説明

銅防食剤および銅防食方法

【課題】 銅に対して高い防食性能を有する優れた防食剤および防食方法を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする銅防食剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工業用水・排水系、冷却水系、ボイラ水系などでの銅系材質を用いた配管や各種機器などと接触する水系において、銅の腐食、特に微生物腐食を防止するための新規な防食剤および防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工業用水・排水系や各種貯水系やボイラ水系などに銅或いは銅合金など銅系材料からなる各種機器や配管などが用いられているが、これら機器および配管などに腐食や孔食が発生して問題となっている。このような腐食・孔食の発生を防止するため、銅系からなる機器と接する水系に防食剤を添加することが多く行われている。このような銅防食剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールなどが知られている。しかしながら、これら従来の防食剤では場合によって効果が極めて短期間で失われたり、或いは得られる効果が低いという問題があった。
【特許文献1】特開2001−172783公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来技術の欠点を改善し、銅に対して高い防食性能を有する優れた防食剤および防食方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従来、銅腐食の要因としては、溶存酸素、pH、腐食性イオンなどが知られている。最近これら従来の要因に加え、微生物が銅腐食に関与しているとの説が提唱されているが、その詳細は不明である。本発明者等は、上記のようなアゾール類やチアゾール類で充分な防食効果が得られないケースでは、微生物が関与している腐食、いわゆる微生物腐食が発生しているのではないかとの仮説を立てて検討を行った。すなわち、従来からよく知られた銅防食剤である前記アゾール類或いはチアゾール類と、水系中の微生物を防除する働きのある微生物防除剤とを併用することにより、水系の微生物の増殖を抑制して、アゾール類或いはチアゾール類の銅に対する防食効果を発揮させようと試みた。
【0005】
しかし、これら薬剤の併用により、水系中の微生物の増殖は抑えられたものの、肝心の銅に対する防食効果の向上は充分とは云えず、満足できるものではなかった。そのため、さらに検討を進めたところ、ある種の化合物は、単独、すなわちアゾール類・チアゾール類などの従来の銅の防食剤を併用しなくても、微生物腐食と思われる銅腐食を効果的に防止し、さらに微生物の関与しない一般の銅腐食をも著しく抑制することを見い出し、本発明に至った。
【0006】
前記目的は以下の本発明によって達成される。
1.下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする銅防食剤。

【0007】
(但し、上記一般式において、R1およびR4は、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐の同一または異なるアルキレン基であり、R2およびR5は、水素原子、同一または異なるハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基であり、R3は、炭素数2〜12の直鎖若しくは分岐のアルキレン基であり、R6は、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、Zは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子若しくはOSO27基(R7は、低級アルキル基若しくは置換或いは無置換のフェニル基である)である。)
【0008】
2.前記一般式(1)において、R1およびR4は、ピリジン環の3または4位置に結合しているメチレン基であり、R2およびR5は、水素原子であり、R3は、テトラメチレン基であり、R6は、オクチル基、デシル基およびドデシル基から選ばれる基であり、Zは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子若しくはOSO27基(R7は、低級アルキル基若しくは置換或いは無置換のフェニル基である)である前記1に記載の銅防食剤。
【0009】
3.前記一般式(1)で表される化合物は、下記式(1)〜(4)で表される少なくとも1種の化合物である前記1に記載の銅防食剤。


【0010】


4.前記一般式(1)で表される化合物の有効量を銅材質と接触する水系に添加することを特徴とする銅防食方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の銅防食剤は、前記一般式(1)で表される化合物を有効成分とするもので、かかる銅防食剤を水系中に添加することにより、他の薬剤の併用を必要とせず、さらに、極めて低い濃度の使用でも、微生物腐食と思われる銅腐食を効果的に防止し、さらに微生物の関与しない一般の銅腐食をも著しく抑制することができる。また、微生物防除剤と銅防食剤を併用するに際しては、薬注ポンプ、薬液タンク、薬液調整などを別々に必要とし、そのため設備投資が過大となり、それらのメンテナンスも煩雑であったが、本発明の方法によれば薬注は1系列で済み、その結果メンテナンスも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明に用いられる前記一般式(1)で表される化合物のなかで好ましい化合物は、前記一般式(1)において、R1およびR4が、ピリジン環の3または4位置に結合しているメチレン基であり、R2およびR5が、水素原子であり、R3が、テトラメチレン基であり、R6が、オクチル基、デシル基およびドデシル基から選ばれる基であり、Zが塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子若しくはOSO27基(R7は、低級アルキル基若しくは置換或いは無置換のフェニル基である)である化合物であり、特に好ましい化合物は前記式(1)〜(4)の化合物である。前記一般式(1)で表される化合物は、単独でも混合物としても使用できる。
【0013】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(a)

