説明

鋼材の鋼種判定方法

【課題】容易に精度良く鋼種判定を行うことができる断面略円形の鋼材の鋼種判定方法を提供する。
【解決手段】鋼種判定方法は、X線を照射する照射部21及び蛍光X線を検出する検出部22を具備した測定部2を、予め定めた分析必要時間だけ鋼管4の外周面に沿って鋼管4に対して相対移動させながら照射部21からX線を鋼管4に照射すると共に鋼管4から放射される蛍光X線を検出部22によって検出する検出ステップと、検出ステップによって検出された蛍光X線に基づいて鋼管4の組成を算出する算出ステップと、算出ステップによって算出された組成によって鋼管4の鋼種を判定する判定ステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管や棒等の断面略円形の鋼材の鋼種判定方法に関する。特に、容易に精度良く鋼種判定を行うことができる断面略円形の鋼材の鋼種判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、断面略円形の鋼材の出荷前の段階等において、異材(鋼種の異なる鋼材)の有無を判定するために、蛍光X線分析法を用いた鋼種判定が行われる場合がある。この蛍光X線分析法においては、鋼材の任意の一定位置にX線を所定時間照射して分析する。
そして、鋼材の鋼種判定においては、蛍光X線分析を鋼材の外周面で行う方法があるが、外周面に表層酸化スケールを有する鋼材においては、この表層酸化スケールに偏在する元素があるので、分析位置による分析値のバラツキが大きくなるという問題がある。特に、Cr、Cu、Niは表層酸化スケールに偏在するので、Cr、Cu、Niのいずれかの元素を0.3質量%以上含む鋼管において、分析位置による分析値のバラツキが大きくなる。
鋼種を判定しようとする鋼材が、任意の鋼種(以下、任意鋼種という)であるか否かを判定するのに、任意鋼種の製造規格の組成範囲と測定のバラツキとを考慮して定めた基準範囲に、鋼種を判定しようとする鋼材の分析値が入るか否かで判定する場合、分析位置による分析値のバラツキが大きいと、任意鋼種であることが予め分かっている鋼材を分析しても、分析位置によっては分析値が任意鋼種の基準範囲から外れてしまうので、鋼種判定が精度良く行えない虞がある。
【0003】
図1は、鋼管の蛍光X線分析を外周面の周方向の4か所(管軸から見て下方向を0°としたときの0°、90°、180°、270°の4方向の位置)で行ったときのCrの分析値を示す図である。この鋼材の鋳造前の溶鋼の分析値が1.04質量%なのに対して、4か所の分析値は、1.03質量%、1.18質量%、1.27質量%、1.11質量%と大きなバラツキが生じている。
一方、この鋼管の表面酸化スケールを除去した場合には、周方向での分析値のバラツキが小さいことを確認した。従って、表面酸化スケールを除去する前における周方向4か所の分析値のバラツキは表面酸化スケールによるものと考えられる。
【0004】
このために、断面略円形の鋼材の鋼種を判定するのに、周方向の複数の位置で蛍光X線分析を行い、それぞれの位置での分析値の平均値を用いることが考えられるが、蛍光X線分析を複数位置で行うために、手間がかかるという問題がある。
また、この表層酸化スケールによる分析値のバラツキを無くすために、表層酸化スケールをグラインダー等で除去してから蛍光X線分析するという方法が考えられるが、グラインダーで除去するのに手間がかかるという問題がある。
【0005】
また、断面略円形の鋼材は、長さ揃えやベベル加工等のための端面切削を熱処理後に行うので、表層酸化スケールの影響が無い鋼材の端面で蛍光X線分析するという方法も考えられる。
しかしながら、端面で蛍光X線分析しようとすると、鋼材の径や、鋼材が管である場合の管の肉厚によっては蛍光X線を照射できる面積が狭くなり、分析し難くなる。
また、鋼材が長手方向に搬送される場所では、鋼材の搬送経路に蛍光X線分析装置を設けると、鋼材と蛍光X線分析装置とが衝突する虞があるので、蛍光X線分析装置の設置が難しい。
特に、製造ライン中において、鋼材の端面を自動で蛍光X線分析しようとする場合に、鋼材の端面に蛍光X線を照射するのが難しい。
【0006】
