説明

鋼帯圧延機診断装置及び診断方法

【課題】 鋼帯圧延機に発生する異常状態を早期に検出することができ、またその結果を活用することのできる鋼帯圧延機診断装置及び診断方法を提供する。
【解決手段】 鋼帯圧延機(10)に設けられた振動センサ(20)で検出した運転中の振動値を読み込む入力部(31)と、読み込んだ振動値を周波数解析する解析部(33)と、前記周波数解析結果で所定以上の強度を持つ周波数と、前記鋼帯圧延機のロール軸受けの傷発生を示す周波数及び第1の範囲の特定周波数とを照合して異常発生の有無と異常原因とを特定する判定部(34)と、異常が発生していると特定されたときは、異常が発生している旨とその原因とを警報出力する警報部(36)とを有し、前記入力部は、前記振動値を1500Hz以上でのサンプリング周波数で読み込み、前記解析部は、前記入力部が読み込んだ所定の第1解析サイクル期間の振動値を周波数解析する鋼帯圧延機診断装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯生産で使用される圧延機の診断技術に関し、特に圧延機の異常振動に起因して発生するチャタマーク等の疵を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯の圧延機においては、異常振動としてチャタリングと呼ばれる一種の共振現象が発生し、鋼帯に縞模様の疵がつく場合がある。このような異常振動が発生する原因については、バックアップロールの表面状態、圧延油の潤滑状態、鋼帯の温度変動など種々の項目が関係していると考えられている。しかし、圧延中においては、それらの項目は変動しているため、常に正常な状態に保たれていると保証することは困難である。
【0003】
そこで、異常振動、特にチャタリングの発生を初期段階で検出する技術が種々提案されている。
特許文献1に開示された技術では、鋼帯圧延機の各部に振動検出器を設置して運転中の圧延機各部の振動を検出し、振動の加速度または振動エネルギーまたはその双方が一定値を超えたときに異常信号を発するようにして圧延機各部の異常振動の有無を検知する。
特許文献2に開示された技術では、圧延機出側で、被圧延材の長手方向の少なくとも2個所で板厚を同時に測定し、測定した各々の個所の板厚の差が、予め設定されている設定値以上となった場合に、チャタリングの発生を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭57−44408号公報
【特許文献2】特公平5−87325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、鋼帯製造においてチャタリングなどの異常振動に関しては100%完全に検出できる技術が確立されていないのが現状である。
特許文献1、2に記載された技術では、比較的に継続して発生する異常振動を検出することができるが、短い時間内で発生する異常振動を検出するには十分でない。
【0006】
また特許文献1、2に記載された技術は、発生した異常振動を検出するものであり、異常振動の発生を未然に防止する意図を備えるものではない。異常振動発生の未然防止を図るためには、単一のセンサのみに依存するのではなく、他の検出値をも利用して判断することが必要である。
【0007】
このように、良い品質の鋼帯を製造しその品質を保証する体制を確立するためには、早期に異常の発生及び予知が行えるように装置を構成する必要がある。更に、検知した異常情報を後のプロセスにおいて活用できるような仕組みが必要である。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、鋼帯圧延機に発生する異常状態を早期に検出することができ、またその結果を活用することのできる鋼帯圧延機診断装置及び診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、鋼帯圧延機に設けられた振動センサで検出した運転中の振動値を読み込む入力部と、読み込んだ振動値を周波数解析する解析部と、前記周波数解析結果で所定以上の強度を持つ周波数と、前記鋼帯圧延機のロール軸受けの傷発生を示す周波数及び第1の範囲の特定周波数とを照合して異常発生の有無と異常原因とを特定する判定部と、異常が発生していると特定されたときは、異常が発生している旨とその原因とを警報出力する警報部とを有し、前記入力部は、前記振動値を1500Hz以上でのサンプリング周波数で読み込み、前記解析部は、前記入力部が読み込んだ所定の第1解析サイクル期間の振動値を周波数解析する鋼帯圧延機診断装置である。
【0010】
