説明

鋼材の塗装物及び鋼材の塗装方法

【課題】 一般の塗装製造品において、機械的前処理及び化学的前処理を実施せずに、油脂分及び錆が残存する鋼材に対して長期間防錆塗膜性能を保証できる熱硬化型及び常温硬化型塗装を実施することを目的とする。
【解決手段】 塗装物の鋼材1に対し、まず錆1bが発生している個所に、錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料2又は錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料を塗布する。乾燥後、塗装しようとする対象面全体に対して、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料3を塗布する。乾燥後、客先指定塗装、例えば熱硬化型樹脂であるメラミン樹脂、アクリル樹脂や常温硬化型樹脂であるハイソリッドラッカーやポリウレタン樹脂で通常の塗装を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錆及び油脂分が残存する鋼材を素材として塗料を塗布形成させた鋼材の塗装物及び鋼材の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の構造物などに用いられている鋼材には一般に、防錆性や美観性を向上させるために、用途、機能に応じた1回または2回以上の塗装が行われている。この塗装がされる鋼材の表面には、鋼材の保管環境により部分的に錆が生じている場合がある。また、前記鋼材の表面には、防錆のため若しくはその他の理由により全面的に又は部分的に油脂が付着している場合がある。かような鋼材の表面に存在する錆や油脂は、塗装した塗膜の密着性などの塗装性に悪影響を及ぼすから、一般の塗装品製造においては前処理を実施し、油脂及び錆を除去してから塗装を実施していた。
【0003】
錆や油脂を除去する前処理には、機械的前処理と化学的前処理とがあり、代表的には機械的前処理ではブラスト処理が、化学的前処理ではアルカリ脱脂−錆除去の酸洗−表面調整−りん酸塩被膜(化成被膜)被成の順次の処理が実施される。しかしながら、これらの前処理を行うための前処理設備は、導入することは基より、維持・環境管理にも多大のコストを要するものであった。しかも、化学的前処理では、特に廃液処理などの問題があり、環境を考慮すると好ましいものではなかった。
【0004】
従来の鋼材の塗装において、錆が発生した現地組立て完了品の常温乾燥型塗装は、錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料、又はエポキシ樹脂塗料を下塗りとして使用し、常温乾燥型の中塗り及び上塗りで塗装を実施していた。また、油脂分が残存する鋼材面に対しては、特許文献1(金属材塗料)に記載された塗料、すなわち油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料を用い、塗装を実施していた。
【0005】
しかしながら、上記した錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料、又はエポキシ樹脂塗料は、油脂が付着している鋼材の表面には十分な付着力がなく、しかも、上塗りする塗料の種類が限定されてしまう。一方、シランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料は、部分的に錆が残存している鋼材の当該錆領域には、十分な付着力がなかった。そのため、前述の前処理を実施することなしに、すなわち、油脂分及び錆が残存する鋼材に対して長期間塗膜性能を保証でき、更に、上塗りとして熱硬化型塗装及び常温硬化型塗装のいずれの塗装を実施可能な塗装技術が必要であったが、従来技術ではなかった。
【特許文献1】特開平6−73337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を有利に解決するものであり、一般の塗装製造品において、機械的前処理及び化学的前処理を実施せずに、油脂分及び錆が残存する鋼材に対して長期間防錆塗膜性能を保証でき、更に、上塗りとして熱硬化型塗装及び常温硬化型塗装のいずれの場合でも塗装を実施することが可能な鋼材の塗装物及び鋼材の塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鋼材の塗装物は、鋼材の表面上に、錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料の塗膜を備え、前記錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料の塗膜上及び鋼材の表面上に、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料の塗膜を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の鋼材の塗装物は、鋼材の表面上に、錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料の塗膜を備え、前記錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料の塗膜上及び鋼材の表面上に、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料の塗膜を備えることを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の鋼材の塗装物においては、前記錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料の塗膜の下地、又は前記錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料の塗膜の下地に、錆層が変換されたマグネタイト層を有すること、すなわち、錆層を備える鋼材表面の当該錆層領域に、前記錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料の塗膜、又は前記錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料の塗膜が塗布形成されていることが好適である。
