説明

長体複合センサ

【課題】長体の局所的な変形により生じる見かけの曲げひずみを排除すると共に、三次元空間の状態量を合理的に再現するのに必要な情報を得ることができるようにする。
【解決手段】肉厚1〜2mmのアルミ管またはステンレス管1の表面を切削し、ひずみゲージ2を貼り付ける位置(周方向4箇所、軸方向50cm間隔)のアルミ管1の肉厚部を切削して中立面を露出させ、ひずみゲージ2を軸方向に平行及び軸に対して直角方向及び斜め(45度)の方向に感度を持つように貼り付け、エポキシ樹脂で切削部を充填し、アルミ管1表面を滑らかな状態に成形した。ひずみゲージが長体の表面に露出していないため、外力がひずみゲージに直接作用することがなく、見かけの曲げひずみを拾うことがないため、高い精度の長体センサが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地滑り等の地盤の変動や構造物状態量を測定するために長さが太さより大きい中空体(パイプ)あるいは中実体(以下、長体という)に変位センサ、傾斜センサ、ひずみセンサ等の長体の形状やその高階微分に関連する物理量を計測するためのセンサを多数配置した複合センサ(以下、長体複合センサという)に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の変動を計測するため、断面が薄肉円形の長体(通常肉厚1〜2mmのアルミ管、ステンレス管もしくは肉厚4〜5mmの塩化ビニール管)などの表面または内面にひずみセンサを長体の軸方向に複数貼り付けたセンサは、長体の肉厚が薄いために局所変形の際に肉厚部の中立面を中心に両側の表面で符号が反対でほぼ同じ大きさのひずみが生じることが判明している。
【0003】
図2に示すように肉厚2mm、長さ約60cmのアルミ管の外側にひずみゲージ1、4を上下面に貼り付けた試験体Aと管の内面側の上下面にひずみゲージ2、3を対に貼り付けた試験体Bを準備し、この試験体AとBを図3に示すように保持し、ビー玉を介して9.8Nの集中荷重を試験体の端部から2cm毎に順に移動させて負荷をかけてひずみゲージの値を測定した。なお、貼り付け時の初期ひずみは補正して測定をおこなった。その結果を表1及び図4に示す。
【0004】
【表1】

