説明

鋼の連続鋳造方法

【課題】浸漬ノズルの内壁面にアルミナが付着するのを効果的に抑制し、浸漬ノズルの閉塞を防止することができる鋼の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】主成分としてアルミナを50〜85質量%およびカーボンを10〜40質量%で含有し、CaOを1質量%以上7質量%未満で含有するアルミナ−グラファイト質の耐火物で構成される浸漬ノズル6を用い、溶鋼中のトータル酸素濃度[O](質量ppm)、耐火物中のアルミナ含有率[Al23](質量%)、および耐火物中のCaO含有率[CaO](質量%)が下記(i)式を満足する条件で連続鋳造を行う。
90<[O]×[Al23]/[CaO]<600 ・・・(i)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼を連続鋳造する際に、アルミナ等の高融点脱酸生成物が浸漬ノズルの内壁に付着するのを低減し、浸漬ノズルの閉塞の防止を図った鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、溶鋼は取鍋から中間容器のタンディッシュを介し鋳型内に注入される。このとき、タンディッシュの底部には浸漬ノズルが設けられ、この浸漬ノズルの下部が鋳型内の溶鋼中に浸漬されていることから、溶鋼は浸漬ノズルを通じ大気から遮断された状態で注入される。
【0003】
浸漬ノズルとしては、アルミナとグラファイトを主成分とし、その他にシリカ等を含むアルミナ−グラファイト質のものが広く用いられている。連続鋳造の際、浸漬ノズルの内壁には、溶鋼中の脱酸元素であるアルミニウムの酸化物(アルミナ)が付着し、これが堆積するのに伴い浸漬ノズルが閉塞する、いわゆるノズル詰まりが発生しやすい。このノズル詰まりを防止するため、従来から数多くの対策がなされている。
【0004】
例えば、浸漬ノズルを構成する耐火物の材質に関する対策として、特許文献1、2には、ライム(CaO)を多く含むジルコニア−ライム質の耐火物を用いた浸漬ノズルが開示されている。また、特許文献3、4には、マグネシア−ライム質の耐火物を用いた浸漬ノズルが開示されている。これらの特許文献1〜4に開示された浸漬ノズルは、いずれも、ノズルの内壁に付着したアルミナをライムとの反応によって低融点化し、これによりアルミナの付着抑制を図ったものである。
【0005】
これらの浸漬ノズルは自溶性ノズルと称され、アルミナの付着抑制には高い効果を発揮する。しかし、溶鋼中のアルミナ濃度が高い場合や、浸漬ノズル内で溶鋼流速が速い場合は、耐火物の溶損が著しく、これに起因して鋳型内に多くの介在物が流出してしまう。このため、要求される品質レベルが高い鋼種には、特許文献1〜4に開示の浸漬ノズルを適用するのは難しい。
【0006】
また、特許文献5には、浸漬ノズルの内壁面を平滑に保ち、かつ溶鋼との濡れ性に優れたチタニア(TiO2)を内壁面にコーティングすることによって、アルミナの付着抑制を図った浸漬ノズルが開示されている。同文献に開示された浸漬ノズルは、アルミナの付着抑制に一定の効果を発揮するが、ノズル内壁面に施したコーティング層の耐久性に問題があり、安定してその効果を発揮することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2542585号
【特許文献2】特開平4−158962号公報
【特許文献3】特開2005−270987号公報
【特許文献4】特開2006−68799号公報
【特許文献5】特開2005−205474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、浸漬ノズルの内壁面にアルミナが付着するのを効果的に抑制するとともに、その効果を安定して維持し、浸漬ノズルの閉塞を防止することができる鋼の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため、浸漬ノズルの内壁面へのアルミナの付着を低減できる連続鋳造方法について、種々の視点から検討を重ね、その結果、下記の(a)および(b)の知見を得た。
【0010】
(a)従来、アルミナを主成分とする耐火物で構成される浸漬ノズルにおいて、その耐火物にライム(CaO)を含有させることは、耐火物を構成するアルミナの融点が低下して耐火性が損なわれるという理由から、禁忌事項であった。しかし、耐火物に含有させるライム量を制限することにより、浸漬ノズルの内壁を構成し溶鋼と接する耐火物面に、限定的に半溶融状態のガラス層を形成することができ、耐火物そのものの耐火性も十分に確保できることを見出した。
