説明

銅含有触媒およびその製造方法

【課題】 有機酸およびそのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つを共沈剤として用いることによって、均一なクリスタリット分布を有する銅含有触媒を製造する。
【解決手段】 30〜70重量%の酸化銅と、30〜70重量%の酸化亜鉛と、0〜30重量%のアルミナとを含み、ナトリウムを含まず、30〜50m2/gの比表面積と、0.10〜0.25ml/gの細孔体積と、10〜25nmの平均細孔径とを有し、1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが0〜10%の割合を占め、1.0〜2.0nmのクリスタリットが80〜95%の割合を占め、2.0nmを超えるクリスタリットが0〜10%の割合を占めるという均一なクリスタリット分布を有する銅含有触媒とした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、銅含有触媒およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】銅含有触媒、例えば、銅および酸化亜鉛を含む触媒、または、銅、酸化亜鉛およびアルミナを含む触媒は、低温トランスフォーメーション、メタノール合成、水素化/脱水素化などの多くのプロセスに慣用の触媒として、産業上広く使用されている。
【0003】銅含有触媒は、通常、共沈法によって製造される。共沈法は、塩基性共沈剤、例えば、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムおよび炭酸アルミニウムなどのアルカリ金属塩を、可溶性の銅塩、亜鉛塩およびアルミニウム塩の混合溶液に添加し、銅、亜鉛およびアルミニウムを不溶性の亜炭酸塩(subcarbonates)として沈殿させ、これを濾過、洗浄、乾燥、か焼および圧縮して触媒に成形する方法である。EP125,689には、メタノール合成に用いられる銅含有触媒の製造方法が開示されている。この触媒においては、亜鉛に対する銅の原子比率が2.8〜3.8(酸化銅100部当たり酸化亜鉛26.9〜36.5部に相当する。)であり、アルミナが8〜12部である。この製造方法においては、銅および亜鉛は、炭酸ナトリウムのような沈殿剤を金属塩溶液に添加する共沈法によって触媒に導入され、アルミナは、水酸化アルミニウムゾルの形態で触媒に導入される。米国特許第4,876,402号明細書には、気相でのアルデヒドの水素化に用いられる銅および酸化亜鉛を含む触媒の、炭酸ナトリウムを共沈剤として使用した製造方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前述のような従来の触媒の製造方法においては、共沈物からナトリウム塩を除去するため、生成する沈殿物のパルプ化、洗浄および濾過を4回実施する必要がある。それにもかかわらず、米国特許第3,303,001号明細書を含む従来技術において認められているように、従来技術の標準的な共沈法で製造される酸化銅/酸化亜鉛触媒は少量のナトリウムを含有している。しかしながら、アルカリ金属、特にナトリウムは、触媒の活性を低下させるため、触媒中にナトリウムが存在することは望ましくない。更に、従来技術において、銅含有触媒は、塩基性物質、特に炭酸ナトリウムを共沈剤として用いた共沈法によって製造されるが、このような製造方法は塩基性条件で実施され、最初に亜鉛化合物が沈殿してから銅化合物が沈殿する。従って不均一な共沈物が生成しやすく、その結果、不定形な結晶形で不均一なサイズ(1.0〜10nm)の触媒クリスタリットが生じ、大きいクリスタリットは小さいもののサイズの10倍になる。優れた活性および安定性を有する触媒を得るため、酸化銅のクリスタリット同士は酸化亜鉛により均一に離間しているべきであるが、これは従来技術の炭酸ナトリウム法では達成できない。共沈剤として炭酸ナトリウムを用いることの別の問題は、望ましくないナトリウム塩を除去するために、生成した共沈物にはパルプ化、洗浄および濾過が繰り返し実施されるため、大量の純水が消費され、その結果として大量の廃水が排出される。大量の廃水は処理を要するか、さもなければ環境を汚染するため、触媒の製造の複雑性および製造コストが更に増大する。また、従来技術の方法で製造された触媒の比表面積は十分に大きいとは言えず、細孔体積および嵩比重はいずれも相対的に低い。従って、触媒性能に関して言えば、従来の触媒は、活性および選択性が不十分であり、安定性が低い。
【0005】従って、この技術分野においては、均一なクリスタリット分布、大きな比表面積および細孔体積、高い活性並びに良好な安定性を有する銅含有触媒と、その製造方法の開発が必要とされている。
