説明

銅酸化物量子ドットの製造方法

【課題】CuO又はCuOを選別して得ることができ、単分散状態で良好な結晶性を有する銅酸化物量子ドットの製造方法を実現する。
【解決手段】レーザアブレーション装置1ではCuOセラミックロッドをターゲットにしてレーザ光を照射し、量子ドットの集合体を生成する。次いで気流中に分散した量子ドットを帯電器2で帯電させた後、電気炉3では気流中に分散した量子ドットを加熱温度を制御しながら熱処理する。加熱温度を600〜700℃に設定して熱処理を行った場合はCuOが生成され、加熱温度を900℃以上に設定して熱処理を行った場合はCuOが生成される。次いでDMA4で分級処理を行い、平均粒径Dが15nm以下であって標準偏差σと平均粒径Dとの比σ/Dが0.2以下の銅酸化物量子ドットを捕集器5で捕集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅酸化物量子ドットの製造方法に関し、より詳しくはCuO量子ドット又はCuO量子ドットを単分散状態で得ることができる銅酸化物量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物材料は、ナノメートルレベルに量子ドット化すると、様々な新機能を発現することから、種々の電子デバイスへの応用が期待されている。例えば、銅酸化物には、CuOとCuOとが広く知られているが、これらを量子ドット化することにより、それぞれの量子ドットで新機能を発現することが確認されている。
【0003】
CuOを量子ドット化した場合、負の熱膨張率を示すことが知られており、零膨張率材料やナノマシンへの展開が期待されている。すなわち、通常、熱エネルギーが材料に負荷されると膨張するが、CuOは負の熱膨張率を示すことから熱負荷されても膨張せず、このため零膨張率材料やナノマシンへの展開が期待されている。
【0004】
また、CuOを量子ドット化した場合、可視光照射で光触媒反応による水の電気分解を起こすことが知られていることから、触媒関係への応用が期待されている。また、CuOは、量子ドットの粒径を9nm以下とすることにより、半導体の伝導型がp型からn型に遷移することから、太陽電池や発光デバイスで新規電子材料として有望視されている。
【0005】
これらそれぞれの有用な機能を実現するためには、CuOとCuOとを選別して得ることができ、また量子ドットの粒径を精密に制御でき、かつ量子ドット化した場合であっても高い結晶性を有することが要求される。
【0006】
そして、非特許文献1には、高周波酸素プラズマ雰囲気下、ギ酸銅の反応性レーザアブレーションによる銅酸化物の薄膜形成について報告されている。
【0007】
この非特許文献1では、ギ酸銅をターゲットとして該ターゲットと基板とを対向状に配し、75mTorrの減圧下、レーザアブレーション法により前記ターゲットにパルスレーザ光を照射させて基板上に銅酸化物を形成している。この非特許文献1では、作製試料をX線回折スペクトル及び赤外線吸収スペクトルで分析したところ、薄膜中にはCuOとCuOとが混在することが報告されている。
【0008】
一方、特許文献1には、レーザアブレーション法により、ターゲットにレーザ光を照射して酸化亜鉛量子ドットを発生させる工程と、発生した前記酸化亜鉛量子ドットを気流中で熱処理して結晶化を促進する工程と、熱処理した前記酸化亜鉛量子ドットを、微分型電気移動度分級装置を用いて分級する工程とを含むZnO量子ドットの製造方法が提案されている。
【0009】
上記特許文献1は、銅酸化物に関するものではないが、平均粒径Dが10nm以下であり、標準偏差σと平均粒径Dの比σ/Dが0.15以下の結晶性が良好なZnO量子ドットを得ている。
【0010】
レーザアブレーション法により量子ドットを生成する場合、通常は、レーザアブレーション装置の下流側に管状型電気炉を配して行われる。すなわち、まず、レーザアブレーション装置内でパルスレーザをターゲットに照射して、原料を蒸発させ、冷却させて気流中で量子ドットの集合体(核)を生成する。次いで、管状型電子炉で加熱処理して結晶化を促進し、これにより結晶性の良好な量子ドットを得ることができると考えられる。
【0011】
しかしながら、このような構成では生成した量子ドット同士が気流中で凝集したり、加熱処理して結晶化させる際に量子ドット同士がネッキングして粒成長し、その結果、粒度分布が広がるおそれがあり、このため粒度分布の揃った所望の量子ドットを得ることができない。
【0012】
そこで、特許文献1では、微分型電気移動度分級装置(Differential
