説明

銅硫化物からの銅の回収方法

【課題】 含銅硫化物を硫酸を用いて浸出する湿式銅製錬プロセスにおけるプロセスで消費する硫酸および中和剤の使用量を低減できる銅の回収方法を提供する。
【解決手段】 銅と鉄を含有する硫化物から銅を分離、回収する銅の回収方法であって、以下の(1)から(3)の工程を有することを特徴とするものである。
(1)銅と鉄を含有する硫化物と、硫酸溶液とを混合したスラリーを102℃以上180℃以下の範囲の温度に維持しながら、酸素または空気を吹き込んで浸出スラリーを形成し、得られた浸出スラリーを浸出液と浸出残渣に固液分離する浸出工程。
(2)前記浸出液に、酸素または空気を吹き込みながら、浸出液の温度を230℃以上270℃以下に維持することにより脱鉄スラリーを形成し、次いで前記脱鉄スラリーを脱鉄液と鉄澱物に固液分離する脱鉄工程。
(3)前記脱鉄液を電解始液として銅の電解採取を行い、電解廃液と電着銅に分離する電解工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅と鉄を含有する硫化物から湿式法により銅を回収する製錬プロセスに用いられる銅硫化物からの銅の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅精鉱や銅鉱石などの硫化銅鉱物や中間原料などの含銅硫化物から、湿式法により銅を製錬する湿式銅製錬プロセスは、含銅硫化物中の銅を溶液に浸出する際に用いる液の種類によって、塩化系と硫酸系のプロセスに大別できる。
【0003】
塩化系のプロセスは、塩化物やその他のハロゲン化合物などを含有する溶液を用い、塩素ガスなどの酸化剤を併用して銅を溶液中へ浸出するものである。一方、硫酸系のプロセスは、硫酸や硫酸塩の溶液を用いて酸素や空気などの酸化剤を併用して銅を溶液中へ浸出するものである。
【0004】
このような塩化系および硫酸系いずれのプロセスを用いても、上記で得た銅を含有する浸出液は、溶媒抽出などの処理により浸出液中の鉄やヒ素などの不純物を分離、除去して最後に電解採取などの方法を用いて電着銅を回収するものである。
【0005】
硫酸系のプロセスは、例えば特許文献1に開示されるように、硫酸を含有する水溶液中で酸素または空気を導入し銅の硫化鉱物中の銅を硫酸により酸化浸出する方法である。
特許文献1には、硫化銅鉱を加圧酸化し、さらに、硫酸溶液を用いて銅を浸出し、次に得た硫酸銅溶液を溶媒抽出によって銅を硫酸溶液から分離、電解採取して銅を回収する方法が示されている。この方法では、黄銅鉱を酸化浸出する際には、化1に示すように黄銅鉱に含有される銅1モルに対して2倍となる量の硫酸を添加し浸出する。
【0006】
【化1】

【0007】
浸出により黄銅鉱に含有される銅は硫酸銅の形態、すなわち2価の銅イオンとして硫酸溶液中に存在する。また、黄銅鉱中に含有される鉄は、硫酸鉄の形態すなわち2価および一部は3価の鉄イオンとして硫酸溶液中に存在する。一部の2価鉄イオンは、化2に示すように、加水分解を受けて難溶性の三酸化二鉄(ヘマタイト)を生成し同時に硫酸を副生する。つまり、化1から化2の反応を考えると、黄銅鉱1モルを浸出するには1モルの硫酸が必要となる。
【0008】
【化2】

【0009】
上記2価の銅イオンを含有する硫酸溶液は、三酸化二鉄を固液分離後、有機抽出剤を用いた溶媒抽出によって2価の銅イオンを有機抽出剤中へ抽出して不純物と分離し、同時に電解採取に適した高銅濃度の逆抽出液を得る処理が行なわれる。
【0010】
特許文献1の方法では1モルの黄銅鉱を処理すると、浸出工程で1モルの硫酸が消費されるため硫酸を補給しなければならない。一方抽出工程では、溶媒抽出の反応により硫酸1モルが過剰に生じるため、溶媒抽出の反応を円滑に進めるには、副生した硫酸を随時中和する処理が必要となるなど硫酸と中和剤が無駄になっていた。
【0011】
また、特許文献2では、銅の硫化鉱物に反応触媒として塩化物を添加し、200〜220℃の温度域で酸素もしくは空気を吹き込んで酸化しながら加熱し、硫化鉱物に含有される硫黄を酸化して硫酸を生成させ、銅や鉄を硫酸溶液中に溶解させる浸出方法が示されている。
【0012】
