説明

銅被覆アルミニウム複合線の製造方法

【課題】Al−Mg合金線を芯材とした場合にもCu被覆とAl−Mg合金線をより強固に密着させてボイド(Al−Mg合金線とCu被覆の間の微小な空隙)の発生を防止し、その後の伸線加工においてCu被覆とAl−Mg合金線が剥離したり、Al−Mg合金線部分がCu被覆から露出することがないCu被覆Al複合線の製造方法を提供することにある。
【解決手段】Mgを0.05〜2.0質量%含有し、かつその表面粗さが0.1〜5.0μmのAl−Mg合金線上に、前記Al−Mg合金線と接する面の表面粗さを0.1〜5.0μmとしたCuテープを縦添えしながら前記Cuテープの突合せ部を連続的に溶接し、縮径加工を施した後、ついで、目的とする線径まで伸線加工を行うCu被覆Al複合線の製造方法とすることによって、解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムを含有するアルミニウム合金線(以下、Al―Mg合金線)からなる芯材に銅被覆(以下、Cu被覆)が設けられた銅被覆アルミニウム複合線(以下、Cu被覆Al複合線)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Cu被覆Al複合線は、Al線にCu被覆が施されたものであるため、軽くて成形性に優れ、またはんだ付性が良い。さらに、高周波領域においては、表皮効果により電流が銅被覆層を流れるので実効抵抗は銅導体と同じになるために、高周波同軸ケーブル用の導体としても使用されている。その他にも、ハードデスクドライブのピックアップコイルやヘッドホン用の巻線等に使用される。このCu被覆Al複合線は、通常ワイヤブラッシングなどによって表面を清浄にした銅テープ(以下、Cuテープ)を所定の幅にスリットし、同様に表面を清浄したAl線を包み込むように丸く成形し、その突合せ部分を連続的にTIG溶接等によって接合した後、ロール加工等によって縮径してCuテープをAl線上に密着させ、ついで伸線機等により伸線加工を施すことによって目的とする径に縮径することによって製造されている。このようにして製造されたCu被覆Al複合線において、Cu被覆とAl線とが確実に接合されていないとCu被覆の剥離の問題やAl線がCu被覆から露出する等の問題がある。このような状態が生じるのは、伸線加工段階でCu被覆に過大な応力が掛かるためである。そして、アルミニウム(以下、Al)が露出すると異種金属接触腐食によりAlが急速に腐食して断線する等の問題が生じるため、Cu被覆とAl線を強固に接合する必要がある。
このような問題点を解決しようとする提案が特許文献1に見られる。すなわち、造管方式により得られる複合線を所定径まで伸線加工する際に銅層とAl線との密着性を大幅に高めて、接合を促進できるようにするため、素材として使用するAl線の表面粗さ(Ra)が5〜50μmであり、かつCuテープのAl線に接する面の表面粗さ(Ra)が10μm以下の素材を用いることによって、密着性を向上させることができるとしている。確かに、このようなCu被覆Al複合線は従来のものに比較すると性能が向上しているが、Al合金線を使用するCu被覆Al複合線についても前述の性能を有するものが望まれている。しかしながら、特許文献1にはAl合金線を用いた場合についての開示は見られない。なお、Al合金線を心材とするCu被覆Al複合線に関しては、特許文献2を代表的なものとして挙げることができるが、この特許文献2においてはマグネシウム(以下、Mg)等を含有するAl合金線を開示しているが、Mg含有量の範囲や前記Al合金線並びにCuテープの表面粗さに関しては何ら記載されていない。
【特許文献1】特開2007−152398号公報
【特許文献2】特開2004−39477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
よって、本発明が解決しようとする課題は、Cu被覆Al複合線においてAl―Mg合金線を芯材とした場合にも、Cu被覆とAl―Mg合金線をより強固に密着させてボイド(Al―Mg合金線とCu被覆の間の微小な空隙)の発生を防止し、その後の伸線加工においてCu被覆とAl―Mg合金線が剥離したり、Al―Mg合金線部分がCu被覆から露出することがないCu被覆Al複合線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記解決しようとする課題は、請求項1に記載するように、Mgを0.05〜2.0質量%含有し、かつその表面粗さが0.1〜5.0μmのAl−Mg合金線上に、前記Al−Mg合金線と接する面の表面粗さを0.1〜5.0μmとしたCuテープを縦添えしながら前記Cuテープの突合せ部を連続的に溶接し、縮径加工を施した後、ついで、目的とする線径まで伸線加工を行うCu被覆Al複合線の製造方法とすることによって、解決される。
【発明の効果】
【0005】
