説明

鋼の連続鋳造におけるノズル詰り防止方法

【課題】鍋ノズルや浸漬ノズルでの詰まりのない安定した連続鋳造操業を達成するための方法を提供する。
【解決手段】第1の発明では、溶存酸素濃度が50ppmを超える溶鋼に対して、タンディッシュ溶鋼または鋳片における目標Si、Mn、P、Cr濃度に対し、各元素の質量%で表される目標濃度の80%以上になるように、FeSi、FeMn、FeP、FeCr合金を添加する。第2の発明では、Al脱酸後に添加するFeSi、FeMn、FeP、FeCr合金の投入量が下記(A)式を満足するように、当該合金からのCa総混入量を制限する。
Ca総混入量=(0.5・WFeSi・CaFeSi/100 + 0.01・WFeMn・CaFeMn/100 + 0.02・WFeP・CaFeP/100 + 0.005・WFeCr・CaFeCr/100)/Wsteel ×106≦6 ・・・ (A)
ここで、Wi(kg)はAl脱酸後のi合金の添加量、Wsteel(kg)は溶鋼量、Cai(質量%)はフェロ合金i中のCa濃度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼の連続鋳造において、鍋ノズルや浸漬ノズルで発生するノズル詰りを防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノズルの詰まり防止については従来から様々な検討がなされており、多数の特許が出願されている。例えば特許文献1には、ノズル内壁からの不活性ガスの吹き込みによりノズルの詰まりを防止する方法が開示されている。また特許文献2には、ノズルの材質を工夫することにより、ノズルの詰まりを防止する方法が開示されている。また特許文献3には、浸漬ノズル耐火物を透過する空気を遮断することにより、ノズルの詰まりを防止する方法が開示されている。また特許文献4には、介在物の組成を制御することにより、ノズルの詰まりを防止する方法が開示されている。また特許文献5には、浸漬ノズル近傍の溶鋼中S低減により溶鋼の界面張力を制御し、ノズルの詰まりを防止する方法が開示されている。しかしそのような多くの工夫がなされてきたにもかかわらず、溶鋼の種類や操業方法によってはノズル詰まりが発生し、生産に支障を来たすことがある。
【特許文献1】特開昭52−57024号公報
【特許文献2】特開平5−96348号公報
【特許文献3】特開2000−205151号公報
【特許文献4】特開2001−64718号公報
【特許文献5】特開2003−290886号公報
【特許文献6】特開平9−192799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って本発明の目的は、鍋ノズルや浸漬ノズルでの詰まりのない安定した連続鋳造操業を達成するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者はノズル詰まりの発生メカニズムについて検討し、溶鋼中のCa濃度が6ppmよりも高まると溶鋼中のアルミナ粒子表面が固液共存状態となり、これがバインダーとなってクラスター状の粗大介在物が生成され、ノズル内壁に付着してノズル詰まりを招くことを解明した。さらにアルミキルド鋼での実鋳造の詳細な解析を行った結果、ノズル内壁付着物はアルミナであり、アルミナ内部に微量のCaOを含有する場合が多いこと、Caの起源が成分調整用に溶鋼に添加されるフェロ合金に不可避的に含まれる微量Caであることを知った。
【0005】
なお溶鋼中のCa濃度とノズル詰まりとの間に関係があることは、特許文献6にも開示されているが、特許文献6に記載の発明はアルミナ粒子のバインダーとなるP2O5をCaで還元するという内容であり、成分調整用に溶鋼に添加されるフェロ合金に着目したものでも、Caによるアルミナ粒子のクラスター化を防止しようとするものでもない。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた請求項1の発明は、タンディッシュ溶鋼または鋳片における目標Si、Mn、P、Cr濃度に対し、各元素の質量%で表される目標濃度の80%以上になるように、不可避不純物として0.5質量%以上のCaを含有するFeSi、FeMn、FeP、FeCr合金の内、添加合金量の多いほうから少なくとも2つ以上の合金を、溶存酸素濃度が50ppmを超える溶鋼に添加することを特徴とするものである。
【0007】
また同一の課題を解決するためになされた請求項2の発明は、Al脱酸後に添加するFeSi、FeMn、FeP、FeCr合金の投入量が下記(A)式を満足するように、当該合金からのCa総混入量を制限することを特徴とするものである。
Ca総混入量=(0.5・WFeSi・CaFeSi/100 + 0.01・WFeMn・CaFeMn/100 + 0.02・WFeP・CaFeP/100 + 0.005・WFeCr・CaFeCr/100)/Wsteel ×106≦6 ・・・ (A)
ここで、Wi(kg)はAl脱酸後のi合金の添加量、Wsteel(kg)は溶鋼量、Cai(質量%)はフェロ合金i中のCa濃度で0.5質量%以上である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明では、不可避不純物としてCaを含有するFeSi、FeMn、FeP、FeCr合金を、溶存酸素濃度が50ppmを超える溶鋼に添加する。通常、溶鋼中の溶存酸素濃度を50ppm未満とするためにはAlによる脱酸が必要であり、アルミナが溶鋼中に存在することとなるため、Caを含有するFeSi、FeMn、FeP、FeCr合金を投入するとアルミナ粒子のクラスター化が発生する。しかし溶存酸素濃度が50ppmを超える溶鋼、すなわちAlによる脱酸前の溶鋼中にこれらの合金を添加しても、アルミナが存在しないので粗大介在物が生成されることがなく、ノズル詰まりを防止できる。
