説明

長尺傾斜位相差フィルム、長尺傾斜位相差フィルムの製造方法、偏光板および液晶表示装置

【課題】本発明は、平面性が高く、均一性の高い長尺傾斜位相差フィルム、および該長尺傾斜位相差フィルムの汎用性ある製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の目的は、フィルムの長尺方向とフィルム厚み方向を含む平面における、フィルム面からの屈折率楕円体の立ち上がり角度(β)が7°〜85°であり、屈折率楕円体の面内位相差(Ro′)が10〜90nm、厚み位相差(Rt′)が70〜300nm、Rt′>Ro′であり、長尺方向および幅手方向のフィルムの面内位相差Ro、フィルムの倒れ角40度からの位相差R40、βおよびフィルムの面内遅相軸とフィルム長尺方向とのなす角度θの標準偏差がそれぞれ2nm以内、2nm以内、2°以内および2°以内であることを特徴とする長尺傾斜位相差フィルム、によって達成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示等に使用される位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
TN型液晶表示装置(LCD)は汎用の二軸位相差フィルムを用いると上下の視野角が十分には広がらず、パソコンなどのモニターとしては改善が必要であった。
【0003】
それに対して特許文献1ではポリカーボネートフィルムに金属ロールや金属ベルトによるせん断をかけ、フィルム厚み方向の光軸を傾斜されることによる傾斜位相差を発現させた位相差フィルムを用いることで、上下の視野角が広がることが示されている。
【0004】
セルロースエステルフィルム、ポリイミドフィルム等でも同様に光軸を傾斜させた位相差フィルムの製造が試みられ(特許文献2、3、4)ており、同様に視野角が改善することが示されている。
【0005】
特許文献5では、固有複屈折が大きいことによる位相差の均一性が不安定なポリカーボネート、ポリエステル、セルロースエステルフィルムの代わりに、熱可塑性ノルボルネン系樹脂(ポリシクロオレフィンフィルムの一種)を使用した技術が開示されている。
【0006】
これらの製造方法による位相差フィルムを用いたTN型LCDでは、二軸位相差フィルムを用いた場合に不足している上下の視野角を改善する効果があるものの、黒表示にすると不均一にムラが発生することが問題となっている。
【0007】
不均一の原因は、せん断加工においてフィルムに対して金属ローラや金属ベルトの当たり方自体が不均一であることによるものであると考えられている。
【0008】
短時間でせん断加工処理を行う金属ローラ方式では、フィルムと金属ローラの接触時間が非常に短いにもかかわらず、その時間内で傾斜配向処理を行わねばならず、処理方法自体が不均一を生み易い方法となっている。
【0009】
また、広幅化や生産速度を上げるためには、処理の際の圧力を非常に高くする必要があり、設備の負担が非常に大きくなる方法でもあった。金属ベルトを使用する場合でも生産速度を上げる場合には処理の際の圧力を非常に高くする必要があり、同様の問題が発生する。
【0010】
それに対し、基材表面に液晶分子を塗布し、傾斜もしくはハイブリッド配向させた光学補償フィルムが知られている(特許文献6)。この光学補償フィルムを用いることで黒表示のムラはある程度の改善があるものの、製造工程が複雑であることや、塗布故障や配向欠陥が発生し歩留まりが悪いなどの問題があり、必ずしも汎用性のある製造方法とはいうことはできない。
【0011】
一方、特許文献3、7では、透光性フィルムの表裏に熱収縮性フィルムを設け、その収縮率差を利用して収縮力を伝達させ位相差を制御する光学補償フィルムが開示されている。これらは基材の収縮をさせる際に一方向への収縮するため、基材の一端を固定した状態で延伸(固定端延伸法)するとされている。
【0012】
この方法では、上記金属ローラ方式と比較して傾斜角度や配向角の均一性はある程度改善されたが、傾斜角度・傾斜方向を一定方向にするための幅手方向の収縮制御がなされていなかったため、結果的に幅手方向の傾斜角度や配向角、特に配向角の均一性が不十分であった。この不均一性は、液晶表示装置において黒表示のムラとして認識される。
【0013】
近年液晶表示装置の高輝度化、高コントラスト化により、TN型LCDに用いる位相差フィルムも幅手方向における配向角の均一性が強く求められていた。
【0014】
特許文献8には積層体を幅手方向に延伸して製造する位相差フィルムが開示されているが、複屈折発現層であるポリイミド層に対して、下の層の硬さが不十分であるために、傾斜配向していない。
【0015】
特許文献9には、固有複屈折が正と負の材料の積層体を逐次二軸延伸して製造する位相差フィルムが開示されているが、幅手方向への延伸倍率が大きすぎるために傾斜配向しておらず、また均一性の観点からも十分なものを得ることができていなかった。
【0016】
特許文献10には、置換度の異なるセルロースアセテート積層体の位相差調整するために幅手方向に延伸する方法が開示されているが、表裏の硬さの差が不十分であるために、傾斜配向していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2003−25414号公報
【特許文献2】特開2003−315557号公報
【特許文献3】特開平9−33908号公報
【特許文献4】特開2005−17328号公報
【特許文献5】特開2007−38646号公報
【特許文献6】特開2009−98662号公報
【特許文献7】特開平9−318815号公報
【特許文献8】特許第4044485号公報
【特許文献9】特開2009−192845号公報
【特許文献10】特開2002−192656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、平面性が高く、均一性の高い長尺傾斜位相差フィルム、および該長尺傾斜位相差フィルムの汎用性ある製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、下記手段によって達成された。
【0020】
1.フィルムの長尺方向とフィルム厚み方向を含む平面における、フィルム面からの屈折率楕円体の立ち上がり角度(β)が7°〜85°であり、屈折率楕円体の面内位相差(Ro′)が10〜90nm、厚み位相差(Rt′)が70〜300nm、Rt′>Ro′であり、長尺方向および幅手方向のフィルムの面内位相差Ro、フィルムの倒れ角40度からの位相差R40、βおよびフィルムの面内遅相軸とフィルム長尺方向とのなす角度θの標準偏差がそれぞれ2nm以内、2nm以内、2°以内および2°以内であることを特徴とする長尺傾斜位相差フィルム。
【0021】
2.フィルムの面内遅相軸と長尺方向が直交していることを特徴とする前記1に記載の長尺傾斜位相差フィルム。
【0022】
3.傾斜配向処理後の長尺方向および幅手方向の膜厚最大高低差が3μm以内であることを特徴とする前記1または2に記載の長尺傾斜位相差フィルム。
【0023】
4.前記1〜3のいずれか1項に記載の長尺傾斜位相差フィルムの製造方法において、複屈折発現性が0.3nm/μm〜20nm/μmであるフィルムを、一方の面の弾性率(εA)ともう一方の面の弾性率(εB)が、εA<εBの場合には、0.001<εA/εB<0.7を満たす状態で幅手方向に1〜25%の延伸倍率で延伸することにより製造したことを特徴とする長尺傾斜位相差フィルムの製造方法。
【0024】
5.前記1〜3のいずれか1項に記載の長尺傾斜位相差フィルムの製造方法において、複屈折発現性が0.3nm/μm〜20nm/μmである複屈折発現層を含む積層フィルムを、一方の面の弾性率(εA)ともう一方の面の弾性率(εB)が、εA<εBの場合には、0.001<εA/εB<0.7を満たす状態で幅手方向に1〜25%延伸倍率で延伸することを特徴とする、長尺傾斜位相差フィルムの製造方法。
【0025】
6.幅手方向への延伸倍率が1〜10%であることを特徴とする前記4または5に記載の長尺傾斜位相差フィルムの製造方法。
【0026】
7.前記1〜3のいずれか1項に記載の長尺傾斜位相差フィルムを有することを特徴とする偏光板。
【0027】
8.前記1〜3のいずれか1項に記載の長尺傾斜位相差フィルムを、液晶セルと偏光子の間に配置したことを特徴とするツイストネマチック(TN)型液晶表示装置。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、平面性が高く、かつ光学的均一性の高い長尺傾斜位相差フィルム、および該長尺傾斜位相差フィルムの汎用性ある製造方法を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のTN型液晶表示装置の模式図である。
【図2】本発明のEモードのTN型液晶表示装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明のOモードのTN型液晶表示装置の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の傾斜配向処理装置全体の概略図である。
【図5】本発明の傾斜配向に付属の延伸装置の好ましい例の一つである。
【図6】本発明のフィルムの光学軸と製造方向との関係図である。
【図7】本発明の傾斜位相差フィルムと屈折率楕円体の斜視図である。
【図8】本発明の屈折率楕円体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<本発明の長尺傾斜位相差フィルム>
本発明の長尺傾斜位相差フィルムは、フィルムの長尺方向とフィルム厚み方向を含む平面における、フィルム面からの屈折率楕円体の立ち上がり角度(β)が7°〜85°であり、屈折率楕円体の面内位相差(Ro′)が10〜90nm、厚み位相差(Rt′)が70〜300nm、Rt′>Ro′であり、面内位相差Ro、フィルムの倒れ角40度からの位相差R40、βおよびフィルムの面内遅相軸とフィルム長尺方向とのなす角度θの長尺方向および幅手方向のフィルムの標準偏差がそれぞれ2nm以内、2nm以内、2°以内および2°以内であることを特徴とする。
