説明

錠剤状食品とその製造方法

【課題】主食用の食材として用いることが出来、食しやすく栄養価も高く、危険性の少ない錠剤状食品とその製造方法を提供する。
【解決手段】野菜や果物を生の状態で、成分が変質しない温度であって、凍結しない温度範囲で乾燥させて乾燥粉末を形成し、この乾燥粉末に穀粉を混合し、錠剤状の形状にプレスして固める。乾燥は、温度が10℃〜−3℃で、湿度が15%以下で行う。乾燥粉末と穀粉は、粉末状態でプレスして、錠剤状に成形する。又は、水分を加えてこねたものをプレスして、錠剤状に成形しても良い。穀粉は、米、小麦、蕎麦のうちの任意の1又は複数の素材の粉末が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、うどんやパスタその他麺類の材料を用いて錠剤形状に形成した錠剤状食品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年高齢化に伴い、高齢者の嚥下障害が問題となっている。特に、高齢者は食しやすい麺類を好む傾向があるが、麺類もその形状から、咀嚼が十分でないと飲み込み難いものであった。さらに、嚥下障害により、誤って気管支に食物の破片や水分が入り込み咳き込んだり、肺炎の原因ともなっていた。
【0003】
一方、麺類の材料を用いて形成した麺以外の形状をした食品としては、ペンネやマカロニ等のショートパスタが代表的であるが、うどんや蕎麦の原料を用いた麺以外の形状の食品は存在せず、水団や団子、餃子のような大きい形状の食品が提供されていた。
【0004】
その他、粒状の食品として、特許文献1,2に開示されているようなものが提案されている。特許文献1に開示された果実製品は、果実成分に糖とペクチンを混合し、加熱後冷却して果実チップの形態に形成し、水分を除去してゲル強度を高めた粒状の果実チップ製品である。特許文献2に開示された味付けこんにゃく麺及び粒状味付けこんにゃくは、こんにゃく粉末に野菜や肉エキスを混合して練り合わせ、こんにゃくペーストを形成し、これを麺状や粒状に形成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−513677号公報
【特許文献2】特開2007−49912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景技術のショートパスタや水団等は、可食状態とするまでの調理が面倒であり、食する際も咀嚼が十分でないと、気管に詰まったりする恐れがあった。
【0007】
また、特許文献1,2に開示された食品は、菓子や補助的な食材として用いるものであり、麺類のような主食用の食材にはならないものである。
【0008】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、主食用の食材として用いることが出来、食しやすく栄養価も高く、危険性の少ない錠剤状食品とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、野菜や果物を生の状態で、成分が変質しない15℃以下の温度であって、凍結しない温度範囲で乾燥させて乾燥粉末を形成し、この乾燥粉末に穀粉を混合し、錠剤状の形状にプレスして固める錠剤状食品の製造方法である。
【0010】
前記乾燥は、温度が10℃〜−3℃で、湿度が15%以下で行うものである。さらに、前記乾燥粉末と前記穀粉は、粉末状態でプレスして、錠剤状に成形するものである。又は、前記乾燥粉末と前記穀粉は、水分を加えてこねたものをプレスして、錠剤状に成形するものでも良い。前記乾燥は、前記野菜や前記果物が凍結しない氷温で乾燥させるものである。
【0011】
また、前記錠剤状食品は、前記成形後に加熱処理して、表面をα化する工程を有するものでも良い。
【0012】
またこの発明は、野菜や果物を生の状態で、成分が変質しない15℃以下の温度であって、凍結しない温度範囲で乾燥させて乾燥粉末を形成し、この乾燥粉末に穀粉を混合し、錠剤状の形状にプレスして固めて成る錠剤状食品である。
【0013】
前記穀粉は、米、小麦、蕎麦のうちの任意の1又は複数の素材の粉末である。前記乾燥粉末の混合割合は、全体の5質量%〜90質量%の範囲で良く、適宜用途に合わせて、10質量%〜50質量%にしても良い。前記錠剤状食品は、表面がα化され、密封包装されているものでも良い。
【発明の効果】