Mobility Analyzer;以下、「DMA」という。)を使用して超微粒の量子ドットを単分散状態で回収できるようにし、これにより平均粒径Dが10nm以下であり、標準偏差σと平均粒径Dの比σ/Dが0.15以下のZnO量子ドットを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−193991号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】R.Padiyath等著“Deposition of copper oxide films byreactive laser ablation of copper formate in an r.f. oxygen plasma ambienr”,Thin Solid Films, 239, 1994年,p.8-15(Fig.5, Fig.6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、非特許文献1では、レーザアブレーション法により基板上に銅酸化物を形成しているが、薄膜中にCuOとCuOとが混在してしまい、CuOとCuOとを選別して得るのが困難であった。したがって、非特許文献1では、CuO及びCuOのいずれか一方の銅酸化物のみを使用し、それぞれの機能を効果的に発揮した新規デバイスを効率良く実現するのが困難であった。
【0016】
一方、特許文献1では、電気炉とDMAを使用することにより、良好な結晶性を有するZnO量子ドットを単分散状態で回収しているが、この特許文献1を銅酸化物に適用しても、非特許文献1と同様、CuOとCuOとが混在してしまい、両者を選別することはできない。
【0017】
すなわち、特許文献1の場合、目的とする最終生成物はZnOという1種類の化合物であるため、通常は酸化物種の選別という課題が生じることはない。
【0018】
一方、銅酸化物には、上述したように機能性の異なるCuOとCuOとがあり、それぞれの用途に適した銅酸化物を得ることが要請されている。しかしながら、特許文献1を単に銅酸化物に適用しても、CuOとCuOとの混在物が得られてしまうことから、CuO及びCuOのそれぞれの用途に適した所望の銅酸化物量子ドットを得るのは困難である。
【0019】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、CuO又はCuOを選別して得ることができ、単分散状態で良好な結晶性を有する銅酸化物量子ドットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究したところ、電気炉で設定される加熱温度を制御して熱処理を行うことにより、結晶化を促進すると共に、CuO及びCuOのいずれか一方からなる量子ドットを作製することができ、さらに帯電させた量子ドットを電気移動度の粒子依存性を利用して分級処理を行うことにより、平均粒径Dが15nm以下であって標準偏差σと平均粒径Dとの比σ/Dが0.2以下の単分散状態で結晶性の良好なCuO又はCuOからなる銅酸化物量子ドットを効率よく捕集することができるという知見を得た。
【0021】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る銅酸化物量子ドットの製造方法は、Cu成分を含有したバルク材から量子ドットの集合体を生成し、前記量子ドットを気流中で分散させた状態で加熱温度を制御して熱処理を行い、CuO及びCuOのうちのいずれか一方の量子ドットを作製すると共に、前記熱処理前及び前記熱処理後のいずれかで前記量子ドットに帯電処理を行い、前記帯電した量子ドットの電気移動度に基づいて分級処理を行い、平均粒径Dが15nm以下であって標準偏差σと平均粒径Dとの比σ/Dが0.2以下の銅酸化物量子ドットを捕集することを特徴としている。
【0022】
尚、本発明で、平均粒径とは、粒度の積算個数分布が50%に相当する粒径をいう。
【0023】
また、熱平衡理論から、前記加熱温度を第1の所定温度(例えば、600〜700℃)に設定して熱処理した場合は、CuOからなる量子ドットを生成することができ、前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度(例えば、900℃以上)に設定して熱処理した場合は、CuOからなる量子ドットを生成することができる。
【0024】
すなわち、本発明の銅酸化物量子ドットの製造方法は、前記加熱温度を第1の所定温度に設定して熱処理した場合は、CuOからなる量子ドットを生成し、前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度に設定して熱処理した場合は、CuOからなる量子ドットを生成するようにするのが好ましい。
【0025】
