説明

鏡面冷却式露点計

【課題】様々な測定条件が刻々と変化する場合であっても、PID定数を適切に修正することができる鏡面冷却式露点計を提供する。
【解決手段】鏡面冷却式露点計100は、PID制御により、受光部50が受光する照射光の測定光量PVが目標光量SVになるよう調温部20に対する操作量MVを算出し、その操作量MVに基づいて調温部20を制御する制御部60を備えている。そして、制御部60は、操作量MVの振幅を前記PID制御の比例ゲインKで割ったものが所定の振幅上限値よりも大きい場合には比例ゲインKを減少させ、操作量MVの振幅を比例ゲインKで割ったものが所定の振幅下限値よりも小さい場合には比例ゲインKを増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡面を冷却して露点温度を測定する鏡面冷却式露点計に関する。
【背景技術】
【0002】
鏡面冷却式露点計は、被測定気体中に反射鏡を配置し、この反射鏡を冷却して表面に結露を生じさせ、このときの反射鏡の温度を計測することで、被測定気体の露点温度を測定する装置である。また、露点温度を持続して測定する場合には、反射鏡の温度を調整しながら、結露が生じ始めた状態を維持する必要がある。この制御は、通常、PID制御によって行われる。PID制御に用いる「比例ゲイン」、「積分時間」、及び「微分時間」のPID定数は、高い測定精度を維持するために、被測定気体の状態やセンサーの状態に応じて修正するのが望ましい。
【0003】
特許文献1では、適切なPID定数を求めるための計算式を事前に作成し、この計算式に空気温度や仮露点温度を代入してPID定数を算出する鏡面冷却式露点計が提案されている。また、鏡面冷却式露点計の技術分野ではないが、特許文献2では、ステップ信号を系に加えたときの応答結果から適切なPID定数を求める、いわゆるオートチューニング機能を有するPID調整計が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−126097号公報
【特許文献2】特開平11−161301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の鏡面冷却式露点計では、空気温度と露点温度以外の条件、例えば、被測定気体そのもの(特許文献1では被計測気体を空気に限定している)、気体圧力、温調部の劣化、流量変化などの条件の変化には対応することができない。また、引用文献2のオートチューニングによる修正は露点温度の測定とは別に行う必要があり、測定条件が刻々と変化する場合、その変化に対応してPID定数を修正することができない。
【0006】
そこで本発明では、様々な測定条件が刻々と変化する場合であっても、PID定数を適切に修正することができる鏡面冷却式露点計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある形態に係る鏡面冷却式露点計は、被測定気体中に配置される反射鏡と、前記反射鏡を冷却して表面に結露を生じさせる調温部と、前記反射鏡の温度を測定する測温部と、前記反射鏡の表面に照射光を発する投光部と、前記反射鏡の表面で反射した前記照射光を受光する受光部と、PID制御により、前記受光部が受光する前記照射光の測定光量が目標光量になるよう前記調温部に対する操作量を算出し、その操作量に基づいて前記調温部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記操作量の振幅を前記PID制御の比例ゲインで割ったものが所定の振幅上限値よりも大きい場合には前記比例ゲインを減少させ、前記操作量の振幅を前記比例ゲインで割ったものが所定の振幅下限値よりも小さい場合には前記比例ゲインを増加させる。
【0008】
かかる構成によれば、個々の測定条件の変化に基づいて比例ゲインを直接求めるのではなく、個々の測定条件の変化が全て反映された操作量の変化に基づいて、比例ゲインを適切な値に修正することができる。そのため、想定していない条件の変化を含む様々な測定条件の変化が生じても、適切な比例ゲインに修正することができる。さらに、比例ゲインの修正は、露点温度の測定を行いながらできるため、測定条件が刻々と変化する場合にも、その変化に応じて適切な比例ゲインに修正することができる。
【0009】
また、上記の鏡面冷却式露点計において、前記振幅上限値及び前記振幅下限値はいずれも固定値としてもよい。
【0010】
