説明

鋼板の加熱制御方法

【課題】ホットプレスに供する鋼板を所望の温度まで高精度に通電加熱することができる鋼板の加熱制御方法を提供する。
【解決手段】接触式の温度センサにより鋼板の温度を測定しながら通電加熱を行って所望の昇温パターンを得るのに必要な電気エネルギの出力パターンを事前に決定しておく。この出力パターンとこの時の実績電圧、実績電流とを出力パターン記憶装置に保存する。この保存した出力パターンとなるように電気エネルギの出力を制御して鋼板の通電加熱を行うとともに、電圧値、電流値を測定して、これらが前記出力パターン記憶装置に保存した実績電圧、実績電流と異なる場合は加熱エラーと判定して鋼板をライン外へリジェクトする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットプレスに供する鋼板を所望の温度まで高精度に通電加熱することができる鋼板の加熱制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼板を所定の温度まで加熱し高温状態としてプレス成形することで、金型中において焼入れとプレス成形とを同時に行い高強度の製品を製造するホットプレス法(ホットスタンプ法ともいう)が知られている。この場合、特許文献1に示されるように、鋼板を通電加熱することにより短時間で効率よく所定温度まで昇温する方法がとられている。
【0003】
ここで、プレス工程で供給される鋼板の温度が低すぎると焼入れ強度が不足したり、プレス機の負荷が大きくなるという問題があった。また、供給される鋼板の温度が高すぎると、冶金的なメッキ金属との合金化が進みすぎる等の原因により所望の性能や特性が得られないという問題があり、いずれも不良品の発生による歩留まりの低下や、次工程への不良品の流出に繋がるという問題点があった。
【0004】
また、鋼板の加熱に用いられる温度測定技術としては、非接触式の温度計(例えば、放射温度計など)を用いて温度測定をしながら通電加熱を行い、希望の温度になった時に通電を終了する方法が一般的である。
この方法の場合は、鋼板に非接触で温度測定を行うので、次工程であるプレス工程へそのまま鋼板を搬送できるという利点があるものの、例えばメッキ鋼板を加熱する場合は、メッキ金属表面の性状が常に変化して反射率も変わっていくため、高精度に温度測定するのが難しいという問題があった。更に、非接触式の温度計は高価であり、また維持管理にも費用と時間がかかるという問題もあった。
【0005】
一方、熱電対などの接触有線式の温度測定装置により鋼板の昇温状態を事前に温度測定して、希望温度までの到達時間や出力値を事前に記録しておき、生産段階では熱電対無しで加熱時間のみで加熱する方法がとられている。ここで、温度測定することなく通電するのは、実際の生産工程では、鋼板に有線式の熱電対を装着したままでは加熱炉への搬入、および次のプレス工程へ鋼板を送ることができないからである。
この接触有線式による温度測定の場合は測定精度が高いので精度の高い加熱時間と出力を得ることができるという利点がある。しかしながら、希望加熱温度まで単調加熱しかできないため、昇温速度を組み合わせたパターン制御を行うことは難しいという課題や、通電電極部の接触抵抗などにより予め設定した時間と出力の制御のみでは加熱不足や加熱過多が生じて希望する温度にならない場合があり、この結果、次工程へ不良品が流出してしまう恐れがあるという課題が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−55266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題点を解決して、ホットプレスに供する鋼板を所望の温度まで高精度に通電加熱することができるとともに、予定通りの通電加熱がなされているか否かの検出ができて次工程に不良品の流出を防止することができる鋼板の加熱制御方法を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の鋼板の加熱制御方法は、接触式の温度センサにより鋼板の温度を測定しながら通電加熱を行って所望の昇温パターンを得るのに必要な電気エネルギの出力パターンを事前に決定しておき、この出力パターンとこの時の実績電圧、実績電流とを出力パターン記憶装置に保存し、保存した出力パターンとなるように電気エネルギの出力を制御して鋼板の通電加熱を行うとともに、電圧値、電流値を測定して、これらが前記出力パターン記憶装置に保存した実績電圧、実績電流と異なる場合は加熱エラーと判定して鋼板をライン外へリジェクトすることを特徴とするものである。
【0009】
また、定電流制御の場合、通電加熱の初期から電圧が実績電圧より高い場合に加熱エラーと判定したり、通電加熱の終盤に電圧が実績電圧より低い場合に加熱エラーと判定することができ、それぞれ請求項2、請求項3に係る発明とする。
更に、抵抗値を計算しながら通電加熱を行い出力パターン通りの加熱ができているか否かを判定して加熱エラーの判定をすることができ、これを請求項4に係る発明とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、測定精度が高い接触式の温度センサを用いて事前に決定しておいた出力パターンに基づいて出力制御しつつ鋼板の通電加熱を行うとともに、電圧値、電流値を測定し基準値と比較することで加熱エラーを検出するようにしたので、精度よく通電加熱を行うことができ、また予定通りの通電加熱がなされていない場合は確実にエラー検出して次工程に不良品が流出するのを防止することができる。
【0011】
また、請求項2に係る発明では、通電加熱の初期から電圧が実績電圧より高い場合を加熱エラーと判定して検出することができる。
