説明

鋳片の連続鋳造方法

【課題】鋳片全幅にわたって中心偏析を皆無とすることが可能な連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】浸漬ノズルから鋳型内に溶鋼を供給し、供給した溶鋼を凝固させながら引き抜き、未凝固部を含む鋳片を凝固完了までに圧下ロールを用いて圧下する連続鋳造方法において、前記浸漬ノズルとして、側面に溶鋼の吐出孔を1個有する浸漬ノズルを2本用い、各浸漬ノズルは前記吐出孔から吐出される溶鋼が互いに衝突するように前記鋳型の幅方向に配置されるとともに、前記吐出孔からの溶鋼の吐出方向が、鋳型内の溶鋼湯面に対して鋳込み方向下向きに5°〜25°の角度に傾斜しており、前記各浸漬ノズルにArガスを1本当たり5NL/min以上15NL/min以下の流量で吹き込みながら、前記吐出孔からArガスが混入した溶鋼を吐出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳片の連続鋳造方法に関し、特に全幅にわたり中心偏析のない鋳片を得ることが可能な連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造法を用いて鋳片を製造する場合には、しばしば中心偏析と呼ばれる内部欠陥の発生が問題となる。この中心偏析は、鋳片の厚さ方向中心部(最終凝固部)で、C、S、PおよびMn等の溶鋼成分が正偏析する現象である。この現象は、厚板素材において特に深刻な問題であり、中心偏析が発生した部分における靭性の低下や水素誘起割れの原因となることが知られている。
【0003】
中心偏析は、溶鋼の凝固末期におけるデンドライト(樹脂状晶)樹間の未凝固溶鋼(以下「残溶鋼」という。)が、溶鋼の凝固収縮または凝固シェルのバルジング等に起因して、最終凝固部の凝固完了点に向かってマクロ的に移動し、かつ、C、S、PおよびMn等が濃化した溶鋼(以下「濃化溶鋼」という。)が局部的に集積するために起こることがわかっている。
【0004】
中心偏析の発生の防止対策としては、凝固完了点付近を、ロールを用いて圧下すること、または金型等を用いて何らかの方法で圧下等することにより、残溶鋼の移動や濃化溶鋼の集積を阻止する方法があり、種々の技術思想に基づく方法が提案されてきた。
【0005】
例えば特許文献1では、鋳片表面に噴射される二次冷却水量を増加させることにより、鋳片の最終凝固部の表面温度を700〜800℃の範囲とし、凝固シェルの厚さを増加させることにより、ロール間バルジングを抑制し、さらに軽圧下ロール群で毎分0.2〜0.4%の歪み速度の圧下力を鋳片に加えることにより、濃化溶鋼の流動を阻止し、中心偏析を防止する方法が提案されている。このような圧下ロール群による軽圧下では、鋳片長手方向に対して点状にしか圧下できないため、凝固収縮やロール間のバルジングを十分に抑制することができないという問題がある。
【0006】
特許文献2では、鋳片の凝固完了点近傍を加工面が平坦な金型で連続的に鍛圧加工する方法が開示されている。しかし、この方法には、金型を用いた鍛圧加工装置を設ける必要があるため、設備コストが非常に高いという欠点がある。
【0007】
特許文献3では、未凝固部を含む鋳片を一旦バルジングさせ、凝固完了直前の時点でバルジング量相当分を圧下して中心偏析を防止する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、凝固遅れにより未凝固層の大きい領域が存在した状態で、鋳片幅方向の両端部近傍での圧下が不足した場合に、鋳片幅方向における両端部分近傍での中心偏析の防止は十分でないことがあり、さらなる幅方向の均一凝固への改善が望まれている。
【0008】
特許文献4では、未凝固部を有する鋳片をバルジングさせた後、圧下ロールで圧下する方法であって、バルジングさせることに伴ってロールと非接触となる鋳片両端部を、適切に水量を増加させた二次冷却水で冷却することにより、未凝固部の厚さを鋳片幅方向で均一にする方法が開示されている。しかしながら、割れ感受性の高い鋼では、積極的に二次冷却水量を増加させても、ロールと非接触となることによる冷却不足を補償することができない。さらに、上述の未凝固鋳片をバルジングした際に発生する軽微な内部割れが製品欠陥となることがある。
