説明

鋼塊の白点割れを防止するRH脱ガス処理方法

【課題】 RH脱ガス処理方法においてRH脱ガス処理槽の炉壁に含有の水分を十分に脱水して溶鋼中の水素を低減して鋼塊の白点割れの防止方法を提供する。
【解決手段】 RH脱ガス処理槽の下部槽の内張り耐火煉瓦を新張りしたRH脱ガス処理槽を用いて溶鋼を初めて脱ガス処理する際、本処理である1チャージ目の脱ガス処理を行うまでの待機時間に、予備脱ガス処理工程を加え、予備脱ガス処理工程中にRH脱ガス処理槽を循環する溶鋼の熱により下部槽の内張り耐火煉瓦層から水分を蒸発した後、LF精錬後の溶鋼に本処理の脱ガス処理を行う。さらに予備脱ガス処理に続けてRH脱ガス処理を行う際に、本処理の1チャージ目乃至それ以後のチャージの少なくとも1チャージの脱ガス処理時間を30分以上とすることにより鋼塊の白点割れ防止をしたRH脱ガス処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新張りされた内張り耐火煉瓦層を有するRH脱ガス処理槽を用いて真空脱ガス処理するとき、新張りの耐火煉瓦層の含有水が処理された溶鋼中に溶け込み溶鋼中に含有の水素量が増えることを防止することにより、この溶鋼から造塊された鋼塊の内部亀裂である白点割れを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鋼の溶製では、例えば、電気炉で鉄原料のスクラップを溶解および目的の溶鋼に製錬し、さらに、この溶鋼を取鍋炉でRH脱ガス処理のための昇温および成分調整をして精錬した後、真空脱ガス処理のために、RH脱ガス処理槽にて上記取鍋炉の溶鋼をRH脱ガス処理槽の下部槽に循環して真空脱ガス処理を10分〜20分行った後、脱ガス処理した溶鋼を鋳込んで造塊して鋼塊を得ている。
【0003】
ところで、この真空脱ガス処理に使用するRH脱ガス処理槽の下部槽の内張り耐火煉瓦を新しく張って新張りとすると、新張り施工時の目地材に内在する水分が新張りの内張り耐火煉瓦層に含有されることとなる。したがって、精錬時の溶鋼の真空脱ガス処理におけるRH脱ガス処理槽の下部槽の内張り耐火物が新張りの耐火煉瓦層であるとき、このRH脱ガス処理槽を用いて真空脱ガス処理を行った際に、耐火煉瓦層中の水分が溶鋼中に溶け込む。この溶鋼中に溶け込んだ水分によって溶鋼中に水素が含有され、この溶鋼中に含有された水素が原因で、この溶鋼から鋳造された鋼塊の内部に内部亀裂である白点割れが生じる。
【0004】
ところで、従来の鋳造用鋼塊の造塊法として水素系の欠陥(白点、偏析きずなど)を防止するために、真空脱ガス処理後の造塊において、小型鋼塊とする場合は、大気中で下注する方法が取られている。しかし、大型鋼塊の造塊には真空タンク中での流滴脱ガス鋳造が採用され、さらに偏析および酸化物系介在物の減少対策として真空炭素脱酸法も適用されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、この方法は、例えばRH脱ガス処理時間を規定して鋼塊の内部に水素を原因とする白点割れを生じなくする方法ではなかった。
【0005】
一方、脱ガス精錬炉内に内張りされた不定形耐火物の乾燥方法において、減圧した状態で不定形耐火物の表層部を炉内に設置の赤外線電球により輻射加熱しながら、マイクロ波導波管からマイクロ波を透過する石英ガラスを介して炉内を照射して不定形耐火物を乾燥する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この方法を実施するためには格別の設備を設ける必要がありコストもかかるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−281662号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