で表されるピリジン化合物と、下記一般式(b)

で表されるジオール類とを、強塩基の存在下に反応させることにより、下記一般式(c)

で表されるピリジン化合物を製し、該化合物と下記一般式(d)

で表されるピリジン化合物とを強塩基の存在下に反応させることにより下記一般式(e)

で表されるピリジン化合物を製し、該化合物と下記一般式(f)

で表されるハロゲン化合物若しくはスルホン酸エステル化合物とを反応させることによって得られる。
(但し、上記一般式(a)〜(f)において、AおよびBは塩基の作用により脱離基として機能し、アルキルカチオンを生成し得る置換基であり、XおよびYは無機、若しくは有機のプロトン酸の対アニオンであり、mおよびnは0〜1であり、R1〜R7、Zは前記と同意義である。)
【0014】
本発明の銅防食剤を使用して水系に接する銅製各機器の防食を実施するに当たっては、例えば、アクリル酸系重合体、マレイン酸系重合体、メタクリル酸系重合体、スルホン酸系重合体、燐酸系重合体、イタコン酸系重合体、イソブチレン系重合体、ホスホン酸、ホスフィン酸、或いはこれらの水溶性塩などのスケール防止剤、例えば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾロン系化合物、例えば、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒドなどのアルデヒド類、例えば、過酸化水素、ヒドラジン、塩素系殺菌剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)、臭素系殺菌剤およびヨウ素系殺菌剤などの無機物類、さらにジチオール系化合物、メチレンビスチオシアネートなどのチオシアネート系化合物、ヨーネンポリマー、第4級アンモニウム塩系化合物などのスライム防止剤、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系化合物、例えば、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸などのアミノカルボン酸系化合物、例えば、グルコン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酒石酸、フィチン酸、琥珀酸、乳酸などの有機カルボン酸など、各種の水処理剤を併用することができ、場合によっては予め本発明の銅防食剤にこれらの水処理剤を配合した水処理剤として使用してもよい。
さらに、従来技術に係る防食剤であるトリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、モリブデン酸およびその塩、亜鉛およびその塩、リン酸およびその塩、亜硝酸およびその塩、亜硫酸およびその塩などから選ばれる1種或いはそれ以上の成分を併せて添加してもよく、配合して一剤としてもよい。しかしながら、本発明の銅防食剤は、これらを併用することは必須ではなく、単独で優れた防食性能が得られる。
【0015】
次に本発明で使用する前記一般式(1)で表される化合物の合成例を挙げる。合成例1(前記化合物(1)の合成)
[下記構造式で示される化合物(1−1)の合成]

DMF(ジメチルホルムアミド)75mlに1,4−ブタンジオール8.24g(91.43mmol)を加え、氷冷下カリウムtert−ブトキシド10.3g(91.79mmol)を添加し、室温で1.5時間撹拌した。このスラリー液に−8〜−3℃で3−クロロメチルピリジン塩酸塩1.0g(6.10mmol)およびカリウムtert−ブトキシド0.68g(6.06mmol)を交互に添加し、これを15回繰り返し、全量で3−クロロメチルピリジン塩酸塩15.0g(91.45mmol)およびカリウムtert−ブトキシド10.2g(90.9mmol)を添加した。
【0016】
添加終了後、反応混合物をHPLC(条件1)で分析すると、3−クロロメチルピリジンのピークが確認されたので、3−クロロメチルピリジンのピークが消失するまで、カリウムtert−ブトキシドを5℃以下で添加した。追加したカリウムtert−ブトキシドは1.13g(10.07mmol)であった。反応混合物を固液分離し、ケークをDMF30mlで洗浄、ろ洗液からDMFを減圧下に留去して油状の粗生成物(化合物(1−1))17.1gを得た。得られたオイルをHPLC(条件1)で分析すると、前記化合物(1−1)の面積%は76.0%であった。
【0017】
前記化合物(1−1)の粗生成物を水30mlに溶解し、トルエンで洗浄した。その後、水層に食塩6gを加え、ジクロロメタン20ml×2で抽出し、無水硫酸マグネシウムで脱水後、溶媒を留去し、油状の前記化合物(1−1)9.21g(収率(1,4−ブタンジオールより):57.2%)を得た。得られたオイルをHPLC(条件1)で分析すると、面積%は99.4%であった。(1H−NMR(CDCl3):δ1.67−1.75(4H,m,−(C22−)、δ2.35(1H,s,O)、δ3.52−3.56(2H,t,J=6.0Hz,C2)、δ3.64−3.68(2H,t,J=6.0Hz,C2)、δ4.52(2H,s,C2)、δ7.27−7.31(1H,m,arom)、δ7.66−7.70(1H,m,arom)、δ8.52−8.56(2H,m,arom ×2)、MS(APCl):m/z=182[M+H]+
【0018】
HPLC(条件1)
・カラム:Inertsil ODS-3(GL Sciences)4.6mmφ×250mm
・カラム温度:15℃付近の一定温度
・移動相:A−0.5%酢酸アンモニウム水溶液、B−アセトニトリル A:B=70:30(一定)
・流量:1.0ml/min
・検出器:UV254nm
・注入量:20μL
【0019】
[下記構造式で示される化合物(1−2)の合成]