【0009】
以上のような鋳片幅方向の凝固の不均一対策として、本出願人は、特許文献5では、浸漬ノズルを鋳型内に2本以上配置することで、溶鋼の吐出流を制御し、これにより鋳片幅方向の不均一凝固を解消し、最適な形状の未凝固領域を有する鋳片を連続的に圧下することで、中心偏析を防止する方法を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−252655号公報
【特許文献2】特許第2915544号公報
【特許文献3】特開平9−57410号公報
【特許文献4】特許第3960249号公報
【特許文献5】特許第3077572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本出願人が特許文献5で提案した方法では、一定の中心偏析の改善が得られるものの、各浸漬ノズルからの吐出流量の制御が困難であり、吐出流量の乱れにより、溶鋼下降流のゆらぎ(流速のばらつき)が生じ、鋳片幅方向の不均一凝固を解消するには至らない場合が散発し、その安定化に改善の余地が残っていた。
【0012】
このように、従来の連続鋳造方法では、中心偏析のレベルを、鋳片の幅方向では改善することができるものの、幅方向で常に安定的に均一とするには困難さが伴う。
【0013】
そのため、通常はインゴットで製造されるような割れ感受性の高い高強度鋼や、UOE製管用等のように大きな曲げ歪を生じる厚肉材の素材を連続鋳造する場合には、中心偏析レベルが全体に比較的軽微であっても、一部での強いレベルの中心偏析の残存が製管時の割れの原因となる課題が残っていた。
【0014】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、鋳片全幅にわたって中心偏析を皆無とすることが可能な連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋳片幅方向の未凝固部の厚さを均一に確保しつつ、クレーターエンド(未凝固部先端)の形状を圧下時に濃化溶鋼が残存しにくい形状に制御することについて検討した。
【0016】
その結果、鋳型に溶鋼を供給する浸漬ノズルを鋳型の幅方向に2本並列して配置し、各浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流を対向、衝突させることによって、溶鋼の鋳型の幅方向の速度分布を鋳込み方向下向きに凸の状態(U字状の状態)に制御するのが有効であることを知見した。このように溶鋼の吐出流を制御することにより、鋳片幅方向の未凝固部の厚さを均一にすることができ、しかも、鋳片厚さ方向の中心を含む縦断面でクレーターエンドの形状を、鋳片の圧下時に濃化溶鋼が残存しにくいU字状とすることができるからである。さらに、この鋳片を凝固完了までに圧下することによって、鋳片の最終凝固位置における濃化溶鋼の流入を防止し、中心偏析を皆無にできることを知見した。
【0017】
さらに、各浸漬ノズルからの対向する吐出流を、全ては衝突させず、一部をわずかに逃がすことで、全てを衝突させた場合と比較して、鋳型幅方向により均一な下降流を形成できること、および鋳造された鋳片には中心偏析が観察されず、かつ偏析度も低減し、偏析度のばらつきも小さくなることを知見した。
【0018】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は下記の(1)〜(4)に示す鋳片の連続鋳造方法にある。
【0019】
(1)浸漬ノズルから鋳型内に溶鋼を供給し、供給した溶鋼を凝固させながら引き抜き、未凝固部を含む鋳片を凝固完了までに圧下ロールを用いて圧下する連続鋳造方法において、前記浸漬ノズルとして、側面に溶鋼の吐出孔を1個有する浸漬ノズルを2本用い、各浸漬ノズルは前記吐出孔から吐出される溶鋼が互いに衝突するように前記鋳型の幅方向に配置されるとともに、前記吐出孔からの溶鋼の吐出方向が、鋳型内の溶鋼湯面に対して鋳込み方向下向きに5°〜25°の角度に傾斜しており、前記各浸漬ノズルにArガスを1本当たり5NL/min以上15NL/min以下の流量で吹き込みながら、前記吐出孔からArガスが混入した溶鋼を吐出させることを特徴とする鋳片の連続鋳造方法。