【0006】本発明の第1の目的は、均一なクリスタリット分布を有し、優れた触媒性能を示す銅含有触媒を提供することである。
【0007】また、本発明の第2の目的は、均一なクリスタリット分布を有し、優れた触媒性能を示す銅含有触媒を製造でき、製造コストおよび出発物質を削減すると同時に、従来技術に存在していた環境保護の問題を克服することができる銅含有触媒の製造方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記第1の目的を達成するため、本発明の銅含有触媒は、1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが0〜20%の割合を占め、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが70〜99%の割合を占め、2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが0〜20%の割合を占めるというクリスタリット分布を有することを特徴とする。
【0009】前記銅含有触媒は、30〜50m2/gの比表面積と、0.10〜0.25ml/gの細孔体積と、10〜25nmの平均細孔径を有することが好ましい。
【0010】また、前記銅含有触媒は、30〜70重量%の酸化銅と、30〜70重量%の酸化亜鉛と、0〜30重量%のアルミナとを含むことが好ましい。更には、前記銅含有触媒においては、ナトリウムを含有しないことが好ましい。
【0011】前記第2の目的を達成するため、本発明の銅含有触媒の製造方法は、共沈のための可溶性金属塩を含む作用塩溶液と、共沈剤として有機酸およびそのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つを含む共沈剤溶液とを混合する工程と、銅を含む不溶性金属塩の混合物を共沈させる工程とを含むことを特徴とする。このような製造方法によれば、均一なクリスタリット分布を有し、優れた触媒性能を示す銅含有触媒を製造することができる。更に、製造コストおよび出発物質を削減すると同時に、従来技術に存在していた環境保護の問題を克服することができる。
【0012】本発明の銅含有触媒は、銅含有触媒の触媒作用が必要とされる種々の化学プロセスにおいて使用することができる。本発明の銅含有触媒は、例えば、気相でのアルデヒドおよびケトンから選ばれる少なくとも1つの水素化、気相でのアルコールの脱水素化、CO、CO2およびH2の混合ガスからのメタノール合成に使用することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明の銅含有触媒は、共沈法を含む新規の方法によって製造され、1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが0〜20%、好ましくは0〜15%、更に好ましくは0〜10%、最も好ましくは2〜5%の割合を占め、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが70〜99%、好ましくは75〜98%、更に好ましくは80〜95%、特に好ましくは80〜93%、最も好ましくは85〜90%の割合を占め、2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが0〜20%、好ましくは0〜15%、更に好ましくは0〜10%、最も好ましくは2〜5%の割合を占めるという、均一なクリスタリット分布を有する。
【0014】本発明の銅含有触媒は、触媒の重量に対して、30〜70重量%、好ましくは33〜50重量%の酸化銅と、30〜70重量%、好ましくは50〜65重量%の酸化亜鉛と、0〜30重量%、好ましくは10〜25重量%のアルミナとを含む。
【0015】本発明の銅含有触媒は、30〜50m2/g、好ましくは35〜45m2/gの比表面積と、0.10〜0.25ml/g、好ましくは0.15〜0.20ml/gの細孔体積と、10〜25nm、好ましくは15〜20nmの平均細孔径を有する。
【0016】本発明の銅含有触媒は、その製造方法において沈殿剤としてナトリウム塩が使用されないため、ナトリウムが触媒中に導入されることを回避できる。本発明の銅含有触媒は、好ましくはナトリウムを含有しない。
【0017】本発明にかかる触媒の製造方法は、共沈のための可溶性金属塩を含む作用塩溶液と、共沈剤として有機酸およびそのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つを含む溶液とを混合し、不溶性金属塩の混合物を共沈させる工程と、前記混合物をエージングおよび濾過して濾過ケーキを得る工程と、乾燥およびか焼して触媒の混合酸化物を形成する工程と、前記混合酸化物を圧縮および成形し、タブレット状、円筒状、棒状および球状などのあらゆる適当な形状の触媒を得る工程とを含む。
