説明

鋳造方法および鋳造装置

【課題】長尺状のワークを起立させかつ複数並列配置した状態で一つの鋳造型を用いて鋳造する際に、焼き付きなどの鋳造不良を防止する。
【解決手段】エンジンのカムシャフト3を起立させかつ複数並列配置した状態で一つの鋳造型1を用いて鋳造する。鋳造型1のカムシャフト3を成形する複数のキャビティ5の並列配置方向一端側の上部に溶湯注入口となるスワール11を設ける。スワール11は、スプール15などを経て湯道7に連通し、湯道7に各キャビティ5の上端が連通する。湯道7のスワール11と反対側の端部の上部にガス抜き穴23を設け、このガス抜き穴23がスワール11側よりも鉛直方向上方となるよう鋳造型1を傾けた状態で、スワール11から溶湯を注入して鋳造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺状のワークを起立させかつ複数並列配置した状態で一つの鋳造型を用いて鋳造する鋳造方法および鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、長尺ワークとして例えば鋳鉄製エンジンカムシャフトを鋳造する際に、カムシャフトを起立させた状態で鋳造する鋳込み方法が採用されている(例えば下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−29054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記したような鋳込み方法において、一つの鋳造型を用い、カムシャフトを複数、例えば10本程度並べて同時に鋳造する際には、この複数のカムシャフトを成形するためのキャビティの配列方向端部に設けた溶湯注入口から溶湯を注入すると、鋳造型内にガスが巻き込むことで排圧が作用し、注入された溶湯に圧力が作用してキャビティ下方に焼き付きが発生するなど、鋳造不良が発生する。また、注入した溶湯が、ガスの巻き込みによって複数のキャビティの配列方向に沿って順序よく流れていかず、先走った溶湯が、キャビティ内面を荒らし、焼き付きの原因となる。
【0004】
そこで、本発明は、長尺状のワークを起立させかつ複数並列配置した状態で一つの鋳造型を用いて鋳造する際に、焼き付きなどの鋳造不良を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、長尺状のワークを起立させかつ複数並列配置した状態で一つの鋳造型を用いて鋳造する鋳造方法において、前記鋳造型の前記ワークを成形するキャビティの並列配置方向一端側の鉛直方向上部に溶湯注入口を設け、同他端側の鉛直方向上部にガス抜き穴を設け、このガス抜き穴を設けた他端側が前記一端側に対して鉛直方向上方となるよう前記鋳造型を傾けた状態で、前記溶湯注入口から溶湯を注入して鋳造することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、溶湯注入口から溶湯を注入する際には、鋳造型を傾けることで、溶湯注入口と反対側の端部に設けたガス抜き穴からガスが放出されるので、鋳造型内での排圧の発生を抑えて溶湯への圧力付与を回避することができ、キャビティ下方での焼き付きを防止することができる。また、注入された溶湯が、ガスの放出に伴ってキャビティに対して並列配置方向に沿って順次流れて行くので、各キャビティへの溶湯の充填が効率よくなされ、焼き付きを発生させることなく鋳造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0008】
図1は、本発明の一実施形態に係わる、シェルモールド法により造型した鋳造型1の内部構造図で、この一つの鋳造型1により、長尺状のワークであるエンジンのカムシャフト3を起立させかつ複数(ここでは10本)並列配置した状態で鋳造する。
【0009】
上記した各カムシャフト3を成形するためのキャビティ5の鉛直方向上端部相互を、図1中で左右方向に延びる湯道7で連通する。湯道7は、鋳造型1の鉛直方向上部位置にて図1中で左右方向に延びており、その左側端部に対応する位置の鋳造型1の鉛直方向上部に、同上方に突出する突出部9を設け、この突出部9に溶湯注入口としてのスプール11を設けている。
【0010】
