説明

鋳造用原材料及びその製造方法

【課題】強化材を分散させた鋳造品の製造において、溶融された鋳造用原材料の粘性を低下させて湯回り不良品の発生を減少させる。
【解決手段】鋳造用原材料Aは、鋳造用金属材料からなり一方向に沿って延びる複数の金属相Bと、鋳造用金属材料にセラミック粉末などの強化材を混入してなり一方向に沿って延びる複数の複合相Cが、交互に並んで配置された断面構造を有したものである。この鋳造用原材料は、何れも鋳造用金属材料からなり寸法が大きいペレットと、小さい細片状または粒子状の粉砕材と、強化材との混合物20を、筒状のコンテナ11内に装填し、鋳造用金属材料の融点以下であって変形が容易になる軟化温度に加熱して、コンテナ11の内径よりも小径の押出し口18から押し出して製造する。鋳造用金属材料は鋳造用マグネシウム合金とするのがよく、強化材としては炭化珪素などがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注湯あるいはチクソモールディングなどの鋳造法に使用する鋳造用原材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工屑を成形品の原材料として再生する方法としては、特許文献1に示すように、マグネシウム合金などの金属加工屑を熱間押出することにより棒材を形成し、この棒材を破砕することによりペレット化して、成形品の原材料として用いる技術がある。この特許文献1には、金属加工屑を熱間押出する前に加工屑にSiCなどのセラミック粒子(強化材)を予め混合させれば、マトリックス中にセラミック粒子が均一に分散した機械的強度の優れた成形品が得られることも記載されている。
【0003】
また混合されるセラミック粒子(SiC、Si34、Al23)の体積混合率(%)がマグネシウム合金の物性に与える影響としては、図6に示すようなデータが知られている。このデータに示すように各物性のうち、引張強度は、SiC及びAl23では体積混合率が10%になるまで、Si34では体積混合率が5%になるまで、体積混合率の増大に応じて増大する。ビッカース硬度は、SiC、Si34及びAl23の何れも、体積混合率が15%になるまで体積混合率の増大に応じてほゞ増大する。またヤング率は、SiCでは体積混合率が15%になるまで、Si34及びAl23では体積混合率が10%になるまで、体積混合率の増大に応じて増大する。なお伸びは、SiC、Si34及びAl23の何れも体積混合率の増大に応じて減少する。
【特許文献1】特開平6−256809号公報(段落〔0026〕〜〔0032〕、段落〔0043〕〜〔0049〕、段落〔0059〕、図1〜図3、図5)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、マグネシウム合金等の金属成形品は、金属組織中にセラミックなどの粒子よりなる強化材を分散させることにより、引張強度、ビッカース硬度、ヤング率などの物性を向上させることができ、強化材の混合率を高めることによりこれらの物性をある程度まではさらに向上させることができる。しかしながらこれらの強化材の混合率を高めると加熱溶融した際の鋳造用原材料の粘性が増大するので、湯回り不良による不良品の発生が増大するという問題が生じる。特にマグネシウム合金は凝固速度が速いので湯回り不良による不良品が発生しやすく、この問題は注湯による鋳造の場合も、鋳造用原材料を半溶融状態として射出成形するチクソモールディングによる鋳造の場合も同様に存在する。
【0005】
本発明は、鋳造に使用する鋳造用原材料の構造に工夫を加えてこのような問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明による鋳造用原材料は、鋳造用金属材料からなり一方向に沿って細長く延びる複数の金属相と、鋳造用金属材料にセラミックなどよりなるウィスカ状または粉末状の強化材を混入してなり一方向に沿って細長く延びる複数の複合相が、一方向と直交する方向に交互に並んで配置された断面構造を有することを特徴とするものである。
【0007】
前項に記載の鋳造用原材料の製造方法である請求項2の発明は、鋳造用金属材料からなり個々の寸法が大きいペレットと、鋳造用金属材料からなり個々の寸法がペレットよりも小さい細片状または粒子状の粉砕材と、強化材との混合物を、筒状のコンテナ内に装填し、鋳造用金属材料の融点以下であって変形が容易になる軟化温度に加熱して、コンテナの内径よりも小径の押出し口から押し出すことを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の発明は、前項に記載の鋳造用原材料の製造方法において、押出し口の断面積に対するコンテナの内径の断面積の比を10以上としたものである。