】鉄鋼協会編「鉄鋼便覧」第4版、第5巻、第2編、2002年7月発行、p.4551/6845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、精錬時の溶鋼の真空脱ガス処理におけるRH脱ガス処理槽の下部槽が内張りされた耐火煉瓦を新張りした耐火煉瓦層であるとき水分を含んでいるので、この水分を含んだ新張り耐火煉瓦層を有する下部槽をRH脱ガス処理に使用すると、脱ガス処理中の溶鋼に該下部層から水分が溶け込み、溶鋼に水素を含有することとなる。この水素を含有する溶鋼からなる鋼塊を圧延すると、圧延時に鋼塊の内部に白点割れが生じる。そこで、本発明はRH脱ガス処理方法において予めRH脱ガス処理槽の下部槽中の水分からくる溶鋼中の水素を十分に低減して得られた鋼塊の白点割れ防止をしたRH脱ガス処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の手段として、請求項1の発明は、下部槽の内張り耐火煉瓦を新張りしたRH脱ガス処理槽を用いて転炉もしくは電気炉から出鋼した取鍋中の溶鋼を初めてRH脱ガス処理する際に、出鋼から1チャージ目のRH脱ガス処理するまでの待機時間中に、該1チャージ目の溶鋼の予備脱ガス処理工程をRH脱ガス処理槽により実施する。この予備処理工程の実施において、該1チャージ目の溶鋼から発する熱によりRH脱ガス処理槽の下部槽の内張り耐火煉瓦層に含有の水分を蒸発除去する。次いでこの予備処理に使用の1チャージ目の溶鋼を取鍋精錬し、取鍋精錬した該溶鋼を予備脱ガス処理工程で水分を除去したRH脱ガス処理槽によりRH脱ガス処理の本処理の1チャージ目の脱ガス処理およびそれ以後のチャージ目の取鍋精錬並びにRH脱ガス処理を行うことを特徴とする鋼塊の白点割れ防止をしたRH脱ガス処理方法である。
【0010】
請求項2の発明は、予備脱ガス処理に続けて行う本処理のRH脱ガス処理は、本処理の1チャージ目乃至それ以後のチャージ目の脱ガス処理のうちの、いずれかのチャージの少なくとも1チャージの脱ガス処理時間を30分以上とすることを特徴とする請求項1の手段における鋼塊の白点割れ防止をしたRH脱ガス処理方法である。すなわち、請求項2の手段では、本処理のいずれかのチャージの少なくとも1チャージの脱ガス処理時間を30分以上とすることで、RH脱ガス処理槽の下部槽を循環する溶鋼の熱により下部槽の内張り耐火煉瓦層に含有の水分をより一層に蒸発除去することで鋼塊の白点割れを防止をしたRH脱ガス処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記の手段とすることで、RH脱ガス処理槽の下部槽の新張り耐火煉瓦層に含有の水分をRH脱ガスの予備処理中に循環する溶鋼の熱により蒸発ガス化し、さらにRH脱ガスの本処理までの待機時間中の予備処理の際のRH脱ガス処理槽中の残熱により、新張り耐火煉瓦層に含有の水分を蒸発ガス化して除去することで、本処理により得られた溶鋼中の含有される水素量を減少し、この溶鋼から得られた鋼塊の圧延時に生じる鋼塊内部の白点割れを減少する。さらに、RH脱ガスの予備処理に加えて本処理であるRH脱ガス処理においても、その1チャージ目乃至それ以後のチャージ目の脱ガス処理の内の、いずれかのチャージの少なくとも1チャージの脱ガス処理時間を30分以上とすることで、得られた溶鋼中の水素含有量をより一層に減少し、この溶鋼から得られた鋼塊の圧延時に生じる鋼塊内部の白点割れを減少する。このように本発明は従来にない優れた効果を奏する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】RH脱ガス処理槽の下部槽の断面図で図2のA−Aで切断して見た立面図である。
