鋳造品の製造方法
【課題】金型の製品部にススを付着させて実施する鋳造法において、湯しわの発生を効果的に防止することができる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】ST01からST07までのステップによる予備実験工程により、肉厚比と湯しわ発生との相関を確定する。以降の鋳造に際しては、肉厚比と湯しわ発生との相関に最大肉厚比を適用して、肉厚比と湯しわ発生との相関に最大肉厚比を適用して、スモークの許容塗布厚さを決定し(ST09)、この厚さだけ金型にスモークを塗布し(ST10)、注湯及び離型を行う(ST11)。
【効果】スモークの塗布厚さを許容塗布厚さ以下にするので、鋳造品に湯しわが発生する心配はない。
【解決手段】ST01からST07までのステップによる予備実験工程により、肉厚比と湯しわ発生との相関を確定する。以降の鋳造に際しては、肉厚比と湯しわ発生との相関に最大肉厚比を適用して、肉厚比と湯しわ発生との相関に最大肉厚比を適用して、スモークの許容塗布厚さを決定し(ST09)、この厚さだけ金型にスモークを塗布し(ST10)、注湯及び離型を行う(ST11)。
【効果】スモークの塗布厚さを許容塗布厚さ以下にするので、鋳造品に湯しわが発生する心配はない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムシャフトの製造に好適な鋳造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型に鉄溶湯を注湯して鋳造品を得ることは広く実施されている。金型は多数回の鋳造に耐えるように耐久性が求められる。耐久性を付与する技術が各種提案されている(例えば、特許文献1(段落番号[0008])参照。)。
【0003】
特許文献1の段落番号[0008]には「銅合金製の金型1は固定型2と可動型3とからなり、これらの固定型2と可動型3の型合せ面に方案部4及びこの方案部4に続く製品部5を形成し、製品部5には中子6を臨ませている。そして、方案部4についてはアセチレンガスを燃焼させた際に生じるススを付着させた作業塗型7を施す。・・・以下省略」の記載がある。
【0004】
ススは断熱性能を発揮するため、方案部4が熱的に保護され、方案部4の耐久性が高まる。なお、特許文献1では製品部5にススを付着させていない。しかし、金型の耐久性を上げる観点から、製品部5にもススを付着することが求められる。
【0005】
本発明者らは、特許文献1の技術をカムシャフトに適用して、カムシャフトの鋳造を行った。
すなわち、金型の製品部にススを付着させた上で、注湯し、カムシャフトを得た。
このカムシャフトの部分拡大図は次の通りであった。
【0006】
図11に示すように、カムシャフト100において、小径部101に大径部102が連続している箇所(コーナ部103)に湯しわ(皺)104が発生した。この湯しわ104は、鋳造欠陥の一種で、製品品質を低下させるために、発生を防止する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−91342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金型の製品部にススを付着させて実施する鋳造法において、湯しわの発生を効果的に防止することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、実験を繰り返す中で、ススの厚さが湯しわの発生に影響していることに気付いた。そこで、ススの厚さを変更しながら、湯しわの発生具合を調べることにした。なお、このススを塗布することは、スモークを塗布するとも言うので、以下、スモークを塗布すると記す。
【0010】
スモークの塗膜厚さが大きいほど、金型保護作用が強まると考え、先ず、厚さ0.15mmのスモークを製品部に塗布した。注湯し鋳造品(カムシャフト)を得た。結果、湯しわ発生率が25%に達した。なお、湯しわ発生率は、湯しわ発生率=((湯しわが発生したサンプルの数)/(サンプルの総数))×100で定義される。
【0011】
次に、スモークの厚さを0.135mmに変更して、鋳造品を得た。結果、湯しわ発生率が13%になった。スモーク厚さを薄くすると結果が良好になることが予想される。
【0012】
そこで、スモークの厚さを0.12mmに変更して、鋳造品を得た。結果、湯しわ発生率が0%になった。
念のため、スモークの厚さを0.075mmに変更して、鋳造品を得た。結果、湯しわ発生率は0%のままであった。
【0013】
以上の値をグラフ上にプロットしたものが、図1である。
図1によれば、スモークの塗布厚さを0.12mm以下にすることで、湯しわの発生を抑制することができる。
【0014】
湯しわの発生メカニズムは、よく分かっていないが、次のように推定することができる。
図2(a)に示すように、金型10と中子11との間にキャビティ12が形成されている。金型10にはスモーク13が塗布されている。このキャビティ12へ白抜き矢印のように注湯する。
【0015】
すると、(a)の部分拡大図である(b)に示すように、キャビティに溶湯14が満たされる。金型10は水冷されているため、鍔状の軸受部15を構成する溶湯から金型10へ、Q1、Q2、Q3のように盛んに熱の移動が起こる。熱が移動する分だけ、金型10により溶湯14が冷却される。
