説明

銅合金材及びその製造方法

【課題】Cu−Co−Si系銅合金において、コネクタ用端子など電子部品に要求される強度と導電性を維持しつつ打ち抜き加工性に優れる銅合金材を提供する。
【解決手段】Coを0.5〜2.5mass%、Siを0.1〜1mass%含有し、CoとSiの含有量の比Co/Siが2.5〜4.5の間にあり、さらにCr、Fe、Ni、Al、Nb、Ti、V及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素を0.01〜0.2mass%含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、直径が0.05〜5μmで、密度が10〜10個/mmの、前記添加元素及びCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とSiからなる化合物を有する銅合金材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は端子・コネクタなどの電子部品用に好適な、強度、導電率、および打ち抜き加工性に優れた電子機器用の銅合金材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大電流を通電する電子機器の小型軽量化が進展し、電子部品材料は導電率が高くかつ強度に優れることが強く求められている。CoとSiを主添加元素とした銅合金は優れた機械的強度、導電率を有しているため、上記電子部品に適しているとされる。これら電子部品は金型を用いた高速プレスによる打ち抜き加工を行って製造されるものが主であり、製造時、材料は金型のパンチによりせん断変形、破断変形を生じて所定の形状に打ち抜かれる。しかし、プレスショット数が増すにつれて金型のパンチの刃先の磨耗が進み、破断形状が乱れて製品形状を保てなくなる。金型メンテナンスのコスト削減の手段として、金型磨耗を軽減する、もしくは初期の金型形状から磨耗が進んだ時点においてもプレス形状を維持できる、打ち抜き加工性に優れる銅合金が求められている(特許文献1〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−87838号公報
【特許文献2】特開昭63−307232号公報
【特許文献3】特開平02−129326号公報
【特許文献4】特開平02−277735号公報
【特許文献5】特開2008−88512号公報
【特許文献6】特開2008−56977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜6で提案されているCo、Siを主添加元素とした銅合金は、いずれも高強度、高導電性や熱間加工性などに着目したもので、プレス打ち抜き性についての記載はない。これらの文献に記載された銅合金の製造方法においては、プレス打ち抜き加工性向上に必要な化合物制御がなされていないことが伺える。
そこで、本発明は、Cu−Co−Si系合金において、コネクタ用端子など電子部品に要求される強度と導電性を維持しつつ打ち抜き加工性に優れる銅合金材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、Cu−Co−Si系合金において打ち抜き加工性を向上させる化合物を制御することにより、上記の課題を解決できることを見出した。すなわち、合金組成と鋳造・熱処理条件を規定して合金中の化合物サイズ、密度を特定の範囲内にコントロールすることによって、従来の銅合金の強度、導電率特性を維持しつつ、打ち抜き加工性を改善しうることを見出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。
【0006】
上記課題は以下の発明により解決される。
(1)Coを0.5〜2.5mass%含有し、CoとSiの含有量の比Co/Siが2.5〜4.5の間にあり、さらにCr、Fe、Ni、Al、Nb、Ti、V及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素を0.01〜0.2mass%含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、直径が0.05〜5μmで、密度が103〜105個/mm2の、前記添加元素及びCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とSiからなる化合物を有する銅合金材。