【0018】前記可溶性金属塩は、触媒の基本的な金属化合物として用いられる銅塩およびその他の金属の塩であり、例えば、銅塩と亜鉛塩とアルミニウム塩、または、銅塩と亜鉛塩であって、塩化物、硫酸塩、硝酸塩および酢酸塩からなる群より選ばれる。
【0019】共沈剤としての前記有機酸は、1種以上の可溶性有機酸とすることができ、シュウ酸、マロン酸、コハク酸およびグルタル酸並びにそれらのアンモニウム塩からなる群より選ぶことができる。好ましくは、マロン酸、シュウ酸およびそれらのアンモニウム塩、または、コハク酸およびそのアンモニウム塩である。
【0020】金属塩の共沈プロセスは、以下の(a)〜(d)の工程を含む。
【0021】(a)金属塩を出発物質として用いて、0.1〜0.8mol/L、好ましくは0.3〜0.5mol/Lの濃度を有する共沈のための作用塩溶液を調製する工程。
【0022】(b)有機酸および/またはそのアンモニウム塩を出発物質として用いて、0.1〜0.8mol/L、好ましくは0.3〜0.5mol/Lの濃度と、3.0〜7.0、好ましくは4.0〜6.0のpH値を有する共沈剤溶液を調製する工程。
【0023】(c)上記2種の溶液を、15〜70℃、好ましくは25〜45℃の温度で、攪拌および保温しながら混合し、共沈させて、共沈物の懸濁液を得る工程。
【0024】(d)保温条件下でエージングし、大気中での濾過および乾燥などを実施して、共沈物の濾過ケーキを得る工程。
【0025】この共沈プロセスにおいて使用される前記共沈剤の量は、作用塩溶液から完全に沈殿する金属イオンの化学量論的な量を5〜20重量%、好ましくは10〜15重量%超過する。
【0026】前述した共沈プロセスは、作用塩溶液の共沈剤溶液への添加、または、共沈剤溶液の作用塩溶液への添加によって実施することができる。また、作用塩溶液と共沈剤溶液とを別々に加熱し、これらを同時に沈殿タンクに添加することによっても実施することができる。
【0027】前述した共沈プロセスは、作用塩溶液および共沈剤溶液を、別々に、しかし同時に2つの平行な高設タンクに添加し、各々を15〜70℃、好ましくは25〜45℃に加熱した後、これらを低所に配置された沈殿タンクに攪拌および保温しながら同時に添加することによって実施できる。
【0028】本発明の触媒は、上記で得られた共沈濾過ケーキを乾燥およびか焼し、得られた酸化物の混合物を、任意で一定量の圧縮助剤とともに、圧縮および成形して触媒を得ることによって調製できる。乾燥は、80〜150℃、好ましくは100〜120℃の温度で、6〜20時間、好ましくは8〜10時間実施され、か焼は、300〜500℃、好ましくは340〜370℃の温度で、2〜8時間、好ましくは4〜5時間実施される。乾燥物に対する圧縮助剤の重量比は2.0〜5.0重量%であり、前記圧縮助剤としては、グラファイトおよびステアリン酸から選ばれる少なくとも1種などを使用することができる。
【0029】前述した乾燥工程およびか焼工程などによって得られる酸化物が、圧縮助剤およびバインダーと均一に混合され、圧縮および成形されて、触媒が得られる。バインダーとしては、ゼオライト、炭化ケイ素、シリカ、シリカ−アルミナ、ケイ酸塩、アルミン酸塩およびホウ酸塩などを使用することができる。
【0030】本発明の触媒は、通常の銅含有触媒と同様に、使用前に還元される必要がある。還元媒体は、純粋な水素ガスまたは水素含有窒素ガスである。還元媒体の温度をあるレベルにまで上昇させて、一定期間、温度を一定に維持して触媒を還元した後、温度を反応温度まで低下させ、反応物質を供給して触媒反応を開始させる。触媒性能に影響を及ぼす還元工程中の不適当な温度上昇を避けるため、または、触媒を過剰に燃焼させる暴走温度を平均化するため、還元媒体は水素を5容積%含む窒素ガスであることが好ましく、温度の上昇速度は触媒層の温度上昇が20℃以下となるように厳密に制御され、還元温度は200〜250℃、好ましくは210〜230℃である。
【0031】本発明に係る触媒は、例えば、CO、CO2およびH2の混合ガスからのメタノール合成、低温シフトプロセスなど、銅/酸化亜鉛または銅/酸化亜鉛/アルミナ触媒などの銅含有触媒の触媒作用を必要とする種々の化学プロセスにおける使用に適している。本発明に係る触媒は、特に、気相でのアルデヒドおよびケトンから選ばれる少なくとも1種の水素化における使用に適している。例えば、2〜22個の炭素原子を有する直鎖または分枝の飽和または不飽和のアルデヒドおよびケトンから選ばれる少なくとも1種の水素化、特に、n−プロパナール、iso−プロパナールまたは2−エチルヘキサナールなどのオキソ合成で得られたアルデヒド混合物またはその一部から、対応するアルコールへの水素化における使用に適している。また、本発明に係る触媒は、アルコールの脱水素化における使用にも適し、例えば、iso−プロパノールまたはsec−ブタノールなどの2〜22個の炭素原子を有するアルコールから、アセトンまたはメチルエチルアセトンなどの対応するケトンへの脱水素化における使用に適している。
