説明

鋼板の冷却設備および冷却方法

【課題】鋼板の熱間圧延ラインにおいて、鋼板の板厚が変わっても冷却水を鋼板幅方向に均一に供給でき、鋼板全体を均一に冷却することができる鋼板の冷却設備および冷却設備方法を提供する。
【解決手段】全幅ノズル列22−1〜22−6において、左端向ノズル列と右端向ノズル列の配置を少しずつ変更して、噴射方向分岐点P1〜P6が鋼板幅方向にδずつずれるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の冷却設備および冷却方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板(特に厚鋼板)の熱間圧延ラインにおいては、合金元素の削減や材質の向上および生産能率の向上を目的に、加速冷却装置や制御冷却装置など種々の冷却装置が用いられている。これら厚鋼板の冷却方法は、厚鋼板を搬送ロール上を搬送させながら上下面に冷却水を供給するのが一般的であり、いずれの冷却装置においても板幅方向、搬送方向に均一な冷却を行うことが重要である。
【0003】
そのために、例えば特許文献1に記載されたような冷却装置が提案されている。特許文献1に記載の冷却装置は、上下一対の鋼板拘束ロール二組からなる冷却ユニットを厚鋼板の搬送方向に複数配設した冷却装置において、出側拘束ロールや出側拘束ロールの出側に設けたエアースリットノズルだけではロールと鋼板の隙間から漏出する冷却水を完全に除去することができないので、出側拘束ロールの出側に板幅方向へ延びる冷却ヘッダを配設し、ヘッダに厚鋼板の搬送方向に相対向させ、かつ搬送方向に対し左右相反方向へ噴射口を向け冷却液噴射ノズルを傾斜配設した冷却装置である。
【0004】
すなわち、特許文献1に記載の冷却装置では、出側拘束ロールの出側で完全な水切りを行うために板幅方向へ多数ノズルを配設し、噴出する冷却水によって漏出した冷却水を強制的に厚鋼板の板幅方向へ押し流し、さらにエアースリットノズルより圧縮エアーを噴射して厚鋼板上の残留水を皆無にしている。
【0005】
しかし、その際に、冷却ユニットにおける水量密度を大きくすると十分に水が切れず、水切り能力を上げるためには設備を大きくしなければならず、また、厚鋼板の形状が悪い場合には、厚鋼板がノズルに衝突する危険性がある。
【0006】
そこで、本出願人は、特願2006−227404(未公開出願1)において、新たな鋼板の冷却技術を提案している。
【0007】
すなわち、図1に側面図、図2に平面図を示すように、鋼板10の上面に対して冷却水(棒状冷却水)23を所定の噴射角度(伏角)θで噴射する上ノズル群22を有する上ヘッダ21を鋼板搬送方向に一対配置し、それぞれの上ヘッダ21a、21bの上ノズル群22a、22bから噴射される冷却水23a、23bが鋼板搬送方向に鋼板上で所定の間隔を置いて互いに対向するようにするとともに、上方から見た噴射線が鋼板搬送方向となす角で定義される角度(外向き角)αを有するようにしている。
【0008】
一例として、図2においては、冷却水23の外向き角αを一定とし、冷却水23が鋼板10に衝突する位置(衝突点)が鋼板幅方向に等間隔となるように各ノズルを設置している。その際、鋼板幅方向中央付近では、左右の両幅方向外側に向けて噴射するノズルを設置しなくてはならないので、ノズルを取り付ける穴の加工が可能となるように、鋼板幅方向左端外側に向けて噴射するノズル列(例えば、図2中の上ヘッダ21a、21bにおいて上方向に噴射速度成分をもつノズル列)と鋼板幅方向右端外側に向けて噴射するノズル列(例えば、図2中の上ヘッダ21a、21bにおいて下方向に噴射速度成分をもつノズル列)を、鋼板搬送方向に交互に所定間隔ずらして設置している。すなわち、鋼板幅方向左端外側に向けて噴射するノズル(左端向ノズル)を鋼板幅方向に所定の間隔Wで鋼板幅方向左端から鋼板幅方向中央部近傍まで配置し、鋼板幅方向左端外側に向けて噴射するノズル(右端向ノズル)を鋼板幅方向に所定の間隔Wで鋼板幅方向右端から鋼板幅方向中央部近傍まで配置し、鋼板幅方向中央部近傍で、左端向ノズルからの冷却水の噴射線と右端向ノズルからの冷却水の噴射線が搬送方向に垂直な面に投影した際に交差するようにしている。つまり、左端向ノズル列と右端向ノズル列の各1列を組み合わせて、鋼板幅全体に対するノズル列(全幅ノズル列)を形成するようにしている。ちなみに、図1、図2では、上ヘッダ21a、21bについて、全幅ノズル列を鋼板搬送方向で6列ずつ設置している。