また、上記の鏡面冷却式露点計において、前記制御部は、前記操作量と前記測定光量の位相差が位相上限値よりも大きい場合には前記PID制御の積分時間及び微分時間を減少させ、前記位相差が位相下限値よりも小さい場合には前記積分時間及び前記微分時間を増加させるように構成してもよい。
【0011】
また、上記の鏡面冷却式露点計において、前記微分時間は前記積分時間の6分の1となるように設定してもよい。
【0012】
また、上記の鏡面冷却式露点計において、前記位相下限値は30〜40度であり、前記位相上限は140〜150度となるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記のように、本発明に係る鏡面冷却式露点計によれば、様々な測定条件が刻々と変化する場合であっても、PID定数を適切に修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る鏡面冷却式露点計のブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る比例ゲインの設定方法を示したフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る操作量の変化と測定光量の変化を示した概念図である。
【図4】本発明の実施形態に係る積分時間及び微分時間の設定方法を示したフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係るPID定数の修正が行われないときと、行われたときの露点温度の測定値の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について図を参照しながら説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【0016】
(鏡面冷却式露点計の構造)
はじめに、図1を参照して、鏡面冷却式露点計100の構造について説明する。図1は、鏡面冷却式露点計100のブロック図である。図1に示すように、鏡面冷却式露点計100は、反射鏡10と、調温部20と、測温部30と、投光部40と、受光部50と、制御部60とを備えている。
【0017】
反射鏡10は、投光部40から放射された照射光を反射する鏡である。反射鏡10は、薄く、表面が平らに形成されている。また、反射鏡10は、測定容器11の内部に配置されている。測定容器11には、被測定気体101が流入する流入口12と、被測定気体101が流出する流出口13が形成されている。つまり、測定容器11は、その内部を被測定気体101が流れるように構成されている。これにより、反射鏡10は被測定気体101中に配置され、被測定気体101にさらされていることになる。なお、被測定気体101は、特に限定されず、空気以外の気体であってもよい。
【0018】
調温部20は、反射鏡10を冷却する部分である。反射鏡10を冷却することで、反射鏡10の表面に被測定気体101中の水分を結露させることができる。調温部20は反射鏡10の下方に配置されている。本実施形態に係る調温部20は、ペルチェ素子を使用しているが、冷却機能を有する他の装置を用いてもよい。ペルチェ素子は、2種類の金属の接合部に電流を流すと一方の金属から他方の金属へと熱が移動する「ペルチェ効果」を利用した素子である。ペルチェ素子に流す電流の電流値を調整することで、吸熱量を変化させることができる。また、ペルチェ素子に流す電流の方向を変えれば、冷却側と放熱側を入れ替えることができる。つまり、反射鏡10を加熱することもできる。調温部20は、制御部60によって制御される。制御部60から調温部20の操作量MVについての信号が送信されると、駆動回路21がこの信号を受信し、駆動回路21は、この操作量MVに応じた電流を調温部20に供給する。
【0019】
測温部30は、反射鏡10の温度を測定する部分である。測温部30は反射鏡10の裏面側に取り付けられている。ただし、本実施形態の反射鏡10は薄いため、測温部30は実質的に反射鏡10の表面温度を測定していることになる。なお、測温部30は、反射鏡10の裏面に接触して温度測定を行うものに限らず、例えば赤外線を利用して反射鏡10の表面温度を非接触で測定するものであってもよい。測温部30は、測定した温度についての信号を温度表示部31に送信するとともに、後述する制御部60のPID定数設定部62にも送信する。温度表示部31では、測温部30から送信された信号に基づいて反射鏡10の温度が表示される。後述するように、温度表示部31で表示される温度が被測定気体101の露点温度となる。
【0020】