また、一般面16を構成する溶湯からQ4のように熱の移動が起こり、第1付け根部17からQ5のように熱の移動が起こる。
【0016】
スモーク13の厚さが、厚い場合を(c)、薄い場合を(d)で説明する。
(b)のC部拡大図である(c)に示すように、スモーク13の厚さtcが大きい場合、断熱効果が高まる。すると、熱の流れQ2、Q4が小さくなる。結果、溶湯14が凝固して出来る軸受部15での殻18及び一般面16での殻19は薄くなる。
【0017】
また、第1付け根部17では豊富な溶湯14から熱が潤沢に供給されるため、厚さtcが大きいにも拘わらず熱の流れQ5は大きくなる。
Q5が大きいと殻が出来にくくなる。殻が出来にくい第1付け根部17に薄い殻が出来たとしても、この薄い殻は、殻18、殻19で引き裂かれる。すなわち、溶湯14が凝固して殻18、19になるときに体積が減少し、殻18、19が収縮するため、第1付け根部17の薄い殻が引き裂かれる。
薄い殻が割れると、溶湯14が進入して、殻の生成が増々遅れる。
【0018】
このようにして、殻18及び殻19は時間経過と共に、想像線で示すように成長し、厚さが増すが、第1付け根部17は殻の生成が極度に遅れる。この時間的遅れにより、最後に凝固する第1付け根部17に皺寄せがきて、湯しわ(図11、符号104)が生成されると推定する。
【0019】
一方、スモーク13の厚さtdが小さな(d)では、断熱効果が低下し、熱の流れQ2、Q4が大きくなるため、軸受部15での殻18及び一般面16での殻19は厚くなる。また、断熱効果が小さいため、第1付け根部17でも殻21が出来る。これらの殻18、19、21は、時間の経過と共に想像線で示すように成長する。第1付け根部17の殻21が軸受部15での殻18及び一般面16での殻19の生成からあまり遅れないで出来れば、後に殻18、19で引かれても、割れる心配はない。割れないため、第1付け根部17の殻21は順調に成長する。結果、皺の発生がなくなると推定される。
【0020】
ところで、図2(c)ではQ2に比較してQ5が大きいため不具合が発生した。このことから、Q5がQ2より大きく且つQ5とQ2の差が大きい程、第1付け根部17の殻生成に悪影響がでることが想定される。
加えて、図2(b)から明らかなように、軸受部15が薄いほど(軸方向の厚さが小さいほど)Q2は小さくなり、Q5とQ2の差が大きくなることが予想される。
【0021】
そこで、軸受部15を含むカムシャフトの鋳造を実施して、Q5とQ2の差を検討する。
図3(a)に示すカムシャフト23を鋳造により得ることにする。このカムシャフト23では、一般面16から軸受部15とカム部24とが鍔状に膨出している。
【0022】
軸受部15において、軸方向の厚さの半分は、W1である。このW1の部位を薄肉部15aと呼ぶ。また、第1付け根部17での厚さは、W2である。この厚さW2は、軸線25に対して約45°傾斜しているため厚さは大きくなる。このW2の部位を厚肉部17aと呼ぶ。
このカムシャフト23の場合、W2/W1は約3である。
肉厚比=厚肉部/薄肉部=W2/W1=約3となる。
【0023】
図から明らかなように、一般面16の肉厚も薄いため、この部位を薄肉部16aと呼ぶ。すると、厚肉部17aは、一端が薄肉部15aに繋がり、他端が薄肉部16aに繋がっている。すなわち、カムシャフト23は薄肉部15a、16aに厚肉部17aが連続する形態の鋳造品である。
【0024】
カム部24において、軸方向の厚さの半分は、W3である。また、第2付け根部26での厚さは、W4である。この厚さは、軸線25に対して約45°傾斜しているため厚さは大きくなる。W4が厚肉部の厚さとなり、W3が薄肉部の厚さとなる。
このカムシャフト23の場合、W4/W3は約2である。すなわち、肉厚比=厚肉部/薄肉部=W4/W3=約2となる。
【0025】
以上に述べたカムシャフト23を得るために、図3(b)に示す金型10を準備し、この金型10に、所定の厚さのスモーク13を塗布し、鋳造を実施した。得られたカムシャフトでの付け根部((a)、符号17、26)に湯しわが発生したか否かを調べるために、予備実験を実施した。
さらに、スモークの厚さを種々変更して、スモークの厚さと軸受部に発生する湯しわ発生率との関係を調べると共にスモークの厚さとカム部に発生する湯しわ発生率との関係を調べるために、予備実験を繰り返した。結果を、図4に示す。
【0026】
図4に示すように、軸受部では、スモークの厚さがtfを超えると、湯しわが発生し、カム部では、スモークの厚さがtgを超えると、湯しわが発生した。tgはtfより厚かった。
金型寿命を考えると、スモークの厚さは大きいほどよいが、湯しわの発生を防止する事が優先するため、スモークの厚さはtfを採用する。
【0027】
以上に述べた実験を、カムシャフトの通常生産の前に実施することが重要である。この工程を予備実験工程と呼ぶ。
この予備実験工程の後に、カムシャフトの通常生産が行われる。
この通常生産では、図4に基づいて、スモークの厚さをtfに特定すればよい。このtfがスモークの許容塗布厚さ(上限塗布厚さに相当)となる。
【0028】
すなわち、予備実験工程により、図4でのtfやtgのようなスモークの塗布厚さ(上限塗布厚さに相当)を多数取得しておく。