また本発明は、鋼帯圧延機に設けられた振動センサで検出した運転中の振動値を1500Hz以上でのサンプリング周波数で読み込み、読み込んだ所定の第1解析サイクル期間の振動値を周波数解析し、前記周波数解析結果で所定以上の強度を持つ周波数と、前記鋼帯圧延機のロール軸受けの傷発生を示す周波数及び第1の範囲の特定周波数とを照合して異常発生の有無と異常原因とを特定し、異常が発生していると特定されたときは、異常が発生している旨とその原因とを警報出力する鋼帯圧延機診断方法である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、鋼帯圧延機に発生する異常状態を早期に検出することができ、またその結果を活用することのできる鋼帯圧延機診断装置及び診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態の圧延機診断装置を冷間連続圧延機(コールドタンデムミル)に適用した例を示す図。
【図2】診断装置本体に設けられた診断機能を表すブロック図。
【図3】振動信号を周波数解析して異常を判定する処理フローを示す図。
【図4】周波数解析結果を示す図。
【図5】軸受けの諸元と異常に関連する周波数との関係を示す図。
【図6】異常原因判定処理を示すフロー図。
【図7】異常原因判定処理を示すフロー図。
【図8】異常判定処理での判定方法をまとめた図。
【図9】振動信号のレベルから異常を判定する処理フローを示す図。
【図10】スタンド間張力信号の変動から異常を判定する処理フローを示す図。
【図11】表示装置に表示される監視画面を示す図。
【図12】警報発生時の異常振動に関する詳細の情報を示す図。
【図13】圧延機診断装置を実機に適用した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施の形態の圧延機診断装置を冷間連続圧延機(コールドタンデムミル)に適用した例を示す図である。
【0014】
まず冷間連続圧延機10の構成について説明する。
図1に示す冷間連続圧延機10は、5つのスタンド(♯1スタンド〜♯5スタンド)を備えている。冷間連続圧延機10に搬送された、例えば、熱間で圧延された鋼帯11は、この5つのスタンドを順次通過することによって所望の厚みに圧延される。
【0015】
各スタンドには、鋼帯11を圧延するための一対のワークロール(WR)12、及びワークロール12に圧下力を作用させるための一対のバックアップロール(BUR)13が設けられている。また、スタンド間には鋼帯11の張力を測定するためのテンションメータロール(TMR)14が備えられている。なお、♯5スタンドは、他のスタンドと異なり、ワークロール(WR)12とバックアップロール(BUR)13の間に中間ロール15を備えている。
【0016】
この冷間圧延機10の圧延中の状態を診断するために、種々のプロセス信号が取り出される。
各スタンドのミルハウジングの上部には、振動センサ20が1個設置され、圧延時のスタンドの振動が測定される。
さらに、各スタンドのワークロール12の回転数信号22、各スタンド間の張力信号23がプロセス信号として取り出される。なお、信号22,23は測定した信号であっても良く、圧延機の運転制御装置(不図示)から取り出した制御出力信号であっても良い。
【0017】
次に圧延機診断装置1の構成について説明する。
圧延機診断装置1は、診断装置本体2、設定操作装置3、表示装置4、AD変換ボード5、絶縁変換器6及び振動変換器7を備えている。
診断装置本体2は、圧延機を診断するための各種処理機能を有している。設定操作装置3は、診断装置本体2に対する動作指示、データ入力などを行うための装置である。表示装置4は、各プロセス信号、診断結果、警報などを表示する。AD変換ボード5は、絶縁変換器6及び振動変換器7を介して取り込んだプロセス信号をデジタル信号に変換する。
【0018】
なお、絶縁変換器6とは別に振動変換器7を設けているのは、振動センサ20の出力が電荷(チャージ)であって特別な変換回路を必要としているためである。従って、信号の特性に合わせて適宜変換器を設ければ良く、変換器の種類・構成はこの形態に限られるものではない。
【0019】
図2は、診断装置本体2に設けられた診断機能を表すブロック図である。図2を参照しつつ各診断機能の構成とその動作について説明する。
信号入力部31は、AD変換ボード5を介してプロセス信号を読み込み、物理量(工業単位)に変換する。振動信号は、第1のサンプリング周波数(約3000Hz)で、第1解析サイクル期間(0.2〜2秒、より好ましくは0.9〜1.1秒)サンプリング入力される。その第1解析サイクル期間の時系列信号はフィルタ部32において低周波数領域がカットされる。そして、フィルタ処理された信号は、周波数解析部33がフーリエ変換を行って周波数ごとのエネルギーを算出する。