【0020】
(2)前記各浸漬ノズルの吐出孔からの溶鋼の吐出方向は、鋳型内の溶鋼湯面に平行な方向の成分が互いに平行であり、かつ前記鋳型の幅方向に対して0°〜15°の角度に偏向していることを特徴とする前記(1)の鋳片の連続鋳造方法。
【0021】
(3)前記圧下ロールとして、鋳片を支持し、案内するロール群のうち最大の直径のものの1.5倍以上の直径を有する大径ロールを用い、圧下量を鋳片厚さの5〜20%として圧下することを特徴とする前記(1)または(2)の鋳片の連続鋳造方法。
【0022】
(4)前記圧下ロールとして、鋳片を支持し、案内するロール群のうち最大の直径のものの1.5倍未満の直径を有する小径ロールを複数対用い、圧下量を鋳片厚さの5%以下として圧下することを特徴とする前記(1)または(2)の鋳片の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の鋳片の連続鋳造方法によれば、浸漬ノズルからの溶鋼吐出流によって形成される、鋳片内における溶鋼の流動を制御することにより、鋳片幅方向の未凝固部の厚さを均一に確保しつつ、クレーターエンドの形状を圧下時に濃化溶鋼が残存しにくい形状に制御することができ、さらに、鋳片最終凝固位置における濃化溶鋼の流入を防止するのに十分な圧下量を付与することが可能であるため、全幅で中心偏析を皆無とした鋳片を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の鋳片の連続鋳造方法に用いることのできる垂直曲げ型の連続鋳造機の縦断面の概略を示す図であり、同図(a)は鋳片を大圧下するために大径ロールを採用する場合、同図(b)は鋳片を軽圧下するために小径ロールを採用する場合をそれぞれ示す。
【図2】鋳型の正面方向から見た浸漬ノズルおよび鋳型周辺の概略図であり、同図(a)は従来の連続鋳造方法を適用した場合の一例を示し、同図(b)は本発明の鋳片の連続鋳造方法を適用した場合の一例を示す。
【図3】未凝固部を有する鋳片横断面の概略図であり、同図(a)は前記図2(a)で説明する方法を用いた場合を示し、同図(b)は前記図2(b)で説明する方法を用いた場合を示す。
【図4】鋳込み方向から見た鋳型および2本の浸漬ノズルの配置関係を示す図であり、同図(a)は吐出孔が偏向していない場合、同図(b)は吐出孔の偏向角度が5°である場合、同図(c)は吐出孔の偏向角度が10°である場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の鋳片の連続鋳造方法は、上述の通り、浸漬ノズルから鋳型内に溶鋼を供給し、供給した溶鋼を凝固させながら引き抜き、未凝固部を含む鋳片を凝固完了までに圧下ロールを用いて圧下する連続鋳造方法において、前記浸漬ノズルとして、側面に溶鋼の吐出孔を1個有する浸漬ノズルを2本用い、各浸漬ノズルは前記吐出孔から吐出される溶鋼が互いに衝突するように前記鋳型の幅方向に配置されるとともに、前記吐出孔からの溶鋼の吐出方向が、鋳型内の溶鋼湯面に対して鋳込み方向下向きに5°〜25°の角度に傾斜しており、前記各浸漬ノズルにArガスを1本当たり5NL/min以上15NL/min以下の流量で吹き込みながら、前記吐出孔からArガスが混入した溶鋼を吐出させる方法である。以下、本発明の内容について従来例と比較しながら説明する。
【0026】
図1は、本発明の鋳片の連続鋳造方法に用いることのできる垂直曲げ型の連続鋳造機の縦断面の概略を示す図であり、同図(a)は鋳片を大圧下するために大径ロールを採用する場合、同図(b)は鋳片を軽圧下するために小径ロールを採用する場合それぞれ示す。同図(a)および(b)に示すように、レードルおよびタンディッシュ(いずれも不図示)から供給された溶鋼1は、浸漬ノズル3から鋳型4内に注入される。浸漬ノズル3内には、Ar等の不活性ガスが、溶鋼1に混入するように吹き込まれる。溶鋼1は、鋳型4内での一次冷却により凝固して、鋳片2の表面を構成する凝固シェル2aを形成する。内部に未凝固部(溶鋼1)を保持した鋳片2は、続くサポートロール群5で支持され、案内されながら、冷却水のスプレー等による二次冷却により凝固が促進され、サポートロール群5内で完全に凝固し、ピンチロール(不図示)で引き出される。