なお、以下の説明で、上部,下部など上下についての記載がある場合には、特に断りがない限り、鉛直方向上下についてのものとする。
【0011】
スプール11は、内部の形状が下部側ほど先細であって、下部側の側部に水平に延びる連通路13の一端を接続し、連通路13の他端をスワール15に接続する。上記したスプール11の周辺部分を示す鋳造型1の平面図である図2に示すように、スプール11は、開口部分が楕円形状を呈し、この楕円形状の開口部分から下部に向けて先細となり、かつ連通路13に近い側に、連通路13に連通する開口部11aを設けている。
【0012】
スワール15は、全体がほぼ円筒形状を呈し、その上端側部に連通路13を接続し、スプール11から連通路13を経て導入される溶湯を渦巻き状に旋回させ、溶湯中の異物(酸化物や成分調整用の合金粕)を浮き上がらせる。
【0013】
上記したスプール15の上端には、溶湯注入側ガス抜き穴17を設けている。また、スプール15の底部には異物捕捉用の図示しないフィルタを収容している。
【0014】
一方、スプール15の下部には、ハンガランナ19の上端を連通している。ハンガランナ19は、成形後の鋳造品を後述する搬送用ハンガーによって引っかけて搬送するため機能を備えている。また、ハンガランナ19は、鋳造型1の下端付近にまで直線状に延びており、スプール15から流入する初期の汚れた溶湯を閉じこめる機能を備えている。
【0015】
上記したハンガランナ19のスプール15近傍と、前記した湯道7の一端側とを、湯道連通路21により互いに連通している。このとき、湯道7は、スプール15の底部と上下方向位置がほぼ同等であり、このため、湯道連通路21は、ハンガランナ19から湯道7に向けて上昇するよう傾斜している。
【0016】
そして、上記したスワール11を一端側に備えている湯道7の他端側の上部に、ガス抜き穴23を設けている。
【0017】
上記したような鋳造型1を用いてカムシャフト3を鋳造成形する際には、鋳造型1を、図3に示す搬送ライン25に沿って矢印Gで示す方向に搬送しつつ行う。この際搬送ライン25には、上記した鋳造型1のほか、例えば図4に示すような鋳造型1Aなど、鋳造型1とは異なる形状の各種の鋳造型が混流して搬送される。
【0018】
図4の鋳造型1Aは、図1の鋳造型1より少ない5本のカムシャフト3を水平に寝かせた状態で鋳造するものであり、スワール11Aから注入する溶湯は、スプール15Aを経て上下に延びる湯道7Aに流れた後、5本のカムシャフト3Aを成形する各キャビティ5Aに流入する。
【0019】
なお、搬送ライン25を流れる鋳造型は、鋳造型1を含み上記した鋳造型1Aなど平均して4〜6種類であり、1種類12〜20の単位で切り替える。
【0020】
搬送ライン25には、図5に示す搬送レール27がその全長にわたり施設され、この搬送レール27上を搬送手段としての複数の走行台車29が、互いに連結した状態で図示しない駆動機構によって走行する。各走行台車29上には、搬送台車としてのモールド台車31を設置し、モールド台車31には、前記した鋳造型1や、鋳造型1Aなど鋳造型1と形状の異なる各種の鋳造型を、1台のモールド台車31につき二つ載せている。ただし、1台のモールド台車31には同一の形状の鋳造型を二つ載せるものとする。
【0021】
次に、前記図3に示した搬送ライン25における製造工程について順を追って説明する。なお、以後の説明では、鋳造型として図1に示した鋳造型1を用いるものとする。
【0022】
工程Aは、鋳造型1を搬送ライン25の外部からモールド台車31に投入する工程、工程Bは、投入した鋳造型1を傾ける工程、工程Cは、傾けた状態の鋳造型1をモールド台車31上でクランプ固定する工程、工程Dは、クランプ固定した状態の鋳造型1に溶湯を注入する固定、工程Eは、溶湯注入後の鋳造型1をアンクランプする工程、工程Fは、アンクランプした鋳造型1を搬送ライン25の外部に押し出す工程、である。
【0023】
図6は、鋳型投入工程Aからクランプ工程Eにわたる領域全体を示す平面図で、鋳型投入工程Aは、搬送ライン25の側部に、鋳型投入装置33と、この鋳型投入装置33に鋳造型1を搬送する鋳型搬送装置35をそれぞれ設置している。
【0024】
