説明

鋳造装置のガス抜き装置およびガス抜き方法

【課題】中子ガスをキャビティの外部に効果的に排出することで、中子ガスによるガス欠陥(所謂ひけ巣など)を低減し、良好な鋳造品質を確保することができる鋳造装置のガス抜き装置、およびガス抜き方法の提供を課題とする。
【解決手段】鋳造金型10内部のキャビティ12に中子11を配設して鋳造する鋳造装置100のガス抜き装置1であって、前記中子11の表面と前記鋳造金型10の外部とを連通する中空構造のガス抜きピン2を備え、前記ガス抜きピン2は、その内周部を軸心方向に沿って全体的に加熱する電熱器(加熱手段)5を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば低圧鋳造法などに用いられる中子を備えた鋳造装置において、良好な鋳造品質を確保するべく、中子から発生するガスをキャビティの外部に効果的に排出する、鋳造装置のガス抜き装置、およびガス抜き方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばエンジン部品のひとつであるアルミニウム合金製のシリンダヘッドなどのように、複雑な形状からなる内部空間を有する部品(鋳造製品)の製造については、中子を備えた鋳造装置による低圧鋳造法が用いられている。
前記鋳造装置は、複数個に分割され開閉(「型開き」、および「型閉じ」)可能に設けられた鋳造金型を備え、該鋳造金型内の空間部(以下、「キャビティ」と記す)には、複数の中子が固定保持される。また、鋳造金型の下方には湯口が設けられ、該湯口を介してキャビティの内部に金属溶湯を押し上げ注入することで、前記中子の周囲に金属溶湯が充填される。そして、充填された金属溶湯が冷却されて凝固することで、内部空間を有する部品が製造される。
【0003】
ここで、キャビティ内に固定保持される複数の中子は、各々所定の形状に造形された細粒ケイ砂を、レジン(熱可塑性樹脂)によって硬化させることで形成されるところ、前記キャビティ内に充填される金属溶湯の温度は通常略650℃もの高温となり、該金属溶湯の熱によって中子内のレジン(熱可塑性樹脂)が熱分解を起こしてガス(以下、「中子ガス」と記す)を発生することとなる。
そして、発生した中子ガスは金属溶湯の内部に留まり、鋳造製品の内部において、ガス欠陥(所謂ひけ巣など)を引き起こす要因となっていた。
【0004】
このようなガス欠陥の要因ともなる中子ガスをキャビティの外部へ排出する技術のひとつとして、ガス抜きピンが知られている。
ここで、従来のガス抜きピンの構造について図6を用いて説明する。
図6は従来のガス抜きピン51を用いた鋳造装置200の全体的な構成を示した側面断面図である。
なお、便宜上、図6の上下方向を鋳造装置200の上下方向とし、且つ矢印Aの方向を前方と規定して、以下説明する。
【0005】
鋳造装置200は、上型金型52Aや横型金型52B・52B・・・や下型金型52Cなど複数の金型からなる鋳造金型52や、該鋳造金型52のキャビティ54内に固設される中子53などにより構成される。
上型金型52Aの前後中央部には、上下方向に貫通する連通孔52aが穿孔され、該連通孔52aを介してガス抜きピン51が挿設される。
【0006】
ガス抜きピン51は中空部材からなり、その上端部には平面視半径方向に突出する係止部51aが形成される。
また、ガス抜きピン51の下端面は水平面状(ガス抜きピン51の軸心に対して直交する平面状)に端面処理される一方、中子53(図6において、前後中央部に位置する中子53)の表面上部の中央部には、水平面状(同じく、ガス抜きピン51の軸心に対して直交する平面状)の底部を有する凹部53aが形成される。
【0007】
そして、上型金型52Aの上方よりガス抜きピン51を連通孔52aに挿入すると、係止部51aの下面が上型金型52Aの上面に当接され、上型金型52Aに対するガス抜きピン51の上下方向の位置が規制される。
また、係止部51aによりガス抜きピン51の上下方向の位置が規制された状態で、ガス抜きピン51の下端面が中子53の凹部53aの底部に当接する。
【0008】
このように、ガス抜きピン51を上型金型52Aに挿設することで、該ガス抜きピン51の内径部51bを介して中子53の表面部と鋳造金型52の外部とを連通する連通経路が形成される。
そして、中子53より発生する中子ガス60は、前記連通経路を通って鋳造金型52の外部に排出されることとなる。
【0009】
ところで、中子ガス60は通常約250℃を下回ると液化し始め、最終的に凝固することが経験上知られている。一方、ガス抜きピン51は周囲を上型金型52Aによって取り囲まれるとともに、一端部が鋳造金型52外部の大気に開放されている。
よって、ガス抜きピン51には、冷却工程において冷却された上型金型52Aの温度や、大気の温度などが伝達され、中子ガス60は、ガス抜きピン51の内径部(連通経路)を通過する途中に徐々に冷やされて液化し、最終的に固体となってガス抜きピン51の内径部に固着することとなる(図6において、固着した中子ガスを中子ガス61と示す)。
【0010】
そして、ガス抜きピン51を介して中子ガス(気体状態)60をキャビティ54の外部、即ち鋳造金型52の外部に排出するに従い、ガス抜きピン51の内径部(連通経路)に固着する中子ガス(固体状態)61は次第に増加し、最終的には、固着した中子ガス(固体状態)61によってガス抜きピン51の内径部(連通経路)が完全に塞がれる。その結果、中子ガス(気体状態)60をキャビティ54の外部へ排出することができなくなり、鋳造製品内部のガス欠陥(所謂ひけ巣など)を引き起こすことになる。
【0011】
このような問題点を改善し、中子ガスをキャビティの外部に効果的に排出して良好な鋳造品質を確保するための技術として、従来から様々な方策が提案されている。
即ち、「特許文献1」においては、鋳造金型と該鋳造金型内に組み付けた中子で構成する鋳型キャビティ内へ金属溶湯を押し上げ注入する低圧鋳造方法に関し、中子の幅木部にエア通路を設け、金属溶湯が鋳型キャビティ内へ到達するまでは、上記エア通路を通じて中子内に冷却気体を供給することにより、鋳造金型内に組み付けた中子を冷却し、次いで、鋳型キャビティ内への金属溶湯の注入時は、上記エア通路から発生する中子ガスを吸引する技術が開示されている。
【0012】
また、「特許文献2」においては、鋳型内に配置された中子に連通しつつ外部に開口するガス抜き通路を設けるとともに、鋳型内部もしくは鋳型表面に沿って設けた空気通路を上記ガス抜き通路と合流させ、上記空気通路に圧縮空気を供給することにより、合流部におけるベンチュリ効果をもって中子ガスを吸引して排出するようにした鋳型の中子ガス排出装置に関する技術が開示されている。