【0009】
請求項4の発明は、前2項に記載の鋳造用原材料の製造方法において、ペレットの断面積に対するコンテナの内径の断面積の比は50以上としたものである。
【0010】
請求項5の発明は、前3項に記載の鋳造用原材料の製造方法において、粉砕材の個々の体積はペレットの個々の体積の100分の1以下としたものである。
【0011】
請求項6の発明は、請求項2〜請求項5の何れか1項に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、ペレットに対する粉砕材の重量比を40:60〜60:40としたものである。
【0012】
請求項7の発明は、前項に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、ペレットに対する粉砕材の重量比を50:50としたものである。
【0013】
請求項8の発明は、前各項に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、鋳造用金属材料を鋳造用マグネシウム合金としたものである。
【0014】
請求項9の発明は、前項に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、強化材をウィスカ状または粉末状の炭化珪素としたものである。
【0015】
請求項10の発明は、前項に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、鋳造用原材料における炭化珪素の体積混合率を1〜5%としたものである。
【0016】
請求項11の発明は、請求項8に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、強化材をウィスカ状または粉末状の窒化珪素としたものである。
【0017】
請求項12の発明は、前項に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、鋳造用原材料における窒化珪素の体積混合率を1〜5%としたものである。
【0018】
請求項13に記載の発明は、請求項2〜請求項12の何れか1項に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、粉砕材は鋳造用金属材料よりなる成形品またはその端材の切削粉よりなるものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明の鋳造用原材料によれば、鋳造用金属材料からなり一方向に沿って細長く延びる複数の金属相と、鋳造用金属材料にセラミックなどよりなるウィスカ状または粉末状の強化材を混入してなり一方向に沿って細長く延びる複数の複合相が、一方向と直交する方向に交互に並んで配置された断面構造を有しているので、溶融された際に粘性の高い複合相同士は間に介在された粘性の低い金属相により容易に相対移動する。従って鋳造用原材料は全体として流動性が向上するので、湯回り不良による鋳造品の不良の発生は減少する。
【0020】
請求項2の発明の鋳造用原材料の製造方法によれば、何れも鋳造用金属材料よりなるペレット及び粉砕材と強化材の混合物は、寸法が小さい粉砕材と強化材が比較的均一に混合されたものの中に、寸法が大きいペレットが散らばって散在したものとなる。このような混合物を鋳造用金属材料の融点以下であって変形が容易になる軟化温度に加熱して、コンテナの内径よりも小径の押出し口から押し出せば、各ペレットは粉砕材及び強化材と混合されることなく押出方向に沿って細長く延びる金属相となり、これに対し粉砕材と強化材の両者はほゞ均一に混合されて金属相の周囲に沿って延びる複合相となる。従って、一方向に沿って細長く延びる複数の金属相と、一方向に沿って細長く延びる複数の複合相が、一方向と直交する方向に交互に並んで配置された断面構造を有する鋳造用原材料が得られる。
【0021】
請求項3の発明によれば、各ペレットは10倍以上に引き延ばされて充分に細長い金属相となり、これらが複合相内に沿って並んだ構造となるので、得られた鋳造用原材料を溶融すれば全体としての流動性が充分向上したものとなる。
【0022】
