説明

鋼中の非金属介在物の除去方法

【課題】 タンディッシュ内の溶鋼中に存在する非金属介在物を低コストで、操業上のトラブルを発生することなく、除去する方法を提供することである。
【解決手段】 鋼の連続鋳造において、図2に示すように、タンディッシュ2内の敷11および側壁12のいずれか一方または両方に、アルミナ系耐火物13からなる形状物を固定して設置し、溶鋼に含有される非金属介在物を設置したアルミナ系耐火物13に付着させて除去する。この際、非金属介在物を付着させるアルミナ系耐火物13は、アルミナを60%以上含有しているものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鋼中の非金属介在物をタンディッシュ内に設置したアルミナグラファイトであるアルミナ系耐火物に吸着して除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から鋼の高清浄度化に関しては、様々な努力がなされてきた。取鍋精錬時におけるRH脱ガス方法の適用による非金属介在物の浮上を促進する方法や、タンディッシュ内の溶鋼の滞留時間を増加する方法により非金属介在物を浮上して浸漬ノズルへの流出を防止する方法や、流出経路にセラミックフィルターを設置して除去する方法などの様々な方法がある。タンディッシュ内の容量を大きくすればタンディッシュ内に注入された溶鋼が浸漬ノズルへと流入するまでの時間がかかるため、その滞留時間増加分だけ非金属介在物が浮上する可能性を高めることが可能であり、広く採用されている方法である。但し、滞留時間が長くなることは同時に、タンディッシュ内での溶鋼温度降下を助長してしまうため、清浄度以外の品質、および操業性の不安定化を招くことから、単に容量を大きくして滞留時間を増加するという手段には限界がある。また、流出経路にセラミックフィルターを設置して非金属介在物を除去する方法についてもある程度は有効であるが、耐用や効果の面で十分であるとは言えない。
【0003】
その他、例えば、タンディッシュ内の溶鋼通路内にて、溶鋼を電磁撹拌しながら不活性ガスを吹き込むことにより、吹き込んだ不活性ガスの気泡を微細化し、それらの微細化されたガス気泡を微小な非金属介在物に接触させることによって、微小な非金属介在物を浮上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法では、使用する電磁撹拌のコイルを全てのタンディッシュに搭載することが必要とされる。しかし、現実的には多数のタンディッシュを使用することが多いので、全てのタンディッシュに電磁撹拌のコイルを搭載することはかなりのコストアップになることが否めない。
【0004】
また、タンディッシュ内に下堰を設けることで、微小な非金属介在物の浮上促進を狙うとしている方法もある。しかし、この方法では、下堰で囲まれた領域の溶鋼は、最後まで鋳造することが出来ないため、スクラップとせざるを得ず、鋳造歩留まりの悪化を招いてしまう問題がある。このように、実際に製造コストの観点から考察するとき、これらの方法はとても実操業で導入できる方法ではない。
【0005】
さらに、アルミナ系耐火物に非金属介在物が吸着し易いという知見から、鋼中に球形のアルミナ系耐火物を投入し、効果的に非金属介在物を除去するという方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この方法では、球形のアルミナ系耐火物がタンディッシュ内の溶鋼流動によって、イマージョンノズルすなわち浸漬ノズル内に侵入することがないように、溶鋼中を自由に浮遊するようにその比重を設定するとしている。これは、イマージョンノズル内に球形のアルミナ系耐火物が侵入すれば、そのストランドはたちまち鋳型への溶鋼供給が減少して鋳造不可能となるからである。
【0006】
ところで、この特許文献2には触れられていないが、この方法で問題となる点は、球形のアルミナ系耐火物の比重が小さすぎて浮上しきった場合である。というのは、鋳造工程でタンディッシュを使用する目的の1つに非金属介在物の浮上除去がある。しかし、実際の鋳造中には、タンディッシュ内の溶鋼の表面にはかなりの量の非金属介在物が浮上している。このため、この部分に球形のアルミナ系耐火物であるボールが接触することとなると、このアルミナ系耐火物のボールがそれらの非金属介在物を吸着してしまう。その吸着後に、このボールがさらに溶鋼中を泳動することとなり、この泳動の際にボールの表層に吸着した非金属介在物がさらに大きな塊となって剥がれ落ちる可能性が高くなる恐れがある。このためにタンディッシュ内の保温材としてタンディッシュパウダーをもし用いている場合やスラグがある場合には、このアルミナ系耐火物のボールを使用する方法はこれらを吸着することとなるので論外な方法である。つまり、この特許文献2の方法で最も大切なことは、タンディッシュ内の溶鋼中をボールが浮遊する際に、沈みもせず浮きもしない比重を持ったアルミナ系耐火物のボールを使用することであり、このことが必要不可欠であるが、これは現実問題としては、極めて困難なことであり、不可能に近いということである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−179497号公報