【0011】
連続鋳造の際に、浸漬ノズルの内壁面、すなわち耐火物面に半溶融状態のガラス層が形成されている場合、ガラス層が形成されていない場合に比べて、耐火物面と溶鋼との濡れ性が良好になり、溶鋼中のアルミナが耐火物面に付着するのを軽減することができる。通常、溶鋼中のアルミナは溶鋼と濡れ性が悪いため、溶鋼との濡れ性が同様に悪い耐火物面に排斥されるが、溶鋼と耐火物との濡れ性が良好な場合は、その排斥作用が抑制されるため、アルミナが耐火物面に付着しにくくなることによる。
【0012】
これに加え、耐火物面に半溶融状態のガラス層が形成されていると、耐火物面が平滑化されることから、アルミナの付着を軽減する効果が増大する。
【0013】
(b)浸漬ノズルとその内部を通過する溶鋼との間に通電回路を構成し、浸漬ノズルの内壁において、瞬時の電位をある期間にわたって平均した時間平均電位が負となるように電圧を印加し、適正な電流密度で通電を行うことにより、ノズルの内壁を構成する耐火物の溶損が防止され、耐火物面のガラス層を安定して維持することができる。
【0014】
自溶性ノズルでは、溶鋼と接する耐火物面が溶け出し、溶け出した耐火物と介在物との混合物が鋳片に取り込まれて介在物性の欠陥が発生し易い。このため、適正な電流密度で通電を行って、耐火物の溶損を抑制し耐火物面を健全な状態に維持することは、鋳片における介在物欠陥の発生を防止するのにも役立つ。すなわち、適正な電流密度の通電は、耐火物の溶損とアルミナの付着をともに抑制することを実現する上で有用である。
【0015】
本発明は、上記(a)および(b)の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記の(1)および(2)に示す鋼の連続鋳造方法にある。
【0016】
(1)タンディッシュ内の溶鋼を浸漬ノズルを通じて鋳型に供給し連続鋳造する鋼の連続鋳造方法であって、浸漬ノズルの少なくとも内壁を、主成分としてアルミナを50〜85質量%およびカーボンを10〜40質量%で含有し、CaOを1質量%以上7質量%未満で含有するアルミナ−グラファイト質の耐火物で構成し、前記溶鋼中のトータル酸素濃度[O](質量ppm)、前記耐火物中のアルミナ含有率[Al23](質量%)、および前記耐火物中のCaO含有率[CaO](質量%)が下記(i)式を満足する条件で連続鋳造を行うことを特徴とする鋼の連続鋳造方法(以下、「第1発明」ともいう)。
90<[O]×[Al23]/[CaO]<600 ・・・(i)
【0017】
(2)前記浸漬ノズルとその内部を通過する溶鋼との間に通電回路を構成し、前記浸漬ノズルが負極で前記溶鋼が正極となる電圧を印加して、前記浸漬ノズルにおける平均電流密度の絶対値が0.5〜20mA(ミリアンペア)/cm2となる通電を行うことを特徴とする前記(1)に記載の鋼の連続鋳造方法(以下、「第2発明」ともいう)。
【0018】
本発明において、「平均電流密度」とは、電圧を印加したときに浸漬ノズルと溶鋼との間に流れる平均電流値を、溶鋼と接するノズル壁面の総面積で除して得られる電流密度を意味する。ここでいう「平均電流値」は、電流値が一定でない場合には、浸漬ノズルと溶鋼との間に流れる電流の瞬時値を対象期間について時間平均して求められる電流値である。
【0019】
以下の説明では、特に断らない限り、浸漬ノズルを構成する耐火物、および溶鋼の成分組成を表す「%」は「質量%」を意味する。同様に、「ppm」は「質量ppm」を意味する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の鋼の連続鋳造方法によれば、浸漬ノズルの内壁面へのアルミナ付着を効果的に抑制し、さらにその効果を安定に維持して、浸漬ノズルの閉塞を防止することができる。これと同時に、浸漬ノズルの溶損を抑制し、浸漬ノズル内壁の溶損に起因する鋳片の介在物欠陥を防止することができる。これにより、鋳片品質に優れた連続鋳造の安定操業が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の連続鋳造方法を実施するために用いる装置構成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上述の通り、本発明は、CaOを1%以上7%未満で含有するアルミナ−グラファイト質の耐火物を少なくとも内壁に有する浸漬ノズルを用い、その耐火物中のアルミナ含有率およびCaO含有率に基づいて、溶鋼中のトータル酸素濃度を所定の範囲に管理しながら、タンディッシュ内の溶鋼を鋳型内へ供給し、連続鋳造を行う鋼の連続鋳造方法(第1発明)である。
