説明

鋼帯の連続冷間圧延方法

【課題】後行鋼帯の材質が先行鋼帯よりも軟質である場合や後行鋼帯の板厚が先行鋼帯よりも厚い場合あるいは後行鋼帯の板幅が先行鋼帯よりも狭い場合でも鋼帯の連続冷間圧延を安定して行うことのできる鋼帯の連続冷間圧延方法を提供する。
【解決手段】タンデム圧延機6の第1圧延スタンド8aを各圧延スタンド8b〜8dを先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が通過する前に圧延スタンド8b〜8dのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更し、後行鋼帯1bの先端が第1圧延スタンド8aを通過した直後に第1圧延スタンド8aのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼帯などの鋼帯を連続冷間圧延する方法に関し、特に、タンデム圧延機を用いて鋼帯を連続冷間圧延する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯を連続冷間圧延するときに用いられるタンデム圧延機は、鋼帯の長手方向に配列された複数の圧延スタンドを有し、これらの各圧延スタンドに設けられた上下一対の圧延ロール(ワークロールともいう)で鋼帯を圧延するように構成されている。このようなタンデム圧延機を用いて鋼帯を連続冷間圧延する場合、後行鋼帯の板厚が先行鋼帯と異なる場合には、タンデム圧延機の板厚を後行鋼帯の板厚に合わせて走間変更する必要がある。
【0003】
タンデム圧延機の板厚を走間変更する方法としては、板厚変更点が1番目の圧延スタンドに到達したときに、当該圧延スタンドのロール圧下位置(圧延ロールが鋼帯を圧下する位置)と1番目の圧延スタンドより上流に位置する圧延スタンドのロール回転速度とを同時に変更する方法が知られている(特許文献1参照)。
しかし、この方法では、板厚を走間変更したときに鋼帯のスタンド間張力が大きく変動し、鋼帯の破断や絞り等の発生原因となるため、スタンド間張力を大きくさせずに板厚の走間変更を行うためには、板厚の変更代に制限を付けざるを得ないという問題がある。そこで、後行鋼帯の先端がタンデム圧延機の各圧延スタンドを通過する前に各圧延スタンドのロール圧下位置を順次変更する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭48−17145号公報
【特許文献2】特開昭60−221109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、タンデム圧延機の各圧延スタンドのうち最も上流に配置された第1圧延スタンドを後行鋼帯の先端が通過する前に第1圧延スタンドのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更すると、図6に示すようなテーパ部2が先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部に発生する。このため、特許文献2に記載された方法では、板厚の変更代に制限を付けることなく板厚を走間変更できるものの、後行鋼帯の材質が先行鋼帯より軟質である場合や後行鋼帯の板厚が先行鋼帯よりも厚い場合あるいは後行鋼帯の板幅が先行鋼帯よりも狭い場合には、図7に示すように、テーパ部2が第1圧延スタンドより下流の圧延スタンドを通過したときに材質やサイズ変更による張力低下と相俟って、鋼帯のスタンド間張力が予想を超えて大きく低下し、鋼帯の破断や絞り等がタンデム圧延機で発生する原因となるため、鋼帯の連続冷間圧延を安定して行うことができなくなるという問題があった。
【0006】
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、後行鋼帯の材質が先行鋼帯よりも軟質である場合や後行鋼帯の板厚が先行鋼帯よりも厚い場合あるいは後行鋼帯の板幅が先行鋼帯よりも狭い場合でも鋼帯の連続冷間圧延を安定して行うことのできる鋼帯の連続冷間圧延方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、先行鋼帯の尾端に後行鋼帯の先端が溶接された鋼帯を該鋼帯の長手方向に配列された複数の圧延スタンドを有するタンデム圧延機により連続して冷間圧延する鋼帯の連続冷間圧延方法であって、前記複数の圧延スタンドのうち最も上流の第1圧延スタンドを除く各圧延スタンドを前記先行鋼帯と後行鋼帯との溶接部が通過する前に前記第1圧延スタンドを除く各圧延スタンドのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更し、前記後行鋼帯の先端が前記第1圧延スタンドを通過した直後に該第1圧延スタンドのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、後行鋼帯の先端が第1圧延スタンドを通過した直後に第1圧延スタンドのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更することで、先行鋼帯と後行鋼帯との溶接部にテーパ部が発生しなくなり、これにより、先行鋼帯と後行鋼帯との溶接部が第1圧延スタンドを除いた各圧延スタンドを通過したときに鋼帯のスタンド間張力が大きく低下することを抑制することが可能となるので、後行鋼帯の材質が先行鋼帯よりも軟質である場合や後行鋼帯の板厚が先行鋼帯よりも厚い場合あるいは後行鋼帯の板幅が先行鋼帯よりも狭い場合でも鋼帯の連続冷間圧延を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を実施するときに用いられる冷間圧延設備の一例を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態を説明するためのフローチャートである。