【0020】
張力信号は、第2のサンプリング周波数(約500Hz)で、第2解析サイクル期間(0.5〜2秒、より好ましくは0.9〜1.1秒)サンプリング入力される。その第2解析サイクル期間の時系列信号はフィルタ部32において低周波数領域がカットされる。そして、フィルタ処理された信号は、振動信号とは異なり周波数解析は行われない。
【0021】
判定部34は、振動信号については時系列データ、周波数解析結果を用いて異常の有無を判定する。判定内容は、信号レベル判定、周波数解析判定、異常内容判定である。
振動の信号レベル判定では、読み込んだ信号レベル値からRMS(Root Mean Square:実効値)値、変動値などを算出し異常の有無を判断する。周波数解析判定では、周波数解析結果から特定周波数の強度を求めて異常の有無を判断する。異常内容判定では、周波数解析結果に基づいて異常原因(例えば、チャタリング発生、スリップ発生、ベアリング異常発生、ロール異常発生など)を判断する。
なお、張力信号の判定方法については、後で詳細に説明する。
【0022】
判定部34が、異常と判定した場合は、その情報が警報部36に伝えられる。警報部36は、オペレータに注意を喚起すると共に、オペレータのアクションを支援する情報を提供する。例えば、警報部36は、外部に設けられた警報ランプを点灯する、表示装置4に異常を表示して警報音を吹鳴する、表示装置4に異常内容の詳細情報を表示する、などを実行する。
【0023】
オペレータは、この警報出力に基づいてアクションを実行する。例えば、オペレータは、異常内容に基づいてミルを減速運転する、ワークロール12を交換する、下工程に対して異常に関する情報を連絡する等の動作を適宜実行する。
【0024】
一方、記録部35は、読み込まれた時系列のプロセス信号、周波数解析結果データ、警報データなどを不図示の記録媒体(例えば、HDD等)に保存する。これらのデータは、リアルタイムで、あるいは設定操作装置3からの操作入力によって記録媒体から取り出されて、表示装置4に表示される。
【0025】
メンテナンス部37は、判定部34が判定処理で用いる各種設定値を設定操作装置3を介して取り込む。各種定数には、警報閾値、ベアリング基本定数、センサ測定値変換定数、各ロール形状値などがある。
【0026】
続いて圧延機診断装置1の動作について説明する。
図3は、振動信号を周波数解析して異常を判定する処理フローを示す図である。
【0027】
ステップS01において、信号入力部31は、ミルハウジングに設けられた振動センサ20からの信号を読み込み、工業単位に変換する。ここで、サンプリング周波数は本実施の形態では3000Hzとしているが、1500Hz以上であることが必要である。これは、圧延機において発生する約750Hzまでの振動を検知するためには、サンプリング定理によって1500Hz以上のサンプリング周波数が必要となることを考慮したものである。
【0028】
ステップS02において、信号入力部31は、第1解析サイクル期間が経過するまで振動信号の読み込みを継続する。ステップS02でYesの場合、即ち所定期間振動信号を読み込んだときは、ステップS03において、フィルタ部32が読み込んだ振動信号に対してフィルタ処理を実行する。実行されるフィルタ処理は、ハイパスフィルタ処理であって低周波成分をカットすることで不安定なノイズ成分を除外する。なお、フィルタ処理として、無限インパルス応答フィルタを用いても良い。
【0029】
ステップS04において、記録部35は、3000Hzのサンプリング周期で読み込まれた振動信号を連続して記録媒体に記録する。
ステップS05において、周波数解析部33は、振動信号を高速フーリエ変換(FFT)によって周波数解析する。ステップS06において、判定部34は、強度の強い周波数を上位から3つ抽出する。
【0030】
図4は、周波数解析結果を示す図である。横軸は周波数を示し、縦軸は強度を示している。このグラフ上の点mを、周波数fとその強度Lを対としてm(f、L)として表した場合、強度の強い上位3つの周波数が3つの点m1(f1、L1)、m2(f2、L2)、m3(f3、L3)として抽出されている。
なお、3点抽出するのは所定以上の強度の周波数を抽出する際に、抽出される周波数の点数が多くなりすぎることを防止するためであり、点数は3点に限るものではなく、また点数を限らずに抽出しても良い。
【0031】