【特許文献2】特開平09−206895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、タンディッシュ内の溶鋼中に存在する非金属介在物を低コストで、また操業上のトラブルを発生することなく除去する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、タンディッシュ内の側壁や敷に、アルミナグラファイトなどのアルミナ系耐火物を設置し、それらへ鋼中非金属介在物を付着させ方法である。
【0010】
すなわち、請求項1の発明では、鋼の連続鋳造において、タンディッシュ内の側壁および敷のいずれか一方または両方に、アルミナ系耐火物からなる形状物を固定して設置し、溶鋼に含有される非金属介在物を設置したアルミナ系耐火物に付着させて除去する方法である。
【0011】
請求項2の発明では、非金属介在物を付着させるアルミナ系耐火物は、アルミナを60%以上含有しているアルミナ系耐火物を使用することからなる請求項1に記載の溶鋼中の非金属介在物を除去する方法である。
【0012】
本発明の構成とした理由および原理について説明すると、アルミナグラファイトなどからなるアルミナ系耐火物への非金属介在物の付着性については良く知られているが、このアルミナ系耐火物は、その表面が吸着によりいったん非金属介在物で覆われても、非金属介在物自体の親和力によって更なる非金属介在物の付着は進行することで、本発明はこのことを利用しており、しかも、タンディッシュの側壁や敷きにアルミナ系耐火物を固着したことで、アルミナ系耐火物が溶鋼の湯面に浮遊して漂うことがないので、付着した非金属介在物が剥離して溶鋼中に再び入ることがなく、浸漬ノズルからモールド中に入り込むこともないことである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の手段では、タンディッシュ内の側壁および敷のいずれか一方または両方に、溶鋼中の非金属介在物を吸着して付着するアルミナ系耐火物からなる形状物を固定して設置しているので、タンディッシュ内の溶鋼に含有されている非金属介在物がこれらの設置したアルミナ系耐火物に吸着されて溶鋼から除去される。この際、特にアルミナを60%以上含有したアルミナ系耐火物を使用することで非金属介在物の付着度合いが一層に向上して溶鋼から非金属介在物が除去される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】連続鋳造設備および分塊圧延設備を模式的に示す図である。
【図2】(a)は敷にアルミナ系耐火物を設置したタンディッシュの一部を模式的に示す斜視図で、(b)はアルミナ系耐火物の他の形状体を示す斜視図である。
【図3】敷および側壁にアルミナ系耐火物を設置したタンディッシュの一部を模式的に示す斜視図である。
【図4】アルミナ系耐火物中のアルミナ含有率に対する付着度合いを指数で比較して示すグラフである。
【図5】アルミナ含有率の異なるアルミナ耐火物の使用に対する鋼中酸素量指数の差異を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0016】
本発明の実施例として示す工程は、例えば図1に示す精錬した溶鋼を取鍋1からタンディッシュ2に注入し、さらにタンディッシュ2から浸漬ノズル3によりモールド4に注湯し、モールド4の下部から連続鋳造物を引抜きながら冷却した後、適宜長さの鋳片5に切断機6で切断した後、搬送機7でブルームクーラー8で冷却し、次いで加熱炉9で加熱した後に分塊圧延機10で分塊圧延する連続鋳造工程および分塊圧延工程における方法である。この連続鋳造工程において、タンディッシュ2の底面である敷11に、図2の(a)に示す形状のアルミナ系耐火物13(一鋳造の機会では全て同じアルミナ含有量のものを使用)の19個を設置し、もしくは図3に示す形状のアルミナ系耐火物13を敷11に19個と側壁12に12個の計31個を設置し、タンディッシュ出口14から浸漬ノズル3によりモールド4にJIS規定のS40C〜S45Cの鋼種の約4000tを順次に連続鋳造した。この場合、以下の実施例1〜実施例4および比較例1の各鋳造条件を表1に示す。なお、アルミナ系耐火物13の形状体は、図2の(a)あるいは図3の実施例では載頭円錐体であるが、図2の(b)に示す円柱体であっても良い。