図7は、上記した鋳型投入装置33および鋳型搬送装置35の、鋳型搬送装置35側から見た斜視図、図8は同側面図である。鋳型搬送装置35は、図示しない鋳型造型工程でシェルモールド法により造型した鋳造型1が投入される第1ローラコンベア37と、第1ローラコンベア37と鋳型投入装置33との間に設置され、第1ローラコンベア37から搬送されてくる鋳造型1を受け入れる第2ローラコンベア39とをそれぞれ備えている。
【0025】
第1ローラコンベア37は、両側部に設置した一対のローラ支持枠37aが複数のパワーローラ37bを回転可能に支持し、第2ローラコンベア39は、両側部に設置した一対のローラ支持枠39aが複数のパワーローラ39bを回転可能に支持している。上記した第1,第各パワーローラ37b,39bは、図示しないモータなどの駆動機構によって回転駆動する。
【0026】
また、第2ローラコンベア39は、図7では省略しているが、図8に示すように下部に設けた昇降用シリンダ41によって昇降可能であるとともに、第1ローラコンベア37から送り込まれた鋳造型1を、鋳型投入装置33に送り込む。
【0027】
鋳型投入装置33は、鋳造型1を二つ収容する鋳型収容枠43を備えている。鋳型収容枠43は、図8に示す鋳型受入姿勢と、図7に実線で示す鋳型投入姿勢との間を、回転変位可能である。この鋳型収容枠43は、底板45の図8中で上下方向両側および中央に鋳型ガイド47,49,51をそれぞれ備えている。
【0028】
各鋳型ガイド47,49,51は、両側部(図8中で紙面に直交する方向の両側部)に設置したそれぞれ一対のローラ支持枠47a,49a,51aが、複数のフリーローラ47b,49b,51bをそれぞれ回転可能に支持している。
【0029】
そして、鋳型投入装置33は、図8に示す鋳型受入姿勢で、鋳型ガイド47と鋳型ガイド51との間および,鋳型ガイド49と鋳型ガイド51との間に、第2ローラコンベア39からそれぞれ鋳造型1を受け入れる。鋳造型1を受け入れる際には、第2ローラコンベア39におけるパワーローラ39bの駆動によって、鋳造型1が第2ローラコンベア39から鋳型投入装置33に対応する高さ位置にて移動し、この際鋳型投入装置33側のフリーローラ47b,49b,51bは駆動回転せず、送り込まれる鋳造型1の移動によって回転する。
【0030】
上記した鋳型収容枠43は、図7では省略しているが、図8に示すように回転用シリンダ53によって、図8の鋳型受入姿勢と、図7の実線で示す鋳型投入姿勢との間を回転変位する。鋳型収容枠43における底板45と鋳型ガイド47のローラ支持枠47aとの接続部付近と、連結リンク55の一端とを、連結部56にて互いに連結固定する一方、連結リンク55の他端と、回転用シリンダ53のピストンロッド53aの先端とを、連結軸58にて互いに回転可能に連結する。
【0031】
また、連結リンク55は、その長手方向中央に設けた回転中心軸部57を中心として、図示しない回転支持部に回転可能に支持されるとともに、回転用シリンダ53の基端部を、回転支持軸60によって図示しない回転支持部に回転可能に支持している。図8の状態から、回転用シリンダ53の駆動によってピストンロッド53aが進出し、連結リンク55が回転中心軸部57を中心として90度回転することで、鋳型収容枠43は、鋳型受入姿勢から図7の実線で示す鋳型投入姿勢となり、これに伴い鋳造型1は寝かされた状態から起立したに変位する。
【0032】
なお、図7に示すように、鋳造型1は、第1ローラコンベア37にて搬送される際に、スワール11およびガス抜き穴23が進行方向後方側で、かつ、スワール11がガス抜き穴23よりも搬送ライン25から遠い側となるようにしており、起立した状態の鋳造型1は、これらスワール11およびガス抜き穴23が鉛直方向上部に位置することになる。
【0033】
また、鋳型投入装置33は、図7に示すように、鋳型収容枠43の搬送ライン25と反対側の側部に一対の鋳型投入用シリンダ59を設置している。鋳型投入用シリンダ59は、そのピストンロッド59aの先端に押板61を備え、図7のように鋳型収容枠43内で起立した状態の鋳造型1を押板61により押圧し、搬送ライン25上の前記図5に示したモールド台車31上に投入する。
【0034】