ひずみ計測結果
【0005】
荷重がひずみゲージ2に近づくと、 ひずみ値は徐々に増加し、荷重がひずみゲージ2の位置に作用したとき最大となり、荷重がひずみゲージ2の位置を通り過ぎると再び減少していく。このとき、アルミ管の下側(ゲージ3、ゲージ4)のデータは、引張状態を示し、両者はほぼ同じ値で滑らかに変化している。
アルミ管の上側(ゲージ1、ゲージ2)のデータは圧縮状態を示すが、ひずみゲージ自体の上に荷重が作用するとその前後の状態から急激に変化を示し、不連続となる。このことは、荷重が集中荷重として作用するとアルミ管は局所的に変形するがその局所変形はアルミ管の反対側の肉厚部には及ばず、その荷重による広域的な曲げ変形のみに影響が生じること示している。
【0006】
以上のように、パイプひずみ計と称して塩化ビニール管等の長体の表面にひずみゲージを対面に一定間隔に貼り付けたものがあるが、パイプに作用する荷重による全体的な曲げに伴うひずみの他に肉厚部に生じる局所的な変形に伴うひずみによる見かけ曲げひずみを生じさせることから誤差が大きく発生し、曲げひずみから変位を求めることになり精度が十分に得られず、実用性の高い長体センサとはなり得なかった。
更に、従来は長体の軸方向にひずみゲージの感度が生じるように貼り付けされたものであり、三次元の変形を再現できるすべての情報が取れるものではなかった。
【特許文献1】特開2002−168613号公報
【特許文献2】特開2003−214812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、前記の長体の局所的な変形により生じる見かけの曲げひずみを排除すると共に、三次元空間の状態量を合理的に再現するのに必要な情報を得ることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
断面薄肉円形の長体の肉厚部の中立面にひずみゲージを埋設し、応力が伝達するように適宜の媒質で充填することによって、局所変形による影響は排除できることから、ひずみゲージを長体肉厚部の中立面に設置するものである。
また、長体の軸に対してひずみゲージを傾斜させて設置することによって三次元空間的変形に対応できるようにしたものである。
更には、局所的な集中荷重がひずみゲージ等のセンサに作用しないようにするために、ひずみゲージ等のセンサを貼り付けた長体を被覆する外管を採用し、外管と長体センサをスペーサで力学的に連結したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に示すように、肉厚1〜2mmのアルミ管またはステンレス管を使用し、ひずみゲージを貼り付ける位置(周方向4箇所、軸方向50cm間隔)のアルミ管1の肉厚部を切削して中立面を露出させ、ひずみゲージ2を軸方向に平行及び軸に対して直角方向及び斜め(45度)の方向に感度を持つように貼り付け、エポキシ樹脂で切削部を充填し、アルミ管1表面を滑らかな状態に成形した。
【0010】
ひずみゲージが長体の表面に露出していないため、外力がひずみゲージに直接作用することがなく、見かけの曲げひずみをひずみセンサが拾うことがないため、高い精度の長体センサが得られる。
【0011】
また、長体の状態、すなわち、空間曲線の形状を決めるには一般に曲線の長さをパラメータに持つ曲線表現においては各位置において曲率と捩率を与える必要がある。また、空間曲線は、xy面とyz面に投影された曲線の曲率によっても決定できる。したがって、捩れがなければ上下左右に長軸方向に貼り付けしたひずみゲージ(以下、長手ゲージと呼ぶ)によってそれぞれ、xy面とyz面上の投影曲線の曲率を求めることができる。
【0012】
一般には捩れが発生するために、xy面とyz面上の投影曲線の曲率が正しくは求まらない。そこで、長体の軸方向と直交する方向と斜め方向にひずみゲージ(以下、それぞれ、直交ゲージ、斜めゲージと呼ぶ)を貼り付けすることによって、捩れ後の垂直・水平方向の伸びひずみ(以下、捩れ後垂直水平ひずみと呼ぶ)と捩れ後の長手ゲージ、斜めゲージ及び直交ゲージのひずみ(以下、捩れ後生ひずみと呼ぶ)の間に写像関係があることから、両者の関係を4行12列のマトリクス[A]で表すことができる。
【0013】
すなわち、{捩れ後垂直水平ひずみ}T=[A]{捩れ後生ひずみ}Tとなる。
この捩れ後垂直水平ひずみにより、xy面とyz面上の投影曲線の曲率が求まり、空間曲線形状が再現できるのであり、長体の三次元的状態量を的確に把握することができるのである。
【0014】
図5に示す例は、長体に貼り付けたひずみゲージ2に外力が直接作用することがないように外管5で長体センサを保護したものであり、外管5と長体センサとの力学的連結は、長体センサの長手方向の適宜間隔(0.5〜1.5m)に設けたスペーサ51によっておこなう。
スペーサ51は超高分子量ポリエチレンなど、剛性が高く表面が滑らかな材質のものを使用する。
【産業上の利用可能性】
【0015】
ひずみゲージが長体を構成するアルミ管などの中立面に埋設されたり、または、外管によって保護されており、長体センサの表面に露出していないため、外力がひずみゲージ等のセンサに直接作用することがなく、見かけの曲げひずみをひずみセンサが拾うことがないため、高い精度の長体センサが得られる。
また、長体の軸に対してひずみゲージを傾斜させて設置することによって三次元空間的変形に対応できるようになったものであり、地滑り等の地盤の変形を的確に計測できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】長体複合センサの概念図。
【図2】ひずみゲージ取付断面図。
【図3】局所荷重影響の計測実験模式図。
【図4】局所荷重影響実験の計測結果。
【図5】外管で長体を保護した長体複合センサの断面図。
【符号の説明】
【0017】
1 アルミ管(長体)
2 ひずみゲージ
5 外管
51 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長体の肉厚内の中立面に複数のひずみゲージが軸方向に離散的に埋め込まれている長体複合センサ。
【請求項2】
長体の肉厚内の中立面に複数のひずみゲージが軸方向に離散的に埋め込まれており、ひずみセンサが長体の軸に対して傾斜させてある長体複合センサ。
【請求項3】
請求項2において、ひずみゲージの列が複数である長体複合センサ。
【請求項4】
ひずみゲージ等のセンサを貼り付けた長体を外管で被覆し、外管と長体をスペーサで力学的に連結した長体複合センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−10455(P2006−10455A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186735(P2004−186735)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(397057186)五大開発株式会社 (4)
【Fターム(参考)】