【0013】
また、「特許文献3」においては、鋳造金型に貫通形成されたガス抜き孔に挿入されるガス抜きピンを有し、上記ガス抜きピンは、上記ガス抜き孔に挿入された状態においてピン外周部とガス抜き孔の内面との間に鋳造金型の内部と外部とに通じるガス逃がしギャップが形成されるような外形・寸法とし、このガス抜きピンの内部には軸線方向に延びかつ奥端が閉じた中空孔を設けるとともにこの中空孔の側面壁に上記ガス逃がしギャップに連通する側面貫通孔を設け、上記中空孔に供給される気体を上記側面貫通孔から上記ガス逃がしギャップに向かって噴出させるようにした、鋳造金型設備におけるガス抜き装置に関する技術が開示されている。
【0014】
また、「特許文献4」においては、シェル中子を用いて鋳造を行う鋳造機(鋳造装置)の鋳造金型の接続口に接続される略T字管と、該略T字管内へ空気を供給する空気供給手段とを備え、該略T字管は、略一直線状に延びる第一管部と該第一管部の中途位置に接続された第二管部とを備え、該空気供給手段は該第一管部に接続され、該接続口は該第二管部に接続され、該空気供給手段によって該略T字管内の該第一管部と該第二管部との接続位置方向に向けて該空気が供給されることによって、該シェル中子から発生するガスが該第二管部を介して該第一管部内へと吸引される鋳造機用ガス吸引装置に関する技術が開示されている。
そして、前記鋳造機用ガス吸引装置は、該略T字管を高温に維持するために、該略T字管の外周であって該接続位置の周辺部分に配設される第一加熱手段と、該空気供給手段により供給される該空気の温度を高温にするために、該略T字管の内部であって該接続位置よりも該空気の流れる方向の上流側の位置に配設された第二加熱手段とを有することとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平5−146862号公報
【特許文献2】特開2004−314157号公報
【特許文献3】特開平7−51795号公報
【特許文献4】特開2005−111500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、前記「特許文献1」に示す技術では、キャビティの内部に金属溶湯を注湯する直前まで中子を冷却することで、中子ガスの発生自体を抑えるに留まり、その後、一旦キャビティ内部への金属溶湯の注湯を開始すれば、エア通路を介して中子ガスを吸引装置で吸引し、強制的にキャビティ外へ放出することとしている。
よって、前記「特許文献1」に示す技術では、冷却された中子ガスが固体となって連通経路(エア通路)に固着して、該連通経路(エア通路)を塞いでしまう現象に対処することはできない。
【0017】
また、前記「特許文献2」、および前記「特許文献3」に示す技術においても、ベンチュリ効果によってキャビティ内と鋳造金型外部を連通する連通経路内の吸引力を高め、該連通経路を通る中子ガスを強制的にキャビティ外へ放出することが可能となるものの、冷却された中子ガスが固体となって連通経路(エア通路)に固着して、該連通経路(エア通路)を塞いでしまう現象に対処することはできない。
【0018】
さらに、前記「特許文献4」に示す技術に拠れば、連通経路におけるヒーターを具備する箇所においては中子ガスの固着を防ぐことは可能であるとも思える。
しかし、連通経路において、前記ヒーターは鋳造金型の外部に位置する、コンプレッサなどと繋がる第一管部との合流部のみであり、キャビティ内から上型金型の内部を通って該第一管部との合流部に至るまでの範囲についてはヒーターが配設されておらず、冷却された中子ガスが固体となって連通経路(エア通路)に固着して、該連通経路(エア通路)を塞いでしまう現象を完全に対処することはできない。
【0019】
以上のような問題点に鑑み、本発明においては、中子ガスをキャビティの外部に効果的に排出することで、中子ガスによるガス欠陥(所謂ひけ巣など)を低減し、良好な鋳造品質を確保することができる鋳造装置のガス抜き装置、およびガス抜き方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0021】
即ち、請求項1においては、金型内部のキャビティに中子を配設して鋳造する鋳造装置のガス抜き装置であって、前記中子の表面と前記金型の外部とを連通する中空構造のガス抜きピンを備え、前記ガス抜きピンは、その内周部を軸心方向に沿って全体的に加熱する加熱手段を有するものである。
【0022】
請求項2においては、請求項1に記載の鋳造装置のガス抜き装置であって、前記ガス抜きピンは、中空部材からなる外筒と内筒とを有し、前記内筒は、前記外筒の内周部に同軸上に挿設され、前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に形成される間隙を介して前記加熱手段が配設されるものである。
【0023】
請求項3においては、請求項1、または請求項2に記載の鋳造装置のガス抜き装置であって、前記ガス抜きピンの内周部は、前記加熱手段によって、前記中子から発生するガスが液化する液化温度を超える温度にまで加熱されるものである。
【0024】
請求項4においては、請求項1乃至請求項3のうちの何れか一項に記載の鋳造装置のガス抜き装置であって、前記ガス抜きピンは、自身の温度を検出する温度検出手段を有し、前記温度検出手段によって検出した温度に基づいて、前記加熱手段を介して前記ガス抜きピンを温調するものである。
【0025】
請求項5においては、金型内部のキャビティに中子を配設して鋳造する鋳造装置のガス抜き方法であって、前記鋳造装置に、前記中子の表面と前記金型の外部とを連通する連通経路を設け、前記連通通路を、前記中子の表面から前記金型の外部に渡って全体的に加熱し、前記連通通路を介して、前記中子より発生するガスを金型の外部に排出するものである。
【0026】
請求項6においては、請求項5に記載の鋳造装置のガス抜き方法であって、前記連通通路は、中空部材からなる内筒の内周部によって形成され、前記内筒の外周部には、同じく中空部材からなる外筒が該内筒と同軸上、且つ前記内筒の外周部より半径方向に向かって離れて配設され、前記内筒の外周部と前記外筒の内周部との間に形成される間隙に、前記連通通路を加熱する加熱手段を配設するものである。
【0027】
請求項7においては、請求項5、または請求項6に記載の鋳造装置のガス抜き方法であって、前記連通通路は、前記中子から発生するガスが液化する液化温度を超える温度にまで加熱されるものである。
【0028】
