説明

鋼箱桁、鋼箱桁とコンクリート床版の接合部構造、コンクリート床版、桁橋および橋梁

【課題】鋼箱桁とコンクリート床版との接合をずれ止め性能を低下させずに従来よりも低コストに行なうことができる鋼箱桁を提供する。
【解決手段】上フランジ12と、下フランジ16と、前記上フランジ12と前記下フランジ16との間に、所定の間隔を開けて配置されて側面を形成する2つのウェブ14と、前記上フランジ12の上面に該上フランジ12の長手方向に設けられたT形鋼18と、を有してなる鋼箱桁10であって、前記T形鋼18のフランジ18Aには突起18Bが設けられ、かつ、前記上フランジ12の下面には補強リブが設けられていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼箱桁、鋼箱桁とコンクリート床版の接合部構造、コンクリート床版、桁橋および橋梁に関し、詳しくは、鋼箱桁の長手方向の水平せん断力および上揚力に対する鋼箱桁とコンクリート床版とのずれ止め性能に優れ、かつ、鋼箱桁の上フランジの下面への補強リブを省略することができる、鋼箱桁、鋼箱桁とコンクリート床版の接合部構造、該接合部構造を備えたコンクリート床版、桁橋および橋梁に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材とコンクリートの合成構造では、鋼材とコンクリート間に生じる水平せん断力が卓越するため、それに対するずれ止めが重要であり、現状では鋼材とコンクリートのずれ止めとしてスタッドジベルが一般的に用いられている。一方、スタッドジベル以外の鋼材とコンクリートのずれ止め技術も提案されてきており、例えば特許文献1、2では、上部フランジの上面に外面突起を設けたT形鋼を用いることが提案されている。
【0003】
図8は、鋼箱桁とコンクリート床版との接合をスタッドジベルを用いて行った従来例を示す斜視図であり、図9は従来の鋼箱桁の正面図である。鋼箱桁100の上フランジ102の上面には複数のスタッドジベル104が溶接で取り付けられており、鋼箱桁100とコンクリート床版106とのずれを抑制する。また、上フランジ102の下面の幅方向中央部には、上フランジ102を補強する板状の補強リブ102Aが鋼箱桁100の長手方向に溶接で取り付けられている。なお、符号108はウェブ、110は下フランジ、110Aは下フランジ110の補強リブである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−195205号公報
【特許文献2】特開昭62−21910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、鋼箱桁とコンクリート床版との接合がスタッドジベルを用いてなされている従来技術では、鋼箱桁100の上フランジ102の上面に多数のスタッドジベル104が溶接で取り付けられているとともに、鋼箱桁100の上フランジ102の下面にも板状の補強リブ102Aが鋼箱桁100の長手方向に溶接で取り付けられており、溶接箇所が多く、従来技術はコストのかかる構造となっている。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、鋼箱桁とコンクリート床版との接合をずれ止め性能を低下させずに従来よりも低コストに行なうことができる、鋼箱桁、鋼箱桁とコンクリート床版の接合部構造、コンクリート床版、桁橋および橋梁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の鋼箱桁、鋼箱桁とコンクリート床版の接合部構造、コンクリート床版、桁橋および橋梁により、前記課題を解決したものである。
【0008】
即ち、本発明に係る鋼箱桁は、上フランジと、下フランジと、前記上フランジと前記下フランジとの間に、所定の間隔を開けて配置されて側面を形成する2つのウェブと、前記上フランジの上面に該上フランジの長手方向に設けられたT形鋼と、を有してなる鋼箱桁であって、前記T形鋼のフランジには突起が設けられ、かつ、前記上フランジの下面には補強リブが設けられていないことを特徴とする鋼箱桁である。
【0009】
前記T形鋼は、前記鋼箱桁の前記上フランジの幅方向中央部に設けられていることが好ましい。
【0010】
また、前記T形鋼が複数設けられている場合、複数設けられた該T形鋼が前記鋼箱桁の上フランジの幅方向中央を中心として対称に配置されていることが好ましい。
【0011】
前記突起は、前記T形鋼の長手方向と略直交する線状の突起とすることが好ましい。
【0012】
また、前記突起は、前記T形鋼のフランジの上面に設けた外面突起としてもよい。
【0013】
また、前記突起は、前記T形鋼のフランジの下面と前記T形鋼のウェブの側面とに接合したリブ状の内面突起としてもよい。
【0014】
前記T形鋼は、前記鋼箱桁の前記上フランジの上面に溶接で取り付けてもよい。
【0015】
本発明に係る鋼箱桁とコンクリート床版の接合部構造は、前記鋼箱桁の前記上フランジの上面に、前記T形鋼のフランジの上面よりも所定の高さだけ上方までコンクリートが打設されてなることを特徴とする鋼箱桁とコンクリート床版の接合部構造である。
【0016】
本発明に係るコンクリート床版は、前記接合部構造を備えてなることを特徴とするコンクリート床版である。
【0017】
本発明に係る桁橋は、前記接合部構造を備えてなることを特徴とする桁橋である。
【0018】