【0010】
本発明の鋼材の塗装方法は、錆及び油脂が表面に残存している鋼材表面の前記錆が残存している領域に、錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料塗料を塗布する工程と、前記錆層をマグネタイトに変換フェノール変性アルキド樹脂塗料が塗布された領域を含む前記鋼材表面の塗装しようとする領域に、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料を塗布する工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の鋼材の塗装方法は、錆及び油脂が表面に残存している鋼材表面の前記錆が残存している領域に、錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料を塗布する工程と、前記錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料された領域を含む前記鋼材表面の塗装しようとする領域に、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料を塗布する工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の鋼材の塗装方法は、前記錆及び油脂が表面に残存している鋼材が、機械的前処理又は化学的前処理が施されていないものである場合に、効果が顕著に現れる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鋼材の塗装物によれば、一般の塗装製造品において、機械的前処理及び化学的前処理を実施せずに油脂分及び錆が残存する鋼材を素材とする塗装物に対して、長期間の防錆塗膜性能を保証できる。また、本発明の塗装物は、更に、熱硬化型塗装及び常温硬化型塗装を上塗りとして実施することができ、その熱硬化型塗装及び常温硬化型塗装について、多様な種類の塗膜を形成し長期間性能を維持することを可能にする。しかも、塗装に用いる塗料は、環境配慮型塗装系であり、6価クロムや鉛化合物等の有害金属を含まずに防錆力機能を提供することができる。
【0014】
また、本発明の鋼材の塗装方法によれば、油脂分及び錆が残存する鋼材を被塗装材として、塗装を行うから、機械的前処理及び化学的前処理が行う必要がなく、よって前処理設備及びその維持管理コストを大幅に軽減できる。また、前処理、後処理を含めた全体の塗装作業時間も短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
前記目的を達成するために本発明においては、塗装被処理材である鋼材に対し、まず錆が発生している個所に、錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料、又は錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料を、刷毛又はスプレー等で塗布する。この塗布された塗料を乾燥させ(例えば、常温で2時間以上経過させる)、その後に塗装対象面全体に対して、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料を刷毛又はスプレー等で塗布する。この塗布された塗料を乾燥させ(例えば、常温で20分以上経過させる)、その後、必要に応じて客先指定塗装、例えば熱硬化型樹脂であるメラミン樹脂、アクリル樹脂や、常温硬化型樹脂であるハイソリッドラッカーやポリウレタン樹脂で通常の塗装を実施する。
【0016】
以下本発明の実施形態について、より具体的に説明する。
【0017】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1における油脂分及び錆が残存する鋼材の塗装物を模式的に示す断面図である。同図において、鋼材1の表面に、油脂分1a及び錆1bの両方が残存している。錆1bは、点蝕よりも大きい、目視で視認できるある程度の領域を有する錆である。このような鋼材1に対して、まず、前記錆1bが発生している個所に、錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料を、刷毛又はスプレーで塗布し、その塗料の膜厚20〜60μmの塗膜2を形成する。常温(20〜25℃)で2時間以上経過させて乾燥させた後に、鋼材1の塗装対象面全体、すなわち鋼材1の表面及び鋼材1の表面に部分的に塗布されている塗膜2の表面に対して、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料を、刷毛又はスプレーで塗布し、その塗料の厚み20〜60μmの塗膜3を形成する。図1では、模式的に鋼材1の外周面全体にわたって塗膜3を塗布形成している。次いで、常温で20分以上経過させて乾燥させた後、客先指定塗装、例えば熱硬化型樹脂であるメラミン樹脂、アクリル樹脂や、常温硬化型樹脂であるハイソリッドラッカーやポリウレタン樹脂で通常の塗装を実施し、厚み20〜60μmの塗膜4を形成する。