請求項4の発明によれば、押し出された鋳造用原材料の断面における金属相の厚さが過小または過大になることがないので、鋳造用原材料は全体として相当な流動性が得られ、また金属相と複合相は鋳造の際における流動の過程で充分に混合されるので均質な組織の製品が得られる。
【0023】
請求項5の発明によれば、粉砕材と強化材は鋳造の際に充分に混合されて均質な複合相となるので、鋳造により得られる製品も一層均一な組織のものとなる。
【0024】
請求項6の発明によれば、金属相が少なくなりすぎて鋳造の際における鋳造用原材料の全体的流動性が低下して湯回りが低下したり、複合相が少なくなりすぎて鋳造の際における鋳造用原材料の混合が不充分になって製品の組織が不均質になったりするおそれがない。
【0025】
請求項7の発明によれば、湯回りの向上と組織の均質化がうまくバランスされ、鋳造にきわめて適した鋳造用原材料が得られる。
【0026】
前述のようにマグネシウム合金は凝固速度が速いので湯回り不良による不良品が発生しやすいので、前述の各発明は、請求項8に示すように、鋳造用金属材料を鋳造用マグネシウム合金とした場合に最も効果を発揮する。
【0027】
請求項9の発明によれば、引張強度、硬度及びヤング率が大きくなるので、鋳造品の強度及び剛性を高めることができる。
【0028】
請求項10の発明によれば、炭化珪素の体積混合率が高すぎることによる鋳造品の湯回り不良を防止することができる。
【0029】
請求項11の発明によれば、硬度及びヤング率が大きくなるので、鋳造品の剛性を高めることができる。
【0030】
請求項12の発明によれば、窒化珪素の体積混合率が高すぎることによる鋳造品の湯回り不良を防止することができる。
【0031】
請求項13に記載の発明によれば、粉砕材として鋳造用金属材料よりなる成形品またはその端材の切削粉を使用するので、資源の有効な活用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、図1〜図7により、本発明による鋳造用原材料及びその製造方法の最良の形態の説明をする。図1及び図2に示すように、本発明による鋳造用原材料Aは、直径2mmで長さが約6mmの円柱形のペレット状で、複合相Cと、その中に長手方向に沿って延びる多数の金属相Bよりなるものであり、鋳造用原材料Aの長手方向に沿った断面は、何れも長手方向に沿って細長く延びる複数の金属相Bと複数の複合相Cが、長手方向と直交する方向に交互に並んで配置された構造となっている。金属相Bは鋳造用マグネシウム合金(AM60B)よりなるものであり、複合相Cは同じ鋳造用マグネシウム合金にセラミック粉末よりなる強化材をほゞ均一に混入したものである。
【0033】
上述した鋳造用原材料Aは、図3に示す押出し装置10により製造される。この押出し装置10は、円筒形のコンテナ11と、その底部に固定した押出しダイ15と、コンテナ11の内面に液密かつ摺動自在に嵌合されたラム12により構成されている。コンテナ11の内径及び外径はそれぞれ40mm及び60mmである。
【0034】
押出しダイ15は、同軸的に互いに一体形成された何れも円形の本体部15aとフランジ部15bよりなり、本体部15aの外径及び厚さはそれぞれ40mm及び17.5mmであり、フランジ部15bの外径及び厚さはそれぞれ60mm及び17mmである。押出しダイ15は、本体部15aをコンテナ11の下端部に嵌合挿入して、フランジ部15bにより固定される。押出しダイ15には、同軸的に配置された直径が20mmのピッチ円に沿って、等角度間隔で4個の押出し部16(図3には2個のみを示す)が貫通して形成されている。各押出し部16は、互いに同軸的に配置されてコンテナ11側から順に連続して形成された導入部17と押出し口18と第1逃げ部19aと第2逃げ部19bにより構成されている。導入部17はコンテナ11側となる最大径が13mmで頂角が60度の円錐状であり、押出し口18は内径が2mmで長さが3mmであり、各逃げ部19a,19bの内径はそれぞれ4mm及び6mmである。
【0035】
図3の押出し装置10を使用して図1及び図2の鋳造用原材料Aを製造するのに使用する素材は、何れも鋳造用マグネシウム合金(AM60B)よりなるペレット及び粉砕材と、炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si34)、酸化アルミニウム(Al23)などのセラミック粉末である。ペレットは図4に外観形状を示す鋳造用マグネシウム合金のバージン材であり、その長さ、幅及び厚さがそれぞれ約6mm、1.5mm及び1.5mmである。粉砕材は鋳造用マグネシウム合金よりなる成形品またはその端材の切削粉で、図に拡大した外観形状を示し、その長さは2mm以下、幅及び厚さがそれぞれ約150μm及び25μmである。