また、鋼材の鋼種を判定する方法として、例えば、特許文献1に記載された判定方法が知られているが、この判定方法では、断面略円形の鋼材の蛍光X線分析において、鋼種判定が容易に精度良く行えないという問題を解決することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−153594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、容易に精度良く鋼種判定を行うことができる断面略円形の鋼材の鋼種判定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
蛍光X線分析の原理について簡単に説明する。蛍光X線分析では、分析しようとする物質にX線を照射し、X線を照射された物質から発生する蛍光X線に基づいて物質の組成を算出する。ここでは、蛍光X線分析装置の内でエネルギー分散型の装置を用いた場合を説明する。
図2は、鋼材を蛍光X線分析したときに得られる蛍光X線のエネルギースペクトルの一例を示す図である。横軸は蛍光X線のエネルギーであり、縦軸は各エネルギーにおける蛍光X線のカウント数である。各元素は、X線を照射されると、それぞれ固有のエネルギーを有する蛍光X線を放射する。
エネルギースペクトルにおいて、各元素に応じたエネルギーの位置にピークが発生し、そのピーク高さ(X線のカウント数)は、鋼材中の各元素の濃度と正の相関を有する。ピーク高さから濃度を算出するには、予め定めた分析必要時間だけX線を照射したときの、鋼材中の濃度とピーク高さの関係式を各元素毎に予め求めておき、その関係式に予め定めた分析必要時間だけX線を照射したときのピーク高さを入力して濃度を算出する。濃度とピーク高さの関係式は、各元素の濃度が分かっている複数のサンプルを蛍光X線分析して求めればよい。尚、蛍光X線を検出する時間を長くするとノイズの影響を少なくすることができるので、分析必要時間は、ノイズの影響が少なくなるように設定されている。
図2は、Cr、Ni、Cu添加鋼材での測定例を示しており、各元素のピークが観測されている。
【0010】
そして、蛍光X線分析においては、この分析必要時間中は、そのX線の照射位置での分析を精度良く行うために、照射位置を固定するのが一般的である。また、定点での分析値が対象物の全体の組成を表すような分析、換言すれば各元素の偏在が少ない測定物の分析においては、この分析必要時間中に照射位置を移動させる必要もない。
一方、断面略円形の鋼材においては、X線を照射する機能と蛍光X線を検出する機能を具備した測定部を鋼材の外周面に沿って鋼材に対して相対移動させると、鋼材の真円度が悪い場合や鋼材が曲がっている場合等に、鋼材の外周面と測定部との間の距離(以下、リフトオフという)が変動し、リフトオフが長くなると検出できる蛍光X線の量が少なくなって分析値が変動することが考えられる。従って、分析必要時間中に測定部を鋼材から相対移動させながら蛍光X線分析することはなかった。
【0011】
しかしながら、本発明者らが、測定部を鋼材の外周面に沿って鋼材に対して相対移動させたときに生じるリフトオフの範囲内で、リフトオフが変動したときの分析値のバラツキを調べたところ、表層酸化スケールによるバラツキよりも小さいという知見が得られた。また、測定部を鋼材の外周面に沿って分析必要時間だけ相対移動させながら蛍光X線分析を行っても、X線の照射位置を固定して蛍光X線分析を行うのと同様に、各エネルギーの蛍光X線のカウントが行われ、そのピーク高さから濃度が算出できるという知見が得られた。
図3は、鋼管において、リフトオフと、Crの分析値との関係を示す図である。リフトオフが10mmまでは、溶鋼の分析値が1.04質量%であるのに対し、蛍光X線の分析値は1.01質量%、1.04質量%、1.03質量%、1.03質量%、0.97質量%、1.01質量%であった。図1に示された表層酸化スケールによる分析値のバラツキよりも、はるかに小さいことが分かった。尚、測定部を鋼管の外周面に沿って相対移動させたときの、リフトオフは10mm以内である。
【0012】
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき完成されたものである。すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、蛍光X線分析法を用いた断面略円形の鋼材の鋼種判定方法であって、X線を照射する照射部及び蛍光X線を検出する検出部を具備した測定部を、予め定めた分析必要時間だけ前記鋼材の外周面に沿って該鋼材に対して相対移動させながら前記照射部からX線を該鋼材に照射すると共に該鋼材から放射される蛍光X線を前記検出部によって検出する検出ステップと、前記検出ステップによって検出された蛍光X線に基づいて前記鋼材の組成を算出する算出ステップと、前記算出ステップによって算出された前記組成によって前記鋼材の鋼種を判定する判定ステップとを含むことを特徴とする断面略円形の鋼材の鋼種判定方法を提供する。
