説明

鋼管の冷却方法及びその装置

【課題】レーキ割れ発生原因の1つとして、鋼管と冷却床との接触部における鋼管の局部冷却によって鋼組織の変態が生じ、これに伴う再加熱時の熱膨張係数の差異に起因してレーキ割れが生ずるという新たな知見を得た。冷却床における局部冷却に起因する熱膨張係数の差異発生を防止する技術を提供する。
【解決手段】9Cr鋼管などのシームレス鋼管製造装置の冷却装置において、鋼管を搬送する冷却床の上流側の一定区間の冷却床10の上面に、ステンレス補強線で補強したセラミックファイバー紡織材から成る断熱材層20を設け、冷却床内を歩進搬送される鋼管が冷却床10に接する部分の熱伝導を防止する。例えば冷却床金物10の上面に凹孔13を設け、断熱材20を上面に添着した取付体21の脚部22をこの凹孔13内に挿入した構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレス鋼管製造工程における圧延後の鋼管の冷却方法及びその装置に関する。さらに詳しくは比較的小径のシームレス鋼管、例えば9Cr鋼管等に生ずるレーキ割れ防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
外径120mm以下の小口径シームレス鋼管は管材(丸ビレット)を加熱し、ピアサにて穿孔し、マンドレルミル、レデューサを経て製管した後、焼入れ、焼戻し、焼きならし等の熱処理を行い、サイジングミルでサイジングを行い、その後、各種試験、ねじ切り等を行い製品となる。
【0003】
この鋼管製造工程において、シームレス鋼管はレデューサ等による成形の後、冷却床上を搬送されながら徐冷される。この冷却時に、例えばCr含有量が8.0〜9.5質量%の9Cr鋼管のような割れ感受性の大きい鋼種では、冷却床の移動床と接した部分の近傍に、次工程の熱処理工程で、いわゆるレーキ割れと称する亀裂を発生する問題がある。このようなレーキ割れに対して、その原因究明が種々行われている。
【0004】
例えば、鋼材の材質改善による焼入指数の低減や鋼中のN含有量を低減する低N化等が行われている。このような対策によっても、従来、レーキ割れを完全に防止することはできなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、レーキ割れが1年のうち寒冷期に生ずることが多いなどの事情があることに着目し、研究を重ねてその原因究明に当った結果、レーキ割れ発生機構の原因の1つとして、鋼管と冷却床との接触部における鋼管の局部冷却によって生ずる鋼組織の変態に伴う熱膨張係数の差異発生に起因するという新たな知見を得た。このため、1年の中の寒冷期と温暖期とでは環境温度の差による微妙な局部冷却差の影響が現れ、その結果差異が生ずるものと推定された。
【0006】
本発明は、このような知見に基づいて、局部冷却に起因する熱膨張係数の差異発生を防止する効果的な対策案を開発し、これを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、次の技術手段を講じたことを特徴とする鋼管の冷却方法である。すなわち、本発明は、シームレス鋼管製造工程の冷却段階において、搬送台上面が鋼管外面を局部冷却するのを防止することを特徴とする鋼管の冷却方法である。
【0008】
本発明において搬送台上面が鋼管を局部冷却するのを防止する領域としては、鋼管温度が750℃以上の領域とすればよい。レデューサ等による加工後の鋼管温度は900〜950℃程度であり、加工後鋼管は冷却装置で搬送されながら徐冷される。冷却床と接触しない部分の鋼管は外表面はフェライト組織であり、肉厚内部はマルテンサイト組織となっている。
【0009】
本発明者は、冷却床と接する部分が冷却床によって急冷され、この部分の鋼板の組織が変態によりマルテンサイト組織となり、次の熱処理段階における加熱時にレーキ割れを生ずることを知見した。本発明は、鋼管の冷却工程において、鋼管表面を冷却床の冷却床と接触しない部分と同様にフェライト組織のまま維持することを主眼としている。
【0010】
上記本発明方法を好適に実施することができる本発明の装置は、シームレス鋼管製造装置の冷却装置において、鋼管搬送上流側の一定区間の冷却床上面に断熱材を装着したことを特徴とする鋼管の冷却装置である。ここで一定区間とは上記の鋼管の温度が750℃以上の区域とすればよい。これは鋼管の寸法、材質、加工工程などに応じて定めることができ、最も条件の悪い鋼種や工程に対してこの区間を定めておけば、それより好条件の場合は問題がない。