DMF25mlに前記化合物(1−1)5.0g(27.59mmol)を加え、氷冷下カリウムtert−ブトキシド3.1g(27.63mmol)を添加した。このスラリーに5〜6℃で3−クロロメチルピリジン塩酸塩0.5g(3.05mmol)およびカリウムtert−ブトキシド0.34g(3.03mmol)を交互に添加し、これを9回繰り返し、全量で3−クロロメチルピリジン塩酸塩4.5g(27.43mmol)およびカリウムtert−ブトキシド3.06g(27.27mmol)を添加した。添加終了後、反応混合物をHPLC(条件1)で分析すると、3−クロロメチルピリジンおよび前記化合物(1−1)のピークが確認されたので、3−クロロメチルピリジンのピークおよび前記化合物(1−1)のピークが消失するまで、カリウムtert−ブトキシドを5℃以下で添加した。追加したカリウムtert−ブトキシドは0.62g(5.53mmol)であった。
【0020】
反応混合物を固液分離し、ケークをDMF30mlで洗浄、ろ洗液からDMFを減圧下に留去した。この濃縮残液にジクロロメタン20mlを添加し、溶解液を飽和食塩水で洗浄後、溶媒を留去し、油状物5.8gを得た。この粗生成物0.5gについてシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム−メタノール)で精製を行い、油状の前記化合物(1−2)0.3gを得た。(1H−NMR:δ1.70−1.74(4H,m,−(C22−)、δ3.50−3.54(4H,m,C2×2)、δ4.51(4H,s,C2×2)、δ7.25−7.29(2H,dd,J=4.9Hz,7.9Hz,arom×2)、δ7.65−7.69(2H,dt,J=1.7Hz,7.9Hz,arom×2)、δ8.52−8.57(4H,dd,J=1.7Hz,4.9Hz,arom×4)、MS(APCl):m/z=273[M+H]+
【0021】
[化合物(1)の合成]

前記化合物(1−2)5.0g(18.36mmol)にオクチルブロマイド35.5g(183.8mmol)を加え、70〜80℃で20時間反応を行った。反応混合物をHPLC(条件2)で分析すると、前記化合物(1−2)のピークは消失していた。反応混合物より上層のオクチルブロマイド層を分離し、下層油状物をアセトニトリル−酢酸エチル=1:3(v/v)混液に注加した。混合物を冷却し、析出結晶を0℃でろ過、減圧乾燥を行い、灰白色結晶9.7g(粗収率(前記化合物(1−2)より):85%)を得た。
【0022】
得られた結晶2gについてアセトニトリル−酢酸エチル=1:3(v/v)混液で再結晶を行い、微灰白色結晶の化合物(1)1.6gを得た。(融点:52〜53℃、1H−NMR(d6−DMSO):δ0.82−0.89(6H,t,J=5.3Hz,C3×2)、δ1.25−1.34(20H,m,−(C25−×2)、δ1.77−1.80(4H,m,−(C22−×2)、δ2.04−2.09(4H,t,J=7.0Hz,C2×2)、δ3.70−3.72(4H,t,J=5.9Hz,C2×2)、δ4.67−4.71(4H,t,J=7.0Hz,C2×2)、δ4.84(4H,s,C2×2)、δ8.11−8.15(2H,dd,J=6.0Hz,8.0Hz,arom×2)、δ8.56−8.59(2H,d,J=8.0Hz,arom×2)、δ8.69−8.92(4H,dd,J=6.0Hz,13.1Hz,arom×4)、MS(ESI):m/z=579[M−Br]+)。
【0023】
HPLC(条件2)
・カラム:Inertsil ODS-3(GL Sciences)4.6mmφ×250mm
・カラム温度:15℃付近の一定温度
・移動相:A−0.5%酢酸アンモニウム水溶液、B−アセトニトリル A:70%(12min保持)→(10min)→A:50%(14min保持)→A:70%
・流量:1.0ml/min
・検出器:UV254nm
・注入量:20μL
【0024】
合成例2(前記化合物(2)の合成)
[下記構造式で示される化合物(2−1)の合成:3−クロロメチルピリジン塩酸塩から4−クロロメチルピリジン塩酸塩に代え、反応条件を以下の通りにした他は合成例1と同様]