なお、上記した鋳型投入時には、搬送ライン25上の走行台車29は、継続して移動していてもよく、一旦停止させてもよい。継続して移動させる場合には、鋳型投入装置33および鋳型搬送装置35を、走行台車29に同期させて移動させる駆動装置が別途必要となる。上記した走行台車29の移動については、以降の各工程においても同様に継続して移動していてもよく、一旦停止させてもよい。
【0035】
また、鋳型投入用シリンダ59の作動については、鋳型投入装置33が鋳型投入姿勢となった状態で、鋳型投入装置33の側方に走行台車29(モールド台車31)が位置したことを、図示しないセンサが検知して行うようにすればよい。あるいは、走行台車29に設けた接触片が、鋳型投入姿勢の鋳型投入装置33に対応して設けたリミットスイッチに当接したときに、鋳型投入用シリンダ59を作動させてもよい。
【0036】
工程Bでは、投入を受けた鋳造型1をモールド台車31上で傾ける作業を行う。図9は、鋳造型1を傾けるための傾斜駆動手段を構成する傾斜用シリンダ63と、その上部の搬送ライン25上の各機構を簡略化して示しており、搬送ライン25における、走行台車29は、図中矢印Gで示す左方向に移動するものとする。
【0037】
傾斜用シリンダ63の上部に突出するピストンロッド63aの先端には、可動板65を連結し、可動板65は、ピストンロッド63aの両側にある一対のガイドロッド67にガイドされて昇降移動する。ガイドロッド67は、上端を可動板65に固定し、下端側を傾斜用シリンダ63のハウジング内に移動可能に挿入している。
【0038】
可動板65の図9中で左右方向に対応する走行台車29の走行方向両端部付近の上面には、押圧部材としての一対の押圧ピン69を上方に向けて突出して備えている。一対の押圧ピン69は、左右一対の搬送レール27の隙間を通して上方に突出し、さらに走行台車29およびモールド台車31のそれぞれの貫通孔29a,31aを通して、図9の状態から上方に突出移動可能である。
【0039】
そして、これら貫通孔29a,31aは、モールド台車31上に投入された鋳造型1に対応する位置で、かつ、鋳造型1の前記図1に示したガス抜き穴23に対応する側の端部に設定してある。ここで、10本のカムシャフト3を同時に成形する前記図1に示した鋳造型1は、各種の鋳造型の中でも最大、特に図1中で左右方向の長さが最大であり、他の傾ける必要のない小型の鋳造型は、モールド台車31上に投入した状態で貫通孔29a,31aから外れた状態となる。
【0040】
つまり、各種の鋳造型は、モールド台車31上に投入する際に、スプール11側の端部をモールド台車31の鋳型投入側端部とほぼ同一位置とし、これにより、小型の例えば図4に示した鋳造型1Aは、スプール11Aと反対側の図4中で右側の端部が、前記した貫通孔29a,31a上に位置しないようにする。これにより、傾斜用シリンダ63は、鋳造型の大きさに拘わらず、モールド台車31が搬送されてくる毎に作動させることが可能となる。
【0041】
上記した傾斜用シリンダ63の駆動による押圧ピン69の上昇により、鋳造型1は、ガス抜き穴23に対応する側が上方に向けて押し上げられ、後述する図14のように、ガス抜き穴23の上部開口がスプール11の上部開口より鉛直方向上方となるよう傾いた状態となる。
【0042】
なお、上記の鋳造型1を傾ける作業を、走行台車29を停止させず継続して移動させる状態で行う場合には、図9に示してあるように、傾斜用シリンダ63を、同期台車71上に設置固定し、この同期台車71を、同期シリンダ73によって前後に移動させる構成とする。
【0043】
次に、鋳型クランプ工程Cについて説明する。図10(a)は、前記したモールド台車31と、このモールド台車31にて前記傾けた二つの鋳造型1をクランプ固定する際に作動するクランプ作動装置74を示す一部省略した斜視図、図10(b)は、モールド台車31およびクランプ作動装置74の鋳型搬送方向前後から見た正面図である。
【0044】
モールド台車31は、後述する図13に示すように、底板75の上面における鋳型搬送方向前後両側に、クランプ部材としての一対の可動クランプ板77を設けるとともに、一対の可動クランプ板77相互間には、固定クランプ板79を設けている。
【0045】