請求項8においては、請求項5乃至請求項7のうちの何れか一項に記載の鋳造装置のガス抜き方法であって、前記連通通路は、自身の温度を検出し、前記検出した温度が予め設定された温度に比べて低い場合、前記連通通路は、前記中子の表面から前記金型の外部に渡って全体的に加熱され、前記検出した温度が予め設定された温度に比べて高い場合、前記連通通路は、加熱されないものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明における鋳造装置のガス抜き装置、およびガス抜き方法に拠れば、中子ガスをキャビティの外部に効果的に排出することが可能となり、中子ガスによるガス欠陥(所謂ひけ巣など)を低減し、良好な鋳造品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例に係るガス抜き装置を用いた、鋳造装置の全体的な構成を示した側面断面図。
【図2】同じくガス抜きピンの近傍を示した側面断面拡大図。
【図3】ガス抜きピンを構成する外筒を示した図であり、(a)はその平面図、(b)は上下両端部を(a)の矢印Bからみた断面図として示した側面図。
【図4】ガス抜きピンを構成する内筒を示した図であり、(a)はその平面図、(b)は上下両端部を(a)の矢印Cからみた断面図として示した側面図。
【図5】ガス抜き装置を構成する電熱器を示した側面図。
【図6】従来のガス抜きピンを用いた鋳造装置の全体的な構成を示した側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0032】
[鋳造装置100]
先ず、本発明に係るガス抜き装置1を備えた鋳造装置100の全体構成について、図1を用いて説明する。
なお、便宜上、図1の上下方向を鋳造装置100の上下方向とし、且つ矢印Aの方向を前方と規定して、以下説明する。
【0033】
本実施例における鋳造装置100は、例えばエンジン部品のひとつであるアルミニウム合金製のシリンダヘッドなどのように、複雑な形状からなる内部空間を有する部品(鋳造製品)を低圧鋳造法によって形成するための装置である。
なお、本発明を具現化する鋳造装置は、本実施例における低圧鋳造法を用いた装置に限定されるものではない。即ち、中子を備えた鋳造装置であれば、例えば高圧鋳造法やダイカスト法など、あらゆる鋳造方法を用いてもよい。
鋳造装置100は、主に鋳造金型10や中子11やガス抜き装置1などを備えて構成される。
【0034】
先ず、鋳造金型10について説明する。
鋳造金型10は、該鋳造金型10内の空間部に溶融されたアルミニウム合金(以下、「金属溶湯」と記す)を流し込み、鋳造製品の形状を形成するための部位である。
鋳造金型10は上型金型10Aや横型金型10B・10B・・・や下型金型10Cなど、複数の金型に分割して構成される。
【0035】
前記金型群10A・10B・10B・・・10Cは、下型金型10Cの上方に横型金型10B・10B・・・を配置し、さらに横型金型10B・10B・・・の上方に上型金型10Aを配置して構成される。
そして、これら金型群10A・10B・10B・・・10Cは、下型金型10Cを基準として、上型金型10Aが上下方向へ移動可能に、横型金型10B・10B・・・が水平方向へ移動可能にそれぞれ構成される。
【0036】
より具体的には、上型金型10Aは、下型金型10Cの上方において、図示せぬアクチュエーターを介して上下方向に移動可能に設けられる。
また、横型金型10B・10B・・・は、下型金型10Cの上方、且つ上型金型10Aの下方において、複数の金型に分割して構成され、図示せぬ案内ガイドなどによって水平面(上型金型10Aの移動方向に対して直交する平面)上を、下型金型10Cを中心とする平面視放射状に各々スライド移動可能に設けられる。
さらに、下型金型10Cは、これら上型金型10Aや横型金型10B・10B・・・の下方において、例えば、鋳造装置100に設けられる固定テーブル14の上面に、ボルトなどを介して着脱可能に固設される。
【0037】
そして、上型金型10Aが下型金型10Cに対して離間した上方位置に位置し、且つ複数の横型金型10B・10B・・・が下型金型10Cに対して離間した外方位置に位置する状態より、上型金型10Aが下型金型10Cに向かって下方へと移動し、且つ複数の横型金型10B・10B・・・が水平面上を下型金型10Cに向かって各々スライド移動することで、鋳造金型10は「型閉じ」される。その結果、鋳造金型10内には、上型金型10A、複数の横型金型10B・10B・・・、および下型金型10Cによって囲まれる空間部(以下、「キャビティ」と記す)12が形成されるようになっている。
【0038】
一方、このような「型閉じ」状態にある鋳造金型10において、上型金型10Aが下型金型10Cに対して離間する方向に上昇移動し、且つ複数の横型金型10B・10B・・・が水平面上を下型金型10Cに対して離間する外方向に各々スライド移動することで、鋳造金型10は「型開き」される。
【0039】
なお、本実施例においては、「型閉じ」動作の開始前に、後述する中子11を、下型金型10C或いは、横型金型10Bの上面に予め配設することとしている。
そして、このような状態から鋳造金型10の「型閉じ」を行うことで、前記中子11は、下型金型10Cと横型金型10B或いは、横型金型10Bと上型金型10Aによって挟持され、キャビティ12内部の所定の箇所に確実に固定保持されるようになっている。
【0040】
下型金型10Cには、上下方向に貫通する複数の連通孔10b・10b・・・が穿孔され、これら連通孔10b・10b・・・に堰入れ子13・13・・・を同軸上に各々挿嵌することで、キャビティ12の内部への金属溶湯の注湯口は形成される。
【0041】
一方、これら堰入れ子13・13・・・の下方には、湯口入れ子15が設けられる。
湯口入れ子15は略半球形状に形成された凹部を有する碗状の部材からなり、その底面中央部には貫通孔15aが穿孔されている。そして、湯口入れ子15は、例えば鋳造装置100に設けられる固定テーブル14の上面において、上方に開口するようにして固設されることで、前記貫通孔15aが鋳造装置100の外部より金属溶湯を注ぎ込む供給管16と連通されるようになっている。
【0042】
また、固定テーブル14の上面における、湯口入れ子15の設けられる箇所は、他の箇所と比べて幾分下方に掘り下げた形状に形成される。
そして、湯口入れ子15を固定テーブル14に固設した状態で、さらに湯口入れ子15の上方から下型金型10Cを固定テーブル14に固設することで、下型金型10Cに配設される全ての堰入れ子13・13・・・は、湯口入れ子15の上部と連通される。
【0043】
このように、鋳造金型10はキャビティ12の内部に連通する複数の堰入れ子13・13・・・を具備し、該堰入れ子13・13・・・を介して、キャビティ12内に金属溶湯を注ぎ込むための湯口入れ子15と連結される。そして、湯口入れ子15に供給された金属溶湯は、堰入れ子13・13・・・の内部を通じてキャビティ12内に案内される。
