説明

鋼コンクリート合成床版構築用パネルおよび鋼コンクリート合成床版

【課題】主桁架設時の誤差等を吸収して橋梁完成時の路面の高さを計画通りの高さに容易に調整することができ、また輪荷重などによって作用するせん断力の大きくなる主桁付近の床版厚を増大して補強することの可能な合成床版構築用パネルを提供する。
【解決手段】橋軸方向に延びる複数の主桁1,1間に主桁1を跨いで配置された底鋼板6と、底鋼板6の上に主桁1を跨いで橋軸直角方向に配置された複数のトラス鉄筋7とを備えて構成する。主桁1との取り合い部に主桁1側に下り勾配に傾斜して延びるハンチ部底鋼板6cを設ける。当該ハンチ部底鋼板6cとトラス鉄筋7との間にハンチ部底鋼板6cの高さhを調整保持するためのハンチ部底鋼板保持ボルト12を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼コンクリート合成床版構築用パネルおよび当該パネルを用いて構築された合成床版に関し、交通量の多い(重交通)道路橋や車道橋に利用され、特に主桁架設時の誤差等を吸収して橋梁完成時の路面の高さを計画通りの高さに容易に調整することができ、また輪荷重などによって作用するせん断力の大きくなる主桁付近の床版厚を増大して容易に補強することができる。
【背景技術】
【0002】
一般に、交通量の多い道路橋や車道橋の床版には耐久性と大きな強度が求められる。また、床版の架け替えに際しては、短期間での施工が求められる。さらに、道路橋や車道橋の路面には同じ橋梁の中でも曲線部などの部位により橋軸直角方向に勾配(カント)を付けることがある。
【0003】
このような用途に適した床版として鋼コンクリート合成床版(以下「合成床版」)が用いられる。
【0004】
合成床版の基本的な構成要素は、底鋼板、リブ材、ずれ止め、補強鉄筋、コンクリートであり、リブ材やずれ止め形式の違い等により種々の合成床版が製品化され、製品によってはリブ材とずれ止めを兼用させたものもある。
【0005】
また、合成床版は底鋼板、リブ材、ずれ止めを鋼製型枠として工場製作し、この鋼製型を現地で主桁間に架け渡し、その上にコンクリートを打設して構築され、特に主桁との取り合い部には床版を部分的に厚くしてハンチが設けられる。
【0006】
主桁との取り合い部にハンチを設けることで、主桁架設時の誤差を吸収することができるだけでなく、路面に必要に応じて縦断方向と横断方向の勾配をつけて橋梁完成時の路面の高さを計画値に近づけることができ、また輪荷重などによって床版に作用するせん断力の大きくなる主桁付近を容易に補強することができる。
【0007】
ところで、合成床版は鋼製型枠を使用することにより、重交通下における床版の破損を防止することが可能なだけでなく、型枠材の省力化、工期の短縮化、さらには施工の安全性と経済性の向上が図れる等のメリットがあり、特にプレキャストコンクリート床版などに比べて軽量なため輸送効率が高い等のメリットがあり、また、工期を大幅に短縮できて床版の架け替えにも適している。
【0008】
たとえば、特許文献1には、底鋼板の上に多数の孔を有する帯板を溶接し、この帯板をリブ材兼ずれ止めとしたものが記載されている。また、特許文献2には、底鋼板の上にトラス鉄筋を配置し、このトラス鉄筋をリブ材兼ずれ止めとしたものが記載されている。さらに、特許文献3には、底鋼板の上にH形鋼またはI形鋼からなる補強鋼材を取り付け、この補強鋼材のウェブにずれ止め開口部を設け、さらに主桁との取り合い部にハンチを設けたものが記載され、ハンチ部は底鋼板から主桁側に斜めに突設されたハンチプレートとハンチの形状を保持するための鋼板スペーサーから形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−221706号公報
【特許文献2】特開平11−303022号公報
【特許文献3】特開2001−81729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載された合成床版では、合成床版と主桁との取り合い部のディテールについて特に記載がなく、また図面にもハンチが図示されていないことから、主桁間の高のばらつきの吸収やせん断力に対する補強が不十分である。
