鋼管柱および鋼管柱の接合方法
【課題】空間を圧迫しないスリムな構造であって、構造性能および解体性能に優れた無溶接接合の鋼管柱および鋼管柱の接合方法を提供する。
【解決手段】上節柱10と下節柱12とを接合して構成される鋼管柱100であって、上節柱10の下端および下節柱12の上端にそれぞれ設けられ、柱軸方向視で十字形状かつ柱軸方向に延びるプレートからなる十字形継手16と、下節柱12の十字形継手16と上節柱10の十字形継手16とを上下に突き合わせて形成される継手部20の外周を囲うように周方向に配置した複数枚の鋼板22aで構成され、下節柱12の十字形継手16と上節柱10の十字形継手16とをボルト接合する一方で、複数枚の鋼板22aを互いにボルト接合して構成される継手パネル22と、継手部20と継手パネル22との間に充填されたモルタル26とを備えるようにする。
【解決手段】上節柱10と下節柱12とを接合して構成される鋼管柱100であって、上節柱10の下端および下節柱12の上端にそれぞれ設けられ、柱軸方向視で十字形状かつ柱軸方向に延びるプレートからなる十字形継手16と、下節柱12の十字形継手16と上節柱10の十字形継手16とを上下に突き合わせて形成される継手部20の外周を囲うように周方向に配置した複数枚の鋼板22aで構成され、下節柱12の十字形継手16と上節柱10の十字形継手16とをボルト接合する一方で、複数枚の鋼板22aを互いにボルト接合して構成される継手パネル22と、継手部20と継手パネル22との間に充填されたモルタル26とを備えるようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管柱および鋼管柱の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼構造建物の鋼管柱の下節柱と上節柱とを接合する構造として、図7に示すように、下節柱と上節柱の各外周に突設したエレクションピースを継手パネルで相互に連結し、継手パネルと柱との間にモルタルを充填する構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。この構造によれば、溶接によらずとも容易に下節柱と上節柱とを強固に接合することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2007−39952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の従来の特許文献1の鋼管柱の接合構造は、エレクションピースの分だけ接合部分の径が大きくなることから、内部空間(柱外側の空間)を圧迫してしまうという問題があった。
【0005】
この問題を解決するためには、例えば図8に示すように、エレクションピースをなくし、接合部分の径を柱径の一回り大きいサイズに抑えてスリム化した接合ディテールとすることが考えられる。しかし、このような接合ディテールは、構造設計上の要求性能を満足するものの、解体する場合には外鋼管をガス切断しなければならず、部材リユースに対応し難い。また、解体時における柱部材の養生や、ガス切断による入熱の影響などを考慮する手間を生じるといった問題がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、空間を圧迫しないスリムな構造であって、構造性能および解体性能に優れた無溶接接合の鋼管柱および鋼管柱の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る鋼管柱は、上節柱と下節柱とを接合して構成される鋼管柱であって、前記上節柱の下端および前記下節柱の上端にそれぞれ設けられ、前記柱軸方向視で十字形状かつ柱軸方向に延びるプレートからなる十字形継手と、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とを上下に突き合わせて形成される継手部の外周を囲うように周方向に配置した複数枚の鋼板で構成され、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをボルト接合する一方で、前記複数枚の鋼板を互いにボルト接合して構成される継手パネルと、前記継手部と前記継手パネルとの間に充填された硬化材とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る鋼管柱は、上述した請求項1において、前記継手部において、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とはスプライスプレートを介してボルト接合されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係る鋼管柱は、上述した請求項1または請求項2において、前記継手パネルは、前記十字形継手の互いに直交したプレート間にそれぞれ配置される