【0044】
即ち、鋳造金型10を構成する金型群10A・10B・・・が「型閉じ」し、鋳造金型10の内部にキャビティ12が形成されると、供給管16を介して金属溶湯が一旦湯口入れ子15の内部に流れ込み、その後、圧力の高められた状態にて、金属溶湯はキャビティ12内に、堰入れ子13・13・・・を介して勢いよく噴出されるのである。
【0045】
次に、中子11について説明する。
中子11は、内部に空間部を有する鋳造製品の鋳造において、キャビティ12内に金属溶湯を流し込む前に、前記空間部にあたる部分として、予めキャビティ12内に配設するための部材である。
つまり、キャビティ12の内部において、中子11が配設される箇所には金属溶湯が流れ込まないため、このような状態を保持しつつ金属溶湯を徐々に冷却することで、該金属溶湯は凝固され、中子11の形状に沿った空間部を内部に有する鋳造製品が成形されるのである。
【0046】
本実施例における中子11は、鋳造装置100によって鋳造されるシリンダヘッド内の様々な空間部に対応するべく、複数のパーツによって構成される。
具体的には、中子11は、給排気ポートに相当するポート中子11A・11Aや、ウォータジャケットに相当するウォータジャケット中子11Bなどにより構成される。(なお、ウォータジャケット中子11Bは一体構造からなる一個の中子であるが、図1は断面図であるため複数の分割されたパーツとして示されている。)
【0047】
そして、これら複数のパーツ(ポート中子11A・11Aやウォータジャケット中子11B)からなる中子11は、金型群10A・10B・10B・・・10Cによって挟持され、キャビティ12内において、所定の姿勢で各々固定保持される。
【0048】
例えば、ポート中子11A・11Aにおいては、その端部に幅木部11a・11aが各々形成され、鋳造金型10の「型閉じ」状態において、前記幅木部11a・11aが下型金型10Cと横型金型10Bと(或いは、横型金型10Bと上型金型10Aと)によって各々挟持されることで、ポート中子11A・11Aは、キャビティ12内に位置規制されるとともに固定保持される。
【0049】
また、図1においては示されていないが、ウォータジャケット中子11Bについてもポート中子11A・11Aと同様に、その端部に幅木部が形成されており、該幅木部を金型群10A・10B・10B・・・10Cによって挟持することで、ウォータジャケット中子11Bは、キャビティ12内に位置規制されるとともに固定保持される。
【0050】
ところで、このような構成からなる中子11は、主としてレジン(フェノール樹脂など)を混合させた細粒ケイ砂を、シェルモールド法などによって造形することで形成される。
従って、キャビティ12内に金属溶湯が注湯されると、中子11に含有されるレジンは金属溶湯の熱によって熱分解を引き起こし、ガス(以下、「中子ガス」と記す)となって中子11の表面部から発散される。
【0051】
この場合、発生した中子ガスが外部に排出されずにキャビティ12内に留まると、キャビティ12内の背圧は上昇し、その結果、注湯された金属溶湯は湯回り不良を引き起こすこととなる。また、キャビティ12内に充填された金属溶湯の凝固過程において、該キャビティ12内に留まる中子ガスが該金属溶湯の内部に取り込まれ、その結果、鋳造製品内部のガス欠陥(所謂ひけ巣など)を引き起こす要因ともなる。
【0052】
そこで、このような現象を回避して良好な鋳造品質を確保するべく、本実施例においては、ガス抜き装置1を鋳造金型10に配設し、該ガス抜き装置1によってキャビティ12内に留まる中子ガスを鋳造金型10の外部に効果的に排出することとしている。
【0053】
即ち、ガス抜き装置1は、加熱手段を具備する中空構造のガス抜きピン2を有し、該ガス抜きピン2を上型金型10Aに形成される連通孔10aに挿嵌することで、キャビティ12の内部(厳密には、図1において、前後中央部に位置するウォータジャケット中子11Bの上面)と、鋳造金型10の外部とを連通する連通経路が形成される。
【0054】
そして、中子11より発散される中子ガスは、ガス抜きピン2によって形成された連通経路を通って鋳造金型10の外部に排出される。この際、ガス抜きピン2は加熱手段によって、その内周部を軸心方向に沿って全体的(厳密には、後述する内筒4の本体部4aの全体)に加熱されるため、中子ガスは連通経路の通過中に冷却されて凝固することもなく、気体の状態を維持したまま効果的に排出されるのである。
【0055】
なお、本実施例においては、ガス抜きピン2を介して、とりわけウォータジャケット中子11Bの表面部と鋳造金型10の外部との連通経路を形成し、ポート中子11A・11Aについては、このような連通経路を形成しないこととしているが、これは以下の理由による。
【0056】
即ち、キャビティ12内へ金属溶湯を注湯し始めた段階においては、中子ガスは中子11の表面全体に渡って任意の箇所より発散される。
その後、金属溶湯の注湯が進み、中子11の下部が金属溶湯に埋没し始めると、中子11表面部の埋没した下部においては、金属溶湯による内圧が発生し、中子ガスの発散は封じられる。
その結果、中子ガスは、未だ金属溶湯に埋没していない中子11表面部の上部において、任意の箇所より発散される。
【0057】
その後、さらに金属溶湯の注湯が進み、金属溶湯に中子11が完全に埋没した状態(即ち、中子11の周囲全体に渡って金属溶湯が存在する状態)になると、中子ガスは金属溶湯の内圧により、該中子11の表面部より外部に向けて、もはや容易に発散することができなくなり、一時的に中子11の内部に留まることとなる。
【0058】
そして、中子11内に留まった中子ガスは、該中子11の内部で次第に容量を増加させ、ある容量を越えると、中子ガスは金属溶湯の内圧に抗して、中子11の任意の箇所より大きな気泡となって発散されることとなる。
【0059】
このようなことから、キャビティ12内における配設位置の関係上、周囲全体を金属溶湯によって取り囲まれるウォータジャケット中子11Bにおいては、キャビティ12内への金属溶湯の注湯を開始する前に、予め上型金型10Aにガス抜きピン2を配設し、該ガス抜きピン2によって前後中央部の上面と、鋳造金型10の外部とを連通する連通経路を形成することとしている。
【0060】
その結果、例えウォータジャケット中子11Bが溶湯金属に完全に埋没したとしても、該ウォータジャケット中子11Bの表面部において、ガス抜きピン2と接する箇所は常に開放状態(金属溶湯の内圧による影響を受けず、大気圧に接する状態)を維持することとなる。従って、中子ガスは、ウォータジャケット中子11Bの内部に一旦閉じ込められたとしても長時間留まることなく、直ちにガス抜きピン2を介して鋳造金型10の外部に発散されるのである。