【0031】
そしてこの特徴的な本発明の長尺傾斜位相差フィルムは、傾斜配向処理するにあたって、フィルムの一方の面ともう一方の面の硬さが異なる状態で傾斜配向処理(以下、傾斜配向処理ともいう)して製造することを特徴とする。硬さは、処理を行う際の弾性率で表すことができる。
【0032】
本発明の傾斜配向処理を満足するものとするためには、複屈折の発現性が必要であり、これは傾斜配向処理を行う温度領域でフィルムに与える応力に対する位相差発現性が効率よく発揮され、また位相差の絶対値が所望の値となる必要がある。
【0033】
本発明の傾斜配向処理のためにはフィルムを長尺方向に搬送しながら、幅手方向へ1〜25%以内、好ましくは1〜10%以内で延伸することにより、長尺方向に変形力を働かせることが有効である。
【0034】
本発明は、フィルムの表裏に硬さの差を付与し、幅手方向へわずかに延伸させることにより、複屈折発現性を有するフィルムの軸を安定的に、効率よく傾斜させることを可能にしたものである。
【0035】
以下、本発明の詳細を説明する。
<傾斜位相差フィルムの長尺方向とフィルムの厚み方向を含む平面における、フィルム面からの屈折率楕円体の立ち上がり角度β、配向角θ>
本発明においてはβが7°〜85°であり、好ましくは、15°〜45°である。
【0036】
またフィルムの面内遅相軸と長尺方向は直交していてもいなくてもよい。なお、ここでいう直交とは、真実の直交±5°である実質的に直交であることをいう。
【0037】
βおよびθの、長尺方向および幅手方向での標準偏差は、それぞれ2°以内および2°以内である。βおよびθの標準偏差は下記のようにして算出した。
<βの標準偏差の算出方法>
〈βの算出方法〉
−40〜40°の倒れ角で5°刻みの位相差を測定する。その際、フィルムの長手方向を回転中心として−40〜40°の倒れ角で位相差を測定したデータと、幅手方向を測定の回転中心にして測定したデータをとり、倒れ角(横軸)に対して位相差(縦軸)をプロットしたグラフをそれぞれ描く。
【0038】
そのうち、0°を中心に対称となっていない方のグラフ(幅手方向を回転中心として測定したグラフ)において、位相差が極値をとっている倒れ角の値を読み取り、その角度をβとする。
【0039】
このように−40〜40°の倒れ角で位相差を測定する装置としては、例えば溝尻光学工業所(株)製の微小領域複屈折測定装置、王子計測機器(株)製のKOBRA−21ADH、Axometrics社製のAxoScanなど、一般的に市販されている位相差(複屈折)測定装置が挙げられる。
【0040】
幅手方向(TD方向)としては同じ位置で長尺方向(MD方向)に測定ピッチ0.5mmで500点において、測定波長632nm、測定スポット径100μm以下で上記のように位相差測定を行って算出したβの標準偏差σMD[°]を長尺方向でのβの標準偏差と定義する。
【0041】
また、長尺方向(MD方向)としては同じ位置で、幅手方向(TD方向)に測定ピッチ0.5mmで500点において、測定波長632nm、測定スポット径100μm以下で上記のように算出したβの標準偏差σTD[°]を幅手方向でのβの標準偏差と定義する。
【0042】
このようにβの標準偏差σ[°]の算出に用いることのできる位相差測定装置としては、例えば溝尻光学工業所(株)製の微小領域複屈折測定装置をあげることができる。
【0043】
〈屈折率楕円体のRo′、Rt′〉
本発明の屈折率楕円体の面内位相差値(Ro′)および厚み方向の位相差値(Rt′)は、Rt′>Ro′、10≦Ro′≦90nmかつ70≦Rt′≦300nmであリ、より好ましくは20≦Ro′≦80nmかつ100≦Rt′≦200nmである。
【0044】
なお位相差値Ro′、Rt′は以下の式によって求めることができる。
【0045】
Ro′=(nx′−ny′)×d
Rt′=((nx′+ny′)/2−nz′)×d
dはフィルムの厚さ(nm)である。
【0046】
x′は、屈折率楕円体のz′と直交する平面のうち屈折率が最大となる方向軸でありnx′は、x′方向の屈折率である。
【0047】
y′は、屈折率楕円体のz′と直交する平面のうち屈折率が最小となる方向軸でありny′は、y′方向の屈折率である。
【0048】
z′は、屈折率楕円体の厚み方向軸でありnz′は、z方向の屈折率である。
【0049】
〈屈折率楕円体のRo′の算出方法〉
測定点において−40〜40°の倒れ角で位相差を測定する。その際、幅手方向を測定の回転中心にして測定したデータをとり、倒れ角(横軸)に対して位相差(縦軸)をプロットしたグラフを描く。
【0050】
そのグラフにおいて、極値をとっている倒れ角βでの位相差値を読み取り、その位相差値を屈折率楕円体のRo′と定義する。
【0051】
〈屈折率楕円体のRt′の算出方法〉
上記βおよびRo′の算出時に使用した0°中心に対称となっていないグラフ(幅手方向を回転中心として測定したグラフ)において、β+40°あるいはβ−40°の位相差値を、屈折率楕円体のR40′と定義する。
【0052】
Ro′の値、R40′の値、フィルム膜厚d(nm)、フィルムの平均屈折率値、市販の計算ソフト「N−Calc」により屈折率楕円体のz′方向と直交する平面のうち、屈折率が最大となる方向(x′)、屈折率楕円体のz′方向と直交する平面のうち、屈折率が最小となる方向(y′)、厚み方向(z′)における屈折率(nx′、ny′、nz′)を求める。得られたnx′、ny′、nz′の値から、上記式に従って屈折率楕円体の厚み方向位相差値Rt′を算出した。
<傾斜位相差フィルムのRo、Rt、θ、R40>
本発明の傾斜位相差フィルムの面内位相差値(Ro)および厚み方向の位相差値(Rt)は、10≦Ro≦180nm、70≦Rt≦300nmである。
【0053】
なお位相差値Ro、Rtは以下の式によって求めることができる。
【0054】
Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
dはフィルムの厚さ(nm)である。
【0055】
xは、フィルム面内で屈折率が最大となる方向軸(面内遅相軸)であり、nxはx方向の屈折率である。
【0056】
yは、フィルム面内で屈折率が最小となる方向軸(面内進相軸)であり、nyはy方向の屈折率である。
【0057】
zは、フィルムの厚み方向軸であり、nzはz方向の屈折率である。
【0058】
θは、長尺フィルムの長尺方向を基準とし、この基準ラインから、フィルムの面内遅相軸が何度ずれているかを示す。基準ラインから時計周りに角度を定義した。
【0059】
R40は、上記βの算出の際に描いた、回転中心が長手方向のものと幅手方向のものの2つのグラフのうち、0°を中心に対称になっているグラフ(長手方向を回転中心として測定した倒れ角vs位相差値のグラフ)において、倒れ角40°での位相差値を示す。
【0060】
これらRo、R40、θの標準偏差は、フィルム面に対し、測定波長632nmで測定スポット径100μm以下、測定ピッチ0.5mmで、幅手方向(TD方向)としては同じ位置で長尺方向(MD方向)に500点において、上記の通りにフィルムのRo、R40、θを測定して長尺方向での標準偏差σMD[°]を算出した。
【0061】
これをフィルムのRoの長尺方向での標準偏差、R40の長尺方向での標準偏差、θの長尺方向での標準偏差と定義する。
【0062】
上述の位相差値は、市販の自動複屈折計を用いて測定することができる。例えば、溝尻光学工業所(株)製の微小領域複屈折測定装置、王子計測機器(株)製のKOBRA−21ADH、Axometrics社製のAxoScanが挙げられる。標準偏差は、自動複屈折率計を用いて、23℃、55%RHの環境下、測定波長632nm、測定スポット径100μm以下で測定することができる。例えば、溝尻光学工業所(株)製の微小領域複屈折測定装置などが挙げられる。
【0063】
本発明の長尺傾斜位相差フィルムにおいては、長尺方向および幅手方向のRo、R40の標準偏差がいずれも2nm以内である。長尺方向および幅手方向のRo、R40、β、θの標準偏差を上記の範囲にすることで、液晶表示装置の黒表示時に起こる光漏れの不均一さ(あるいは、画面ムラ、コントラストムラともいう)を改善させることができる。
<位相差フィルム表裏面の弾性率の調整>
本発明の位相差フィルムは、傾斜配向処理時に表裏の硬さ、具体的には弾性率の差を持たせることを特徴とする。その具体的な手段としては、弾性率の異なるフィルムを積層する方法、傾斜配向処理する際のフィルム表裏の温度差をつける方法、フィルムを溶液流延製膜する際の残留溶媒量を調整する方法などが挙げられる。
【0064】
本発明においては、長尺傾斜位相差フィルムの一方の面の弾性率εA、もう一方の面の弾性率εBとには、εA<εBかつ、0.001<εA/εB<0.7の関係があることが好ましい。
【0065】
弾性率の異なるフィルムを積層する方法としては、樹脂、添加剤などを変えた層を積層する方法を選択することができ、積層方法としては、共流延、共押出し、ダブルキャスト、貼合などの方法を用いることができる。
【0066】
また、良溶媒を塗布してフィルム表面を溶解させ、貼合させることもでき、光学フィルムの製膜時の残溶媒状態で貼合することもできる。また、既に製膜したフィルムの片面、または両面に樹脂、添加剤を含む塗布液をコーティングすることもできる。
【0067】
これらの手段を用いる際に、フィルムとフィルムの界面の接着層は、できるだけ薄い方が好ましい。例えば、上記の手段で形成される接着層のいずれも20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
【0068】
本発明における、傾斜配向処理に必要な表裏の弾性率の差を積層により持たせる場合、ガラス転移温度の差を利用して実質的に弾性率の差を持たせることもできる。その場合ガラス転移温度の差が5℃以上、好ましくは20℃以上150℃以下である層を二層以上積層させることが好ましい。
【0069】
積層によって表裏の弾性率差を持たせた場合、本発明の傾斜配向処理後に一方の層を剥離しても良いし、剥離しなくてもよい。剥離しない場合には、無色透明で光学値調整されたものを積層することが好ましい。