この方法は、化3に示すように、浸出する際は酸素だけを用い、鉱物中の硫黄分を硫酸塩の原料として利用するために、新たに硫酸を添加する必要はない。しかしながら、化4に示すように、浸出液中の硫酸鉄から酸化鉄が生じる際には硫酸が副生する。さらに、得た浸出液から溶媒抽出によって銅と不純物とを分離する必要があるので、抽出工程においても硫酸が副生し、浸出から電解採取までのプロセス全体としては、1モルの銅を処理するに伴って2モルの硫酸が副生するなど硫酸の処置を考慮する必要があった。
【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
このように、銅の溶媒抽出工程では、銅を抽出する際に銅1モルの抽出に対して1モルの硫酸が副生するため、硫酸を無害化するには中和剤の添加が欠かせない。
その中和剤として、例えば、銅の酸化鉱を代用することもできる。酸化鉱を添加すると硫酸が硫酸銅になり中和と同じ効果が得られる。同時に酸化鉱中の銅も浸出される効果もあり有利である。しかし、酸化鉱が常に利用できるとは限らず、一般には消石灰などのアルカリを中和剤として用いる必要がある。このため、銅硫化物を硫酸系のプロセスにより湿式処理する場合、使用する硫酸および中和剤に要するコストが大きな課題となっていた。
【0016】
また、特許文献3では170〜235℃で硫化銅鉱物を硫酸浸出後、過剰な酸を水で希釈し、pHを1.2〜2.0の範囲に調整する方法が開示されている。しかしながら、液を希釈して酸濃度を低下させてpHを調整するには、膨大な希釈水の添加が必要となり、設備容量や水バランス、廃水処理の手間とコストなどを考えると、実用的な方法ではない。
【0017】
以上のように、硫化銅を硫酸で浸出し、溶媒抽出によって銅とそれ以外の不純物を分離するプロセスにおいては、浸出時に硫酸を加え、一方で、溶媒抽出で生成した硫酸を中和する処理が必要となり、過大な設備が必要でコストの増加をもたらしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平10−510585号公報
【特許文献2】特許3609421号公報
【特許文献3】特開2007−297717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、含銅硫化物を硫酸を用いて浸出する湿式銅製錬プロセスにおけるプロセスで消費する硫酸および中和剤の使用量を低減できる銅の回収方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するための本発明の第1の発明は、銅及び鉄を含有する硫化物から銅を分離、回収する銅の回収方法であって、以下の(1)から(3)の工程を有することを特徴とするものである。
(1)銅と鉄を含有する硫化物と、硫酸溶液とを混合したスラリーを102℃以上180℃以下の範囲の温度に維持しながら、酸素または空気を吹き込んで浸出スラリーを形成し、得られた浸出スラリーを浸出液と浸出残渣に固液分離する浸出工程。
(2)前記浸出液に、酸素または空気を吹き込みながら、浸出液の温度を230℃以上270℃以下に維持することにより脱鉄スラリーを形成し、次いで前記脱鉄スラリーを脱鉄液と鉄澱物に固液分離する脱鉄工程。
(3)前記脱鉄液を電解始液として銅の電解採取を行い、電解廃液と電着銅に分離する電解工程。
さらに、この電解工程で分離された電解廃液を、浸出工程における硫酸溶液として再利用する工程を有するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下に示す工業上顕著な効果を奏するものである。
(1)浸出時に使用する硫酸の量を削減でき、コストが低減できる。
(2)中和剤を使わずに鉄を除去するために、発生する澱物量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の回収方法の工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明では、銅硫化鉱物と硫酸溶液とを混合してスラリーとし、これをオートクレーブなどの耐熱・耐圧を備えた反応容器に入れて酸素もしくは空気により浸出し、得られた浸出液を再度耐熱・耐圧性のある反応容器中で高温に加熱することで浸出液中の鉄を沈殿として分離し、その脱鉄液から銅を電解採取するもので、その際に、本発明者らは、浸出時の温度を特定の範囲に維持すると、硫黄の酸化が抑制されるだけでなく、浸出液中の鉄イオンと遊離硫酸が鉄明礬石(Jarosite、M[Fe(SO](OH)6 M:Hもしくは一価金属陽イオン)を生成し、沈殿することを見出した。このことは、この性質を利用し、鉄明礬石を生成させる条件で操業することで鉄イオンを利用して過剰な硫酸を浸出液から分離可能であることを意味している。