【0013】
本発明の算出ステップにおいて、検出された蛍光X線に基づいて前記鋼材の組成を算出するとは、換言すれば、鋼材を蛍光X線分析した結果から得られる蛍光X線のエネルギースペクトルに基づいて鋼材の組成を算出することであり、具体的には、上述した方法のように、エネルギースペクトルのピークのエネルギーによって元素の種類を同定し、ピーク高さによってその元素の濃度を算出することである。尚、組成とは、鋼材を構成する元素の種類と各元素の濃度とをいう。
また、鋼種とは、鋼材の組成によって分けられる区分をいい、鋼種毎に組成範囲が定められる。鋼材は、組成によっていずれかの鋼種に分類される。
また、鋼材の鋼種判定とは、対象とする鋼材がいずれの鋼種に属するかを判定することや、対象とする鋼材が所定の鋼種の鋼材又は所定の鋼種以外の鋼材のいずれであるかを判定することである。
また、判定ステップには、鋼材の組成を算出し、鋼材の鋼種を判定しないことも含む。
【0014】
本発明によれば、測定部を鋼材の外周面に沿って鋼材に対して相対移動させながらX線を鋼材に照射すると共に鋼材から放射される蛍光X線を検出するので、X線を照射したところの組成が平均化して算出される。従って、分析値のバラツキが小さくなり、精度の良い鋼種判定を行うことができる。
また、本発明における蛍光X線分析には、従来と同一の蛍光X線分析を用いることができ、分析必要時間も従来と同一にすることができるので、容易に鋼種判定を行うことができる。
つまり、本発明によれば、従来の蛍光X線分析と同一の装置を用いながら、かつ、分析必要時間を従来と同一にすることができるにもかかわらず、表面酸化スケールによる影響を少なくして精度の良い分析を容易に行うことができる。この分析によって断面略円形の鋼材の鋼種判定を精度良く容易に行うことができる。
また、鋼材の端面でなく、外周面で蛍光X線分析するので、製造ライン中での蛍光X線分析の自動化が行い易い。
【0015】
上述した方法によって精度の良い鋼種判定を行うことができるが、例えばCrとNiを有する鋼材でCrが9質量%以上含むような高合金鋼の場合には、同一の鋼種であっても鋼材間でCrとNiの分析値に大きなバラツキが発生し、鋼種判定を誤る虞がある。これは、同一の鋼種であっても、鋼材によって表面酸化スケールの発生状態が異なり、そのために、鋼材間でCrとNiの分析値にバラツキが発生していると思われる。そこで、本発明者らがCrとNiの分析値のバラツキについて検討したところ、表面酸化スケールにCrとNiとが同様に偏在し、Crが多い箇所にはNiも多いという知見を得た。そこで、鋼材間でのCrとNiの比のバラツキを調べたところ、CrとNiの比のバラツキは、CrとNiの分析値のバラツキに比べて小さいという知見を得た。そこで、この知見に基づきCrとNiとの比によって鋼種判定を行う方法を見出した。
【0016】
従って、上述した断面略円形の鋼材の鋼種判定方法において、前記鋼材は、CrとNiとを含有し、前記判定ステップは、前記組成と、該組成の内のCr濃度とNi濃度との比とによって前記鋼材の鋼種を判定するのが好ましい。
【0017】
斯かる好ましい方法によれば、鋼材の鋼種判定を、組成だけでなくCr濃度とNi濃度との比によっても行うので、更に精度良く判定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、断面略円形の鋼材の鋼種判定を容易に精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、断面略円形の鋼材の蛍光X線分析を外周面の周方向の4か所で行ったときのCrの分析値を示す図である。
【図2】図2は、鋼材を蛍光X線分析したときに得られる蛍光X線のエネルギースペクトルの一例を示す図である。
【図3】図3は、鋼材において、リフトオフと、Crの分析値との関係を示す図である。
【図4】図4は、第1の実施形態に係る断面略円形の鋼材の鋼種判定方法を示す概略図である。