【0014】
この発明の錠剤状食品は、高齢者や小児が誤って気管に詰まらせる恐れが無く、主食用の食材として用いることが出来、栄養価も高いものである。特に、高齢者や咀嚼機能が落ちた人、その他小児等にとって、安全で食しやすい主食用の食品を提供することが出来、用途も広いものである。
【0015】
この発明の錠剤状食品の製造方法は、工程が簡単であり、栄養価や風味、色合いが損なわれること無く野菜成分等を混合して、錠剤形状に形成することが出来るものである。また、素材の有効成分もそのまま存在するものである。特に、凍結しない氷温前後の低い温度で野菜等を乾燥させることにより、風味や色合いがほとんど損なわれず、食味も向上するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態の錠剤状食品とその製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の一実施形態について説明する。この実施形態の錠剤状食品10は、直径が3mm〜30mm程度、好ましくは5mm〜10mmm、厚さが1mm〜10mm程度、好ましくは3mm〜5mm程度の錠剤状の形状であり、気管を詰まらせない大きさであり、円形以外に三角形や四角形等の多角形や、星形、ハート形等の任意の形状の粒形をしたものである。
【0018】
成分は、小麦粉等の穀粉と一般的な野菜や果物等の乾燥粉末から成る。穀粉とは、穀物の穀粒から得られる粉砕物または粉末であり、穀物としては、米の他、小麦、蕎麦、大麦、ライ麦、トウモロコシ、豆、粟、稗等がある。そのうち、米、小麦または蕎麦が好ましく、小麦がより好ましい。さらに小麦の中でも硬質小麦、中間質小麦、デュラム小麦が特に好ましい。小麦粉は、デュラム小麦以外の小麦は、平均粒径が210μm以下の穀粉であるフラワーが好ましく、殆どの麺類に使用される小麦粉である。また、デュラム小麦は平均粒径が250μm〜1000μmの穀粉であるセモリナが好ましく、パスタの原料であり、茹でるとパスタの食感を得ることができる。
【0019】
穀粉には、グルテン、澱粉、多糖類、卵白、カルシウム製剤等を添加しても良い。これにより食感改良効果を得ることができる。さらに、穀粉に、必要に応じて調味料、かんすい、着色料、乳化剤、乳蛋白質等の添加物を含めることができる。調味料の例としては、例えば砂糖、アミノ酸、核酸等である。
【0020】
野菜の乾燥粉末としては、例えば、ホウレンソウ、自然薯、ニンジン、ゴボウ等の一般的な野菜、ヨモギやその他の山菜の乾燥粉末も含むものである。果物の乾燥粉末そしては、イチゴ、メロン、リンゴ、バナナ、マンゴー、桃、梨等、適宜選択可能である。これらの乾燥粉末の混合割合は、全体の5質量%〜90質量%の範囲で適宜設定可能なものであり、適宜用途に合わせて、10質量%〜50質量%の割合にして、穀粉の割合を増加させても良い。
【0021】
次に、この錠剤状食品10の製造方法について説明する。図1は、錠剤状食品10の製造工程を示した工程図で、先ず、野菜や果物等の乾燥粉末を製造する。前処理として、葉物野菜は洗浄し、果物やニンジン等の根菜類は洗浄後、厚さ1〜5mm程度にスライスする(s1)。
【0022】
次に、葉物野菜やスライスした野菜・果物を、乾燥工程に送り乾燥させる。乾燥は、温度と湿度が精密にコントロールされた乾燥室で行い、粉砕可能な乾燥状態、例えば水分含有率が10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下に乾燥させる。乾燥室内の温度は、15℃〜−3℃、好ましくは温度10℃〜−3℃で、凍結しない温度範囲、より好ましくは7℃〜−1℃で行う。特に、野菜や果物が凍結しない氷温で乾燥させると良い。湿度は、15%〜0.1%、好ましくは10%以下の雰囲気で乾燥を行う。
【0023】
さらに、湿度や温度のムラをなくすために、乾燥室内の空気を循環させ、葉物やスライスした野菜・果物を載置した乾燥用テーブルも、コンベア等により移動式にすると良い。乾燥時間は、乾燥する野菜や果物の量や厚みで異なるが、通常は、数〜十数時間程度で乾燥が完了する。これにより、葉物野菜の色が変化せず、その細胞壁が破壊されず、熱に弱いビタミンC等のビタミン類や色素、その他の有効成分が変質したり破壊されたりしない。また、スライスした野菜や果物も、同様にその細胞壁が破壊されず、ビタミンC等のビタミン類や色素、その他の有効成分が変質したり破壊されたりしない。また、低温乾燥により、乾燥時に、風味やうまみ成分の飛散もない(s2)。