【0024】
本発明では、銅と鉄を含有する硫化物から銅を分離、回収する際に以下の3つの工程を少なくとも有している。
(1)浸出工程
銅と鉄を含有する硫化物と硫酸溶液とを混合したスラリーを、耐熱、耐圧反応容器中で102℃以上180℃以下の温度範囲に維持しながら、このスラリーに酸素または空気を吹き込み、次いで酸素または空気を吹き込まれたスラリーを、浸出液と浸出残渣に固液分離する工程である。
(2)脱鉄工程
浸出工程で得られた浸出液に、耐熱、耐圧反応容器中で酸素または空気を吹き込みながら、浸出液の温度を230℃以上270℃以下に維持することにより脱鉄スラリーを形成し、次いで、その脱鉄スラリーを脱鉄液と鉄澱物に固液分離する工程である。
(3)電解工程
脱鉄工程で得た脱鉄液を電解始液として電解採取を行い、電解廃液と電着銅とに分離する工程である。
【0025】
図1に本発明の回収方法の工程フロー図を示す。
本発明では、図1に示すように浸出工程、脱鉄工程、電解工程と、電解廃液(電解終液)を所定の濃度に中和後、再度浸出工程に供給する工程を有しても良い。
以下、各工程の内容を詳細に説明する。
【0026】
〔浸出工程〕
1.浸出条件
鉄と銅を含有する硫化物から銅を浸出する場合、所定の処理温度にスラリーを保持して、酸素または空気を吹き込んで酸化反応により硫酸銅の形態で銅を浸出するもので、その処理温度が102℃未満の温度で浸出すると硫化銅鉱の浸出時間が遅くなり、設備規模が過大となるなど効率の点で好ましくない。一方、180℃を超えた温度で浸出すると、硫黄の酸化が銅の浸出よりも優先的に進行し、遊離硫酸が多く発生するので鉄明礬石の生成が妨げられ、さらに生成した鉄明礬石が再溶解する問題もある。したがって、浸出温度は102℃以上、180℃以下の範囲とすることが適している。
【0027】
その反応時間は、例えば1〜3時間程度であれば充分に反応を進めることができるが、実際には銅の浸出率や硫黄の酸化率を観察しながら適宜調整すればよい。また空気あるいは酸素の吹き込み量も同様に観察しながら適宜調整すればよい。
【0028】
2.固液分離
反応容器から排出された浸出液と浸出残渣からなるスラリーは、ヌッチェ、デンバー、シックナー、遠心分離機、フィルタープレスなど既知の適当な1つ以上のろ過方法を用いて浸出液と浸出残渣とに固液分離する。
【0029】
〔脱鉄工程〕
脱鉄工程では、浸出工程で得た浸出液を、反応容器中で再加熱することで、浸出液中の鉄イオンを鉄沈殿物、共存していた硫酸イオンを硫酸として電解採取時の電解液の電気伝導度を確保する。
【0030】
1.脱鉄条件
脱鉄工程では、浸出工程と同じタイプの反応容器を使用することができる。反応時の加熱温度は230℃以上270℃以下の範囲とすることが好ましい。230℃未満の温度では鉄の残渣への固定が不十分な場合があり、液中に鉄イオンが残存する場合を生じる。一方、270℃を超える温度で加熱した場合、鉄は酸化物として残渣に分配し安定に固定されるが、それ以上温度を上げても鉄イオンから鉄沈殿物への変化はあまり変わらず、エネルギーのロスが大きくなるだけで効果が少ないためである。
【0031】
その反応時間は、例えば1〜3時間程度であれば充分に反応を進めることができるが、実際には得た残渣の形態を観察しながら適宜調整すればよい。
また、空気あるいは酸素の吹き込み量も、得られる脱鉄液や残渣を観察しながら適宜調整すればよい。
【0032】
2.固液分離
脱鉄処理を施された脱鉄スラリーは、浸出工程と同様なろ過方法を用いて脱鉄液と鉄澱物とに分離する。
【0033】
〔電解工程〕
脱鉄工程で得た脱鉄液は、電解液として用いられて電解採取して銅を回収する。電解採取は、例えば陽極に鉛、陰極にステンレス板を用い300A/m前後の電流密度で通電するなど、従来から行われている方法を用いることで、陰極上に銅を電着させて回収できる。
電解工程では、電析した銅のモル量と同モル量だけの硫酸が副生する。そのため、電解採取後の電解廃液は、含銅硫化物を浸出する浸出始液として繰り返し、再び使用することができる。
【0034】