【0032】本発明の触媒を用いた上記化学プロセスは、例えば、米国特許第4,279,781号明細書および米国特許第4,876,402号明細書並びに本明細書の実施例4〜6に記載されているように、当該技術分野において慣用の方法で実施することができる。
【0033】従来技術と比べると、本発明に係る触媒およびその製造方法は、純水によるナトリウムの洗浄除去を含まないため、製造工程が簡素化され、従来技術で生じていた環境保護の問題および廃水処理が回避される。特に、本発明に係る製造方法は、その工程における中間体である不溶性塩共沈物が構造的に均一であり、更に共沈工程において銅および亜鉛化合物が同時に沈殿し、均一で超微粒子の結晶沈殿物を生成するため、良好な繰返し精度を有する。得られる触媒は比較的大きい比表面積、細孔体積、細孔径および高い嵩密度を有し、それゆえに本発明の触媒は、炭酸ナトリウムを用いた従来の方法で製造されたものよりも、活性、選択性および安定性において優れている。そのうえ、本発明の触媒の製造コストおよび出発物質が削減される。
【0034】
【実施例】本発明を、以下の実施例および比較例を参照して更に詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を説明することを目的とし、本発明を限定するものではない。
【0035】(比較例1)米国特許第5,302,569号明細書に記載の方法に従って、本比較例のCuO/ZnO/Al23触媒を調製した。
【0036】硝酸銅435.6g、硝酸亜鉛261.5gおよび硝酸アルミニウム89.5gを1800mlの脱イオン水に溶解して混合塩溶液を作製し、80℃に加熱した。炭酸ナトリウム375.0gを3000mlの脱イオン水に溶解し、80℃に加熱した。
【0037】800mlの脱イオン水を沈殿タンクに添加し、80℃に加熱した。上記2種の溶液を、各々の流量をタンク中の溶液のpH値が7.5〜7.8の範囲となるように良く釣り合わせて、温度を80℃に維持し、20分間攪拌しながら、別々に、しかし同時に沈殿タンクに供給した。
【0038】沈殿の終了後、生成した懸濁液を2分間連続的に攪拌し、濾過し、60〜65℃の脱イオン水12リットルで2時間洗浄し、生成した濾過ケーキを110℃で8時間乾燥し、400℃で4時間か焼し、適量のグラファイトを添加して均一に混合し、圧縮および成形してCuO/ZnO/Al23触媒を得た。
【0039】得られた触媒は、120.1m2/gのBET比表面積、0.45ml/gの細孔体積、150×10-10mの平均細孔径を有し、1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが10%、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが50%、2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが40%の割合を占めるというクリスタリット分布を有していた。
【0040】(実施例1)比較例1と同様の金属比率で、本実施例のCuO/ZnO/Al23触媒を調製した。
【0041】硝酸銅435.6g、硝酸亜鉛261.5gおよび硝酸アルミニウム89.5gで、2000mlの混合塩溶液を調製し、マロン酸416.0gで2000mlの共沈剤溶液を調製した。これらの溶液を、2つの平行な高設タンクに別々に添加し、同時に25℃に加熱した。
【0042】2種の溶液を、水浴で温度を維持しつつ、20分間強く攪拌しながら低所に配置された沈殿タンクに同時に流し入れて別々に供給した後、5分間弱く攪拌しながらエージングし、濾過した。得られた濾過ケーキを110℃で8時間乾燥し、360℃で4時間か焼した後、適量のグラファイトを添加して均一に混合し、圧縮および成形してCuO/ZnO/Al23触媒を得た。
【0043】触媒は、136.2m2/gのBET比表面積、0.58ml/gの細孔体積、171×10-10mの平均細孔径を有し、1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが10%、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが80%、2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが10%の割合を占めるというクリスタリット分布を有していた。