ステップS07において、判定部34は、各スタンドのワークロール12の回転数信号22から、各ロール(ワークロール12、バックアップロール13、テンションメータロール14、中間ロール15)の回転数を求め、それぞれのロールについてベアリング傷など異常に関する周波数を算出する。
【0032】
図5は、軸受けの諸元と異常に関連する周波数との関係を示す図である。
異常に関連する周波数として、(1)回転成分fr、(2)外輪傷fo、(3)内輪傷fi、(4)転動体傷fb、(5)保持器成分fcが算出されている。
【0033】
ステップS08において、判定部34は、抽出した3つの周波数の内、その強度が所定の閾値以上である周波数について、異常に関する周波数(1)〜(5)と照合する。そして、ステップS09において、異常原因判定処理を実行する。異常原因判定処理では、抽出した周波数が所定の条件に合致するかどうかを調べる。
【0034】
図6、図7は、異常原因判定処理を示すフロー図である。
ステップT01において、抽出した周波数fHzを中心とする前後αHzの範囲を合致範囲とする。
ステップT02において、frが合致範囲にあるかどうかを調べる。ステップT02でYesの場合、即ち、frが合致範囲内にある場合、ステップT03において、異常原因に(1)回転成分を加える。
【0035】
ステップT04において、foが合致範囲にあるかどうかを調べる。ステップT04でYesの場合、即ち、foが合致範囲内にある場合、ステップT05において、異常原因に(2)外輪傷を加える。
ステップT06において、fiが合致範囲にあるかどうかを調べる。ステップT06でYesの場合、即ち、fiが合致範囲内にある場合、ステップT07において、異常原因に(3)内輪傷を加える。
【0036】
ステップT08において、fbが合致範囲にあるかどうかを調べる。ステップT08でYesの場合、即ち、fbが合致範囲内にある場合、ステップT09において、異常原因に(4)ボール傷を加える。
ステップT10において、fcが合致範囲にあるかどうかを調べる。ステップT10でYesの場合、即ち、fcが合致範囲内にある場合、ステップT11において、異常原因に(5)保持器損傷を加える。
【0037】
ステップT12において、ベアリングの異常原因が存在すると判定されたかどうかを調べる。ステップT12でYesの場合、ステップT14において、異常原因有りと判定する。
ステップT12でNoの場合で、ステップT13でYesの場合、即ち、抽出した周波数fHzが、軸受けの諸元に関する異常周波数に合致しなくとも、所定の周波数領域にある場合は、異常原因に(6)異常振動を加え、ステップT14において、異常原因有りと判定する。ここで、所定の周波数領域として、例えば80〜300Hzとすることができる。
【0038】
一方、ステップT12でNoの場合で、かつステップT13でNoの場合、即ち、抽出した周波数fHzが、軸受けの諸元に関する異常周波数に合致せず、所定の周波数領域にもない場合は、ステップT15において、異常原因は無しと判定する。
【0039】
図3に戻り、ステップS10において、判定部34は、異常原因が存在するかどうかを調べる。
ステップS10でNoの場合、即ち異常原因が存在しない場合は、元に戻ってプロセス信号の読込を実行する。
ステップS10でYesの場合、即ち異常原因が存在する場合は、ステップS11において異常判定処理を実行する。
【0040】
図8は、異常判定処理での判定方法をまとめた図である。
ケース1では、チャタリングの発生を判定する。即ち、異常原因が(6)異常振動であって、その継続時間がT1〜T2秒であればチャタリングが発生と判断する。
【0041】
なお、継続時間とは、第1解析サイクル期間中に異常振動が発生した場合、その異常振動を含む第1解析サイクル期間の連続する回数に相当する時間のことをいう。たとえば、第1解析サイクル期間が1秒であり、異常振動の発生した第1解析サイクル期間が10個連続した場合には、継続時間は1秒×10=10秒となる。
【0042】
ここで本実施の形態では、振動信号の読込時間(第1解析サイクル期間)は0.2〜2秒、より好ましくは0.9〜1.1秒である。本圧延機診断装置では、上記継続時間としてT1=0.2、T2=1とすることができる。即ち、本圧延機診断装置1では、0.2〜1秒間だけ発生した異常振動を検出することが可能である。
【0043】
ケース2では、ベアリング異常を判定する。即ち、異常原因が(1)〜(5)の特定周波数であって、その継続時間がT3秒以上であればベアリング異常が発生と判断する。ここでベアリング異常は機械的に欠陥が存在することを表している。従って、継続時間は例えば10秒以上として安定した異常検知とすることができる。
【0044】