【0009】
これによって、未公開出願1においては、供給された冷却水23自身が鋼板10上の滞留冷却水24を堰き止めて適切に水切りを行うことになり、安定した冷却領域が得られ、鋼板10を均一に冷却することができる。
【特許文献1】特開昭60−206516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ただし、前記未公開出願1において、上ノズル22を鋼板幅方向端部外側に向けて噴射することによって冷却水23に鋼板幅方向成分を持たせると、冷却水23の排水性はよくなるが、鋼板10の厚みが変わると、冷却水23の衝突点が鋼板幅方向に移動するという問題がある。
【0011】
すなわち、図3に示すように、噴射高さ(テーブルローラ上端から上ノズル先端までの高さ)Hの上ノズル22からの冷却水噴射線aについてみれば、板厚h1の鋼板1から板厚h2の鋼板2(ここでは、h1<h2)に変わると、鋼板1に対する衝突点Aから鋼板2に対する衝突点Bに変化することになり、伏角θの影響で衝突点は鋼板搬送方向に移動することになるが、それとともに、図4に示すように、外向き角αの影響で衝突点が鋼板幅方向中央部側に移動することになる。そのため、鋼板1に対して鋼板幅方向で冷却水の衝突点が等間隔Wとなるように上ノズル22が設置されている場合には、鋼板2に対して一部で衝突点の間隔が等間隔でない個所が生じることになる。
【0012】
具体的には、図4において、鋼板1に対する衝突点Aの間隔Wが等間隔となっているとすると、鋼板2に対する衝突点Bは、衝突点Aよりも鋼板幅方向中央側にΔWだけ移動することになり、その際に、鋼板幅方向中央部近傍以外では、同じ方向に噴射しているので、各衝突点が同方向にΔW移動することから、衝突点間隔はWを維持することになるが、鋼板幅方向中央部近傍では、異なる方向に噴射しているので、それらの衝突点が互いに接近する方向にΔWずつ移動し、衝突点間隔がW−2ΔWとなって狭くなることになる。なお、鋼板板厚の変化量をΔhとすれば、衝突点移動量ΔWは次式で表される。
【0013】
【数1】

【0014】
その結果、鋼板2に対しては、鋼板幅方向中央部の冷却水供給量が他の部分に比べて多くなり、鋼板幅方向中央部が過冷却となって、鋼板幅方向に不均一な温度分布となり、品質の高い鋼板を製造できなくなる。
【0015】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、鋼板の熱間圧延ラインにおいて、鋼板の板厚が変わっても冷却水を鋼板幅方向に均一に供給でき、鋼板全体を均一に冷却することができる鋼板の冷却設備および冷却設備方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、左端向ノズル列と右端向ノズル列の各1列を組み合わせて形成した全幅ノズル列が鋼板搬送方向に複数列設置されている場合に、全幅ノズル列毎に、鋼板板厚が変わると衝突点間隔が変動する個所を鋼板幅方向にずらすようにすれば、鋼板の板厚が変わった場合でも、鋼板幅全体でみると、各全幅ノズル列における衝突点間隔の変動の影響が緩和されて、冷却水を鋼板幅方向に比較的均一に供給できるとの考えに至った。
【0017】
上記の考え方に基づいて、本発明は以下の特徴を有している。
【0018】
[1]鋼板の熱間圧延ラインで使用する冷却設備であって、
鋼板の表面に対して、鋼板の一方の幅方向端部外側に向かう成分をもたせて冷却水を噴射するノズルが鋼板幅方向に所定の間隔で配置された一端方向ノズル列と、鋼板の他方の幅方向端部外側に向かう成分をもたせて冷却水を噴射するノズルが鋼板幅方向に所定の間隔で配置された他端方向ノズル列を各1列ずつ組み合わせて、鋼板の幅方向全体に冷却水を噴射する全幅ノズル列が形成され、
その全幅ノズル列が鋼板搬送方向に複数列設置されているとともに、任意の全幅ノズル列について、鋼板表面において、一端方向ノズル列から噴射された冷却水の衝突点と、他端方向ノズル列から噴射された冷却水の衝突点とが隣り合う個所における両衝突点の中間点を噴射方向分岐点とし、その噴射方向分岐点が全幅ノズル列毎に鋼板幅方向にずれていることを特徴とする鋼板の冷却設備。