本発明に係る橋梁は、前記桁橋を備えてなることを特徴とする橋梁である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る鋼箱桁、鋼箱桁とコンクリート床版の接合部構造、コンクリート床版、桁橋および橋梁は、鋼箱桁の上フランジの上面に該上フランジの長手方向に設けられたT形鋼を有し、該T形鋼のフランジには突起が設けられ、かつ、前記上フランジの下面には補強リブが設けられていないので、鋼箱桁の長手方向の水平せん断力に対する鋼箱桁とコンクリート床版とのずれ止め性能に優れている上に、使用する部材の数を従来よりも少なくでき、溶接箇所および使用鋼材量を減少させることができる。また、従来設置していた鋼箱桁の上フランジ下面の補強リブの塗装が不要となり塗装面積も減少させることができる。このため、本発明に係る鋼箱桁を用いることにより、スタッドジベルを用いた従来技術と比べて、同等以上のずれ止め性能をより低コストに実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鋼箱桁を示す斜視図
【図2】同じく正面図
【図3】外面突起付きT形鋼18のフランジ18Aを側方から見た拡大断面図
【図4】本実施形態に係る鋼箱桁10とコンクリート床版54の接合部構造50を模式的に示す斜視図
【図5】本発明の第2実施形態に係る鋼箱桁70を示す正面図
【図6】本発明の第3実施形態に係る鋼箱桁80を示す正面図
【図7】鋼箱桁80に用いられているリブ状内面突起付きT形鋼82を拡大して示す斜視図
【図8】鋼箱桁とコンクリート床版との接合をスタッドジベルを用いて行った従来例を示す斜視図
【図9】従来の鋼箱桁の正面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明の第1実施形態に係る鋼箱桁を示す斜視図であり、図2は同じく正面図である。
【0023】
この鋼箱桁10は、上フランジ12と、所定の間隔を開けて配置されて両側面を形成する2つのウェブ14と、下フランジ16と、外面突起付きT形鋼18と、を有してなり、上フランジ12の上面に、外面突起付きT形鋼18が上フランジ12の幅方向中央部に鋼箱桁10の長手方向に取り付けられて形成されている。外面突起付きT形鋼18の数は1つである。また、下フランジ16の上面には補強リブ16Aが設けられているが、上フランジ12の下面には補強リブは設けられていない。
【0024】
外面突起付きT形鋼18は、本実施形態では上フランジ12の上面に溶接により取り付けられているが、工場溶接、現場溶接のどちらでもよく、また、工場溶接、現場溶接を併用してもよい。また、取り付け方法は溶接に限定されず、例えばアングル鋼材等の接合部材を介してボルトで接合してもよい。
【0025】
本実施形態では、外面突起付きT形鋼18が、上フランジ12の上面に、上フランジ12の幅方向中央部に、鋼箱桁10の長手方向に取り付けられているので、外面突起付きT形鋼18による補強効果により上フランジ12の座屈が防止されている。このため、本実施形態では、上フランジ12の下面に補強リブは設けられておらず、従来設置していた鋼箱桁の上フランジ下面の補強リブの塗装が不要となり塗装面積を減少させることができる。一方、図8に示す従来技術では、上フランジ102の下面に補強リブ102Aが設けられている。
【0026】
なお、外面突起付きT形鋼18の上フランジ12の上面への取り付け位置を、上フランジ12の幅方向中央部としている理由は、上フランジ12の座屈を全面にわたって効率的に防止するためである。
【0027】
また、外面突起付きT形鋼18はフランジ18Aを有しており、従来技術の補強リブ102Aよりも補強効果が高いので、本実施形態では上フランジ12の厚さを従来技術の上フランジ102よりも薄くすることができる。
【0028】
図3は、外面突起付きT形鋼18のフランジ18Aを側方から見た拡大断面図である。フランジ18Aの上面には、外面突起付きT形鋼18の長手方向と直交する方向に線状の外面突起18Bが所定の間隔で設けられている。外面突起18Bの外面突起付きT形鋼18の長手方向鉛直面による断面形状は特に限定されず、例えば矩形状でも台形状でも半円形状でもよい。
【0029】
図4は、本実施形態に係る鋼箱桁10とコンクリート床版54の接合部構造50を模式的に示す斜視図である。外面突起付きT形鋼18は実際にはコンクリート床版54の内部に含まれているが、図示をわかりやすくするためコンクリート床版54の内部に含まれている部分も含めて全て実線で描いている。
【0030】
接合部構造50は、外面突起付きT形鋼18のフランジ18Aの上面から所定の高さだけ上方まで、鋼箱桁10の上フランジ12の上面にコンクリート52を打設してコンクリート床版54を形成してなる構造である。
【0031】
外面突起付きT形鋼18のフランジ18A上面に設けられた線状の外面突起18Bは、外面突起付きT形鋼18の長手方向(橋軸方向)と直交する方向に配置されている。このため、フランジ18A上面に設けられた線状の外面突起18Bは、コンクリート52との付着・支圧・摩擦により橋軸方向の水平せん断力に対する強力な抵抗となり、外面突起付きT形鋼18は橋軸方向の水平せん断力に対してスタッドジベル104(図8参照)と同等以上のずれ止め性能を発揮する。また、外面突起付きT形鋼18は、上揚力に対してもフランジ18Aの下面とコンクリート52との支圧で抵抗することができ、この点でもずれ止め性能を発揮する。
【0032】
このため、本実施形態に係る鋼箱桁10を用いることにより、鋼箱桁とコンクリート床版との接合部にずれ止め防止用のスタッドジベルを設ける必要はなくなる。
【0033】