(2)Coを1.4mass%以上2.5mass%以下含有し、CoとSiの含有量の比Co/Siが3.0〜5.0の間にあり、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、直径が0.05〜5μmで、密度が103〜105個/mm2のCo及びSiで構成される化合物を有する銅合金材。
(3)Coを0.5mass%以上1.4mass%未満含有し、CoとSiの含有量の比Co/Siが3.0〜5.0の間にあり、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、直径が0.05〜5μmで、密度が103〜105個/mm2のCo及びSiで構成される化合物を有する銅合金材。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の銅合金材の銅合金組成に、さらにSn、Zn及びMgからなる群から選ばれる少なくとも1種を0.01〜1mass%含有する銅合金材であって、直径が0.05〜5μmで、密度が103〜105個/mm2の、前記添加元素及びCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とSiからなる化合物を有する銅合金材。
(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載の銅合金材を製造する方法であって、鋳造時の冷却速度が1〜30℃/秒の条件下で作製された鋳塊を均質処理後、冷間圧延と中間焼鈍を繰り返した後、仕上げ圧延、歪取り焼鈍を施すことを特徴とする銅合金材の製造方法。
(6)前記鋳造時の冷却速度が1〜30℃/秒の条件下で作製された鋳塊を均質処理し、熱間圧延後、冷間圧延と中間焼鈍を繰り返す工程を有し、条件として(A)熱間圧延終了後の冷却時、600℃までの降温速度を1℃/秒以上30℃/秒以下とし、溶体化熱処理及び/又は再結晶熱処理(以下、両者をあわせて溶体化熱処理という)する際、600℃以上での昇温速度および600℃までの降温速度を30℃/秒以上とするか、または(B)熱間圧延終了後の冷却時、600℃までの降温速度を30℃/秒以上とし、溶体化熱処理する際、600℃以上での昇温速度および600℃までの降温速度を1℃/秒以上30℃/秒以下とするかの処理を施し、更にその後時効熱処理、仕上げ圧延、歪取り焼鈍を施すことを特徴とする、(5)に記載の銅合金材の製造方法。
(7)前記鋳造時の冷却速度が1〜30℃/秒の条件下で作製された鋳塊を均質処理し、熱間圧延後、冷間圧延と中間焼鈍を繰り返す工程を有し、条件として(C)熱間圧延工程と冷間圧延工程との間に、熱処理工程を新たに設け、600〜750℃にて50〜600秒間保持を行い、その後急冷するか、(D)冷間圧延工程で材料を0.05〜0.5mmの厚さにした後、溶体化熱処理工程の前に、熱処理工程を新たに設け、600〜750℃にて50〜600秒間保持を行い、その後急冷するか、(E)溶体化熱処理工程と時効熱処理工程との間に、熱処理工程を新たに設け、600〜750℃にて50〜600秒間保持を行い、その後急冷するか、のいずれかの熱処理を施し、更にその後時効熱処理、仕上げ圧延、歪取り焼鈍を施すことを特徴とする、(5)または(6)に記載の銅合金材の製造方法。
なお、本発明における「化合物」は上記2種以上の元素からなる金属間化合物であり、晶出物(液体から固体に変態する際あらわれる金属間化合物)と析出物(固体から固体に変態する際、例えば固溶状態から、あらわれる金属間化合物)の両方を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の銅合金材は、強度、導電率を損なわずに打ち抜き加工性を向上させたものである。よって、電子機器用の部品、例えば端子・コネクタ等としたときに銅合金材に要求される高レベルの特性を有し、かつ、打ち抜き加工における金型長寿命化によってコストパフォーマンスの改善が行われる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を述べる。なお、本発明において銅合金材とは、圧延工程によって、例えば板材、条材、箔などの特定の形状に加工された銅合金を意味する。