すなわち、本発明では、浸出と電解採取工程とを有するプロセスにおいて、中和剤の添加や新たな硫酸添加を行うことなしに、硫化物から銅を回収することができる。
なお、溶媒抽出を用いた従来のプロセスに対して、本発明では溶媒抽出工程による不純物の分離工程は設けなくても良い。
【0035】
〔不純物の処理〕
銅鉱石や銅精鉱を、硫酸溶液を用いて浸出した場合、得られる浸出液中には目的とする銅イオンのほかに、鉄イオン、硫黄が参加した硫酸イオン、さらに不純物としての砒素イオンなどが存在する。
【0036】
この中で鉄イオンは、電解採取時に電流効率の低下をもたらすなどの弊害があるが、本発明の方法では、鉄イオンは鉄明礬石および鉄沈殿物として除去されるので電解始液に含有される鉄イオンの濃度は1g/L以下の濃度にまで低減でき、実用上の問題はない。
また、浸出工程で鉄明礬石を生成する際に、存在した砒素イオンは鉄イオンと主に安定なスコロダイトとして固定され、分離して廃棄することが出来るので砒素による電着銅汚染の恐れもない。
【0037】
その他の不純物として硫化物の種類によっては、亜鉛やマグネシウム、アルミニウムなどが存在する場合もあるが、これらは電位的に銅よりも卑な金属であるため、電解採取により銅と共析し、品質に影響することは小さい。なお、これら卑な金属がプロセス系内に蓄積し濃度が上昇した場合には、電解廃液の一部を中和して処分するなどによりプロセスへの影響を防止出来る。
【0038】
また、本発明は、銅精鉱や黄銅鉱のような硫化銅鉱物に限定されず、銅と鉄を含有する硫化物であれば適用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0040】
銅20.6%、鉄25.7%、硫黄24.6%、砒素0.5%の組成である黄銅鉱と黄鉄鉱の混合物から成る銅鉱物を用いた。この銅鉱物を湿式粉砕し、粒径10μm以下の粒子が全体の80%以上を占めるように粒度を調製した。
【0041】
〔浸出工程〕
この粉砕した銅鉱物を乾燥重量に換算して75g相当になるように分取した。分取した銅鉱物を銅濃度35.0g/L、鉄濃度1.0g/L、硫黄濃度50.9g/L(遊離硫酸濃度100g/L)の組成である水溶液1000ml中に懸濁し、さらに界面活性剤としてリグニンスルホン酸ナトリウムを0.5g/Lの濃度となるように添加し、スラリーを作製した。
【0042】
このスラリーを容量3リットルの耐熱ガラス容器に入れ、このガラス容器を3リットルの容量の容器まで収容できるチタン製の圧力容器内に装入、密閉し、スラリーを攪拌、混合しながら105℃まで昇温した。昇温後の内圧は0.1MPaだった。次に酸素ガスを容器内に吹き込み、内圧を1.3MPaにまで上昇させた。さらに上記温度を維持しながら攪拌を2時間継続し、その間で圧力が低下した分は圧力計を見ながら手動でボンベから酸素ガスを吹き込んで一定の圧力に維持した。なお、実施例で用いた圧力容器はバッチ式であるため、酸素ガスは圧力計の指示を見ながら手動で送り込んでいる。
【0043】
反応後のスラリーをヌッチェと濾瓶を用いて濾過し、浸出液1000mlと浸出残渣33.2g(乾燥重量)とに分けた。浸出液と浸出残渣中の銅、鉄、硫黄を、それぞれICPを用いて分析した。また遊離硫酸濃度は中和滴定によって求めた。
【0044】
銅浸出率は、銅鉱物に含有された銅が浸出液中に溶出した量として算出した。硫黄の酸化率は、銅鉱物中に含有された硫黄の中で硫酸イオンとして浸出液中に溶出した割合として算出した。
【0045】
実施例1における浸出液中の銅濃度は48.0g/Lであり、銅の浸出率は81.0%となった。また、鉄濃度は18g/L、鉄の浸出率は92.3%となった。遊離硫酸濃度は31.1g/Lであり、硫黄の酸化率は10%であった。
【0046】
〔脱鉄工程〕
次に、この浸出液を別の容量3リットルの耐熱ガラス製の容器に入れ、ついで3リットルの容量の容器まで収容できるチタン製の圧力容器内に装入、密閉し、混合しながら230℃まで昇温した。昇温後の内圧は2.9MPaだった。次に酸素ボンベから酸素ガスを容器内に吹き込み、圧力計を見ながら手動で調整して内圧を3.3MPaにまで上昇させた。さらに上記温度を維持しながら攪拌を1時間継続した。
【0047】
脱鉄反応後のスラリーをヌッチェと濾瓶を用いて濾過し、脱鉄液と鉄澱物とに固液分離した。
脱鉄液中の銅濃度は48.5g/L、鉄濃度は0.9g/Lであり、遊離硫酸濃度は78g/Lであった。
