説明

鋼鋳片の連続鋳造方法

【課題】アルミナやスラグなどの内部介在物が極めて少ない高品質な鋳片を、複雑な溶鋼流動制御を伴うことなく安定して製造することのできる鋼鋳片の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】鋳型の長辺の両短辺側に直流磁場印加装置を配置して静磁場を印加する一方、該鋳型の長辺中央部については、少なくとも200mmの幅の静磁場を印加しない非磁場印加領域を設け、かつ鋳型下端から鋳造方向500mmまでの間に交流移動磁場装置を配置して溶鋼に対し交流移動磁場を印加して、流動速度が5〜30cm/sの溶鋼の上昇流を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼鋳片の連続鋳造方法に関し、2孔ノズルを用いた垂直曲げ型連続鋳造に際し、鋼鋳片の中心部における内部介在物の有利な低減を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
2孔ノズルを用いた垂直曲げ型連続鋳造において、タンディッシュから鋳型内に溶鋼を供給する際に、溶鋼と共にアルミナやスラグといった非金属介在物が流入する。通常、これら非金属介在物は鋳型内で浮上させて分離する。しかし、非金属介在物が2孔ノズルからの吐出流に帯同してストランド部の深くまで潜り込んだ場合、非金属介在物を鋳型内で浮上させて分離することは、極めて困難となる。
このように、ストランド部の深くまで潜り込んだ非金属介在物は、内部介在物となって鋳片に残留し、鋳片をブリキや自動車材等に加工する際には、プレス割れの起源となる。そのため、鋳片中の内部介在物は極力低減する必要がある。
【0003】
従来、2孔ノズルを用いた垂直曲げ型連続鋳造機には、上記したような非金属介在物の浮上分離を促進するために、垂直部が設置されている。この垂直部の浮上分離作用は、粗大な非金属介在物の浮上分離に対しては、一定の効果があるものの、微小な非金属介在物(約300μm以下)を浮上分離させることは難しかった。しかしながら、この程度の微小な内部介在物であっても、プレス割れの起源となるおそれがあるために、低減することが望まれていた。
【0004】
上記した問題に対し、鋳型下のストランド部に静磁場等を印加することで、浸漬ノズルからの吐出溶鋼流の速度を意図的に低下させて、介在物のストランド部への潜り込み量を低減させる方法が多数提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、静磁場の電磁装置によって吐出流の速度を低下させることは、吐出流により生じる反転流の速度も併せて低下させてしまう。そのため、反転流による非金属介在物の浮上効果が減少してしまい、内部介在物の低減効果が相殺されてしまうため、効果的な解決策とは言えなかった。
【0005】
また、鋳型下のストランド部に電磁撹拌装置を設置し、水平方向への撹拌や鋳造方向上向きに撹拌することで、下方流速を低減し、浸漬ノズルからの噴流の最大浸漬深さを低減させ、内部介在物の潜り込みを防止する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、上記した方法は、一定以上の大きさの内部介在物に低減効果はあったものの、上記した微小な内部介在物の低減を考えると、未だ問題が残っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−150450号公報
【特許文献2】特開昭57−97849号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】鉄と鋼(61(1975)p.69)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ブリキや自動車用鋼板などを製造するための鋳片において、内部介在物の低減が切望されているにも関わらず、前述したとおり、従来の技術では微小な内部介在物を低減することは困難であり、製品となった薄板の内部には、微小な不純物の介在物が残留することを防ぐことができなかった。