本発明の銅合金材の第一の実施形態における組成は、Co、Siとその他の添加元素(Cr、Fe、Ni、Al、Nb、Ti、V及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種)とを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物を含むものである。
【0009】
本実施形態の銅合金材において、Coの含有量は0.5〜2.5mass%とする。この理由は、製品として十分な強度を確保するためである。0.5mass%未満ではSiとの析出によって得られる強度が不十分となる。また、2.5mass%を超えると固溶しきれなくなり、合金の強化に寄与しなくなるほか、地金コストの高いコバルトの添加量増加によって、価格面で競争力に劣る合金となってしまう。好ましくは0.6〜2.2mass%であり、より好ましくは0.7〜2.0mass%である。
【0010】
Siの含有量は、少なくとも0.1〜1mass%の範囲を満足するようにすることが好ましい。この理由も、製品として十分な強度を確保するためである。少なすぎるとCoとの析出によって得られる強度が不十分となる場合がある。また、多すぎると固溶によって導電率が低下する場合がある。本実施形態では、CoとSiの質量比、Co/Siが2〜4.5となるようにする。
【0011】
本実施形態では、Co、Siの他に、Cr、Fe、Ni、Al、Nb、Ti、V及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素を有する。
Cr、Fe、Ni、Al、Nb、Ti、V、Zrは、Co、Siと共に化合物として晶出し、打ち抜き加工性の向上に有効である。前記元素の合計の含有量は0.01〜0.2mass%とする。0.01mass%未満では打ち抜き加工性向上の効果が十分得られない。また、0.2mass%を超えると、Co、Siの多くが強度に寄与しない化合物となることで、材料強度が要求強度よりも低下してしまう。
【0012】
本実施形態では、銅合金中に、Co及び他の添加元素(Cr、Fe、Ni、Al、Nb、Ti、V、Zr)から選ばれる少なくとも1種の元素とSiからなる、直径0.05〜5μmサイズの化合物を10〜10個/mm有する。この化合物とは、具体的には、CoSiの他にCo2−xCrSi、Co2−xFeSi(xは1または2)などである。
なお、化合物の直径と密度は、圧延平行方向の断面を走査型電子顕微鏡で写真撮影して、その写真上で化合物の粒径と密度を測定したものである。
CoとSiの添加量については、Co(mass%)とSi(mass%)の比、Co/Siを2〜4.5とする。このような比率とする理由は、時効熱処理時に、同系にて強化、導電率の回復に最も寄与するCoSi化合物の析出を促進しやすいためである。Co、Si以外の元素を含む本実施形態では、Co、Siとその他の元素にて上記化合物を形成し、ややSi量を多く含んだ化合物となるために、CoSi析出を促すCo/Si比の固溶状態が維持できるよう、後述する他の元素を含まない形態に比べ、ややSi量が多くなるような比になっている。上記比を満たすことによって目的の合金材を得ることができる。この実施形態におけるCo/Siは好ましくは2.5〜4であり、より好ましくは3〜3.5である。
【0013】
化合物の直径を0.05〜5μmとする理由は、この直径の化合物粒子が打ち抜き加工性を向上させるからである。直径が0.05μm未満の粒子では、打ち抜き加工性を向上させることができず、直径が5μmを超える粒子は化合物による材料強化、プレス性向上の双方への寄与が非常に小さい。好ましくは0.1〜1μmである。
【0014】
化合物の密度を10〜10個/mmに規定したのは、打ち抜き加工性の向上と材料強度を両立させるからである。10個/mm未満であると、打ち抜き加工する時の破断のクラックの起点が少ないため、打ち抜き加工性を向上させることができない。10個/mmを超えると、直径0.05μm未満の化合物と比べ比較的強度に対する寄与の小さい0.05〜5μmの化合物が全体の大きな割合を占め、材料の強度化が出来ず、製品に求められる特性が得られない。好ましくは5×10〜5×10個/mmである。
【0015】
本発明の銅合金材の第二の実施形態における組成は、Coを1.4mass%以上2.5mass%以下含有し、CoとSiの含有量の比Co/Siが3.0〜5.0の間にあり、残部がCuおよび不可避的不純物を含むものである。