【0018】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2における油脂分及び錆が残存する鋼材の塗装物を模式的に示す断面図である。なお、図2では、図1と同じ部材については同一符号を付している。図2に示す塗装物が図1に示した塗装物と異なる点は、錆1b上に塗装する塗料が、図1に示した錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料の代わりに、錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料であるところである。
【0019】
すなわち、鋼材1の表面に、油脂分1a及び錆1bの両方が残存している。このような鋼材1に対して、まず、前記錆1bが発生している個所に錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料を、刷毛又はスプレーで塗布し、その塗料の厚み30〜80μmの塗膜5を形成する。常温で2時間以上経過後させて乾燥させた後に、鋼材1の塗装対象面全体、すなわち、鋼材1の表面及び鋼材1の表面に部分的に塗布されている塗膜5の表面に対して、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料を、刷毛又はスプレーで塗布し、その塗料の厚み30〜80μmの塗膜3を形成している。次いで、常温で20分以上経過させて乾燥させた後、客先指定塗装、例えば熱硬化型樹脂であるメラミン樹脂、アクリル樹脂や常温硬化型樹脂であるハイソリッドラッカーやポリウレタン樹脂で通常の塗装を実施し、20〜60μmの塗膜4を形成する。本実施形態2は、フェノール変性樹脂よりも厳しい環境で耐えられるエポキシ樹脂を塗膜5に用いており、しかも、塗膜5の厚みが実施形態1の塗膜2の厚みよりも厚く、よって実施形態1よりもさらに厳しい環境に耐え得る塗装系である。
【0020】
先に図1及び図2を用いて説明したように、本発明においては、油脂分及び錆が残存している鋼材に対して、最初に、錆が発生している個所に錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料、又は錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料を塗布する。これらの塗料としては、既に知られている塗料を用いることができ、例えば、市販の日本パーカーライジング(株)製トリック900(フェノール変性アルキド樹脂塗料)、トリック1000(エポキシ樹脂塗料)を適用することができる。また、塗布量についても、求められる塗装条件に応じて、適宜、定めることができる。これらの塗料は、錆層に浸透して、錆層を固着化させ、次いで、高分子キレート剤の作用により、化学的に安定な無機/有機結合体の防食皮膜を形成すると同時に、錆層は、マグネタイト、非晶質錆に変換される。すなわち、錆面に対して、浸透包被型、錆反応型、錆安定型の機能を有するものである。これらの塗料は、錆層をマグネタイトに変換する作用を有する塗料であるから、塗料を塗布する鋼材表面の、錆が発生している領域に塗布すれば足りる。鋼材表面で錆が発生していない領域にまで必要以上に塗布することは、コストアップの原因になるので得策ではないが、本発明では、上記塗料を錆が発生していない領域を含めて塗布されている実施形態を排除するものでない。
【0021】
塗料が塗布された鋼材は、常温に置かれて乾燥される。この乾燥は、完全乾燥させる必要は必ずしもないが、塗布された塗膜の表面に、次に述べる塗料が塗布されても不都合が生じない程に乾燥される必要がある。
【0022】
次に、鋼材の塗装対象領域の全面に対して、すなわち、錆上に塗布されている前記塗料を覆うとともに、前記塗料が塗布されず、そして油脂が残存している鋼材表面を覆って、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料を塗布する。この塗料としては、表1に示す成分組成範囲を有する関西ペイント(株)製TFラスタイト(改)を適用することができる。なお、表1には、各成分の好適組成範囲について括弧書きで示した。
【表1】

【0023】
表1に示した塗料は、油脂分が残存していても、アルキド樹脂分の脂肪酸が鋼材の表面の油脂分となじみ性があるだけでなく、塗料が油脂中を浸透して鋼材と接触し、また、添加剤としてシランカップリング剤が含有されているので、付着力が強い。また、塗装後の乾燥時間が短い。乾燥時間が短いのは、アルキド樹脂として油長が短い短油アルキド樹脂が使用され、油脂分を金属塩(ナフテン酸コバルト、ナフテン酸カルシウム、オクチル酸ジルコニウム等)で酸化重合させているからである。すなわち、塗料中の油脂分に対して、金属塩がレドックス反応で酸化重合を促進するので、乾燥時間が短いのである。また、防食性能も優れている。これは、前述のように付着力が優れていることも大きく影響しているが、更に、短油アルキド樹脂は、長油性のものに比べて水分が介在する場合の樹脂劣化が少ないことと、防錆顔料としてりん酸亜鉛やりん酸アルミニウムが比較的多量に含まれているためである。
【0024】