投光部40は、反射鏡10の表面に照射光を発する部分である。投光部40は、反射鏡10の斜め上方に配置されており、反射鏡10の表面に対して斜めに照射光を照射するように構成されている。本実施形態に係る投光部40は、LEDを用いているが、光を発する他の装置を用いてもよい。また、投光部40は、そこから発する照射光の光量が一定になるように制御されている。投光部40から照射する照射光の光量を一定にするには、例えば、照射された照射光を光学的に分岐し、分岐した方の光の光量をモニターして、その光量が一定になるように投光部40を制御すればよい。
【0021】
受光部50は、反射鏡10の表面で反射した照射光を受光する部分である。受光部50は、反射鏡10の斜め上方であって、投光部40と対向する位置に配置されている。受光部50は、例えばフォトトランジスタやフォトダイオードを使用することができる。また、受光部50として撮像カメラを用いてもよい。なお、本実施形態では、受光部50が投光部40から照射された照射光の正反射光を受光する正反射光検出方式を採用している。ただし、受光部50が投光部40から照射された照射光の乱反射光を受光する乱反射光検出方式を採用してもよい。受光部50は、受光した照射光の光量(測定光量)PVについての信号を増幅回路51に送信し、増幅回路51はこの信号を増幅して制御部60へ送信するように構成されている。なお、受光部50が撮像カメラの場合には、画像処理を行えば測定光量PVを得ることができる。
【0022】
制御部60は、受光部50が受光した照射光の光量(測定光量)PVに基づいて調温部20を制御する部分である。上述のように、反射鏡10を冷却すると、その表面には結露が生じる。反射鏡10の表面に結露が生じると、結露が生じていないときに比べ、受光部50に至る照射光の光量が低下する。つまり、受光部50における測定光量PVが低下し始めたときの反射鏡10の温度(温度表示部31に表示される温度)が被測定気体101の露点温度となる。なお、乱反射光検出方式の場合には、反射鏡10の表面に結露が生じると、乱反射する照射光の光量が増加することから、受光部50における測定光量PVが増加し始めたときの反射鏡10の温度が露点温度となる。
【0023】
さらに、結露が始まったときの状態を維持すれば、温度表示部31の表示温度は常に被測定気体101の露点温度を示していることになる。これを実現するためには、測定光量PVが低下し始めたときの値を目標光量SVとして記憶し、目標光量SVと測定光量PVとが一致するように調温部20を調整すればよい。より具体的には、測定光量PVが目標光量SVよりも大きい場合には反射鏡10の温度が下がるように調温部20の冷却強度を上げ、測定光量PVが目標光量SVよりも小さい場合には反射鏡10の温度が上がるように調温部20の冷却強度を下げればよい。
【0024】
ここで、制御部60は、CPU等からなり、機能的手段として、PID制御部61と、PID定数設定部62とを有している。このうち、PID制御部61は、上述した制御を行う部分、すなわち測定光量PVが目標光量SVと一致するように調温部20の操作量MVを算出し、この操作量MVに基づいて調温部20を制御する部分である。PID制御部61は、操作量MVをPID制御の基本式である下記の(1)式を用いて算出している。(1)式のうち、「K」は比例ゲイン、「T」は積分時間、「T」は微分時間をそれぞれ示している。上述したように、これらの3つの定数をあわせて「PID定数」と呼んでいる。また、(1)式のうち「e」は、(2)式に示すように、目標光量SVと測定光量PVの差(誤差)である。
【数1】

【0025】
また、制御部60のうちPID定数設定部62は、PID定数を適切な値に設定し、必要により修正を行う部分である。PID制御部61による制御によれば、上記のように調温部20の冷却強度を上げたり下げたりするため、操作量MVは一定の振れ幅で変化することになる。PID定数をいかに設定するかは、この操作量MVの振れ幅にも影響する。例えば、PID定数が適切でなければ、操作量MVの振れ幅が大きくなりすぎることがある。この場合には、反射鏡10の温度の振れ幅(測定された露点温度の振れ幅)も大きくなり、精度の高い測定を行うことはできない。これとは逆に、操作量MVの振れ幅が小さくなりすぎることもある。この場合には、測定光量PVを示す信号に外乱が入って操作量MVの値が大きく振れると、収束するまでに時間がかかり、この場合にも精度の高い測定を行うことはできない。つまり、PID定数を適切に設定することは、上記のような状態を回避し、精度の高い測定を行うことにつながるのである。以下、PID定数設定部62によるPID定数の設定方法について説明する。