通常生産に当たっては、通常生産で使用する金型に存在する肉厚比を調べ、複数の肉厚比の中から最大肉厚比を定める。予め取得しておいたスモークの塗布厚さと最大肉厚比とからスモークの許容塗布厚さを特定する。
特定した許容塗布厚さに基づいて金型にスモークを塗布し、通常生産を実施すればよい。
【0029】
この知見に基づき本発明の請求項1は、次のようにまとめることができる。
本発明に係る請求項1は、薄肉部に厚肉部が連続する形態の鋳造品を鋳造するための金型にスモークを塗布するスモーク塗布工程と、前記金型へ鉄溶湯を注湯する注湯工程と、内部が未凝固で表層が殻状凝固層になった時点で鋳造品を取出す離型工程とからなる鋳造品の製造方法において、
前記厚肉部/前記薄肉部=肉厚比で肉厚比が定義され、複数種の肉厚比が含まれる予備実験用金型を準備し、この予備実験用金型へ種々の厚さの前記スモークを塗布して注湯し、前記肉厚比と湯しわの発生との相関を調べる予備実験工程を、初回の前記スモーク塗布工程の前に実施しておき、
前記スモーク塗布工程では、当該鋳造品に存在する肉厚比のうち最大肉厚比を選択し、この最大肉厚比と前記相関とからスモークの許容塗布厚さを特定し、この許容塗布厚さを上限として前記金型にスモークを塗布することを特徴とする。
【0030】
金型は、多数回の鋳造を行うことができる鋳型である。この金型に塗布したスモークは1回の鋳造で、厚さの数十%程度が剥離する。したがって、複数回の鋳造後に、重ね塗りの要領で、スモークを塗布することが必要となる。しかし、重ね塗り後のスモークの厚さが許容厚さを超えると湯しわが発生する。そこで、本発明の請求項2は、次のようにまとめることができる。
【0031】
請求項2に係る発明は、スモークの塗布は、1回の注湯工程後に又は複数回の注湯工程後に、既存のスモークの上に新しいスモークを重ねる要領で実施し、既存のスモークと新しいスモークの合計厚さが許容塗布厚さを超えないようにすることを特徴とする。
【0032】
本発明は、薄肉部に厚肉部が連続する形態の鋳造品を鋳造する技術に広く適用できるが、特にカムシャフトに有効である。
すなわち、請求項3に係る発明は、鋳造品は、一般面から軸受部やカム部が径外方へ突出しているカムシャフトであり、厚肉部は、軸受部と一般面とが交わる第1付け根部又はカム部と一般面とが交わる第2付け根部であり、薄肉部は、第1付け根部又は第2付け根部に隣接する部位であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
請求項1に係る発明では、予備実験工程で肉厚比と湯しわの発生との相関を調べておく。鋳造に際してはでは、当該鋳造品に存在する肉厚比のうち最大肉厚比を選択する。そして、肉厚比と湯しわ発生との相関に最大肉厚比を適用して、スモークの許容塗布厚さを特定し、この許容塗布厚さを上限として金型にスモークを塗布する。
【0034】
仮に、許容塗布厚さを超えて金型にスモークを塗布すると鋳造品に湯しわが発生する虞がある。
本発明では、スモークの塗布厚さを許容塗布厚さ以下にするので、鋳造品に湯しわが発生する心配はない。
【0035】
請求項2に係る発明では、既存のスモークの上に新しいスモークを重ねるときには、既存のスモークと新しいスモークの合計厚さが許容塗布厚さを超えないようにする。重ね塗りする場合であっても、重ね後のスモークの塗布厚さを許容塗布厚さ以下にするので、鋳造品に湯しわが発生する心配はない。
【0036】
請求項3に係る発明では、鋳造品はカムシャフトである。カムシャフトは一般面に軸受部又はカム部が繋がるため、形状が複雑で鋳造欠陥がでやすい。本発明を適用することで、容易に湯しわの発生を防止することができ、良質なカムシャフトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】スモーク厚さと湯しわ発生率の関係を示すグラフである。
【図2】湯しわの発生メカニズムを説明する図である。
【図3】肉厚比を説明する図及び金型の断面図である。
【図4】軸受部とカム部における湯しわ発生率を示すグラフである。
【図5】本発明に係る鋳造品の製造フロー図である。
【図6】製造フロー図の補足説明図である。
【図7】湯しわの有無をプロットしたグラフである。
【図8】図7の一部を抜き書きしたグラフである。
【図9】最大肉厚比と許容塗布厚さとの相関を示すグラフである。
【図10】鋳造工程で使用する金型の部分断面図である。
【図11】従来の鋳造品に発生する皺を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0039】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図5に示されるように、予備実験用金型を準備する(ST01)。例えば、図6に示すような予備実験用金型30を準備する。この金型30には、(W2/W1)、(W4/W3)、(W6/W5)の三種類の肉厚比が存在する。
【0040】
この予備実験用金型30に厚さt1のスモークを塗布する(ST02)。この金型へ注湯する(ST03)。得られた鋳造品に湯しわが有るか否かを調べる(ST04)。この調査では、各部における肉厚比(W2/W1)、(W4/W3)、(W6/W5)と、スモークの厚さt1と、湯しわの有無とを記録する。