【0009】
また請求項2の発明では、溶鋼中のCa濃度が6ppmよりも高まると溶鋼中のアルミナ粒子がクラスター化してノズル詰まりを招くとの知見に基づき、Al脱酸後に添加するFeSi、FeMn、FeP、FeCr合金から持ち込まれる総Ca混入量を6ppm以下に規制し、これによってノズル詰まりを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
前記したように、請求項1の発明では溶存酸素濃度が50ppmを超える溶鋼、すなわちAlによる脱酸前の溶鋼中に、タンディッシュ溶鋼または鋳片における目標Si、Mn、P、Cr濃度に対し、各元素の質量%で表される目標濃度の80%以上になるように、不可避不純物として0.5質量%以上のCaを含有するFeSi、FeMn、FeP、FeCr合金の内、添加合金量の多いほうから少なくとも2つ以上の合金を添加する。Alを添加する前の溶鋼にこれらの合金を添加しても、合金中Caを無害化することができる。
【0011】
ここで不可避不純物としてのCa含有率を0.5質量%以上としたのは、FeSi、FeMn、FeP、FeCr合金には0.5〜7質量%のCaが混在していることが分析により確認されたためである。またノズル閉塞を完全に防止するためには、目標Si、Mn、P、Cr濃度に対し、各元素の質量%で表される目標濃度の80%以上になるように、Al添加前に合金を添加する必要がある。80%未満ではAl脱酸後に投入する合金量が多くなるため、フェロ合金中のCaによるアルミナ粒子表面の局所溶解が発生し、ノズル閉塞を招くおそれがある。
【0012】
請求項1の発明によれば、成分調整用合金の投入タイミングを変えるだけで、連続鋳造におけるノズル詰まりを確実に防止して生産性を向上させることができる。このため特別な設備や合金中の不純物規制を必要としないので、操業時の作業負荷が小さく、低コストで優れた効果が得られる。
【0013】
請求項2の発明は、合金毎の脱酸溶鋼へのCa歩留まりを解析した結果、FeSi合金では50%、FeMn合金では1%、FeP合金では2%、FeCr合金では0.5%であることに基づきなされたものである。各フェロ合金中Caの溶鋼への混入量はこれらの歩留まり%/100×合金添加量(kg)×合金中Ca濃度(質量%)/100で求めることができる。またノズル閉塞を防止するためには、前記したようにフェロ合金からのCa総混入量を6ppm以下とする必要がある。これらの関係から、(A)式を規定したものである。この請求項2の発明はAl添加後に添加されるフェロ合金からのCa総混入量を規制したもので、この発明によっても連続鋳造におけるノズル詰まりを確実に防止して生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0014】
溶鋼約280トンの鋼種A〜D(表1)を、転炉-RHで溶製し、垂直曲げ型連鋳機を使って、厚さ250mm、幅1200〜2200mmの鋳片を製造した。鋳造速度は1.0〜1.7m/min、タンディッシュ温度は1520〜1580℃とした。浸漬ノズル1本当たり7連々鋳を実施し、ノズル閉塞状況を評価した。
【0015】
請求項1の発明に基づいてフェロ合金を添加した結果を、比較例とともに表2に示す。また請求項2の発明によりフェロ合金からのCa総混入量を規制した結果を、比較例とともに表3に示す。いずれの発明の実施例においても、ノズル閉塞が生じないことが確認された。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュ溶鋼または鋳片における目標Si、Mn、P、Cr濃度に対し、各元素の質量%で表される目標濃度の80%以上になるように、不可避不純物として0.5質量%以上のCaを含有するFeSi、FeMn、FeP、FeCr合金の内、添加合金量の多いほうから少なくとも2つ以上の合金を、溶存酸素濃度が50ppmを超える溶鋼に添加することを特徴とする鋼の連続鋳造におけるノズル詰り防止方法。
【請求項2】
Al脱酸後に添加するFeSi、FeMn、FeP、FeCr合金の投入量が下記(A)式を満足するように、当該合金からのCa総混入量を制限することを特徴とする鋼の連続鋳造におけるノズル詰り防止方法。
Ca総混入量=(0.5・WFeSi・CaFeSi/100 + 0.01・WFeMn・CaFeMn/100 + 0.02・WFeP・CaFeP/100 + 0.005・WFeCr・CaFeCr/100)/Wsteel ×106≦6 ・・・ (A)
ここで、Wi(kg)はAl脱酸後のi合金の添加量、Wsteel(kg)は溶鋼量、Cai(質量%)はフェロ合金i中のCa濃度で0.5質量%以上である。

【公開番号】特開2006−192439(P2006−192439A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3481(P2005−3481)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】