【0011】
上記鋼管の冷却装置において、前記断熱材を装着する手段は限定されるものではないが、前記断熱材の装着は冷却床上面に凹孔を設け、セラミックファイバー紡織材を上面に添着した取付体の脚部を該凹孔内に挿入する構造とすれば保守管理が容易で好ましく、また前記断熱材の装着は、セラミックファイバー紡織材を上面に添着した鋼板を冷却床上面に着脱自在に固定することとしてもよい。セラミックファイバー紡織材は、例えばステンレス補強線で補強したものを用いると好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シームレス鋼管製造工程の冷却工程における部分的な組織変化の起るおそれのある領域において、冷却床による鋼管の局部急冷を防止することが可能となったので、レーキ割れを効果的に防止することができるようになった。なお、割れ感受性を低下させるような鋼管材質等の改善とも併せ、実効ある効果が得られるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
シームレス鋼管圧延後の冷却工程中で鋼管の内外温度差と内外組織の差による熱膨張係数差とにより、鋼管外表面に圧縮応力が作用する状態となっていると、外表面に亀裂が生じない。
【0014】
冷却工程中の高温の領域で、鋼管が冷却床と接する部分では、鋼管の外表面近傍の組織が冷却によりマルテンサイト組織となるので、肉厚内外ともマルテンサイト組織となる。このため、鋼管の外表面と内部熱膨張係数は等しくなる。熱処理等の加熱時に鋼管内外面に温度差が生じ、この温度差により鋼管の外表面に生ずる応力は引張応力となる。その結果、鋼管外表面に亀裂を生ずるおそれが増大する。
【0015】
組織が変化する温度は鋼種により差異があるが、概ね820〜880℃の範囲にある。従って、圧延加工後の鋼管がこの領域において冷却床による急冷が生じないようにするとよい。安全とばらつきを考慮して鋼管の温度範囲が750℃以上となる区域において、冷却床による鋼管の急冷が生じないように設定すればよい。
【0016】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1、図2は本発明の実施例の鋼管の冷却工程における冷却床を模式的に示す説明図である。
【0018】
冷却床は三角山と三角谷とが上面に長手方向に鋸状に連設されている固定床と移動床とが隣り合って並列している。移動床が上昇、前進、下降、後退のサイクルを繰返すことにより、冷却床上の鋼管が固定床上を歩進前進する。鋼管は、冷却床の上面の三角谷の部分に接触載置され、冷却床に接する部分が冷却床への熱伝導により余分に冷却される。この部分的な余分な冷却が、レーキ割れ発生の原因となる。
【0019】
そこでこれを防止するために、鋼管温度が750℃以上である領域の冷却床の鋼管と接する三角谷の部分に断熱材を添着して熱伝導による余分な冷却を防止する。
【0020】
図1は実施例の冷却床金物10の斜視図で、連続する三角山が2連のものを例示した。この冷却床金物10は冷却床の固定又は移動機構に連結する取付部11を有している。図1は冷却床金物10の上面12に凹孔13を設け、断熱材20を上面に添着した取付体21の脚部22を矢印23で示すようにこの凹孔13内に挿入し、冷却床金物10の上面に断熱材20を装着した実施例を示したものである。
【0021】
断熱材20としては、ステンレス補強線によって補強したセラミックファイバー紡織材を用いた。このセラミックファイバー紡織材はAl23とSiO2を主成分とした断熱材を紡織したもので、連続使用で1000℃以上の耐熱性を有し、短時間使用で1250℃までの耐熱性を有し、耐久性に富み、高い断熱性を備えている。
【0022】
図1に示す実施例では、凹孔13として角孔を設け、断熱材20を装着した取付体21の脚部22をこの角孔に挿入した例を示したが、これに限るものではなく、例えば凹孔13を複数個の丸孔等とし、取付体21の脚部22の形状をそれに応じた形状としてもよい。
【0023】
図2は断熱材20を上面に添着した溝形の鋼板24を冷却床金物10の上に載せ、鋼板24の溝の側壁部25を冷却床金物10の側面に固定ボルト26を用いて固定した例である。