【0024】
この後、低温で乾燥した葉物やスライスした野菜や果物を粉末にするため、適度な細かさに粉砕する。粉砕工程では、乾燥野菜や乾燥果物が熱くならないように、好ましくは上記乾燥温度程度で、粉末の平均粒径が10〜1000μm程度、好ましくは穀粉と同程度の平均粒径に粉砕する(s3)。
【0025】
次に、上記の工程で形成した野菜や果物の乾燥粉末と、小麦粉等の穀粉とを混合する。混合は、穀粉95質量%〜10質量%に対して、乾燥粉末を5質量%〜90質量%の範囲で、適宜の割合に配合する(s4)。
【0026】
配合工程の後、水と必要に応じて食塩等を混ぜてこねる。一定のコシ等を得るために適宜こねた後、所定の形状に成形する。成形は、上下の型内にこねた材料を送り、打錠機により所定の上下型の形状にプレスして固める。プレス圧は、例えば50MPa〜300MPaである(s5)。ここで、プレス圧を変えることにより、錠剤状食品10のコシの強さや食感を変えることが出来る。特に、プレス圧を低くして、穀粉や野菜・果物等の乾燥粉末を水に溶けやすく(分散しやすく)し、水に溶かして(分散させて)食する用途に使用することも可能である。例えば、従来片栗粉や小麦粉をスープ等に溶かしてとろみを出す場合と同様に、この発明の錠剤状食品を適宜の数だけスープや水、その他の液体の食材に溶かして、粘性のある食品を提供することに利用可能である。これにより、従来からあるカレールーやスープの素のようなブロック状や顆粒状の食材よりも量の調整が容易で使いやすいものとなる。こねる工程を経てこの錠剤状食品10を成形することにより、食する際の食感が種々の麺類と同様のものとなり、より好ましい食感を得ることができる。
【0027】
さらに、加水してこねた後に成形した錠剤状食品10は、必要に応じて水分量を20質量%以下に乾燥させ、乾麺と同様に仕上げる(s6)。水分量が20質量%以上の場合、生麺と同じ取扱としても良い。
【0028】
この実施形態の錠剤状食品10の使用方法は、乾燥した錠剤状食品10の場合、乾麺と同様に茹でてから好みの出汁に漬けて食する。また、錠剤状食品10に調味料が含まれている場合は、茹でたり、レンジで加熱した後、そのまま食することができる。また、生麺と同様の水分含有量の場合、製造後短期間で食する必要があるが、密封した場合や冷凍した場合は、比較的長期間の保存が可能である。生麺状の錠剤状食品10も、上記と同様に茹でたり、レンジで加熱して食する。
【0029】
この実施形態の錠剤状食品とその製造方法によれば、錠剤状食品10の形状が、気管を詰まらせる大きさではないので、高齢者や小児が誤って錠剤状食品10を気管に詰まらせる恐れが無く安全であり、栄養価も高いものである。さらに、製造工程が簡単であり、栄養価や風味、色合いが損なわれること無く、外観上も良好なものとなる。特に、凍結しない氷温前後の低い温度で野菜等を乾燥させることにより、風味や色合い栄養価がほとんど損なわれず、食味も向上するものである。しかも、野菜や果物の乾燥粉末が配合されているので、栄養価が高く色合いや風味も良好なものである。
【0030】
なお、上記の野菜等の乾燥粉末と穀粉に加水せずに、粉末のまま打錠機でプレスして固めても良い。これにより、こねる工程を削減することが出来、より製造が容易となる。また、上述のように、錠剤の形状を維持せずに容易に溶けるような硬さで成形することにより、とろみのある野菜スープ等を形成することが出来る。
【0031】
この発明の錠剤状食品は、上記実施形態に限定されるものではなく、打錠機でプレスして成形した後、錠剤状食品10を茹でたり蒸煮による加熱処理により、表面をα化し、水分50質量%〜80質量%にして、後の調理時間を短縮できるものとしても良い。この場合、加熱の温度及び時間は、錠剤状食品10の形状、大きさ等によって異なるが、表層部の澱粉がα化する程度であれば、どのような加熱条件でも良い。通常、約60℃〜100℃、好ましくは約80℃〜100℃の熱水中で約10秒〜約5分、好ましくは、約30秒〜約3分茹でれば良い。また、水蒸気を用いる蒸煮では、過熱水蒸気を使用することにより、100℃以上に加熱することもできる。加熱時間が短すぎると、加熱ムラが生じたり、表面にα化膜ができない部分が生じたりする。また、加熱時間が長すぎると、品質を損ねることにもなる。α化の加熱では、中心部は乾燥状態のままであり、表面に薄いα化膜が形成される程度で良い。