【0011】
また、特許文献3に記載された合成床版では、ハンチは設けられているものの、現地施工において生じる施工誤差などに対応するためには、サイズの異なるスペーサーを多数準備する必要があり、様々な要因で生じる誤差に柔軟に対応するのはきわめて困難であった。
【0012】
また、施工に際し、工場製作された鋼製型枠を主桁の上に敷設した後に、鋼製型枠内にコンクリートを打設するのが一般的であるが、ハンチ部を鋼板スペーサーで仕切ってしまうと、コンクリートの充填不良が生じるおそれがあった。
【0013】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、主桁架設時の誤差等を吸収して橋梁完成時の路面の高さをほぼ設計通りの高さに調整することができ、また輪荷重などによって床版に作用するせん断力の大きくなる主桁付近を容易に補強できるようにした合成床版構築用パネルおよび当該パネルによる合成床版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の合成床版構築用パネルは、橋軸方向に延びる複数の主桁間に主桁を跨いで配置された底鋼板と、底鋼板の上に主桁を跨いで橋軸直角方向に配置された複数のリブ材とを備えて構成される鋼コンクリート合成床版構築用パネルにおいて、前記底鋼板の主桁との取り合い部に主桁側に下り勾配に傾斜して延びるハンチ部底鋼板が設けられ、当該ハンチ部底鋼板とリブ材との間にハンチ部底鋼板の高さを調整・保持するためのハンチ部底鋼板保持部材を備えていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明は、主桁架設時の施工誤差等を吸収して橋梁完成時の路面の高さを容易に調整することができ、またハンチ部の高さを増して主桁取り合い部のせん断補強を容易に行なえるようにしたものである。
【0016】
本発明によれば、ハンチ部底鋼板保持部材を介してハンチ部底鋼板の高さを変えることにより主桁架設時の施工誤差等を容易に吸収することができ、また、道路曲線部などにおける必要な道路勾配(カント)なども容易に付けることができ、これにより橋梁完成時の路面の高さをほぼ設計通りの高さに調整することができる。また、ハンチ部の床版の厚みを増すことにより主桁取り合い部のせん断補強を容易に行なうことができる。
【0017】
この場合のハンチ部底鋼板保持部材には、例えばボルトを使用することができる。ハンチ部底鋼板保持ボルトは、リブ材に取り付けられた保持プレートのねじ孔に鉛直に螺合してハンチ部底鋼板の上に立て付けるだけでよい。保持プレートは厚めのプレートに保持ボルトを螺合するためのねじ孔をタップ等によって形成したり(図7(a),(b)参照)、あるいは保持ボルトを螺合するための保持ナットを取り付ける(図8(a),(b)参照)等の方法により容易に形成することができる。
【0018】
さらに、ハンチ部底鋼板保持部材として、ハンチ部底鋼板とリブ材との間にハンチ部底鋼板の高さを調整保持するための保持ボルトを備えたハンチ部底鋼板保持金具を設置してもよい(図9,10参照)。
【0019】
いずれの場合においても、保持プレートは溶接または番線などの結束線でリブ材に固定することにより簡単に取り付けることができる(図6(a),(b)参照)。特に、結束線の使用は、施工現場で再結束することにより微調整が可能であり、また工場でのパネルの製作工数もほとんど増加しない。
【0020】
また、保持ボルトや保持金具によってハンチ底鋼板の先端部を主桁の上に強く押し付けて密着させることにより、コンクリート打設時の漏出を防止することができる。
【0021】
なお、保持ボルトは、床版パネルの重量を支える荷重支持点の働きを有するので、保持プレートは保持ボルトが転倒しないように少なくとも2本以上のリブ材間に差し渡して設置するのが望ましい。
【0022】