また、本発明の銅酸化物量子ドットの製造方法は、前記第1の所定温度は600〜700℃であるのが好ましく、前記第2の所定温度は900℃以上であるのが好ましい。
【0026】
また、本発明の銅酸化物量子ドットの製造方法は、前記捕集された銅酸化物量子ドットは、平均粒径が9nm以上であるのが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の銅酸化物量子ドットの製造方法は、前記量子ドットの集合体は、レーザ光を前記バルク材に照射して発生させるのが好ましい。
【0028】
また、本発明の銅酸化物量子ドットの製造方法は、前記バルク材が、CuO及びCuOのうちのいずれかを主成分とするセラミックロッドであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の銅酸化物量子ドットの製造方法によれば、Cu成分を含有したバルク材から量子ドットの集合体を生成し、前記量子ドットを気流中で分散させた状態で加熱温度を制御して熱処理を行い、CuO及びCuOのうちのいずれか一方の量子ドットを作製すると共に、前記熱処理前及び前記熱処理後のいずれかで前記量子ドットに帯電処理を行い、前記帯電した量子ドットの電気移動度に基づいて分級処理を行い、平均粒径Dが15nm以下であって標準偏差σと平均粒径Dとの比σ/Dが0.2以下の銅酸化物量子ドットを捕集するので、良好な結晶性を有し、単分散状態で粒度分布が揃った所望粒径のCuO又はCuOの量子ドットを得ることができる。
【0030】
また、加熱温度を第1の所定温度(例えば、600〜700℃)に設定して熱処理した場合は、CuOからなる量子ドットを生成し、前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度(例えば、900℃以上)に設定して熱処理した場合は、CuOからなる量子ドットを生成することにより、加熱温度を制御するのみでCuO量子ドット及びCuO量子ドットのうちのいずれか一方を作製することができる。したがって、CuOとCuOが混在して捕集されることはなく、製造ロット毎にCuOとCuOとを選別して製造することができる。
【0031】
また、前記量子ドットの集合体は、レーザ光を前記バルク材に照射して発生させることにより、公知のレーザアブレーション法を利用することができ、CuO又はCuOのいずれかの量子ドットを高効率で得ることができる。
【0032】
また、本発明の銅酸化物量子ドットの製造方法は、前記量子ドットの集合体は、レーザ光を前記バルク材に照射して発生させることにより、粒度分布の揃ったCuO量子ドット又はCuO量子ドットを確実に得ることが可能となる。
【0033】
このように本発明の製造方法によれば、結晶性が良好でCuO又はCuOのいずれかに選別された単分散状態の所望の量子ドットを高効率で得ることができる。
【0034】
そしてこのように製造された銅酸化物量子ドットのうち、CuO量子ドットは、零膨張率材料やナノマシン材料に好適し使用することができ、CuO量子ドットは触媒関係や、太陽電池、発光デバイス等の電子材料に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る銅酸化物量子ドットの製造方法に使用される量子ドット製造装置の一実施の形態を示すブロック構成図である。
【図2】試料番号1のTEM明視野像である。
【図3】試料番号1の制限視野回折像である。
【図4】試料番号1のTEM高分解能像である。
【図5】試料番号2のTEM明視野像である。
【図6】試料番号2の制限視野回折像である。
【図7】試料番号3のTEM明視野像である。
【図8】試料番号3の制限視野回折像である。
【図9】試料番号4のTEM明視野像である。
【図10】試料番号4の制限視野回折像である。
【図11】試料番号4のTEM高分解能像である。
【図12】試料番号5のTEM明視野像である。
【図13】試料番号5の制限視野回折像である。
【図14】分級サイズをパラメータとした場合の加熱温度とCV値との関係の一例を示す図である。
【図15】試料番号6のTEM明視野像である。
【図16】試料番号6の制限視野回折像である。
【図17】分級サイズをパラメータとした場合の加熱温度とCV値との関係の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0037】
図1は、本発明に係る銅酸化物量子ドットの製造方法に使用される量子ドット製造装置の一実施の形態を示すブロック構成図である。
【0038】
この量子ドット製造装置は、量子ドットの集合体を生成するレーザアブレーション装置1と、該レーザアブレーション装置1で発生した量子ドットを帯電させる帯電器2と、該帯電器2で帯電された量子ドットを加熱する電気炉3と、該電気炉3で加熱された量子ドットを分級するDMA4と、該DMA4で分級された量子ドットを捕集する捕集器5とを備えている。