【0026】
(比例ゲインの設定方法)
まず、図2及び図3を参照して、PID定数のうち比例ゲインKの設定方法について説明する。図2は、比例ゲインKの設定方法を示したフローチャートである。また、図3は、操作量MVの変化と測定光量PVの変化を示した概念図である。なお、以下で説明する制御は、制御部60のPID定数設定部62によって遂行される。
【0027】
はじめに、図2に示すように、比例ゲインKを初期値に設定する(ステップ201)。このとき、積分時間T及び微分時間Tもあわせて初期値に設定する。そして、PID定数を初期値に設定した状態でPID制御部61によりしばらく調温部20を制御させる。なお、PID定数の初期値は、反射鏡10の温度によって決定される。具体的には、反射鏡10の温度に応じた適切なPID定数が予め記憶されており、実際の反射鏡10の温度に基づいてPID定数の値が決定される。反射鏡10の温度は、測温部30から送られた信号に基づいて算出することができる。なお、PID定数の初期値は、いずれも反射鏡10の温度が高くなるに従って小さくなる。
【0028】
上記のPID定数の初期値は、被測定気体101が空気、気圧が標準大気圧、温度が24°C、流量が毎分1リットルという条件下において適切とされているものである。そのため、被測定気体が空気以外の気体である場合や、気圧が標準大気圧でないなどの条件下では、ここで設定したPID定数の値が必ずしも適切ではなくなる。また、調温部20で用いるペルチェ素子が劣化するなどした場合にも、PID定数の値は適切でなくなる場合がある。
【0029】
続いて、操作量MVの振幅(振れ幅)の平均値を求める(ステップ202)。測定光量PVが比較的安定している場合には、図3に示すように操作量MVは一定の振れ幅(振幅)で振れているため、操作量MVの振幅を求めやすい。振幅を測定しにくい場合には、スムージングなどの処理を行ってもよい。また、外乱によって急激に操作量MVが大きく振れるような場合や、測定光量PVが目標光量SVから大きく外れている場合などは、その時の操作量MVを排除して平均値を求めるようにしてもよい。その他、振幅を求める計算手法としてはいかなる方法を用いてもよい。
【0030】
続いて、ステップ202で算出した振幅の平均値をそのときに設定されている比例ゲインKで割って正規化する(ステップ203)。正規化する理由については、後述する。なお、以下では、振幅の平均値を正規化した値を「正規化値」と呼ぶこととする。
【0031】
続いて、正規化値が、振幅上限値よりも大きいか否かを判断する(ステップ204)。この振幅上限値は、事前に設定された固定値であって、精度の高い測定が行える正規化値の上限値である。そして、正規化値が、振幅上限値よりも大きい場合には(ステップ204でYES)、比例ゲインを現状の値から一定量だけ減少した値に修正する(ステップ205)。これにより、操作量MVの振幅は減少する。また、正規化値が、振幅上限値よりも小さい場合には(ステップ203でNO)、ステップ206へ進む。
【0032】
ステップ206では、正規化値が、振幅下限値よりも小さいか否かを判断する。この振幅下限値は、事前に設定された固定値であって、精度の高い測定が行える正規化値の下限値である。正規化値が、振幅下限値よりも小さい場合には(ステップ206でYES)、比例ゲインを現状の値から一定量だけ増加した値に修正する(ステップ207)。これにより、操作量MVの振幅は増加する。また、正規化値が、振幅下限値よりも大きい場合には(ステップ206でNO)、ステップ202に戻り、上記の各ステップを繰り返す。
【0033】
このように、上記の各ステップを繰り返すことにより、正規化値は振幅下限値から振幅上限値の範囲に入り、この範囲に入った状態を維持することができる。正規化値がこの範囲に入ることにより、精度の高い測定を行うことができる。
【0034】
なお、ステップ202において、振幅の平均値を比例ゲインKで割っているのは、比例ゲインKの値に関係なく振幅を評価するためである。例えば、比例ゲインKが大きい場合には適切な値であったとしても振幅は大きくなる。そのため、比例ゲインKの大小を無視して振幅を同じ上限値及び下限値で一律に評価することはできないのである。このように正規化することにより、振幅上限値および振幅下限値を比例ゲインKの大小にかかわらず固定値にすることができる。
【0035】