鋼板を有し、前記各鋼板は、前記柱軸方向視で四分円弧状に湾曲し、その周方向両端に設けられたリブプレートを介して前記上節柱および前記下節柱の前記十字形継手のプレートにボルト接合されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係る鋼管柱の接合方法は、上節柱と下節柱とを接合して構成される鋼管柱の接合方法であって、前記上節柱の下端および前記下節柱の上端には、前記柱軸方向視で十字形状かつ柱軸方向に延びるプレートからなる十字形継手がそれぞれ設けられており、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とを上下に突き合わせて形成される継手部の外周を囲うように複数枚の鋼板を周方向に配置し、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをボルト接合する一方で、前記複数枚の鋼板を互いにボルト接合することで継手パネルを設ける工程と、前記継手部と前記継手パネルとの間に硬化材を充填する工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項5に係る鋼管柱の接合方法は、上述した請求項4において、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをスプライスプレートを介してボルト接合する工程をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6に係る鋼管柱の接合方法は、上述した請求項4または請求項5において、前記継手パネルは、前記柱軸方向視で四分円弧状に湾曲し、その周方向両端にリブプレートを備える鋼板からなり、前記十字形継手の互いに直交した各プレート間に前記鋼板をそれぞれ配置し、前記リブプレートを前記上節柱および前記下節柱の前記十字形継手のプレートにボルト接合することで前記継手パネルを設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋼管柱の接合部の外周にエレクションピースのような突出部材を設ける必要がなく構造をスリムにできるので、柱の外周側の空間(内部空間)を圧迫することがない。また、上下節柱と継手パネルはそれぞれボルト接合されると同時に、上下節柱と継手パネルとの間の隙間には硬化材が充填される。このため、鋼管柱の接合部における応力伝達状態を比較的有利な状態とし、比較的少ない現実的なボルト本数で鋼管柱の剛接合を実現することができる。さらに、ボルト接合であることからガス切断を要せずに鋼管柱を容易に解体でき、部材リユースにも対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明に係る鋼管柱および鋼管柱の接合方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明に係る鋼管柱の概略正面断面図であり、図2は概略平面断面図、図3は分解正面断面図、図4は分解平面断面図である。
【0015】
図1、2、3および図4に示すように、本発明に係る鋼管柱100は、円形鋼管としての上節柱10と下節柱12とを備えて成る。上節柱10と下節柱12の各端部には、円板状エンドプレート14を介して十字形継手16が取り付けられてある。十字形継手16は、柱軸方向視で十字形に組んだ柱軸方向に延びる接合プレート15からなる。本発明の鋼管柱100は、上下節柱10、12の接合プレート15同士を、スプライスプレート18を介してボルト接合することで形成される接合部20(継手部)を囲う継手パネル22と、上下節柱10、12と継手パネル22との間の隙間24に充填される硬化材としてのモルタル26とをさらに備える。本実施形態においては、硬化材としてモルタルを使用しているが、その他の材料としてコンクリート、エポキシ樹脂等を用いてもよい。
【0016】
継手パネル22は、接合部20の外周を囲うための外鋼管からなる。この外鋼管は、上下節柱10、12の径よりも小径の鋼管を周方向に4つ割にした柱軸方向視で四分円弧状に湾曲した鋼板4枚によって構成されてある。各鋼板22aの周縁には、ボルト接合のためのリブプレート28が取り付けられてある。なお、継手パネル22の一部にはモルタル注入孔(不図示)が設けられており、この注入孔から継手パネル22と上下節柱10、12との間の隙間24に対してモルタル26が注入可能にされてある。また、継手パネル22の柱軸方向長さは、接合部20の各エンドプレート14に挟まれる区間に対応する長さとされてある。
【0017】
次に、本発明に係る鋼管柱100の施工手順について図5を用いて説明する。図5は、本発明に係る鋼管柱100の接合方法による施工手順の一例を示す図である。
図5(a)に示すように、まず、上下節柱10、12の十字形継手16のプレート15同士をスプライスプレート18を介してボルト30で接合し、柱の位置決め、建て方を行い、ボルト本締めする。