【図5】図5(a)は、同鋼種判定方法の検出ステップ及び算出ステップにおいて、測定部が90°、180°、270°、360°の位置に相対移動してきたときの、エネルギースペクトルを示す図であり、図5(b)は、図5(a)のそれぞれの位置でのエネルギースペクトルにおけるCrのピークを示す図である。
【図6】図6は、同鋼種判定方法におけるCrの分析値を示す図である。
【図7】図7は、X線の照射位置を固定して蛍光X線分析する従来の方法による分析値と、X線の照射位置を管周に1周移動させて蛍光X線分析する本実施形態の方法による分析値とを示す図である。
【図8】図8(a)は、製造ライン中の鋼管を第1の実施形態に係る蛍光X線分析で分析したCrの分析値を示す図であり、図8(b)は、Niの分析値を示す図であり、図8(c)は、Cr濃度とNi濃度の比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の第1の実施形態に係る断面略円形の鋼材の鋼種判定方法ついて説明する。図4は、断面略円形の鋼材の鋼種判定方法を示す概略図である。
本実施形態では、断面略円形の鋼材が管の場合を例として説明するが、鋼材は棒であってもよい。
蛍光X線分析装置1は、例えばエネルギー分散型であり、X線を照射する照射部21及び蛍光X線を検出して蛍光X線に応じた電気信号を発信する検出部22を具備した測定部2と、測定部2の動作を制御すると共に、検出部22からの電気信号を受けて組成を算出する演算制御部3とを備えている。
鋼管4は、回転駆動部(図示せず)の上に置かれており、回転駆動部によって鋼管4の周方向に回転させられる。測定部2は、直線駆動部(図示せず)によって鋼管4の管軸方向に移動させられる。
従って、測定部2は、回転駆動部と直線駆動部とによって鋼管4の外周面に沿って、鋼管4に対して相対移動する。
【0021】
鋼管4を鋼種判定するには、最初に、例えば鋼管4を回転駆動部によって回転させることにより測定部2を鋼管4の外周面に沿って鋼管4に対して相対移動させながら、分析必要時間だけ照射部21からX線を鋼管4に照射すると共に鋼管4から放射される蛍光X線を検出部22によって検出する(検出ステップ)。
【0022】
続いて、検出部22によって検出された蛍光X線に基づいて演算制御部3は鋼管4の組成を算出する(算出ステップ)。
検出された蛍光X線に基づいて鋼管4の組成を算出するとは、換言すれば、鋼管4を蛍光X線分析した結果から得られる蛍光X線のエネルギースペクトルに基づいて鋼管4の組成を算出することであり、具体的には、上述した方法のように、エネルギースペクトルのピークのエネルギーによって元素の種類を同定し、ピーク高さによってその元素の濃度を算出する。
【0023】
分析必要時間は、この蛍光X線分析装置1において、X線の照射位置を固定して蛍光X線分析をする場合と同じであり、本実施形態では10秒である。
分析必要時間中にX線を照射した位置の組成の平均値が算出されるので、蛍光X線分析を行える範囲で、測定部2を長い距離、相対移動させるのがよい。測定部2を管周方向に相対移動させる場合には、分析位置による分析値のバラツキが小さくなるように、相対移動の距離は、1/2周以上が好ましい。また、管周方向の相対移動の距離が長くなると、リフトオフによる分析値のバラツキが大きくなる虞があるので、相対移動の距離は2周以下が好ましい。更には、鋼管4の周方向全体の組成の平均値が算出され、また、リフトオフによる分析値のバラツキが小さくなるように、測定部2の管周方向の相対移動の距離は1周が好ましい。
測定部2を管軸方向に移動させる場合には、分析位置による分析値のバラツキが小さくなるように、相対移動の距離は、管の長さの1/2以上が好ましい。また、管端から200mmの範囲はリフトオフが大きいので、相対移動の距離の上限は、管の長さの全長から、両管端から200mmを除いた距離が望ましい。
尚、管周方向と管軸方向とに同時に相対移動させてもよい。また、本実施形態では、分析必要時間中に300mm/秒の速度で測定部2を管周方向に1周、相対移動させた。
【0024】
図5は、検出ステップ及び算出ステップにおいて、管周方向に測定部2が相対移動し、蛍光X線が検出されてピーク高さが高くなる状態を示す概略図である。
Crの濃度が、管軸から見て下方向を0°としたときに角度0°から90°未満まで、90°から180°未満まで、180°から270°未満まで、270°から360°未満までの各1/4周の間は同一の濃度であり、0°から90°未満までが低濃度であり、90°から180°未満まで、及び270°から360°未満までが中濃度であり、180°から270°未満までが高濃度であるとする。