【0019】
[2]全幅ノズル列毎に噴射方向分岐点がノズルの配置間隔の1/2以上ずれているとともに、全ての噴射方向分岐点が鋼板の幅を3等分した中央部分に含まれていることを特徴とする前記[1]に記載の鋼板の冷却設備。
【0020】
[3]前記冷却水が棒状冷却水であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の鋼板の冷却設備。
【0021】
[4]鋼板の熱間圧延ラインで使用する冷却方法であって、
鋼板の表面に対して、鋼板の一方の幅方向端部外側に向かう成分をもたせて冷却水を噴射するノズルを鋼板幅方向に所定の間隔で配置した一端方向ノズル列と、鋼板の他方の幅方向端部外側に向かう成分をもたせて冷却水を噴射するノズルを鋼板幅方向に所定の間隔で配置した他端方向ノズル列を各1列ずつ組み合わせて、鋼板の幅方向全体に冷却水を噴射する全幅ノズル列を形成し、
その全幅ノズル列が鋼板搬送方向に複数列設置するとともに、任意の全幅ノズル列について、鋼板表面において、一端方向ノズル列から噴射された冷却水の衝突点と、他端方向ノズル列から噴射された冷却水の衝突点とが隣り合う個所における両衝突点の中間点を噴射方向分岐点とし、その噴射方向分岐点を全幅ノズル列毎に鋼板幅方向にずらすことを特徴とする鋼板の冷却方法。
【0022】
[5]全幅ノズル列毎に噴射方向分岐点をノズルの配置間隔の1/2以上ずらすとともに、全ての噴射方向分岐点が鋼板の幅を3等分した中央部分に含まれるようにすることを特徴とする前記[4]に記載の鋼板の冷却方法。
【0023】
[6]前記冷却水が棒状冷却水であることを特徴とする前記[4]または[5]に記載の鋼板の冷却方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明を用いることにより、鋼板の板厚が変わっても冷却水を鋼板幅方向に比較的均一な流量分布で供給でき、鋼板全体をほぼ均一に冷却することができる。その結果、品質の高い鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
本発明の一実施形態における鋼板の冷却設備の基本的構成は、図1に側面図、図2に平面図を示したものである。
【0027】
すなわち、この実施形態における冷却設備は、鋼板の熱間圧延ライン上に設置される通過式の冷却設備であり、鋼板10の上面に向けて冷却水を供給するための一対の上ヘッダ21(第1上ヘッダ21a、第2上ヘッダ21b)と、鋼板10の下面に向けて冷却水を供給するための2個の下ヘッダ31を備えている。なお、図1中、13はテーブルローラである。
【0028】
そして、それぞれの上ヘッダ21a、21bには複数列の円管ノズル22(第1上ノズル22a、第2上ノズル22b)が取り付けられており、第1上ノズル22aから噴射角度(伏角)θで供給される棒状の冷却水23aと第2上ノズル22bから噴射角度(伏角)θで供給される棒状の冷却水23bが鋼板搬送方向に鋼板上で所定の間隔を置いて互いに対向するようにするとともに、棒状冷却水23(23a、23b)が鋼板幅方向外側に向かう速度成分を持つように、鋼板幅方向両外側に向けて所定の噴射角度(外向き角)αを有するようにしている。
【0029】
そして、その外向き角αを一定にし、棒状冷却水23が鋼板10に衝突する位置(衝突点)が鋼板幅方向に等間隔となるように各ノズル22を設置している。その際、ノズルを取り付ける穴の加工が可能となるように、鋼板幅方向左端外側に向けて噴射するノズル列(例えば、図2中の上ヘッダ21a、21bにおいて上方向に噴射速度成分をもつノズル列)と鋼板幅方向右端外側に向けて噴射するノズル列(例えば、図2中の上ヘッダ21a、21bにおいて下方向に噴射速度成分をもつノズル列)を、鋼板搬送方向に交互に所定間隔ずらして設置している。すなわち、鋼板幅方向左端外側に向けて噴射するノズル(左端向ノズル)を鋼板幅方向に所定の間隔Wで鋼板幅方向左端から鋼板幅方向中央部近傍まで配置し、鋼板幅方向左端外側に向けて噴射するノズル(右端向ノズル)を鋼板幅方向に所定の間隔Wで鋼板幅方向右端から鋼板幅方向中央部近傍まで配置し、鋼板幅方向中央部近傍で、左端向ノズルからの冷却水の噴射線と右端向ノズルからの冷却水の噴射線が搬送方向に垂直な面に投影した際に交差するようにしている。つまり、左端向ノズル列と右端向ノズル列の各1列を組み合わせて、鋼板幅全体に対するノズル列(全幅ノズル列)を形成するようにしている。ちなみに、図1、図2では、上ヘッダ21a、21bについて、全幅ノズル列を鋼板搬送方向で6列ずつ設置している。
