説明

鋼製又は合成セグメント連結部の補強構造

【課題】 セグメントまたはリング間をボルトまたは楔形状継手で連結する構造の鉄系セグメント構造において、継手部に作用する引張りまたは曲げ荷重に対して継手板、主桁が面外変形することを抑制し、継手板、主桁が均等に荷重に抵抗する鋼製又は合成セグメントの継手板・主桁連結部の補強構造を提供する。
【解決手段】継手板間または主桁間を連結する連結用部材を覆うように、継手板または主桁の鋼殻内部側に長手方向に渡って、断面がC型形状の補強部材が取り付けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネル内に覆工体として用いられる鋼製又は合成セグメント構造に関するもので、特にセグメント同士を連結する際の連結部の補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネルの鋼製セグメントや合成セグメントにおいて、トンネル周方向に隣り合う継手板間(セグメント継手間)、あるいはトンネル軸方向に隣り合う主桁間(リング継手間)が連結部材(例えば、ボルトとナットや、楔状の部材)で連結されたセグメント相互の連結構造であるとき、継手板間や主桁間(総じて継手間とも言う)に引張りまたは曲げ荷重が作用すると、連結部材に引張り荷重が集中するため、連結部材を固定している継手板または主桁が面外変形を起こし、継手部の耐力が低下することがある。特に、てこ反力が発生したときは、特定の位置の連結部材へ過大な引張り荷重が作用し、連結部材全体が均等に荷重に対して抵抗しないなどの問題がある。
【0003】
そこで、継手板、主桁の面外変形を抑制する方法として、これまで様々な構造が提案されている。例えば、継手板の裏に複数のリブを取り付けて継手板、主桁を補強する構造として、特許文献1には、ボルト継手の直背後の継手板内面側に補強板を複数枚固定する方法が開示され、また、特許文献2には、継手板に平行に連続する複数の横リブとトンネル軸と直角方向に連続する複数の縦リブを有する継手板を鋳造にて形成する構造が示されている。これらの方法によると、継手板の裏に複数のリブが取り付けられているため、曲げ剛性が極めて高くなる効果がある。また、継手板を高強度化する方法として、主桁板及び継手板の内面側に補強板を重ね合わせ擬似的に板厚を増す方法や、特許文献3には、H形鋼を用いる工法も提案さいる。
【0004】
また、継手板を補強する方法として、特許文献4には、主桁と継手板が接続する付近を強化することを目的に、主桁端部の継手板と接する箇所にL字またはT字状の部材を取り付ける方法が知られており、また剛性の大きい厚板状のエンドプレートを取り付ける方法も提案されている。
【0005】
他にもセグメント継手位置の補強方法の一例として、RCセグメントにおいては、繊維補強コンクリートからなる端部補強材が提案されている。

【特許文献1】特開2000−204893号公報
【特許文献2】特開2000−154697号公報
【特許文献3】特開平10−339099号公報
【特許文献4】特開2001−3697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の技術の中で、ボルト若しくは楔状部材、または継手間連結部付近のみを補強材で溶接して取り付ける場合、継手板または主桁における取り付け箇所が、局所的に溶接により変形してしまうことから、継手板または主桁の端面の平坦性を確保することが困難となり、また供用時(実際に組み立てられた後の使用時のこと)、セグメントがトンネル覆工体として組み込まれたときに継手部に引張りまたは曲げ荷重が作用すると、ボルトまたは楔状部材周辺に局所的に過大な荷重が作用し継手板または主桁が不均一に変形し、継手間に隙間を生じて、止水性が悪化する問題が生じることがあった。
【0007】
また、鋳造にて一体成型する場合、複雑なリブ形状が多数存在するため、鋳型形状が複雑となり鋳造コストが高くなる傾向があった。また、鋳造にて製作された継手板と主桁とを溶接にて連結する場合、溶接内部に空洞が形成されるなど溶接欠陥が出易いなどの問題があり、更に鋳造品の伸び性能が期待できないこともあり、特に軟弱地盤などで耐震上問題となるときは、構造欠陥となることが懸念された。
【0008】
H形鋼でセグメント間継手を繋いだ場合、H形鋼ウェブとの取り合いの関係上、ボルト締結位置をセグメント高さの中心からずらす必要があり、内圧、外圧両方に対応するためには、セグメント高さ方向で上下2段の締結が必要になるなど不経済、且つ施工時に手間が増えるものであった。
【0009】