【0023】
この連続鋳造方法において、浸漬ノズルとその内部を通過する溶鋼との間に通電回路を構成し、浸漬ノズルが負極で溶鋼が正極となる電圧を印加して、浸漬ノズルにおける平均電流密度の絶対値が所定範囲となる通電を行う実施形態(第2発明)を採用することができる。
【0024】
以下に、図面を参照して、本発明を前記の通り規定した理由を説明する。
【0025】
図1は、本発明の連続鋳造方法を実施するために用いる装置構成の一例を模式的に示す図である。同図に示すように、取鍋1からの溶鋼2を収容するタンディッシュ4は、底部に上ノズル3が設けられ、この上ノズル3の下部に、流量制御機構としてスライディングゲート5と、円筒状の浸漬ノズル6が順に連なって設けられている。
【0026】
さらに、浸漬ノズル6と溶鋼2との間に通電回路を構成するため、浸漬ノズル6に一方の電極7が接続され、その電極7の対極となる他方の電極(以下、「対極」ともいう)8がタンディッシュ4内の溶鋼2に浸漬され、それぞれ配線9a、9bにより電源装置10と接続されている。電極7および対極8は、いずれも導電性を有するアルミナ−グラファイト質の耐火物からなる。また、電極7が接続された浸漬ノズル6は、絶縁用耐火物11によってタンディッシュ4と電気的に絶縁され、溶鋼2に浸漬する対極8は、これを支持する絶縁用耐火物12によりタンディッシュ4から絶縁されている。絶縁用耐火物11、12は、いずれもカーボンを含まないアルミナ質の耐火物である。
【0027】
本発明の連続鋳造方法では、図1に例示した構成を具備する連続鋳造装置を用いて鋳造を行う。すなわち、取鍋1からタンディッシュ4に供給された溶鋼2は、上ノズル3、スライディングゲート5、および浸漬ノズル6を通じた後、浸漬ノズル6のノズル吐出孔13から鋳型14内に注入される。このとき、浸漬ノズル6の内部を通過する溶鋼は、スライディングゲート5の開閉度合いにより、その流量が調整される。本発明では、電源装置10の駆動により、電極7と対極8とを介し、浸漬ノズル6が負極で溶鋼2が正極となる所定の電圧を印加することができる。
【0028】
鋳型14に供給された溶鋼2は、湯面に散布されたモールドパウダー17により大気と遮断されながら、鋳型14からの抜熱作用により鋳型14との接触部から凝固殻15を形成し、下方に引き抜かれて鋳片16となる。
【0029】
1.第1発明
第1発明は、浸漬ノズルの少なくとも内壁を、主成分としてアルミナを50〜85%およびカーボンを10〜40%で含有し、CaOを1%以上7%未満で含有するアルミナ−グラファイト質の耐火物で構成し、溶鋼中のトータル酸素濃度[O](ppm)、耐火物中のアルミナ含有率[Al23](%)、および耐火物中のCaO含有率[CaO](%)が下記(i)式を満足する条件で連続鋳造を行う鋼の連続鋳造方法である。
90<[O]×[Al23]/[CaO]<600 ・・・(i)
【0030】
第1発明において、浸漬ノズルは、最も広く用いられているアルミナ−グラファイト質の耐火物、具体的には、アルミナの含有率が50〜85%で、グラファイトに相当するカーボンの含有率が10〜40%である耐火物を基本構成とし、これに、CaO(ライム)を前記の通り所定量含有させたものである。
【0031】
アルミナ−グラファイト質の耐火物は、強度、耐食性および耐熱衝撃性といった諸特性がコストとのバランスから最も優れており、浸漬ノズル本体として広く適用されている。浸漬ノズルを構成するアルミナ−グラファイト質の耐火物において、アルミナの含有率を50〜85%とするのは、50%未満では強度や耐食性が低下し、85%を超えると耐熱衝撃性が低下するからである。また、その耐火物において、カーボンの含有率を10〜40%とするのは、10%未満では耐熱衝撃性が低下し、40%を超えると強度や耐食性が低下するからである。
【0032】
浸漬ノズルを構成する耐火物にCaOを1%以上7%未満で含有させるのは、CaOの含有率が1%未満では、浸漬ノズルの内壁面となる耐火物面にガラス層が形成されにくく、7%以上になると、耐火物の溶損が顕著になり、いわゆる従来の自溶性ノズルと同等の状態になってしまうからである。CaO含有率のより好ましい範囲は、1.5%以上5%未満である。