【0041】
予備実験はスモークの厚さを変えて複数回実施する必要がある。そこで、ST06にてスモークの厚さをt2に変更する。そして、注湯し(ST03)、各部における肉厚比(W2/W1)、(W4/W3)、(W6/W5)と、スモークの厚さt2と、湯しわの有無とを記録する(ST04)。
同様のことを、スモークの厚さt3、t4・・・tnに変えて実施する。
【0042】
所定の回数が終わったら、ST05からST07へ進む。ST07では、ST04で記録した多数回の情報から、肉厚比と湯しわ発生との相関を確定する。
例えば、図7に示すように、肉厚比とスモーク厚さとのグラフに、湯しわが発生していた予備実験に対しては×を記し、湯しわが発生していない予備実験には○を記す。これらの○のうちで×に最も近いものを(○)とする。
【0043】
そして、図8に示すように、複数個の(○)を直線又は曲線で結ぶ。
さらに、横軸を最大肉厚比、縦軸を許容塗布厚さに変えることで図9を得る。この図9が、確定した相関グラフとなる。この相関グラフは、相関式、テーブルであってもよく、形態は任意である。
【0044】
以上に説明した図5のST01からST07までが予備実験工程となる。
次に、鋳造工程を説明する。
図5のST08にて、鋳造工程に供する鋳造品における最大肉厚比を調べる。例えば、図10に示す金型10において、最大肉厚比がW8/W7であったとする。
ST09にて、最大肉厚比(W8/W7)を、図9に当て嵌めて、許容塗布厚さtmを決定する。ST10にて、金型に厚さtmのスモークを塗布する。次に、注湯し、表面が固まったら離型する(ST11)。
【0045】
鋳造工程を継続する場合は、次の二つの形態が考えられる。一つは金型を替えないで且つスモークの再塗布を行わないで、鋳造を繰り返す。この場合は、鋳造品の肉厚比に変更がないので、ST12→ST13→ST11と進んで鋳造を繰り返す。
【0046】
他の一つは、類似した鋳造品を得るために、金型を替えて鋳造を行う。類似しているが肉厚比は変わっているので、ST12→ST13→ST08と進んで、ST09で許容塗布厚さを決定し直す。そして、ST10→ST11と進んで類似品の鋳造を実施する。
【0047】
複数回のスモーク塗布工程(ST08〜ST10)に対して、予備実験工程は1回だけ行えばよい。図9が繰り返し使用可能であるからである。
【0048】
(実験例)
本発明に係る実験例を以下に述べる。なお、本発明は実験例に限定されるものではない。
【0049】
・溶湯の成分:
C(炭素):2.5〜3.3質量%、Si(珪素):4.0〜5.0質量%、Mn(マンガン):0.4質量%以下、P(リン):0.1質量%以下、S(硫黄):0.02質量%以下、Mg(マグネシウム):0.005〜0.025質量%、Fe(鉄)及び不可避的不純物:残部
【0050】
・金型:
長さが300mmのカムシャフトを鋳造することができる、水冷構造の銅合金金型
【0051】
・離型要領:
溶湯が金型で急冷されるため、6〜10秒で、表面に白銑(チル)組織の凝固殻ができる。そこで、6〜10秒後に離型する。
なお、内部は未凝固のままであるが、離型後に凝固する。
【0052】
以上の溶湯と金型を用い、この金型に図9に基づく厚さのスモークを塗布し、鋳造を行ったところ、湯しわが無いカムシャフトを得ることができた。
【0053】
尚、本発明は、カムシャフトの鋳造に好適であるが、肉厚さが存在する鋳造品に広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、カムシャフトの鋳造に好適である。
【符号の説明】
【0055】
10…金型、11…中子、12…キャビティ、13…スモーク、14…溶湯、15…軸受部、15a、16a…薄肉部、16…一般面、17…第1付け根部、17a…厚肉部、18、19、21…凝固によって生成される殻、23…カムシャフト、24…カム部、26…第2付け根部、30…予備実験用金型。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムシャフトの製造に好適な鋳造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型に鉄溶湯を注湯して鋳造品を得ることは広く実施されている。金型は多数回の鋳造に耐えるように耐久性が求められる。耐久性を付与する技術が各種提案されている(例えば、特許文献1(段落番号[0008])参照。)。
【0003】
特許文献1の段落番号[0008]には「銅合金製の金型1は固定型2と可動型3とからなり、これらの固定型2と可動型3の型合せ面に方案部4及びこの方案部4に続く製品部5を形成し、製品部5には中子6を臨ませている。そして、方案部4についてはアセチレンガスを燃焼させた際に生じるススを付着させた作業塗型7を施す。・・・以下省略」の記載がある。
【0004】
ススは断熱性能を発揮するため、方案部4が熱的に保護され、方案部4の耐久性が高まる。なお、特許文献1では製品部5にススを付着させていない。しかし、金型の耐久性を上げる観点から、製品部5にもススを付着することが求められる。
【0005】
本発明者らは、特許文献1の技術をカムシャフトに適用して、カムシャフトの鋳造を行った。