以上の本発明のように、Mgを0.05〜2.0質量%含有しかつその表面粗さが0.1〜5.0μmのAl―Mg合金線上に、前記Al−Mg合金線と接する面の表面粗さを0.1〜5.0μmとしたCuテープを用いたことにより、目的とする線径まで伸線加工を行っても、特定量のMgを添加したAl―Mg合金線を使用したことにより、有害な酸化皮膜をMgが還元するため常に清浄なAl―Mg合金線が供給されるので、Al―Mg合金線とCuテープの接合をボイド等の発生がない強固な接合とすることがでる。
さらに、Al―Mg合金線の表面並びにCuテープの表面を特定の表面粗さにしてあるので、その凸部の潰れによってAl―Mg合金線の表面が常に清浄なものとなり、ボイド等の発生がない強固な接合とすることがでる。このようにして得られたCu被覆Al合金線は、その後に伸線加工を行ってより過度の応力が掛かっても、Cu被覆からAl―Mg合金線部分が露出したりCu被覆が剥離したりすることがなく、異種金属接触腐食によりAlが急速に腐食して断線する等の問題が生じない。例えば、前記伸線加工として減面率が30%のような過度の応力が掛かる伸線加工を行っても、Cu被覆からAl―Mg合金線部分が露出することがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、Mgを0.05〜2.0質量%含有し、かつその表面粗さが0.1〜5.0μmのAl−Mg合金線上に、前記Al−Mg合金線と接する面の表面粗さを0.1〜5.0μmとしたCuテープを縦添えしながら前記Cuテープの突合せ部を連続的に溶接し、縮径加工を施した後、ついで、目的とする線径まで伸線加工を行うCu被覆Al複合線の製造方法である。このようなCu被覆Al複合線の製造方法とするのは、表面を清浄にしたCuテープを所定の幅にスリットし、同様に表面を清浄したAl―Mg合金線を包み込むように丸く成形し、その突合せ部分を連続的にTIG溶接等によって接合した後、ロール加工等によって縮径してCuテープをAl―Mg合金線上に密着させる場合に、Al―Mg合金線の表面粗さ並びにCuテープのAl―Mg合金線と接する面の表面粗さを特定することによって、Al―Mg合金線表面の酸化物皮膜が破壊し易い状態とすることができ、常にAl―Mg合金線表面に酸化物皮膜が存在しない清浄な面が創出するためである。このことによって、縮径加工におけるボイドの発生を防止しAl―Mg合金線とCu被覆がより強固に接合できることを見いだしたものである。すなわち、Al―Mg合金線の表面並びにCuテープ表面をブラッシング等によって表面粗さが0.1〜5.0μmとなるように清浄化する。このような表面粗さは、種々の実験結果によって決定されたものであるが、Al―Mg合金線の表面粗さ並びにCuテープの表面粗さを0.1μm以上とするのは、凸部が伸線加工の際に潰れて清浄なAl―Mg合金面が創出するために好ましい高さであり、また、5.0μm以下としたのは、あまり凸部が高過ぎると凹部がボイド発生の原因となるためである。以上のような範囲の表面粗さにしておくことで、特に過度の応力が掛かるような伸線加工を行った場合にもCu被覆からAl―Mg線部分が露出することが見られなくなる。
さらに、Al―Mg合金線について検討した結果、前述の表面粗さと特定量のMgを含有するAl−Mg合金線とするのが良いことを確認した。すなわち、Mg含有量を0.05〜2.0質量%含有するAl−Mg合金線を使用するのが好ましいことを確認した。このようなMg含有量とすることによって、Cu被覆との強固な接合に有害となる酸化皮膜をMgが還元するために好ましい範囲となる。なお、Mg含有量が2.0質量%を超えるようなAl合金線は、返って接合時の結合が弱くなるので好ましくなくなる。
このように本発明では、Cu被覆Al複合線の心材として、Mgを0.05〜2.0質量%含有するAl−Mg合金線を用いること、また、その表面粗さが0.1〜5.0μmであり、さらには、前記Al−Mg合金線と同様の表面粗さのCuテープを使用することによって、Al−Mg合金線とCuテープの接合をボイド等の発生がない強固な接合とすることができる。このようにして得られたCu被覆Al合金線は、その後に伸線加工を行ってより過度の応力が掛かっても、Cu被覆からAl−Mg合金線部分が露出したりCu被覆が剥離したりすることがなく、異種金属接触腐食によりAlが急速に腐食して断線する等の問題が生じることがなくなる。
【0007】
そして、前記Al−Mg合金線上に前記Cuテープを、縦添えしながらその突合せ部分をTIG溶接によって接続し、続いてロール加工等の縮径加工によりAl−Mg合金線上にCuテープを被覆することによって、伸線加工用のCu被覆Al複合線とされる。このようにして得られたCu被覆Al複合線は、目的とする線径(通常1mm〜50μmの極細線)に伸線機等により伸線加工を行うことによって、目的とするCu被覆Al複合線とすることができる。本発明のように十分な金属接合がされた場合には、伸線機等による伸線加工においてCu被覆に過度の応力が加わることを少なくできるので、伸線加工を行ってもAl−Mg合金線部分が露出するようなことがないCu被覆Al複合線を得ることができる。このようにして得られたCu被覆Al複合線は、種々の用途に使用できる。例えば、高周波同軸ケーブル用の導体、ハードデスクドライブのピックアップコイルやヘッドホン用の巻線等に有用である。
