説明

鍵盤

【課題】 重りの材料として鉛に代わる代替材料を用いながら、重りの取付が簡単で、しかもタッチ重さを容易に調整することができる鍵盤を提供する。
【解決手段】 埋設孔9を形成した揺動自在の鍵盤本体2と、この鍵盤本体2の埋設孔9に着脱自在にはめ込まれ、鍵盤本体2に重さを付与する重り4と、を備え、この重り4は、粉状のタングステンとプラスチックとを含む、鉛以外の複数種類の材料を、所定の比重を有するように所定の配合割合で互いにブレンドした複合材料12を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアノなどの鍵盤に関し、特に所望のタッチ重さを得るために重りを取り付けた鍵盤に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来のグランドピアノの鍵盤(白鍵)を示している。この鍵盤51は、断面矩形の細長い木製の鍵盤本体52と、その前部に取り付けられた白鍵カバー53と、鍵盤本体52の側面に取り付けられた複数の(この例では3個の)重り54などを備えている。鍵盤本体52は、その中央部において、バランスピン(図示せず)に揺動自在に支持されるとともに、バランスピンよりも後ろ側の部分に、アクション(図示せず)が載置されている。
【0003】
重り54は、所要の鍵盤のタッチ重さ(静荷重)を得るために取り付けられるものであり、円柱状に成形した所定サイズの鉛で構成されている。一方、鍵盤本体52の前部の所定位置には、所定サイズの丸孔から成る3つの埋設孔55が側方に貫通して形成されており、重り54は、これらの埋設孔55に挿入した後、かしめることによって、鍵盤本体52に取り付けられている。このように重り54として鉛が採用されているのは、金属の中でも比重が高い(約11.3)こと、安価であることや、柔軟性および延性に富み、上記のような加工を行いやすいことなどによる。
【0004】
また、上記のように重り54を取り付けた後、鍵盤間のタッチ重さのばらつきを無くしたり、演奏者の好みに合わせたりすることを目的として、タッチ重さを調整することも一般に行われている。このタッチ重さの調整は、重り54がかしめにより取り付けられていて、その取外しが困難であることから、タッチ重さを軽くしたい場合には、重り54の側面を切削することによって行われる。一方、タッチ重さを重くしたい場合には、同じ理由から、図4に破線で示すように、あらかじめ用意した別の鉛製の調整用重り56を少なくとも1個、鍵盤本体52に追加して取り付けられる。この場合、調整用重り56によるバランスピン回りのモーメントが、付加すべきタッチ重さに応じて適切に得られるよう、調整用重り56の取付位置をまず決定し、決定した鍵盤本体52の取付位置に埋設孔57を新たに形成した後、調整用重り56をかしめで取り付けるという作業が、鍵盤51ごとに行われる。
【0005】
上記従来の鍵盤51では、前述した理由から、重り54の材料として鉛が用いられている。しかし、鉛は、有害物質であるため、鍵盤の重りにもできるだけ使用しないことが望ましく、鉛に代わる代替材料が求められている。また、従来の鍵盤51では、重り54を各鍵盤本体52にかしめにより取り付ける必要があるため、この取付作業自体が煩雑である。また、かしめにより取り付けた重り54の取外しが困難であるとともに、その比重が一定であるため、前述したように、タッチ重さを調整するのに、重り54の側面を切削したり、調整用重り56の取付位置を決定しながら、鍵盤本体52に埋設孔57を形成し、調整用重り56を取り付けるという作業を、鍵盤51ごとに行わなければならない。その結果、調整作業に非常に手間がかかり、製造コストを押し上げてしまう。さらに、調整用重り56を取り付ける場合には、本来の埋設孔55に加えて、埋設孔57を鍵盤本体52に側方に貫通して形成しなければならず、鍵盤本体52の強度が不足がちになるという問題もある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、重りの材料として鉛に代わる代替材料を用いながら、重りの取付が簡単で、しかもタッチ重さを容易に調整することができる鍵盤を提供することを目的としている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、本発明の鍵盤は、埋設孔を形成した揺動自在の鍵盤本体と、この鍵盤本体の埋設孔に着脱自在にはめ込まれ、鍵盤本体に重さを付与する重りと、を備え、この重りは、粉状のタングステンとプラスチックとを含む、鉛以外の複数種類の材料を、所定の比重を有するように所定の配合割合で互いにブレンドした複合材料を含むことを特徴としている。
【0008】
この鍵盤では、その重りが、粉状のタングステンとプラスチックとを含む、鉛以外の複数種類の材料を、所定の比重を有するように所定の配合割合で互いにブレンドした複合材料を含んでおり、鍵盤本体に形成した埋設孔に着脱自在にはめ込まれることによって、鍵盤本体に重さを付与する。このように、重りを鍵盤本体の埋設孔への単なるはめ込みによって容易に取り付けることができ、従来のかしめの場合よりも、重りの取付作業を簡素化できることで、製造コストを削減することができる。