一対の可動クランプ板77および固定クランプ板79は、上方に向けて突出する軸取付部77a,79aをそれぞれ備え、中央の軸取付部79aにクランプ板ガイド軸81を固定し、両側の軸取付部77aをクランプ板ガイド軸81の両端に対して軸方向に移動可能に支持させる。
【0046】
一対の可動クランプ板77の固定クランプ板79と反対側に設けたボス部77bには、ねじ棒83を回転可能に螺合させ、ねじ棒83のボス部77bと反対側の端部には、ねじ棒83と一体回転する台車側ギア85を固定する。台車側ギア85は、可動クランプ板77に対する接近離反移動を規制するように、底板75との間に図示しない移動規制部を設けている。上記したねじ棒83と、可動クランプ板77のボス部77aに設けた図示しないねじ穴とで、ボールねじを構成している。
【0047】
すなわち、台車側ギア85の回転に伴いねじ棒83を回転させることで、一対の可動クランプ板77が固定クランプ板79に向けて接近移動し、鋳造型1を可動クランプ板77と固定クランプ板79との間でクランプ固定する。
【0048】
クランプ作動装置74は、前記図10(b)に示すように、搬送ライン25の図10中で左側の一方側に立設した作動装置支持ポスト87を備えている。作動装置支持ポスト87は、図10中で紙面に直交する方向に一対設けられ、作動装置支持ポスト87の上端には、揺動支持軸89を介して揺動板91を揺動可能に支持している。
【0049】
揺動板91は、図10(b)中で左側の端部を、作動装置支持ポスト87の上端から搬送ライン25と反対側に突出させ、この突出部91aの端部に、揺動用シリンダ93のピストンロッド93aの先端部を、先端連結ピン95を介して回転可能に連結する。揺動用シリンダ93の基端部は、作動装置支持ポスト87に対し基部連結ピン97を介して回転可能に支持させる。
【0050】
上記した揺動板91の先端側は、搬送ライン25の上方位置にて搬送ライン25を間に挟んで作動装置支持ポスト87と反対側まで突出し、その途中部位に、前記した台車側ギア85に噛合可能な駆動側ギア99を、揺動板91の両側部付近から下方に突出して設けたブラケット101に回転可能に取り付けている。また、揺動板91の上部には、駆動モータ103を設置し、駆動モータ103と駆動側ギア99とを、歯付ベルト105により互いに連動連結する。
【0051】
そして、搬送ライン25を間に挟んで作動装置支持ポスト87と反対側に揺動板支持ポスト107を立設し、図10(b)の実線で示すように、揺動板91を水平状態としたときに、その先端が揺動板支持ポスト107の上端に当接し、このとき、駆動側ギア99が台車側ギア85に噛合する。この噛合状態で、駆動側ギア99の回転に伴い台車側ギア85を回転させることで、前述したように、鋳造型1が可動クランプ板77と固定クランプ板79との間でクランプ固定されることになる。
【0052】
図10の実線で示す状態から、揺動用シリンダ93が後退駆動することで、二点鎖線で示すように、駆動側ギア99が台車側ギア85から離反してこれら両者相互の噛合状態が解除される。
【0053】
なお、上記したクランプ作動装置74によるクランプ作業についても、走行台車29が継続して移動する状態で行う場合には、作動装置支持ポスト87および揺動板支持ポスト107を含むクランプ作動装置74全体を、前記図9に示した同期シリンダ73と同様な機構を用い、鋳造型1の搬送と同期して移動させるようにする。
【0054】
また、このクランプ作業は、図9での鋳造型1を傾ける作業を行った状態で行うので、クランプ作動装置74と、傾斜用シリンダ63を始めとする傾斜用駆動機構は、搬送ライン25上の搬送方向同一位置で作動するものとする。
【0055】
溶湯を注入する工程Dは、図11に示すように、作業者109が、溶湯を保持している注湯容器111を用いて手作業により行う。注湯容器111は、図示しない天井から支持ワイヤ113を介して吊り下げられた支持枠115に側部を回転可能に支持され、支持枠115に設けた操作ハンドル117を作業者が回転させることで、注湯容器111が徐々に傾き、注湯口111aから鋳造型1のスワール11に溶湯を注入する。
【0056】
この注入作業についても、走行台車29が継続して移動する状態で行う場合には、支持ワイヤ113を介して吊り下げられた注湯容器111を、天井に設けた図示しないガイドレールに沿って走行台車29と同期して移動させるようにすればよい。