【0033】
CaOの原料としては、吸湿性が問題となるCaO単体ではなく、ライムシリケート(CaO−SiO2)系原料やライム安定化ジルコニアを使用することが、安価でガラス層形成を実現できる点から好ましい。その他に、ライムアルミネート(CaO−Al23)系原料もCaOの原料となり得るが、ガラス層を安定して形成する点では、ライムシリケート系原料やライム安定化ジルコニアに比べて不利である。
【0034】
また、浸漬ノズルを構成する耐火物において、アルミナ、グラファイトおよびCaOの他に、SiO2、ZrO2、Na2O、TiO2、B23などの成分(不純物を含む)を含有しても構わない。それらの他の成分は、微妙な物性の調整や原料配合上で含まれる成分であり、その合計の含有率は、本発明の効果を維持する観点から、20%以下に抑えるのが望ましい。
【0035】
前記図1に示す浸漬ノズルでは、ノズル全体を、上述のように成分組成を規定したアルミナ−グラファイト質の耐火物で構成しているが、その耐火物を浸漬ノズルの内壁のみに配置してもよい。この場合、耐久性等を考慮して、その厚さを3〜10mmとするのが望ましい。
【0036】
第1発明においては、上述のように成分組成を規定した浸漬ノズルを使用することに加え、溶鋼中のトータル酸素濃度を上記(i)の条件を満たす範囲に管理しながら、タンディッシュ内の溶鋼を鋳型内へ供給して連続鋳造する。すなわち、溶鋼中のトータル酸素濃度[O](ppm)、耐火物中のアルミナ含有率[Al23](%)、および耐火物中のCaO含有率[CaO](%)で表される「[O]×[Al23]/[CaO]」が、90よりも大きく600よりも小さい範囲内となるように、トータル酸素濃度を調整することが必要である。「[O]×[Al23]/[CaO]」が600以上であると、浸漬ノズルの内壁面にアルミナ介在物が付着しやすく、「[O]×[Al23]/[CaO]」が90以下であると、ノズル内壁の溶損が著しくなりやすいからである。「[O]×[Al23]/[CaO]」のより好ましい範囲は、120以上で450以下である。
【0037】
第1発明の連続鋳造方法によれば、連続鋳造の際に、浸漬ノズルの内壁を構成する耐火物面に半溶融状態のガラス層が形成され、これに伴い、耐火物面と溶鋼との濡れ性が良好になり、しかも耐火物面が平滑化されるため、溶鋼中のアルミナが耐火物面に付着し難くなる。
【0038】
厳密には、耐火物面におけるガラス層の形成は、浸漬ノズル内を通過する溶鋼の温度、すなわち耐火物面の温度の影響を受ける。しかし、通常の鋼の連続鋳造においては、溶鋼温度が1500℃〜1580℃程度の範囲内に安定しており、耐火物面におけるガラス層の形成に及ぼす影響はほとんどない。
【0039】
本発明の連続鋳造方法は、sol.Al濃度が0.01%以上のアルミキルド鋼の連続鋳造で、その効果を有効に発揮する。アルミキルド鋼の連続鋳造では、溶鋼中に脱酸生成物としてアルミナが生成されるからである。
【0040】
2.第2発明
第2発明は、第1発明を実施するに際し、前記図1に示すように、タンディッシュ4から鋳型14へ溶鋼2を供給する浸漬ノズル6に電極7を接続し、タンディッシュ4内の溶鋼2に対極8を浸漬して、浸漬ノズル6とこの内部を通過する溶鋼2との間に通電回路を構成し、電極7と対極8との間に、浸漬ノズル6が負極で溶鋼2が正極となる電圧を印加して、浸漬ノズル6における平均電流密度の絶対値が0.5〜20mA/cm2となる通電を行う連続鋳造方法である。
【0041】
第2発明において、浸漬ノズルが負極となる電圧を印加するのは、浸漬ノズルの内壁を構成する耐火物の溶損を抑制するためである。耐火物の溶損を抑制できると、結果的に、耐火物面に形成されたガラス層が安定して維持される。浸漬ノズルの電位が正となったときの反応によってノズル耐火物の溶損が進行するため、その逆の負の電位に浸漬ノズルを保つことが、耐火物の溶損抑制とガラス層の安定保持に有効だからである。
【0042】
そして、耐火物の溶損抑制作用は、浸漬ノズルにおける平均電流密度の絶対値が0.5mA/cm2未満では十分に発揮されない。また、その平均電流密度の絶対値が20mA/cm2を超えるほどの大電流密度は必要なく、20mA/cm2を超えると、酸素イオンの移動に起因して溶鋼中のAlが酸化されアルミナが生成するので望ましくない。浸漬ノズルにおける平均電流密度の絶対値のより望ましい範囲は、0.8〜17mA/cm2である。