ケース3では、回転系の異常、スリップなどの発生を判定する。即ち、異常原因が(6)異常振動であって、その継続時間がT3秒以上であれば回転系の異常などが発生と判断する。ここで継続時間は例えば10秒以上とすることができる。
【0045】
図3に戻り、ステップS12において、ケース1〜3のいずれかの異常が発生しているかどうかを調べる。
ステップS12でNOの場合、即ち異常と判定されなかった場合は、元に戻ってプロセス信号の読込を実行する。
【0046】
ステップS12でYesの場合、即ち異常と判定された場合は、ステップS13において、警報部36が所定の警報出力を行い、記録部35が警報データを記録媒体に書き込んで保存する。そして、元に戻ってプロセス信号の読込を実行する。
【0047】
図9は、振動信号のレベルから異常を判定する処理フローを示す図である。
ステップS21〜S24は、図3のステップS01〜S04と同じであるため、その詳細の説明は省略する。
【0048】
ステップS25において、判定部34は、読み込んだ振動信号のRMS値を算出する。そして、ステップS26において、算出したRMS値と閾値を比較する。
ステップS26でNOの場合、即ち算出したRMS値が閾値よりも小さい場合は、元に戻ってプロセス信号の読込を実行する。
【0049】
ステップS26でYesの場合、即ち算出したRMS値が閾値よりも大きい場合は、ステップS27において、警報部36が所定の警報出力を行い、記録部35が警報データを記録媒体に書き込んで保存する。そして、元に戻ってプロセス信号の読込を実行する。
【0050】
図10は、スタンド間張力信号の変動から異常を判定する処理フローを示す図である。
【0051】
ステップS41において、信号入力部31は、スタンド間張力信号を読み込む。ここで、張力信号は振動信号と異なりサンプリング周波数を約500Hzと遅くしている。これは、張力信号は振動信号と比較するとより緩やかに変化するため、振動成分で要求される高周波成分まで解析する必要性が少ないからである。ステップS42〜S44は、図3のステップS02〜S04と同じであるため、その詳細の説明は省略する。
【0052】
ステップS45において、判定部34は、読み込んだ張力信号の所定時間内における最大変動値を算出する。ここで、最大変動値は、最大値と最小値の差である。例えば、第2の解析サイクル期間中(0.5〜2秒、より好ましくは0.9〜1.1秒)の最大変動値を求めることができる。そして、ステップS46において、算出した最大変動値と閾値を比較する。
ステップS46でNOの場合、即ち算出した最大変動値が閾値よりも小さい場合は、元に戻ってプロセス信号の読込を実行する。
【0053】
ステップS46でYesの場合、即ち算出した最大変動値が閾値よりも大きい場合は、ステップS47において、警報部36が所定の警報出力を行い、記録部35が警報データを記録媒体に書き込んで保存する。そして、元に戻ってプロセス信号の読込を実行する。
【0054】
図11は、表示装置に表示される監視画面40を示す図である。
この監視画面40は、信号波形表示領域41、総合警報表示領域42、詳細警報表示領域43で構成されている。
【0055】
信号波形表示領域41には、ロール回転数(rpm)の時間推移に対応して、各スタンドでのプロセス信号値、例えば圧延時のスタンドの振動の時間推移がリアルタイムで表示される。なお、表示される各スタンドでのプロセス信号値は、このスタンドの振動値だけでなく、テンションメータロールの振動、張力値などを設定操作装置3から指定することができる。
【0056】
総合警報表示領域42には、警報ランプ、リセットボタンが設けられている。判定部34が異常発生と判定したときは、警報部36はこの警報ランプを点灯し、不図示のブザーを吹鳴する。警報ランプはリセットボタンによって消灯することができるが、点灯から所定時間経過したときに自動で消灯させることもできる。
【0057】
詳細警報表示領域43には、各スタンドのどのプロセス信号がどのような異常になったかが判別できるように表示ランプが設けられている。即ち、判定部34はレベル(RMS,変動値など)異常と判定した場合に四角の警報ランプを点灯する。判定部34は周波数異常と判定した場合に丸い警報ランプを点灯する。
【0058】
なお、周波数異常ランプは、図8に示すケース1,2,3を判別して異常内容を表示しても良い。例えば、3つの警報ランプをケース1,2,3それぞれの警報として使用することができる。オペレータは警報の発生と共に、異常内容を把握することが可能となり、適切なアクションをとることができる。従って、圧延コイルの品質低下の未然防止、品質低下範囲の縮小などによる歩留まり向上を図ることができる。
【0059】