すなわち、金型の製品部にススを付着させた上で、注湯し、カムシャフトを得た。
このカムシャフトの部分拡大図は次の通りであった。
【0006】
図11に示すように、カムシャフト100において、小径部101に大径部102が連続している箇所(コーナ部103)に湯しわ(皺)104が発生した。この湯しわ104は、鋳造欠陥の一種で、製品品質を低下させるために、発生を防止する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−91342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金型の製品部にススを付着させて実施する鋳造法において、湯しわの発生を効果的に防止することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、実験を繰り返す中で、ススの厚さが湯しわの発生に影響していることに気付いた。そこで、ススの厚さを変更しながら、湯しわの発生具合を調べることにした。なお、このススを塗布することは、スモークを塗布するとも言うので、以下、スモークを塗布すると記す。
【0010】
スモークの塗膜厚さが大きいほど、金型保護作用が強まると考え、先ず、厚さ0.15mmのスモークを製品部に塗布した。注湯し鋳造品(カムシャフト)を得た。結果、湯しわ発生率が25%に達した。なお、湯しわ発生率は、湯しわ発生率=((湯しわが発生したサンプルの数)/(サンプルの総数))×100で定義される。
【0011】
次に、スモークの厚さを0.135mmに変更して、鋳造品を得た。結果、湯しわ発生率が13%になった。スモーク厚さを薄くすると結果が良好になることが予想される。
【0012】
そこで、スモークの厚さを0.12mmに変更して、鋳造品を得た。結果、湯しわ発生率が0%になった。
念のため、スモークの厚さを0.075mmに変更して、鋳造品を得た。結果、湯しわ発生率は0%のままであった。
【0013】
以上の値をグラフ上にプロットしたものが、図1である。
図1によれば、スモークの塗布厚さを0.12mm以下にすることで、湯しわの発生を抑制することができる。
【0014】
湯しわの発生メカニズムは、よく分かっていないが、次のように推定することができる。
図2(a)に示すように、金型10と中子11との間にキャビティ12が形成されている。金型10にはスモーク13が塗布されている。このキャビティ12へ白抜き矢印のように注湯する。
【0015】
すると、(a)の部分拡大図である(b)に示すように、キャビティに溶湯14が満たされる。金型10は水冷されているため、鍔状の軸受部15を構成する溶湯から金型10へ、Q1、Q2、Q3のように盛んに熱の移動が起こる。熱が移動する分だけ、金型10により溶湯14が冷却される。
また、一般面16を構成する溶湯からQ4のように熱の移動が起こり、第1付け根部17からQ5のように熱の移動が起こる。
【0016】
スモーク13の厚さが、厚い場合を(c)、薄い場合を(d)で説明する。
(b)のC部拡大図である(c)に示すように、スモーク13の厚さtcが大きい場合、断熱効果が高まる。すると、熱の流れQ2、Q4が小さくなる。結果、溶湯14が凝固して出来る軸受部15での殻18及び一般面16での殻19は薄くなる。
【0017】
また、第1付け根部17では豊富な溶湯14から熱が潤沢に供給されるため、厚さtcが大きいにも拘わらず熱の流れQ5は大きくなる。
Q5が大きいと殻が出来にくくなる。殻が出来にくい第1付け根部17に薄い殻が出来たとしても、この薄い殻は、殻18、殻19で引き裂かれる。すなわち、溶湯14が凝固して殻18、19になるときに体積が減少し、殻18、19が収縮するため、第1付け根部17の薄い殻が引き裂かれる。
薄い殻が割れると、溶湯14が進入して、殻の生成が増々遅れる。
【0018】
このようにして、殻18及び殻19は時間経過と共に、想像線で示すように成長し、厚さが増すが、第1付け根部17は殻の生成が極度に遅れる。この時間的遅れにより、最後に凝固する第1付け根部17に皺寄せがきて、湯しわ(図11、符号104)が生成されると推定する。
【0019】
一方、スモーク13の厚さtdが小さな(d)では、断熱効果が低下し、熱の流れQ2、Q4が大きくなるため、軸受部15での殻18及び一般面16での殻19は厚くなる。また、断熱効果が小さいため、第1付け根部17でも殻21が出来る。これらの殻18、19、21は、時間の経過と共に想像線で示すように成長する。第1付け根部17の殻21が軸受部15での殻18及び一般面16での殻19の生成からあまり遅れないで出来れば、後に殻18、19で引かれても、割れる心配はない。割れないため、第1付け根部17の殻21は順調に成長する。結果、皺の発生がなくなると推定される。
【0020】
ところで、図2(c)ではQ2に比較してQ5が大きいため不具合が発生した。このことから、Q5がQ2より大きく且つQ5とQ2の差が大きい程、第1付け根部17の殻生成に悪影響がでることが想定される。
加えて、図2(b)から明らかなように、軸受部15が薄いほど(軸方向の厚さが小さいほど)Q2は小さくなり、Q5とQ2の差が大きくなることが予想される。
【0021】
そこで、軸受部15を含むカムシャフトの鋳造を実施して、Q5とQ2の差を検討する。