【0012】
また、請求項3に係る発明では、通電加熱の終盤に電圧が実績電圧より低い場合を加熱エラーと判定して検出することができる。
【0013】
また、請求項4に係る発明では、抵抗値を計算しながら通電加熱を行い出力パターン通りの加熱ができているか否かを判定して加熱エラーの判定をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】出力パターンを事前に決定する工程を示す説明図である。
【図2】本発明の加熱制御方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は、第1ステップとして出力パターンを事前に決定する工程を示す説明図である。
ここでは、熱電対のような高精度な接触有線式の温度センサを用いて鋼板の温度測定をしながら通電加熱を行う。図示されるように、鋼板は両端部を電極で挟持され、また鋼板中央部の温度が熱電対により測定されて通電加熱の昇温パターンがモニタリングされている。電極間の電圧と電流は、それぞれ電圧計(V1)及び電流計(I1)により測定されている。
【0016】
希望する昇温パターンを得たならば、その時に得られた電気エネルギの出力パターンを出力パターン記憶装置に保存する。これと同時に、この時の実績電圧、実績電流も出力パターン記憶装置に保存しておく。
ここで、電気エネルギの出力とは、鋼板に供給される単位時間当たりの電気エネルギ(KW:仕事率)のことであり、具体的には電圧×電流によって表される。従って、この出力は定電流回路においては電圧により、また定電圧回路においては電流によって変化することとなる。
このようにして、所望する昇温パターンを得るために必要な電気エネルギの出力パターンを決定して、出力パターン記憶装置にこのパターンを保存しておく。
【0017】
次に、図2に示すように、前記の第1ステップにより出力パターン記憶装置に保存した中から加熱処理する鋼板に応じて希望する昇温パターンを選択し、この昇温パターンにするための出力パターンに従い電気エネルギの出力制御を行いつつ鋼板の通電加熱を行う。例えば、定電流回路においては電圧調整を行うことにより、事前に決定してある出力パターンとなるように出力し、これにより所望の昇温パターンで鋼板を加熱する。
【0018】
しかしながら、実際の加熱工程においては、通電電極部の接触抵抗などにより予め設定した時間と出力の制御のみでは加熱不足や加熱過多が生じて希望する温度にならない場合等もあり、この場合は、次工程へ不良品が流出してしまうことになる。
そこで本発明では、保存した出力パターンとなるように電気エネルギの出力を制御して鋼板の通電加熱を行った時の電圧値、電流値を測定して、これらが前記出力パターン記憶装置に保存した実績電圧、実績電流と異なる場合は加熱エラーと判定して鋼板をライン外へリジェクトするようにした。これにより、次工程に不良品の流出を防止することが可能となり、またプレス機などの設備ダメージを最小限に食い止めて設備保全上のメリットも享受することができることとなる。
【0019】
前記加熱エラーの検出は、例えば定電流制御の場合、通電加熱の初期から電圧が実績電圧より高い場合に、電極部の接触抵抗が大きい(グリップ不足)として加熱エラーと判定することができる。また、通電加熱の終盤に電圧が実績電圧より低い場合にも加熱エラーと判定することができる。
更に、抵抗値(電圧/電流)が鋼板温度と高い相関関係にあるので、抵抗値を計算しながら通電加熱を行い出力パターン通りの加熱ができているか否かを判定して加熱エラーの判定をすることもできる。
【0020】
以上の説明からも明らかなように、本発明は接触式温度計を用い非接触式温度計のような高価で維持管理に費用と時間がかかる温度測定機器を用いないので安価であり、また高精度に温度制御することができ、特に反射率の変化に起因する測定誤差も生じることがない。更には、鋼板に温度センサ用の配線もないので、プレス工程などの次工程へ鋼板を容易に装入でき、また加熱エラーの場合は鋼板がライン外へリジェクトされるので品質管理上、設備保全上のメリットを享受できるという利点もある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触式の温度センサにより鋼板の温度を測定しながら通電加熱を行って所望の昇温パターンを得るのに必要な電気エネルギの出力パターンを事前に決定しておき、この出力パターンとこの時の実績電圧、実績電流とを出力パターン記憶装置に保存し、保存した出力パターンとなるように電気エネルギの出力を制御して鋼板の通電加熱を行うとともに、電圧値、電流値を測定して、これらが前記出力パターン記憶装置に保存した実績電圧、実績電流と異なる場合は加熱エラーと判定して鋼板をライン外へリジェクトすることを特徴とする鋼板の加熱制御方法。
【請求項2】
定電流制御の場合、通電加熱の初期から電圧が実績電圧より高い場合に加熱エラーと判定する請求項1に記載の鋼板の加熱制御方法。
【請求項3】
定電流制御の場合、通電加熱の終盤に電圧が実績電圧より低い場合に加熱エラーと判定する請求項1に記載の鋼板の加熱制御方法。
【請求項4】
抵抗値を計算しながら通電加熱を行い出力パターン通りの加熱ができているか否かを判定して加熱エラーの判定をする請求項1に記載の鋼板の加熱制御方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−82006(P2011−82006A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233004(P2009−233004)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】