【0057】
次の工程Eの、クランプした状態の鋳造型1をアンクランプする作業は、前記図10に示したクランプ作動装置74と同様な機構によって、台車側ギア85を逆回転させることで、可動クランプ板77を固定クランプ板79から離反する方向に移動させ、鋳造型1をアンクランプする。このアンクランプによって、鋳造型1は、その自重により傾ける前の水平な状態に戻る。
【0058】
アンクランプ作業の下流に位置する鋳造型1を押し出す工程Fは、図12に示す押出装置119を備えている。押出装置119は、前記図7に示した鋳型投入用シリンダ59と同様な鋳型押出用シリンダ121を一対備えるとともに、そのピストンロッド121aの先端に押板123を備え、モールド台車31上の二つの鋳造型1を、押板123より押圧して搬送ライン25の外部に排出する。
【0059】
次に作用を説明する。まず、鋳型投入工程Aでは、図8に示したように、第1ローラコンベア37が、投入された鋳造型1を、第1ローラコンベア37と同一高さ位置まで下降した状態の実線で示す第2ローラコンベア39まで搬送し、さらにこの第2ローラコンベア39の駆動により、鋳型受入姿勢となっている鋳型投入装置33の図8中で下部側の鋳型ガイド47上に移送する。
【0060】
続いて第1ローラコンベア37に投入した他の鋳造型1が第2ローラコンベア39まで搬送されると、第1,第2ローラコンベア37,39の駆動を一旦停止させ、この状態で、昇降用シリンダ41を前進駆動して第2ローラコンベア39が中間の鋳型ガイド51と同等高さである二点鎖線で示す位置まで上昇する。
【0061】
そして、第2ローラコンベア39を、上記の位置まで上昇させた状態で駆動を再開して鋳造型1を鋳型ガイド51上に移送する。これにより、鋳型投入装置33には、二つの鋳造型1が収容されたことになる。
【0062】
この状態で、回転用シリンダ53を前進駆動すると、鋳型投入装置33は、図8の状態から図8中で時計回りに90度回転し、図7の実線で示す鋳型投入姿勢に変位する。その後、図7に示す鋳型投入用シリンダ59を前進駆動することで、二つの鋳造型1を搬送ライン25上のモールド台車31に投入する。図13(a)は、二つの鋳造型1がモールド台車31に投入される過程を示しており、図13(b)は投入完了後の状態を示す。
【0063】
図13(b)のようにモールド台車31に投入された鋳造型1は、図9に示す傾斜用シリンダ63を前進駆動することで、押圧ピン69を上方に向けて突出させて鋳造型1のガス抜き穴23側の端部が、スワール11側の端部よりも鉛直方向上方となるように、鋳造型1を傾ける。
【0064】
図14(a)は、鋳造型1を傾けた状態を示す。図14(b)は、モールド台車31上の鋳造型1が、押圧ピン69により押圧されて傾いた状態を模式的に示している。
【0065】
図14(a),(b)のように鋳造型1が傾いた状態で、図10に示すクランプ作動装置74を作動させて駆動側ギア99を、図中実線で示すように台車側ギア85に噛合させる。この噛合状態で駆動モータ103を駆動することで、駆動側ギア99を介して台車側ギア85を回転させ、これとともにねじ棒83が回転して可動クランプ板77が移動して固定クランプ板79との間で鋳造型1をクランプ固定する。
【0066】
クランプ固定後は、図14(c)のように押圧ピン69を後退させるが、このとき、鋳造型1は、可動クランプ板77と固定クランプ板79との間でクランプ固定されているので、傾いたままである。
【0067】
次の溶湯を注入する工程Dでは、図11に示したように、作業者109が、溶湯容器111を傾け、注湯口111aから鋳造型1のスワール11に溶湯を注入する。
【0068】
スワール11から注入された溶湯は、図1に示す鋳造型1内の連通路13からスワール15,ハンガランナ19,湯道連通路21を経て湯道7に達する。湯道7に達した溶湯は、スワール11と反対側のガス抜き穴23側の端部に向けて流れながら、その途中にあるキャビティ5に順次入り込む。
【0069】
このとき、鋳造型1が傾いていることによって、湯道7もスワール11側に対しガス抜き穴23側が鉛直方向上方となるよう傾いているので、鋳造型1内に入り込んだ(巻き込んだ)ガスは、この傾きによって、上方すなわちスワール11と反対側のガス抜き穴23側の端部に向けて移動し、ガス抜き穴23から外部に放出される。