【0016】
この実施形態の銅合金材において、Coの含有量を1.4mass%以上2.5mass%以下とする理由は、打ち抜き加工性を良好にする化合物、強度を良好にする化合物の析出量を双方において適量にするためであり、特に高強度材の要求に応えるためである。Coの含有量を上記範囲内とし、合金材の製造方法における熱処理条件等を制御することで、化合物の晶出、析出を、打ち抜き性が良好で、かつ、高強度材とすることができるような量にすることができる。Coの含有量は好ましくは1.4mass%以上2.0mass%以下である。
【0017】
Siの含有量は、少なくとも0.3〜1.0mass%の範囲を満足するようにすることが好ましい。この理由は、Coの添加量と同様に、打ち抜き加工性を良好にする化合物、強度を良好にする化合物の析出量を双方において適量にするためであり、特に高強度材の要求に応えるためである。少なすぎると打ち抜き性、強度双方を良好にするための析出総量を満たせなくなってしまい、どちらか一方の特性が劣化してしまう場合がある。また、多すぎると有効に寄与する化合物の晶出、析出量が飽和してしまうことがある。本実施形態では、CoとSiの質量比、Co/Siが3.0〜5.0となるようにする。
【0018】
本実施形態では、銅合金中にCo及びSiの化合物を有する。この化合物とは、具体的にはCoSiである。化合物の直径及び密度は上記他の添加元素を含有する実施形態と同様であり、その好ましい範囲も同様である。
Co/Siは3.0〜5.0とする。このような添加比とする理由は、時効熱処理時に、同系にて強化、導電率の回復に最も寄与するCoSi化合物の析出を促進しやすいためである。この実施形態におけるCo/Siは好ましくは3.2〜4.5であり、より好ましくは3.5〜4.2である。
【0019】
本発明の銅合金材の第三の実施形態における組成は、Coを0.5mass%以上1.4mass%未満含有し、CoとSiの含有量の比Co/Siが3.0〜5.0の間にあり、残部がCuおよび不可避的不純物を含むものである。
【0020】
この実施形態の銅合金材において、Coの含有量を0.5mass%以上1.4mass%未満とする理由は、打ち抜き加工性を良好にする化合物、強度を良好にする化合物の析出量を双方において適量にするためであり、特に高導電材の要求に応えるためである。Coの含有量を上記範囲内とし、合金材の製造方法における熱処理条件等を制御することで、化合物の晶出、析出を、打ち抜き性が良好で、かつ、高導電材とすることができるような量にすることができる。
【0021】
Siの含有量は、少なくとも0.1〜0.5mass%の範囲を満足するようにすることが好ましい。この理由は、打ち抜き加工性を良好にする化合物、強度を良好にする化合物の析出量を双方において適量にするためであり、特に高導電材の要求に応えるためである。少なすぎると打ち抜き性、強度双方を良好にするための析出総量を満たせなくなってしまい、どちらか一方の特性が劣化してしまう場合がある。また、多すぎると高導電を維持できない場合がある。
【0022】
本実施形態においても、銅合金中にCo及びSiの化合物を有する。この化合物の種類、直径及び密度は上記実施形態と同様であり、その好ましい範囲も同様である。
Co/Siは上記実施態様と同様に3.0〜5.0とする。好ましい範囲も同様である。
【0023】
本発明の銅合金材は、上記のCo、Si及び他の添加元素のほかに、さらにSn、Zn及びMgからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する組成であってもよい。これらの元素の添加量は合計で0.01〜1mass%、好ましくは0.05〜0.7mass%であり、より好ましくは0.1〜0.5mass%である。これらの元素を添加することにより、母材の固溶強化と圧延時の加工硬化量の増大の効果が得られる。
この銅合金材においても、銅合金中にCo及び他の添加元素(Cr、Fe、Ni、Al、Nb、Ti、V、Zr)から選ばれる少なくとも1種の元素とSiからなる化合物を有する。この化合物の種類、直径及び密度は上記実施形態と同様であり、その好ましい範囲も同様である。
【0024】
本発明の銅合金材は、鋳造時の冷却速度が1〜30℃/秒、好ましくは3〜25℃/秒の条件下で作製された鋳塊を均質処理後、冷間圧延と中間焼鈍を繰り返した後、仕上げ圧延、歪取り焼鈍を施すことにより製造することができる。