【0036】
この押出し装置10により鋳造用原材料Aを製造するには、先ず後述するように所定の重量比となるように計量されたペレット及び粉砕材と、成形された場合に所定の体積混合率となるように計量されたセラミック粉末を充分に混合した混合物20をコンテナ11内に装填する。次いで鋳造用マグネシウム合金の融点以下であって変形が容易になる軟化温度である250〜500℃、好ましくは400℃に加熱し、ラム12の押出速度を20mm/min として、コンテナ11の内径よりも小径の押出し口18から押し出す。この押出しにより得られた線材21を粉砕機(図示省略)により破砕して、短い円柱状の鋳造用原材料Aとする。
【0037】
上述した実施形態の鋳造用原材料の製造方法によれば、何れも鋳造用マグネシウム合金よりなるペレット及び粉砕材と強化材の混合物20は、比較的均一に混合された寸法が小さい粉砕材と強化材の中に、寸法が大きいペレットが散らばって散在したものとなる。このような混合物20を、前述のようにして小径の押出し口18から押し出せば、鋳造用マグネシウム合金のみからなる各ペレットは、粉砕材及び強化材と混合されることなく押出方向に沿って細長く延びる金属相Bとなり、これに対し粉砕材と強化材の両者は均一に混合され金属相Bの周囲に沿って延びる複合相Cとなる。従って、図1及び図2に示すような、長手方向に沿って細長く延びる複数の金属相Bと、長手方向に沿って細長く延びる複数の複合相Cが、長手方向と直交する方向に交互に並んで配置された断面構造を有する鋳造用原材料Aが得られる。
【0038】
このようにして製造された鋳造用原材料Aは、鋳造用マグネシウム合金からなり互いにほゞ平行に細長く延びる複数の金属相Bと、鋳造用マグネシウム合金にセラミック粉末よりなる強化材が混入されて互いにほゞ平行に細長く延びる複数の複合相Cが、交互に並んで配置された断面構造を有しているので、溶融された際に粘性の高い複合相Cは間に介在された粘性の低い金属相Bにより容易に相対移動する。従って鋳造用原材料Aは全体として流動性が向上するので、鋳造された際に鋳型の隅々まで行き渡り、その途中で充分に混合されて均一な組織の鋳造品が得られる。
【0039】
〔比較例1〕
先ず前述した鋳造用マグネシウム合金よりなる成形品またはその端材の切削粉とセラミックよりなる強化材だけの混合物を図3の押出し装置10により押し出し、粉砕機により破砕して強化材が均一に分散された強化材混入ペレットを製造し、この強化材混入ペレットを使用して鋳造を行って、鋳造性を調査した。セラミックの強化材としては、SiCウィスカ、Si34ウィスカ、Al23ウィスカの3種類を用意し、体積混合率がそれぞれ1%、5%、10%、15%の4種類の強化材混入ペレットを用意した。鋳造方法としては、アルゴンガス置換雰囲気中で、黒鉛のるつぼにより前述のように強化材が均一に分散された各強化材混入ペレットを溶融し、るつぼを正立位置から95度傾斜させて、溶湯をSUS304の金型に注湯した。その結果、次の表1に示す結果が得られた。表中において、○△×は次の判断結果を示している。各鋳造品は何れも強化材が比較的均一に組織中に分散しており、大きな偏析は見られなかった。
【0040】
○:湯流れがよく、るつぼ内に溶湯が残留することなく注湯される
△:湯流れが悪く、注湯は可能であるがるつぼ内に溶湯の一部が残留する
×:湯流れが極めて悪く、注湯できず、溶湯の全部がるつぼ内に残留する
【0041】
【表1】

【0042】
〔比較例2〕
体積混合率が大きい強化材混入ペレットを比較例1と同様にして製造し、この強化材混入ペレットと鋳造用マグネシウム合金のみからなるペレットを重量比1:1で混合して、比較例1と同様にるつぼ中で溶融し、比較例1と同様にして金型に注湯した。強化材としては、SiCウィスカ、Si34ウィスカの2種類を用意し、鋳造品における強化材の体積混合率がそれぞれ5%、10%となるように、強化材混入ペレットは、強化材の体積混合率がそれぞれ9.5%、18.5%のものを用意した。その結果、次の表2に示す結果が得られた。判断結果の表示は表1と同じである。各鋳造品は何れも強化材が比較的均一に組織中に分散して大きな偏析は見られなかったが、SiCウィスカ10%のものの一部には強化材混入ペレットがそのまま残っていた。