【0009】
また、複合材料を構成するタングステンは、無害であるとともに、比重が非常に大きい(約19.3)ので、プラスチックとのブレンドにより鉛と同等の比重を含む必要な範囲の比重を有する複合材料を容易に得ることができる。したがって、上記構成の複合材料を、従来の鉛に代わる重りの代替材料として用いることができる。
【0010】
この場合、複合材料は、鉛以外の複数種類の材料を、互いに異なる比重を有するように互いに異なる配合割合でブレンドした複合材料でそれぞれ構成されるとともに、互いに同じサイズおよび形状を有する複数種類の複合材料の1つで構成されていることが好ましい。
【0011】
この構成では、重りに含まれる複合材料が複数種類の複合材料の1つで構成されており、これらの複数種類の複合材料は、サイズおよび形状が互いに同じであるとともに、その配合割合が異なることで、互いに異なる比重、したがって互いに異なる重さを有している。したがって、重さが異なる複数種類の複合材料の中から、所望のタッチ重さを得るのに最適な重さを有するものを選択し、鍵盤本体に取り付けることによって、タッチ重さの調整を容易に行うことができる。その結果、従来における、タッチ重さを軽くする場合の重りの切削や、重くする場合の調整用の埋設孔および重りの増設や位置決定が、まったく不要になり、そのようなタッチ重さを調整するための煩雑な作業が省略される分、鍵盤の製造コストをさらに削減することができる。また、タッチ重さ調整用の埋設孔を増設する必要が無くなることで、それによる鍵盤本体の強度低下も防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1および図3は、本発明を適用したグランドピアノの鍵盤(白鍵)を示している。同図に示すように、この鍵盤1は、鍵盤本体2と、鍵盤本体2の前部に取り付けられた白鍵カバー3と、鍵盤本体2の前部に取り付けられた複数の(この例では3個の)重り4などを備えている。
【0013】
鍵盤本体2は、スプルスや松などの比較的軽量で、粘り強く、弾力性に富む木質材から成り、矩形の断面を有し、前後方向に延びている。白鍵カバー3は、アクリルなどからL字形に形成されており、鍵盤本体2の上面前半部および前面に、これらを覆うように接着されている。鍵盤本体2の上面中央部には中座板5aが接着され、これらを上下方向に貫通するようにバランスピン孔5が形成されていて、このバランスピン孔5が、立設するバランスピン(図示せず)に係合することによって、鍵盤1が揺動自在に支持されている。また、鍵盤本体2の下面の前端部にはフロントピン孔6が形成されており、このフロントピン孔6が、立設するフロントピン(図示せず)に係合することによって、鍵盤1の左右の振れが防止される。
【0014】
さらに、鍵盤本体2の上面のバランスピン孔5よりも後ろ側の位置には、キャプスタン座板8aを介して、キャプスタンスクリュー8が取り付けられており、このキャプスタンスクリュー8上にアクション(図示せず)が載置される。以上の構成により、鍵盤1の前部を押鍵したときに、鍵盤1がバランスピンを中心として揺動するとともに、これに伴い、アクションがキャプスタンスクリュー8で突き上げられることで作動する。また、鍵盤1のタッチ重さは、アクションと鍵盤1の重さによるバランスピン回りのモーメントのバランスによって定められることになる。
【0015】
また、鍵盤本体2には、3つの埋設孔9が形成されており、これらの埋設孔9に重り4がそれぞれ取り付けられている。これらの埋設孔9は、互いに同じ所定の径を有する丸孔であり、鍵盤本体2のバランスピン孔5よりも前側の所定位置に、前後方向に並んで配置され、側方に貫通するように形成されている。
【0016】
図2に示すように、本発明に係る重り4は、重り取付部材11と、この重り取付部材11にはめ込まれた重り本体12(複合材料)とによって構成され、全体として円柱状に形成されている。重り取付部材11は、断面円形の挿入孔11aを有する、所定の径および長さの円筒状のものであり、ゴムなどの弾性材料で構成されている。
【0017】
一方、重り本体12は、重り取付部材11と同じ長さと、その挿入孔11aにはめ込み可能な径とを有する円柱状のものである。また、重り本体12は、鉛以外の複数種類の材料、例えば粉状のタングステンとプラスチックをブレンドした複合材料の成形品で構成されている。なお、この場合のプラスチックは、重り本体12のベースレジンとして用いられるものであり、強靱で、耐衝撃性に優れていることや、成形性も良好であることから、ナイロンが特に好ましい。以上の構成により、重り本体12は、弾性を有する重り取付部材11に着脱自在にはめ込まれるとともに、そのようにして組み立てた重り4もまた、その外周を取り囲む重り取付部材11の弾性によって、鍵盤本体2の埋設孔9に着脱自在にはめ込まれる。
【0018】
また、重り本体12として、複数種類の重り本体12が用意されている。これらの複数種類の重り本体12は、サイズおよび形状が互いに同一であるとともに、タングステンとプラスチックの配合割合を変えることにより、互いに異なる所定の比重を有するようにしたものであり、したがって、異なる所定の重さを有している。また、この場合の比重は、所要のタッチ重さを確保でき、且つ後述するタッチ重さの調整が円滑に行えるよう、鉛と同等の比重(約11.3)を含む所定の範囲(例えば10〜13)内で、多段階に設定されている。