【0070】
ガラス転移点は、DSC法(JIS C 6481)を用いて、試験片を室温から20℃/分の割合で昇温させ、示差走査熱量計にて発熱量を測定し、その結果得られる吸熱曲線(発熱曲線)に2本の延長線を引き、延長線間の1/2直線と吸熱曲線の交点からTgが求められる。
【0071】
単一のフィルムで実施する場合には、傾斜配向処理する際のフィルム表裏の温度差による方法、フィルムを溶液流延する際の残留溶媒量を調整する方法を採用することができる。フィルム表裏に温度の異なる風を当てたり、温度の異なるロールを接触させたりすることで、温度差をつけることができる。フィルムの表裏の温度差は20〜150℃の範囲内であることが好ましい。
【0072】
溶液流延製膜法の場合、フィルム表裏の乾燥速度を変化させて残留溶媒量を変化させる方法以外にも、乾燥速度を制御して厚み方向で可塑剤の含有量を変化させる方法を用いこともできる。
【0073】
フィルム表裏の残留溶媒量差は、1〜150質量%の範囲内であることが好ましい。残留溶媒量差を制御する手段としては、表裏での乾燥風の温度や風量を変えるか、溶媒量の異なる成分を積層する手段がある。
【0074】
また、既に製膜したフィルムの片面、または両面に樹脂、添加剤を含む塗布液をコーティングすることもできるし、溶媒量の異なる樹脂、添加剤を含む複数の液を用いて、ダブルキャストまたは共流延製膜方法にて積層する手段もある。
【0075】
表裏での残留溶媒量は、積層体の場合は夫々の単一層での残留溶媒量を、単一層の場合は、表裏各条件での乾燥条件を、それぞれの条件に固定して両面に対して行い、残留溶媒量を測定する。
【0076】
残留溶媒量は、以下の定義とする。
【0077】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの傾斜配向処理開始時点での質量、Nは質量Mのものを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0078】
上記方法によって調整した弾性率は、下記方法によって測定することができる。なお、本発明における弾性率とは、引張弾性率をいう。
1)弾性率の異なるフィルムを積層する方法
1層目、2層目それぞれについての単層フィルムのガラス転移温度を測定し、Tg1、Tg2(Tg1>Tg2)とする。23℃、50±5%RHの条件で、24時間以上試料を放置し、その後フィルムの長尺方向(走行方向=縦方向)が長手となるように幅10mm×長さ200mmにカットし、チャッキング圧:0.25MPa、標線間距離:50±10mmで、上記各試料をセットし、傾斜配向ゾーンの設定温度T2℃にて、引っ張り速度:50±10mm/分の速度で引っ張る。
【0079】
得られたS−Sカーブの歪み1%〜1.5%における曲線の接線を外挿し、その傾きを弾性率とする。
2)フィルム表裏の温度差をつける方法
表面に付与する温度と、裏面に付与する温度における原反フィルムの弾性率を1)と同様の方法で測定する。
3)フィルム表裏の乾燥速度を変化させて残留溶媒量を変化させる方法
フィルム表面側からの乾燥条件でフィルム両面を乾燥した試料1を作製する。ついでフィルム裏面側からの乾燥条件でフィルム両面を乾燥した試料2を作製する。DSCにより試料1、2のそれぞれのTg1およびTg2(Tg1>Tg2)を測定する。それぞれのフィルムを傾斜配向ゾーンの設定温度T2℃の温度で1)と同様の方法で、弾性率を算出する。
<原反フィルムの位相差>
本発明において、傾斜配向処理する直前のフィルムを原反フィルムと呼ぶ。
【0080】
本発明の原反フィルムの位相差は、例えば0≦Ro≦100nm、0≦Rt≦180nmを満たす光学フィルムで、本発明の傾斜配向処理を施すことで、その位相差板の屈折率楕円体が位相差板の膜面に対して傾斜した位相差フィルムを得ることができる。
【0081】
本発明の位相差フィルムを実現できる材料として、光学用途として使用することができる全ての透明フィルムを使用することができるが、セルロースエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルムおよびポリアクリレートフィルム、ポリシクロオレフィン系フィルム、ポリイミドフィルム、アクリル系フィルム、ポリエチレン系フィルムから選ばれるものが好ましい。さらには、添加剤により位相差発現性を向上させてもよい。
【0082】
例えば、特開2000−111914号、特開2002−62430号、特開2005−99191号、特開2008−64941号に記載のリターデーション上昇剤を添加することで、位相差発現性を向上させることができる。あるいは、処理温度を所定の範囲内で低くすることで高い位相差発現性を持たせることも可能である。さらには後延伸温度によっても位相差制御を行うことができ、この場合低温化することで位相差発現性を高くすることができる。
<位相差発現性>
本発明の位相差発現性とは、位相差フィルム1μm当たりの厚みで発現することができる位相差の程度をいい、0.3〜20nm/μmの範囲であり、0.5〜5nm/μmが好ましい。
【0083】
位相差の発現は、原反フィルムを形成する材料に力(例えば、単なる製膜、延伸処理、搬送張力等)を付加し傾斜位相差フィルムとすることによって可能となる。
【0084】
位相差発現性は以下の方法で測定することができる。
【0085】
原反フィルムが積層型フィルムの場合、その単層フィルムをそれぞれ作製する。
【0086】
DSCにより、それぞれのTgを測定し、Tgの低い方のフィルムを決め、フィルムAとする。23℃、55%RHの環境下で、フィルムAを24時間放置し、測定波長590nmでのRoを測定しRo(1)とする。また膜厚を測定し、d(1)とする。
【0087】
引っ張り試験器(ミネベア(株)製、TG−2KN)を用い、チャッキング圧:0.25MPa、標線間距離:50±10mmで、上記各試料をセットし、傾斜配向ゾーンの設定温度T2℃で、引っ張り速度:50±10mm/分の速度で、長手方向に延伸倍率1.4倍で延伸し、その試料について膜厚d(2)、Ro(2)を測定する。
【0088】
なお、延伸方向の寸法変化率とフィルム中央部の延伸する方向と直交する方向の寸法変化率の絶対値を足したものを、実延伸倍率と定義し、実延伸倍率が1.4倍となるように調整する。
【0089】
そして、位相差発現性=Ro(2)/d(2)−Ro(1)/d(1)と定義する。
【0090】
また原反フィルムが積層体の場合には、単層各々の位相差発現性を足し合わせたものを、原反フィルムの位相差発現性とする。
<傾斜配向処理>
本発明の長尺傾斜位相差フィルムは、原反フィルムを傾斜配向処理することにより製造することができる。
【0091】
本発明の傾斜配向処理に用いることのできる傾斜配向処理装置は、基本ゾーン(工程)として予熱ゾーン、傾斜配向ゾーン、固定ゾーンを有しており、3つのゾーンにおいて幅手方向を担持しながら長尺方向に搬送することができ、傾斜配向ゾーンと固定ゾーンにおいては、幅手方向のフィルム幅を任意に設定できる手段を備えている。
【0092】
本発明においては、傾斜配向ゾーンにおいて幅手方向(TD方向)に延伸を行い、その延伸によってフィルムの長尺方向に発生する変形力を利用して、本発明の長尺傾斜位相差フィルムを得ることができることを特徴とする。
【0093】
本発明の予熱ゾーンとは、原反フィルムを予熱するためのゾーンである。予熱ゾーンでは、フィルムの温度が予熱温度T1[℃]となるように、雰囲気温度の設定を適宜調整する。フィルムの温度は、ゾーンに非接触温度計を設置することによりモニターすることができる。予熱ゾーンは0.5から10秒で通過することが好ましい。
【0094】
本発明の傾斜配向ゾーンは、原反フィルムを実際に傾斜配向するためのゾーンである。
【0095】
傾斜配向ゾーンでは、フィルムの温度が傾斜配向温度T2[℃]となるように、雰囲気温度の設定を適宜調整する。また、本発明の傾斜配向ゾーンでは、長尺方向に搬送させながら幅手方向(TD方向)に延伸を行う。
【0096】
延伸倍率は傾斜配向ゾーンの終点で最大となるように設定し、傾斜配向ゾーンの終点での延伸倍率を設定倍率と定義する。設定倍率は1〜25%(1.01〜1.25倍)、さらには、1〜10%であることが好ましい。
【0097】
傾斜配向ゾーンは、0.01から10秒間通過させることが好ましく、さらには0.5から10秒通過させることが好ましい。
【0098】
本発明の固定ゾーンは、延伸による余分な応力を緩和させ、傾斜配向ゾーンでの傾斜配向状態を固定化するためのゾーンである。固定ゾーンでは、フィルムの温度が固定温度T3[℃]となるように、雰囲気温度の設定を適宜調整する。
【0099】
固定ゾーンの始点では、傾斜配向ゾーンの終点と同一のフィルム幅となるように幅手方向を担持する。固定ゾーンにおいて、フィルム幅を変化させずに傾斜配向ゾーンの終点と同一のフィルム幅のまま固定化を行ってもよいし、固定ゾーンの終点に向かって徐々にフィルム幅を狭めながら固定化を行ってもよい。
【0100】
ただしその場合には、光学値や均一性に影響しない程度の狭め幅であることが必要である。好ましくは5%以内、さらに好ましくは2%以内であることが望ましい。フィルム幅を徐々に狭めて固定化を行った場合は傾斜配向しやすくなり、βが大きくなりやすい。
【0101】
予熱温度T1[℃]と、傾斜配向温度T2[℃]と、固定温度T3[℃]は、T1=T2=T3でもよいが、T1≠T2≠T3である方が好ましい。さらには、これらの温度の関係がT1<T2<T3であることがより好ましい。
【0102】
本発明の長尺傾斜位相差フィルムを作製するためには、長尺方向(MD方向)に搬送しながら、上記の傾斜配向処理を施すことが必要である。
【0103】
本発明の製造装置において、隣り合うゾーンとは遮風板を用いて仕切する手段があり、その際遮風板は隙間を残して仕切しても良い。
【0104】
それぞれ仕切をしたゾーン内にオンライン計測表示できる温度計(例えば、非接触温度計)を設置することで温度を測定することができる。
【0105】
それぞれのゾーンの加熱・冷却方法としては、風の温度と風量を変化させる方法がある。本発明では公知の方法を利用することができる。
【0106】