【0024】
次に本発明方法の効果を示す実験例について説明する。組成がC:0.08〜0.12質量%、Mn:0.30〜0.60質量%、P:0020質量%以下、S:0.010質量%以下、Si:0.20〜0.50質量%、Cr:8.00〜9.50質量%、Mo:0.85〜1.05質量%、V:0.18〜0.25質量%から成る9Cr鋼のサンプルを、図4の温度履歴曲線31に示すように、毎秒10℃の昇温速度で加熱し、950℃に600秒保持した後、急冷したところ組織はマルテンサイトとなっていた。一方、図5の温度履歴曲線32に示すように、同様の昇温速度で加熱し、950℃に600秒保持した後、750℃で1800秒保持し、その後冷却したとき、組織はフェライトであった。
【0025】
この2個のサンプルを図6に示す昇温パターン33によって加熱し、熱膨張量を測定した。図6の昇温パターン33は連続焼鈍炉における加熱パターンを模したものである。熱膨張量の測定結果は図3に示すようになった。
【0026】
図3は、再加熱工程におけるフェライトとマルテンサイトの熱膨張量を示すグラフである。曲線51はフェライト、曲線61はマルテンサイトの熱膨張曲線である。再加熱工程において鋼管外表面温度と鋼管内表面温度に15℃の温度差があるとする。内外組織がフェライトである場合、外表面位置52と内表面位置53との熱膨張量の差は、熱膨張量差54で示すように小さい。これに比し、外表面がマルテンサイトであると、外表面位置62と内表面位置53との熱膨張量差63は過大となり、外表面位置に亀裂が生ずる。
【0027】
図はこのことを示すもので、鋼管の内外面温度差が15℃であるとき、横軸に内表面温度を取り、縦軸に外表面の周方向応力MPaを取って両者との関係を示したものである。曲線71は図3の曲線61に対応し、曲線72は図3の曲線51に対応するものである。温度推移に伴って、外表面引張、外表面圧縮が内面温度820〜840℃附近で起っている。
【0028】
そして、曲線71では約130MPaのピーク周引張応力を発生しており、この値は850℃におけるγ相の引張強度に相当する値であり、レーキ割れが発生する原因となることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例の冷却床の模式的説明図である。
【図2】別の実施例の冷却床の模式的説明図である。
【図3】フェライトとマルテンサイトの熱膨張曲線を示すグラフである。
【図4】実験例の温度履歴曲線である。
【図5】実験例の温度履歴曲線である。
【図6】実験例の昇温パターンである。
【図7】推定応力値のグラフである。
【符号の説明】
【0030】
10 冷却床金物
11 取付部
12 上面
13 凹孔
20 断熱材
21 取付体
22 脚部
23 矢印
24 鋼板
25 側壁部
26 固定ボルト
31、32 温度履歴曲線
33 昇温パターン
51 曲線
52 外表面位置
53 内表面位置
54 熱膨張量差
61 曲線
62 外表面位置
63 熱膨張量差
71、72 曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シームレス鋼管製造工程の冷却段階において、搬送台上面が鋼管外面を局部冷却するのを防止することを特徴とする鋼管の冷却方法。
【請求項2】
前記シームレス鋼管が9Cr鋼管であることを特徴とする請求項1記載の鋼管の冷却方法。
【請求項3】
シームレス鋼管製造装置の冷却装置において、鋼管搬送上流側の一定区間の冷却床上面に断熱材を装着したことを特徴とする鋼管の冷却装置。
【請求項4】
前記断熱材の装着は冷却床上面に凹孔を設け、セラミックファイバー紡織材を上面に添着した取付体の脚部を該凹孔内に挿入することを特徴とする請求項3記載の鋼管の冷却装置。
【請求項5】
前記断熱材の装着は、セラミックファイバー紡織材を上面に添着した鋼板を冷却床上面に着脱自在に固定することを特徴とする請求項3記載の鋼管の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−255771(P2006−255771A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80229(P2005−80229)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】