図3(a)に示すカムシャフト23を鋳造により得ることにする。このカムシャフト23では、一般面16から軸受部15とカム部24とが鍔状に膨出している。
【0022】
軸受部15において、軸方向の厚さの半分は、W1である。このW1の部位を薄肉部15aと呼ぶ。また、第1付け根部17での厚さは、W2である。この厚さW2は、軸線25に対して約45°傾斜しているため厚さは大きくなる。このW2の部位を厚肉部17aと呼ぶ。
このカムシャフト23の場合、W2/W1は約3である。
肉厚比=厚肉部/薄肉部=W2/W1=約3となる。
【0023】
図から明らかなように、一般面16の肉厚も薄いため、この部位を薄肉部16aと呼ぶ。すると、厚肉部17aは、一端が薄肉部15aに繋がり、他端が薄肉部16aに繋がっている。すなわち、カムシャフト23は薄肉部15a、16aに厚肉部17aが連続する形態の鋳造品である。
【0024】
カム部24において、軸方向の厚さの半分は、W3である。また、第2付け根部26での厚さは、W4である。この厚さは、軸線25に対して約45°傾斜しているため厚さは大きくなる。W4が厚肉部の厚さとなり、W3が薄肉部の厚さとなる。
このカムシャフト23の場合、W4/W3は約2である。すなわち、肉厚比=厚肉部/薄肉部=W4/W3=約2となる。
【0025】
以上に述べたカムシャフト23を得るために、図3(b)に示す金型10を準備し、この金型10に、所定の厚さのスモーク13を塗布し、鋳造を実施した。得られたカムシャフトでの付け根部((a)、符号17、26)に湯しわが発生したか否かを調べるために、予備実験を実施した。
さらに、スモークの厚さを種々変更して、スモークの厚さと軸受部に発生する湯しわ発生率との関係を調べると共にスモークの厚さとカム部に発生する湯しわ発生率との関係を調べるために、予備実験を繰り返した。結果を、図4に示す。
【0026】
図4に示すように、軸受部では、スモークの厚さがtfを超えると、湯しわが発生し、カム部では、スモークの厚さがtgを超えると、湯しわが発生した。tgはtfより厚かった。
金型寿命を考えると、スモークの厚さは大きいほどよいが、湯しわの発生を防止する事が優先するため、スモークの厚さはtfを採用する。
【0027】
以上に述べた実験を、カムシャフトの通常生産の前に実施することが重要である。この工程を予備実験工程と呼ぶ。
この予備実験工程の後に、カムシャフトの通常生産が行われる。
この通常生産では、図4に基づいて、スモークの厚さをtfに特定すればよい。このtfがスモークの許容塗布厚さ(上限塗布厚さに相当)となる。
【0028】
すなわち、予備実験工程により、図4でのtfやtgのようなスモークの塗布厚さ(上限塗布厚さに相当)を多数取得しておく。
通常生産に当たっては、通常生産で使用する金型に存在する肉厚比を調べ、複数の肉厚比の中から最大肉厚比を定める。予め取得しておいたスモークの塗布厚さと最大肉厚比とからスモークの許容塗布厚さを特定する。
特定した許容塗布厚さに基づいて金型にスモークを塗布し、通常生産を実施すればよい。
【0029】
この知見に基づき本発明の請求項1は、次のようにまとめることができる。
本発明に係る請求項1は、薄肉部に厚肉部が連続する形態の鋳造品を鋳造するための金型にスモークを塗布するスモーク塗布工程と、前記金型へ鉄溶湯を注湯する注湯工程と、内部が未凝固で表層が殻状凝固層になった時点で鋳造品を取出す離型工程とからなる鋳造品の製造方法において、
前記厚肉部/前記薄肉部=肉厚比で肉厚比が定義され、複数種の肉厚比が含まれる予備実験用金型を準備し、この予備実験用金型へ種々の厚さの前記スモークを塗布して注湯し、前記肉厚比と湯しわの発生との相関を調べる予備実験工程を、初回の前記スモーク塗布工程の前に実施しておき、
前記スモーク塗布工程では、当該鋳造品に存在する肉厚比のうち最大肉厚比を選択し、この最大肉厚比と前記相関とからスモークの許容塗布厚さを特定し、この許容塗布厚さを上限として前記金型にスモークを塗布することを特徴とする。
【0030】
金型は、多数回の鋳造を行うことができる鋳型である。この金型に塗布したスモークは1回の鋳造で、厚さの数十%程度が剥離する。したがって、複数回の鋳造後に、重ね塗りの要領で、スモークを塗布することが必要となる。しかし、重ね塗り後のスモークの厚さが許容厚さを超えると湯しわが発生する。そこで、本発明の請求項2は、次のようにまとめることができる。
【0031】
請求項2に係る発明は、スモークの塗布は、1回の注湯工程後に又は複数回の注湯工程後に、既存のスモークの上に新しいスモークを重ねる要領で実施し、既存のスモークと新しいスモークの合計厚さが許容塗布厚さを超えないようにすることを特徴とする。
【0032】
本発明は、薄肉部に厚肉部が連続する形態の鋳造品を鋳造する技術に広く適用できるが、特にカムシャフトに有効である。
すなわち、請求項3に係る発明は、鋳造品は、一般面から軸受部やカム部が径外方へ突出しているカムシャフトであり、厚肉部は、軸受部と一般面とが交わる第1付け根部又はカム部と一般面とが交わる第2付け根部であり、薄肉部は、第1付け根部又は第2付け根部に隣接する部位であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