【0030】
一方、下ヘッダ31については、ここでは、2個の下ヘッダ31が配置されており、それぞれに円管ノズル群32が取り付けられ、テーブルローラ13の隙間から棒状の冷却水33を噴射して、通過する鋼板10の全幅に冷却水を供給するようになっている。その際、各円管ノズル群32は、それぞれの棒状冷却水33が鋼板10に衝突する位置(衝突点)が鋼板幅方向に等間隔となるように設置されている。
【0031】
ちなみに、本発明の棒状冷却水とは、円形状(楕円や多角の形状も含む)のノズル噴出口から噴射される冷却水のことを指している。また、本発明の棒状冷却水は、スプレー状の噴流や膜状のラミナーフローでなく、ノズル噴出口から鋼板に衝突するまでの水流の断面がほぼ円形に保たれ、連続性で直進性のある水流の冷却水をいう。
【0032】
その上で、この実施形態においては、任意の全幅ノズル列について、鋼板上面において、左端向ノズル列から噴射された棒状冷却水の衝突点と、右端向ノズル列から噴射された棒状冷却水の衝突点とが隣り合う個所における両衝突点の中間点を噴射方向分岐点と定義し、その噴射方向分岐点を全幅ノズル列毎に鋼板幅方向にずらすようにしている。ちなみに、左端向ノズル列と右端向ノズル列から噴射される棒状冷却水の衝突点は鋼板の板厚が変わると左右同じ距離だけ動くが、噴射方向分岐点は鋼板幅方向に動かない。
【0033】
今、例えば、図5に示すように、噴射方向分岐点が鋼板幅方向中央部になるように、第1列目の全幅ノズル列22−1と第3列目の全幅ノズル列22−3と第5列目の全幅ノズル列22−5における左端向ノズル列と右端向ノズル列の配置を同一とし、第2列目の全幅ノズル列22−2と第4列目の全幅ノズル列22−4と第6列目の全幅ノズル列22−6における左端向ノズル列と右端向ノズル列の配置を同一とした場合は、図5中に×印で示すように、第1列目の全幅ノズル列22−1の噴射方向分岐点P1と第3列目の全幅ノズル列22−3の噴射方向分岐点P3と第5列目の全幅ノズル列22−5の噴射方向分岐点P5とが鋼板幅方向で同じ位置となり、第2列目の全幅ノズル列22−2の噴射方向分岐点P2と第4列目の全幅ノズル列22−4の噴射方向分岐点P4と第6列目の全幅ノズル列22−6の噴射方向分岐点P6とが鋼板幅方向で同じ位置となる。
【0034】
そのため、鋼板の板厚が厚くなって衝突点が鋼板幅方向にΔWだけ移動すると、噴射方向分岐点P1〜P6のそれぞれにおいて衝突点間隔が狭くなって冷却水供給量が他の個所に比べて多くなることになるが、鋼板幅方向でP1とP3とP5が重なり、同じくP2とP4とP6が重なっていることから、噴射方向分岐点P1〜P6が存在する領域(鋼板幅方向中央部)の冷却水供給量が他の個所に比べてより一層多くなる。
【0035】
これに対して、この実施形態においては、図6に示すように、第1列目の全幅ノズル列22−1から第6列目の全幅ノズル列22−6までの各全幅ノズル列において、左端向ノズル列と右端向ノズル列の配置を少しずつ変更して、図6中に×印で示すように、噴射方向分岐点P1〜P6が鋼板幅方向にδずつずれるようにしている。
【0036】
これによって、鋼板の板厚が厚くなって衝突点が鋼板幅方向にΔWだけ移動すると、噴射方向分岐点P1〜P6のそれぞれにおいて衝突点間隔が狭くなって冷却水供給量が他の個所に比べて多くなることになるが、鋼板幅方向で噴射方向分岐点P1〜P6が重なっていないので、鋼板幅全体でみれば、その影響を軽微に抑えることができる。
【0037】
そのため、鋼板の板厚が変わっても、冷却水を鋼板幅方向に比較的均一な流量分布で供給でき、鋼板全体をほぼ均一に冷却することができるようになる。その結果、品質の高い鋼板を製造することが可能となる。
【0038】