【0039】
レーザアブレーション装置1は、パルスレーザ光がターゲット(バルク材)に照射されると、銅酸化物の量子ドットの集合体を生成するように構成されている。ここで、ターゲットとしては、CuOやCuO等の銅酸化物のセラミックロッドを好んで使用することができる。その理由は以下の通りである。
【0040】
金属Cuの場合、Cuの融点が1084℃、沸点が2570℃である。これに対しCuOの融点は1232℃、沸点は1800℃であり、またCuOは約1050℃で酸素を脱離してCuOに還元される。したがって、Cuは液相で存在する温度領域がCuOやCuOに比べて広く、レーザ照射時に液滴が発生しやすくなる。このため発生した微小液滴が核となって粒成長した場合、帯電器2で2価以上に帯電する確率が上昇し、このためDMA4で分級すると2価以上に帯電した大きな量子ドットが混入するおそれがあり、粒度分布のバラツキが広がるおそれがある。
【0041】
したがって、ターゲットとしては金属CuよりもCuO又はCuOからなる銅酸化物のセラミックロッドを使用するのが好ましい。
【0042】
そして、所定流量に制御された酸素等のキャリアガスを導入して酸素雰囲気とし、減圧下、ターゲットにパルスレーザ光を照射すると、ターゲットからCu原子とO原子が蒸発し、これが冷却されて気流中に銅酸化物からなる量子ドットの集合体が生成する。
【0043】
尚、パルスレーザ光のレーザ光源としては特に限定されるものではなく、例えば、Ndを添加したYAGレーザ(Nd:YAGレーザ)を使用することができ、より強力なパルスレーザ光をターゲットに照射する観点からは、Nd:YAGレーザの三倍波をターゲットに照射するのが好ましい。
【0044】
次いで、レーザアブレーション装置1で発生した量子ドットは、気流中をキャリアガスを介して分散し、斯かる分散状態で帯電器2に供給される。
【0045】
この帯電器2は、2つの両性イオン発生体が内蔵されており、該帯電器2では、量子ドットは前記両性イオン発生体により正イオンと負イオンにイオン化されて平衡帯電状態となっている。
【0046】
ここで、両性イオン発生体としては、両性イオンを発生するものであれば特に限定されるものではないが、α線を放射する放射性同位体、例えば、質量数が241の241Amを好んで使用することができる。
【0047】
次いで、このようにして帯電した量子ドットは、電気炉3に供給され、加熱処理されて結晶化が促進される。
【0048】
この電気炉3は、管状型に形成されており、加熱温度を制御することにより、CuO及びCuOのうちのいずれか一方からなる結晶化された量子ドットを生成する。この場合、熱平衡理論により、第1の所定温度(例えば、600〜700℃)で熱処理を行った場合はCuOを生成することができ、第1の所定温度よりも高い第2の所定温度(例えば、900℃以上)で熱処理を行った場合は、CuOの分解が促進されてCuOを生成することができる。
【0049】
このように本実施の形態では、銅酸化物量子ドットの熱処理温度を制御することにより、量子ドットの結晶化を促進しつつ、CuO及びCuOのうちのいずれかの銅酸化物量子ドットを生成することができ、これにより製造ロッド毎に得られる量子ドットは、CuO又はCuOのいずれであるかを容易に選別することができる。
【0050】
次いで、このようにして得られた銅酸化物の量子ドットは、DMA4で分級される。
【0051】
このDMA4は、内筒及び外筒を備えた二重円筒構造を有し、上方から層流状態のシースガスが供給可能に構成されると共に、外筒の側面円周上に第1のスリットが設けられ、内筒の側面円周上に第2のスリットが設けられている。
【0052】
このように構成されたDMA4では、外筒と内筒の間に所定の直流電圧が印加されると、帯電した量子ドットは、気流に同伴されながら第1のスリットを介してDMA4内に供給される。そして、量子ドットは静電気力(クーロン力)によって内筒に引き付けられながらシースガスによって下向きに搬送される。この際に量子ドットが流れを横切る速度は、量子ドットが流体から受ける抵抗と静電気力との釣合によって決定されることから、強い抵抗をうける粒径の大きい量子ドットは低速で搬送され、粒径の小さい量子ドットは高速で搬送される。このように量子ドットが内筒に到達する位置は、量子ドットの粒径サイズによって異なることから、第2のスリットからは分級された所定粒径以下の小さい量子ドットを取り出すことが可能となる。
【0053】
また、分級される粒径Dは、以下のようにして決定することができる。
【0054】