また、本発明の合成床版構築用パネルの製作に際しては、底鋼板と主桁が取り合う部分を除いてパネルの大部分を工場で製作できるようにすることで、品質管理が容易で一定品質以上の合成床版構築用パネルを提供することができる。
【0023】
また、ハンチ部底鋼板を含む底鋼板には、厚さ4.5mm〜9mm程度の鋼板を使用することにより、底鋼板の鋼材量は通常の鉄筋コンクリート床版で配筋される下端側主・配力鉄筋の鋼材量に比べて多くなるため、下端側主・配力鉄筋とその配筋作業を省略することができる。
【0024】
リブ材は、底鋼板と一体になってパネル全体に所定の強度(剛性)を付与して、吊り上げ時やコンクリート打設時などの施工時におけるパネルの形状を保持する機能を有するものであり、トラス鉄筋の他にH形鋼やI形鋼などの形鋼、多数の孔を有する帯鋼などを利用することができ、その形状や配置間隔等は設計条件によって適宜決定することができる。
【0025】
特にトラス鉄筋は、保持プレートを番線等の結束線で結束しやすく、またコンクリートの充填性も良いので望ましい。
【0026】
この場合のトラス鉄筋には、例えば、単に平行に配置された上端鉄筋および下端鉄筋とこの上端鉄筋と下端鉄筋との間に配筋された複数の斜め鉄筋あるいはラチス鉄筋などから平面トラス状に形成されたもの、あるいは平行に配置された一本の上端鉄筋および2本の下端鉄筋とこの上端鉄筋と2本の下端鉄筋との間に配筋された複数の斜め鉄筋あるいはラチス鉄筋などから立体トラス状に形成されたもの等が考えられる。
【0027】
立体トラス状に形成されたリブ材は、剛性の高い帯鋼や形鋼からなるリブ材が、設置時に間隔が空きすぎるのに対して、比較的適切な間隔に設置できて望ましい。
【0028】
なお、トラス鉄筋に保持プレートを番線などの結束線で結束して取り付ける場合、保持プレートの端部にトラス鉄筋の下端部が支持部材から外れないようにリップを設けるのが望ましい(図6(c)参照)。
【発明の効果】
【0029】
本発明の合成床版構築用パネルおよび当該合成床版構築用パネルからなる合成床版は、橋軸方向に延びる複数の主桁間に主桁を跨いで配置された底鋼板と、当該底鋼板の上に主桁を跨いで橋軸直角方向に配置された複数のリブ材とを備え、特に主桁との取り合い部に橋軸直角方向に下り勾配に傾斜するハンチ部底鋼板を備え、かつ当該ハンチ部底鋼板とリブ材との間にハンチ部底鋼板の高さを調整保持するためのハンチ部底鋼板保持部材を備え、当該ハンチ部底鋼板保持部材を介してハンチ部底鋼板の高さを変えることにより、主桁架設時の誤差等を吸収して橋梁完成時の路面の高さを計画通りの高さに容易に調整することができ、また輪荷重などによって作用するせん断力の大きくなる主桁付近の床版厚を増大して容易に補強することができる。
【0030】
さらに、品質管理のもと工場生産が可能であり、一定品質を備えた鋼コンクリート合成床版構築用パネルを容易に製作することができる等の効果がある。
【0031】
そして、当該鋼コンクリート合成床版構築用パネルを使用することにより、交通量の多い(重交通)道路橋や車道橋をきわめて効率的にかつ短期間で構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】橋軸方向に平行に架設された主桁間に構築された鋼コンクリート合成床版の床鋼板、トラス鉄筋および補強筋の配置を示す一部平面図である。
【図2】図1および図5におけるイ−イ線断面図である。
【図3】鋼コンクリート合成床版構築用パネルと主桁と取り合い部を示し、(a)は、コンクリート打設前の図1におけるロ-ロ線断面図、(b)は、コンクリート打設後の図1におけるロ−ロ線断面図である。
【図4】橋軸方向に隣接する鋼コンクリート合成床版構築用パネル間の接合部を示し、(a)は、コンクリート打設前の図1におけるハ−ハ線断面図、(b)は、コンクリート打設後の図1におけるハ−ハ線断面図である。
【図5】鋼コンクリート合成床版構築用パネルの平面図である。
【図6】(a),(b),(c)は、支持プレートの取付態様を示すトラス鉄筋の断面図である。