DMF75mlに1,4−ブタンジオール8.24g(91.43mmol)を加え、氷冷下カリウムtert−ブトキシド10.3g(91.79mmol)を添加し、室温で1時間撹拌した。このスラリーに−10〜−5℃で4−クロロメチルピリジン塩酸塩1.5g(9.14mmol)、カリウムtert−ブトキシド1.03g(9.18mmol)を交互に添加し、これを10回繰り返した。
【0025】
添加終了後、反応混合物をHPLC(条件1)で分析すると、4−クロロメチルピリジンのピークが確認されたので、4−クロロメチルピリジンのピークが消失するまでカリウムtert−ブトキシドを10℃以下で添加した。追加したカリウムtert−ブトキシドは1.03g(9.18mmol)であった。反応混合物を固液分離し、ケークをDMF20mlで洗浄、ろ洗液からDMFを減圧下に留去し油状の粗生成物17.0gを得た。得られたオイルをHPLC(条件1)で分析すると、前記化合物(2−1)の面積%は63.0%であった。
【0026】
粗生成物を水30mlに溶解し、トルエンで洗浄した。その後、水層に食塩6gを加え、ジクロロメタン20ml×2で抽出し、無水硫酸マグネシウムで脱水後、溶媒を留去し、油状の前記化合物(2−1)9.21g(収率(1,4−ブタンジオールより):57.2%)を得た。得られたオイルをHPLC(条件1)で分析すると、面積%は99.4%であった。(1H−NMR(CDCl3):δ1.65−1.80(4H,m,−(C22−)、δ2.4(1H,s,O)、δ3.54−3.58(2H,t,J=5.9Hz,C2)、δ3.66−3.70(2H,t,J=5.9Hz,C2)、δ4.53(2H,s,C2)、δ7.24−7.26(2H,dd,J=1.5Hz,4.5Hz,arom×2)、δ8.55−8.57(2H,dd,J=1.5Hz,4.5Hz,arom×2)、MS(APCl):m/z=182[M+H]+
【0027】
[下記構造式で示される化合物(2−2)の合成:3−クロロメチルピリジン塩酸塩から4−クロロメチルピリジン塩酸塩に代え、反応条件を以下の通りにした他は合成例1と同様]