定常状態では、静電気力と抵抗力とが釣合い、等速度νで運動する。等速度νは電場Eに比例することから、等速度νは数式(1)で表わされる。
【0055】
ν=Z・E …(1)
ここで、Zは電気移動度と称される定数であり、数式(2)で表わされる。
【0056】
【数1】

【0057】
ただし、nは荷電数、eは電気素量、μは気体粘度である。また、Cはカニンガム補正係数であって、クヌーセン数K(=2λ/D;λは気体分子の平均自由行程)の関数で表わされる。
【0058】
一方、量子ドットが第1のスリットから第2のスリットに搬送される場合、電気移動度Zは、運動方程式を解析することにより、数式(3)で表わすことができる。
【0059】
【数2】

【0060】
ここで、Qshはシースガスのガス流量、rは外筒の内径寸法、rは内筒の外形寸法、Lは第1のスリットと第2のスリットの間の鉛直方向の距離、Vは印加電圧である。
【0061】
したがって、数式(2)と数式(3)とを等値すると、分級サイズDは、数式(4)で表わされる。
【0062】
【数3】

【0063】
カニンガム補正係数Cは、上述したようにクヌーセン数K、すなわち分級される粒径Dの関数であり、したがって、印加電圧Vを設定して数式(4)を数値解析することにより分級される粒径Dを理論的に求めることができる。そして、上記DMA4では、分級される粒径Dが捕集される平均粒径Dとなる。すなわち、分級される粒径Dが捕集される量子ドットの平均粒径Dとなることから、本実施の形態では、平均粒径Dが15nm以下となるように印加電圧が設定される。
【0064】
次いで、捕集器5で第2のスリットから排出された量子ドットを捕集し、これにより平均粒径が15nm以下であり、標準偏差σと平均粒径Dとの比σ/D(以下、「CV値」という。)が0.2以下の粒度の揃った銅酸化物量子ドットを得ることができる。
【0065】
このように本実施の形態では、レーザアブレーション装置1でCuOセラミックロッド又はCuOセラミックロッド等のバルク材から量子ドットの集合体を生成し、次いで帯電器2で量子ドットを帯電させた後、管状の電気炉3を使用し量子ドットを気流中で分散させた状態で加熱温度を制御して熱処理を行い、CuO及びCuOのうちのいずれか一方の量子ドットを作製し、さらにDMA4で量子ドットの電気移動度に基づいて分級処理を行い、これにより平均粒径Dが15nm以下であって標準偏差σと平均粒径Dとの比σ/Dが0.2以下の銅酸化物量子ドットを捕集するので、良好な結晶性を有し、単分散状態で粒度分布が揃った所望粒径のCuO及びCuOのいずれかの量子ドットを得ることができる。
【0066】
また、加熱温度を第1の所定温度(例えば、600〜700℃)に設定して熱処理した場合は、CuOからなる量子ドットを生成することができ、前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度(例えば、900℃以上)に設定して熱処理した場合は、CuOからなる量子ドットを生成することができるので、加熱温度を制御するのみでCuO量子ドット及びCuO量子ドットのうちのいずれか一方を作製することができる。したがって、CuOとCuOが混在して捕集されることはなく、製造ロット毎にCuOとCuOとを選別して製造することができる。
【0067】
また、前記量子ドットの集合体は、レーザ光をバルク材に照射して生成することにより、公知のレーザアブレーション法を利用することができ、CuO又はCuOのいずれか一方の量子ドットを高効率で得ることができる。
【0068】
また、前記バルク材を、CuO及びCuOのうちのいずれか一方を主成分とするセラミックロッドを使用することにより、粒度分布の揃ったCuO量子ドット又はCuO量子ドットを確実に得ることが可能となる。
【0069】
このように上記実施の形態によれば、結晶性が良好でCuO又はCuOのいずれかに選別された単分散状態の所望の量子ドットを高効率で得ることができる。
【0070】
そしてこのように製造された銅酸化物量子ドットのうち、CuO量子ドットは、零膨張率材料やナノマシン材料に好適に使用することができ、一方CuO量子ドットは触媒関係や、太陽電池、発光デバイス等の電子材料に好適に使用することができる。
【0071】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態では電気炉3で熱処理を行う前に帯電器2で帯電処理を行っているが、DMA4で分級処理を行う前に帯電処理を行えばよく、電気炉3で熱処理を行った後に帯電器2で帯電処理を行ってもよい。
【0072】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0073】
〔試料番号1〕