【0043】
第2発明によれば、上記の第1発明と合わせて実施することにより、浸漬ノズルの内壁を構成する耐火物面にアルミナが一層付着し難く、耐火物の溶損を一層抑制することができ、耐火物面を健全な状態に保つことができる。
【実施例】
【0044】
本発明の連続鋳造法の効果を確認するため、以下に示す試験を実施して、その結果を評価した。
【0045】
前記図1に示す連続鋳造装置を用い、成分組成が質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.1〜0.4%、Mn:0.4〜1.2%、P:0.01〜0.02%、S:0.01〜0.03%、sol.Al:0.010〜0.045%、トータル酸素濃度:9〜13ppmの普通鋼の溶鋼を採用し、連続鋳造を行った。試験時のタンディッシュ内の溶鋼温度は、1515〜1560℃の範囲内であった。
【0046】
表1に、鋳造試験で使用した浸漬ノズルを構成する耐火物の成分組成、溶鋼中のトータル酸素濃度[O]、およびその他の試験条件、ならびに浸漬ノズルの内壁面への介在物(アルミナ)付着速度指数をまとめて示す。表1および後述する表2に示す「介在物付着速度指数」は、鋳造後の浸漬ノズルの内壁面における介在物付着厚さを測定し、その平均値を求め、この平均介在物付着厚さを鋳造時間で除して求めた介在物付着速度を、通常のアルミナ−グラファイト質の耐火物からなる浸漬ノズルを使用した試験番号Dの場合を10(基準)として指数化したものである。浸漬ノズルの内壁が溶損した場合は、同指数の符号はマイナスとなる。なお、表1に示した耐火物のCaO原料には、全てライムシリケート系原料を用いた。
【0047】
【表1】

【0048】
表1において、試験番号A〜Cは、第1発明で規定する条件をすべて満たす本発明例である。試験番号A〜Cでは、浸漬ノズル本体を構成するアルミナ−グラファイト質の耐火物において、アルミナおよびカーボンの含有率が適正であるので、浸漬ノズルとして要求される強度、耐食性、耐熱衝撃性が良好である。さらに、浸漬ノズルを構成する耐火物のCaOの含有率が適正であり、しかも、「[O]×[Al23]/[CaO]」が上記(i)式の条件を満たすので、耐火物面に半溶融状態のガラス層が形成され、平滑で溶鋼との濡れ性が良好になる。これらのことから、鋳造後の介在物付着速度指数は、本発明例の試験番号A〜Cのいずれにおいても6と小さく、浸漬ノズル内壁面へのアルミナの付着が効果的に抑制された。
【0049】
試験番号Dは、CaOを含有することなく、CaO含有率が第1発明で規定する範囲に満たない通常のアルミナ−グラファイト質からなる浸漬ノズルを使用した比較例であり、耐火物面にガラス層が形成されないため、ノズル内壁面にアルミナが多量に付着した。
【0050】
試験番号Eは、CaO含有率が第1発明で規定する範囲を超え、上記(i)式の条件を満たさない浸漬ノズルを使用した比較例である。この試験番号Eでは、耐火物中のCaO含有率が、耐火物中のアルミナ含有率や溶鋼中のトータル酸素濃度に対して過剰に高いため、耐火物の溶損が過大になり、いわゆる自溶性ノズルの特性を示し、介在物付着速度指数はマイナスとなった。しかも、浸漬ノズルの高温となった部分に軟化が認められた。
【0051】
次に、本発明例の試験番号Aの条件に加え、前記図1に示す電源装置10を使用して電極7と対極8に電圧を印加し、浸漬ノズルと溶鋼との間に電位差を与える通電を行いながら連続鋳造を実施した。
【0052】
表2に、通電条件、および浸漬ノズルの内壁面への介在物付着速度指数をまとめて示す。表2において、電流密度の符号がマイナスの時は、浸漬ノズルが負極となっていることを示し、同符号がプラスの時は浸漬ノズルが正極となっていることを示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示す試験番号F〜Jは、いずれも第1発明で規定する条件を満たす本発明例である。このうち、試験番号FおよびGは、さらに第2発明で規定する条件を満たしている。
【0055】
試験番号FおよびGでは、浸漬ノズルが負極となるように通電を行った。介在物付着速度指数はいずれも4であり、他の条件は同じで通電を行わなかった上記試験番号A(介在物付着速度指数が6)に比べて、浸漬ノズル内壁面へのアルミナ介在物の付着が抑制された。
【0056】