本発明の銅合金材の製造方法の好ましい実施形態の一例を挙げると、CoとSiと、実施形態によってはその他の添加元素と、残部がCuからなる合金を高周波溶解炉等により溶解して鋳造の冷却速度を1〜30℃/秒の条件で鋳造し、鋳塊を得る。この条件により直径0.05〜5μmサイズの上記化合物を10〜10個/mm含有する組織制御をすることができる。その後、例えば、熱間圧延によって厚さ8〜15mmになるまで加工後、速やかに水冷却(急速冷却)にて焼入れを施し、表面上の酸化皮膜除去のため、圧延された表面を片側0.5〜2mm面削して4〜13mmにした後、冷間圧延にて厚さ約0.1〜0.3mmとなるように加工する。さらに溶体化熱処理(好ましくは温度800〜1025℃、1〜100秒間)を加え、水冷後、材料に300〜600℃で1〜10時間の時効熱処理を行う。この熱処理後0〜30%の圧延を加え、さらに200〜450℃で0.5〜5時間の低温熱処理を行うことにより目的の銅合金材を得ることができる。
【0025】
上記第三の実施形態の組成に該当する場合は、上記の製造方法とは別に、鋳造鋳塊を均質処理、熱間圧延後、冷間圧延と中間焼鈍を繰り返す工程を有し、以下の(A)または(B)の条件を有する熱処理を加え、更にその後時効熱処理、仕上げ圧延、歪取り焼鈍を施す製造方法も好ましい。
(A)熱間圧延終了後の冷却時、600℃までの降温速度を1℃/秒以上30℃/秒以下とし、溶体化熱処理する際、600℃以上での昇温速度および600℃までの降温速度を30℃/秒以上とする。
(B)熱間圧延終了後の冷却時、600℃までの降温速度を30℃/秒以上とし、溶体化熱処理する際、600℃以上での昇温速度および600℃までの降温速度を1℃/秒以上30℃/秒以下とする。
なお、熱間圧延終了後の冷却時、600℃までの降温速度を30℃/秒とし、溶体化熱処理する際、600℃以上での昇温速度および600℃までの降温速度を30℃/秒とする工程は、(A)および(B)の両方の条件を満足するが、これも(A)または(B)の条件を有する熱処理を加えているものとして取り扱う。
また、上記(A)または(B)の工程のほか、以下の(C)〜(E)のいずれかの条件を有する熱処理を施し、更にその後時効熱処理、仕上げ圧延、歪取り焼鈍を施す製造方法も好ましい。
(C)熱間圧延工程と冷間圧延工程との間に、熱処理工程を新たに設け、600〜750℃にて50〜600秒間保持を行い、その後急冷する。
(D)冷間圧延工程で材料を0.05〜0.5mmにした後、溶体化熱処理工程の前に、熱処理工程を新たに設け、600〜750℃にて50〜600秒間保持を行い、その後急冷する。
(E)溶体化熱処理工程と時効熱処理工程との間に、熱処理工程を新たに設け、600〜750℃にて50〜600秒間保持を行い、その後急冷する。
なお、上記(C)〜(E)の処理における「急冷」は好ましくは50℃/秒以上で行う。また、処理(A)及び(B)における溶体化熱処理は温度800〜1025℃の温度範囲で1〜100秒間保持して行うのが好ましい。溶体化は析出、晶出物(化合物)を固溶状態にする処理であるが、前記温度で溶体化を行うと、同じ熱処理工程で再結晶熱処理(結晶粒径を制御する処理)も行える。
ここで、上記(A)〜(E)の処理条件において、(A)、(B)での熱間圧延終了後の冷却時の600℃までの降温速度、溶体化熱処理する際の600℃以上での昇温速度および600℃までの降温速度を1(℃/秒)未満に変えた処理、あるいは、(C)〜(E)の保持時間を600秒より長くした処理を行った場合、他の工程にて熱処理条件を満たしても強度が不十分となる場合があり、目的の銅合金材は得られない。
一方、上記(A)〜(E)の処理条件において、(C)〜(E)の保持時間に関しては50秒未満に変えた処理を行った場合は、仮にこの熱処理を一度施しても、上記(A)〜(E)の他の熱処理条件を一つ、上記(A)〜(E)の処理条件の範囲内で施せば目的の銅合金材が得られる。
すなわち、上記各熱処理の工程において、上記(A)〜(E)の所定範囲より冷却速度が遅いか、または保持時間が長い熱処理を行った場合、その他の工程で上記(A)〜(E)に記載の条件を満たしてもリカバリーできず目的の銅合金材が得られないが、所定範囲より冷却速度が速いか、または保持時間が短い熱処理を行った場合には、他の工程を所定範囲の条件で施すことによって、結晶粒径が適切な範囲となり、目的の銅合金材が得られる。