ただし、正規化していない振幅の平均値について評価することもできる。この場合には、比例ゲインKに比例するように比例振幅上限値(振幅上限値に比例ゲインKをかけたもの)および比例振幅下限値(振幅下限値に比例ゲインKをかけたもの)を設定し、これを基準にして評価すればよい。つまり、ステップ204における、正規化値が振幅上限値よりも大きいか否かの判断は、操作量MVの振幅の平均値が上記の比例振幅上限値よりも大きいか否かの判断と同義であり、ステップ206における、正規化値が振幅下限値よりも小さいか否かの判断は、操作量MVの振幅の平均値が上記の比例振幅下限値よりも小さいか否かの判断と同義である。
【0036】
(積分時間及び微分時間の設定方法)
次に、図3及び図4を参照して、PID定数のうち積分時間T及び微分時間Tの設定方法について説明する。図4は、積分時間T及び微分時間Tの設定方法を示したフローチャートである。なお、以下で説明する制御は、制御部60のPID定数設定部62によって遂行される。
【0037】
はじめに、図4に示すように、積分時間T及び微分時間Tを初期値に設定する(ステップ401)。このとき、比例ゲインKもあわせて初期値に設定する。そして、PID定数を初期値に設定した状態でPID制御部61によりしばらく調温部20を制御させる。PID定数の初期値の決定方法は、図2のステップ201の説明で述べたとおりである。なお、本実施形態では、積分時間Tと微分時間Tの割合は、6対1になるように設定する。つまり、微分時間Tは、積分時間Tの6分の1になるよう設定する。
【0038】
続いて、周期的に変化する操作量MV及び測定光量PVの位相差の平均を求める(ステップ402)。操作量MVの変化と測定光量PVの変化との間には図3に示すような位相差が生じる。この位相差は、PID制御部61が操作量MVを表す信号を送信してから測定光量PVが変化し始めるまでの時間(無駄時間)と、測定光量PVが変化し始めてから変化し終わるまでの時間(一次遅れ)に起因している。
【0039】
続いて、位相差の平均が位相上限値よりも大きいか否かを判断する(ステップ403)。この位相上限値は、事前に設定されている固定値であって、精度の高い測定が行える位相差の上限値である。位相差の平均が位相上限値よりも大きい場合には(ステップ403でYES)、積分時間T及び微分時間Tを現状の値から一定量だけ減少した値に修正する(ステップ404)。積分時間Tと微分時間Tの割合が6対1になるように設定することは上記のとおりである。以上のように積分時間T及び微分時間Tを減少させることで、操作量MVの変動と測定光量PVの変動の位相差が小さくなる。一方、位相差の平均が位相上限値よりも小さい場合には(ステップ403でNO)、ステップ405へ進む。なお、位相上限値は、140〜150度であるのが望ましく、144度であるのがより望ましい。位相差が144度を超えると、操作量MVの変化に対する測定光量PVの応答性が遅くなり、適切な制御が行えなくなる結果、測定精度が低下するからである。
【0040】
ステップ405では、位相差の平均が位相下限値よりも小さいか否かを判断する。位相差の平均が位相下限値よりも小さい場合には(ステップ405でYES)、積分時間T及び微分時間Tを現状の値から一定量だけ増加した値に修正する(ステップ406)。積分時間T及び微分時間Tを増加させることで、操作量MVの変動と測定光量PVの変動の位相差が大きくなる。なお、位相下限値は、30〜40度であるのが望ましく、36度であることがより望ましい。位相差が36度を下回ると、安定性が低下し、適切な制御が行えなくなる結果、測定精度が低下するからである。一方、位相差の平均が位相下限値よりも大きい場合には(ステップ405でNO)、ステップ402へ戻り、上記のステップを繰り返す。
【0041】
このように、上記の各ステップを繰り返すことにより、操作量MVの変化と測定光量PVの変化との位相差は、位相下限値から位相上限値の範囲に入り、この範囲に入った状態を維持することができる。上記の位相差がこの範囲に入ることにより、精度の高い測定を行うことができる。
【0042】
本実施形態に係るPID定数(比例ゲインK、積分時間T、及び微分時間T)の設定方法によれば、上述した正規化値や位相差が所定の範囲から外れた場合、それが何に起因するかにかかわらず、PID定数が修正される。そのため、想定していない条件の変化を含む様々な測定条件の変化が生じたとしても、適切なPID定数に修正することができる。また、本実施形態に係るPID定数の設定方法によれば、露点温度の測定を行いながらPID定数を修正できるため、測定条件が刻々と変化する場合であっても、これに対応して適切なPID定数に修正することができる。
【0043】
