレンの電流効率。
【図2】銅粉末を添加した場合の水素生成。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ところで、かかる本発明に従う大気環境修復方法において、比較的安価で毒性の低い銅及び銅酸化物触媒を電解液中に懸濁せしめて、炭酸ガスの電気化学的還元固定化を行うこととなるが、特に望ましい形態には、1マイクロメートル以下のナノサイズの微粉末状のものが好適に用いられるのである。粒子径が小さいと、比表面積が大きくなり、炭酸ガス還元により有効に働く。
【0024】
また、本発明に従う大気環境修復方法で利用する水溶液溶媒電解液に添加する支持電解質は、電解液に溶解し、炭酸ガスの電気化学的還元固定化を妨げず、炭酸ガスの有効物質への変換が進行する塩であれば、無機塩及び有機塩のどちらでも良い。リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩などが用いられ、具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化セシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化セシウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸セシウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩を用いることとなる。濃度については、特に限定はなく、通常はモル濃度として50mM以上の濃度とするのが良い。
【0025】
そして、本発明に従う大気環境修復方法で利用する水溶液溶媒電解液の温度は−30〜0℃の範囲の温度において適宜で選定し、炭酸ガスの電解還元を実施することとなる。0℃以下では炭酸ガスの溶解度が常温の水より著しく大きいため、産業排ガスの電解液の吸収が効率良く進むことになる。−30℃以下では、電解液の電気伝導度が著しく低下し、電流密度(反応速度)が低く、実用化に不向きである。
【0026】
なお、本発明に従う大気環境修復方法において、それに利用する銅及び銅酸化物触媒は、0〜60g/Lの範囲で適宜懸濁することになるが、特に有利には、30〜40g/Lの範囲内の懸濁量が採用されることとなる。60g/Lより懸濁量が多くなりすぎると、電流密度が極端に低下し、電解還元(炭酸ガス処理速度)が著しく遅くなる。
【0027】
そして、かかる本発明に従う大気環境修復方法として、水溶液溶媒中に半導体光触媒粉末と銅粉末を懸濁させ、これに人工光源若しくは太陽光源からの紫外線及び可視光線を照射して水素を生成させる場合において、有利に実施する要素は、その半導体粉末には酸化チタン粉末が用いられると、水素生成能力が高められ得て、水素が効果的に発生せしめられることになるのである。なお、光触媒作用を有する酸化チタン粉末としては、アナターゼ型とルチル型が知られているが、アナターゼ型のものの方が光触媒活性が高いところから、本発明においては、アナターゼ型の酸化チタン粉末が有利に用いられることとなる。また、この酸化チタン粉末は、粒子径が小さく、比表面積が大きいほど活性が高いところから、一般に1〜50ナノメートル程度の微粉末状のものが、好適に用いられるのである。そして、そのような酸化チタン粉末は、各種の市販品の中から適宜に選択されることとなる。
【0028】
また、本発明に従う大気環境修復方法として、水溶液溶媒中に半導体光触媒粉末を懸濁させ、これに人工光源若しくは太陽光源からの紫外線及び可視光線を照射して水素を生成させる場合において、比較的安価で毒性の低い銅粒子を混濁させると、水素生成能力が向上し、水素が効果的に生成せしめられることになるのである。なお、混濁せしめられる銅粒子は、粒子径が小さく、比表面積が大きいほど活性が高いところから、一般に、0.01〜1マイクロメートル程度の微粉末状のものが、好適に用いられるのである。そして、そのような銅粉末は、各種の市販品の中から適宜に選択されることとなる。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を、更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0030】
試験例1
電解還元は、H型ガラスセルを用いて行った。カソード液には、メタノール溶液に水酸化カリウムを80mM濃度になるように溶解した。アノード溶液には、メタノール溶液に水酸化カリウムを300mM濃度になるように溶解した。カソード溶液には、CuO粉末(直径:33ナノメートル、純度99.99%)を加え、マグネチックスターラーにより懸濁した。カソード液、アノード液とも、−30℃に冷却した。カソード電極として鉛板(縦30mm、横20mm、厚さ0.1mm、純度99.98%)を使用し、アノード電極として白金板(縦30mm、横20mm、厚さ0.1mm、純度99.98%)を使用した。参照電極は、銀棒擬似参照電極を用いた。炭酸ガスをカソード液に吹き込み方式により飽和させ、炭酸ガスの電気化学的還元を行った。電気化学的還元方式は、定電位方式を用いた。通電電気量は、50クーロンであった。電解が終了した後、炭酸ガスからの還元生成物は、ガスクロマトグラフィーと高速液体クロマトグラフィーにより解析した。還元生成物の生成量から、電流効率を算出した。
【0031】
銀棒擬似参照電極に対して、−2.7Vの電位を用いてCuO粉末を懸濁させた場合の電解還元結果を図1に示す。
【0032】
かかる図1の結果から明らかなように、CuO粉末の添加量が増加するにつれて、炭化水素類の電流効率が増加することが、認められた。
【0033】
試験例2
10%メタノール水溶液に酸化チタン20mg(Degussa社製P−25)と銅粒子(直径:1マイクロメートル、純度99.99%、比表面積0.666m/g)を加え、マグネチックスターラーで撹拌した。水温は50℃で一定とした。ブラックライトを用いて3時間光照射を行い、水素を発生させた。発生した水素生成量は、ガスクロマトグラフィーで分析した。
【0034】
銅粉末を添加した場合の結果を図2に示す。
【0035】
かかる図2の結果から明らかなように、銅粒子を添加することにより、水素生成量が約100倍増加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液溶媒中に炭酸ガスを溶解し、炭酸ガスが溶解した水溶液溶媒中に銅又は銅酸化物を懸濁させ、その懸濁溶液に電極を挿入し、炭酸ガスを電解還元することを特徴とする大気環境修復方法。
【請求項2】
前記水溶液溶媒がメタノールであることを特徴とする請求項1に記載の大気環境修復方法。
【請求項3】
前記水溶液溶媒温度が−30〜0℃であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の大気環境修復方法。
【請求項4】
前記懸濁量が0〜60g/Lの範囲にあることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の大気環境修復方法。
【請求項5】
水溶液溶媒中に半導体光触媒粉末と銅粉末を懸濁させ、これに人工光源若しくは太陽光源からの紫外線及び可視光線を照射して水素を生成させ、発生した水素を有効利用することを特徴とする大気環境修復方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−511(P2011−511A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143802(P2009−143802)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(500137703)
【Fターム(参考)】