【0018】
ついで、図5(b)に示すように、4枚の四分円弧状の鋼板22aを、周両端のリブプレート28を介して接合部20の柱軸方向視で互いに直交する各プレート15間にそれぞれ取り付け、ボルト本締めする。こうすることで、4枚の鋼板22aからなる継手パネル22が、接合部20の外周を囲うように取り付けられる。
【0019】
最後に、図5(c)に示すように、モルタル26を継手パネル22と接合部20の各プレート15との間の隙間24に充填し、硬化を待つことで本発明の鋼管柱100が完成する。なお、この場合、エンドプレート14が接合部20上下端部に設けられていることから、図7および図8のディテールで必要であったモルタル打設用型枠が不要になるという効果がある。
【0020】
次に、本発明に係る鋼管柱100の解体手順について説明する。
まず、継手パネル22を構成する各鋼板22aのリブプレート28のボルト30を取り外し、継手パネル22を取り外す。次に、充填されていたモルタル26を破砕する。最後に、上下節柱10、12の十字形継手16同士を接合しているスプライスプレート18のボルト30を取り外し、上下節柱10、12を分離することで解体作業が完了する。
【0021】
次に、本発明に係る鋼管柱100の接合部における応力伝達機構について図6を参照しながら説明する。図6は、本発明に係る鋼管柱の応力伝達機構を説明する概略正面断面図であり、図6(a)は長期荷重に対する応力伝達機構、図6(b)は短期荷重に対する応力伝達機構に関するものである。
【0022】
上載荷重などの長期荷重Nは、図6(a)に示すように、鋼管柱100の接合部20において、スプライスプレート18およびリブプレート28のボルト接合のボルト30の摩擦力によって主に伝達される。
【0023】
一方、横揺れ地震や台風などによる短期荷重Qは、図6(b)に示すように、スプライスプレート18およびリブプレート28のボルト接合分と、荷重直交方向に延びる十字形継手16の接合プレート15がモルタル26から受けるテコ反力により伝達される。この鋼管柱100において、短期荷重に対してボルト接合分のみ考慮して設計した場合には、必要ボルト本数が多くなることから現実的ではない。しかしながら、モルタル26とのテコ反力分を加味した設計を行うことで、現実的なボルト本数で鋼管柱の剛接合を実現することができる。なお、この場合における接合部の設計式は、既知である図7の接合部の設計式を応用することで構築可能である。
【0024】
上記の実施形態において、円形鋼管による鋼管柱を例に取り説明したが、角形鋼管による鋼管柱としてもよく、この場合でも本発明と同一の作用効果を奏することができる。また、継手パネルを構成する鋼板として四分円弧状の鋼板を用いる代わりに、柱軸方向視で略L字状断面の鋼板や平鋼板を用いてもよく、いずれにしても本発明と同一の作用効果を奏することができる。
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、鋼管柱の接合部の外周にエレクションピースのような突出部材を設ける必要がなく構造をスリムにできるので、柱の外周側の空間(内部空間)を圧迫することがない。また、上下節柱と継手パネルはそれぞれボルト接合されると同時に、上下節柱と継手パネルとの間の隙間には硬化材が充填される。このため、鋼管柱の接合部における応力伝達状態を比較的有利な状態とし、比較的少ない現実的なボルト本数で鋼管柱の剛接合を実現することができる。さらに、ボルト接合であることからガス切断を要せずに鋼管柱を容易に解体でき、部材リユースにも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る鋼管柱の一例を示す概略正面断面図である。
【図2】本発明に係る鋼管柱の一例を示す概略平面断面図である。
【図3】本発明に係る鋼管柱の一例を示す分解正面断面図である。
【図4】本発明に係る鋼管柱の一例を示す分解平面断面図である。
【図5】本発明に係る鋼管柱の接合方法による施工手順の一例を示す図である。
【図6】本発明に係る鋼管柱の応力伝達機構を説明する概略正面断面図である。
【図7】従来の鋼管柱の接合ディテールの一例を示す概略斜視図である。
【図8】スリム化した接合ディテールの鋼管柱の一例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
10 上節柱
12 下節柱
14 エンドプレート
16 十字形継手
18 スプライスプレート
20 接合部(継手部)
22 継手パネル
22a 鋼板
24 隙間
26 モルタル(硬化材)
28 リブプレート
30 ボルト
100 鋼管柱