(長尺方向規制)
本発明の傾斜配向処理を行うためにはMD方向に搬送するための張力をかけることが必要であるが、張力を大きくしすぎると長尺方向に延伸され、傾斜角度が小さくなってしまう。そのため、傾斜配向処理装置に進入する前と退出後において、長尺方向の寸法変化が、5%以内(0.95〜1.05倍)、好ましくは2%以内(0.98〜1.02倍)の範囲にあるように搬送張力を調整することが好ましい。
【0107】
(延伸工程)
本発明においては、傾斜配向処理の前後いずれかに延伸工程を設けても良い。この延伸工程は、長尺方向(MD方向)、幅手方向(TD方向)のいずれもすることができ、位相差フィルムとしての位相差(Ro、Rt)を調整するために設けるものである。
【0108】
延伸倍率としては、1.06〜1.30倍であり、好ましくは1.06〜1.15倍である。傾斜配向処理に影響の無い範囲で、延伸処理することが好ましい。
<その他の光学特性>
1)ヘイズ
ヘイズは、23℃55%RHの雰囲気下、日本電色株式会社製ヘイズメーターNDH2000を用いて、JIS−K7136に準じてヘイズを測定する。ヘイズは小さいほど、液晶表示装置の表示品質、特に正面CRを向上させることができる。本発明の位相差フィルムのヘイズ値は特に限定はしないが、0.1%以下が好ましく、0.05%以下がより好ましい。
2)その他のフィルム物性
(膜厚最大高低差)
FUJINON縞解析装置(FX−03、解像度512×512)を用い、測定面積を直径φ=60mmの範囲、屈折率の値を材料ごとに入力し、最大高低差を求めた。膜厚最大高低差が小さいほどフィルムの平面性が増し、偏光板作製工程でのハンドリングに優れるだけでなく、表示装置としたときの視野角特性に優れ、表示ムラを低減することができる。
<長尺傾斜位相差フィルムを形成する材料>
本発明の長尺傾斜位相差フィルムの原反フィルムとしては、前述の光学用途として使用することができる全ての透明フィルムを使用することができる。
【0109】
セルロースエステルフィルムとしては、特願2009−67724号明細書記載の光学フィルム、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UXW−RHA−C、KC8UXW−RHA−NC、KC4UXW−RHA−NC(以上コニカミノルタオプト(株)製))を挙げることができる。
【0110】
ポリシクロオレフィンフィルムとしては、特開2007−38646号明細書に記載のものを使用することができ、市販の日本ゼオン(株)製の商品名「ゼオネックス」、「ゼオノア」、JSR(株)製の商品名「アートン」、TICONA(株)製の商品名「トーパス」、三井化学(株)製の商品名「APEL」が挙げられる。
【0111】
ポリカーボネートフィルムとしては、ピュアエース、パンライト(帝人化成(株)製)、エルメック(カネカ(株))等が挙げられる。
【0112】
特開2001−343529号公報(WO01/37007号)、特開2003−315559号明細書に記載されているような、側鎖に置換イミド基または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換フェニル基または非置換フェニル基とニトリル基とを有する熱可塑性樹脂との混合物等も使用できる。具体例としては、例えば、イソブテンとN−メチレンマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物等である。
【0113】
これらの形成材料の中でも、前述の側鎖に置換イミド基または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換フェニル基または非置換フェニル基とニトリル基とを有する熱可塑性樹脂との混合物が好ましい。
【0114】
本発明の長尺傾斜位相差フィルムの厚みは、特に制限されないが、例えば、5〜500μmの範囲であり、好ましくは10〜200μmの範囲であり、特に好ましくは15〜150μmの範囲である。
【0115】
(位相差、波長分散調整剤)
本発明に好ましく用いられる位相差、波長分散調整剤の具体例としては、前述の上昇剤、特開2005−99191号明細書、特開2008−64941号明細書記載の化合物、例えばベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、シアノアクリレート系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ニッケル錯塩系化合物などや特開2000−111914号、特開2002−62430号記載の化合物が挙げられるが、本発明はこれらの化合物だけに限定されるものではない。
【0116】
(その他の添加剤)
本発明の長尺傾斜位相差フィルムには、特開2008−64941号明細書の表1に記載されているような一般的な添加剤、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、微粒子を含有させることができる。
【0117】
本発明の原反フィルムは溶融製膜法で作製することも出来る。その場合、セルロースエステルの場合には高温下では溶融と同時に熱分解によってセルロースエステルの分子量の低下が発生し、得られる光学フィルムの力学特性等に悪影響を及ぼすことがあるため、なるべく低い温度でセルロースエステルを溶融させる必要がある。
【0118】
セルロースエステルの溶融温度を低下させるためには、セルロースエステルのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度をもつ可塑剤を添加することで達成することができる。
【0119】
適する可塑剤としては、特に限定されないが、多価アルコールエステル系可塑剤が好ましい。多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0120】
多価アルコールエステルに用いられる多価アルコールは、次の一般式(1)で表される。
【0121】
一般式(1):R−(OH)
式中、Rはl価の有機基、lは2以上の正の整数、OH基はアルコール性水酸基またはフェノール性水酸基を表す。
【0122】
好ましい多価アルコールの例としては、トリメチロールプロパンが挙げることができ、多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、公知の芳香族モノカルボン酸などを用いることができ、好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸が特に好ましいが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0123】
(酸化防止剤、熱劣化防止剤)
本発明の原反フィルム作製時は、酸化防止剤、熱劣化防止剤として、通常知られている劣化防止剤(酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミンなど)を使用することができる。特に、ラクトン系、イオウ系、フェノール系、二重結合系、ヒンダードアミン系、リン系化合物のものを好ましく用いることができる。劣化防止剤については、特開平3−199201号公報、特開平5−194789号公報、特開平5−271471号公報、特開平6−107854号公報に記載がある。
【0124】
上記酸化防止剤としてフェノール系化合物としては、2,6−ジアルキルフェノールの構造を有するものが好ましく、例えば、チバ・ジャパン(株)から、Irganox1076、Irganox1010という商品名で市販されているものが好ましい。
【0125】
上記リン系化合物は、例えば、住友化学(株)から、Sumilizer−GPという商品名で市販されているものが挙げられる。
【0126】
これらの酸化防止剤、熱劣化防止剤は、一種のみを用いるよりも数種の異なった系の化合物を併用することで相乗効果を得ることができる。
<本発明の原反フィルムに用いることのできる位相差フィルムの作製>
次に、本発明において、原反フィルムの構成材料として用いることのできる位相差フィルムの製膜方法の一例として、セルロースエステルフィルムの製膜方法について説明する。
<本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法−原反フィルム化工程>
〈セルロースエステルフィルムの製造方法〉
本発明に係るセルロースエステルフィルムは溶液流延法で製造されたフィルムであっても溶融流延法で製造されたフィルムであっても好ましく用いることができる。
【0127】
溶液流延法による方法では、セルロースエステルおよび添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
【0128】
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースエステルの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
【0129】
ドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースエステルの溶解性の点で好ましい。
【0130】
良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。
【0131】
そのため、セルロースエステルの平均酢化度(アセチル基置換度)によっては、良溶剤、貧溶剤が変わり、例えばアセトンを溶剤として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶剤になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶剤となる。
【0132】
本発明に用いられる良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
【0133】
また、本発明に用いられる貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%含有していることが好ましい。
【0134】