【0044】(比較例2)米国特許第4,876,402号明細書に記載の方法に従って、本比較例のCuO/ZnO触媒を調製した。
【0045】銅41.7g(硝酸銅として添加されている。)および亜鉛85.8g(硝酸亜鉛として添加されている。)を含む溶液1600mlを43℃に加熱し、60℃の一定温度に維持され機械的に攪拌されている15.7%の炭酸ナトリウム溶液1300mlに噴霧し、約7.9〜8.5のpH値を有する最終的な沈殿混合物を得た。沈殿後、銅/亜鉛の亜炭酸塩を濾過し、37.8〜48.8℃の脱イオン水でパルプ化および洗浄した。パルプ化および洗浄を4回繰り返し、か焼後の混合酸化物のナトリウム含量が0.10〜0.15%に低減される程度まで、濾過ケーキからナトリウム塩を除去した。濾過ケーキを110℃で8時間乾燥し、400℃で4時間か焼し、適量のグラファイトを添加して均一に混合し、圧縮および成形して触媒を得た。
【0046】触媒は、36.5m2/gのBET比表面積、0.16ml/gの細孔体積、175×10-10mの平均細孔径を有し、1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが5%、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが50%、2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが45%の割合を占めるというクリスタリット分布を有していた。図1は、この触媒を、EM420型透過型電気顕微鏡(オランダ、フィリップ社(Philip Company)から入手可能)を用いて撮影(×175000)したものである。
【0047】(実施例2)比較例2と同様の金属比率で、本実施例のCuO/ZnO触媒を調製した。
【0048】硝酸銅96.5g、硝酸亜鉛235.0gで、2000mlの混合塩溶液を調製した。シュウ酸170.0gで3000mlの共沈剤溶液を調製し、pH値を5.0に調整した。2種の溶液を、2つの平行な高設タンクに別々に添加して各々を45℃に加熱し、水浴で温度を維持しつつ、20分間強く攪拌しながら低所に配置された沈殿タンクに別々しかし同時に添加した後、5分間弱く攪拌しながらエージングし、濾過し、空気乾燥した。得られた濾過ケーキを更に110℃で8時間乾燥し、360℃で4時間か焼した後、得られた混合酸化物に適量のグラファイトを均一に混合し、圧縮および成形して触媒を得た。
【0049】触媒は、41.4m2/gのBET比表面積、0.20ml/gの細孔体積、191×10-10mの平均細孔径を有し、1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが5%、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが92%、2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが3%の割合を占めるという均一なクリスタリット分布を有していた。図2は、この触媒を、EM420型透過型電気顕微鏡を用いて撮影(×175000)したものである。
【0050】図1に示すように、比較例の銅含有触媒は、大きいクリスタリットが小さいもの10倍のサイズであるという明らかに相違するクリスタリットサイズを有し、クリスタリットが不定形であった。これに対して、図2に示すように、実施例の触媒は、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが約90%の割合を占めるという均一なクリスタリット分布を有し、クリスタリットが球形で定形であることが確認できた。
【0051】(実施例3)本実施例の触媒は、商業的に入手可能な触媒と実質的に同様のCuOおよびZnO成分を、同様の比率で含む。商業的に入手可能な触媒(以下、比較触媒R1とする。)は、炭酸ナトリウムを共沈剤として用いた従来技術の方法で得られ、触媒の重量を基準としてCuO50%およびZnO50%を含む。
【0052】硝酸銅151.8gおよび硝酸亜鉛182.7gで1000mlの混合塩溶液を調製し、得られた溶液を低所に配置した沈殿タンク内に入れた。シュウ酸アンモニウム172.0gで、7.0のpH値を有する1500mlの共沈剤溶液を調製し、得られた溶液を高設タンクに入れた。2種の溶液を同時に60℃に加熱し、シュウ酸アンモニウム溶液を混合塩溶液に強く攪拌しながら15分間添加した。得られた沈殿物を、実施例2と同様の工程および条件で、混ぜ、乾燥し、か焼し、成形して触媒を得た。