測定部2を0°の位置から分析必要時間中に、管周方向に1周、相対移動させ、蛍光X線分析する。
測定部2が90°、180°、270°、360°の位置に相対移動してきたときの、エネルギースペクトルを図5(a)に示し、それぞれの位置でのエネルギースペクトルにおけるCrのピークを図5(b)に示す。
Crのピーク高さは、測定部2の相対移動が進むにつれて、それぞれの位置でのCr濃度に応じて増加する。従って、0°から90°までの増加量は少なく、180°から270°までの増加量は多い。このように、周方向の位置によって、増加量が異なる。そして、Crの分析値は、分析必要時間が経過したとき(測定部2が360°の位置に到着したとき)のCrのピーク高さから算出されるので、管周方向のCr濃度が平均化されて表される。
図6は、図1で示した鋼管の周方向の4か所でのCrの分析値のグラフに、同じ鋼管を用いて上記のようにして管周1周を蛍光X線分析した分析値を追記したグラフである。管周1周での分析値が、周方向の4か所でのCrの分析値のバラツキの範囲内に入っている。
【0025】
算出ステップが終了すると、演算制御部3は、算出した組成によって鋼管4の鋼種を判定する(判定ステップ)。
鋼種判定においては、鋼管4がいずれの鋼種に属するかを判定してもよいし、鋼管4が所定の鋼種の鋼管であるか、又は所定の鋼種以外の鋼材であるかを判定してもよい。また、鋼管4の組成だけを出力してもよい。
【0026】
図7は、X線の照射位置を固定して蛍光X線分析する従来の方法による分析値と、X線の照射位置を管周方向に1周移動させて蛍光X線分析する本実施形態の方法による分析値とを示す。いずれの方法も、同一の溶鋼から製造された20本の鋼管を1回ずつ分析した。従来の方法で分析した20本の鋼管と、本実施形態の方法で分析した20本の鋼管とは同じ鋼管である。
20本の鋼管を蛍光X線分析した分析値のバラツキの標準偏差は、従来の方法では0.07質量%であるのに対し、本実施形態の方法では0.03質量%となっており、本実施形態の方法の方が精度が良い。
【0027】
本実施形態によれば、測定部2を鋼管4の外周面に沿って鋼管4に対して相対移動させながらX線を鋼材に照射すると共に鋼管4から放射される蛍光X線を検出するので、X線を照射したところの組成が平均化して算出される。従って、分析値のバラツキが小さくなり、精度の良い鋼種判定を行うことができる。特に、Cr、Cu、Niのいずれかの元素を0.3質量%以上含む鋼管において、分析値のバラツキが小さくなり、精度の良い鋼種判定を行うことができる。
また、本実施形態における蛍光X線分析には、従来と同一の蛍光X線分析1を用いることができ、分析必要時間も従来と同一にすることができるので、容易に鋼種判定を行うことができる。
つまり、本実施形態によれば、従来の蛍光X線分析と同一の装置を用いながら、かつ、分析必要時間を従来と同一にすることができるにもかかわらず、表面酸化スケールによる影響を少なくして精度の良い分析を容易に行うことができる。この分析によって鋼管4の鋼種判定を精度良く容易に行うことができる。
また、鋼管4の端面でなく、外周面で蛍光X線分析するので、製造ライン中での蛍光X線分析の自動化が行い易い。
【0028】
(第2の実施形態)
本実施形態は、第1の実施形態と判定ステップの方法が異なる。
本発明者らは、ステンレス鋼のようにCrとNiを含有する鋼材においては、表面酸化スケールにCrとNiとが同様に偏在することを見出した。そこで、本実施形態では判定ステップにおいて、鋼材の組成だけで鋼種判定を行うのでなく、Cr濃度とNi濃度との比によっても鋼種判定を行う。
【0029】
図8は、製造ライン中の鋼管を第1の実施形態に係る蛍光X線分析で分析した結果であり、図8(a)は、Crの分析値を示し、図8(b)は、Niの分析値を示し、図8(c)は、Cr濃度とNi濃度の比を示す。各図中の一点鎖線Lは、分析された鋼管の鋼種が鋼種A(Cr:11.90質量%、Ni:4.50質量%)であるか鋼種B(Cr:18.00質量%、Ni:9.00質量%)であるかを判定する基準線である。
分析された鋼管は、鋼種Aであることが事前に判明している鋼管であるが、図8(a)中の点線で囲まれた範囲ではCrの分析値のバラツキが大きく、Crの分析値の一部が基準線より上に超えているので、それらの鋼管は鋼種Bと誤判定される。同様に、図8(b)中の点線で囲まれた範囲ではNiの分析値のバラツキが大きく、Niの分析値の一部が基準線より上に超えているので、それらの鋼管は鋼種Bと誤判定される。
