説明

【課題】 切れ味を向上させることができる鋏を提供する。
【解決手段】第1側部15aの下側縁、及び第2側部16aの上側縁には、それぞれ対向する側部側に向かって折り曲げられてなる折曲部(第1折曲部15b、第2折曲部16b)が形成されている。折曲部15b,16bの先端には、その長手方向に沿ってピンキング刃が形成されている。折曲部15b,16bと側部15a,16aとのなす角度はαに設定されている。当該角度αは、105〜115°であり、好ましくは108〜112°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柄部と刃体とを有する一対の鋏片を軸芯により互いに開閉可能に支持した鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、布地等の被切断物を切断する際に用いられる鋏として、例えば特許文献1に示されたようなものが提案されている。当該鋏は、第1刃体の下縁部、及び第2刃体の上縁部のそれぞれに折り曲げ形成された折曲部を有している。折曲部の先端には、その長手方向に沿って平面視山型状をなすピンキング刃が形成されている。この鋏によれば、布地の裁ち目がジグザグ状に仕上げられ、当該裁ち目のほつれが防止される。
【特許文献1】特開平11−19341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記従来のように、布地の裁ち目をジグザグ状に仕上げる機能を発揮するべく、それぞれの刃体の側面から折り曲げられた折曲部にピンキング刃が設けられている鋏においては、布地を切断する際にピンキング刃の上側面(下側面)が布地の表面を押圧するようになる。このとき、ピンキング刃の上側面(下側面)に対し布地から抗力が加わるのであるが、この抗力を如何に抑えるかが鋏の切れ味を左右する。そのため、布地に対する鋏の切れ味の低下を抑制するべく前記抗力を低減することが要求されていた。すなわち、上記従来の鋏は、鋏の切れ味の点において、依然として改善の余地を残すものとなっていた。
【0004】
この発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、切れ味を向上させることのできる鋏を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の鋏は、柄部と板状をなす刃体とを有する一対の鋏片を軸芯により互いに開閉可能に支持して構成し、両刃体を摺動させて被切断物を切断する鋏であって、前記両刃体は、それぞれ互いに相対向する平板状をなす側部と、当該側部の側縁において対向する一方の側部に向けて折り曲げ形成されてなる折曲部とを備え、当該折曲部の先端には、前記刃体の長手方向に沿ってピンキング刃が設けられており、前記側部の外側面を含む第1仮想平面と、前記折曲部の先端側外側面を含む第2仮想平面との交差角度は105〜115°であることを要旨とする。
【0006】
上記の構成によれば、ピンキング刃を備える折曲部は、側部の外側面に対して105〜115°傾斜して形成されている。なお、前記側部の外側面とは、一対の側部のうち、相対向する位置関係にある側面(内面)の反対側に位置する側面を意味する。このため、被切断物を切断する直前において、折曲部はその先端側から基端側にかけて、被切断物の表面から離間するように形成されている。この場合、折曲部の先端側の箇所のみが被切断物の切断に寄与することとなり、被切断物を切断する際に当該被切断物に最初に接触する折曲部の外側面(先端側外側面)の接触面積が極力低減される。従って、被切断物を切断する際に当該被切断物からの抗力が加わる面積が極力低減される。すなわち、本構成の鋏によれば、被切断物からの抗力が極力低減され、その結果、被切断物に対する切れ味の向上が図られる。なお、前記折曲部の先端側外側面とは、被切断物を切断する際に当該被切断物の表面に対向する側の折曲部の側面のうち、その側面の先端側を示す。
【0007】
この請求項1に係る発明は、ピンキング刃を有する鋏の切れ味向上を、被切断物と、該被切断物に最初に接触するピンキング刃との接触面積を如何に設定すべきかという技術課題の観点から考慮するものである。この技術課題は、ピンキング刃を有する鋏の分野では非自明の技術課題であって、請求項1に係る発明は、こうした非自明の技術課題をはじめて解決するものである。
【0008】