【0070】
このため、スワール11から溶湯を注入する際には、鋳造型1内のガスの存在による排圧の発生を抑えることができ、溶湯への圧力付与を回避できるので、キャビティ5の下方での焼き付きを防止することができる。また、鋳造型1内に注入した溶湯が、ガス抜き穴23からのガスの放出に伴って、複数のキャビティ5に対してその並列配置方向に沿って順次効率よく流れて行くので、各キャビティ5への溶湯の充填が効率よくなされ、焼き付きなどの鋳造欠陥を防止することができる。
【0071】
また、スプール11から連通路13を経てスワール15に導入される溶湯が渦巻き状に旋回し、溶湯中の異物が浮き上がり、かつスワール15の下部にフィルタを設けているので、溶湯中の異物がキャビティ5側に流れることがなく、鋳造品における異物噛み込み不良を防止することができる。
【0072】
次の工程Eでは、モールド台車31の台車側ギア85を、図10のクランプ作動装置74と同様の図示しない機構により、図15(a)のようにクランプ時とは逆方向に回転させ、鋳造型1をアンクランプ状態とする。鋳造型1は、アンクランプされて保持が解除されると、自重により図15(b)のように水平状態に戻り、その後は、前記図12に示した押出装置119により、鋳造型1を搬送ライン25の外部に押し出して排出する。
【0073】
排出後の鋳造型1は、内部の溶湯が冷却固化した状態で、作業者が図示しない助力装置などを利用して吊り上げ、鋳造型1をハンマリングにて破壊して内部の鋳造品を取り出し、図示しない搬送用ハンガーによって、図1に示すハンガランナ19と湯道7とを接続する湯道連通路21付近に対応する部分の鋳造品を引っ掛けて、図示しない次の作業工程へ、複数のカムシャフト3を備える鋳造品を搬送する。
【0074】
上記したように、本実施形態では、鋳造型1のスワール11から溶湯を注入する際には、ガス抜き穴23からガスを放出するので、焼き付きなどの鋳造欠陥を防止して、高品質な鋳造品を得ることができる。その際、鋳造型1を傾けた状態でクランプ保持させればよく、傾けるための傾斜用シリンダ63を始めとする傾斜用駆動機構については、傾ける必要のない小型の鋳造型に対しても、鋳造型1に対してと同様に作動させても傾くことがなく、したがって大型の鋳造型1にのみ対応する複雑な検知装置などの付帯設備が不要であり、単に傾斜用駆動機構を設ければよいので、低コストで、鋳造欠陥を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係わる鋳造型の内部構造図である。
【図2】図1の鋳造型の溶湯注入口周辺を示す平面図である。
【図3】図1の鋳造型を作業工程に沿って搬送する搬送ラインの全体構成図である。
【図4】他の小型の鋳造型の内部構造図である。
【図5】図3の搬送ラインにおける搬送レール上の走行台車およびモールド台車を示す側面図である。
【図6】図3の搬送ラインにおける鋳型投入工程からクランプ工程にわたる領域全体を示す平面図である。
【図7】図6の鋳型投入工程における鋳型投入装置および鋳型搬送装置の斜視図である。
【図8】図6の鋳型投入工程における鋳型投入装置および鋳型搬送装置の側面図である。
【図9】鋳造型を傾けるための傾斜用シリンダと、その上部の搬送ライン上の各機構を簡略化して示す説明図である。
【図10】(a)は、モールド台車と二つの鋳造型をクランプ固定する際に作動するクランプ作動装置を示す一部省略した斜視図、(b)は、モールド台車およびクランプ作動装置の鋳型搬送方向前後から見た正面図である。
【図11】作業者が、注湯容器により鋳造型に溶湯を注入している状態を示す斜視図である。
【図12】鋳造型を搬送ラインから外部に押し出す作業を示す斜視図である。
【図13】(a)は、二つの鋳造型がモールド台車に投入される過程を示す動作説明図、(b)は、投入完了後の状態を示す動作説明図である。
【図14】(a)は、鋳造型を傾けた状態を示す動作説明図、(b)は、モールド台車上の鋳造型が、押圧ピンにより押圧されて傾いた状態を模式的に示す動作説明図、(c)は、押圧ピンを後退させた状態を模式的に示す動作説明図である。