【図7】ハンチ部底鋼板の高さ調整を行うハンチ部底鋼板保持ボルトの設置態様を示し、(a)はその側面図、(b)は(a)におけるニ−ニ線断面図である。
【図8】ハンチ部底鋼板の高さ調整を行うハンチ部底鋼板保持ボルトの設置態様を示し、(a)はその側面図、(b)は(a)におけるホ−ホ線断面図である。
【図9】ハンチ部底鋼板の高さ調整を行う高さ調整金具の一例を示し、(a)はその設置態様を示す側面図、(b)は高さ調整金具の分解斜視図である。
【図10】ハンチ部底鋼板の高さ調整を行う高さ調整金具の他の例を示し、(a)はその設置態様を示す側面図、(b)は高さ調整金具の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1〜図10は、本発明の一実施形態を示し、図において、橋軸方向に平行に架け渡された複数の主桁1,1の上に複数の合成床版構築用パネル2が複数の主桁1を跨いで橋軸直角方向に連続して架け渡され、また橋軸方向に互いに隣接して架け渡されている。
【0034】
各合成床版構築用パネル2は主桁1,1の上に一体的に固定され、また、橋軸方向に互いに一体的に接合されている。さらに、複数の合成床版構築用パネル2の上に複数の補強筋3が橋軸方向および橋軸直角方向に連続して配筋されている(図3(a)、図4(a)参照)。
【0035】
そして、その上にコンクリート4、さらにその上にアスファルトコンクリート等の舗装コンクリート5が連続して打設されている(図1、図3(b)、 図4(b)参照)。以上の構成により合成床版構築用パネル2を用いた合成床版が構築されている。
【0036】
さらに、詳しく説明すると、合成床版構築用パネル2は、主桁1,1の上に主桁1を跨いで橋軸直角方向に連続して敷設された底鋼板6と、底鋼板6の上に主桁1を跨いで橋軸直角方向に連続して架け渡された複数のトラス鉄筋(リブ材)7とから構成されている。
【0037】
底鋼板6は、主桁1,1間に敷設された主桁間底鋼板6aと、主桁1,1の外側に敷設された張出し部底鋼板6b,6bと、主桁間底鋼板6aと張出し部底鋼板6bとの間に主桁1を挟んで対称に敷設されたハンチ部底鋼板6c,6cとから形成されている。
【0038】
ハンチ部底鋼板6cは、主桁間底鋼板6aと張り出し底鋼板部6bにそれぞれ連続して形成され、かつ主桁1の方向に下り勾配に傾斜して形成され、その先端部6dは主桁1のフランジ1aの上に水平に延在されている(図3(a),(b)参照)。
【0039】
また、主桁間底鋼板6a、張出し部底鋼板6bおよびハンチ部底鋼板6cの橋軸方向の両端部に継手6eが形成されている。そして、この継手6eどうしが溶接または複数の接合プレート8と接合ボルト9によってボルト締結されることにより、橋軸方向に隣接する各主桁間底鋼板6aどうし、張出し部底鋼板6bどうしおよびハンチ部底鋼板6cどうしがそれぞれ互いに一体的に接合されている(図4(a),(b)参照)。
【0040】
なお、ハンチ部底鋼板6cは、主桁間底鋼板6aおよび張出し部底鋼板6bに連続させず、それぞれ別々に形成し、両者を連結ボルト等で一体的に連結する構造でもよい。
【0041】
また、主桁間底鋼板6a、張出し部底鋼板6bおよびハンチ部底鋼板6cの上にスタッドジベルを突設することで各底鋼板とコンクリート4との一体性を高めることができる。
【0042】
トラス鉄筋7は、主桁間底鋼板6a、張出し部底鋼板6b,6bおよびハンチ部底鋼板6c,6cの上に主桁1,1を跨いで橋軸直角方向に梁状に連続して複数配置され、また橋軸方向に所定間隔をおいて配置されている。
【0043】
この場合のトラス鉄筋7は、底鋼板6と同様に合成床版の構造材としての働きを有する他に、主桁間底鋼板6a、張出し部底鋼板6b,6bおよびハンチ部底鋼板6c,6cとを一体化させてパネル全体に一定以上の強度(剛性)を付与することにより、主桁1,1間にパネルを架設する際やコンクリート4を打設する際などの施工時におけるパネルの形状を保持する働きを有するものであり、その形状や配置間隔等は設計条件によって適宜決定される。
【0044】