【0061】
一方、ポート中子11A・11Aについては、ウォータジャケット中子11Bと異なり、キャビティ12内に注湯される金属溶湯によって、完全に埋没することはない。
即ち、ポート中子11A・11Aによって形成しようとする空間部(吸気ポート、および排気ポート)の構成上、該ポート中子11A・11Aは、幅木部11a・11aが鋳造金型10の外部に突出するようにしてキャビティ12の内部に配設される。
【0062】
よって、ポート中子11A・11Aは、幅木部11a・11aを介して常に開放状態を維持することとなり、中子ガスは、ポート中子11A・11Aの内部に一旦閉じ込められたとしても長時間留まることなくすぐさま幅木部11a・11aを介して鋳造金型10の外部に発散することとなる。
従って、ポート中子11A・11Aについては、ガス抜きピン2による連通経路を、あえて形成する必要がないのである。
【0063】
なお、本実施例においては、ウォータジャケット中子11Bのみに、ガス抜きピン2による連通経路を形成することとしているが、これに限定されるものではなく、例えば他に、周囲全体が金属溶湯に埋没する中子を、キャビティ12内に配設する必要があれば、このような中子についてもガス抜きピン2を配設し、連通通路を形成してもよい。
【0064】
[ガス抜き装置1]
次に、ガス抜き装置1の全体構成について、図1を用いて説明する。
ガス抜き装置1は、鋳造金型10内部のキャビティ12に中子11を配設して鋳造する鋳造装置100に備えられ、キャビティ12内への金属溶湯の注湯によって発生する中子ガスを、鋳造金型10の外部に効果的に排出するための装置として設けられる。
ガス抜き装置1は、主にガス抜きピン2や電熱器5や温度センサー6や制御装置7などにより構成される。
【0065】
[ガス抜きピン2]
先ず、ガス抜きピン2について、図2乃至図4を用いて説明する。
なお、便宜上、図2乃至図4の上下方向をガス抜きピン2(外筒3、および内筒4)の上下方向とし、且つ矢印Aの方向を前方と規定して、以下説明する。
【0066】
ガス抜きピン2は、互いに中空構造の筒状部材からなる外筒3と内筒4とにより構成される。
また、内筒4は外筒3の内周部に同軸上に挿設され、このような構成からなるガス抜きピン2を上型金型10Aの連通孔10aに挿嵌することで、ガス抜きピン2は上下方向(上型金型10Aの移動方向)に延出するようにして該上型金型10Aに配設されるとともに、ガス抜きピン2の下端面は、ウォータジャケット中子11Bの上面に当接される。
つまり、ガス抜きピン2を上型金型10Aの連通孔10aに挿嵌することで、該ガス抜きピン2(厳密には、内筒4の内周部)を介して、ウォータジャケット中子11Bの表面と、鋳造金型10の外部とを連通する連通経路が形成される。
【0067】
ここで、外筒3の形状について、図3を用いて詳述する。
外筒3は、上下方向に延出する中空部材からなる本体部3a、および該本体部3aの上下両端部に設けられる係止部3bと縮径部3cとにより形成される。
【0068】
係止部3bは、上型金型10Aの連通孔10a(図2を参照)に外筒3を挿嵌する際、該外筒3の上下方向の位置規制を行うとともに、該外筒3を上型金型10Aに固定保持するための部位である。
【0069】
係止部3bは、本体部3aの上端部において、幾分かの厚みを有する板状の突出片として設けられ、図3(a)に示すように、水平面上(本体部3aの軸心と直交する平面上)の前方に向かって二方向に突出する平面視略「V字」状に形成される。
なお、係止部3bの形状は、本実施例に限定されるものではなく、本体部3aの上端部において、該本体部3aの平面視半径方向に向かって、さらに突出するような形状であればよい。
【0070】
係止部3bの上面中央部には、平面視円形状の凹部3dが形成される。
凹部3dは、本体部3aと同軸上に設けられ、その内径寸法(図3(b)に示すX1寸法)は、本体部3aの内径寸法(図3(b)に示すX2寸法)に比べてやや大きく形成されるとともに、凹部3dは、本体部3aの内周部と連通される。
【0071】
また、凹部3dの内径寸法(図3(b)に示すX1寸法)は、後述する内筒4の係止部4b下面に設けられる嵌合部4eの外径寸法(図4(b)に示すY3寸法)と、略同程度に形成され、外筒3の内周部に内筒4を挿設する際には、前記嵌合部4eが前記凹部3dに嵌まり込むことで、外筒3に対する内筒4の水平方向の位置が規制される。
【0072】
凹部3dの後端部には、後方へと延出する溝部3eが形成される。
溝部3eは断面視矩形状に形成され、該溝部3eによって、凹部3dと外筒3の外部とが連通される。
そして、外筒3の内周部に、電熱器5を備える内筒4を同軸上に挿設する際、電熱器5のコード部5b(図5を参照)は、溝部3eを介して外筒3の外部へと導かれるのである。
【0073】
縮径部3cは、中子11(より具体的には、ウォータジャケット中子11B)の表面部と、直接当接される部位である。
縮径部3cは中空形状に形成され、本体部3aの下端部において、該本体部3aと同軸上に設けられる。
【0074】
また、縮径部3cの外径寸法、および内径寸法は、本体部3aの外径寸法、および内径寸法に比べてともに小さな値となるように形成されるとともに、縮径部3cの内周部は本体部3aの内周部と連通される。
【0075】
このような構成を有することで、外筒3は、上型金型10Aの連通孔10aに挿嵌される際、確実に上下方向の位置を規制され、縮径部3cの下端面が、中子11(ウォータジャケット中子11B)の表面部と、隙間なく当接されるようになっている。
【0076】
即ち、縮径部3cの下端面は水平面状に端面処理される一方、中子11(ウォータジャケット中子11B)の表面上部の中央部には、水平面状の底部を有する凹部11b(図2を参照)が形成される。
【0077】
そして、上型金型10Aの連通孔10aに外筒3を上方より挿嵌すると、係止部3bの下面が上型金型10Aの上面に当接され、上型金型10Aにおける外筒3の上下方向の位置が規制されるとともに、縮径部3cの下端面が中子11(ウォータジャケット中子11B)の凹部11bと当接されるのである。
【0078】
次に、内筒4の形状について、図4を用いて詳述する。
内筒4は、上下方向に延出する中空部材からなる本体部4aと、該本体部4aの上端部に設けられる係止部4bとにより形成される。
【0079】
係止部4bは、外筒3の内周部に内筒4を挿嵌する際、該内筒4の上下方向の位置規制を行うとともに、外筒3を介して該内筒4を上型金型10A(図2を参照)に固定保持するための部位である。