図12は、警報発生時の異常振動に関する詳細の情報を示す図である。
警報発生時には、詳細の警報データが自動的に記録媒体に格納される。オペレータが設定操作装置3より操作することにより、その警報データを表示装置4に表示することができる。警報データは、「年月日」、「時分秒」、「発生スタンド」、「異常内容」などである。オペレータは対象となる圧延コイル番号と共に、このデータから求めた異常発生時のコイルの位置、異常部位の長さなどの情報を下工程(検査工程)に伝えることにより、異常部位の検査見逃しを防止することができる。従って、品質保証の向上を図ることができる。
【0060】
図13は、圧延機診断装置を実機に適用した結果を示す図である。
No.1〜4の例では、チャタリングを検知している。検知位置とチャタマークの発生位置は一致していた。ここで検知したチャタマークは鋼帯の3〜5mの領域に存在していた。圧延速度を1000m/minとすると、この領域が振動センサで検知される時間は約0.2〜0.3秒である。本実施の形態の圧延機診断装置では、サンプリング周波数3000Hz(1500Hz以上)、読込期間0.2〜2秒として処理しているため、このような短期間の異常振動であっても確実に検出することができている。なお、No.3の例では、チャタマークは顕著ではなく製品への影響は無かった。
これまで検出の難しかった短時間のチャタリング現象が頻度多く発生したことが本圧延機診断装置によって裏付けられたため、製造部署では操業条件についての見直しを行い潤滑油を変更した。その結果、チャタリングの発生は大きく低減した。
【0061】
No.5〜6の例では、スリップを検知している。この異常振動による製品への影響は見られなかった。異常振動が発生した際、その製品への影響の有無を確認することが不可欠である。一時的に短期間発生するスリップは見逃されやすい。しかし、本実施の形態の圧延機診断装置では、サンプリング周波数3000Hz(1500Hz以上)、読込期間0.2〜2秒として処理しているため、このような短期間のスリップによる異常振動であっても確実に検出することができている。本圧延機診断装置により、異常振動発生位置が特定できたため確実に製品への影響の有無を確認することができ、さらに異常原因を特定できるためその確認結果の信頼性を向上させることができた。
【0062】
No.7〜8の例では、ベアリング異常を検知している。異常振動の原因としてはワークロールベアリングの外輪傷と判定された。ワークロールのベアリングを分解して点検した結果、判定通り、外輪にフレーキングの発生が見られた。この異常振動による製品への影響は無かったが、このまま放置していた場合には、製品に悪影響を及ぼす異常振動の原因となっていたものと考えられる。従って、品質低下の未然防止を図ることができた。
【0063】
また、短時間に発生する異常を早期に検出することができるため、そのような異常が継続して発生することを防止することが可能となり、従って、従来ではその後に発生していたと考えられる大きな異常振動を未然に防止することが可能となった。
【0064】
第1解析サイクル期間について説明する。第1解析サイクル期間の決定方法としては、上述のように短期間で発生するチャタリングを検知するために必要な最小時間が計算で求められる。0.2秒間の現象を検知するためには解析サイクル期間を最小0.2秒とすることが望ましい。しかし、解析サイクル期間を短くすると、より高速のサンプリングが必要となり、また解析結果の安定性が低下することにもつながってくる。
一方、第1解析サイクル期間を長くすると、短期間で発生するチャタリングの検知精度が低下することにつながり、解析時間の増大、装置のデータ蓄積量の増大につながってくる。
【0065】
従って、第1解析サイクル期間は、これらの要件を考慮して定められることなる。本実施の形態では、実用的な装置の構成を考慮して、0.2〜2秒としている。また望ましい範囲として0.9〜1.1秒を規定しているが、これは本装置を実機に適用した結果として望ましい値として得られたものである。
【0066】
なお、張力信号の読込期間である第2解析サイクル期間についても上述の考え方にしたがっている。しかし、張力信号は振動信号ほどの高周波成分を解析しないため、サンプリング周波数を遅くしている。これに対応し、対象とするデータ数を確保するため第2解析サイクル期間の最小値は0.5秒としている。但し、張力信号と振動信号を区分することなく、同じサンプリング周波数、同じ解析サイクル期間で処理するように構成しても良い。
【0067】