そのために、鋳片の製品検査工程で、超音波探傷装置等の内部介在物センサにより相当量の不純物が検出された場合、当該鋳片は廃棄処分にせざるを得なかった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、アルミナやスラグなどの非金属介在物について、粗大な内部介在物はいうまでもなく、微小な内部介在物も極めて少ない高品質な鋳片を、安定して得ることのできる鋼鋳片の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記した問題を解決すべく、鋭意、研究および検討を行った。その結果、微小な内部介在物も少ない高品質な鋳片を鋳造するには、鋳型内での静磁場による電磁ブレーキと溶鋼流動とを併用することが有効であることが分かった。すなわち、電磁ブレーキにより2孔ノズルから吐出した溶鋼流が鋳型短辺に衝突して形成される下降流を減速させつつも、鋳型直下の溶鋼を上向きに流動させることによって、吐出流により形成された反転流の流速を確保する方法である。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.垂直曲げ型連続鋳造機において2孔ノズルを用いて連続鋳造を行うに当たり、鋳型の長辺の両短辺側に直流磁場印加装置を配置して静磁場を印加する一方、該鋳型の長辺中央部については、少なくとも200mmの幅の静磁場を印加しない非磁場印加領域を設け、かつ鋳型下端から鋳造方向500mmまでの間に交流移動磁場装置を配置して溶鋼に対し交流移動磁場を印加して、流動速度が5〜30cm/sの溶鋼の上昇流を生じさせることを特徴とする、鋼鋳片の連続鋳造方法。
【0013】
2.前記鋳型の幅:W(mm)と、前記非磁場印加領域の幅:L(mm)とが、次式(1)の関係を満足することを特徴とする、前記1に記載の鋼鋳片の連続鋳造方法。

W/5≦L≦W/2・・・(1)
【0014】
3.前記2孔ノズルの外径をN(mm)、前記直流磁場印加装置の幅をL(mm)、前記2孔ノズルの孔中央から前記直流磁場印加装置の上端までの距離をL(mm)、および、2孔ノズルの吐出孔角度をα(°)とするとき、これらについて次式(2)の関係を満足することを特徴とする、前記1または2に記載の鋼鋳片の連続鋳造方法。

(W−N)/2−L/tanα≦L/2・・・(2)
【発明の効果】
【0015】
本発明に従い、鋳型の長辺の両短辺側に静磁場を印加する一方、鋳型の長辺中央部に静磁場を印加しない領域を設け、さらに、ストランドの垂直部における溶鋼に上昇流を付与することにより、溶鋼中の微小な内部介在物を効果的に低減して、内部介在物の極めて少ない高品質な鋳片を安定して鋳造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に用いる垂直曲げ型連続鋳造機の鋳型部分を示した図である。
【図2】従来の一般的な鋳型内とストランド垂直部における溶鋼の流動状態を模式的に示した図である。
【図3】鋳型内で静磁場を吐出溶鋼に対して印加した場合の、鋳型内とストランド垂直部における溶鋼の流動状態を模式的に示した図である。
【図4】鋳型内で静磁場を吐出溶鋼に対して印加し、鋳型直下で水平方向の旋回流を印加した場合の、鋳型内とストランド垂直部における溶鋼の流動状態を模式的に示した図である。
【図5】鋳型内で長辺の短辺側のみに静磁場を吐出溶鋼に対して印加し、さらに、鋳型直下で上昇流を付与した場合の、鋳型内とストランド垂直部における溶鋼の流動状態を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。
一般に、鋳型内に注入される溶鋼中には、脱酸時の生成物であるアルミナやスラグ、さらにはタンディッシュの耐火物が溶損して生成した非金属介在物などが混入している。
これら非金属介在物が混入した溶鋼が鋳型内に注入されると、ストランド内部に潜り込んで凝固シェルに捕捉された場合は、鋼鋳片の内部介在物となり、前記したとおり、ブリキや自動車材等の薄板製品として使用できなくなる。