本発明は前記の問題を解決し、連結部の変形を防止し、止水性の悪化を防止し、複雑な加工が不要で、コストを低減した、鋼製セグメント又は合成セグメント連結部の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために本発明は、次のように構成する。
第1の発明は、主桁、継手板、及びスキンプレートを有する鋼殻からなる鋼製セグメント、又は該鋼殻に中詰めコンクリートを充填してなる合成セグメントの連結部の補強構造であって、継手板間または主桁間を連結する連結用部材を覆うように、継手板または主桁の鋼殻内部側に長手方向に渡って、断面がC型形状(コの字形状等を含む)の補強部材が取り付けられていることを特徴とする。
【0011】
断面がC型形状の補強部材(以下、C型形状の補強部材とも呼称する)の長さは継手板または主桁の長手方向全長に渡っていればその補強効果を得る上でより効果的である。C型形状の補強部材の剛性により、継手板または主桁の面外変形を抑制することができる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、C型形状の補強部材における長手方向の両端部が、C型形状の補強部材が取り付けられている継手板の両側に配置されている主桁、またはC型形状の補強部材が取り付けられている主桁の両側に配置されている継手板に、取り付けられていることを特徴とする
【0013】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、C型形状の補強部材が溝形鋼であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る鋼製セグメント又は合成セグメント連結部の補強構造によると、継手板または主桁全体が均等に荷重を分担することになり、局所的な面外変形を防止し継手面の平坦性が保たれ止水性が確保される。また面外変形が抑制されることから継手部の引張りまたは曲げ荷重に対して高い耐力が確保でき、てこ反力の発生も防ぐことができることからボルトまたは楔状部材への過大な荷重負担の発生を防ぐことができる。
【0015】
また、C型形状の補強部材として溝形鋼を用いることで、これまで複雑に板材を溶接にて継手板、主桁に取り付けていたときと比べ、製作コストを大幅に低減できる。
C型形状の補強部材は継手板、主桁の変形防止のための補強としての役割だけでなく、その長手方向の端部を、直交する主桁、または継手板と連結することで、シールドマシーンのジャッキより受ける荷重を当該補強部材にも負担させることができ、セグメント全体としての耐力が上昇する。同様に、トンネル周方向の軸力に対しても、C型形状の補強部材による抵抗材としての機能が加わるため周方向抵抗力を増すことができる。
【0016】
特に、合成セグメントにおいては、連結部材として楔状部材を用いた場合の継手板または主桁への締結部をC型形状の補強部材により完全に覆うことにより、中詰めコンクリートを打設するときに楔状部材へコンクリートが流入してしまうのを防ぐとともに、逆に楔状継手内部に水が混入した場合でも、セグメント本体への漏水を防ぐなど、従来用いられている継手ボックスとしての役割をC型形状の補強部材が担うことができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の鋼製セグメント又は合成セグメントの連結部の補強構造について図を参照して説明する。
【0018】
図1、図2に、継手板間の連結部を補強したときの補強構造の1例を斜視図、及び断面図として示す。断面矩形のトンネル用のセグメントに適用してもよいし、断面円形や楕円形のトンネル用の主桁または継手板に曲率を有するセグメントにも、もちろん適用可能である。
【0019】
本発明のセグメント連結部の補強構造に係る、鋼製又は合成セグメントにおいては、主桁1、継手板2、スキンプレート3を有し、継手板2間または主桁1間を連結する連結用部材(ボルト6・ナット7や、楔状継手等)を覆うように、継手板2または主桁1の鋼殻内部側に長手方向に渡って、断面がC型形状の補強部材5が取り付けられている。この取り付け方は、取り付け強度の確保や、施工の容易性等から溶接が好ましい。セグメントの設置場所が軟弱地盤ではなく耐震上問題無いケース等、場合によっては、継手板2または主桁1と、断面がC型形状の補強部材5とを、鋳造等で一体成型して製造しても構わない。
【0020】
尚、セグメントの取り付け施工時には、シールドマシンでセグメントを強く把持することから、セグメントには、補強用の縦リブ(主桁1の間を橋渡し、継手板2に略平行に複数設置するセグメントの補強部材、図示せず)を設けておくことが好ましい。