DMF49mlに1,4−ブタンジオール2.7g(30.0mmol)を加え、氷冷下カリウムtert−ブトキシド3.4g(30.0mmol)を添加し、室温で1時間撹拌した。このスラリーに−5〜−3℃で4−クロロメチルピリジン塩酸塩0.98g(6mmol)、カリウムtert−ブトキシド0.68g(6mmol)を交互に添加し、これを5回繰り返した。これ以降の添加は、−5〜−2℃で4−クロロメチルピリジン塩酸塩0.98g(6mmol)、カリウムtert−ブトキシド1.36g(12mmol)を交互に添加し、これを5回繰り返し、全量で4−クロロメチルピリジン塩酸塩9.8g(60mmol)、カリウムtert−ブトキシド10.2g(90mmol)を添加した。
【0028】
添加終了後、反応混合物をHPLC(条件1)で分析すると、4−クロロメチルピリジンおよび前記化合物(2−1)のピークが確認されたので、4−クロロメチルピリジンのピークおよび前記化合物(2−1)のピークが消失するまで、4−クロロメチルピリジン塩酸塩とカリウムtert−ブトキシドを10℃以下で添加した。追加した4−クロロメチルピリジン塩酸塩は2.0g(12mmol)、カリウムtert−ブトキシドは2.6g(24mmol)であった。反応混合物を固液分離し、ケークをDMF20mlで洗浄、ろ洗液からDMFを減圧下に留去した。
【0029】
この濃縮残液に酢酸エチル50mlを添加し、溶解液を水で洗浄後、溶媒を留去し、黄色結晶の前記化合物(2−2)を得た。該化合物の結晶をHPLC(条件1)で分析すると、前記化合物(2−2)の面積%は70.5%であった。得られた粗生成物5g(18mmol)をイソプロピルアルコール23.3gで再結晶を行い、白色結晶の前記化合物(2−2)2.7gを得た。(融点:98.6〜100.2℃、1H−NMR(CDCl3):δ1.75−1.79(4H,m,−(C22−)、δ3.53−3.57(4H,m,C2×2)、δ4.52(4H,s,C2×2)、δ7.23−7.27(4H,dd,J=0.8Hz,6.0Hz,arom×4)、δ8.55−8.57(4H,dd,J=1.6Hz,6.0Hz,arom×4)、MS(APCl):m/z=273[M+H]+
【0030】
[下記構造式の化合物(2)の合成:前記化合物(2−2)を4−クロロメチルピリジン塩酸塩から誘導したものに代え、反応条件を以下の通りにした他は合成例1と同様]

前記化合物(2−2)2.0g(7.34mmol)にオクチルブロマイド21.3g(110.3mmol)を加え、70〜80℃で53時間反応を行った。反応混合物をHPLC(条件2)で分析すると、前記化合物(2−2)のピークは消失していた。反応混合物からオクチルブロマイドを減圧下で留去し、油状の前記化合物(2)5.2g(粗収率:107.7%)を得た。得られたオイルをHPLC(条件2)で分析すると、化合物(2)のピークの面積%は81.3%であった。
【0031】
合成例3(前記化合物(3)の合成)

前記化合物(1−2)5.0g(18.36mmol)にデシルブロマイド40.6g(183.8mmol)を加え、70〜80℃で20時間反応を行った。
【0032】
反応混合物をHPLC(条件3)で分析すると、前記化合物(1−2)のピークは消失していた。反応混合物より上層のデシルブロマイド層を分離し、下層油状物をアセトニトリル−酢酸エチル=1:3(v/v)混液に注加した。混合物を冷却し、析出結晶を0℃でろ過、減圧乾燥を行い、灰白色結晶11.6g(粗収率(前記化合物(1−2)より):88.5%)を得た。該化合物の結晶をHPLC(条件1)で分析すると、前記化合物(3)の面積%は98.4%であった。融点およびNMR分析値は以下の通りであった。
(融点:76.8〜79.2℃、1H−NMR(CD3OD):δ0.9(6H、t、C3×2)、δ1.29〜1.40(28H、m、(C27×2)、δ1.77〜1.84(4H、m、C2×2)、δ2.00〜2.05(4H、t、C2×2)、δ3.69〜3.70(4H、t、C2×2)、δ4.64〜4.68(4H、t、C2×2)、δ4.77(4H、s、C2×2)、δ8.07〜8.11(2H、dd、J=、arom×2)、δ8.55〜8.57(2H、d、arom×2)、δ8.93〜8.94(2H、d、arom×2)、δ9.02(2H、s、arom×2)
【0033】
HPLC(条件3)
・カラム:Inertsil ODS-3(GL Sciences)4.6mmφ×250mm
・カラム温度:15℃付近の一定温度
・移動相:A−0.5%酢酸アンモニウム水溶液、B−アセトニトリル A:60%(5min保持)→(10min)→A:30%(30min保持)→A:60%
・流量:1.0ml/min
・検出器:UV254nm
・注入量:10μL
【0034】
合成例4(前記化合物(4)の合成)
合成例3におけるデシルブロマイドに代えて当モル量のドデシルブロマイドを用いた以外は合成例3と同様にして下記構造式で表される化合物(4)13.0g(粗収率:91.5%)を得た。得られた化合物(4)をHPLC(条件4)で分析すると、化合物(4)のピークの面積%は97.5%であった。また、融点およびNMR分析値は以下の通りであった。