なお、トラス鉄筋7は、橋軸直角方向に平行に配筋された一本の上端筋7aと二本の下端筋7b,7bとこの上端筋7aと下端筋7b,7bとの間に配筋された複数のラチス筋7cから橋軸直角方向に連続する立体トラス梁状に形成され、また、底鋼板6の主桁間底鋼板6aおよび張出し部底鋼板6b,6bの上に溶接等により一体的に固着されている。
【0045】
また、主桁1のフランジ1aの上面には頭付きスタッド等からなる複数のスタッド10が突設されている(図3(a),(b)参照)。
【0046】
さらに、複数の補強筋3が各トラス鉄筋7の上端筋7aを跨いで橋軸方向および橋軸直角方向に連続して配筋され、底鋼板6の上にコンクリート4が連続して打設されている(図3(b),図4(b)参照)。
【0047】
コンクリート4は、主桁1のフランジ1aの上面にも打設され、これにより各合成床版構築用パネル2は主桁1の上に一体的に固定され、また主桁1との取り合い部、すなわち主桁1の両側にハンチ11が対称に形成されている(図2、図3(b)参照)。
【0048】
また、トラス鉄筋7とハンチ部底鋼板6cとの間に、ハンチ部底鋼板6cの高さを調整し、かつハンチ部底鋼板6cを高さ調整後の位置に保持するためのハンチ部底鋼板保持ボルト12(以下「保持ボルト12」)が設置されている。
【0049】
保持ボルト12は、トラス鉄筋7の下端筋7b,7b間に設置された保持プレート13のねじ孔13aに螺合された状態で、ハンチ部底鋼板6cの上に鉛直に立て付けられている(図3(a),(b)、図7(a),(b)参照)。
【0050】
そして、保持ボルト12を回してその突出長さLを変えることによりハンチ部底鋼板6cの高さを自由に調整することができ、また、ハンチ部底鋼板6cを高さ調整後の高さに保持することができる。
【0051】
すなわち、保持ボルト12の突出長さLを長くすることによりハンチ部底鋼板6cは、下方に押されて主桁間底鋼板6aおよび張出し部底鋼板6bの先端付近を境に下方に斜めに変形することによりハンチ部底鋼板6cは高くなり、またこれにより合成床版構築用パネル2の高さや勾配を調整することができる。
【0052】
なお、保持プレート13は、トラス鉄筋7の下端筋7b,7b間に橋軸直角方向に水平に設置され、下端筋7b,7bに溶接または番線などの結束線によって止め付けられている(図6参照)。また、ねじ孔13aはタップによって形成されている。
【0053】
また、保持ボルト12は、合成床版構築用パネル2およびその上に打設されるコンクリート4、舗装コンクリート5の重量を支持する荷重支持点の働きを有するため、保持プレート13は、保持ボルト12および保持プレート13が転倒しないように2本以上の立体トラス7,7間を跨ぐように設置するのが望ましい。
【0054】
図8(a),(b)は、ハンチ部底鋼板6cの高さ調整を行う他の方法を示し、保持プレート13に保持ボルト12が貫通する貫通孔が形成され、さらに保持ボルト12を螺合する保持ナット14が取り付けられている。
【0055】
保持ボルト12は貫通孔を貫通し、保持ナット14に螺合され、かつ保持ナット14を貫通してハンチ部底鋼板6cの上に立て付けられている。
【0056】
図9(a),(b)は、同じくハンチ部底鋼板6cの高さ調整を行う他の方法を示し、保持プレート13とハンチ部底鋼鈑6cとの間にハンチ部底鋼板6cの高さを調整保持するための保持ボルトを備えたハンチ部底鋼板保持金具(以下、「保持金具」)15が設置されている。
【0057】
保持金具15は、長ナットからなる保持ナット15aと保持ナット15aの上端部に螺合されたねじスタッド15b、さらにねじスタッド15bの上端部に取り付けられた支圧プレート15cとから構成されている。
【0058】
また、保持金具15は保持プレート13とハンチ部底鋼板6cとの間に支圧プレート15cを上にして設置されている。そして、保持ナット15aを回してねじスタッド15bの突出長さを適当に変えることによりハンチ部底鋼板6cの高さを自由に調整することができ、かつ調整後の位置に保持することができる。
【0059】