【0027】
また、鋳片2は、凝固完了までに圧下される。鋳片2の圧下は、同図(a)に示す連続鋳造機では、上下1対の大径ロール6によって行われ、同図(b)に示す連続鋳造機では複数の小径ロール7によって行われる。圧下量は、大径ロールを用いる場合には鋳片厚さの5〜20%とすることが好ましく、小径ロールを用いる場合には鋳片厚さの5%以下とすることが好ましい。ここで、大径ロールとは、サポートロール群5を構成するロールのうち最大の直径のものの1.5倍以上の直径を有するものをいう。小径ロールとは、サポートロール群5を構成するロールのうち最大の直径のものの1.5倍未満の直径を有するものをいう。
【0028】
図2は、鋳型の正面方向から見た浸漬ノズルおよび鋳型周辺の概略図であり、同図(a)は従来の連続鋳造方法を適用した場合の一例を示し、同図(b)は本発明の鋳片の連続鋳造方法を適用した場合の一例を示す。図3は、未凝固部を有する鋳片横断面の概略図であり、同図(a)は前記図2(a)で説明する方法を用いた場合を示し、同図(b)は前記図2(b)で説明する方法を用いた場合を示す。
【0029】
図2(a)には、従来の連続鋳造方法として、側面に2個の吐出孔3aを有する浸漬ノズル3を1本、鋳型4内に配置した場合を示す。2個の吐出孔3aは、それぞれ鋳型4の短辺面(鋳型幅方向に垂直な面)に対向し、かつ溶鋼の吐出方向が鋳型内の溶鋼湯面に対して鋳込み方向下向きに所定の角度に傾斜するように設けられている。各吐出孔3aからの溶鋼の吐出流は、同図に示すように、鋳込み方向下向きの下降流a2および鋳込み方向上向きの上昇流a1に分離し、下降流a2によって、鋳片2の幅方向中央部と端部との中間部分に向かう下降流a3が形成される。そのため、凝固シェル2a内における未凝固部(溶鋼1)の鋳型幅方向の速度分布Vaは、中央部および凝固シェル2aに接する部分で極小となり、中央部と端部との中間部分で極大となる、W字状の不均一な分布となる。
【0030】
その結果、鋳片2のクレーターエンドにおいても、鋳片厚さ方向の中心を含む縦断面がW字状となる。また、その溶鋼流に起因し、鋳片2の凝固シェル2aは、図3(a)に示すように、横断面が鋳片2の幅方向の中央部では厚く、中央部と端部との中間部分では薄い形状となる。この場合、鋳片2の圧下量が、鋳片2の幅方向中央部の未凝固部の厚さ程度であると、鋳片2の幅方向中央部では凝固シェル2aが十分に圧下され、未凝固溶鋼1が排出されるものの、中央部と端部との中間部分では圧下が不十分となることから、排出されなかった未凝固溶鋼1は凝固後に偏析として残存する。
【0031】
図2(b)には、本発明の鋳片の連続鋳造方法である、浸漬ノズル3を2本、鋳型4内に配置した場合を示す。2本の浸漬ノズル3は、後述する図4に示すように、鋳型厚さ方向の中心線上に、鋳型幅方向の中心線に対して対称に配置されることが好ましい。
【0032】
各浸漬ノズル3には側面に1個の吐出孔3aが、溶鋼の吐出方向が鋳型内の溶鋼湯面に対して鋳込み方向下向きに5°〜25°の角度で傾斜するように設けられている。この傾斜角度が5°未満であると吐出流の鋳込み方向下向きの速度が十分に得られず、25°を超えると吐出流がゆらぎを伴って不安定となり、鋳片の凝固が不均一となる。
【0033】
各浸漬ノズル3の吐出孔3aは、溶鋼の吐出方向が、互いに対向するように配置される。以下、浸漬ノズル3の側面に吐出孔3aが1個だけ設けられている状態を「片孔」という。
【0034】
このように片孔の浸漬ノズル3を2本、吐出孔3aが対向するように配置することにより、各吐出孔3aからの溶鋼の吐出流b1は、図2(b)に示すように、鋳込み方向下向きの下降流b3および鋳込み方向上向きの上昇流b2に分離する。上昇流b2は溶鋼の液面に接すると溶鋼方向に反転し、鋳型4の側壁に沿って下降流b4を形成する。鋳込み方向下向きの下降流b3は、鋳片2の幅方向中央部において合流し、速度の大きい流れを形成する。凝固シェル2a近傍では、鋳込み方向上向きの速度の小さい上昇流b5が発生する。このようにして、各吐出孔3aから吐出された溶鋼が形成する、凝固シェル2a内における未凝固部(溶鋼1)の鋳型幅方向の速度分布Vbは、凝固シェル2aに接する部分で極小、中央部で極大の、概ね平坦な下に凸(U字状)の分布となる。