CuOのセラミックロッドをレーザアブレーション装置内の所定位置にターゲットとして配し、圧力1333Pa下、流量0.507Pa・m/s(0.3slm)のOガスを装置内に供給しながらNd:YAGレーザから出射されたレーザ光の三倍波を前記セラミックロッドに照射した。そしてこれにより、前記セラミックスロッドからCu原子とO原子が蒸発し、これを冷却することにより気流中で量子ドットの集合体を生成した。次いで、発生した量子ドットをOガス中に分散させた状態で帯電器に搬送した。帯電器には放射性同位体である2つのアメリシウム(241Am)が配されており、量子ドットはアメリシウム(241Am)によって帯電し、管状型電気炉に搬送される。そして、電気炉の加熱温度を600℃に設定し、量子ドットの結晶化を促進し、銅酸化物の量子ドットを作製した。
【0074】
次いで、外筒と内筒との間に75Vの直流電圧が印加されたDMAに量子ドットを供給して分級し、平均粒径が12nmの量子ドットを捕集器で捕集し、試料番号1の試料を得た。
【0075】
そして、試料番号1の試料について、透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」という。)を使用して明視野像を撮像した。
【0076】
図2は、試料番号1のTEM明視野像である。
【0077】
この図2から明らかなように、捕集された量子ドットは、分散性が良好であることが確認された。
【0078】
次に、試料番号1の試料について、TEMを使用して制限視野回折像を撮像した。
【0079】
図3は、試料番号1の制限視野回折像であり、右上の挿図は、CuOの電子線回折パターンを示している。前記挿図の縦軸は電子線の回折強度(a.u.)、横軸は回折角2θ(deg)である。図中、(002)、(111)…はCuOの面指数を示している。
【0080】
この制限視野像に示されるデバイリングの位置は、CuOの回折ピークと一致する。したがって、試料番号1の量子ドットは、CuO単相であることが確認された。
【0081】
次に、試料番号1の試料についてTEMで高分解能写真を撮像した。
【0082】
図4はその撮像結果を示している。
【0083】
この図4から明らかなように、試料番号1は格子縞が明瞭に観察されており、したがって、結晶性の良好なCuO量子ドットが作製されていることが確認された。
【0084】
〔試料番号2〕
加熱温度を700℃とした以外は、試料番号1と同様の方法・手順で試料番号2の試料を得た。
【0085】
次いで、試料番号2の試料について、試料番号1と同様、TEM明視野像及び制限視野像を撮像した。
【0086】
図5は、試料番号2のTEM明視野像である。
【0087】
この図5から明らかなように、捕集された量子ドットは、分散性が良好であることが確認された。
【0088】
次に、試料番号2の試料について、TEMを使用して制限視野回折像を撮像した。
【0089】
図6は、試料番号2の制限視野回折像であり、右上の挿図は、CuOの電子線回折パターンを示している。前記挿図の縦軸は電子線の回折強度(a.u.)、横軸は回折角2θ(deg)である。
【0090】
この制限視野像に示されるデバイリングの位置も、CuOの回折ピークと一致する。したがって、試料番号2の試料は、CuO単相であることが確認された。
【0091】
〔試料番号3〕
加熱温度を800℃とした以外は、試料番号1と同様の方法・手順で試料番号3の試料を得た。
【0092】
次いで、試料番号3の試料について、試料番号1と同様、TEM明視野像及び制限視野像を撮像した。
【0093】
図7は、試料番号3のTEM明視野像である。
【0094】
この図7から明らかなように、量子ドットの分散性が良好であることが確認された。
【0095】
次に、試料番号3の試料について、TEMを使用して制限視野回折像を撮像した。
【0096】
図8は、試料番号3の制限視野回折像であり、右上の挿図は、CuO及びCuOの電子線回折パターンを示している。前記挿図の縦軸は電子線の回折強度(a.u.)、横軸は回折角2θ(deg)である。図中、(110)、(002)…はCuO又はCuOの面指数を示している。
【0097】
この制限視野像に示されるデバイリングの位置は、CuO及びCuOの回折ピークと一致する。したがって、試料番号3の量子ドットは、CuO及びCuOが混在していることが分かった。
【0098】
〔試料番号4〕
加熱温度を900℃とした以外は、試料番号1と同様の方法・手順で試料番号4の試料を得た。
【0099】
次いで、試料番号4の試料について、試料番号1と同様、TEM明視野像及び制限視野像を撮像した。
【0100】
図9は、試料番号4のTEM明視野像である。
【0101】
この図9から明らかなように、捕集された量子ドットは、分散性が良好であることが確認された。