【0017】
【表1】

【実施例】
【0018】
実施例1〜実施例4としてアルミナ含有量が50%、60%および70%のそれぞれを有するアルミナ系耐火物12(残部の主成分はカーボンおよびシリカである。)を使用して表1に示す鋳造条件でそれぞれ鋳造した。また、比較例1としてアルミナ系耐火物13を使用しない鋳造条件で鋳造した。これらの鋳造後に、実施例1〜実施例3の鋳造条件では、それぞれのアルミナ系耐火物13の表面に付着している酸化物(アルミナが95質量%以上である。)を全て回収し、回収したこれらの酸化物の総重量を測定してアルミナ系耐火物13の表面への付着度合い指数として比較した。なお、酸化物の回収は片手ハンマーで軽く叩けば、付着酸化物のみがアルミナ系耐火物13の表面から容易に分離して回収できた。
【0019】
実施例1〜実施例3における、それぞれ全19個のアルミナ系耐火物13上に付着した酸化物の総量についてまとめて、付着アルミナ重量の付着度合い指数を縦軸に、アルミナ含有率(%)を横軸とし示した棒グラフを図4に示す。付着度合い指数は、アルミナ含有率を70%とした場合を10とすると、60%の場合は9.7で、50%の場合は3であり、アルミナ含有率が50%のレベルになるとアルミナ系耐火物13をタンディッシュ2の敷11に設置する効果が格段に下がることがわかる。一方、表1の比較例1におけるように、従来法通りにタンディッシュ2の敷11にアルミナ系耐火物13を設置せず、その他は実施例1〜実施例3と同条件で鋳造した。
【0020】
次に、アルミナ含有率50%、60%、70%であるそれぞれのアルミナ系耐火物13を使用した実施例1〜実施例3の場合、および実施例3の敷に設置のアルミナ含有率70%のアルミナ系耐火物13に加えて側壁にアルミナ含有率70%のアルミナ系耐火物13の12個を設置した実施例4の場合のそれぞれにおける平均鋼中酸素量と、従来法通りにアルミナ系耐火物13をタンディッシュ2の敷11に設置しなかった場合の平均鋼中酸素量を比較し、これらを図5に示した。なお、この場合、アルミナ系耐火物13を設置しなかった場合の平均鋼中酸素量指数を10としている。
【0021】
図5に示すように、アルミナ系耐火物13をタンディッシュ2の敷11に設置しなかった比較例1の場合の鋼中酸素量指数は10であり、50%アルミナを含有するアルミナ系耐火物13をタンディッシュ2の敷11に設置した実施例1の場合の鋼中酸素量指数は9.8であり、鋼中酸素量指数は両者でほとんど差は無かった。一方、60%アルミナを含有するアルミナ系耐火物13をタンディッシュ2の敷11に設置した実施例2の場合の鋼中酸素量指数は8.1であり、70%アルミナ含有アルミナ系耐火物13をタンディッシュ2の敷11に設置した実施例3の場合の鋼中酸素量指数は8.0であった。さらに、70%アルミナ含有アルミナ系耐火物13をタンディッシュ2の敷11に設置したのに加え、側壁12にも70%アルミナ含有アルミナ系耐火物13を設置した実施例4の場合の鋼中酸素量指数は7.2であった。これらでは、アルミナ系耐火物13をタンディッシュ2の敷11に設置した場合に溶鋼中に含有れている酸素量が減少し、タンディッシュ2内の溶鋼の明らかな改善効果が見られた。しかも、これらにおいてアルミナ系耐火物13の周囲に付着した酸化物が、タンディッシュ2内で湯面に浮上することはなく、また付着した酸化物が溶鋼中に落下することも無く、したがって清浄度の高い鋳片が鋳造できた。
【符号の説明】
【0022】
1 取鍋
2 タンディッシュ
3 浸漬ノズル
4 モールド
5 鋳片
6 切断機
7 搬送機
8 ブルームクーラー
9 加熱炉
10 分塊圧延機
11 敷
12 側壁
13 アルミナ系耐火物
14 タンディッシュ出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造において、タンディッシュ内の側壁および敷のいずれかまたは両方にアルミナ系耐火物の形状体を固定して設置し、溶鋼中に含有の非金属介在物をアルミナ系耐火物に付着さることを特徴とする溶鋼中の非金属介在物を除去する方法。
【請求項2】
非金属介在物を付着させるアルミナ系耐火物は、アルミナを60%以上含有しているアルミナ系耐火物を使用することからなることを特徴とする請求項1に記載の溶鋼中の非金属介在物を除去する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−179340(P2010−179340A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25408(P2009−25408)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】