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管柱および鋼管柱の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼構造建物の鋼管柱の下節柱と上節柱とを接合する構造として、図7に示すように、下節柱と上節柱の各外周に突設したエレクションピースを継手パネルで相互に連結し、継手パネルと柱との間にモルタルを充填する構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。この構造によれば、溶接によらずとも容易に下節柱と上節柱とを強固に接合することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2007−39952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の従来の特許文献1の鋼管柱の接合構造は、エレクションピースの分だけ接合部分の径が大きくなることから、内部空間(柱外側の空間)を圧迫してしまうという問題があった。
【0005】
この問題を解決するためには、例えば図8に示すように、エレクションピースをなくし、接合部分の径を柱径の一回り大きいサイズに抑えてスリム化した接合ディテールとすることが考えられる。しかし、このような接合ディテールは、構造設計上の要求性能を満足するものの、解体する場合には外鋼管をガス切断しなければならず、部材リユースに対応し難い。また、解体時における柱部材の養生や、ガス切断による入熱の影響などを考慮する手間を生じるといった問題がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、空間を圧迫しないスリムな構造であって、構造性能および解体性能に優れた無溶接接合の鋼管柱および鋼管柱の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る鋼管柱は、上節柱と下節柱とを接合して構成される鋼管柱であって、前記上節柱の下端および前記下節柱の上端にそれぞれ設けられ、前記柱軸方向視で十字形状かつ柱軸方向に延びるプレートからなる十字形継手と、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とを上下に突き合わせて形成される継手部の外周を囲うように周方向に配置した複数枚の鋼板で構成され、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをボルト接合する一方で、前記複数枚の鋼板を互いにボルト接合して構成される継手パネルと、前記継手部と前記継手パネルとの間に充填された硬化材とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る鋼管柱は、上述した請求項1において、前記継手部において、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とはスプライスプレートを介してボルト接合されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係る鋼管柱は、上述した請求項1または請求項2において、前記継手パネルは、前記十字形継手の互いに直交したプレート間にそれぞれ配置される鋼板を有し、前記各鋼板は、前記柱軸方向視で四分円弧状に湾曲し、その周方向両端に設けられたリブプレートを介して前記上節柱および前記下節柱の前記十字形継手のプレートにボルト接合されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係る鋼管柱の接合方法は、上節柱と下節柱とを接合して構成される鋼管柱の接合方法であって、前記上節柱の下端および前記下節柱の上端には、前記柱軸方向視で十字形状かつ柱軸方向に延びるプレートからなる十字形継手がそれぞれ設けられており、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とを上下に突き合わせて形成される継手部の外周を囲うように複数枚の鋼板を周方向に配置し、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをボルト接合する一方で、前記複数枚の鋼板を互いにボルト接合することで継手パネルを設ける工程と、前記継手部と前記継手パネルとの間に硬化材を充填する工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項5に係る鋼管柱の接合方法は、上述した請求項4において、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをスプライスプレートを介してボルト接合する工程をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6に係る鋼管柱の接合方法は、上述した請求項4または請求項5において、前記継手パネルは、前記柱軸方向視で四分円弧状に湾曲し、その周方向両端にリブプレートを備える鋼板からなり、前記十字形継手の互いに直交した各プレート間に前記鋼板をそれぞれ配置し、前記リブプレートを前記上節柱および前記下節柱の前記十字形継手のプレートにボルト接合することで前記継手パネルを設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋼管柱の接合部の外周にエレクションピースのような突出部材を設ける必要がなく構造をスリムにできるので、柱の外周側の空間(内部空間)を圧迫することがない。