請求項2に記載の発明の鋏は、請求項1に記載の発明において、前記折曲部の先端面と、前記第2仮想平面とのなす角度は65〜75°であることを要旨とする。
上記の構成によれば、被切断物を切断する際に当該被切断物に最初に接触する折曲部の外側面は、当該折曲部の先端面に対して65〜75°の角度を以って傾斜している。すなわち、折曲部の外側面は、被切断物の表面に対して15〜25°の角度を以って当該被切断物を切断することになる。この場合、被切断物に最初に接触する折曲部の外側面の接触面積が、ピンキング刃の形成に困難さを伴わない範囲内で最小限に抑えられ、その結果、被切断物からの抗力が最小限に抑えられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鋏によれば、切れ味を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に示すように、鋏10は一対の鋏片11より構成されている。各鋏片11は前端側に設けられた金属板よりなる刃体12と、基端側に設けられた合成樹脂製の柄部とにより形成されている。本実施形態の鋏10は、主に、被切断物としての布地を切断するために用いられる。
【0011】
まず、刃体12について説明する。なお、本実施形態では、一対の刃体12のうち、図1において上方に位置する刃体を第1刃体15、下方に位置する刃体を第2刃体16とする。両刃体12の厚みは、それぞれ凡そ2mmに設定されている。
【0012】
両刃体12は、互いに対向する平板状の側部(第1側部15a、第2側部16a)を有している。第1側部15aの下側縁、及び第2側部16aの上側縁には、それぞれ対向する側部側に向かって折り曲げられてなる折曲部(第1折曲部15b、第2折曲部16b)が形成されている。当該折曲部15b,16bは、第1側部15aの下側縁、及び第2側部16aの上側縁の全体に亘って設けられている。両刃体15,16は、それぞれ側部15a,16aと折曲部15b,16bとより断面L字状に形成されている。
【0013】
折曲部15b,16bの先端には、その長手方向に沿ってピンキング刃18が形成されている。ピンキング刃18は、前記折曲部15b,16bにおいて後述する軸芯22よりも前端側の箇所に設けられており、前記長手方向に沿って連続する平面視山型状に形成されている。図2に示すように、刃体15,16を閉じた状態において、前記ピンキング刃18のうち、刃体15,16の前端面15c,16cに連続する斜面(第1斜面18a、第2斜面18b)は互いに平行に形成され、これら斜面18a、18bの指向方向は互いに一致している。すなわち、第1刃体15の最も前端側に位置するピンキング刃18の頂部18cと当該第1刃体15の前端面15cとの間に位置する第1斜面18aは、第2刃体16の最も前端側に位置するピンキング刃18の谷部18dと当該第2刃体16の前端面16cとの間に位置する第2斜面18bと平行に形成されている。
【0014】
図3に示すように、折曲部15b,16bと側部15a,16aとのなす角度はαに設定されている。前記折曲部15b,16bと側部15a,16aとのなす角度とは、側部15a,16aの外側面15d,16dを含む第1仮想平面24と、折曲部15b,16bの先端側外面15e,16eを含む第2仮想平面25との交差角度のうち、折曲部15b,16bと側部15a,16aとの境界箇所15f,16fに対向する角度を意味する。当該角度αは、105〜115°であり、好ましくは108〜112°である。
【0015】
前記角度αが105°未満の場合には、布地を切断する際に、当該布地に最初に接触する折曲部15b,16bの外面15e,16eが布地の表面に対してほぼ平行に入射するようになる。このため、折曲部15b,16bの外面15e,16eと布地の表面との接触面積が増大し、その結果、布地からの抗力が加わる面積も増大する。従って、布地に対する十分な切れ味が得られない可能性が高い。一方、前記角度αが115°を超える場合には、布地に対する十分な切れ味は得られるが、折曲部15b,16bへのピンキング刃18の形成が困難となる可能性が高い。
【0016】
また、布地を切断する際に、当該布地に最初に接触する折曲部15b,16bの外面15e,16eの傾斜角度はβに設定されている。前記折曲部15b,16bの外面の傾斜角度とは、折曲部15b,16bの先端面26と、前記第2仮想平面25とのなす角度を意味する。当該傾斜角度βは、65〜75°であり、好ましくは68〜72°である。この場合、ピンキング刃18の形成に困難さを伴うことがなく、布地を切断する場合において折曲部15b,16bの外面15e,16eと布地の表面との接触面積が極力低減される。その結果、当該布地に対する良好な切れ味が得られる。