また、使用後に耐火物表面近傍の断面を顕微鏡で観察して比較すると、通電を行った試験番号FおよびGでは、通電を行わなかった試験番号Aに比べて、耐火物と付着物との境界が明瞭で耐火物の溶損が進行していないことが確認できた。試験番号Aでは、付着物と耐火物との境界が不明瞭であるのに加え、耐火物表面近傍で脱炭が進んでいることが観察された。このことは、逆に、試験番号FおよびGでは、第2発明で規定する通電を行うことによって、耐火物の脱炭反応が抑制されていることを示している。
【0057】
試験番号Hは、浸漬ノズルにおける平均電流密度の絶対値が第2発明で規定する条件から外れて過大であった場合である。この場合、平均電流密度の絶対値が大き過ぎることに伴い、酸素イオンの移動に起因してアルミナが生成し、試験番号F、Gのようなアルミナの付着抑制効果が得られず、無通電の場合(試験番号A)に対してアルミナ付着量が若干増える結果となった。
【0058】
試験番号Iは、浸漬ノズルにおける平均電流密度の絶対値が第2発明で規定する条件から外れて小さい場合である。この場合、平均電流密度の絶対値が小さいため、通電の効果が十分に発揮されず、介在物の付着と耐火物の溶損の状況は、通電を行わなかった試験番号Aと同等の結果であった。
【0059】
試験番号Jは、試験番号Gと同じ平均電流密度の通電を、第2発明で規定する条件での極性とは逆の極性で行った場合である。この場合の極性は、アルミナ−グラファイト質耐火物を単に溶鋼に浸漬した場合に生じる起電力と同じ極性である。すなわち、この場合の極性は、脱炭を伴うアルミナ−グラファイト質耐火物の溶損が生じる場合の極性であるので、通電によって耐火物の溶損が助長され、鋳片の介在物欠陥を生じる原因となる。耐火物の溶損が生じることに伴って、付着物も洗い流されるので、介在物付着速度指数は無通電の場合(試験番号A)と比べて、やや低い値となった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の鋼の連続鋳造方法によれば、浸漬ノズルを構成する耐火物の成分組成、および溶鋼中のトータル酸素濃度を適正化し、さらに浸漬ノズルと溶鋼の間に、浸漬ノズルが負極となる通電をしながら鋳造を行うため、ノズル内壁面へのアルミナの付着を効果的に抑制し、同時に耐火物の溶損を抑制し、浸漬ノズルの内壁面を閉塞も損耗も無い健全な状態に維持することができる。
【0061】
したがって、本発明の連続鋳造方法は、浸漬ノズルの閉塞と溶損に起因する操業上および鋳片品質上の問題を同時に防止し得る極めて有用な技術である。
【符号の説明】
【0062】
1:取鍋、 2:溶鋼、 3:上ノズル、 4:タンディッシュ、
5:スライディングゲート、 6:浸漬ノズル、 7:一方の電極、
8:他方の電極(対極)、 9a、9b:配線、 10:電源装置、
11、12:絶縁用耐火物、 13:ノズル吐出孔、 14:鋳型、
15:凝固殻、 16:鋳片、 17:モールドパウダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュ内の溶鋼を浸漬ノズルを通じて鋳型に供給し連続鋳造する鋼の連続鋳造方法であって、
浸漬ノズルの少なくとも内壁を、主成分としてアルミナを50〜85質量%およびカーボンを10〜40質量%で含有し、CaOを1質量%以上7質量%未満で含有するアルミナ−グラファイト質の耐火物で構成し、
前記溶鋼中のトータル酸素濃度[O](質量ppm)、前記耐火物中のアルミナ含有率[Al23](質量%)、および前記耐火物中のCaO含有率[CaO](質量%)が下記(i)式を満足する条件で連続鋳造を行うことを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
90<[O]×[Al23]/[CaO]<600 ・・・(i)
【請求項2】
前記浸漬ノズルとその内部を通過する溶鋼との間に通電回路を構成し、
前記浸漬ノズルが負極で前記溶鋼が正極となる電圧を印加して、前記浸漬ノズルにおける平均電流密度の絶対値が0.5〜20mA(ミリアンペア)/cm2となる通電を行うことを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−56516(P2011−56516A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205765(P2009−205765)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】