【0018】
そこで、発明者らは、非金属介在物のストランド内部への潜り込み現象を詳細に調査し、溶鋼の流動状態と非金属介在物のストランド内部への潜り込み現象との関係について研究を重ねた。
その結果、以下に述べる方法によって、非金属介在物のストランド内部への潜り込み、特に、50〜200μm程度の微小な非金属介在物の潜り込みを大幅に減少させることに成功し、本発明を完成させるに到った。
【0019】
すなわち、本発明は、垂直曲げ型連続鋳造機を用いて鋼鋳片の連続鋳造を行うに当たり、鋳型の長辺の両短辺側に、直流磁場印加装置を用いて静磁場を印加する一方、鋳型の長辺中央部については、少なくとも200mm幅の静磁場を印加しない非磁場印加領域を設ける。
さらに、交流移動磁場装置を、その中心が鋳型下端から鋳造方向500mmまでの間に位置するように配置して、溶鋼に対し交流移動磁場を印加することで、溶鋼に長辺中央部付近に上向きの流動を生じさせ、その際の流動速度を5〜30cm/sとする方法である。
【0020】
図1に、本発明に用いる垂直曲げ型連続鋳造機の鋳型部分を概念的に示す。図中、1は鋳型、2は2孔ノズル、3は鋳型下端であり、鋳型の幅をWで、2孔ノズルの外径をNで、非磁場印加領域の幅をLで、直流磁場印加装置の幅をLで、2孔ノズルの孔中央から直流磁場印加装置の上側までの距離をLで示す。また、2孔ノズルの吐出孔角度はαで示す。なお、図中の矢印は、鋳造方向を示している。
【0021】
図2に、従来の一般的な、鋳型内とストランド垂直部における溶鋼の流動状態を模式的に示す。同図に示したように、電磁撹拌による溶鋼流動を伴わない場合でも、鋳型内に注がれた溶鋼中の非金属介在物はすべて内部介在物になるわけではない。粗大な非金属介在物であれば、自身の浮力で浮上し、微小な介在物でも、その一部は、図2に示したような、2孔ノズルの吐出孔からの反転流に帯同されて上昇し、浮上分離することができる。
これは、吐出孔からの反転流の速度を増加させることによって、鋳型内に注がれた非金属介在物の浮上は促進することができるということを意味している。
【0022】
また、図2に示した2孔ノズルからの吐出流が、鋳型の短辺に衝突した後に形成する下降流に、直流磁場印加装置を用いた静磁場(電磁ブレーキ)を印加すると、溶鋼の下降流速が減速して、溶鋼への内部介在物の潜り込み量が低減する。一方で、電磁ブレーキにより下降流を減速させた場合、図3に示すように反転流の流速は減速し、特に、反転流が電磁ブレーキの下から上へと通過した場合、さらに反転流の流速は減速してしまい、反転流による内部介在物の低減効果は失われる。
【0023】
さらに、発明者らは、内部介在物を模擬したトレーサーを使用して水モデル実験を行った。しかしながら、電磁ブレーキと、鋳型直下での流動とを併用して印加しても、図4に示すように反転流は電磁ブレーキにより相殺され、流動がない電磁ブレーキのみの場合と比べても内部介在物の量が減ることはなく、図4の場合では流動による内部介在物の低減効果が認められないことが明らかになった。
すなわち、内部介在物のさらなる低減には、電磁ブレーキと電磁撹拌による溶鋼流動のそれぞれの効果を両立させる条件を見出す必要があるということである。
【0024】
そこで、発明者らは、さらに様々な条件で水モデル実験を行い、鋳型内の電磁ブレーキと鋳型直下の電磁撹拌による溶鋼流動の効果が両立できる条件を調査した。その結果、鋳型の長辺側中央部に、少なくとも200mmの幅の静磁場を印加しない非磁場印加領域を設けて、かつ鋳型下端から鋳造方向500mmまでの間に、上向きに5〜30cm/sの流速の流動を生じさせることによって、水の反転流の速度を効率的に増加することができ、もって、非金属介在物の潜り込みを大幅に低減できる可能性が明らかとなった。なお、本発明で、水の流動速度は流速計を用いて測定した。
【0025】