また、セルロースエステルの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。
【0135】
回収溶剤中に、セルロースエステルに添加されている添加剤、例えば可塑剤、紫外線吸収剤、ポリマー、モノマー成分などが微量含有されていることもあるが、これらが含まれていても好ましく再利用することができるし、必要であれば精製して再利用することもできる。
【0136】
上記記載のドープを調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できる。
【0137】
溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。
【0138】
また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤あるいは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0139】
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0140】
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。
【0141】
好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
【0142】
もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることができる。
【0143】
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。
【0144】
このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
【0145】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0146】
濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
【0147】
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に光学フィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm以下であることが好ましい。
【0148】
より好ましくは100個/cm以下であり、更に好ましくは50個/m以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
【0149】
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。
【0150】
好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
【0151】
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることがさらに好ましい。
【0152】
ここで、ドープの流延について説明する。
【0153】
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
【0154】
キャストの幅は1〜4mとすることができる。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
【0155】
好ましい支持体温度は0〜55℃であり、25〜50℃が更に好ましい。あるいは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
【0156】
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
【0157】
セルロースエステルフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
【0158】
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
【0159】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
なお、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを114℃で1時間の加熱後の質量である。
【0160】
また、セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
【0161】
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0162】
本発明の原反フィルムを構成するセルロースエステルフィルムを作製するためには、ウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式で幅方向(横方向)に延伸を行っておくことが特に好ましい。
【0163】
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことができるが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
【0164】
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は40〜200℃で段階的に高くしていくことが好ましい。
【0165】
セルロースエステルフィルムの膜厚は、特に限定はされないが10〜500μmが用いられる。特に膜厚は10〜200μmであることが特に好ましい。さらに好ましくは15〜150μmである。
【0166】
本発明の原反となるセルロースエステルフィルムは、幅1〜4mのものが用いられる。特に幅1.4〜4mのものが好ましく用いられる。4mを超えると搬送が困難となる。
【0167】
ここでは一例として、セルロースエステルフィルムの製造方法について記述したが、その他のポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルムおよびポリアクリレートフィルム、ポリシクロオレフィンフィルム、ポリイミドフィルムについてもそれぞれ最適な製膜方法を選択して、製膜することができる。
【0168】
(複数のフィルムの貼合方法)
本発明の位相差フィルムを作製するための原反フィルムは、複数のフィルムの積層体であってもよく、その積層体は、基材レス粘着フィルムを用いて貼合しても良い。あるいは、フィルムを鹸化した後にポリビニルアルコールを用いて貼合しても良い。また、光や熱などのエネルギー線硬化型の樹脂を接着面に塗工し、活性エネルギー線を照射することで複数のフィルムからなる積層体を形成してもよい。
【0169】
これらの貼合手段を用いる際に、フィルムとフィルムの界面の接着層は、できるだけ薄い方が好ましい。例えば、上記の手段で形成される接着層のいずれも20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。また、特開2009−25604号明細書段落(0246)のように、大気圧プラズマ処理によってケン化処理せずに接着層を塗工することもできる。
【0170】
(複数の光学層の塗布、積層)
本発明の位相差フィルムを作製するための原反フィルムは、複数の光学層による積層体であってもよく、支持体フィルムに光学層の塗布液を塗布する方法がある。塗布液を塗工する方法としては、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、浸漬引き上げ法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、ブレードコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、リバースコート法、インクジェット法、もしくは押し出しコート法等が挙げられる。
【0171】
また、良溶媒を塗布してフィルム表面を溶解させ、貼合させても良いし、位相差フィルムの製膜時の残溶媒状態で貼合してもよい。
<その他の機能性層>
本発明の長尺傾斜位相差フィルムは必要に応じて、特開平10−319536号、特開2007−159330号明細書記載のようなバックコート層、ハードコート層、反射防止層を設けることができる。
<偏光板>
本発明の位相差フィルムを、偏光板保護フィルムとした偏光板、それを用いた本発明の液晶表示装置に使用することができる。
【0172】
本発明の偏光板は、前記本発明の透明フィルムを偏光板保護フィルムとして用いて、偏光子の少なくとも一方の面に貼合した偏光板であることが特徴である。本発明の液晶表示装置は、少なくとも一方の液晶セル面に、本発明に係る偏光板が、粘着層を介して貼り合わされたものであることが特徴である。
【0173】
本発明の偏光板は一般的な方法で作製することができる。
【0174】
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
【0175】
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜30μmが好ましく、特に10〜20μmであることが好ましい。
【0176】
また、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、けん化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。
【0177】
中でも熱水切断温度が66〜73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。
【0178】
具体的には、例えば、接着処理の安定性等の点から、PVA系接着剤が好ましい。これらの接着剤や粘着剤は、例えば、そのまま偏光子や透明保護層の表面に塗布してもよいし、前記接着剤や粘着剤から構成されたテープやシートのような層を前記表面に配置してもよい。また、例えば、水溶液として調製した場合、必要に応じて、他の添加剤や、酸等の触媒を配合してもよい。前記水溶液には、例えば、必要に応じて、他の添加剤や、酸等の触媒も配合できる。これらの中でも、前記接着剤としては、PVAフィルムとの接着性に優れる点から、PVA系接着剤が好ましい。