請求項1に係る発明では、予備実験工程で肉厚比と湯しわの発生との相関を調べておく。鋳造に際してはでは、当該鋳造品に存在する肉厚比のうち最大肉厚比を選択する。そして、肉厚比と湯しわ発生との相関に最大肉厚比を適用して、スモークの許容塗布厚さを特定し、この許容塗布厚さを上限として金型にスモークを塗布する。
【0034】
仮に、許容塗布厚さを超えて金型にスモークを塗布すると鋳造品に湯しわが発生する虞がある。
本発明では、スモークの塗布厚さを許容塗布厚さ以下にするので、鋳造品に湯しわが発生する心配はない。
【0035】
請求項2に係る発明では、既存のスモークの上に新しいスモークを重ねるときには、既存のスモークと新しいスモークの合計厚さが許容塗布厚さを超えないようにする。重ね塗りする場合であっても、重ね後のスモークの塗布厚さを許容塗布厚さ以下にするので、鋳造品に湯しわが発生する心配はない。
【0036】
請求項3に係る発明では、鋳造品はカムシャフトである。カムシャフトは一般面に軸受部又はカム部が繋がるため、形状が複雑で鋳造欠陥がでやすい。本発明を適用することで、容易に湯しわの発生を防止することができ、良質なカムシャフトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】スモーク厚さと湯しわ発生率の関係を示すグラフである。
【図2】湯しわの発生メカニズムを説明する図である。
【図3】肉厚比を説明する図及び金型の断面図である。
【図4】軸受部とカム部における湯しわ発生率を示すグラフである。
【図5】本発明に係る鋳造品の製造フロー図である。
【図6】製造フロー図の補足説明図である。
【図7】湯しわの有無をプロットしたグラフである。
【図8】図7の一部を抜き書きしたグラフである。
【図9】最大肉厚比と許容塗布厚さとの相関を示すグラフである。
【図10】鋳造工程で使用する金型の部分断面図である。
【図11】従来の鋳造品に発生する皺を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0039】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図5に示されるように、予備実験用金型を準備する(ST01)。例えば、図6に示すような予備実験用金型30を準備する。この金型30には、(W2/W1)、(W4/W3)、(W6/W5)の三種類の肉厚比が存在する。
【0040】
この予備実験用金型30に厚さt1のスモークを塗布する(ST02)。この金型へ注湯する(ST03)。得られた鋳造品に湯しわが有るか否かを調べる(ST04)。この調査では、各部における肉厚比(W2/W1)、(W4/W3)、(W6/W5)と、スモークの厚さt1と、湯しわの有無とを記録する。
【0041】
予備実験はスモークの厚さを変えて複数回実施する必要がある。そこで、ST06にてスモークの厚さをt2に変更する。そして、注湯し(ST03)、各部における肉厚比(W2/W1)、(W4/W3)、(W6/W5)と、スモークの厚さt2と、湯しわの有無とを記録する(ST04)。
同様のことを、スモークの厚さt3、t4・・・tnに変えて実施する。
【0042】
所定の回数が終わったら、ST05からST07へ進む。ST07では、ST04で記録した多数回の情報から、肉厚比と湯しわ発生との相関を確定する。
例えば、図7に示すように、肉厚比とスモーク厚さとのグラフに、湯しわが発生していた予備実験に対しては×を記し、湯しわが発生していない予備実験には○を記す。これらの○のうちで×に最も近いものを(○)とする。
【0043】
そして、図8に示すように、複数個の(○)を直線又は曲線で結ぶ。
さらに、横軸を最大肉厚比、縦軸を許容塗布厚さに変えることで図9を得る。この図9が、確定した相関グラフとなる。この相関グラフは、相関式、テーブルであってもよく、形態は任意である。
【0044】
以上に説明した図5のST01からST07までが予備実験工程となる。
次に、鋳造工程を説明する。
図5のST08にて、鋳造工程に供する鋳造品における最大肉厚比を調べる。例えば、図10に示す金型10において、最大肉厚比がW8/W7であったとする。
ST09にて、最大肉厚比(W8/W7)を、図9に当て嵌めて、許容塗布厚さtmを決定する。ST10にて、金型に厚さtmのスモークを塗布する。次に、注湯し、表面が固まったら離型する(ST11)。
【0045】
鋳造工程を継続する場合は、次の二つの形態が考えられる。一つは金型を替えないで且つスモークの再塗布を行わないで、鋳造を繰り返す。この場合は、鋳造品の肉厚比に変更がないので、ST12→ST13→ST11と進んで鋳造を繰り返す。
【0046】
他の一つは、類似した鋳造品を得るために、金型を替えて鋳造を行う。類似しているが肉厚比は変わっているので、ST12→ST13→ST08と進んで、ST09で許容塗布厚さを決定し直す。そして、ST10→ST11と進んで類似品の鋳造を実施する。
【0047】
複数回のスモーク塗布工程(ST08〜ST10)に対して、予備実験工程は1回だけ行えばよい。図9が繰り返し使用可能であるからである。
【0048】
(実験例)
本発明に係る実験例を以下に述べる。なお、本発明は実験例に限定されるものではない。
【0049】
・溶湯の成分:
C(炭素):2.5〜3.3質量%、Si(珪素):4.0〜5.0質量%、Mn(マンガン):0.4質量%以下、P(リン):0.1質量%以下、S(硫黄):0.02質量%以下、Mg(マグネシウム):0.005〜0.025質量%、Fe(鉄)及び不可避的不純物:残部
【0050】
・金型:
長さが300mmのカムシャフトを鋳造することができる、水冷構造の銅合金金型
【0051】
・離型要領:
溶湯が金型で急冷されるため、6〜10秒で、表面に白銑(チル)組織の凝固殻ができる。そこで、6〜10秒後に離型する。
なお、内部は未凝固のままであるが、離型後に凝固する。
【0052】
以上の溶湯と金型を用い、この金型に図9に基づく厚さのスモークを塗布し、鋳造を行ったところ、湯しわが無いカムシャフトを得ることができた。
【0053】
尚、本発明は、カムシャフトの鋳造に好適であるが、肉厚さが存在する鋳造品に広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、カムシャフトの鋳造に好適である。
【符号の説明】
【0055】
10…金型、11…中子、12…キャビティ、13…スモーク、14…溶湯、15…軸受部、15a、16a…薄肉部、16…一般面、17…第1付け根部、17a…厚肉部、18、19、21…凝固によって生成される殻、23…カムシャフト、24…カム部、26…第2付け根部、30…予備実験用金型。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉部に厚肉部が連続する形態の鋳造品を鋳造するための金型にスモークを塗布するスモーク塗布工程と、前記金型へ鉄溶湯を注湯する注湯工程と、内部が未凝固で表層が殻状凝固層になった時点で鋳造品を取出す離型工程とからなる鋳造品の製造方法において、
前記厚肉部/前記薄肉部=肉厚比で肉厚比が定義され、複数種の肉厚比が含まれる予備実験用金型を準備し、この予備実験用金型へ種々の厚さの前記スモークを塗布して注湯し、前記肉厚比と湯しわの発生との相関を調べる予備実験工程を、初回の前記スモーク塗布工程の前に実施しておき、
前記スモーク塗布工程では、当該鋳造品に存在する肉厚比のうち最大肉厚比を選択し、この最大肉厚比と前記相関とからスモークの許容塗布厚さを特定し、この許容塗布厚さを上限として前記金型にスモークを塗布することを特徴とする鋳造品の製造方法。
【請求項2】
前記スモークの塗布は、1回の前記注湯工程後に又は複数回の前記注湯工程後に、既存のスモークの上に新しいスモークを重ねる要領で実施し、
既存のスモークと新しいスモークの合計厚さが前記許容塗布厚さを超えないようにすることを特徴とする請求項1記載の鋳造品の製造方法。
【請求項3】
前記鋳造品は、一般面から軸受部やカム部が径外方へ突出しているカムシャフトであり、前記厚肉部は、前記軸受部と前記一般面とが交わる第1付け根部又は前記カム部と前記一般面とが交わる第2付け根部であり、前記薄肉部は、前記第1付け根部又は第2付け根部に隣接する部位であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の鋳造品の製造方法。
【請求項1】
薄肉部に厚肉部が連続する形態の鋳造品を鋳造するための金型にスモークを塗布するスモーク塗布工程と、前記金型へ鉄溶湯を注湯する注湯工程と、内部が未凝固で表層が殻状凝固層になった時点で鋳造品を取出す離型工程とからなる鋳造品の製造方法において、
前記厚肉部/前記薄肉部=肉厚比で肉厚比が定義され、複数種の肉厚比が含まれる予備実験用金型を準備し、この予備実験用金型へ種々の厚さの前記スモークを塗布して注湯し、前記肉厚比と湯しわの発生との相関を調べる予備実験工程を、初回の前記スモーク塗布工程の前に実施しておき、
前記スモーク塗布工程では、当該鋳造品に存在する肉厚比のうち最大肉厚比を選択し、この最大肉厚比と前記相関とからスモークの許容塗布厚さを特定し、この許容塗布厚さを上限として前記金型にスモークを塗布することを特徴とする鋳造品の製造方法。
【請求項2】
前記スモークの塗布は、1回の前記注湯工程後に又は複数回の前記注湯工程後に、既存のスモークの上に新しいスモークを重ねる要領で実施し、
既存のスモークと新しいスモークの合計厚さが前記許容塗布厚さを超えないようにすることを特徴とする請求項1記載の鋳造品の製造方法。
【請求項3】
前記鋳造品は、一般面から軸受部やカム部が径外方へ突出しているカムシャフトであり、前記厚肉部は、前記軸受部と前記一般面とが交わる第1付け根部又は前記カム部と前記一般面とが交わる第2付け根部であり、前記薄肉部は、前記第1付け根部又は第2付け根部に隣接する部位であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の鋳造品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−30255(P2012−30255A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172273(P2010−172273)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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