【0102】
次に、試料番号4の試料について、TEMを使用して制限視野回折像を撮像した。
【0103】
図10は、試料番号4の制限視野回折像であり、右上の挿図は、CuOの電子線回折パターンを示している。前記挿図の縦軸は電子線の回折強度(a.u.)、横軸は回折角2θ(deg)である。図中、(110)、(111)…はCuOの面指数を示している。
【0104】
この制限視野像に示されるデバイリングの位置は、CuOの回折ピークと一致する。したがって、試料番号4の量子ドットは、CuO単相であることが確認された。
【0105】
次に、試料番号4の試料についてTEMで高分解能写真を撮像した。
【0106】
図11はその撮像結果を示している。
【0107】
この図11から明らかなように、試料番号4は格子縞が明瞭に観察されており、したがって、結晶性の良好なCuO量子ドットが作製されていることが確認された。
【0108】
〔試料番号5〕
加熱温度を1000℃とした以外は、試料番号1と同様の方法・手順で試料番号5の試料を得た。
【0109】
次いで、試料番号5の試料について、試料番号1と同様、TEM明視野像及び制限視野像を撮像した。
【0110】
図12は、試料番号5のTEM明視野像である。
【0111】
この図12から明らかなように、捕集された量子ドットは、分散性が良好であることが確認された。
【0112】
次に、試料番号5の試料について、TEMを使用して制限視野回折像を撮像した。
【0113】
図13は、試料番号5の制限視野回折像であり、右上の挿図は、CuOの電子線回折パターンを示している。前記挿図の縦軸は電子線の回折強度(a.u.)、横軸は回折角2θ(deg)である。
【0114】
この制限視野像に示されるデバイリングの位置も、CuOの回折ピークと一致する。したがって、試料番号5の試料は、CuO単相であることが確認された。
【0115】
〔加熱温度及び平均粒径と銅酸化物の種別との関係〕
試料番号1〜5の試料と同様の加熱温度でもって印加電圧を変化させて分級し、平均粒径の異なる量子ドットを捕集器で捕集した。
【0116】
すなわち、加熱温度を600〜1000℃にし、平均粒径が6nm、9nm、15nmで分級されるように、内筒と外筒との間に印加される電圧を20V、40V、115Vにそれぞれ設定して量子ドットを捕集器で捕集した。
【0117】
次いで、試料番号1と同様の方法・手順でTEM明視野像、及び制限視野像を観察し、銅酸化物の種類及び分散性を確認した。
【0118】
表1は、加熱温度、捕集された量子ドットの平均粒径、及び銅酸化物の種別を示している。
【0119】
【表1】

【0120】
この表1から明らかなように、9nm〜15nmの平均粒径で、加熱温度が600〜700℃の場合にCuOが得られ、加熱温度の900℃以上の場合にCuOが得られ、しかもこれらCuO及びCuOは分散性が良好なことも確認された。
【0121】
加熱温度が800℃の場合は、9nm〜15nmの平均粒径で、CuOとCuOの混相が得られた。
【0122】
平均粒径が6nmとなるように印加電圧を設定した場合は、加熱温度が600〜800℃の場合は捕集できず、また加熱温度を900℃以上にした場合は非晶質となった。
【0123】
次に、平均粒径及び加熱温度の異なる各試料についてCV値を求めた。
【0124】
図14は平均粒径をパラメータとした場合の加熱温度とCV値との関係を示している。
【0125】
横軸が加熱温度(℃)、縦軸はCV値である。図中、○印が平均粒径:9nm、□印が平均粒径:12nm、△印が平均粒径:15nmを示している。
【0126】
この図14から明らかなように、平均粒径9〜15nmの範囲でCV値が0.2以下の銅酸化物量子ドットを得るためには、加熱温度を700〜900℃の範囲に設定するのが好ましいことが分かった。また、加熱温度が600〜700℃でCuOの単相が得られ、900〜1000℃でCuOの単相が得られたことを考慮すると、CV値が0.2以下のCuO量子ドットを得るには、加熱温度は700℃前後に設定するのが好ましく、CV値が0.2以下のCuO量子ドットを得るには加熱温度は900℃前後に設定するのが好ましいことが分かる。
【実施例2】
【0127】
電気炉を室温とした以外は、試料番号1と同様の方法・手順で試料番号6の試料を得た。
【0128】
次いで、試料番号6の試料について、試料番号1と同様、TEM明視野像及び制限視野像を撮像した。
【0129】
図15は、試料番号6のTEM明視野像である。
【0130】
この図15から明らかなように、捕集された量子ドットは、形状が不定形であることが分かった。
【0131】
次に、試料番号6の試料について、TEMを使用して制限視野回折像を撮像した。