【0026】
本発明の銅合金材は、特に限定されるものではないが、例えば、コネクタ、端子、リレー、スイッチ、さらにはリードフレームなどの電子電気機器部品に好適に用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0028】
下記表1、表2、表3−1、表3−2に示す銅合金材を以下のように作製した。表1は本発明の効果を確認するための参考例での評価結果を示すものであり、この参考例で良好な特性を示すサンプルの組成について、表2および表3−1、表3−2に示す各種評価を行っている。表2は第一の実施態様および第二の実施態様に関する評価結果であり、表3−1、表3−2は第三の実施態様に関する評価結果である。
【0029】
(合金材の製造条件)
各表に記載する量のCoとSiとその他の添加元素と残部がCuからなる合金を高周波溶解炉により溶解し、これを鋳造して、厚さ30mm、幅100mm、長さ150mmの鋳塊を得た。鋳造時の冷却速度については、表1の各サンプルについては5℃/秒とし、表2〜表3−1、表3−2の各サンプルについては表2および表3−1、表3−2に示した。各サンプルにおいては、冷却速度の速いサンプルは厚さ5mmにて、遅いサンプルにおいては厚さ100mmにし、モールドに断熱材を使用するなどして、冷却速度を変えた。
【0030】
次にこの鋳塊に950℃で1時間加熱する均質化処理を施した直後に熱間圧延を行い(600℃までの降温速度は30℃/秒)、両面をそれぞれ1mm面削して酸化皮膜を除去した。次いで冷間圧延にて板厚を0.1〜0.3mmにした後、不活性化ガス雰囲気中で溶体化熱処理(1000℃到達、昇温、降温速度とも50℃/秒)を行った。
【0031】
水冷後、材料に時効熱処理(475〜575℃、2時間で最も強度の高い温度を選定)を行った。この熱処理後0〜30%の圧延を加え、さらに200〜450℃で0.5〜5時間の低温熱処理(歪取り焼鈍)を行った。
【0032】
表3−1、表3−2に示される第三の実施態様中の実施例、比較例においてはさらに以下の条件を課して合金材を製造した。(表3−1、表3−2において「−」で示される欄については、該当する熱処理を行っていないことを示す。)
条件(1) 上記熱間圧延後の600℃以上での昇温速度及び600℃までの降温速度を表に示した速度とした。
条件(2) 上記熱間圧延後に表に示した温度、保持時間の熱処理を行って急冷(降温速度100℃/秒)した。
条件(3) 上記冷間圧延後に表に示した温度、保持時間の熱処理を行って急冷(降温速度100℃/秒)した。
条件(4) 上記溶体化熱処理する際の600℃以上での昇温速度及び600℃までの降温速度を表に示した速度とした。
条件(5) 上記溶体化熱処理と時効熱処理の間に表に示した温度、保持時間の熱処理を行って急冷(降温速度100℃/秒)した。
【0033】
このようにして得られた各々の板材を供試材として下記の特性調査を行った。各評価項目の測定方法は以下の通りである。
a.引張強度(TS、YS):
試験片の圧延平行方向から切り出したJIS Z2201−13B号の試験片をJIS Z2241に準じて3本測定しその平均値を表1に示した。また、評価として表1に示される特性に対し、表2、表3−1、表3−2における同じ組成の合金の強度(引張強度(TS)、0.2%耐力(YS)共に)の低下が30MPa未満なら製品に求められる強度を満たすとして○、30MPa以上なら満たさないとして×と評価し、表2、表3−1、表3−2に示した。なお、表1において、引張強度(TS)が550MPa以上、0.2%耐力(YS)が400MPa以上である組成について、表2、表3−1、表3−2に記載の条件で合金材を製造し、評価対象とすることとした。
b.導電率(EC)測定:
四端子法を用いて、20℃(±1℃)に管理された恒温槽中で、各試験片の2本について導電率(EC)を測定し、その平均値(%IACS)を表1に示した。このとき端子間距離は100mmとした。なお、評価基準として、導電率(EC)が57%IACS以上であるものを、導電性がすぐれているものとした。
c.プレス打ち抜き加工性