【図2】RH脱ガス処理槽の下部槽の断面図で図1のB−Bで切断して見た平面図である。
【図3】RH脱ガス処理した溶鋼〜採取したサンプルに含有の水素量のバラツキを示すグラフで(a)は従来法、(b)は本発明の請求項1の方法、(c)は本発明の請求項2の方法を示すグラフとそれらの平均値、標準偏差および標本数を示す。
【図4】溶鋼からの試料採取具を示す図である。
【図5】溶鋼中の水分のガス化のRH脱ガス処理時間と溶鋼中の水素含有量の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態について、表および図面を用いて説明する。本発明の請求項1の手段は、表1に示すJISあるいはSAE規格の種々の鋼種を電気炉で溶製し、次いで、電気炉で溶製した溶鋼を取鍋に出鋼した。この出鋼した溶鋼を取鍋炉(以下「LF」という。)精錬することなく、図1および図2に示すの新張りの煉瓦層2からなる下部槽1を有するRH脱ガス処理槽により予備脱ガス処理を、表1に示す予備RH処理開始温度で、10分以上行った。さらに、この予備脱ガス処理により表1に示すLF精錬開始温度まで低下した溶鋼をLFで昇温、続いて精錬した後、再びRH脱ガス処理槽の下部槽1を有するRH脱ガス処理槽により本処理であるRH脱ガス処理を通常に行って1チャージ目およびそれ以後のチャージ目の脱ガス処理をした。これらの脱ガス処理した溶鋼を鋳込んで鋼塊に造塊した。
【0014】
【表1】

【0015】
さらに、本発明の請求項2の手段は、上記の請求項1の手段と同様に、表1に示す種々の鋼種を電気炉で溶製し、次いで、電気炉で溶製した溶鋼を取鍋に出鋼し、この溶鋼をLF精錬することなく、新張りの煉瓦層2からなる下部槽1を有するRH脱ガス処理槽により予備脱ガス処理を、表1に示す予備RH処理開始温度で10分以上行った。さらに、この予備脱ガス処理により表1に示すLF精錬開始温度まで低下した溶鋼をLFで昇温、続いて精錬した後、再びRH脱ガス処理槽の下部槽1を有するRH脱ガス処理槽により本処理であるRH脱ガス処理を行った。この方法において請求項2の手段では、この本処理であるRH脱ガス処理における1チャージ目乃至それ以後のチャージ目のうちのいずれかのチャージの少なくとも1チャージのRH脱ガス処理の処理時間を30分以上に確保し、このRH脱ガス処理により溶鋼から脱水素した。これらの脱ガス処理した溶鋼を鋳込んで鋼塊に造塊した。
【0016】
上記の請求項1の手段および請求項2の手段における予備脱ガス処理により、RH脱ガス処理槽の下部槽1の新張り煉瓦層2中に含まれている水分を、LF中の溶鋼の溶鋼熱およびその後の本処理であるRH脱ガス処理までの待機時間の間に、下部槽1中の残熱、によりガス化した。ところで、電気炉で溶製した溶鋼を予備脱ガス処理を行なうことなく、LF精錬で昇温と成分調整した後に直ちにRH脱ガス処理する従来方法の場合、RH脱ガス処理槽の下部槽1の新張り煉瓦層2から溶鋼中に生じる水分のガス化によりもたらされる、溶鋼中に含有の水素量は、図3の(a)に示すように、標本数31、標準偏差0.20、平均で3.74ppmであった。しかし、本発明の請求項1の手段における予備脱ガス処理を10分間実施し、本処理のRH脱ガス処理を1チャージ当たり約10〜20分間行う(予備脱ガス処理を行うことなく本処理であるRH脱ガス処理のみを行う従来方法の1チャージ当たりの約20〜30分に相当する)場合を、RH脱ガス処理槽の下部槽1の新張り煉瓦層2から生じる水分のガス化により、溶鋼中の水素の含有量は図3の(b)に示すように標本数30、標準偏差0.15、平均で3.30ppmに低減できた。さらに、本発明の請求項2の手段として、上記の予備脱ガス処理の10分間に加えて本処理であるRH脱ガス処理における1チャージ目乃至それ以後のチャージ目のいずれかのチャージの少なくとも1チャージの脱ガス処理を30分以上とし、その他の本処理のチャージは1チャージ当たり約10〜20分行うことで、RH脱ガス処理槽の下槽の新張り煉瓦層2から生じる水分のガス化により、溶鋼中の水素の含有量は、図3の(c)に示すように標本数27、標準偏差0.58、平均2.77ppmとさらに低減することができた。