【0035】
その結果、鋳片2のクレーターエンドでも、鋳片厚さ方向の中心を含む縦断面がU字状となる。また、その溶鋼流に起因し、鋳片2の凝固シェル2aは、図3(b)に示すように、中央部がほぼ均一の厚さであり、端部に近づくほど厚い形状となる。クレーターエンドおよび凝固シェルがこのような形状である場合には、鋳片2の凝固完了位置の鋳込み方向上流側近傍においては、圧下位置によらず、鋳片2の全体で幅方向全域にわたり凝固シェル2aが十分かつ均一に圧下され、未凝固溶鋼1が排出されるため、偏析は発生しない。
【0036】
2本の吐出孔3aからの溶鋼の吐出方向の、鋳込み方向からの傾斜角度は、両方の浸漬ノズル3で同じであることが好ましい。ただし、連続鋳造機における浸漬ノズル3と鋳型4の配置の関係上、鋳型4の横断面の中心と2本の浸漬ノズル3の中点とを一致させることができない場合には、各浸漬ノズル3からの溶鋼流が鋳型の幅方向の中心線に対して対称となるようにするため、浸漬ノズル3ごとに異なる角度としても差し支えない。
【0037】
さらに、本発明の鋳片の連続鋳造方法では、吐出孔3aから吐出される溶鋼に不活性ガスが混入するように、浸漬ノズル3に不活性ガスを吹き込む。これにより、介在物による浸漬ノズル3の閉塞をきたすことなく溶鋼の流動を安定させることができるため、クレーターエンドの形状を高い精度でU字状に制御すること、前記図3(b)に示す形状の凝固シェル2aを形成すること、および偏析の発生を抑制することを、安定して行うことができる。
【0038】
浸漬ノズル3に吹き込む不活性ガスとしてはArを使用する。浸漬ノズル3に吹き込むArガスの流量は、浸漬ノズル1本当たり、5〜15NL/minとする。これは、5NL/min未満では鋳型内の溶鋼湯面に皮張りが発生する懸念があり、15NL/minを超えると外乱が増加して湯面の状態が不安定となり、パウダー巻き込みが発生する懸念があるためである。Arガスの流量は、8〜10NL/minが好ましい。
【0039】
図4は、鋳込み方向から見た鋳型および2本の浸漬ノズルの配置関係を示す図であり、同図(a)は吐出孔が偏向していない場合、同図(b)は吐出孔の偏向角度が5°である場合、同図(c)は吐出孔の偏向角度が10°である場合を示す。同図に示すように、浸漬ノズル3は、鋳込み方向から見て、鋳型厚さ方向の中心線上に、鋳型幅方向の中心線に対して対称に配置されることが好ましい。
【0040】
また、本発明の連続鋳造方法では、各浸漬ノズル3の吐出孔3aからの溶鋼の吐出方向は鋳型4の中心方向に向かう成分を有し、鋳型内の溶鋼湯面に平行な方向の成分が互いに平行であり、かつ鋳型の幅方向に対して所定の角度に偏向していることが好ましい。そのため、溶鋼の吐出方向がこのような角度となるように、吐出孔3aの偏向角度を設定することが好ましい。ここで、偏向角度とは、鋳型4の横断面において、鋳型幅方向を基準とした溶鋼の吐出方向および吐出孔3aの角度をいう。前述のように、図4(a)は、吐出孔が偏向していない場合、すなわち偏向角度が0°の場合、同図(b)は偏向角度が5°である場合、同図(c)は偏向角度が10°である場合を示す。
【0041】
このように浸漬ノズル3の吐出孔3aを偏向させることにより、対向する浸漬ノズル3からの溶鋼の吐出流を全ては互いに衝突させず、一部をわずかに逃がすこととなる。この場合、溶鋼流を全て衝突させた場合(偏向させていない場合)と比較して、より均一に近い、下に凸の鋳型の幅方向の速度分布を有する下降流を形成することができる。そのため、鋳片のクレーターエンドの縦断面の形状をU字状に制御し、凝固シェルを中央部がほぼ均一の厚さであり、端部に近づくほど厚い形状に制御することができる。
【0042】
溶鋼の吐出方向の偏向角度は、5°〜15°が好ましい。偏向角度が15°を超えると、溶鋼の下降流の均一性が乱れることとなり、クレーターエンドおよび凝固シェルの形状を正確に制御することができないからである。