しかしながら、図8(c)に示すように、Cr/Ni比は、バラツキが少なく、全ての鋼管においてCr/Ni比が基準線より上にあり、全ての鋼管を鋼種Aと判定している。
このように、組成による判定では誤判定する場合でも、Cr/Ni比による判定では正しく判定できることがある。
【0030】
従って、本実施形態では、鋼材がCrとNiとを含有する場合、鋼材の組成による判定と、Cr/Ni比による判定との両方によって鋼種判定を行う。鋼種判定は例えば次のように行う。このとき予め、鋼種毎にCr/Ni比の範囲を例えば実績値から定めておく。
<対象とする鋼材がいずれの鋼種に属するかを判定する場合>
対象とする鋼材が組成による判定によってある鋼種Cであると判定され、またCr/Ni比が鋼種CのCr/Ni比の範囲に入れば、即ち組成による判定結果とCr/Ni比による判定とが合致する場合には、組成による判定に従い、鋼種Cであると鋼種判定する。
一方、組成による判定によって対象とする鋼材が鋼種Cであると判定されたのに、Cr/Ni比が鋼種CのCr/Ni比の範囲に入らなければ、即ち組成による判定結果とCr/Ni比による判定とが合致しない場合には、対象とする鋼材の表面酸化スケールが無い箇所において再度蛍光X線分析を行い、その組成によって鋼種判定を行なう。
<対象とする鋼材が所定のある鋼種Dの鋼材又は所定の鋼種D以外の鋼材のいずれであるかを判定する場合>
組成による判定によって鋼種Dであると判定され、またCr/Ni比が鋼種DのCr/Ni比の範囲に入れば、即ち組成による判定結果とCr/Ni比による判定とが合致する場合には、組成による判定及びCr/Ni比による判定に従い、鋼種Dであると鋼種判定する。
一方、組成による判定によって鋼種Dであると判定されたのに、Cr/Ni比が鋼種DのCr/Ni比の範囲に入らなければ、即ち組成による判定結果とCr/Ni比による判定とが合致しない場合には、組成による判定よりもCr/Ni比による判定の方が精度が良いので、Cr/Ni比による判定結果に従い鋼種D以外であると鋼種判定する。また、組成による判定によって鋼種Dでないと判定されたのに、Cr/Ni比が鋼種DのCr/Ni比の範囲に入れば、即ち組成による判定結果とCr/Ni比による判定とが合致しない場合には、組成による判定よりもCr/Ni比による判定の方が精度が良いので、Cr/Ni比による判定結果に従い鋼種Dであると鋼種判定する。
このように、鋼材の組成だけで鋼種判定を行うのでなく、組成による判定とCr濃度とNi濃度との比による判定の両方によって鋼種判定を行うことにより、更に精度良く判定することができる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0032】
2・・・測定部
21・・・照射部
22・・・検出部
4・・・鋼管(鋼材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光X線分析法を用いた断面略円形の鋼材の鋼種判定方法であって、
X線を照射する照射部及び蛍光X線を検出する検出部を具備した測定部を、予め定めた分析必要時間だけ前記鋼材の外周面に沿って該鋼材に対して相対移動させながら前記照射部からX線を該鋼材に照射すると共に該鋼材から放射される蛍光X線を前記検出部によって検出する検出ステップと、
前記検出ステップによって検出された蛍光X線に基づいて前記鋼材の組成を算出する算出ステップと、
前記算出ステップによって算出された前記組成によって前記鋼材の鋼種を判定する判定ステップとを含むことを特徴とする断面略円形の鋼材の鋼種判定方法。
【請求項2】
前記鋼材は、CrとNiとを含有し、
前記判定ステップは、前記組成と、該組成の内のCr濃度とNi濃度との比とによって前記鋼材の鋼種を判定することを特徴とする請求項1に記載の断面略円形の鋼材の鋼種判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−159338(P2012−159338A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17787(P2011−17787)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】