【0179】
セルロースエステルフィルムでは、偏光子側をアルカリ鹸化処理し、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。
【0180】
本発明の偏光板は、本発明の長尺傾斜位相差フィルムを偏光板保護フィルムとして用いて、偏光子の少なくとも一方の面に貼合した偏光板であることが特徴とする。
【0181】
もう一方の面には該セルロースエステルフィルムを用いても、また他の偏光板保護フィルムを貼合してもよい。例えば、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタックKC8UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UXW−RHA−C、KC8UXW−RHA−NC、KC4UXW−RHA−NC、以上コニカミノルタオプト(株)製)も好ましく用いられる。
【0182】
本発明の傾斜位相差フィルムと偏光子を積層させるときに、傾斜位相差フィルムの面内遅相軸がTD方向にあるときは、位相差フィルムの遅相軸と偏光子の透過軸を±3°以内に重ねて配置することが好ましく、±2°以内に重ねて配置することがより好ましい。
【0183】
表示装置の表面側に用いられる偏光板保護フィルムには、防眩層あるいはクリアハードコート層のほか、反射防止層、帯電防止層、防汚層、バックコート層を有することが好ましい。
<液晶表示装置の構成>
本発明長尺傾斜位相差フィルムをTN型液晶表示装置に用いることによって、種々の視認性に優れた本発明のTN型液晶表示装置を作製することができる。
【0184】
本発明に係るTN型液晶表示装置により、光漏れによる黒表示時の着色を低減し、正面コントラストなど視認性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
【0185】
本発明に係るTN型液晶表示装置は、液晶セルを挟む2枚の基板のラビング軸と、前記第1の偏光板、及び第2の偏光板の吸収軸を各々直交して配置させ、且つ液晶表示装置とした時の液晶セルの水平方向を0°とおいたときに、該液晶セルの水平方向に対して反時計回りの角度として、第1偏光板の吸収軸を45+0.1〜3度の範囲の角度で配置し、第2偏光板の吸収軸を135−0.1〜3度の範囲の角度で配置させることが好ましい。このような配置のTN型液晶表示装置を本発明ではEモードと呼称する。
【0186】
TN型液晶表示装置には、液晶セルのラビング軸と、前記第1の偏光板、及び第2の偏光板の吸収軸を平行に配置させる場合もあり、これを本発明ではOモードと呼称する。
【0187】
本発明ではOモードのTN型液晶表示装置の方が視野角、階調反転、カラーシフト、にじみにおいて優れる結果が得られるため好ましい。
【0188】
以下、図を用いて本発明のTN型液晶表示装置の説明をする。
【0189】
電極やカラーフィルター、バックライトなどのユニットは図が煩雑になり、本発明における光学的に重要な部分が見にくくなるため表示していない。
【0190】
本発明のTN型液晶表示装置は図1の構成をとることが好ましく、視認側から第1の保護フィルム1、第1の偏光子2、第1の位相差フィルム3の順で構成された第1の偏光板4、ツイストネマチック型液晶セル5、液晶セル側から第2の位相差フィルム6、第2の偏光子7、第2の保護フィルム8の順で構成された第2の偏光板9と、バックライトユニット10を有する。
【0191】
図2、3はTN型液晶表示装置の一例を示す概略図である。
【0192】
図2(a)は液晶モニターを表す模式図であり、液晶セルの水平方向とは、図のモニターの長辺方向(x)をいう。第1偏光板の吸収軸(y方向)をx軸方向(0°)に対し(45°+0.1〜3°)の範囲の角度で配置し、第2偏光板の吸収軸(z方向)をx軸方向(0°)に対し(135°−0.1〜3°)の範囲の角度で配置することが好ましい。
【0193】
図2(b)は、EモードのTN型液晶表示装置の液晶セルのラビング軸25、26、該ラビング軸に直交させた偏光子の吸収軸23、偏光子の吸収軸23に直交させた位相差フィルムの遅相軸24の関係を示す模式図である。
【0194】
図3(b)は、OモードのTN型液晶表示装置の液晶セルのラビング軸25、26、該ラビング軸に平行にした偏光子の吸収軸23、偏光子の吸収軸23に直交させた位相差フィルムの遅相軸24の関係を示す模式図である。
【実施例】
【0195】
実施例1
<原反フィルム(セルロースエステルフィルム共流延)10の作製>
〈微粒子分散液1〉
微粒子(アエロジル R972V 日本アエロジル(株)製)
11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0196】
〈微粒子添加液1〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクに十分攪拌しながら、微粒子分散液1をゆっくりと添加した。さらに、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
【0197】
メチレンクロライド 99質量部
微粒子分散液1 5質量部
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルAを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、ドープ1を調製した。
【0198】
〈ドープ1の組成〉
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステルA 100質量部
ポリエステル系化合物1※ 6.5質量部
スクロースオクタベンゾエート
(モノペットSB(第一工業製薬(株)製)) 6.0質量部
微粒子添加液1 1質量部
〈ドープ2の組成〉
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステルB 100質量部
ポリエステル系化合物1※ 6.5質量部
スクロースオクタベンゾエート
(モノペットSB(第一工業製薬(株)製)) 6.0質量部
微粒子添加液1 1質量部
以上を密閉容器に投入し、攪拌しながら溶解してドープ液を調製した。調整したドープを、2m幅の無限走行する無端のステンレススティールベルト上に特開2007−86254号図1記載の装置を使用し共流延を行った。
【0199】
ステンレススティールベルトの温度を35℃とし、ベルト面側にドープ1の層、空気側の面にドープ液2の層となるようにした。
【0200】
ステンレススティールベルト上で溶媒を蒸発させ、ステンレススティールベルト上からウェブを剥離した。剥離したウェブを1.5m幅に両端をスリッターで裁ち落とし、このウェブをテンター乾燥機に導入し、両端をクリップで把持して幅方向に1.5倍延伸しながら135℃で乾燥させ、ついで125℃の各乾燥ゾーンを有するロール乾燥機内に上下に配置された多数のロールを交互に通して搬送させながら乾燥を終了させ、ドープ1の層が80μm、ドープ2の層が40μmで合計の膜厚が120μm、幅1500mmの積層した原反フィルム10を作製した。
【0201】
原反フィルム10は、Ro=10nm、Rt=175nm、β=0°であった。また、ドープ1の層のTgは、163℃、ドープ2の層のTgは、200℃であり、この場合ドープ1の層のTgがTg2となる。
【0202】
傾斜配向処理ゾーンの温度(T2=170℃)での、ドープ1の層の弾性率は、100MPa、ドープ2の層の弾性率は600MPaであった。弾性率比率εA/εB=100/600=0.17であった。また、この温度(170℃)での原反フィルムの位相差発現性は1.5(180nm/120μm)nm/μmであった。
【0203】
【表1】

【0204】
ポリエステル系化合物1※
【0205】
【化1】

【0206】
<原反フィルム(セルロースエステルフィルム共押出)20の作製>
下記の組成物を用いて、溶融流延法により原反フィルム20を作製した。
【0207】
(組成物1)
セルロースエステルA 85.5質量部
化合物2※ 12質量部
IRGANOX−1010(チバ・ジャパン(株)製) 0.5質量部
PEP−36(ADEKA(株)製) 0.1質量部
Sumilizer−GS(住友化学(株)製) 0.3質量部
TINUVIN928(チバ・ジャパン(株)製) 1.5質量部
シーホスターKEP−30((株)日本触媒製) 0.1質量部
(組成物2)
セルロースエステルB 85.5質量部
化合物2※ 12質量部
IRGANOX−1010(チバ・ジャパン(株)製) 0.5質量部
PEP−36(ADEKA(株)製) 0.1質量部
Sumilizer−GS(住友化学(株)製) 0.3質量部
TINUVIN928(チバ・ジャパン(株)製) 1.5質量部
シーホスターKEP−30((株)日本触媒製) 0.1質量部
化合物2※
【0208】
【化2】

【0209】
上記組成物をそれぞれ80℃で6時間乾燥して水分率200ppm以下にし、真空ナウターミキサーで80℃、1Torrで3時間混合しながらさらに乾燥して水分率50ppmにした。
【0210】
得られた混合物を、二軸式押出機を用いて235℃で溶融混合しペレット化した。この際、混錬時のせん断による発熱を抑えるためニーディングディスクは用いずオールスクリュータイプのスクリューを用いた。
【0211】
また、ベント孔から真空引きを行い、混錬中に発生する揮発成分を吸引除去した。なお、押出機に供給するフィーダーやホッパー、押出機ダイから冷却槽間は、乾燥窒素ガス雰囲気として、樹脂への水分の吸湿の防止や酸素の除去を行った。
【0212】
その後、特開2009−96955号図1に記載の装置を使用し、原反フィルムを作製した。第1冷却ロールおよび第2冷却ロールは直径40cmのステンレス製とし、表面にハードクロムメッキを施した。又、内部には温度調整用のオイル(冷却用流体)を循環させて、ロール表面温度を130℃に制御した。