【0019】
以上の構成の鍵盤1によれば、重り4を、ゴムなどの弾性材料から成る重り取付部材11と、粉状のタングステンおよびプラスチックの複合材料から成る重り本体12とから、鉛を用いることなく、無害でかつ安価に構成することができる。また、重り4を、重り取付部材11の弾性により、鍵盤本体2の埋設孔9への単なるはめ込みによって容易に取り付けることができ、従来のかしめの場合よりも、重りの取付作業を簡素化できることで、製造コストを削減することができる。
【0020】
また、重り4が鍵盤本体2に対して着脱自在であるとともに、重り本体12が重り取付部材11に対して着脱自在であるので、重さが異なる複数種類の重り本体12の中から、所望のタッチ重さを得るのに最適な重さを有するものを選択し、すでに取り付けた重り本体12と適宜、交換することによって、鍵盤1のタッチ重さを容易に調整することができる。
【0021】
このタッチ重さの調整は、例えば、次のようにして行われる。すなわち、まず、各鍵盤本体2に3つの埋設孔9を、同一の配置およびサイズで形成するとともに、例えば鉛と同等の比重を有する重り本体12を重り取付部材11にはめ込んだ重り4を、標準重りとして各埋設孔9にはめ込んだ状態で、タッチ重さを測定する。測定されたタッチ重さが所望値と異なる場合には、1個または2個以上の重り4を埋設孔9から取り外し、さらに重り本体12を重り取付部材11から取り外して、適当な重さの他の重り本体12と交換して、重り取付部材11、さらには埋設孔9に取り付ける。以上により、所望のタッチ重さを容易に得ることができる。
【0022】
その結果、従来における、タッチ重さを軽くする場合の重りの切削や、重くする場合の調整用の埋設孔および重りの増設や位置決定が、まったく不要になり、そのようなタッチ重さを調整するための煩雑な作業が省略される分、鍵盤1の製造コストをさらに削減することができる。また、タッチ重さ調整用の埋設孔を増設する必要が無くなることで、それによる鍵盤本体2の強度低下も防止できる。
【0023】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、重り本体を、粉状のタングステンとナイロンなどのプラスチックとをブレンドした複合材料で構成しているが、所要の比重を確保できるものであれば、鉛以外の他の適当な材料をさらにブレンドすることが可能である。また、実施形態では、3つの埋設孔9に取り付けた重り4の重り本体12を適宜、交換することによって、タッチ重さを調整しているが、タッチ重さの調整方法は、これに限らず、例えば、調整用の埋設孔を別個に設け、この調整用埋設孔に取り付ける重りの重り本体を選択することによって、行ってもよい。
【0024】
さらに、実施形態はグランドピアノの鍵盤の例であるが、本発明は、アップライトピアノ、電子ピアノや鍵盤楽器玩具の鍵盤など、重りが取り付けられるすべての鍵盤に広く適用することが可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用したグランドピアノの鍵盤を示す斜視図である。
【図2】図1の鍵盤の重りを示す分解斜視図である。
【図3】図1の鍵盤の前部を示す部分拡大側面図である。
【図4】従来の鍵盤の、図3と同様の部分拡大側面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 鍵盤
2 鍵盤本体
4 重り
9 埋設孔
12 重り本体(複合材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋設孔を形成した揺動自在の鍵盤本体と、
この鍵盤本体の前記埋設孔にはめ込まれ、前記鍵盤本体に重さを付与する重りと、を備え、
この重りは、粉状のタングステンとプラスチックとを含む、鉛以外の複数種類の材料を、所定の比重を有するように所定の配合割合で互いにブレンドした複合材料を含むことを特徴とする鍵盤。
【請求項2】
前記複合材料は、前記鉛以外の複数種類の材料を、互いに異なる比重を有するように互いに異なる配合割合でブレンドすることにより構成されるとともに、互いに同じサイズおよび形状を有する複数種類の複合材料の1つで構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の鍵盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−126860(P2006−126860A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368236(P2005−368236)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【分割の表示】特願平11−328656の分割
【原出願日】平成11年11月18日(1999.11.18)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】