【0017】
上記における溶鋼中の水素含有量は、鋳込中の鋳型内の溶鋼より図4に示す試料採取具3を用い、鋳型内の2/3以上に湯上りした時点で溶鋼を採取した。図4に示すように試料採取具3は石英管4を取手5に固定したもので、この試料採取具3を鋳型内の溶鋼に石英管4を漬け、取手5を引き上げて石英管4の先端より溶鋼を採取し、石英管4のままサンプルの溶鋼を水冷し、この水冷した鋼を分析により水素濃度分析して溶鋼中の水素含有量を得た。
【0018】
ここで、本発明における、上記した新張り煉瓦層2から溶鋼中に生じる水分のガス化におけるRH脱ガス処理時間を限定した理由を説明する。図5に示すように、処理時間と溶鋼中の水素の相関をグラフにすると、RH脱ガス処理時間が長時間になるほど溶鋼中の水素の濃度が低下し、バラツキが小さくなることがわかった。このため、処理時間に制限を設けた。この場合、図5のグラフから処理時間が30分以上になると、バラツキが小さくなり、水素値は4ppm以下となった。そこで、予備脱ガス処理の時間を含めて本処理におけるRH脱ガス処理の1チャージの処理時間の下限値を30分とした。すなわち、請求項1の手段である予備脱ガス処理を本処理のRH脱ガス処理に前置きして10分以上として加え、本処理であるRH脱ガス処理は通常の1チャージ当たり10〜20分間として実施することで水素含有量は平均値で3.30ppmとすることができ、特に請求項2の手段では予備処理に加えて本処理である1チャージ目乃至それ以後のチャージ目の脱ガス処理のうちのいずれかのチャージの少なくとも1チャージの脱ガス処理時間を30分以上とし、その他の本処理の1チャージの処理時間を10〜20分間とすることで、水素含有量は平均値で2.77ppmと良化でき、バラツキをより一層小さくできた。
【符号の説明】
【0019】
1 下部槽
2 煉瓦層
3 試料採取具
4 石英管
5 取手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部槽の内張り耐火煉瓦を新張りしたRH脱ガス処理槽を用いて転炉もしくは電気炉から出鋼した取鍋中の溶鋼を初めてRH脱ガス処理する際に、出鋼から1チャージ目のRH脱ガス処理するまでの待機時間中に、該1チャージ目の溶鋼の予備脱ガス処理工程をRH脱ガス処理槽で実施し、該1チャージ目の溶鋼から発する熱によりRH脱ガス処理槽の下部槽の内張り耐火煉瓦層に含有の水分を蒸発除去した後、該溶鋼を取鍋精錬し、取鍋精錬した該溶鋼を水分を除去したRH脱ガス処理槽によりRH脱ガス処理の本処理の1チャージ目の脱ガス処理およびそれ以後のチャージ目の取鍋精錬並びにRH脱ガス処理を行うことを特徴とする鋼塊の白点割れ防止をしたRH脱ガス処理方法。
【請求項2】
予備脱ガス処理に続けて行うRH脱ガス処理の本処理は、本処理の1チャージ目乃至それ以後のチャージ目の脱ガス処理のうちのいずれかのチャージの少なくとも1チャージの脱ガス処理時間を30分以上とすることを特徴とする請求項1に記載の鋼塊の白点割れ防止をしたRH脱ガス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−99151(P2011−99151A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255514(P2009−255514)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】