【0213】
弾性タッチロールは、直径20cmとし、内筒と外筒はステンレス製とし、外筒の表面にはハードクロムメッキを施した。外筒の肉厚は2mmとし、内筒と外筒との間の空間に温度調整用のオイル(冷却用流体)を循環させて弾性タッチロールの表面温度を130℃に制御した。
【0214】
上記ペレットを用いて窒素雰囲気下、250℃にて溶融してコートハンガータイプ2層共押出しマルチマニフォールドダイから組成物1と組成物2の割合が2:1になるように第1冷却ロール上に押し出し、第1冷却ロールと弾性タッチロールとの間に押出した溶融物を挟圧して成形し、膜厚240μmの積層した原反フィルム20を得た。膜厚は押出量と引取り速度を調整することによって制御した。この時の流延幅は1.5mであった。
【0215】
この際、Tダイのリップクリアランス1.5mm、リップ部平均表面粗さRa0.01μmのTダイを用いた。また、第1冷却ロール上でフィルムを2mm厚の金属表面を有する弾性タッチロールを線圧10kg/cmで押圧した。
【0216】
原反フィルム20は面内位相差Ro=13nm、Rt=185nm、β=0°であった。
<原反フィルム(ポリカーボネート/セルロースエステルフィルム共押出)30の作製>
下記の組成物を用いて、溶融流延法により原反フィルム20を作製した。
【0217】
(組成物1)
ポリカーボネートパンライトK−1300Y(帝人化成(株)製)97.5質量部
(組成物2)
セルロースエステルB 85.5質量部
化合物2※ 12質量部
IRGANOX−1010(チバ・ジャパン(株)製) 0.5質量部
PEP−36(ADEKA(株)製) 0.1質量部
Sumilizer−GS(住友化学(株)製) 0.3質量部
TINUVIN928(チバ・ジャパン(株)製) 1.5質量部
シーホスターKEP−30((株)日本触媒製) 0.1質量部
上記組成物をそれぞれ80℃で6時間乾燥して水分率200ppm以下にし、真空ナウターミキサーで80℃、1Torrで3時間混合しながらさらに乾燥して水分率50ppmにした。
【0218】
得られた混合物を、二軸式押出機を用いて235℃で溶融混合しペレット化した。この際、混錬時のせん断による発熱を抑えるためニーディングディスクは用いずオールスクリュータイプのスクリューを用いた。
【0219】
また、ベント孔から真空引きを行い、混錬中に発生する揮発成分を吸引除去した。なお、押出機に供給するフィーダーやホッパー、押出機ダイから冷却槽間は、乾燥窒素ガス雰囲気として、樹脂への水分の吸湿の防止や酸素の除去を行った。
【0220】
その後、特開2009−96955号図1に記載の装置を使用し、原反フィルムを作製した。第1冷却ロールおよび第2冷却ロールは直径40cmのステンレス製とし、表面にハードクロムメッキを施した。又、内部には温度調整用のオイル(冷却用流体)を循環させて、ロール表面温度を130℃に制御した。
【0221】
弾性タッチロールは、直径20cmとし、内筒と外筒はステンレス製とし、外筒の表面にはハードクロムメッキを施した。外筒の肉厚は2mmとし、内筒と外筒との間の空間に温度調整用のオイル(冷却用流体)を循環させて弾性タッチロールの表面温度を130℃に制御した。
【0222】
上記ペレットを用いて窒素雰囲気下、250℃にて溶融してコートハンガータイプ2層共押出しマルチマニフォールドダイから組成物1と組成物2の割合が2:1になるように第1冷却ロール上に押し出し、第1冷却ロールと弾性タッチロールとの間に押出した溶融物を挟圧して成形し、膜厚240μmの積層した原反フィルム20を得た。膜厚は押出量と引取り速度を調整することによって制御した。この時の流延幅は1.5mであった。
【0223】
この際、Tダイのリップクリアランス1.5mm、リップ部平均表面粗さRa0.01μmのTダイを用いた。また、第1冷却ロール上でフィルムを2mm厚の金属表面を有する弾性タッチロールを線圧10kg/cmで押圧した。
【0224】
原反フィルム30は面内位相差Ro=15nm、Rt=180nm、β=0°であった。
<原反フィルム(セルロースエステルフィルム)40の作製>
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルAを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、ドープ1を調製した。
【0225】
〈ドープ1の組成〉
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステルA 100質量部
ポリエステル系化合物1※ 6.5質量部
スクロースオクタベンゾエート
(モノペットSB(第一工業製薬(株)製)) 6.0質量部
微粒子添加液1 1質量部
以上を密閉容器に投入し、攪拌しながら溶解してドープ液を調整した。続いて、無端ベルト流延装置を用い、ドープ1を温度33℃、1500mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は50℃に制御した。ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力70N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。
【0226】
剥離したセルロースエステルフィルムを、170℃に加熱しながらテンターで幅方向に5%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は20%であった。
【0227】
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は120℃で、搬送張力は90N/mとした。
【0228】
以上のようにして、乾燥膜厚80μmのセルロースエステルフィルムAを得た。
【0229】
〈ドープ2の組成〉
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステルB 100質量部
ポリエステル系化合物1※ 6.5質量部
スクロースオクタベンゾエート(モノペットSB(第一工業製薬(株)製))
6.0質量部
微粒子添加液1 1質量部
以上を密閉容器に投入し、攪拌しながら溶解してドープ液を調整した。続いて、無端ベルト流延装置を用い、ドープ2を温度33℃、1500mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は50℃に制御した。ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力70N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。
【0230】
剥離したセルロースエステルフィルムを、195℃に加熱しながらテンターで幅方向に5%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は20%であった。
【0231】
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は120℃で、搬送張力は90N/mとした。
【0232】
以上のようにして、乾燥膜厚40μmのセルロースエステルフィルムBを得た。その後、セルロースフィルムAおよびBを2Nの水酸化カリウム水溶液でけん化し、ポリビニルアルコールを使って貼合して、原反フィルム40を作製した。
【0233】
原反フィルム40の面内位相差Ro=18nm、厚み位相差Rt=185nm、β=0°だった。
<原反フィルム(セルロースエステルフィルムIG5)50の作製>
上記で作製したセルロースエステルフィルムAの上に、下記のハードコート層形成用樹脂組成物1の50質量部をメチルエチルケトン/メチルイソブチルケトン=30/70(質量比)の混合溶媒で希釈した溶液を孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過してハードコート層塗布液を調製し、押出しコータを用いて塗布し、80℃で1分間乾燥後、紫外線ランプを用い照射部の照度が100mW/cm、照射量を0.2J/cmの条件で硬化させ、ドライ膜厚20μmのハードコート層を形成し原反フィルム50(IG5)を作製した。
【0234】
(ハードコート層形成用樹脂組成物1)
ペンタエリスリトールトリアクリレート 20.0質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 50.0質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 30.0質量部
ジペンタエリスリトールペンタアクリレート 30.0質量部
イルガキュア184(チバ・ジャパン(株)製) 5.0質量部
原反フィルム50(IG5)のハードコート層のTgは250℃であり、反対面のTgはセルロースエステルAであったことから163℃となる。
【0235】
原反フィルム50の面内位相差Ro=9nm、厚み位相差Rt=170nm、β=0°だった。
<傾斜配向処理>
作製した原反フィルム10〜50について、図4、5に示す傾斜配向処理装置を用いて、表2に示す条件で幅手方向に延伸し、本発明の傾斜位相差フィルム101〜105を作製した。
【0236】
傾斜配向処理中は、原反フィルムの弾性率の低い側の面に非接触の赤外線温度計を設置し、搬送中のフィルムの弾性率の低い側の面のフィルム表面温度変化を観測した。
【0237】
各ゾーンの雰囲気温度は、表2に示すとおりに設定した。各ゾーンの温度制御は、次のような方法で行った。
【0238】
予熱ゾーン:搬送中のフィルムの表裏に、熱風を吹き付けて、予熱した。予熱ゾーンの温度は、搬送中の原反フィルムの弾性率の低い側の面の温度が表2に記載の温度(T1)になるように設定した。予熱ゾーンと傾斜配向ゾーンの間には、遮風板を設置し、各ゾーンが独立に温度制御できるようにした。
【0239】