また、上下節柱と継手パネルはそれぞれボルト接合されると同時に、上下節柱と継手パネルとの間の隙間には硬化材が充填される。このため、鋼管柱の接合部における応力伝達状態を比較的有利な状態とし、比較的少ない現実的なボルト本数で鋼管柱の剛接合を実現することができる。さらに、ボルト接合であることからガス切断を要せずに鋼管柱を容易に解体でき、部材リユースにも対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明に係る鋼管柱および鋼管柱の接合方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明に係る鋼管柱の概略正面断面図であり、図2は概略平面断面図、図3は分解正面断面図、図4は分解平面断面図である。
【0015】
図1、2、3および図4に示すように、本発明に係る鋼管柱100は、円形鋼管としての上節柱10と下節柱12とを備えて成る。上節柱10と下節柱12の各端部には、円板状エンドプレート14を介して十字形継手16が取り付けられてある。十字形継手16は、柱軸方向視で十字形に組んだ柱軸方向に延びる接合プレート15からなる。本発明の鋼管柱100は、上下節柱10、12の接合プレート15同士を、スプライスプレート18を介してボルト接合することで形成される接合部20(継手部)を囲う継手パネル22と、上下節柱10、12と継手パネル22との間の隙間24に充填される硬化材としてのモルタル26とをさらに備える。本実施形態においては、硬化材としてモルタルを使用しているが、その他の材料としてコンクリート、エポキシ樹脂等を用いてもよい。
【0016】
継手パネル22は、接合部20の外周を囲うための外鋼管からなる。この外鋼管は、上下節柱10、12の径よりも小径の鋼管を周方向に4つ割にした柱軸方向視で四分円弧状に湾曲した鋼板4枚によって構成されてある。各鋼板22aの周縁には、ボルト接合のためのリブプレート28が取り付けられてある。なお、継手パネル22の一部にはモルタル注入孔(不図示)が設けられており、この注入孔から継手パネル22と上下節柱10、12との間の隙間24に対してモルタル26が注入可能にされてある。また、継手パネル22の柱軸方向長さは、接合部20の各エンドプレート14に挟まれる区間に対応する長さとされてある。
【0017】
次に、本発明に係る鋼管柱100の施工手順について図5を用いて説明する。図5は、本発明に係る鋼管柱100の接合方法による施工手順の一例を示す図である。
図5(a)に示すように、まず、上下節柱10、12の十字形継手16のプレート15同士をスプライスプレート18を介してボルト30で接合し、柱の位置決め、建て方を行い、ボルト本締めする。
【0018】
ついで、図5(b)に示すように、4枚の四分円弧状の鋼板22aを、周両端のリブプレート28を介して接合部20の柱軸方向視で互いに直交する各プレート15間にそれぞれ取り付け、ボルト本締めする。こうすることで、4枚の鋼板22aからなる継手パネル22が、接合部20の外周を囲うように取り付けられる。
【0019】
最後に、図5(c)に示すように、モルタル26を継手パネル22と接合部20の各プレート15との間の隙間24に充填し、硬化を待つことで本発明の鋼管柱100が完成する。なお、この場合、エンドプレート14が接合部20上下端部に設けられていることから、図7および図8のディテールで必要であったモルタル打設用型枠が不要になるという効果がある。
【0020】
次に、本発明に係る鋼管柱100の解体手順について説明する。
まず、継手パネル22を構成する各鋼板22aのリブプレート28のボルト30を取り外し、継手パネル22を取り外す。次に、充填されていたモルタル26を破砕する。最後に、上下節柱10、12の十字形継手16同士を接合しているスプライスプレート18のボルト30を取り外し、上下節柱10、12を分離することで解体作業が完了する。
【0021】
次に、本発明に係る鋼管柱100の接合部における応力伝達機構について図6を参照しながら説明する。図6は、本発明に係る鋼管柱の応力伝達機構を説明する概略正面断面図であり、図6(a)は長期荷重に対する応力伝達機構、図6(b)は短期荷重に対する応力伝達機構に関するものである。
【0022】
上載荷重などの長期荷重Nは、図6(a)に示すように、鋼管柱100の接合部20において、スプライスプレート18およびリブプレート28のボルト接合のボルト30の摩擦力によって主に伝達される。