【0043】
本発明の方法が適用可能な連続鋳造装置は、垂直型に限らず、湾曲型、垂直曲げ型等のいずれの型にも適用することができる。
【実施例】
【0044】
本発明の鋳片の連続鋳造方法の効果を確認するため、以下に示すスラブの連続鋳造試験を実施してその結果を評価した。
【0045】
1.試験条件
連続鋳造機として、前記図1に示す垂直曲げ型連続鋳造機を用いた。連続鋳造機は、垂直部2.5m、湾曲半径9.4m、機長28mであった。スラブの圧下は同図(a)に示す上下1対の大径ロールまたは同図(b)に示す複数の小径ロールを用いて行った。大径ロールを用いた圧下では、凝固完了までに鋳片厚さの5〜20%を圧下した。小径ロールを用いた圧下では、凝固完了までに鋳片厚さの5%以内を圧下した。スラブの鋳造サイズは厚さ250mm、幅2300mmとし、鋳造速度は0.80m/minとした。また、浸漬ノズルから溶鋼とともに吹き込む不活性ガスはArとした。
【0046】
鋳造に用いた鋼は、質量%で、C:0.02〜0.50%、Si:0.04〜0.60%、Mn:0.50〜2.50%、P:0.050%以下、S:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成(鋳片状態)であった。これは、厚鋼板として用いられている鋼種である。
【0047】
また、溶鋼過熱度、使用した浸漬ノズルおよびその吐出孔からの溶鋼の吐出流の鋳型内の溶鋼湯面に対する傾き(吐出角度)、圧下方法ならびに圧下ゾーンの長さは表1に示す通りとした。表1中の圧下方法の欄に記載の「大圧下」とは大径ロールを用いて行った圧下であり、「軽圧下」とは小径ロールを用いて行った圧下である。また、圧下ゾーンの欄に記載の「−」とは、1箇所での圧下であることを示す。
【0048】
【表1】

【0049】
試験A、BおよびGは、本発明の規定を満足する本発明例である。試験C〜FおよびHは本発明の規定を満足しない比較例である。試験CはArの吹き込み量が、試験DはArの吹き込み量および溶鋼の吐出角度が、試験Eは浸漬ノズルの本数が、試験Fは浸漬ノズルの本数および圧下量が、試験Hは浸漬ノズルの傾斜角が、それぞれ本発明の規定を満足しない。
【0050】
また、試験A〜Fは、対向する浸漬ノズルからの吐出流の鋳型内の溶鋼湯面に平行な方向の成分を互いに平行とし、かつ前記鋳型の幅方向に対する偏向角度を0°とし、試験GおよびHは偏向角度をそれぞれ10°および20°とした。すなわち試験A〜Fでは対向する浸漬ノズルからの吐出流を偏向させず、試験GおよびHでは偏向させた。偏向角度とは、前記図4に示される角度である。
【0051】
各試験について、完全凝固後の鋳片を鋳込み方向に垂直な断面における、炭素濃度の分布を測定し、以下の項目について評価した。炭素濃度はマッピングアナライザを用いて測定した。
【0052】
2.評価項目
表2に評価項目およびその結果を示す。評価項目は、目視により観察した「中心偏析分布」、「偏析面積」、「炭素の最大偏析度」および「炭素偏析度のばらつき」とした。偏析度とは、測定箇所の炭素濃度Cを、タンディッシュ内の溶鋼の炭素濃度の分析値C0で除した値C/C0である。炭素の最大偏析度とは、中心偏析部における最大炭素濃度CMについての偏析度、すなわちCM/C0である。偏析面積とはC/C0>1.0である領域の面積である。炭素偏析度のばらつきとは、最大炭素濃度CMと最小炭素濃度Cmとの差CM−Cmである。
【0053】
【表2】

【0054】
2−1.試験A〜Fの比較
まず、比較例である試験C〜Fの結果について説明する。表2に示すように、片孔の浸漬ノズルを2本使用した試験CおよびDでは、2孔の浸漬ノズルを1本使用した試験EおよびFと比較して、偏析面積および炭素の最大偏析度はいずれも小さく、良好な値であったものの、中心偏析がわずかに残存し、中心偏析の皆無化には至らなかった。
【0055】