【0043】
【表2】

【実施例】
【0044】
前述した実施形態のようにして製造した鋳造用原材料Aだけを使用して、比較例1と同様にるつぼ中で溶融し、金型に注湯した。強化材としては、SiCウィスカ、Si34ウィスカの2種類を用意し、鋳造用原材料Aのペレットと粉砕材の重量比は1:1とし、鋳造用原材料Aにおける強化材の体積混合率はそれぞれ5%、10%のものを用意した。その結果、次の表3に示す結果が得られた。判断結果の表示は表1と同じである。SiCウィスカ10%で鋳造不可のものを除き、各鋳造品は何れも強化材が比較的均一に組織中に分散しており、大きな偏析は見られなかった。
【0045】
【表3】

【0046】
上述した実施例によれば、Si34ウィスカ5%のものとSiCウィスカ5%の鋳造用原材料Aは、注湯による鋳造が可能であることが確認され、特にSiCウィスカ5%のものは比較例1及び比較例2よりも鋳造性に優れていることが確認された。またSi34ウィスカ5%及びSiCウィスカ5%の鋳造用原材料Aを使用して、素材を半溶融状態として射出成形するチクソモールディング法による鋳造を行ったところ、機械停止などの異常を生じることなく実施でき、また得られた鋳造品にも湯回り不良による充填不良は認められなかった。
【0047】
本発明による鋳造用原材料Aは上述した実施形態の範囲に限定されるものではなく、強化材としては酸化アルミニウム(Al23)など種々のセラミックあるいは無機質の粉末またはウィスカを使用することが可能であり、金属相Bとなる金属材料も鋳造用マグネシウム合金に限らず鋳造用アルミニウム合金その他の鋳造用金属材料を使用することが可能であり、強化材の体積混合率も5%に限られるものではない。本発明の鋳造用原材料Aは、鋳造用金属材料からなり互いにほゞ平行に細長く延びる複数の金属相Bと、鋳造用金属材料に強化材が混入されて互いにほゞ平行に細長く延びる複数の複合相Cが、交互に並んで配置された断面構造を有しているものであり、溶融された際に粘性の高い複合相Cは間に介在された粘性の低い金属相Bにより容易に相対移動する。従って鋳造用原材料Aは全体として流動性が向上するので、鋳造された際に鋳型の隅々まで行き渡って湯回り不良による鋳造品の不良の発生は減少し、その途中で充分に混合されて均一な組織の鋳造品が得られるものである。
【0048】
また本発明による鋳造用原材料の製造方法は、鋳造用金属材料からなり個々の寸法が大きいペレットと、鋳造用金属材料からなり個々の寸法がペレットよりも小さい細片状または粒子状の粉砕材と、強化材との混合物20を、筒状のコンテナ11内に装填し、鋳造用金属材料の融点以下であって変形が容易になる軟化温度に加熱して、コンテナ11の内径よりも小径の押出し口18から押し出すものであり、これによれば何れも鋳造用金属材料よりなるペレット及び粉砕材と強化材の混合物は、寸法が小さい粉砕材と強化材が比較的均一に混合されたものの中に、寸法が大きいペレットが散らばって散在したものとなる。このような混合物20をコンテナ11内に装填し、鋳造用金属材料の融点以下であって変形が容易になる軟化温度に加熱して、コンテナ11の内径よりも小径の押出し口18から押し出せば、各ペレットは粉砕材及び強化材と混合されることなく押出方向に沿って細長く延びる金属相Bとなり、これに対し粉砕材と強化材の両者は均一に混合され金属相Bの周囲に沿って延びる複合相Cとなる。従って、一方向に沿って細長く延びる複数の金属相Bと、一方向に沿って細長く延びる複数の複合相Cが、一方向と直交する方向に交互に並んで配置された断面構造を有する鋳造用原材料Aが得られる。
【0049】
上述した実施形態では、押出し口18の断面積(=π×4mm2 )に対するコンテナ11の内径の断面積(=π×400mm2 )の比である押出比は100であり、従って押し出される際に各ペレットは100倍以上に引き伸ばされて極めて細長い金属相Bとなり、これらが複合相C内に沿って並んだ構造となる。従って溶融された際に粘性の高い複合相Cは、間に介在された粘性の低い金属相Bによりその長手方向に沿って容易に相対移動するので、得られた鋳造用原材料Aは溶融した際に全体としての流動性が充分向上したものとなる。しかしながら鋳造用原材料A製造の際の押出比は10程度としてペレットの伸張量を10程度としてもペレットは充分に細長いものとなり、溶融した際の全体としての流動性は充分に向上する。