すなわち、図5に示すように、鋳型の長辺中央部では、電磁ブレーキを印加しないことにより、溶鋼の反転流が減速することなく、2孔ノズルおよびメニスカス部まで達し、その結果、内部介在物が大幅に低減できる効果が達成されるのである。
【0026】
上記した構成をさらに具体的に説明する。
上向きに5〜30cm/sの流速の流動を生じさせる
様々な流動速度で実験を行った結果、5cm/s以上の流動速度で内部介在物が大幅に低減した。一方、流動速度が30cm/s超になると、溶鋼の湯面変動が顕著となり、パウダーの巻き込み現象が生じ、鋼鋳片の表面品質に影響を及ぼした。そこで、本発明における流動速度は5〜30cm/sとした。
なお、本発明における上向き(上昇)とは、連続鋳造機中では鋳造方向と逆向きの方向である。また、反転流の増速効果を高めるために、その流動位置は長辺中央部の非磁場印加領域の直下に、幅:100〜300mm、長さ:200〜800mmの範囲で発生させることが望ましい。
【0027】
交流移動磁場装置の設置位置は、鋳型下端から鋳造方向に500mmまでの間
交流移動磁場装置を鋳型内に設置して溶鋼を上向きに流動させると、反転流の一部のみが過度に増速してしまい、内部介在物の低減効果が小さくなってしまう。
一方、交流移動磁場装置を鋳型下端の500mmの位置より下方に設置した場合、流動速度の増加するのが反転流の下部の一部のみになってしまうため、内部介在物の低減効果が限定的となってしまう。
これらの理由により、交流移動磁場装置の設置位置は、鋳型下端から鋳造方向に500mmまでの間とした。
なお、交流移動磁場装置の設置の基準は、交流移動磁場装置の中心とする。すなわち、本発明において、交流移動磁場装置の設置位置は、交流移動磁場装置の中心が鋳型下端から鋳造方向に500mmまでの間である。
【0028】
少なくとも200mmの幅の静磁場を印加しない非磁場印加領域
本発明における非磁場印加領域の幅:Lは、少なくとも200mmとする。これは、静磁場を印加しない非磁場印加領域の幅が200mmに満たないと、交流移動磁場の印加によって増速された上昇流の移動する経路の幅が小さくなるため、上昇流の移動が阻害され、その結果、内部介在物の低減効果が十分とは言えなくなってしまうからである。
一方、Lの上限は、1000mm程度とすることが好ましい。というのは、非磁場印加領域による効果は、Lが1000mmを超えると飽和するからである。また、Lが広すぎると、浸漬ノズルからの吐出流が静磁場の領域を避けて、非磁場印加領域(L)を通過してしまうからである。
【0029】
次に、本発明における式(1)と式(2)について説明する。
図1に示したように、鋳型の幅をW(mm)、2孔ノズルの外径をN(mm)、長辺中央部において静磁場を印加しない領域の幅をL(mm)、両短辺側に設置した直流磁場装置の幅をL(mm)、2孔ノズルの中央から直流磁場装置の上側までの距離をL(mm)、2孔ノズルの吐出孔角度をα(°)とした場合、以下に述べる関係式を満足させることが有利である。
【0030】
すなわち、垂直曲げ型連続鋳造において、効率的に介在物の浮上分離を図るためには、非磁場印加領域の幅Lを200mm以上にすると共に、Lを鋳型の幅Wに対して、一定の割合以上とし、上昇流の経路を確保することが好ましい。
その条件を式(3)に示す。
≧W/5・・・(3)
また、水モデル実験の結果、直流磁場装置の幅Lが狭すぎると、吐出流がブレーキを避けるように流れ、ブレーキが無い長辺側中央から下降してしまうため、LをWに対してある割合以上にすることが望ましい。その条件を式(4)に示す。
≧W/4・・・(4)
ここに、W=L+2Lであることから、式(3)と式(4)と組み合わせると、以下の式(1)を得ることができる。
W/5≦L≦W/2・・・(1)
【0031】
また、2孔ノズルからの吐出流に対し適正な電磁ブレーキを印加すると共に、この電磁ブレーキ付与位置の下方で、溶鋼中心部に、上昇流を効果的に生じさせるためには、ノズル吐出孔角度αとLおよびLの関係が重要である。
すなわち、2孔ノズルの孔の中央からノズル吐出孔角度αに沿って引いた線が、図1に示しているとおりに、電磁ブレーキの長さの半分であるL/2よりも、鋳型長辺の短辺側で交差することが望ましく、これを示しているのが以下の式(2)である。