尚、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、鋼帯圧延機に発生する異常状態を早期に検出することができ、またその結果を活用することのできる鋼帯圧延機診断装置を製造する産業、及び圧延機によって鋼帯を製造する産業で利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…圧延機診断装置、2…診断装置本体、3…設定操作装置、4…表示装置、5…AD変換ボード、10…冷間圧延機、11…鋼帯、12…ワークロール、13…バックアップロール、14…テンションメータロール、15…中間ロール、20、21…振動センサ、31…信号入力部、32…フィルタ部、33…周波数解析部、34…判定部、35…記録部、36…警報部、37…メンテナンス部、40…監視画面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯圧延機に設けられた振動センサで検出した運転中の振動値を読み込む入力部と、
読み込んだ振動値を周波数解析する解析部と、
前記周波数解析結果で所定以上の強度を持つ周波数と、前記鋼帯圧延機のロール軸受けの傷発生を示す周波数及び第1の範囲の特定周波数とを照合して異常発生の有無と異常原因とを特定する判定部と、
異常が発生していると特定されたときは、異常が発生している旨とその原因とを警報出力する警報部とを有し、
前記入力部は、前記振動値を1500Hz以上でのサンプリング周波数で読み込み、
前記解析部は、前記入力部が読み込んだ所定の第1解析サイクル期間の振動値を周波数解析することを特徴とする鋼帯圧延機診断装置。
【請求項2】
前記判定部は、
所定以上の強度を持つ前記周波数が前記ロール軸受けの傷発生を示す周波数に相当して、
その状態の継続時間がT3秒以上のときはベアリングの異常が発生したと判定することを特徴とする請求項2に記載の鋼帯圧延機診断装置。
【請求項3】
前記判定部は、
所定以上の強度を持つ前記周波数が前記第1の範囲の特定周波数に相当して、
その状態の継続時間がT1秒以上、T2秒以下のときはチャタリングまたはスリップが発生したと判定し、
その状態の継続時間がT4(T4>T2)秒以上のときは回転系の異常が発生したと判定することを特徴とする請求項1に記載の鋼帯圧延機診断装置。
【請求項4】
前記入力部は、前記鋼帯圧延機の運転中の鋼帯の張力値を前記振動値よりも小さいサンプリング周波数で読み込み、
前記判定部は、前記入力部が読み込んだ所定の第2解析サイクル期間の張力値の最大値と最小値との差が所定値以上である場合は異常が発生したと判断することを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の鋼帯圧延機診断装置。
【請求項5】
鋼帯圧延機に設けられた振動センサで検出した運転中の振動値を1500Hz以上でのサンプリング周波数で読み込み、
読み込んだ所定の第1解析サイクル期間の振動値を周波数解析し、
前記周波数解析結果で所定以上の強度を持つ周波数と、前記鋼帯圧延機のロール軸受けの傷発生を示す周波数及び第1の範囲の特定周波数とを照合して異常発生の有無と異常原因とを特定し、
異常が発生していると特定されたときは、異常が発生している旨とその原因とを警報出力すること
を特徴とする鋼帯圧延機診断方法。
【請求項6】
前記判定部は、
所定以上の強度を持つ前記周波数が前記ロール軸受けの傷発生を示す周波数に相当して、
その状態の継続時間がT3秒以上のときはベアリングの異常が発生したと判定することを特徴とする請求項5に記載の鋼帯圧延機診断方法。
【請求項7】
前記判定部は、
所定以上の強度を持つ前記周波数が前記第1の範囲の特定周波数に相当して、
その状態の継続時間がT1秒以上、T2秒以下のときはチャタリングまたはスリップが発生したと判定し、
その状態の継続時間がT4(T4>T2)秒以上のときは回転系の異常が発生したと判定することを特徴とする請求項5に記載の鋼帯圧延機診断方法。
【請求項8】
前記入力部は、前記鋼帯圧延機の運転中の鋼帯の張力値を前記振動値よりも小さいサンプリング周波数で読み込み、
読み込んだ所定の第2解析サイクル期間の張力値の最大値と最小値との差が所定値以上である場合は異常が発生したと判断することを特徴とする請求項5乃至7の内のいずれか1項に記載の鋼帯圧延機診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−234422(P2010−234422A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86268(P2009−86268)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】