【0017】
図1に示すように、両柄部13は平面から見て環状に形成され、それぞれの内側に鋏の使用時において指を挿入するための指掛部13aが設けられている。また、両鋏片11の間には擦合部材21が挟着されている。これら両鋏片11及び擦合部材21を重ね合わせた状態でそれらの重合部分に設けられた軸芯22により、両鋏片11が互いに開閉可能に支持されている。
【0018】
前記擦合部材21は、鋏片11の長手方向の中間位置に設けられている。擦合部材21は、板状をなす基台21aを備えている。この基台21aにはボール21bが埋設されている。ボール21bは、軸芯22よりも僅かに基端側に設けられており、その外面が前記一方の刃体(第2刃体16)の側面に摺接されるようになっている。そして、当該ボール21bを介したてこの原理により、布地の切断に寄与する両刃体12の折曲部15b,16bの先端部間の間隔が一定に保たれるようになる。その結果、布地に対する切れ味の向上が図られるようになる。
【0019】
図4に示すように、上記鋏10を用いて布地Fを裁断する際には、まず、両柄部13の指掛部13aに指を挿入し、両柄部13を開動作させ、刃体15,16を開動作させる。そして、両刃体15,16が開いた状態から両柄部13を閉動作させて刃体15,16を閉動作させ、布地Fを切断する。
【0020】
このとき、図5に示すように、布地Fがその上下方向から折曲部15b,16bの外面15e,16eに押圧された状態で、当該布地Fがピンキング刃18を介してジグザグ状に切断される。この場合、折曲部15b,16bの外面15e,16eには布地Fからの抗力が加わる。当該抗力とは、布地Fの切断時に折曲部15b,16bの外面15e,16eが布地Fを押圧する押圧力と等しい大きさであって、当該押圧力と逆方向の力を示す。
【0021】
本実施形態では、折曲部15b,16bの外面15e,16eが布地Fの表面から所定角度γ(γ:15〜25°)傾斜した状態で布地Fの表面に向かって入射し、その結果、ピンキング刃18を介して布地Fが切断される。このため、折曲部15b,16bの外面15e,16eが布地Fの表面に対してほぼ平行に入射する構成の鋏に比べて、本実施形態では、布地Fを切断する際の、当該布地Fと折曲部15b,16bの外面15e,16eとの接触面積が低減される。これにより、布地Fの切断時に折曲部15b,16bの外面15e,16eが布地Fを押圧する面積も低減し、その結果、折曲部15b,16bの外面15e,16eが布地Fから受ける抗力が低減する。従って、本実施形態の鋏10によれば、従来構成に比べて少ない力で、スムーズ且つ容易に布地Fを切断することが可能となる。
【0022】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態の鋏10の刃体15,16は、それぞれ折曲部15b,16bと側部15a,16aとのなす角が105〜115°に設定されている。すなわち、布地Fを切断する際に当該布地Fに最初に接触する折曲部15b,16bの外面15e,16eは、折曲部15b,16bの先端面26に対して65〜75°の角度を以って傾斜している。この場合、折曲部15b,16bへのピンキング刃18の形成の困難さを招かない範囲内で、布地Fに対する折曲部15b,16bの外面15e,16eの押圧面積が低減される。このため、本実施形態の鋏10によれば、少ない力でスムーズ且つ容易に布地を切断でき、結果的に鋏10の切れ味を向上させることができる。加えて、折曲部15b,16bへのピンキング刃18の形成が困難となることがなく、製造上何ら不都合が生じることもない。
【0023】
・ 従来、鋏の良好な切れ味を確保するためには、それ相応の厚み(少なくとも2mm以上)を有する刃体が必要であった。上述したように、本実施形態の鋏では、切れ味の向上が図られており、その分、従来の鋏よりも薄い厚みの刃体の形成が可能となる。このため、刃体12の軽量化が図られ、その結果、鋏10の使用性の向上を図ることができる。また、刃体15,16の厚みを薄くすることにより、当該刃体15,16にはそれぞればね性が付与される。このため、布地Fの切断に際しては、刃体15,16の開閉の動作が滑らかなものとなり、これに伴って鋏10の切れ味の向上も図られる。
【0024】