(W−N)/2−L/tanα≦L/2・・・(2)
従って、式(1)と式(2)の条件を併せて満たすことにより、鋳型長辺の短辺側に位置している直流磁場印加装置によって、より効果的に吐出流に対して電磁ブレーキの印加を達成し、さらに良好な上昇流の形成が実現する。
【0032】
以上述べたとおり、本発明に従い溶鋼の流動を制御することで、アルミナやスラグなどの非金属介在物による内部介在物、特に微小な内部介在物が非常に少ない高品質な鋳片を製造することが可能となる。
同時に表面品質が要求される場合には、さらに、鋳型内で2孔ノズルの吐出孔近傍に旋回流を印加できる交流移動磁場装置を設置しても、本発明の効果は維持され、高い表面品質と共に、内部品質も良い鋼鋳片を製造することができる。
というのは、鋳型内の静磁場とストランド旋回磁場に加えて鋳型内に旋回磁場をさらに印加すると、溶鋼の凝固界面における洗浄効果が生じるからである。
【0033】
ここに、本発明に用いる直流磁場印加装置は、従来公知の装置のいずれもが使用できる。また、その使用条件は、特に磁束密度が0.1〜0.5テスラである。
なお、2孔ノズルの中央(吐出孔の中心)から、直流磁場印加装置の上側までの距離Lは200〜500mm程度の範囲とすることが望ましい。
【0034】
さらに、本発明に用いる交流移動磁場装置は、従来公知の装置のいずれもが使用できるが、特に、両長辺側に交流移動磁場印加装置を設置し、それぞれの装置で幅方向に同一の向きの移動磁場を印加することができ、かつ相対する装置とは、反対向きの移動磁場を印加することで旋回流を発生させることができる磁場装置(いわゆる、旋回磁場装置)が好適に使用できる。
なお、上記した磁場装置としては、リニア型コイル式で最大電流:1000A、周波数:2〜3Hzの交流を印加し、その設置位置として、磁場装置の中心がメニスカスから1.0〜1.5mにあるなどが例示できる。
また、その使用条件は、特に磁束密度が0.05〜0.3テスラである。
【0035】
ここに、本発明に用いる鋳型の幅や厚み、2孔ノズルの外径や吐出孔角度、および鋳造速度は、垂直曲げ型連続鋳造機を使用する際の従来公知のものを用いることができるが、以下に示す範囲、すなわち、
鋳型の幅:Wは、1000〜1800mm、鋳型の厚みは、200〜300mm、2孔ノズルの外径:Nは、100〜200mm、吐出孔角度:αは、0〜50°、および鋳造速度は、1.0〜3.0m/min程度とすることが好適である。
【実施例1】
【0036】
以下、スラブ連続鋳造機で実施した13チャージの試験鋳造結果を説明する。
1チャージ約200トンの低炭ブリキの溶鋼を、13チャージ(試験No.1〜13)鋳造した。発明例(試験No.1〜9)では、これらの溶鋼を、鋳型長辺の両短辺側の近傍のみに静磁場を印加するように直流磁場印加装置を設置し、鋳型の長辺中央部について、少なくとも200mmの静磁場を印加しない非磁場印加領域を設け、かつ鋳型下端から鋳造方向500mm下までの位置に交流移動磁場装置を設置し、上向きに5〜30cm/sの流速を付与する条件で連続鋳造を垂直曲げ連続鋳造機を用いて行った。
【0037】
また、発明例(試験No.1〜6、8)では、式(1)と式(2)を併せて満たす鋳型幅:W、直流磁場印加装置の幅:L、直流磁場印加装置の位置L、2孔ノズルの外径N、吐出孔角度αで鋳造を行った。
【0038】
さらに、比較例として、連続鋳造を垂直曲げ連続鋳造機で行った。主な鋳造条件を表1に併記する。
なお、比較例(試験No.10,11)は、交流移動磁場装置による流動流速が上向きで30cm/s超の条件で鋳造を行った。比較例(試験No.12)は、溶鋼流の流動速度が上向きで5cm/s未満の条件で鋳造を行った。また、比較例(試験No.13)は、非磁場印加領域Lが本発明範囲外の150mmとした。
【0039】
【表1】

【0040】