【0032】
表層部のみα化された錠剤状食品10は、必要に応じて、水を噴霧し又はシャワーして冷却した後、表面を乾燥する。冷却後の乾燥は、錠剤状食品10を放置して行う自然乾燥、常温の空気の吹き付け又は熱風乾燥等のいずれでも良い。錠剤状食品10の表面が乾燥されていない場合、後続の吸水工程での処理後もベタつきが生じ、付着性をもつため、後の処理や取扱に不都合が生じる。
【0033】
表面乾燥処理された錠剤状食品10は、水に浸漬して吸水させるか、又は水と共にプラスチック袋のような密封容器に充填して吸水させる。熱処理した錠剤状食品は表面にα化された膜を持つため、水と接触しても表面の溶解又は崩壊を生じることがない。浸漬の場合の水の温度は目標とする品質や望ましい製造時間等によって異なるが、0℃〜75℃、好ましくは50℃〜70℃の加温水を用いることにより、短時間で吸水を完了できる。吸水の程度は、錠剤状食品の水分含量が30質量%〜70質量%、好ましくは50質量%〜65質量%になるように行う。吸水時の水分含量が低ければ、調理時の茹で時間が長くなり、高ければ茹で時間は短くなる。
【0034】
このような表面をα化し乾燥した錠剤状食品10は、プラスチック袋等の密封性容器に一食分又は数食分ずつ充填され、容器がシールされる。これにより、この錠剤状食品は食する際の加熱時間が短く、簡単に食することができる。
【0035】
その他この発明の錠剤状食品において、野菜や果物等の低温乾燥工程での温度や湿度の調整は、適宜変更可能である。また、錠剤状食品の形状も適宜選択可能なものであり、食する際に、噛みやすくのどに詰まりにくい大きさに形成されたものであればよい。
【符号の説明】
【0036】
10 錠剤状食品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜や果物を生の状態で、成分が変質しない15℃以下の温度であって、凍結しない温度範囲で乾燥させて乾燥粉末を形成し、この乾燥粉末に穀粉を混合し、錠剤状の形状にプレスして固めることを特徴とする錠剤状食品の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥は、温度が10℃〜−3℃で、湿度が15%以下で行うものである請求項1記載の錠剤状食品の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥粉末と前記穀粉は、粉末状態でプレスして、錠剤状に成形する請求項2記載の錠剤状食品の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥粉末と前記穀粉は、水分を加えてこねたものをプレスして、錠剤状に成形する請求項2記載の錠剤状食品の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥は、前記野菜や前記果物が凍結しない氷温で乾燥させる請求項2記載の錠剤状食品の製造方法。
【請求項6】
前記錠剤状食品は、前記成形後に加熱処理して、表面をα化する工程を有する請求項3又は4記載の錠剤状食品の製造方法。
【請求項7】
野菜や果物を生の状態で、成分が変質しない15℃以下の温度であって、凍結しない温度範囲で乾燥させて乾燥粉末を形成し、この乾燥粉末に穀粉を混合し、錠剤状の形状にプレスして固めて成ることを特徴とする錠剤状食品。
【請求項8】
前記穀粉は、米、小麦、蕎麦のうちの任意の1又は複数の素材の粉末である請求項7記載の錠剤状食品。
【請求項9】
前記乾燥粉末の混合割合は、全体の5質量%〜90質量%の範囲である請求項7記載の錠剤状食品。
【請求項10】
前記錠剤状食品は、表面がα化されている請求項7記載の錠剤状食品。


【図1】
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【公開番号】特開2013−51924(P2013−51924A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192565(P2011−192565)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(591041163)
【出願人】(511215528)
【出願人】(511216411)
【Fターム(参考)】