【図3】後行鋼帯の先端がタンデム圧延機の第1圧延スタンドを通過した直後に第1圧延スタンドのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更した場合の先行鋼帯と後行鋼帯との溶接部を示す図である。
【図4】後行鋼帯の先端が第1圧延スタンドを通過した直後に第1圧延スタンドのロール圧下位置を変更した場合の第1圧延スタンドと第2圧延スタンドとの間の鋼帯の張力変化を示す図である。
【図5】本発明方法と従来方法における走間板厚変更の成功率を示す図である。
【図6】後行鋼帯の先端がタンデム圧延機の第1圧延スタンドを通過する前に第1圧延スタンドのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更した場合の先行鋼帯と後行鋼帯との溶接部を示す図である。
【図7】後行鋼帯の先端が第1圧延スタンドを通過する前に第1圧延スタンドのロール圧下位置を変更した場合の第1圧延スタンドと第2圧延スタンドとの間の鋼帯の張力変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明を実施するときに用いられる冷間圧延設備の一例を示す図、図2は本発明の一実施の形態を説明するためのフローチャートであり、図1に示される冷間圧延設備は鋼帯1a,1bを払い出すペイオフリール3a,3bと、ペイオフリール3aから払い出された先行鋼帯1aの尾端とペイオフリール3bから払い出された後行鋼帯1bの先端とを溶接する溶接機4と、溶接機4からルーパー5を経て供給された鋼帯1a,1bを圧延するタンデム圧延機6と、タンデム圧延機6を通過した鋼帯1a,1bをコイル状に巻き取るテンションリール7とを具備している。
【0011】
タンデム圧延機6は鋼帯1a,1bの長手方向に配列された複数(例えば4つ)の圧延スタンド8a,8b,8c,8dを含み、これらの圧延スタンド8a〜8dは鋼帯1a,1bを圧延する上下一対の圧延ロール9a,9bと、圧延ロール9a,9bをバックアップする上下一対のバックアップロール10a,10bと、バックアップロール10a,10bと圧延ロール9a,9bとの間に配置された複数の中間ロール11とをそれぞれ有している。
【0012】
また、図1に示される冷間圧延設備は鋼帯1a,1bの溶接部近傍に穿設された貫通孔を光学的に検出する貫通孔検出装置12と、この貫通孔検出装置12から出力された信号をトリガー信号として鋼帯溶接部の位置を演算する演算装置13と、この演算装置13の演算結果に基づいてタンデム圧延機6の圧延スタンド8a〜8dを制御する制御装置14とを具備し、制御装置14は、後行鋼帯1bの材質が先行鋼帯1aよりも軟質である場合や後行鋼帯1bの板厚が先行鋼帯1aよりも厚い場合あるいは後行鋼帯1bの板幅が先行鋼帯1aよりも狭い場合には、図2に示すフローチャートに従って圧延スタンド8a〜8dを制御するように構成されている。
【0013】
すなわち、図2に示すステップS1で先行鋼帯1aの尾端に後行鋼帯1bの先端が溶接機4によって溶接されると、制御装置14は演算装置13の演算結果を取り込み、鋼帯溶接部の位置情報を取得する(ステップS2)。そして、制御装置14は圧延スタンド8a〜8dのうち最も上流に配置された第1圧延スタンド8aに後行鋼帯1bの先端が到達したか否かをステップS2で取得した鋼帯溶接部の位置情報から判断する(ステップS3)。
ここで、後行鋼帯1bの先端が第1圧延スタンド8aに到達したと判断すると、制御装置14は後行鋼帯1bの先端が第1圧延スタンド8aを通過した直後に第1圧延スタンド8aのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更する(ステップS4)。
【0014】
後行鋼帯1bの先端が第1圧延スタンド8aを通過したならば、制御装置14は先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第1圧延スタンド8aの下流に配置された第2圧延スタンド8bの近くに到達したか否かをステップS2で取得した鋼帯溶接部の位置情報から判断する(ステップS5)。ここで、先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第2圧延スタンド8bの近くに到達したと判断すると、制御装置14は先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第2圧延スタンド8bを通過する前に第2圧延スタンド8bのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更する(ステップS6)。
【0015】
先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第2圧延スタンド8bを通過したならば、制御装置14は先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第2圧延スタンド8bの下流に配置された第3圧延スタンド8cの近くに到達したか否かをステップS2で取得した鋼帯溶接部の位置情報から判断する(ステップS7)。ここで、先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第3圧延スタンド8cの近くに到達したと判断すると、制御装置14は先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第3圧延スタンド8cを通過する前に第3圧延スタンド8cのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更する(ステップS8)。
【0016】