【0053】この触媒は、29.1m2/gのBET比表面積、0.16ml/gの細孔体積、222×10-10mの平均細孔径を有し、1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが5%、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが93%、2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが2%の割合を占めるという均一なクリスタリット分布を有していた。一方、比較触媒R1は、22.5m2/gのBET比表面積、0.11ml/gの細孔体積、201×10-10mの平均細孔径を有し、1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが5%、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが50%、2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが45%の割合を占めるというクリスタリット分布を有していた。
【0054】(実施例4)本実施例においては、CO、CO2およびH2の混合ガスからのメタノール合成に対する触媒性能について、比較例1および実施例1で得られた触媒を比較試験した。
【0055】評価は、粒径0.45〜0.90mmの試験触媒を4ml充填した固定層マイクロリアクターを備えた装置において実施した。まず、H2/Ar混合ガス(体積比5:95)を、0.50MPaの圧力下で、流速40ml/分で装置内に導入し、装置を室温から220℃に4時間で加熱し、触媒を一定温度で4時間還元した。その後、温度を110℃に低下させ、導入された混合ガスを、CO、CO2およびH2の混合ガス(体積比3.7:2.3:94)で置換した。圧力を5.0MPa、空間速度を10,000h-1に設定した後、温度を20℃/hの速度で240℃まで上昇させて反応を行った。混合ガスの流速は質量流量計で制御した。反応生成物を、検出器として熱伝導度セルを用い、2つのクロマトカラムを用いたオンラインガスクロマトグラフィーで分析した。クロマトカラムは、CH3OH、ジメチルエーテル、高級アルコールおよびその他の炭化水素生成物の分析に用いられる長さ2メートルのカラムポーラパック−Q(Porapak-Q)と、CO、CO2およびCH4の分析に用いられる長さ2メートルのカラムTDX−01である。混合生成物における各成分の相対的な含量を規格化面積(normalized area)から算出した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】


【0057】(実施例5)本実施例においては、n−ブタナールの水素化に対する触媒性能について、比較例2および実施例2で得られた触媒を比較試験した。
【0058】評価は、粒径0.45〜0.90mmの試験触媒を4ml充填した固定層マイクロリアクターを備えた装置において実施した。まず、水素を0.40MPaの水素圧下で装置内に導入し(H2/触媒の体積比を500:1とする。)、装置を室温から220℃に4時間で加熱し、触媒を一定温度で1時間還元した。温度を150℃に低下させた後、n−ブタナールを、空間速度を0.5h-1、水素とブタナールとの体積比を6000:1として導入した。混合生成物を、検出器として熱伝導度セルを備え、キャリアガスとしてヘリウムを、固定相液体としてポリヒドロキシエチルノニルフェニルエーテルを、固定相としてクロモソルブW(Chromosrb W)を用いたガスクロマトグラフィーによって分析し、混合生成物における各成分の相対的な含量を規格化面積から算出した。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】


【0060】(実施例6)本実施例においては、sec−ブタノールの脱水素化に対する触媒性能について、実施例3で得られた触媒および商業的なCu/ZnO触媒(比較触媒R1)を比較試験した。評価は、粒径0.45〜1.8mmの試験触媒を20ml充填した小規模固定層リアクターにおいて実施した。リアクターを室温から150℃に3時間で加熱し、触媒を一定温度で8時間還元した。sec−ブタノールを、0.2MPaの圧力下、空間速度2.0h-1で供給した後、温度を50℃/hの速度で260℃まで上昇させて、8時間安定化させた。反応生成物を、検出器として熱伝導度セルを備え、キャリアガスとして水素を、固定相として高分子多孔質微球体GDX−103を用いたガスクロマトグラフィーによる分析のために採集し、混合生成物における各成分の相対的な含量を規格化面積から算出した。結果を表3に示す。