【0023】
一方、横揺れ地震や台風などによる短期荷重Qは、図6(b)に示すように、スプライスプレート18およびリブプレート28のボルト接合分と、荷重直交方向に延びる十字形継手16の接合プレート15がモルタル26から受けるテコ反力により伝達される。この鋼管柱100において、短期荷重に対してボルト接合分のみ考慮して設計した場合には、必要ボルト本数が多くなることから現実的ではない。しかしながら、モルタル26とのテコ反力分を加味した設計を行うことで、現実的なボルト本数で鋼管柱の剛接合を実現することができる。なお、この場合における接合部の設計式は、既知である図7の接合部の設計式を応用することで構築可能である。
【0024】
上記の実施形態において、円形鋼管による鋼管柱を例に取り説明したが、角形鋼管による鋼管柱としてもよく、この場合でも本発明と同一の作用効果を奏することができる。また、継手パネルを構成する鋼板として四分円弧状の鋼板を用いる代わりに、柱軸方向視で略L字状断面の鋼板や平鋼板を用いてもよく、いずれにしても本発明と同一の作用効果を奏することができる。
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、鋼管柱の接合部の外周にエレクションピースのような突出部材を設ける必要がなく構造をスリムにできるので、柱の外周側の空間(内部空間)を圧迫することがない。また、上下節柱と継手パネルはそれぞれボルト接合されると同時に、上下節柱と継手パネルとの間の隙間には硬化材が充填される。このため、鋼管柱の接合部における応力伝達状態を比較的有利な状態とし、比較的少ない現実的なボルト本数で鋼管柱の剛接合を実現することができる。さらに、ボルト接合であることからガス切断を要せずに鋼管柱を容易に解体でき、部材リユースにも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る鋼管柱の一例を示す概略正面断面図である。
【図2】本発明に係る鋼管柱の一例を示す概略平面断面図である。
【図3】本発明に係る鋼管柱の一例を示す分解正面断面図である。
【図4】本発明に係る鋼管柱の一例を示す分解平面断面図である。
【図5】本発明に係る鋼管柱の接合方法による施工手順の一例を示す図である。
【図6】本発明に係る鋼管柱の応力伝達機構を説明する概略正面断面図である。
【図7】従来の鋼管柱の接合ディテールの一例を示す概略斜視図である。
【図8】スリム化した接合ディテールの鋼管柱の一例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
10 上節柱
12 下節柱
14 エンドプレート
16 十字形継手
18 スプライスプレート
20 接合部(継手部)
22 継手パネル
22a 鋼板
24 隙間
26 モルタル(硬化材)
28 リブプレート
30 ボルト
100 鋼管柱
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上節柱と下節柱とを接合して構成される鋼管柱であって、
前記上節柱の下端および前記下節柱の上端にそれぞれ設けられ、前記柱軸方向視で十字形状かつ柱軸方向に延びるプレートからなる十字形継手と、
前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とを上下に突き合わせて形成される継手部の外周を囲うように周方向に配置した複数枚の鋼板で構成され、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをボルト接合する一方で、前記複数枚の鋼板を互いにボルト接合して構成される継手パネルと、
前記継手部と前記継手パネルとの間に充填された硬化材とを備えることを特徴とする鋼管柱。
【請求項2】
前記継手部において、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とはスプライスプレートを介してボルト接合されることを特徴とする請求項1に記載の鋼管柱。
【請求項3】
前記継手パネルは、前記十字形継手の互いに直交したプレート間にそれぞれ配置される鋼板を有し、
前記各鋼板は、前記柱軸方向視で四分円弧状に湾曲し、その周方向両端に設けられたリブプレートを介して前記上節柱および前記下節柱の前記十字形継手のプレートにボルト接合されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋼管柱。
【請求項4】
上節柱と下節柱とを接合して構成される鋼管柱の接合方法であって、
前記上節柱の下端および前記下節柱の上端には、前記柱軸方向視で十字形状かつ柱軸方向に延びるプレートからなる十字形継手がそれぞれ設けられており、