【0132】
図16は、試料番号6の制限視野回折像である。
【0133】
この図16から明らかなように、試料番号6は、結晶化せずに非晶質であることが確認された。
【0134】
以上より熱処理を行わない場合は、結晶性を有する粒度の揃った量子ドットを得ることができないことが分かった。
【実施例3】
【0135】
レーザアブレーションのターゲットをCuOのセラミックスロッドに代えて、金属Cuロッドを使用し、加熱温度を700〜1000℃に設定して熱処理し、平均粒径が12nmとなるように印加電圧を設定して分級処理を行い、捕集器で銅酸化物量子ドットを捕集した。
【0136】
その結果、実施例1と同様、加熱温度が700℃でCuOの単相が得られ、加熱温度が800℃でCuOとCuOとの混相、加熱温度が900℃及び1000℃でCuO単相が得られることがわかった。
【0137】
次に、平均粒径及び加熱温度の異なる各試料についてCV値を求めた。
【0138】
図17は平均粒径をパラメータとした場合の加熱温度とCV値との関係を示している。
【0139】
横軸が加熱温度(℃)、縦軸はCV値である。図中、○印が平均粒径:9nm、□印が平均粒径:12nm、△印が平均粒径:15nmを示している。
【0140】
この図17から明らかなように、700℃の加熱温度ではいずれもCV値は0.2以下に抑制できるが、加熱温度が900℃ではCV値がいずれも0.2を超えてしまい、さらに加熱温度が1000℃の場合でも平均粒径が12nm〜15nmのときはCV値が0.2を超えることが分かった。
【0141】
以上よりターゲットとしては、金属Cuロッドよりも銅酸化物のセラミックロッドの方が好ましいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
零膨張率材料やナノマシン材料、或いは触媒関係や発光デバイス、太陽電池等、量子ドットの有する機能に応じた用途に好適に利用できる銅酸化物量子ドットの製造方法を提供できる。
【符号の説明】
【0143】
1 レーザアブレーション装置
2 帯電器
3 電気炉
4 DMA
5 捕集器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu成分を含有したバルク材から量子ドットの集合体を生成し、前記量子ドットを気流中で分散させた状態で加熱温度を制御して熱処理を行い、CuO及びCuOのうちのいずれか一方からなる量子ドットを作製すると共に、前記熱処理前及び前記熱処理後のいずれかで前記量子ドットに帯電処理を行い、前記帯電した量子ドットの電気移動度に基づいて分級処理を行い、平均粒径Dが15nm以下であって標準偏差σと平均粒径Dとの比σ/Dが0.2以下の銅酸化物量子ドットを捕集することを特徴とする銅酸化物量子ドットの製造方法。
【請求項2】
前記加熱温度を第1の所定温度に設定して熱処理した場合は、CuOからなる量子ドットを生成し、前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度に設定して熱処理した場合は、CuOからなる量子ドットを生成することを特徴とする請求項1記載の銅酸化物量子ドットの製造方法。
【請求項3】
前記第1の所定温度は600〜700℃であることを特徴とする請求項2記載の銅酸化物量子ドットの製造方法。
【請求項4】
前記第2の所定温度は900℃以上であることを特徴とする請求項2記載の銅酸化物量子ドットの製造方法。
【請求項5】
前記捕集された銅酸化物量子ドットは、平均粒径が9nm以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の銅酸化物量子ドットの製造方法。
【請求項6】
前記量子ドットの集合体は、レーザ光を前記バルク材に照射して発生させることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の銅酸化物量子ドットの製造方法。
【請求項7】
前記バルク材は、CuO及びCuOのうちのいずれかを主成分とするセラミックロッドであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の銅酸化物量子ドットの製造方法。

【図1】
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【図14】
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【図17】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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