【0061】
【表3】


【0062】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の銅含有触媒によれば、1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが0〜20%の割合を占め、1.0〜2.0nmのクリスタリットが70〜99%の割合を占め、2.0nmを超えるクリスタリットが0〜20%の割合を占めるため、均一なクリスタリット分布を有し、優れた触媒性能を実現することができる。
【0063】また、本発明の銅含有触媒の製造方法によれば、共沈のための可溶性金属塩を含む作用塩溶液と、共沈剤として有機酸およびそのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つを含む共沈剤溶液とを混合する工程と、銅を含む不溶性金属塩の混合物を共沈させる工程とを含むため、均一なクリスタリット分布を有し、優れた触媒性能を実現する銅含有触媒を得ることができる。更に、本製造方法によれば、製造工程が簡素化を図ることができ、環境保護および廃水処理の問題を回避し、尚且つ、製造コストおよび出発物質の削減を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 透過型電子顕微鏡(TEM)で評価した比較触媒の像(×175000)を示す。
【図2】 透過型電子顕微鏡(TEM)で評価した本発明品の像(×175000)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが0〜20%の割合を占め、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが70〜99%の割合を占め、2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが0〜20%の割合を占めるというクリスタリット分布を有することを特徴とする銅含有触媒。
【請求項2】 ナトリウムを含有しない請求項1に記載の銅含有触媒。
【請求項3】 1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが0〜15%の割合を占め、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが75〜98%の割合を占め、2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが0〜15%の割合を占めるというクリスタリット分布を有する請求項1または2に記載の銅含有触媒。
【請求項4】 1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが0〜10%の割合を占め、1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが80〜95%の割合を占め、2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが0〜10%の割合を占めるというクリスタリット分布を有する請求項1または2に記載の銅含有触媒。
【請求項5】 30〜50m2/gの比表面積と、0.10〜0.25ml/gの細孔体積と、10〜25nmの平均細孔径を有する請求項1または2に記載の銅含有触媒。
【請求項6】 30〜70重量%の酸化銅と、30〜70重量%の酸化亜鉛と、0〜30重量%のアルミナとを含む請求項1〜5のいずれかに記載の銅含有触媒。
【請求項7】 33〜50重量%の酸化銅を含む請求項6に記載の銅含有触媒。
【請求項8】 50〜65重量%の酸化亜鉛を含む請求項6に記載の銅含有触媒。
【請求項9】 10〜25重量%のアルミナを含む請求項6に記載の銅含有触媒。
【請求項10】 1.0nm未満の直径を有するクリスタリットが2〜5%の割合を占める請求項4に記載の銅含有触媒。
【請求項11】 1.0〜2.0nmの直径を有するクリスタリットが80〜93%の割合を占める請求項4に記載の銅含有触媒。
【請求項12】 2.0nmを超える直径を有するクリスタリットが2〜5%の割合を占める請求項4に記載の銅含有触媒。
【請求項13】 35〜45m2/gの比表面積を有する請求項5に記載の銅含有触媒。
【請求項14】 0.15〜0.20ml/gの細孔体積を有する請求項5に記載の銅含有触媒。
【請求項15】 15〜20nmの平均細孔径を有する請求項5に記載の銅含有触媒。
【請求項16】 共沈のための可溶性金属塩を含む作用塩溶液と、共沈剤として有機酸およびそのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つを含む共沈剤溶液とを混合する工程と、銅を含む不溶性金属塩の混合物を共沈させる工程とを含むことを特徴とする銅含有触媒の製造方法。