金型を研磨した後に、各サンプルで連続プレス加工を実施し、10万回おきにサンプルプレス破面のバリ測定をした。材料のプレス破面に5μmを越えるバリが発生した段階を限界ショット数として、ショット数200万回を満たすものを打ち抜き性が特に優れているとして◎、100万回以上200万回未満のものを打ち抜き性が良好であるとして○、100万回未満のものを打ち抜き性が劣っているとして×として表2、表3−1、表3−2中に記載した。
【0034】
なお、晶出、析出物(化合物)の比は、直径0.05〜5μmの晶出、析出物をSEM付属のEDXにて10個測定し構成元素を判断し、定量測定にて平均値をとった(化合物種類が複数あれば、全て列記した)。
直径0.05〜5μmの化合物の1mmあたりの個数は、400μmの面積内に存在するサイズ該当化合物を、測定場所を10回変えてカウントし、その平均値を2500倍した結果を示した。
【0035】
参考例
表1に示す組成の銅合金材(第一の実施態様の組成:試験No.101〜108、第二の実施態様の組成:試験No.109〜113、第三の実施態様の組成:試験No.114〜115、比較組成:試験No.151〜168)を上記のようにして作製し、引張強度(TS、YS)及び導電性(EC)を測定した。結果を表1に併せて示す。比較組成の銅合金材は、強度、導電率のいずれかもしくは両方が試験No.101〜115に対し低下している。詳しくは以下の通りである。
比較組成の試験No.151〜162は、CoとSiの添加比が本発明で規定する範囲に入っていない。試験No.101〜115に対し強度、または導電率のいずれかもしくは両方が劣っている。また、試験No.163〜168はその他の添加元素の添加量が多すぎるため、試験No.101〜115に対し強度、または導電率のいずれかもしくは両方が劣っている。
これに対し、試験No.101〜115はいずれも、強度、導電率ともに良好であった。
なお、晶出物、析出物(化合物)が与える影響については、添加元素についてCoまたはSiと化合物をつくると、強度に寄与するCoSi化合物の全体量が減ってしまう。また、添加元素とCo−Siの組成比がCoSiと異なるため、CoやSiの添加量を調整して強度に寄与するCoSi化合物の全体量を確保しなければ特性値が劣化してしまう傾向がある。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例1
表2に示す組成で、上記のようにして得た合金材サンプルについて、プレス性と強度を評価した。結果を表2に示す。表2は第一の実施態様および第二の実施態様に関する評価結果であり、鋳造速度が1〜30℃/秒の範囲内であれば、Co−Si系化合物の直径と密度がコントロールされ、プレス打ち抜き加工性と強度のバランスの取れた合金材が得られている。鋳造速度が遅すぎる場合は所望のサイズのCo−Si系化合物が多くなりすぎ、強度低下している。また、鋳造速度が速すぎる場合は所望のサイズのCo−Si系化合物が少なすぎ、プレス打ち抜き加工性が低下している。なお、選択元素(Cr、Fe、Ni、Al、Nb、Ti、V、Zr)を含まない場合で、化合物が適正に生成していない場合は、プレス打ち抜き加工性が低下している。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例2及び比較例
表3−1、表3−2に示す組成の合金について、上記のようにして得た合金材サンプルについて、プレス性と強度を評価した。
表3−2に示す比較例の合金材は、強度及び打ち抜き性の両方または一方が×の評価であるのに対し、表3−1に示す本発明例の合金材はいずれも強度と打ち抜き性を両立している。
表3−2に示す比較例については、本発明の合金材の製造方法における(A)〜(E)の要件をいずれも満たしていないため、目的とする合金材が得られていない。
冷却速度が遅い、熱処理時間が長い、あるいは熱処理温度が高いほうに外れたサンプルについては強度に寄与する化合物が粗大化し、プレス性は良好であるが強度に乏しい特性となっている。加熱が更に過ぎると、プレス性に有効な範囲以上のサイズの化合物数が増えすぎ、強度、プレス性双方の特性に乏しくなる。
また、逆に冷却速度が速い、熱処理時間が短い、あるいは熱処理温度が低い方に外れたサンプルについては加熱が少なく、規定の化合物密度、サイズまで化合物が成長せず、強度には寄与するがプレス性には寄与しない化合物が増え、強度は良好であるが、プレス性に乏しい特性となっている。
【0040】
【表3−1】

【0041】