【図15】(a)は、鋳造型をアンクランプする状態を示す動作説明図、(b)は、アンクランプ後、鋳造型が自重により水平に戻った状態を示す動作説明図である。
【符号の説明】
【0076】
1 鋳造型
3 カムシャフト(ワーク)
5 キャビティ
7 湯道
11 スワール(溶湯注入口)
23 ガス抜き穴
29 走行台車(搬送手段)
31 モールド台車(搬送台車)
63 傾斜用シリンダ(傾斜駆動手段)
69 押圧ピン(押圧部材)
77 可動クランプ板(クランプ部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状のワークを起立させかつ複数並列配置した状態で一つの鋳造型を用いて鋳造する鋳造方法において、前記鋳造型の前記ワークを成形するキャビティの並列配置方向一端側の鉛直方向上部に溶湯注入口を設け、同他端側の鉛直方向上部にガス抜き穴を設け、このガス抜き穴を設けた他端側が前記一端側に対して鉛直方向上方となるよう前記鋳造型を傾けた状態で、前記溶湯注入口から溶湯を注入して鋳造することを特徴とする鋳造方法。
【請求項2】
前記ワークを成形する複数のキャビティの鉛直方向上端部相互を湯道で連通し、前記キャビティの並列配置方向他端側に対応する前記湯道の他端側に前記ガス抜き穴を設け、前記湯道の一端側に設けた前記溶湯注入口から溶湯を注入して鋳造することを特徴とする請求項1に記載の鋳造方法。
【請求項3】
前記鋳造型は、搬送手段によって他の形状の異なる鋳造型とともに順次搬送される搬送ライン上にて傾けた状態で溶湯が注入され、前記搬送過程において前記ガス抜き穴を設けた鋳造型のみを傾けることを特徴とする請求項1または2に記載の鋳造方法。
【請求項4】
前記鋳造型を傾けた状態でクランプ保持し、このクランプ保持状態で前記溶湯注入口から溶湯を注入することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の鋳造方法。
【請求項5】
長尺状のワークを起立させかつ複数並列配置した状態で一つの鋳造型を用いて鋳造する鋳造装置において、前記鋳造型の前記ワークを成形するキャビティの並列配置方向一端側の鉛直方向上部に溶湯注入口を設け、同他端側の鉛直方向上部にガス抜き穴を設け、このガス抜き穴を設けた他端側が前記一端側に対して鉛直方向上方となるよう前記鋳造型を傾ける傾斜駆動手段を設けたことを特徴とする鋳造装置。
【請求項6】
前記鋳造型の前記ワークを成形する複数のキャビティの鉛直方向上端部相互を湯道で連通し、この湯道の一端側に前記溶湯注入口を設ける一方、前記湯道の他端側に前記ガス抜き穴を設けたことを特徴とする請求項5に記載の鋳造装置。
【請求項7】
前記傾斜駆動手段は、前記鋳造型の鉛直方向下方から同上方に向けて進出移動して前記鋳造型の端部を押し上げる押圧部材を備えていることを特徴とする請求項5または6に記載の鋳造装置。
【請求項8】
前記鋳造型を搬送手段によって他の形状の異なる鋳造型とともに順次搬送しつつ傾けた状態で溶湯を注入する搬送ラインを設け、前記傾斜駆動手段は、前記搬送手段による搬送過程での前記ガス抜き穴を設けた鋳造型のみを傾ける位置に設置したことを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の鋳造装置。
【請求項9】
前記鋳造型を、傾けた状態で両側からクランプ保持するクランプ部材を設けたことを特徴とする請求項5ないし8のいずれか1項に記載の鋳造装置。
【請求項10】
前記鋳造型を載せて搬送する搬送台車を設け、前記クランプ部材は、前記搬送台車上に設けられて前記鋳造型に対してその両側から接近離反移動可能であることを特徴とする請求項9に記載の鋳造装置。
【請求項11】
前記クランプ部材に設けたねじ穴にねじ棒を回転可能に挿入してボールねじを構成し、前記ねじ棒と一体回転する台車側ギアを前記搬送台車に設け、この台車側ギアに対して駆動側ギアが、噛合する状態と、噛合解除する状態とのいずれかの状態なるように、前記駆動側ギアを前記台車側ギアに対して接近離反移動可能としたことを特徴とする請求項10に記載の鋳造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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