このような塗膜そのものが優れた性質を具備しているのみならず、本発明において、下層には錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗膜及びエポキシ樹脂塗膜を形成し、上層には油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗膜を形成する組み合わせにより、特に有利な効果が得られる。その一つは、下層として形成される錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗膜及びエポキシ樹脂塗膜に対しても優れた付着性を有していて、重ねて塗布された塗膜全体について優れた付着性を長期間保証することができることである。この優れた付着性は、前述の本塗料の特性の他に、下層がアルキド樹脂の場合は同種樹脂であることに起因し、下層がエポキシ樹脂の場合は、エポキシ樹脂が有する、優れた付着力に起因するところが大きい。
【0025】
もう一つは、前記シランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料上に、さらに、上塗りを行う場合に、上塗り塗料としては、熱硬化型樹脂であるメラミン樹脂、アクリル樹脂や常温硬化型樹脂であるハイソリッドラッカーやポリウレタン樹脂など、広範囲の種類の塗料で塗装ができることである。この上塗り塗装の塗料の選択可能性の広さは、前記短油アルキド樹脂塗料で形成された塗膜が耐溶剤性に優れているので、芳香族やエステル、ケトン等で溶解(希釈)した塗料で塗装しても縮み(リフティング現象)や剥れ現象を生じないからである。また、顔料/樹脂の固形分塗膜表面の適度な粗度が、上塗り塗膜との接触面積を増やし、投錨効果(アンカー効果)を生じて、物理的にも良好な付着面を得ることができるからである。この点、本発明の構成からは外れる、下層が油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料の塗膜で、上層が錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗膜及びエポキシ樹脂塗膜である場合には、上層のアルキド樹脂塗膜及びエポキシ樹脂塗膜は、その表面上に上塗りする場合の塗布できる塗料が限定されるので、塗装物としての用途が限定されてしまう。
【0026】
以上述べた本発明の構成による有利な効果は、本発明者らが幾多の研究を重ねた結果、見出されたものであり、単に公知の塗料を寄せ集めただけで得られるものではない。
【0027】
前記シランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料を、油脂が残存する鋼材表面及び錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗膜及びエポキシ樹脂塗膜表面に塗布する場合の塗布条件は、前記シランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料の通常の塗布条件から変更する必要はない。したがって、塗布作業者の作業ミスを招くおそれがなく、この点でも本発明の塗装物及び塗布方法は優れている。
【実施例】
【0028】
前記実施形態1(上塗り:熱硬化型メラミン樹脂)及び実施形態2(上塗り:常温硬化型ウレタン樹脂)の塗装物に対して、塗膜品質確保の確認のため下記の試験を実施した。
【0029】
まず、初期塗膜物性試験として、前記塗装物に耐久性試験を行う前の塗膜の硬度及び付着力を調べた。この硬度は、JIS K5600に規定する鉛筆引っかき試験に従い試験を行った。また、付着力は、ASTM3359に規定する碁盤目又はクロスカット+粘着テープ試験を50〜125μm(B法)、125μm以上(A法)の両方で行った。
【0030】
次に、耐久性試験として、塩水噴霧試験、耐湿試験、亜硫酸ガス試験、塩素ガス試験及び耐候試験のそれぞれを行った。この塩水噴霧試験は、JIS Z2371に規定する塩水噴霧試験を実施し、実施後の外観および2次物性試験(硬度、付着力)を調べた。塩水噴霧試験の試験時間は、実施形態1の塗装物が500時間、実施形態2の塗装物が1000時間であり、実施形態2の塗装物に対する試験条件が、実施形態1の塗装物に対する試験条件よりも苛酷になっている。
【0031】
前記耐湿試験は、JIS K5600に規定する耐湿試験(40℃、湿度95%以上)を実施し、実施後の外観及び2次物性試験(硬度、付着力)を調べた。この耐湿試験の試験時間は、実施形態1の塗装物が500時間、実施形態2の塗装物が1000時間であり、前記塩水噴霧試験同様に、実施形態2の塗装物に対する試験条件が、実施形態1の塗装物に対する試験条件よりも苛酷になっている。
【0032】
前記亜硫酸ガス試験は、亜硫酸ガス濃度:20ppm、温度40℃、湿度90%の雰囲気条件下に実施形態1及び実施形態2の各塗装物を置く試験を、前記実施形態1の塗装物は500時間、前記実施形態2の塗装物は1000時間、実施し、実施後の外観及び2次物性試験(硬度、付着力)を調べた。
【0033】
前記塩素ガス試験は、塩素ガス濃度:1ppm、温度40℃、湿度90%の雰囲気条件下に、実施形態1及び実施形態2の塗装物をそれぞれ置く試験を、前記実施形態1の塗装物は500時間、前記実施形態2の塗装物は1000時間、実施し、実施後の外観及び2次物性試験(硬度、付着力)を調べた。
【0034】