【0035】
(融点:90.0〜91.4℃、1H−NMR(CD3OD):δ0.89(6H、t、C3×2)、δ1.26〜1.39(36H、m、(C29×2)、δ1.79〜1.82(4H、m、C2×2)、δ1.84〜2.05(4H、m、C2×2)、δ3.67〜3.70(4H、t、C2×2)、δ4.65〜4.68(4H、t、C2×2)、δ4.77(4H、s、C2×2)、δ8.07〜8.11(2H、dd、arom×2)、δ8.55〜8.57(2H、d、arom×2)、δ8.93〜8.94(2H、d、arom×2)、δ9.02(2H、s、arom×2)
【0036】
HPLC(条件4)
・カラム:CAPCELL PAK C18 SG120(資生堂)4.6mmφ×250mm
・カラム温度:15℃付近の一定温度
・移動相:A−0.1Mリン酸二水素カリウム(0.05%燐酸)水溶液、B−80%アセトニトリル水溶液 A:B=30:70
・流量:1.0ml/min
・検出器:UV254nm
・注入量:20μL
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
本発明の銅防食剤の有効成分である前記一般式(1)で表される化合物として、前記化合物(1)〜(4)を用意した。また、比較のために、従来技術において銅の防食剤として用いられているトリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール(BZTと略記)と、微生物防除剤として知られているメチレンビスチオシアネート(MBTCと略記)、グルタルアルデヒド(GAと略記)を準備した。
【0038】
実施例1
まず、微生物腐食ではない、一般の腐食を想定して検討を行った。つくば市水(分析結果を表1に示す)に上記薬剤を各1mg/Lの濃度となるようテスト溶液(1L)を得た。なお、薬剤添加によるpHの変化は殆どなく、最大でも±0.1程度の変化であった。これら薬剤添加液1Lに、それぞれ液中にテストピース(タフピッチ銅(JIS・C1100)、表面積0.294dm2)を浸漬し、35℃に保って3日間300rpmで撹拌した。終了後、テストピースを取り出し、その腐食減量から腐食度を算出した。結果を表2に示す。
【0039】

【0040】

【0041】
表2より、化合物(1)〜(4)を添加した系で銅の腐食が防止されることが判る。なお、微生物防除剤として知られるメチレンビスチオシアネートおよびグルタルアルデヒドではこのような効果が得られないことも判る。
【0042】
実施例2
微生物腐食ではない一般の腐食、ただし、高腐食性条件を想定して検討を行った。すなわち、前記つくば市水に塩化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムを添加して、塩化物イオン濃度および硫酸イオン濃度をそれぞれ500mg/Lとした高腐食性水(pH:7.2)を得た。この高腐食性水にそれぞれ薬剤を5mg/Lの濃度となるよう添加し、薬剤添加液を得た。なお、薬剤添加によるpHの変化は殆どなく、最大でも±0.1程度の変化であった。これら薬剤添加液1Lに、実施例1と同様にそれぞれ液中にタフピッチ銅のテストピースを浸漬し、35℃に保って3日間300rpmで撹拌した。終了後、テストピースを取り出し、その腐食減量から腐食度を算出した。結果を表3に示す。なお、メチレンビスチオシアネート或いはグルタルアルデヒドとベンゾトリアゾールとを併用した系についても同様に検討し、その結果を表3に併記した。
【0043】

【0044】
表3より、前記化合物(1)〜(4)を添加した系では銅の腐食が防止されることが判る。さらに、前記化合物(1)〜(4)と同じように微生物防除剤として知られるメチレンビスチオシアネートおよびグルタルアルデヒドではこのような効果が得られないか、或いは得られてもわずかであることが判る。特に前記化合物(1)〜(4)をそれぞれ添加した系では、銅の防食剤として用いられているトリルトリアゾール或いはベンゾトリアゾールを添加した系と比べても良好な防食性が得られることが判る。
【0045】
ここで、メチレンビスチオシアネート或いはグルタルアルデヒドとベンゾトリアゾールとを併用した系に関しては、ある程度防食効果が得られることが判ったが、その効果は充分でなく、さらにコストが高くなり、また、2種薬剤の併用となるため、薬注ポンプ、タンクなどが別々に必要となり、設備的にも煩雑となる。これに比べ本発明の防食方法では単独の薬剤の添加で良く、しかも、そのときの添加濃度も極めて低濃度で極めて高い効果が得られる。
【0046】
実施例3
次に実際の冷却水系への応用について検討した。保有水量3m3、循環水量120m3、濃縮倍率4倍、蒸発量0.60m3/h、ブロー量0.20m3/h、補給水量0.80m3/hで稼働している冷却水系(水の分析結果を表4に示す)に前記化合物(1)〜(4)を濃度が1.0mg/Lとなるよう添加し、この濃度に維持した。この水系に前記タフピッチ銅のテストピースを7日間浸漬し、その後取り出し、腐食減量より腐食度を算出すると同時に、目視観察した。その結果を、予め同様に、ただし前記化合物(1)〜(4)を添加することなく7日間水系に浸漬したテストピースでの結果と併せて表5に示す。
【0047】