【0021】
また、図では断面がC型形状(コの字形状とも言う)の補強部材5について溝形鋼を例として示しているが、ビルトアップにて組み立てた断面がC型形状の補強部材や一部C型の形状を含むH形鋼またはビルトアップにて組み立てた断面がH型形状の補強部材であっても構わない。
【0022】
隣接するセグメントの継手板2(セグメント継手)同士を、連結部材としてボルト6及びナット7を用いて連結するケースでは、片側のセグメント13における継手板2に長手方向所定の間隔で設けられているボルト挿通用穴4の部分にナット7を溶接し、そのナット7を覆うように長手方向(主桁間方向)に断面C型形状の補強部材5を溶接して取り付ける。その際、補強部材5の上下2箇所のフランジ9(図3参照)を継手版2に溶接する。尚、ナット7を溶接する代わりに、ボルト挿通用穴4に直接タップでねじ切りして雌ねじ穴を設けても構わない。(図示せず。)
【0023】
もう一方の側のセグメント13における継手板2においては、断面C型形状の補強部材5をボルト6が取り付けられるボルト挿通用穴4を覆うように断面C型形状の補強部材5のフランジ端部上下2箇所を継手板2に溶接(例えば、連続した溶接)する。片側のフランジ9側面またはウェブ11にはボルト挿通用穴4の位置にボルト締結作業用の切り欠き孔12をボルト締結作業に必要な面積分だけ一部開けておく。図1では切り欠き孔12を補強部材5のウエブ10側(図3参照)に開けているが、フランジ9側に開けても構わない。以上は予め工場にて製作加工しておくと現場施工が容易になり好ましい。トンネル施工現場においては、両セグメントの継手板同士をつき合わせて、ボルト締結用の孔からボルトを差し込んでナットに締結する。
【0024】
尚、合成セグメント、鋼製セグメントではC型形状の補強部材の基本的な継手板への取り付け方法は同じであるが、合成セグメントの場合、ボルト締結作業用の切り欠き孔12を設けた場合、中詰コンクリート打設時に継手部へコンクリート8が流れ込まないよう薄板等で溶接または接着材により蓋をすればよい。
特に止水性の要求が厳しい場合は、ボルト締結用の孔はその後蓋を溶接して塞いでおくと良い。
【0025】
断面がC型形状の補強部材5の長手方向の両端部は引張りまたは曲げ耐力に対して継手板2が均等に抵抗するように、継手板2と直交する主桁1と接するようにするとより効果的である(図4参照)。断面がC型形状の補強部材5を主桁に接触させない場合、断面がC型形状の補強部材5の端部11(図3参照)は薄板等を溶接または接着材等で固着し蓋14をして、セグメント製作時にコンクリートが継手部に流入するのを防げばよい(図5参照、2点鎖線で示す蓋14参照)。
【0026】
このとき、この断面がC型形状の補強部材5の両端部と主桁1との接続方法は、コンクリート8を打設したとき、継手部へのコンクリート8の流入を防ぐ目的から、溶接にて連結するか、またはシリコンなどのポリマーを用いて隙間を充填すればよい。また特に、断面がC型形状の補強部材5にセグメントの縦リブとしての機能も期待するときは、溶接にて主桁1と連結すれば効果的である。断面がC型形状の補強部材5として、板材をビルトアップするよりも、溝形鋼を用いることで継手部の補強コストを低減できる。
【0027】
なお、図示を省略するが、断面がC型形状の補強部材5を継手板2、主桁1の両方に設置する場合は、シールドマシーンのジャッキよる受ける荷重に対して断面C型形状の補強部材5を縦リブの抵抗部材の一部として活用するため、また、セグメント13に土水圧が作用した際継手板が変形したわむのを防ぐ目的から、継手板に取り付けるC型形状部材の両端部を主桁まで延長して接続し、主桁に取り付けるC型形状部材は継手板に取り付けたC型形状部材と干渉しない範囲で取り付けることが望ましい。しかし、セグメント13に作用する土水圧の条件により、リング間継手に作用するせん断力が大きく、主桁1の変形を防ぐ方が設計上重要と成る場合は、主桁に取り付ける断面C型形状の補強部材5を両サイドの継手板2まで延長し、継手板2に取り付ける断面C型形状の補強部材5は、主桁1に取り付けた断面C型形状の他の補強部材5と干渉しない範囲で取り付ける方法とすることが望ましい。
【0028】