【0080】
係止部4bは外筒3の係止部3bと略同形状に形成される。
係止部4bは、本体部4aの上端部において、幾分かの厚みを有する板状の突出片として設けられ、図4(a)に示すように、水平面上(本体部4aの軸心と直交する平面上)の前方に向かって二方向に突出する平面視略「V字」状に形成される。
なお、係止部4bの形状は、本実施例に限定されるものではなく、本体部4aの上端部において、該本体部4aの平面視半径方向に向かって、さらに突出するような形状であればよい。
【0081】
係止部4bの上面中央部には、該係止部4bの厚みに比べて、若干浅く設けられる穴部4dが形成される。
穴部4dは、本体部4aと同軸上に設けられ、その内径寸法(図4(b)に示すY1寸法)は、本体部4aの内径寸法(図4(b)に示すY2寸法)に比べて大きく形成されるとともに、穴部4dは、本体部4aの内周部と連通される。
【0082】
係止部4bの下面には嵌合部4eが設けられる。
嵌合部4eは、平面視円形状からなる下方に向かって僅かに突出した部位であり、本体部4aと同軸上に形成される。
【0083】
嵌合部4eの外径寸法(図4(b)に示すY3寸法)は、外筒3の凹部3dの内径寸法(図3(b)に示すX1寸法)と、略同程度に形成されるとともに、嵌合部4eの上下方向の高さ寸法(図4(b)に示すY4寸法)は、前記凹部3dの深さ寸法(図3(b)に示すX3寸法)と、略同程度に形成される。
【0084】
そして、外筒3の内周部に内筒4を同軸上に挿設する際は、嵌合部4eが凹部3dに嵌まり込むことで、外筒3に対する内筒4の水平方向に関する位置が規制される。
【0085】
本体部4aの上下方向に関する長さ寸法、即ち嵌合部4eの下面より本体部4aの下端面に渡る長さ寸法(図4(b)に示すY5寸法)は、外筒3の内周部の上下方向に関する長さ寸法、即ち凹部3dの下面より本体部4aの内径部の下端面に渡る長さ寸法(図3(b)に示すX4寸法)と略同程度に形成される。
【0086】
また、本体部4aの外径寸法(図4(b)に示すY6寸法)は、外筒3の本体部3aの内径寸法(図3(b)に示すX2寸法)に比べて、十分小さな値となるように形成される一方、本体部4aの内径寸法(図4(b)に示すY2寸法)は、外筒3の縮径部3cの内径寸法(図3(b)に示すX5寸法)に比べて十分大きな値となるように形成される。
【0087】
このような構成を有することで、内筒4は、外筒3の内周部に同軸上に挿嵌される際、係止部4bを介して外筒3に対する上下方向(本体部4aの軸心方向)の位置が規制され、本体部4aの内周部と、外筒3の縮径部3cの内周部とは、確実に連通されるのである。
【0088】
即ち、前述のとおり、本体部4aと、外筒3の内径部とは互いに略同じ上下方向に関する長さになるように形成されるとともに、本体部4aの内周部と、外筒3の縮径部3cの内周部とは、互いに同軸上に形成される。
【0089】
よって、外筒3の内周部に内筒4を上方より同軸上に挿嵌すると、係止部4bの下面は外筒3の係止部3bの上面に当接され、外筒3における内筒4の上下方向の位置が規制されるとともに、本体部4aの下端面は外筒3の本体部3aにおいて、内径部の底面に当接され、本体部4aの内周部と、外筒3の縮径部3cの内周部とが、連通されるのである。
【0090】
また、嵌合部4eによって、内筒4は外筒3と同軸上に位置するように、水平方向に関する位置を規制されることから、外筒3は前記内筒4の外周部より半径方向に向かって離れて配設され、内筒4の本体部4aの外周面と、外筒3の本体部3aの内周面との間に十分な空間部17(図2を参照)を保持することが可能となり、後述する電熱器5の配置スペースを確保できる。
【0091】
なお、外筒3、および内筒4の両係止部3b・4bの先端部には、ともに上下方向に貫通する貫通孔3f・3f・4f・4fが穿孔され、該貫通孔3f・3f・4f・4fを介して、ボルトなどを用いることで、外筒3、および内筒4は、ともに上型金型10Aに固定保持される。
【0092】
[電熱器5]
次に、電熱器5について、図5を用いて説明する。
なお、便宜上、図5の上下方向を電熱器5の上下方向とし、且つ矢印Aの方向を前方と規定して、以下説明する。
【0093】
電熱器5は、主に内筒4を加熱する加熱手段として設けられる。
電熱器5は所謂既知の電熱ヒーターであり、上下方向に向かってコイル状に巻回して形成される発熱部5aと、該発熱部5aの上端部より略後方に延出されるコード部5bとにより構成される。
【0094】
そして、コード部5bの後端部には、図示せぬ端子部が配設され、該端止部を介して電熱器5は後述する制御装置7(図1を参照)に連結される。
【0095】
ところで、図2に示すように、内筒4への電熱器5の着装については、内筒4の本体部4aを、発熱部5aの上方より下方に向かって、該発熱部5aと同軸上に該発熱部5aの内周部に挿入することで行われる。
【0096】
ここで、発熱部5aの内径寸法(図5に示すZ1寸法)は、内筒4の本体部4aの外径寸法(図4(b)に示すY6寸法)と略同程度に形成され、且つ発熱部5aの上下方向に関する長さ寸法(図5に示すZ3寸法)は、前記本体部4aの上下方向に関する長さ寸法(図4(b)に示すY5寸法)と略同程度に形成される。
【0097】
よって、発熱部5aは、その内周部を内筒4の本体部4aの外側面に接しつつ、該本体部4a外側面の上下方向の全範囲に渡り配設されることとなり、内筒4は電熱器5を介して全体的に加熱されるのである。
つまり、内筒4は電熱器5によって、その内周部を軸心方向に沿って全体的に加熱されるのである。
【0098】
一方、発熱部5aの外径寸法(図5に示すZ2寸法)は、外筒3の本体部3aの内径寸法(図3(b)に示すX2寸法)に比べて若干小さくなるように形成される。
【0099】
よって、内筒4は、本体部4aに電熱器5を着装しつつ、外筒3の内径部に挿入されることが可能である。
換言すれば、電熱器5は、内筒4の外周部と外筒3の内周部との間に形成される間隙を介して配設されるのである。
【0100】
なお、電熱器5については、本実施例に示すようなコイル状の発熱部5aを有するものに限定されるものではなく、内筒4の本体部4aを全体的に覆うことができる形状、例えば、単純なシート状(バンド状)の発熱部を有するものであってもよい。
【0101】
更に言えば、本実施例においては、内筒4の加熱手段として電気式の電熱器5を用いているが、これに限定されるものではなく、外筒3の内径部に内筒4を挿入した状態において、内筒4の本体部4aを全体的に加熱することが可能であれば、例えば、高温蒸気やバーナーなどを用いた加熱手段であってもよい。
【0102】
[温度センサー6]