【0050】
また上述した実施形態では、ペレットの断面積(=1.5×1.5 mm2 )に対するコンテナ11の内径の断面積(=π×400mm2)の比は178であり、従って押し出された線材21を破砕した鋳造用原材料Aの断面には89本程度の金属相Bが存在する。この比がこの程度であれば鋳造用原材料Aは全体として相当な流動性が得られ、また金属相Bと複合相Cは流動の過程で充分に混合され、均質な組織の製品が得られる。ペレットの断面積に対するコンテナ11の内径の断面積の比が小さすぎれば、粘性の高い複合相Cは間に介在される粘性の低い金属相Bの個々の面積が小さくなるので鋳造用原材料Aは全体として充分な流動性が得られず、またこの比が大きすぎれば、流動の過程で金属相Bと複合相Cが充分に混合されないおそれがあるので製造された鋳造品の組織の均一性が得られなくなる。従ってこの比は50以上、好ましくは50〜400とするのがよい。
【0051】
また上述した実施形態では、粉砕材の個々の体積(=2×0.15×0.025 mm3)は、ペレットの個々の体積(=6×1.5×1.5 mm3 )の1800分の1程度と極めて小さく、強化材と混合され押し出されてて均質な複合相Cとなるので、鋳造により得られる製品も一層均一な組織のものとなる。しかしながら粉砕材の個々の体積はそれほどまで小さくする必要はなく、ペレットの個々の体積の100分の1以下であれば強化材と混合して押し出すことにより実質的に均質な組織の複合相Cとなり、上述した効果が得られる。
【0052】
ペレットに対する粉砕材の重量比を小さくすれば、鋳造用原材料Aの金属相Bの量が増大するので溶融した際の全体としての流動性は増大するが、複合相Cは量が減少するとともに強化材の体積混合率が増大するので、製造された鋳造品の均質性が低下するおそれがある。逆にペレットに対する粉砕材の重量比を大きくすれば、鋳造用原材料Aの金属相Bの量が減少するので溶融した際の全体としての流動性は低下するが、複合相Cは量が増大するとともに強化材の体積混合率が低下するので、製造された鋳造品の均質性は向上する。上述した実施形態では、ペレットに対する粉砕材の重量比を50:50としているので、湯回りの向上と組織の均質化がうまくバランスされ、鋳造にきわめて適した鋳造用原材料Aが得られる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、ペレットに対する粉砕材の重量比が40:60〜60:40の範囲であれば実質的に同様な効果が得られる。
【0053】
またマグネシウム合金は凝固速度が速く、従って鋳造に使用した場合は湯回り不良による不良品が発生しやすいので、本発明による鋳造用原材料Aは上述した実施形態のように鋳造用金属材料として鋳造用マグネシウム合金を使用した場合に最も効果を発揮する。
【0054】
強化材としてウィスカ状または粉末状の炭化珪素を使用したものによれば、引張強度、硬度及びヤング率が大きくなるので、鋳造品の強度及び剛性を高めることができる。この場合において鋳造用原材料Aにおけるウィスカ状または粉末状の炭化珪素の体積混合率を1〜5%としたものによれば、炭化珪素の体積混合率が高すぎることによる鋳造品の湯回り不良を防止することができる。
【0055】
また強化材としてウィスカ状または粉末状の窒化珪素を使用したものによれば、硬度及びヤング率が大きくなるので、鋳造品の剛性を高めることができる。この場合において鋳造用原材料Aにおけるウィスカ状または粉末状の窒化珪素の体積混合率を1〜5%としたものによれば、窒化珪素の体積混合率が高すぎることによる鋳造品の湯回り不良を防止することができる。
【0056】
また粉砕材として鋳造用金属材料よりなる成形品またはその端材の切削粉を使用したものによれば、資源の有効な活用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明による鋳造用原材料の一実施例の長手方向に沿った断面の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】図1に示す鋳造用原材料の一実施例の横断面を示す図である。
【図3】図1に示す鋳造用原材料の製造に使用する押出し装置の一例の全体構造を示す縦断面図である。
【図4】図3に示す押出し装置により図1の鋳造用原材料を製造する際に使用するペレット一例の外観を示す写真である。
【図5】図4に示すペレットと組み合わせて使用する粉砕材の外観を示す拡大写真である。