【請求項17】 銅含有触媒が、酸化銅および酸化亜鉛を含み、更にアルミナを含んでもよい請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項18】 共沈剤として用いられる有機酸およびそのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つが、シュウ酸、マロン酸、コハク酸およびグルタル酸並びにそれらのアンモニウム塩からなる群より選ばれる請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項19】 共沈剤として用いられる有機酸およびそのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つが、マロン酸、シュウ酸およびそれらのアンモニウム塩からなる群より選ばれる請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項20】 共沈剤として用いられる有機酸およびそのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つが、コハク酸およびそのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つである請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項21】 共沈工程において用いられる作用塩溶液が、0.1〜0.8mol/Lの濃度を有する請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項22】 共沈工程において用いられる共沈剤溶液が、0.1〜0.8mol/Lの濃度と、3.0〜7.0のpH値を有する請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項23】 共沈工程が、15〜70℃の温度で実施される請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項24】 共沈工程において用いられる共沈剤の量が、作用塩溶液から完全に沈殿する金属イオンの化学量論的な量を、5〜20重量%超過している請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項25】 共沈工程において用いられる作用塩溶液が、0.3〜0.5mol/Lの濃度を有する請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項26】 共沈工程において用いられる共沈剤溶液が、0.3〜0.5mol/Lの濃度と、4.0〜6.0のpH値を有する請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項27】 共沈工程が、25〜45℃の温度で実施される請求項16に記載の製造方法。
【請求項28】 共沈工程において用いられる共沈剤の量が、作用塩溶液から完全に沈殿する金属イオンの化学量論的な量を、10〜15重量%超過している請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項29】 共沈工程において、作用塩溶液および共沈剤溶液が、2つの平行な高設タンクに別々に添加されて加熱された後、低所に配置された沈殿タンクに、保温および攪拌されながら、別々に、しかし同時に添加される請求項16に記載の銅含有触媒の製造方法。
【請求項30】 アルデヒドおよびケトンから選ばれる少なくとも1つの、気相での水素化に使用される請求項1〜15のいずれかに記載の銅含有触媒。
【請求項31】 アルコールの気相での脱水素化に使用される請求項1〜15のいずれかに記載の銅含有触媒。
【請求項32】 CO、CO2およびH2の混合ガスからのメタノール合成に使用される請求項1〜15のいずれかに記載の銅含有触媒。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2000−279815(P2000−279815A)
【公開日】平成12年10月10日(2000.10.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−320299
【出願日】平成11年11月10日(1999.11.10)
【出願人】(598144476)中國石油化工集團公司 (3)
【出願人】(599158948)中國石油化工集團公司撫順石油化工研究院 (1)