次に、温度センサー6について、図1、および図2を用いて説明する。
温度センサー6は、内筒4の温度を検出する温度検出手段として設けられる。
温度センサー6は熱電対を利用した所謂既知の温度センサーであり、シース管に内装される熱電対を、内筒4の係止部4bの上面に形成される挿入穴4g(図4(a)を参照)に挿嵌することで、温度センサー6は、内筒4に備えられる。
【0103】
また、温度センサー6の配線は、後述する制御装置7に連結されており、温度センサー6によって検出された検出値(内筒4の温度)は、電気信号として制御装置7に送られる。
【0104】
[制御装置7]
次に、制御装置7について、図1を用いて説明する。
制御装置7は、所謂既知の温度調整器であり、鋳造装置100全体の運転を制御する制御盤(図示せず)に連結され、ガス抜き装置1に備えられる電熱器5の温度管理を行うことで、内筒4の温度を所定の温度に維持するために設けられる。
なお、制御装置7の構成については本実施例のものに限定されるものではなく、例えば、前記制御盤と一体的にしたものであってもよい。
【0105】
制御装置7には、設定温度を入力するための各スイッチ類や温度センサー6などが入力手段として接続されるとともに、電熱器5が出力手段として接続される。また、制御装置7には、先端部に差込プラグを有する電源コード(図示せず)が設けられ、該差込プラグを、例えば前記制御盤に備えられるコンセントに差し込むことで、制御装置7に電源が供給されるようになっている。
【0106】
制御装置7は、主としてRAMやROMなどからなる記憶部や、CPUからなる演算処理部などを備えて構成される。
記憶部には、電熱器5の運転に関するプログラムが格納される。また、記憶部には、演算処理部の命令により入力手段から入力された情報が一時的に保存されるようになっている。
【0107】
そして、電熱器5の温度管理に関する命令が、入力手段を介して制御装置7に与えられると、該制御装置7は記憶部より必要な情報や、温度管理に関するプログラムなどを読み出して演算処理部で演算処理を実行し、その後、演算結果に基づいて出力手段としての電熱器5に指令を与えるようになっている。
【0108】
具体的には、鋳造装置100によって鋳造製品を鋳造する際は、キャビティ12内に金属溶湯を注湯する前に、先ず内筒4に関する設定温度を、入力手段を介して制御装置7に入力する。
ここで、設定温度としては、少なくとも中子ガスの液化温度(液化し始める温度)が設定されることは言うまでもない。
【0109】
設定温度が記憶部に入力されると、温度センサー6によって現在の内筒4の温度(以下、「実温度」と記載する。)が検出され、電気信号として制御装置7に送信される。
そして、実温度に関する電気信号を受け取った制御装置7は、必要なプログラムと、設定温度に関する情報と、を演算処理部に呼び出して、演算処理を実行する。
【0110】
即ち、設定温度と実温度との大小関係を判定し、実温度が設定温度より低い場合には、電熱器5に電圧を印加して、該電熱器5の発熱が実行される。
つまり、検出した実温度が予め設定された設定温度に比べて低い場合、ガス抜きピン2(内筒4)の内周部によって形成される連通通路は、電熱器5によって、ウォータジャケット中子11Bの表面から鋳造金型10の外部に渡って全体的に加熱される。
【0111】
一方、実温度が設定温度より高い場合には、電熱器5への電圧の印加は行われず、該電熱器5の発熱は実行されない。
つまり、検出した実温度が予め設定された設定温度に比べて高い場合には、ガス抜きピン2(内筒4)の内周部によって形成される連通通路は、電熱器5によって加熱されることはない。
【0112】
なお、実温度が設定温度に到達すれば(実温度が設定温度以上の値となれば)、キャビティ12内に金属溶湯が注湯され、鋳造装置100による鋳造が開始されるが、温度センサー6による内筒4の温度の検出は、一定の時間間隔を有して継続的に実行され、鋳造製品を鋳造中、内筒4は温度センサー6によって常に温度管理(温調)されることとなる。
つまり、ガス抜きピン2(内筒4)の内周部は、電熱器5によって中子ガスが液化する液化温度を超える温度にまで加熱されるとともに、温度センサー6によって検出した内筒4の実温度に基づいて、前記電熱器5を介して常に温度管理(温調)されるのである。
【0113】
以上のように、本実施例におけるガス抜き装置は、鋳造金型10内部のキャビティ12に中子11を配設して鋳造する鋳造装置100のガス抜き装置1であって、前記中子11の表面と前記鋳造金型10の外部とを連通する中空構造のガス抜きピン2を備え、前記ガス抜きピン2は、その内周部を軸心方向に沿って全体的に加熱する電熱器(加熱手段)5を有することとしている。
【0114】
また、本実施例において実施されるガス抜き方法は、鋳造金型10内部のキャビティ12に中子11を配設して鋳造する鋳造装置100のガス抜き方法であって、前記鋳造装置100に、前記中子11の表面と前記鋳造金型10の外部とを連通するガス抜きピン2の内周部より形成される連通経路を設け、前記連通通路を、前記中子11の表面から前記鋳造金型10の外部に渡って全体的に加熱し、前記連通通路を介して、前記中子11より発生する中子ガスを鋳造金型10の外部に排出することとしている。
【0115】
このような構成を有することで、中子ガスをキャビティ12の外部に効果的に排出することが可能となり、中子ガスによるガス欠陥(所謂ひけ巣など)を低減し、良好な鋳造品質を確保することができる。
【0116】
即ち、キャビティ12内部の中子11の表面と、鋳造金型10の外部とを連通するガス抜きピン2において、該ガス抜きピン2を全体的に加熱する電熱器5を設けることで、該ガス抜きピン2(内筒4)の内周部を通過する中子ガスは、液化することなく常に気体の状態を維持することが可能となる。
つまり、電熱器5によって、中子ガスが液化しない温度にまでガス抜きピン2を全体的に加熱することで、該ガス抜きピン2(内筒4)の内周部を通過する中子ガスは、常に気体の状態を維持することが可能となる。
従って、液化した中子ガスがガス抜きピン2(内筒4)の内周部に付着し、その後更に冷却されて凝固することで、ガス抜きピン2(内筒4)の内周部を閉塞するようなこともなく、ガス抜きピン2(内筒4)の内周部は常に連通状態を維持することとなり、中子ガスをキャビティ12の外部へ効果的に放出することが可能となるのである。
【0117】
また、本実施例におけるガス抜き装置1において、前記ガス抜きピン2は、中空部材からなる外筒3と内筒4とを有し、前記内筒4は、前記外筒3の内周部に同軸上に挿設され、前記内筒4の外周面と前記外筒3の内周面との間に形成される空間部17を介して前記電熱器(加熱手段)5が配設されることとしている。