【0048】
〔電解工程〕
次に、この脱鉄液を電解始液として、液温度を57℃から62℃の範囲に保持し、鉛製のアノードとステンレス製のカソードとを電極として電流密度が300A/mとなる電流で通電して、電解液中の銅をカソード上に電析させた。電解液中の銅濃度が35g/Lになった時点で通電を止め停電した。そこで、カソードを引揚げ、電着した銅を剥ぎ取って洗浄した。回収した銅の重量から、電流効率を求めたところ、89%となった。停電時の電解廃液の遊離硫酸濃度は、101g/Lであり、電解採取によって浸出始液並みの濃度にまで硫酸が再生されていた。
また、電着した銅をICPを用いて分析したところ、純度は99%以上で、鉄や砒素の問題となる品位以上の析出は見られず、高品位な銅が得られることを確かめた。
【0049】
〔電解廃液の再利用〕
さらに、電解工程で分離された電解廃液を、浸出始液として用い、同一種の銅鉱物と混合してスラリーを作製して、新たな硫酸を添加することなく、その他は上記と同一条件で浸出を行った。
得られた浸出液中の銅濃度は48.0g/Lであり、先の銅濃度と同程度が得られた。一方遊離硫酸濃度は30.0g/Lまで低下していた。このことから、用いた電解廃液(電解終液)が次回の浸出始液として再利用できることがわかる。
その結果をまとめて表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
(比較例1)
銅鉱物からの浸出温度を200℃まで昇温した以外は、電解廃液の再利用工程を除いて実施例1と同じ条件で銅の回収を行った。
浸出液中の銅濃度は50.1g/Lであり、銅の浸出率は97.7%であった。また、鉄濃度は19.6g/L、鉄の浸出率は96.4%となった。遊離硫酸濃度は110.8g/Lであった。この浸出液を脱鉄工程に付した脱鉄液の銅濃度は50.4g/Lであり、鉄濃度は12.6g/L、遊離硫酸濃度は118.2g/Lであった。これらをまとめて表1に併せて示す。
なお、上記から明らかなように浸出温度を高温とした場合、この段階での遊離硫酸濃度が高くなり、脱鉄工程での鉄の固定が困難となり、脱鉄液の鉄濃度が高いことから電解液としての利用は困難であるとして電解廃液の再利用工程は行わなかった。
【0052】
(比較例2)
浸出液から脱鉄する際の浸出液の温度を180℃で行った以外は、電解廃液の再利用工程を除いて実施例1と同じ条件で銅の回収を行った。
脱鉄液中の銅濃度は48.2g/L、鉄濃度は12.0g/L、遊離硫酸濃度は41.1g/Lであった。これらをまとめて表1に併せて示す。
なお、上記から明らかなように鉄濃度が高いことから電解液としての利用は困難であるとして電解廃液の再利用工程は行わなかった。
【0053】
以上、本発明の方法により、銅や鉄を含有する硫化物から銅を浸出し、硫酸や中和剤の添加をせずに、銅電解採取により銅を回収できることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅及び鉄を含有する硫化物から銅を分離、回収する銅の回収方法であって、
以下の(1)から(3)の工程を有することを特徴とする。
(1)銅と鉄を含有する硫化物と、硫酸溶液とを混合したスラリーを102℃以上180℃以下の範囲の温度に維持しながら、酸素または空気を吹き込んで浸出スラリーを形成し、得られた浸出スラリーを浸出液と浸出残渣に固液分離する浸出工程。
(2)前記浸出液に、酸素または空気を吹き込みながら、浸出液の温度を230℃以上270℃以下に維持することにより脱鉄スラリーを形成し、次いで前記脱鉄スラリーを脱鉄液と鉄澱物に固液分離する脱鉄工程。
(3)前記脱鉄液を電解始液として銅の電解採取を行い、電解廃液と電着銅に分離する電解工程。
【請求項2】
前記電解廃液を前記浸出工程の硫酸溶液として用いる電解廃液の再利用工程を有することを特徴とする請求項1記載の銅の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−195877(P2011−195877A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63297(P2010−63297)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】