【表3−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Coを0.5〜2.5mass%含有し、CoとSiの含有量の比Co/Siが2.5〜4.5の間にあり、さらにCr、Fe、Ni、Al、Nb、Ti、V及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素を0.01〜0.2mass%含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、直径が0.05〜5μmで、密度が10〜10個/mmの、前記添加元素及びCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とSiからなる化合物を有する銅合金材。
【請求項2】
Coを1.4mass%以上2.5mass%以下含有し、CoとSiの含有量の比Co/Siが3.0〜5.0の間にあり、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、直径が0.05〜5μmで、密度が103〜105個/mm2のCo及びSiで構成される化合物を有する銅合金材。
【請求項3】
Coを0.5mass%以上1.4mass%未満含有し、CoとSiの含有量の比Co/Siが3.0〜5.0の間にあり、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金材であって、直径が0.05〜5μmで、密度が103〜105個/mm2のCo及びSiで構成される化合物を有する銅合金材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅合金材の銅合金組成に、さらにSn、Zn及びMgからなる群から選ばれる少なくとも1種を0.01〜1mass%含有する銅合金材であって、直径が0.05〜5μmで、密度が103〜105個/mm2の、前記添加元素及びCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とSiからなる化合物を有する銅合金材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅合金材を製造する方法であって、鋳造時の冷却速度が1〜30℃/秒の条件下で作製された鋳塊を均質処理後、冷間圧延と中間焼鈍を繰り返した後、仕上げ圧延、歪取り焼鈍を施すことを特徴とする銅合金材の製造方法。
【請求項6】
前記鋳造時の冷却速度が1〜30℃/秒の条件下で作製された鋳塊を均質処理し、熱間圧延後、冷間圧延と中間焼鈍を繰り返す工程を有し、条件として(A)熱間圧延終了後の冷却時、600℃までの降温速度を1℃/秒以上30℃/秒以下とし、溶体化熱処理する際、600℃以上での昇温速度および600℃までの降温速度を30℃/秒以上とするか、または(B)熱間圧延終了後の冷却時、600℃までの降温速度を30℃/秒以上とし、溶体化熱処理する際、600℃以上での昇温速度および600℃までの降温速度を1℃/秒以上30℃/秒以下とするかの処理を施し、更にその後時効熱処理、仕上げ圧延、歪取り焼鈍を施すことを特徴とする、請求項5に記載の銅合金材の製造方法。
【請求項7】
前記鋳造時の冷却速度が1〜30℃/秒の条件下で作製された鋳塊を均質処理し、熱間圧延後、冷間圧延と中間焼鈍を繰り返す工程を有し、条件として(C)熱間圧延工程と冷間圧延工程との間に、熱処理工程を新たに設け、600〜750℃にて50〜600秒間保持を行い、その後急冷するか、(D)冷間圧延工程で材料を0.05〜0.5mmの厚さにした後、溶体化熱処理工程の前に、熱処理工程を新たに設け、600〜750℃にて50〜600秒間保持を行い、その後急冷するか、(E)溶体化熱処理工程と時効熱処理工程との間に、熱処理工程を新たに設け、600〜750℃にて50〜600秒間保持を行い、その後急冷するか、のいずれかの熱処理を施し、更にその後時効熱処理、仕上げ圧延、歪取り焼鈍を施すことを特徴とする、請求項5または6に記載の銅合金材の製造方法。

【公開番号】特開2011−46970(P2011−46970A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182794(P2009−182794)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】