溶鋼に、交流移動磁場で5cm/sの上昇流を付与する場合は、磁束密度が0.09テスラの移動磁場を印加した。また、溶鋼に、30cm/sの上昇流を付与する場合は磁束密度が0.15テスラの移動磁場を印加した。
さらに、電磁ブレーキは、一律に、磁束密度が0.3テスラの静磁場を印加した。
【0041】
溶鋼流速は、鋳造後の鋳片から試料を採取し、その試料の凝固組織で確認した。すなわち、鋳造後の鋳片から検鏡用試料を切り出し、鏡面仕上げした後に酸で腐食し、凝固組織を現出させ、凝固組織のデンドライド樹枝状晶の傾き角度から、岡野らの式(非特許文献1参照)を用いて溶鋼流速を求めた。
交流移動磁場で0.15テスラの移動磁場を印加した場合の流動速度は50cm/sであった。また、0.05テスラの移動磁場を印加した場合の流動速度は3cm/sであった。
【0042】
また、鋳造後の鋳片の鋳造方向に垂直な面を鋳造方向に30mm切り出し、全幅・全厚で介在物の個数を超音波探傷装置により測定した。調査結果を表2に示す。さらに、これらの鋳片の圧延後の鋼板において、介在物センサによる内部介在物の個数も調査した。結果を表2に併記する。
なお、上記の圧延は、冷間圧延であり、連続鋳造されたスラブを熱間圧延および冷間圧延して鋼板とし、この鋼板に錫めっき処理を施した。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に示したように、発明例(試験No.1〜9)は、いずれも、比較例と比べると、鋳片段階での内部介在物の個数が少なく、かつ圧延後の鋼板における内部介在物の個数も大幅に少ない結果となった。
【0045】
さらに、上記した鋼板の内部介在物の粒径について調査したところ、本発明に従う鋼板の不純物の粒径分布は、より微小側にシフトし、かつ内部介在物自体の個数も大幅に減少していることが分かった。また、パウダーによる表面欠陥も非常に少ない結果となっていることも併せて確認した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、垂直曲げ連続鋳造に際し、アルミナやスラグなどの内部介在物が極めて少ない高品質な鋼鋳片を得ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 鋳型
2 2孔ノズル
3 鋳型下端
静磁場を印加しない領域の幅
両短辺側に設置した直流磁場装置の幅
2孔ノズルの中央から直流磁場装置の上側までの距離
W 鋳型の幅
N 2孔ノズルの外径
α 2孔ノズルの吐出孔角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直曲げ型連続鋳造機において2孔ノズルを用いて連続鋳造を行うに当たり、鋳型の長辺の両短辺側に直流磁場印加装置を配置して静磁場を印加する一方、該鋳型の長辺中央部については、少なくとも200mmの幅の静磁場を印加しない非磁場印加領域を設け、かつ該鋳型の下端から鋳造方向500mmまでの間に交流移動磁場装置を配置して溶鋼に対し交流移動磁場を印加して、流動速度が5〜30cm/sの溶鋼の上昇流を生じさせることを特徴とする、鋼鋳片の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記鋳型の幅:W(mm)と、前記非磁場印加領域の幅:L(mm)とが、次式(1)の関係を満足することを特徴とする、請求項1に記載の鋼鋳片の連続鋳造方法。

W/5≦L≦W/2・・・(1)

【請求項3】
前記2孔ノズルの外径をN(mm)、前記直流磁場印加装置の幅をL(mm)、前記2孔ノズルの孔中央から前記直流磁場印加装置の上端までの距離をL(mm)、および、2孔ノズルの吐出孔角度をα(°)とするとき、これらについて次式(2)の関係を満足することを特徴とする、請求項1または2に記載の鋼鋳片の連続鋳造方法。

(W−N)/2−L/tanα≦L/2・・・(2)


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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