前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とを上下に突き合わせて形成される継手部の外周を囲うように複数枚の鋼板を周方向に配置し、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをボルト接合する一方で、前記複数枚の鋼板を互いにボルト接合することで継手パネルを設ける工程と、
前記継手部と前記継手パネルとの間に硬化材を充填する工程とを備えることを特徴とする鋼管柱の接合方法。
【請求項5】
前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをスプライスプレートを介してボルト接合する工程をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の鋼管柱の接合方法。
【請求項6】
前記継手パネルは、前記柱軸方向視で四分円弧状に湾曲し、その周方向両端にリブプレートを備える鋼板からなり、
前記十字形継手の互いに直交した各プレート間に前記鋼板をそれぞれ配置し、前記リブプレートを前記上節柱および前記下節柱の前記十字形継手のプレートにボルト接合することで前記継手パネルを設けることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の鋼管柱の接合方法。
【請求項1】
上節柱と下節柱とを接合して構成される鋼管柱であって、
前記上節柱の下端および前記下節柱の上端にそれぞれ設けられ、前記柱軸方向視で十字形状かつ柱軸方向に延びるプレートからなる十字形継手と、
前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とを上下に突き合わせて形成される継手部の外周を囲うように周方向に配置した複数枚の鋼板で構成され、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをボルト接合する一方で、前記複数枚の鋼板を互いにボルト接合して構成される継手パネルと、
前記継手部と前記継手パネルとの間に充填された硬化材とを備えることを特徴とする鋼管柱。
【請求項2】
前記継手部において、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とはスプライスプレートを介してボルト接合されることを特徴とする請求項1に記載の鋼管柱。
【請求項3】
前記継手パネルは、前記十字形継手の互いに直交したプレート間にそれぞれ配置される鋼板を有し、
前記各鋼板は、前記柱軸方向視で四分円弧状に湾曲し、その周方向両端に設けられたリブプレートを介して前記上節柱および前記下節柱の前記十字形継手のプレートにボルト接合されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋼管柱。
【請求項4】
上節柱と下節柱とを接合して構成される鋼管柱の接合方法であって、
前記上節柱の下端および前記下節柱の上端には、前記柱軸方向視で十字形状かつ柱軸方向に延びるプレートからなる十字形継手がそれぞれ設けられており、
前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とを上下に突き合わせて形成される継手部の外周を囲うように複数枚の鋼板を周方向に配置し、前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをボルト接合する一方で、前記複数枚の鋼板を互いにボルト接合することで継手パネルを設ける工程と、
前記継手部と前記継手パネルとの間に硬化材を充填する工程とを備えることを特徴とする鋼管柱の接合方法。
【請求項5】
前記下節柱の前記十字形継手と前記上節柱の前記十字形継手とをスプライスプレートを介してボルト接合する工程をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の鋼管柱の接合方法。
【請求項6】
前記継手パネルは、前記柱軸方向視で四分円弧状に湾曲し、その周方向両端にリブプレートを備える鋼板からなり、
前記十字形継手の互いに直交した各プレート間に前記鋼板をそれぞれ配置し、前記リブプレートを前記上節柱および前記下節柱の前記十字形継手のプレートにボルト接合することで前記継手パネルを設けることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の鋼管柱の接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2009−275467(P2009−275467A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130089(P2008−130089)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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