【0118】
また、前記ガス抜き装置1によって実施されるガス抜き方法において、前記連通通路は、中空部材からなる内筒4の内周部によって形成され、前記内筒4の外周部には、同じく中空部材からなる外筒3が該内筒4と同軸上、且つ前記内筒4の外周部より半径方向に向かって離れて配設され、前記内筒4の外周部と前記外筒3の内周部との間に形成される空間部17に、前記連通通路を加熱する電熱器(加熱手段)5を配設することとしている。
【0119】
このような構成を有することで、複雑な構成からなる加熱装置を別途設けることもなく、内筒4の外側面と外筒3の内側面との間隙部を利用して、電熱器5を容易に配設することができ経済的である。
また、電熱器5は外筒3の内周部に配設され、該外筒3の外周面に突出することがないことから、鋳造金型10に形成される連通孔10aの内周面に、外筒3の外周面が当接することで、該鋳造金型10に対するガス抜きピン2の位置規制を確実に行うことができる。
更に言えば、内筒4の外側面と外筒3の内側面との間隙部に充填される空気層が断熱効果を発揮し、内筒4の保温効果を図ることができる。
【0120】
また、本実施例におけるガス抜き装置1において、前記ガス抜きピン2の内周部は、前記電熱器(加熱手段)5によって、前記中子11から発生する中子ガスが液化する液化温度を超える温度にまで加熱されることとしている。
【0121】
また、前記ガス抜き装置1によって実施されるガス抜き方法において、前記連通通路は、前記中子11から発生する中子ガスが液化する液化温度を超える温度にまで加熱されることとしている。
【0122】
このような構成を有することで、ガス抜きピン2(内筒4)の内周部を通過する中子ガスは、常に気体の状態を保持することが可能となり、中子ガスの凝固によるガス抜きピン2(内筒4)の内周部の閉塞を確実に防止することができる。
よって、ガス抜きピン2を介して、中子ガスをキャビティ12外部に効果的に排出することが可能となり、中子ガスによるガス欠陥(所謂ひけ巣など)を低減し、良好な鋳造品質を確保することができる。
【0123】
また、本実施例におけるガス抜き装置1において、前記ガス抜きピン2は、自身の温度を検出する温度センサー(温度検出手段)6を有し、前記温度センサー(温度検出手段)6によって検出した温度に基づいて、前記電熱器(加熱手段)5を介して前記ガス抜きピン2を温調することとしている。
【0124】
また、前記ガス抜き装置1によって実施されるガス抜き方法において、前記連通通路は、自身の温度を検出し、前記検出した温度が予め設定された温度に比べて低い場合、前記連通通路は、前記中子11の表面から前記鋳造金型10の外部に渡って全体的に加熱され、前記検出した温度が予め設定された温度に比べて高い場合、前記連通通路は、加熱されないこととしている。
【0125】
このような構成を有することで、外気の急激な温度変化などの要因により、ガス抜きピン2の温度が突発的に低下することもなく、該ガス抜きピン2は中子ガスが液化しないような高温状態を常に保つことができる。
よって、ガス抜きピン2を介して、中子ガスをキャビティ12外部に効果的に排出することが可能となり、中子ガスによるガス欠陥(所謂ひけ巣など)を低減し、良好な鋳造品質を確保することができる。
【符号の説明】
【0126】
1 ガス抜き装置
2 ガス抜きピン
3 外筒
4 内筒
5 電熱器(加熱手段)
6 温度センサー(温度検出手段)
10 鋳造金型
11 中子
12 キャビティ
100 鋳造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内部のキャビティに中子を配設して鋳造する鋳造装置のガス抜き装置であって、
前記中子の表面と前記金型の外部とを連通する中空構造のガス抜きピンを備え、
前記ガス抜きピンは、その内周部を軸心方向に沿って全体的に加熱する加熱手段を有する、
ことを特徴とする鋳造装置のガス抜き装置。
【請求項2】
前記ガス抜きピンは、中空部材からなる外筒と内筒とを有し、
前記内筒は、前記外筒の内周部に同軸上に挿設され、
前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に形成される間隙を介して前記加熱手段が配設される、
ことを特徴とする請求項1に記載の鋳造装置のガス抜き装置。
【請求項3】
前記ガス抜きピンの内周部は、前記加熱手段によって、前記中子から発生するガスが液化する液化温度を超える温度にまで加熱される、
ことを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の鋳造装置のガス抜き装置。
【請求項4】
前記ガス抜きピンは、自身の温度を検出する温度検出手段を有し、
前記温度検出手段によって検出した温度に基づいて、前記加熱手段を介して前記ガス抜きピンを温調する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れか一項に記載の鋳造装置のガス抜き装置。
【請求項5】
金型内部のキャビティに中子を配設して鋳造する鋳造装置のガス抜き方法であって、
前記鋳造装置に、前記中子の表面と前記金型の外部とを連通する連通経路を設け、
前記連通通路を、前記中子の表面から前記金型の外部に渡って全体的に加熱し、
前記連通通路を介して、前記中子より発生するガスを金型の外部に排出する、
ことを特徴とする鋳造装置のガス抜き方法。
【請求項6】
前記連通通路は、中空部材からなる内筒の内周部によって形成され、
前記内筒の外周部には、同じく中空部材からなる外筒が該内筒と同軸上、且つ前記内筒の外周部より半径方向に向かって離れて配設され、
前記内筒の外周部と前記外筒の内周部との間に形成される間隙に、前記連通通路を加熱する加熱手段を配設する、
ことを特徴とする請求項5に記載の鋳造装置のガス抜き方法。
【請求項7】
前記連通通路は、前記中子から発生するガスが液化する液化温度を超える温度にまで加熱される、
ことを特徴とする請求項5、または請求項6に記載の鋳造装置のガス抜き方法。
【請求項8】
前記連通通路は、自身の温度を検出し、
前記検出した温度が予め設定された温度に比べて低い場合、
前記連通通路は、前記中子の表面から前記金型の外部に渡って全体的に加熱され、
前記検出した温度が予め設定された温度に比べて高い場合、
前記連通通路は、加熱されない、
ことを特徴とする請求項5乃至請求項7のうちの何れか一項に記載の鋳造装置のガス抜き方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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