なお、噴射方向分岐点のずらし量δは、ノズルの配置間隔Wの1/2以上とするのが好ましい。ただし、上ヘッダや鋼板の幅は有限であるので、ずらし量δは大きくするほどよいというわけではない。
【0039】
冷却水は、図2に示すZ方向の両方に流出していくことが望ましいので、噴射方向変化点は、鋼板幅中央部近傍に分散させて配置した方がよい。具体的には、鋼板の幅を3分割した中央部分に全ての噴射方向変化点が含まれるようにするのが好適である。もし、噴射方向変化点が中央部分よりも外側にあれば、どちらかの鋼板幅端部での冷却水の流出が悪くなり、滞留水が鋼板搬送方向外側に漏れてしまい、大きな温度むらが生じるからである。
【0040】
なお、この実施形態では、棒状冷却水を外向きに噴射する場合を示したが、本発明はこれに限るものではなく、例えばスプレーノズルなどの噴霧状冷却水を外向きに噴射する場合に用いてもよい。その場合には、ノズルをはめ込む配管の軸心を噴射方向と考えればよい。
【0041】
また、この実施形態では、厚鋼板の熱間圧延ラインを念頭においており、板厚が変わってもパスライン(鋼板下面の高さ位置)は変わらないので、本発明を鋼板上面の冷却にのみ適用したが、例えば、薄鋼板の熱間圧延の仕上スタンド間でルーパが動いてパスラインが変わるような場合には、鋼板下面の高さ位置が変わるので、本発明を鋼板下面の冷却にも適用することができる。
【実施例1】
【0042】
本発明の実施例を以下に述べる。
【0043】
ここでは、図1、図2に示す基本的構成を備えた冷却設備を用いて、板厚が20mm、60mm、100mmの鋼板に対して、その順序で冷却を行った。
【0044】
その際、上ノズル22の噴射角度θを45°、外向き角αを20°、噴射高さHを1020mmとし、その時に板厚20mmの鋼板において、鋼板上面の冷却水衝突点が鋼板幅方向に60mmピッチで等間隔になるようにした。
【0045】
そして、本発明例1として、上記の本発明の一実施形態に基づいて、図6に示すように、噴射方向分岐点P1〜P6を鋼板幅方向にδ=30mmずつずらすようにして(すなわち、ずらし量δ=30mmにして)冷却を行った。
【0046】
また、本発明例2として、上記の本発明の一実施形態に基づいて、図6に示すように、噴射方向分岐点P1〜P6を鋼板幅方向に90mmずつずらすようにして(すなわち、ずらし量δ=90mmにして)冷却を行った。
【0047】
これに対して、比較例として、図5に示すように、噴射方向分岐点P1、P3、P5の鋼板幅方向位置が重なり、噴射方向分岐点P2、P4、P6の鋼板幅方向位置が重なるようにして冷却を行った。P1とP2の間隔δは30mmとした。
【0048】
なお、冷却開始温度は800℃とし、冷却終了温度が目標の600℃となるように、冷却水量や冷却時間を調整した。
【0049】
その結果を表1および図7に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
まず、比較例においては、板厚が20mmの時には、板幅最端部(耳きり対象で製品にならない部分)を除いた部分(製品部)の冷却終了時の温度ムラが10℃であったが、板厚が厚くなるとともに、板幅方向中央部への冷却水供給量が多くなったために、板幅方向中央部が過冷却となり、板幅方向温度分布が図8(a)に示すようになって、冷却終了時の製品部の温度ムラが大きくなった。すなわち、板厚60mmの時には60℃、板厚100mmの時には100℃になっている。
【0052】
これに対して、本発明例1においては、板厚が60mm、100mmと厚くなっても、鋼板幅全体でみると、各全幅ノズル列における衝突点間隔の変動の影響が緩和されて、冷却水が鋼板幅方向に比較的均一に供給され、板幅方向温度分布が図7(b)中の(ア)に示すように比較的均一になった。これにより、製品部の温度ムラが、板厚60mmの時には18℃、板厚100mmの時には40℃に抑えられた。
【0053】
同様に、本発明例2においては、板厚が60mm、100mmと厚くなっても、冷却水が鋼板幅方向にほぼ均一に供給され、板幅方向温度分布が図7(b)中の(イ)に示すようにほぼ均一になった。これにより、製品部の温度ムラが、板厚60mmの時には13℃、板厚100mmの時には20℃に抑えられた。