前記耐候試験は、JIS K5600に規定する促進耐候性(サンシャインカーボンアーク灯式)の試験を実施し、実施後の外観及び2次物性試験(硬度、付着力)を調べた。試験時間は、実施形態1の塗装物が500時間、実施形態2の塗装物が1000時間であった。これらの各試験の試験結果の概要を表2に示す。
【表2】

【0035】
表2の結果から、本発明に従い錆及び油脂が残存している鋼材に塗布した塗膜を備える実施形態1及び実施形態2の塗装物は、各種試験に対してなんら不具合が発生せず、長期間に亘って優れた防錆力を有する性能が得られることがわかる。特に実施形態2の塗装物は、実施形態1よりも長時間の試験を行うという、より厳しい腐食環境下においても安定した品質を示しており、優れた塗膜特性を具備していることを示すものである。
【0036】
一方、比較のために、錆及び油脂が残存している同一鋼材表面に、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料を塗布したところ、初期物性試験において錆が残存している領域上の塗膜が部分的に剥離した。
【0037】
以上、本発明の塗装物及び塗装方法の実施形態を詳述したが、本発明の塗装物及び塗装方法は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で幾多の変形が可能である。また、本発明の塗装物及び塗装方法が適用される鋼材は、SPHCやSS400、SPCCなど、錆が発生しうる鋼材であれば特に限定されるものではなく、その用途も制御盤・配電盤及び車両など種々の用途に用いられる鋼材全般に適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態1の塗装物を模式的に示す断面図。
【図2】本発明の実施形態2の塗装物を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
【0039】
1…鋼材、
2…錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗膜、
3…油脂中を透過するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗膜、
4…一般の上塗り塗膜、
5…錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗膜、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面上に、錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料の塗膜を備え、前記錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料の塗膜上及び鋼材の表面上に、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料の塗膜を備えることを特徴とする鋼材の塗装物。
【請求項2】
鋼材の表面上に、錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料の塗膜を備え、前記錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料の塗膜上及び鋼材の表面上に、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料の塗膜を備えることを特徴とする鋼材の塗装物。
【請求項3】
前記錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料の塗膜の下地、又は前記錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料の塗膜の下地に、錆層が変換されたマグネタイト層を有することを特徴とする請求項1又は2記載の鋼材の塗装物。
【請求項4】
錆及び油脂が表面に残存している鋼材表面の前記錆が残存している領域に、錆層をマグネタイトに変換するフェノール変性アルキド樹脂塗料塗料を塗布する工程と、
前記錆層をマグネタイトに変換フェノール変性アルキド樹脂塗料が塗布された領域を含む前記鋼材表面の塗装しようとする領域に、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料を塗布する工程と
を備えることを特徴とする鋼材の塗装方法。
【請求項5】
錆及び油脂が表面に残存している鋼材表面の前記錆が残存している領域に、錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料を塗布する工程と、
前記錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂塗料された領域を含む前記鋼材表面の塗装しようとする領域に、油脂中を浸透するシランカップリング剤入り短油性アルキド樹脂塗料を塗布する工程と
を備えることを特徴とする鋼材の塗装方法。
【請求項6】
前記錆及び油脂が表面に残存している鋼材は、機械的前処理又は化学的前処理が施されていないものである請求項4又は5記載の鋼材の塗装方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−103229(P2006−103229A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294948(P2004−294948)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】