当該保持金具15は調整幅が広いので、これを利用するとハンチ11の高さは橋梁の縦断勾配や横断勾配に合わせて、同じ橋梁の中でも部位によって変える必要があるが、部品の共通化が図られ、生産性が向上する。
【0060】
図10(a),(b)も、ハンチ部底鋼板6cの高さ調整を行う他の方法を示し、保持プレート13とハンチ部底鋼鈑6cとの間に保持ボルトを備えたハンチ部底鋼板保持金具(以下、「保持金具」)16が設置されている。
【0061】
保持金具16は、長ナットからなる保持ナット16aと保持ナット16aの上下両端部にそれぞれ螺合された上下のねじスタッド16b,16bと上下のねじスタッド16b,16bの端部にそれぞれ取り付けられた支圧プレート16c,16cとから構成されている。保持ナット16aのねじ孔は中間部よりその上下部分が逆ねじ(ターンバックル)になっている。
【0062】
そして、保持金具16は保持プレート13とハンチ部底鋼板6cとの間に設置され、保持ナット16aを回して上下のねじスタッド16bの突出長さを適当に変えることによりハンチ部底鋼板6cの高さを自由に調整することができ、かつ調整後の高さに保持することができる。
【0063】
この保持金具16を利用すると、保持金具15の備える効果に加え、さらにターンバックル方式で高さ調整を行うので、調整を素早く行うことができ、施工性が向上する。
【0064】
なお、いずれの場合にも、トラス鉄筋7に保持プレート13を番線などの結束線で結束して取り付ける場合、保持プレート13の端部にトラス鉄筋7の下端筋7bが保持プレート13から外れないようにリップ13bを設けるのが望ましい(図6(c)参照)。
【0065】
以上のように構成された合成床版構築用パネル2は工場において製作され、現地に搬入される。そして、複数の主桁1,1の上に架け渡される。また、保持ボルトを回してその突出長さLを変えてハンチ部底鋼板6cの高さを調整することにより、主桁架設時の誤差等を吸収して橋梁完成時の路面の高さを計画通りの高さに容易に調整することができ、さらに輪荷重などによって作用するせん断力の大きくなる主桁付近の床版厚を増大して補強することができる。
【0066】
次に、合成床版構築用パネル2を用いて合成床版を構築する施工手順を簡単に説明する。
【0067】
(1) 最初に、平行に架設された主桁1,1の上に複数の合成床版構築用パネル2を橋軸直角方向に連続させ、かつ橋軸方向に互いに隣接させて架け渡す。
【0068】
(2) 次に、各パネル2のハンチ部底鋼板6cが主桁1の両側に位置し、かつその先端が主桁1のフランジ1aの上に位置し、さらに保持ボルト13がハンチ部底鋼板6cの上に位置するようにパネル2の位置調整を行う(図3(a)参照)。
そして、保持ボルト12を回してその突出長さLを変えることによりハンチ部底鋼板6cの高さhを調整する。これにより、主桁架設時の誤差等を吸収して橋梁完成時の路面の高さを計画通りの高さに設定することができる。また、輪荷重などによって作用するせん断力の大きくなる主桁付近の床版厚を増大して補強することができる。
【0069】
(3) 次に、橋軸方向に隣接する合成床版構築用パネル2,2の継手6eどうしを接合プレート8と接合ボルト9によって接合する(図4(a)参照)。また、主桁1のフランジ1aの上にスタッド11を突設する(図3(a)参照)。スタッド11は主桁1の上に溶接によって取り付ける(図3(a)参照)。
【0070】
(4) 次に、合成床版構築用パネル2の上に複数の補強筋3を縦横に配筋する。補強筋3はトラス鉄筋7の上端筋7aの上に架け渡して配筋する(図3(a)、図4(a)参照)。
【0071】
(5) 次に、合成床版構築用パネル2の上にコンクリート4を打設する(図3(b)、図4(b)参照)。そして、コンクリート4の上に舗装コンクリート5を打設して施工を完了する。
【0072】