【実施例】
【0008】
表1に記載した実験例によって、本発明の効果を示す。
Mg含有量(0.03〜2.2質量%)をそれぞれ変えたAl−Mg合金線並びにCuテープ(厚さ0.4mm)を用意し、ブラッシングによりその表面を表1に示した表面粗さに表面処理を行った。ついで、前記Al−Mg合金線上に前記Cuテープの表面処理した側を被せた後、ロール加工による縮径処理を行ってCuの占積率が5%、線径がΦ10.0mmのCu被覆Al複合線を得た。つぎに、このCu被覆Al複合線の500mを伸線機によって伸線加工し、線径Φ1.0mmのCu被覆Al複合線となるようにして試料を作製した。この試料について、過流探傷試験を行いAl下地の露出個数を観測して評価した。結果を表1に記載した。
【0009】
【表1】

【0010】
表1の実験例1〜12から明らかなように、Cu被覆Al複合線を作製するに当たり、Mgを0.05〜2.0質量%含有し、かつその表面粗さが0.1〜5.0μmのAl−Mg合金線上に、前記Al−Mg合金線と接する面の表面粗さを0.1〜5.0μmとしたCuテープを縦添えしながら突合せ部を連続的に溶接し、縮径加工を施した後、伸線加工をおこなってCu被覆Al複合線とするので、ボイド等の発生を防止してAl−Mg合金線とCu被覆がより強固に接合していることがAl下地の露出個数から明確である。
すなわち、実験例1〜4に記載するように、Mg含有量が0.05質量%のAl−Mg合金線を用い、その表面粗さが0.1〜5.0μm並びにCuテープの表面粗さが0.1〜5.0μmであれば、Al下地の露出個数は9〜13個と少なく良好であった。また、実験例5〜8のように、Mg含有量が1.0質量%のAl−Mg合金線を用い、その表面粗さが0.1〜5.0μm並びにCuテープの表面粗さが0.1〜5.0μmであれば、Al下地の露出個数は7〜12個と少なく良好である。さらに、実験例9〜12のように、Mg含有量が2.0質量%のAl−Mg合金線を用い、その表面粗さを0.1〜5.0μm並びにCuテープの表面粗さも0.1〜5.0μmとすれば、Al下地の露出個数は10〜15個と少なく良好であることが判る。
【0011】
これに対して、実験例13〜24に示した場合には、Al下地部分の露出個数が多く発生していて問題があった。
すなわち、実験例13および14に記載するように、Mg含有量が0.03質量%のAl−Mg合金線を用いた場合には、その表面粗さが0.1〜5.0μm並びにCuテープの表面粗さが0.1〜5.0μmであっても、Al下地の露出個数が103および112個と多数見られた。また、実験例15および16に記載するように、Mg含有量が2.2質量%のAl−Mg合金線の場合には、その表面粗さが0.1〜5.0μm並びにCuテープの表面粗さも0.1〜5.0μmであっても、Al下地の露出個数が97および89個と多数見られた。
さらに、実験例17、18、21および22に記載するように、Mg含有量が1.0質量%のAl−Mg合金線の場合であってもその表面粗さが0.07や7.0μmのように本発明範囲から外れると、Cuテープの表面粗さが0.1〜5.0μmであっても、Al下地の露出個数が74〜86個と多数見られた。また、実験例19、20、23および24に記載するように、Mg含有量が1.0質量%のAl−Mg合金線の場合であって、Cuテープの表面粗さが0.1〜5.0μmであっても、Cuテープの表面粗さが0.07や7.0μmのように本発明範囲から外れると、Al下地の露出個数が72〜86個と多数見られて問題がある。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明のCu被覆Al複合線はAl−Mg合金線を心材としても、前述したようにAl−Mg合金線とCu被覆の間にボイドや剥離が殆どないので、希望する線径に伸線加工を施してもAl下地がCu被覆から露出することがなく、例えば、高周波同軸ケーブル用の導体、ハードデスクドライブのピックアップコイルやヘッドホン用の巻線等として有用なCu被覆Al複合線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを0.05〜2.0質量%含有し、かつその表面粗さが0.1〜5.0μmのアルミニウム合金線上に、前記アルミニウム合金線と接する面の表面粗さを0.1〜5.0μmとした銅テープを縦添えしながら前記銅テープの突合せ部を連続的に溶接し、縮径加工を施した後、ついで、目的とする線径まで伸線加工を行うことを特徴とする銅被覆アルミニウム複合線の製造方法。

【公開番号】特開2010−36237(P2010−36237A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205129(P2008−205129)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】