(PID定数修正の効果)
次に、図5を参照して、本実施形態に係るPID定数の修正の効果について説明する。図5は、測温部30が計測した反射鏡10の温度の時間変化を示した図である。つまり、鏡面冷却式露点計100によって測定される露点温度の時間変化を示した図である。なお、試験に用いた被測定気体101の露点温度は実際には変化していない。露点温度の振れは、PID制御によるものである。図5のうちグラフの左側にあたる10〜30秒の部分は上述したPID定数の修正が行われていないときの結果を示しており、グラフの右側にあたる30〜80秒の部分は上述したPID定数の修正が行われているときの結果を示している。上述したように、本実施形態では、PID定数の初期値は、被測定気体101が空気であって、気圧が標準大気圧、温度が24°C、流量が毎分1リットルという測定条件の下、適切であるとする値に設定されている。
【0044】
この状況で、被測定気体101の流量を毎分2リットルにすると、グラフの左側に示すように、測定された露点温度が比較的大きく振れる。被測定気体101の状態が、予定している測定条件(流量条件)とは異なるからである。ところが、本実施形態に係るPID定数の修正が行われると、図5のグラフの右側に示すように、PID定数の修正が行われていない場合に比べ、測定された露点温度が安定する。以上のような実験結果からも、上述したPID定数の修正が精度の高い露点温度の測定に非常に有効であることがわかる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について図を参照して説明したが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、温度表示部31を有しておらず、反射鏡10の温度のデータ(露点温度データ)が記憶装置に記憶されるような鏡面冷却式露点計であっても、本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る鏡面冷却式露点計によれば、様々な測定条件が刻々と変化する場合であっても、PID定数を適切に修正することができる。よって、鏡面冷却式露点計の技術分野において有益である。
【符号の説明】
【0047】
10 反射鏡
20 調温部
30 測温部
40 投光部
50 受光部
60 制御部
100 鏡面冷却式露点計
101 被測定気体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定気体中に配置される反射鏡と、
前記反射鏡を冷却して表面に結露を生じさせる調温部と、
前記反射鏡の温度を測定する測温部と、
前記反射鏡の表面に照射光を発する投光部と、
前記反射鏡の表面で反射した前記照射光を受光する受光部と、
PID制御により、前記受光部が受光する前記照射光の測定光量が目標光量になるよう前記調温部に対する操作量を算出し、その操作量に基づいて前記調温部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記操作量の振幅を前記PID制御の比例ゲインで割ったものが所定の振幅上限値よりも大きい場合には前記比例ゲインを減少させ、前記操作量の振幅を前記比例ゲインで割ったものが所定の振幅下限値よりも小さい場合には前記比例ゲインを増加させる、鏡面冷却式露点計。
【請求項2】
前記振幅上限値及び前記振幅下限値はいずれも固定値である、請求項1に記載の鏡面冷却式露点計。
【請求項3】
前記制御部は、前記操作量と前記測定光量の位相差が位相上限値よりも大きい場合には前記PID制御の積分時間及び微分時間を減少させ、前記位相差が位相下限値よりも小さい場合には前記積分時間及び前記微分時間を増加させる、請求項1又は2に記載の鏡面冷却式露点計。
【請求項4】
前記微分時間は前記積分時間の6分の1となるように設定される、請求項3に記載の鏡面冷却式露点計。
【請求項5】
前記位相下限値は30〜40度であり、前記位相上限は140〜150度である、請求項3又は4に記載の鏡面冷却式露点計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−19870(P2013−19870A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155860(P2011−155860)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(307024244)神栄テクノロジー株式会社 (4)
【Fターム(参考)】