先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第3圧延スタンド8cを通過したならば、制御装置14は先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第3圧延スタンド8cの下流に配置された第4圧延スタンド8dの近くに到達したか否かをステップS2で取得した鋼帯溶接部の位置情報から判断する(ステップS9)。ここで、先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第4圧延スタンド8dの近くに到達したと判断すると、制御装置14は先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第4圧延スタンド8dを通過する前に第4圧延スタンド8dのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更する(ステップS10)。
【0017】
後行鋼帯1bの先端が第1圧延スタンド8aを通過した直後に第1圧延スタンド8aのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更した場合の先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部を図3に示す。
後行鋼帯1bの先端が第1圧延スタンド8aを通過した直後に第1圧延スタンド8aのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更すると、図3に示すように、テーパ部2が先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部に発生しないことがわかる。
【0018】
次に、後行鋼帯1bの先端が第1圧延スタンド8aを通過した直後に第1圧延スタンド8aのロール圧下位置を変更した場合の第1圧延スタンド8aと第2圧延スタンド8bとの間の鋼帯の張力変化を図4に示す。
後行鋼帯1bの先端が第1圧延スタンド8aを通過した直後に第1圧延スタンド8aのロール圧下位置を変更すると、図4に示すように、先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第2圧延スタンド8bを通過するときに鋼帯のスタンド間張力が大きく低下しないことがわかる。
【0019】
したがって、上述した本発明の一実施形態では、後行鋼帯1bの先端が第1圧延スタンド8aを通過した直後に第1圧延スタンド8aのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更することで、テーパ部2が先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部に発生しなくなり、これにより、先行鋼帯1aと後行鋼帯1bとの溶接部が第1圧延スタンド8aより下流の圧延スタンド8b〜8dを通過したときに、材質やサイズ変更による張力低下とテーパ部圧延による張力低下のタイミングを異ならせることができ、鋼帯のスタンド間張力が大きく低下することを抑制することが可能となるので、後行鋼帯1bの材質が先行鋼帯1aよりも軟質である場合や後行鋼帯bの板厚が先行鋼帯1aよりも厚い場合あるいは後行鋼帯1bの板幅が先行鋼帯1aよりも狭い場合でも鋼帯1a,1bの連続冷間圧延を安定して行うことができる。
【0020】
図5は本発明方法と従来方法における走間板厚変更の成功率を示す図である。図5に示すように、本発明方法のほうが従来方法よりも走間板厚変更の成功率が高くなることがわかり、このことからも明らかなように、本発明方法では、後行鋼帯の材質が先行鋼帯よりも軟質である場合や後行鋼帯の板厚が先行鋼帯よりも厚い場合あるいは後行鋼帯の板幅が先行鋼帯よりも狭い場合でも鋼帯の連続冷間圧延を安定して行うことができる。
上述した本発明の一実施の形態では、タンデム圧延機の圧延スタンドが4台のものを例示したが、圧延スタンドの台数は4台に限られるものではなく、例えば2〜3台であってもよいし、5台以上であってもよい。
【0021】
また、タンデム圧延機の圧延スタンドとして圧延ロールとバックロールとの間に中間ロールを有するものを例示したが、圧延ロールとバックロールとの間に中間ロールが配置されていないものを用いてもよい。
また、圧延スケジュール変更点近傍にあるノッチャーの幅落ちによる張力低下量を幅落ち長さから算出し、その張力低下量に対してミル定数から圧下変更量の増加分を計算するモデルを組み込んでもよい。
【符号の説明】
【0022】
1a…先行鋼帯
1b…後行鋼帯
2…テーパ部
3a,3b…ペイオフリール
4…溶接機
5…ルーパー
6…タンデム圧延機
7…テンションリール
8a…第1圧延スタンド
8b…第2圧延スタンド
8c…第3圧延スタンド
8d…第4圧延スタンド
9a,9b…圧延ロール
10a,10b…バックアップロール
11…中間ロール
12…貫通孔検出装置
13…演算装置
14…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行鋼帯の尾端に後行鋼帯の先端が溶接された鋼帯を当該鋼帯の長手方向に配列された複数の圧延スタンドを有するタンデム圧延機により連続して冷間圧延する鋼帯の連続冷間圧延方法であって、
前記複数の圧延スタンドのうち最も上流の第1圧延スタンドを除く各圧延スタンドを前記先行鋼帯と後行鋼帯との溶接部が通過する前に前記第1圧延スタンドを除く各圧延スタンドのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更し、前記後行鋼帯の先端が前記第1圧延スタンドを通過した直後に該第1圧延スタンドのロール圧下位置をロール間隔が拡大する方向に変更することを特徴とする鋼帯の連続冷間圧延方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−81972(P2013−81972A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222288(P2011−222288)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】