また、前述したように、外面突起付きT形鋼18による補強効果により、本実施形態に係る鋼箱桁10では、上フランジ12の下面に従来用いられてきた補強リブが用いられておらず、さらに、従来技術と比べて上フランジ12の厚さも小さくすることができる。したがって、本実施形態に係る鋼箱桁10を用いることにより、使用する部材の数を従来よりも少なくできる上に、溶接箇所、使用鋼材量および塗装面積を減少させることができる。
【0034】
したがって、本実施形態に係る鋼箱桁10を用いることにより、(スタッドジベル104を用いた)従来技術と比べて同等以上のずれ止め性能をより安価に実現することができる。
【0035】
なお、図4において、鋼箱桁10とコンクリート床版54の接合部のみに着目せず、図4に示す構造を上部工全体と捉えれば、図4は、鋼箱桁10とコンクリート床版54とからなる桁橋60を示していることとなる。この桁橋60を用いて、下部工も含めた橋梁を構成することができる。
【0036】
図5は本発明の第2実施形態に係る鋼箱桁70を示す正面図である。第1実施形態と同一の構成については同一の番号を付し、説明は省略する。
【0037】
第1実施形態では、用いる外面突起付きT形鋼18の数は1つであったが、第2実施形態では、用いる外面突起付きT形鋼18の数は例えば3つである。
【0038】
3つの外面突起付きT形鋼18は、上フランジ12の幅方向中央を中心として対象に配置されており、橋軸方向の曲げモーメントを受けた際に鋼箱桁70の上フランジ12の座屈を全面にわたって効率的に防止することができる。
【0039】
図6は本発明の第3実施形態に係る鋼箱桁80を示す正面図であり、図7は鋼箱桁80に用いられているリブ状内面突起付きT形鋼82を拡大して示す斜視図である。第1実施形態と同一の構成については同一の番号を付し、説明は省略する。
【0040】
第1実施形態の外面突起付きT形鋼18では、フランジ18Aの上面に外面突起18Bが設けられていたが、第3実施形態のリブ状内面突起付きT形鋼82では、外面突起18Bに替えて、フランジ82Aの下面とウェブ82Bの側面とに接合した三角形状のリブ状内面突起82Cが所定の間隔で設けられている。
【0041】
第3実施形態では、リブ状内面突起82Cがコンクリート52との付着・支圧・摩擦により橋軸方向の水平せん断力に対する抵抗となり、ずれ止め性能を発揮する。
【符号の説明】
【0042】
10、70、80…鋼箱桁
12…上フランジ
14…ウェブ
16…下フランジ
18…外面突起付きT形鋼
18A…フランジ
18B…外面突起
50…接合部構造
52…コンクリート
54…コンクリート床版
60…桁橋
82…リブ状内面突起付きT形鋼
82A…フランジ
82C…リブ状内面突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上フランジと、
下フランジと、
前記上フランジと前記下フランジとの間に、所定の間隔を開けて配置されて側面を形成する2つのウェブと、
前記上フランジの上面に該上フランジの長手方向に設けられたT形鋼と、
を有してなる鋼箱桁であって、
前記T形鋼のフランジには突起が設けられ、かつ、前記上フランジの下面には補強リブが設けられていないことを特徴とする鋼箱桁。
【請求項2】
前記T形鋼が前記鋼箱桁の前記上フランジの幅方向中央部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鋼箱桁。
【請求項3】
前記T形鋼が複数設けられ、複数設けられた該T形鋼が前記鋼箱桁の上フランジの幅方向中央を中心として対称に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼箱桁。
【請求項4】
前記突起は、前記T形鋼の長手方向と略直交する線状の突起であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼箱桁。
【請求項5】
前記突起は、前記T形鋼のフランジの上面に設けられた外面突起であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼箱桁。
【請求項6】
前記突起は、前記T形鋼のフランジの下面と前記T形鋼のウェブの側面とに接合したリブ状の内面突起であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼箱桁。
【請求項7】
前記T形鋼は、前記鋼箱桁の前記上フランジの上面に溶接で取り付けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の鋼箱桁。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の鋼箱桁の前記上フランジの上面に、前記T形鋼のフランジの上面よりも所定の高さだけ上方までコンクリートが打設されてなることを特徴とする鋼箱桁とコンクリート床版の接合部構造。
【請求項9】
請求項8に記載の接合部構造を備えてなることを特徴とするコンクリート床版。
【請求項10】
請求項9に記載の接合部構造を備えてなることを特徴とする桁橋。
【請求項11】
請求項10に記載の桁橋を備えてなることを特徴とする橋梁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−179261(P2011−179261A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45827(P2010−45827)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】