・ 両刃体12の間には、ボール21bが埋設されて擦合部材21が挟着されており、開閉動作される第2刃体16の側部16aに当該ボール21bが摺接するようになっている。これにより、布地Fを切断する際の、両刃体15,16のピンキング刃18(折曲部15b,16bの先端部間)の間隔が一定に保持される。従って、鋏の良好な切れ味が保たれるとともに、切断後の布地Fの外観の低下を好適に抑制することができる。
【0025】
・ 本実施形態の鋏10は、刃体15,16を閉じた状態において、それぞれのピンキング刃18のうち最も前端側に位置する斜面(第1斜面18a、第2斜面18b)は互いに平行に形成されている。このため、切断後の布地Fの裁ち目のうち、ピンキング刃18の前端付近に相当する裁ち目も他の部位と同様に顕著な山型状(ジグザグ状)となる。すなわち、刃体のピンキング刃のうち最も前端側に位置する斜面が平行に形成されていないタイプの鋏に比べて、本実施形態の鋏10によれば、布地Fの裁ち目の意匠性を向上させることができる。
【0026】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 布地以外の被切断物を切断するために上記鋏を使用してもよい。この種の被切断物としては、例えば、紙等が挙げられる。
【0027】
・ 擦合部材21を省略してもよい。
・ ピンキング刃18の形状は、布地Fの裁ち目が凹凸状に形成されるのであれば、如何なる形状に変更してもよい。例えば、当該ピンキング刃18の形状を、円弧状をなす頂部と谷部とが滑らかに連続する波型状に変更してもよい。
【0028】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記両刃体間には擦合部材が挟着され、当該擦合部材は、一方の刃体に摺接可能とされるボールを備えていることを特徴とする鋏。このように構成した場合、被切断物に対する良好な切れ味を維持することができる。
【0029】
・ 前記ピンキング刃は、前記刃体の長手方向に沿って連続する平面視山型状に形成されていることを特徴とする鋏。
・ 前記両刃体に各々設けられたピンキング刃における前記刃体の前端面に連続する斜面は互いに平行に形成されていることを特徴とする鋏。
【0030】
・ 前記被切断物は布地であることを特徴とする鋏。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態の鋏を示す斜視図。
【図2】閉じられた両刃体の前端部を示す平面図。
【図3】(a)は図1の3a−3a線における断面図、(b)は図1の3b−3b線における断面図。
【図4】同鋏を用いて布地を切断する状態を示す斜視図。
【図5】図4の5−5線における断面図。
【符号の説明】
【0032】
10…鋏、11…鋏片、12…刃体、13…柄部、22…軸芯、15a…第1側部、15b…第1折曲部、16a…第2側部、16b…第2折曲部、18…ピンキング刃、24…第1仮想平面、25…第2仮想平面、26…折曲部の先端面、F…被切断物としての布地、α…第1仮想平面と第2仮想平面との交差角度、β…折曲部の先端面と第2仮想平面とのなす角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柄部と板状をなす刃体とを有する一対の鋏片を軸芯により互いに開閉可能に支持して構成し、両刃体を摺動させて被切断物を切断する鋏であって、
前記両刃体は、それぞれ互いに相対向する平板状をなす側部と、当該側部の側縁において対向する一方の側部に向けて折り曲げ形成されてなる折曲部とを備え、当該折曲部の先端には、前記刃体の長手方向に沿ってピンキング刃が設けられており、
前記側部の外側面を含む第1仮想平面と、前記折曲部の先端側外側面を含む第2仮想平面との交差角度は105〜115°であることを特徴とする鋏。
【請求項2】
前記折曲部の先端面と、前記第2仮想平面とのなす角度は65〜75°であることを特徴とする請求項1に記載の鋏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−149943(P2006−149943A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348521(P2004−348521)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(000214548)長谷川刃物株式会社 (2)
【Fターム(参考)】