【図6】混合されるセラミック粒子及びその体積混合率がマグネシウム合金の物性に与える影響を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
11…コンテナ、18…押出し口、20…混合物、A…鋳造用原材料、B…金属相、C…複合相。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造用金属材料からなり一方向に沿って細長く延びる複数の金属相と、前記鋳造用金属材料にセラミックなどよりなるウィスカ状または粉末状の強化材を混入してなり前記一方向に沿って細長く延びる複数の複合相が、前記一方向と直交する方向に交互に並んで配置された断面構造を有することを特徴とする鋳造用原材料。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳造用原材料の製造方法において、前記鋳造用金属材料からなり個々の寸法が大きいペレットと、前記鋳造用金属材料からなり個々の寸法が前記ペレットよりも小さい細片状または粒子状の粉砕材と、前記強化材との混合物を、筒状のコンテナ内に装填し、前記鋳造用金属材料の融点以下であって変形が容易になる軟化温度に加熱して、前記コンテナの内径よりも小径の押出し口から押し出すことを特徴とする鋳造用原材料の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の鋳造用原材料の製造方法において、前記押出し口の断面積に対する前記コンテナの内径の断面積の比は10以上としたことを特徴とする鋳造用原材料の製造方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の鋳造用原材料の製造方法において、前記ペレットの断面積に対する前記コンテナ11の内径の断面積の比は50以上としたことを特徴とする鋳造用原材料の製造方法。
【請求項5】
請求項2〜請求項4の何れか1項に記載の鋳造用原材料の製造方法において、前記粉砕材の個々の体積は前記ペレットの個々の体積の100分の1以下としたことを特徴とする鋳造用原材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、前記ペレットに対する前記粉砕材の重量比は40:60〜60:40としたことを特徴とする鋳造用原材料及びその製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、前記ペレットに対する前記粉砕材の重量比は50:50としたことを特徴とする鋳造用原材料及びその製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、前記鋳造用金属材料は鋳造用マグネシウム合金であることを特徴とする鋳造用原材料及びその製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、前記強化材はウィスカ状または粉末状の炭化珪素であることを特徴とする鋳造用原材料及びその製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、前記鋳造用原材料における前記炭化珪素の体積混合率は1〜5%であることを特徴とする鋳造用原材料及びその製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、前記強化材はウィスカ状または粉末状の窒化珪素であることを特徴とする鋳造用原材料及びその製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、前記鋳造用原材料における前記窒化珪素の体積混合率は1〜5%であることを特徴とする鋳造用原材料及びその製造方法。
【請求項13】
請求項2〜請求項12の何れか1項に記載の鋳造用原材料及びその製造方法において、前記粉砕材は前記鋳造用金属材料よりなる成形品またはその端材の切削粉であることを特徴とする鋳造用原材料及びその製造方法。



【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−277651(P2007−277651A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106526(P2006−106526)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】