試験Cおよび試験Dで中心偏析がわずかに残存した理由は、試験Cでは溶鋼とともにArガスを流さなかったこと、試験Dでは溶鋼とともにArガスを流さなかったことに加えて溶鋼の吐出流の鉛直下向き方向への傾斜が過剰であったことから、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流がゆらぎを伴うこととなり、溶鋼の凝固が不均一であったためと考えられる。
【0056】
これらの比較例に対して、本発明例である試験AおよびBは、中心偏析は確認されず、また、炭素の最大偏析度および炭素偏析度のばらつきも小さかった。
【0057】
2−2.試験A、GおよびHの比較
さらに、対向する浸漬ノズルからの吐出流を鋳型の幅方向に対して偏向させた場合について説明する。本発明例である試験Aと試験Gを比較すると、いずれも中心偏析が確認されなかったことに加え、偏向させた試験Gでは、偏向させなかった試験Aと比較して、炭素の最大偏析度が小さく、炭素偏析度のばらつきも小さかった。これは、対向する浸漬ノズルからの吐出流を全て衝突させず、互いにわずかに逃がすことで、鋳片の幅方向により均一な溶鋼の下降流を形成できたためである。
【0058】
一方、比較例である試験Hでは、中心偏析が存在していた。これは、偏向角度が大きすぎたため、溶鋼の下降流の均一性が乱れたためである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の鋳片の連続鋳造方法によれば、浸漬ノズルからの溶鋼吐出流によって形成される鋳片内流動を制御することにより、鋳片幅方向の未凝固部の厚さを均一とし、クレーターエンドの形状を圧下時に濃化溶鋼が残存しにくい形状に制御し、さらに、鋳片最終凝固位置における濃化溶鋼の流入を防止するのに十分な圧下量を付与することが可能であるため、全幅で中心偏析を皆無とした鋳片を得ることができる。本発明は、内部品質の良好な鋳片を容易に得られるという点で、産業上、非常に価値が高い。
【符号の説明】
【0060】
1:溶鋼、 2:鋳片、 2a:凝固シェル、 3:浸漬ノズル、 3a:吐出孔、
4:鋳型、 5:サポートロール群、 6:大径ロール、 7:小径ロール、
a1:上昇流、 a2:下降流、 a3:下降流、 b1:吐出流、 b2:上昇流、
b3:下降流、 b4:下降流、 b5:上昇流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸漬ノズルから鋳型内に溶鋼を供給し、供給した溶鋼を凝固させながら引き抜き、未凝固部を含む鋳片を凝固完了までに圧下ロールを用いて圧下する連続鋳造方法において、
前記浸漬ノズルとして、側面に溶鋼の吐出孔を1個有する浸漬ノズルを2本用い、各浸漬ノズルは前記吐出孔から吐出される溶鋼が互いに衝突するように前記鋳型の幅方向に配置されるとともに、前記吐出孔からの溶鋼の吐出方向が、鋳型内の溶鋼湯面に対して鋳込み方向下向きに5°〜25°の角度に傾斜しており、
前記各浸漬ノズルにArガスを1本当たり5NL/min以上15NL/min以下の流量で吹き込みながら、前記吐出孔からArガスが混入した溶鋼を吐出させることを特徴とする鋳片の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記各浸漬ノズルの吐出孔からの溶鋼の吐出方向は、鋳型内の溶鋼湯面に平行な方向の成分が互いに平行であり、かつ前記鋳型の幅方向に対して0°〜15°の角度に偏向していることを特徴とする請求項1に記載の鋳片の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記圧下ロールとして、鋳片を支持し、案内するロール群のうち最大の直径のものの1.5倍以上の直径を有する大径ロールを用い、圧下量を鋳片厚さの5〜20%として圧下することを特徴とする請求項1または2に記載の鋳片の連続鋳造方法。
【請求項4】
前記圧下ロールとして、鋳片を支持し、案内するロール群のうち最大の直径のものの1.5倍未満の直径を有する小径ロールを複数対用い、圧下量を鋳片厚さの5%以下として圧下することを特徴とする請求項1または2に記載の鋳片の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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