縦リブを有するセグメントの主桁に、C型形状の補強部材5を取り付ける場合は、縦リブの高さ(トンネルの半径方向の寸法)を低くし、且つ主桁1の連結用部材を避けるように、縦リブをスキンプレート側又はその反対側に寄せて設置し、C型形状の補強部材5の設置の際に縦リブと干渉しないようにすることで取り付けることができる。または、主桁1にC型形状の補強部材5を取り付けた後、その補強部材5のウエブ背面に縦リブを溶接にて取り付けることも可能である。更には、主桁1間を橋渡しするように固定される個々の縦リブ間に、C型形状の補強部材を主桁1に沿って設置することも可能である。
【0029】
また、連結部材として楔継手を用いた場合は、継手締結時のボルト締め作業等がなく継手板の補強部材側からの締結作業が不要となるため、補強部材に作業用切り欠き孔を設ける必要はなく、加工手間が減り作業性が向上する。更に開口がないため、止水性が高められる。
【0030】
実際、楔形継手を用いたセグメント継手の曲げ試験を実施し継手部の変形状態を調査した結果、継手の目開き量は、断面C型形状の補強部材5の補強がない場合は、楔形継手の伸び変形と継手板の面外方向の変形の合計分から成ることが確認され、継手板の面外変形を抑えることで継手全体の目開き量が減り止水性を確保できることが確認された。
【0031】
また、リング間において、ピン・ボルトなどで締結し締結部にせん断力が発生すると、その部分に局所的な応力が発生しピンやボルトを支える主桁が面外変形を起こし、リング間継手の剛性・耐力が低下してしまうことがあるが、C型形状の補強部材5を主桁長手方向に取り付けることで、補強部材5の剛性により主桁1に均等に荷重を配分し局所的な応力増大を防ぎ主桁1の面外方向の変形を抑制することが出来るため、せん断耐力が向上する。
【0032】
(実施例および比較例)
本発明のセグメント連結部の補強構造を有する合成セグメントを外径5.9mのトンネルに適用した場合、比較例として、特許文献2のように継手板とその補強構造を全て鋳造にて製作した場合にくらべ、加工コストが1/4程度まで下がった。また、比較例として、特許文献1のように締結部の周辺のみを補強板を組み合わせて溶接した場合では、溶接時の熱影響による継手板の局部的な面外変形が生じてしまい製作許容誤差の±1.5mmを超えてしまい、所定の継手板の平坦度を確保するための補修に多大な労力を要したが、本発明の補強構造とすることで、溶接時の継手板の局所的な変形がなくなり補修作業が不要となった。また、本発明の補強構造とすることで、継手締結後、継手部に曲げが発生した際も、継手板の面外方向への変形が殆ど発生せず、締結部に作用するてこ反力がなくなり、継手部全体としての剛性・耐力が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る、継手板側の連結部を補強したときの補強構造を示す鋼製または合成セグメント単体の斜視図である。
【図2】図1の継手板をボルトにて連結した時の断面図である。
【図3】断面がC型形状の補強部材の斜視図である。
【図4】断面がC型形状の補強部材の両端部が主桁に接する場合の断面図である。
【図5】補強部材の両端部が主桁に接しない場合の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 主桁
2 継手板
3 スキンプレート
4 ボルト挿通用穴
5 断面がC型形状の補強部材(溝形鋼)
6 ボルト
7 ナット
8 コンクリート
9 フランジ
10 ウェブ
11 C型形状の補強部材の端部
12 ボルト締結作業用切り欠き孔
13 セグメント
14 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主桁、継手板、及びスキンプレートを有する鋼殻からなる鋼製セグメント、又は該鋼殻に中詰めコンクリートを充填してなる合成セグメントの連結部の補強構造であって、継手板間または主桁間を連結する連結用部材を覆うように、継手板または主桁の鋼殻内部側に長手方向に渡って、断面がC型形状の補強部材が取り付けられていることを特徴とする鋼製又は合成セグメント連結部の補強構造。
【請求項2】
前記補強部材の長手方向の両端部が、補強部材が取り付けられている継手板の両側に配置されている主桁、または補強部材が取り付けられている主桁の両側に配置されている継手板に、取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の鋼製又は合成セグメント連結部の補強構造。
【請求項3】
前記補強部材が、溝形鋼であることを特徴とする請求項1または2記載の鋼製又は合成セグメント連結部の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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