【0054】
以上のことから、本発明の有効性を確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態における冷却設備の基本的構成を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態における冷却設備の基本的構成を示す平面図である。
【図3】冷却水の衝突点を表す側面図である。
【図4】冷却水の衝突点を表す平面図である。
【図5】噴射方向分岐点を示す平面図である。
【図6】本発明の一実施形態における噴射方向分岐点を示す平面図である。
【図7】本発明の実施例における鋼板幅方向温度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10 鋼板
13 テーブルローラ
21 上ヘッダ
21a 第1上ヘッダ
21b 第2上ヘッダ
22 上ノズル
22a 第1上ノズル
22b 第2上ノズル
22−1〜22−6 全幅ノズル列
23 棒状冷却水
23a 棒状冷却水
23b 棒状冷却水
24 滞留冷却水
31 下ヘッダ
32 下ノズル
33 棒状冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の熱間圧延ラインで使用する冷却設備であって、
鋼板の表面に対して、鋼板の一方の幅方向端部外側に向かう成分をもたせて冷却水を噴射するノズルが鋼板幅方向に所定の間隔で配置された一端方向ノズル列と、鋼板の他方の幅方向端部外側に向かう成分をもたせて冷却水を噴射するノズルが鋼板幅方向に所定の間隔で配置された他端方向ノズル列を各1列ずつ組み合わせて、鋼板の幅方向全体に冷却水を噴射する全幅ノズル列が形成され、
その全幅ノズル列が鋼板搬送方向に複数列設置されているとともに、任意の全幅ノズル列について、鋼板表面において、一端方向ノズル列から噴射された冷却水の衝突点と、他端方向ノズル列から噴射された冷却水の衝突点とが隣り合う個所における両衝突点の中間点を噴射方向分岐点とし、その噴射方向分岐点が全幅ノズル列毎に鋼板幅方向にずれていることを特徴とする鋼板の冷却設備。
【請求項2】
全幅ノズル列毎に噴射方向分岐点がノズルの配置間隔の1/2以上ずれているとともに、全ての噴射方向分岐点が鋼板の幅を3等分した中央部分に含まれていることを特徴とする請求項1に記載の鋼板の冷却設備。
【請求項3】
前記冷却水が棒状冷却水であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板の冷却設備。
【請求項4】
鋼板の熱間圧延ラインで使用する冷却方法であって、
鋼板の表面に対して、鋼板の一方の幅方向端部外側に向かう成分をもたせて冷却水を噴射するノズルを鋼板幅方向に所定の間隔で配置した一端方向ノズル列と、鋼板の他方の幅方向端部外側に向かう成分をもたせて冷却水を噴射するノズルを鋼板幅方向に所定の間隔で配置した他端方向ノズル列を各1列ずつ組み合わせて、鋼板の幅方向全体に冷却水を噴射する全幅ノズル列を形成し、
その全幅ノズル列が鋼板搬送方向に複数列設置するとともに、任意の全幅ノズル列について、鋼板表面において、一端方向ノズル列から噴射された冷却水の衝突点と、他端方向ノズル列から噴射された冷却水の衝突点とが隣り合う個所における両衝突点の中間点を噴射方向分岐点とし、その噴射方向分岐点を全幅ノズル列毎に鋼板幅方向にずらすことを特徴とする鋼板の冷却方法。
【請求項5】
全幅ノズル列毎に噴射方向分岐点をノズルの配置間隔の1/2以上ずらすとともに、全ての噴射方向分岐点が鋼板の幅を3等分した中央部分に含まれるようにすることを特徴とする請求項4に記載の鋼板の冷却方法。
【請求項6】
前記冷却水が棒状冷却水であることを特徴とする請求項4または5に記載の鋼板の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−126293(P2008−126293A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315911(P2006−315911)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】