以上の施工手順によって合成床版を構築することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、主桁架設時の誤差等を吸収して橋梁完成時の路面の高さを計画通りの高さに容易に調整することができ、また輪荷重などによって作用するせん断力の大きくなる主桁付近の床版厚を増大して容易に補強することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 主桁
1a 主桁の上フランジ
2 合成床版構築用パネル(鋼コンクリート合成床版構築用パネル)
3 補強筋
4 コンクリート
5 舗装コンクリート
6 底鋼板
6a 主桁間底鋼板
6b 張出し部底鋼板
6c ハンチ部底鋼板
6d ハンチ部底鋼板の先端部
6e 底鋼板の継手
7 トラス鉄筋(リブ材)
7a 上端筋
7b 下端筋
7c ラチス筋
8 接合プレート
9 接合ボルト
10 スタッド
11 ハンチ
12 保持ボルト(ハンチ部底鋼板保持ボルト)
13 保持プレート
13a ねじ孔
14 保持ナット
15 保持金具(ハンチ部底鋼板保持金具)
15a 保持ナット
15b ねじスタッド
15c 支圧プレート
16 保持金具(ハンチ部底鋼板保持金具)
16a 保持ナット
16b ねじスタッド
16c 支圧プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸方向に延びる複数の主桁間に主桁を跨いで配置された底鋼板と、底鋼板の上に前記主桁を跨いで橋軸直角方向に配置された複数のリブ材とを備えて構成される鋼コンクリート合成床版構築用パネルにおいて、前記底鋼板の主桁との取り合い部に主桁側に下り勾配に傾斜して延びるハンチ部底鋼板が設けられ、当該ハンチ部底鋼板とリブ材との間にハンチ部底鋼板の高さを調整保持するためのハンチ部底鋼板保持部材を備えていることを特徴とする鋼コンクリート床版構築用パネル。
【請求項2】
請求項1記載の鋼コンクリート床版構築用パネルにおいて、ハンチ部底鋼板保持部材は、リブ材に取り付けられた保持プレートのねじ孔を貫通し、ハンチ部底鋼板の上に立て付けられたハンチ部底鋼板保持ボルトであることを特徴とする鋼コンクリート床版構築用パネル。
【請求項3】
請求項1記載の鋼コンクリート床版構築用パネルにおいて、ハンチ部底鋼板保持部材は、リブ材に取り付けられた保持プレートとハンチ部底鋼板との間に介在され、ハンチ部底鋼板の高さを調整保持するように構成されたハンチ部底鋼板保持金具であることを特徴とする鋼コンクリート床版構築用パネル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかひとつに記載の鋼コンクリート合成床版構築用パネルにおいて、リブ材は、1本の上弦材と2本の下弦材と当該上弦材と下弦材との間に取り付けられたラチス材とからなるトラス鉄筋であることを特徴とする鋼コンクリート床版構築用パネル。
【請求項5】
橋軸方向に延びる複数の主桁の上に構築される鋼コンクリート合成床版において、前記主桁間に橋軸直角方向に連続し、かつ橋軸方向に互いに隣接して配置された複数の鋼コンクリート合成床版構築用パネルと、前記複数の鋼コンクリート合成床版構築用パネルの上に打設されたコンクリートから構成され、前記鋼コンクリート合成床版構築用パネルは、前記主桁を跨いで配置された底鋼板と、当該底鋼板の上に主桁を跨いで橋軸直角方向に配置された複数のリブ材を備え、前記底鋼板の主桁との取り合い部に主桁方向に下り勾配に傾斜して延びるハンチ部底鋼板が設けられ、当該ハンチ部底鋼板とリブ材との間にハンチ部底鋼板の高さを調整保持するためのハンチ部底鋼板保持部材を備えていることを特徴とする鋼コンクリート合成床版。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−64252(P2013−64252A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202851(P2011−202851)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(509200613)株式会社横河住金ブリッジ (8)
【Fターム(参考)】