【0048】

表5より、実際の水系であっても、本発明の銅防食剤である前記化合物(1)〜(4)を添加することにより銅の防食効果が得られることが確認された。
【0049】
実施例4
次に、微生物腐食に対する効果を調べた。すなわち、実際の冷却循環水系であって、銅の腐食が生じた水系からスライムを採取した。このスライム(含水状態のまま)を実施例2で使用したのと同じ高腐食性水に5g/Lとなるように添加し、テスト液(pH:8.0)を調製した。このテスト液に実施例2と同様に各種薬剤を濃度が5mg/Lとなるよう添加して薬剤添加液を得た。なお、薬剤添加によるpHの変化は殆どなく、最大でも±0.1程度の変化であった。
【0050】
これら薬剤添加液に実施例1と同様にテストピースを浸漬し、35℃に保って撹拌しながら、3日間保った。テスト終了後の腐食度を調べ、また、そのときの腐食の形態を目視にて観察した。結果を表6に示す。なお、グルタルアルデヒドとベンゾトリアゾールとを併用した系についても同様に検討し、その結果を表6に併記した。
【0051】

【0052】
表6より、銅腐食が発生した水系から採取したスライムを高腐食性水に添加して得られた環境であっても、本発明に係る銅防食剤を添加することにより銅の腐食を効果的に防止できることが判る。
【0053】
ここで、メチレンビスチオシアネート或いはグルタルアルデヒドとベンゾトリアゾールとを併用した系に関しては、2種併用した効果は殆どなく、特に熱交換器や配管などで完全な防止が必要とされる孔食の発生が防止できないことが確認された。
【0054】
このように本発明の防食方法では単独で、しかも、極めて低濃度の薬剤を添加するだけでスライム存在下の高腐食性水という極めて過酷な条件であるにもかかわらず高い効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の銅防食剤は、前記一般式(1)で表される化合物を有効成分とするもので、かかる銅防食剤を水系中に添加することにより、他の薬剤の併用を必要とせず、さらに、極めて低い濃度の使用でも、微生物腐食と思われる銅腐食を効果的に防止し、さらに微生物の関与しない一般の銅腐食をも著しく抑制することができる。また、微生物防除剤と銅防食剤を併用するに際しては、薬注ポンプ、薬液タンク、薬液調整などを別々に必要とし、そのため設備投資が過大となり、それらのメンテナンスも煩雑であったが、本発明の方法によれば薬注は1系列で済み、その結果メンテナンスも容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする銅防食剤。

(但し、上記一般式において、R1およびR4は、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐の同一または異なるアルキレン基であり、R2およびR5は、水素原子、同一または異なるハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基であり、R3は、炭素数2〜12の直鎖若しくは分岐のアルキレン基であり、R6は、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、Zは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子若しくはOSO27基(R7は、低級アルキル基若しくは置換或いは無置換のフェニル基である)である。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、R1およびR4は、ピリジン環の3または4位置に結合しているメチレン基であり、R2およびR5は、水素原子であり、R3は、テトラメチレン基であり、R6は、オクチル基、デシル基およびドデシル基から選ばれる基であり、Zは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子若しくはOSO27基(R7は、低級アルキル基若しくは置換或いは無置換のフェニル基である)である請求項1に記載の銅防食剤。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物は、下記式(1)〜(4)で表される少なくとも1種の化合物である請求項1に記載の銅防食剤。




【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物の有効量を銅材質と接触する水系に添加することを特徴とする銅防食方法。

【公開番号】特開2006−22391(P2006−22391A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203409(P2004−203409)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(501046958)
【出願人】(595137941)タマ化学工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】