傾斜配向ゾーン:クリップで幅手方向を担持しながら、傾斜配向ゾーンの終点で表2に記載の倍率となるように幅手方向に延伸した。また、搬送中のフィルムの表裏から風を吹き付けることにより、搬送中の原反フィルムの弾性率の低い側の面の温度が表2に記載の温度(T2)となるように傾斜配向ゾーンの温度を設定した。傾斜配向ゾーンと固定ゾーンの間にも、遮風板を設置し、各ゾーンが独立に温度制御できるようにした。
【0240】
固定ゾーン:傾斜配向ゾーンを通過したフィルムを、フィルム表裏から風を当てることによって固定した。搬送中の原反フィルムの弾性率の低い側の面の温度が表2に記載の温度(T3)となるように、固定ゾーンの温度を設定した。
<比較位相差フィルム1>
原反フィルム20と同じように、組成物1と組成物2の代わりにポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製、パンライトK−1300Y)と、スチレンー無水マレイン酸共重合体樹脂ダイラークD332(ノバケミカルズ(株)製)のペレットを、溶融し、共押し出しにより製膜した。
【0241】
溶融樹脂は表面温度が130℃に調整された冷却ロール上にキャストし、ついで50℃に調整された2本の冷却ロール間に通してポリカーボネート樹脂層(20μm)とスチレンー無水マレイン酸共重合体樹脂層(160μm)から成る、厚さ180μmの原反フィルム60を作製した。
【0242】
これを表2に示す条件で処理を行った。この構成では、TD延伸倍率が大きいのでβが発現しなかった。
<比較位相差フィルム2>
セルロースエステルフィルムAにそのまま、本発明の傾斜位相差フィルム101を作製した時と同様の傾斜配向処理を施したが、βは発現しなかった。
<フィルムの評価>
作製した傾斜位相差フィルム101〜105、および比較位相差フィルム1、比較位相差フィルム2を、表2に記載の評価項目について、明細書中に記載の方法に則って評価を行った。
【0243】
傾斜位相差フィルム101〜105は、βが発現しており、光学的均一性と平面性が優れていたが、比較位相差フィルム1と2は、βが発現していなかった。
【0244】
《偏光板の作製》
〈偏光板の作製〉
上記作製した長尺傾斜位相差フィルム101および市販のセルロースエステルフィルム(コニカミノルタタックKC−8UYコニカミノルタオプト(株)製)を使用して、下記工程1〜5に従って偏光板101を作製した。
工程1:50℃、2mol%の水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、ついで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化した。
工程2:延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製し、該偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理した長尺傾斜位相差フィルムおよび市販のセルロースエステルフィルムの上にのせて配置した。
工程4:工程3で積層した長尺傾斜位相差フィルムと偏光子と裏面側市販のセルロースエステルフィルムを圧力20〜30N/cm、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
工程5:工程4で作製した偏光子と長尺傾斜位相差フィルムおよび市販のセルロースエステルフィルムとを貼り合わせた試料を80℃の乾燥機中にて5分間乾燥し、偏光板を作製した。
【0245】
同様に、本発明の傾斜位相差フィルム102、103、104、105および比較位相差フィルム1、比較位相差フィルム2も偏光板化を行い、本発明の偏光板102〜105、比較偏光板1、比較偏光板2を作製した。
【0246】
《液晶表示装置の作製》
液晶パネルを以下のようにして作製し、偏光板および液晶表示装置としての特性を評価した。
【0247】
SAMSUNG(株)製17型ディスプレイSyncMaster743BMに、予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板101〜105をそれぞれ液晶セルのガラス面に貼合した。
【0248】
その際、偏光板の貼合の向きは、本発明の傾斜位相差フィルムが液晶セル側となるように、かつ、予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように図3の構成となるように行い、本発明の液晶表示装置101〜105を作製した。また、比較偏光板1、比較偏光板2を使って同様の方法で液晶表示装置を作製し、比較液晶表示装置1、比較液晶表示装置2とした。
【0249】
(黒表示時のムラ評価)
上記作製した液晶表示装置のバックライトを点灯して黒表示にし、48時間後、正面および方位角45°、135°、極角10°の方向からムラを観察し、以下の基準でムラの総合評価を行った。
◎;ムラは全く見えない
○;部分的にムラがあるが、許容範囲内
×;ムラがはっきりと見え、実用不可
方位角は、表示装置に向かって右方向を0°と定義した。
【0250】
(視野角)
測定機(EZ−contrast 160D,ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない範囲)を測定した。評価基準は以下の通りである。
【0251】
◎:上下方向の視野角が95°以上のもの
○:80°〜95°のもの
×:65°〜80°のもの
なお、上下の視野角とはパネル上方向からの視野角と下方向からの視野角を足し合わせた角度という。
【0252】
【表2】

【0253】
本発明の傾斜位相差フィルムによれば、表示装置にしたときの視野角が優れ、黒表示でのムラの発生が抑制される。
実施例2
<傾斜配向処理>
原反フィルム30を用いて、傾斜位相差フィルム103を作製した実施例1の製造条件を表3に記載の通りに延伸倍率を変更し、傾斜位相差フィルム201〜203を作製した。
【0254】
作製したフィルムについて、表3に記載の評価項目について本明細書中に記載の方法で評価を行った。本発明の傾斜位相差フィルム201〜203は、平面性に優れ、光学的均一性も優れていた。
<比較位相差フィルム3>
原反フィルム30を用いて、傾斜位相差フィルム201〜203と同様の温度条件にて、延伸倍率を25%にして傾斜配向処理を行い、評価を行った。結果は表3に示すように、βが3°しか発現せず、面内のβやθのバラつきが大きかった。
<偏光板および液晶表示装置の作製と評価>
本発明の傾斜位相差フィルム201〜203および比較位相差フィルム3を、実施例1と同様に偏光板化し、本発明の液晶表示装置201〜203および比較液晶表示装置3を作製した。実施例1と同様に、黒表示ムラと視野角について評価を行った。
【0255】
【表3】

【0256】
本発明の傾斜位相差フィルムによれば、黒表示でのムラの発生が抑制され、視野角が優れていた。比較液晶表示装置3は、視野角が狭く、黒表示時のムラも多かった。
実施例3
<原反フィルム(セルロースエステルフィルムIG5)70の作製>
〈ドープ2の組成〉
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステルB 100質量部
ポリエステル系化合物1※ 6.5質量部
スクロースオクタベンゾエート
(モノペットSB(第一工業製薬(株)製)) 6.0質量部
微粒子添加液1 1質量部
*以上を密閉容器に投入し、攪拌しながら溶解してドープ液を調整した。続いて、無端ベルト流延装置を用い、ドープ液1を温度33℃、1500mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は50℃に制御した。次いで剥離張力70N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。剥離したセルロースエステルフィルムを、195℃に加熱しながらテンターで幅方向に4%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は20%であった。
【0257】
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は120℃で、搬送張力は90N/mとした。
【0258】
以上のようにして、乾燥膜厚80μmのセルロースエステルフィルムBを作製した。
【0259】
このセルロースエステルフィルムBの上に、実施例1のハードコート層形成用樹脂組成物1を塗布、乾燥、硬化し、原反フィルム70を作製した。セルロースエステルフィルムBのTgは200℃、ハードコート層のTgは250℃であるため、ハードコート層が硬い層となる。
【0260】
原反フィルム70の面内位相差Ro=15nm、厚み位相差Rt=175nm、β=0°であった。
<傾斜配向処理>
原反フィルム50、70を用いて、傾斜位相差フィルム105を作製した実施例1の製造条件を表4に記載の条件に変更し、傾斜位相差フィルム301〜306を作製した。
【0261】
作製したフィルムについて、表4に記載の評価項目について本明細書中に記載の方法で評価を行った。本発明の傾斜位相差フィルム301〜306は、平面性に優れ、光学的均一性も優れていた。
<偏光板および液晶表示装置の作製と評価>
本発明の傾斜位相差フィルム301〜306を実施例1と同様に偏光板化し、本発明の液晶表示装置301〜306を作製した。実施例1と同様に、黒表示ムラと視野角について評価を行った。
【0262】
【表4】

【0263】
本発明の傾斜位相差フィルムによれば、黒表示でのムラの発生が抑制され、視野角も良好である。
実施例4
<傾斜配向処理>
原反フィルム50、70を用いて、傾斜位相差フィルム105を作製した実施例1の製造条件を表5に記載の条件に変更し、傾斜位相差フィルム401〜404を作製した。401と403では、固定ゾーンにて、チャックしたまま傾斜配向ゾーンの終点よりも幅を1%狭めた。
【0264】
作製したフィルムについて、表5に記載の評価項目について本明細書中に記載の方法で評価を行った。本発明の傾斜位相差フィルム401〜404は平面性に優れ、光学的均一性も優れていた。
<偏光板および液晶表示装置の作製と評価>
本発明の傾斜位相差フィルム401〜404を実施例1と同様に偏光板化し、本発明の液晶表示装置401〜404を作製した。実施例1と同様に、黒表示ムラと視野角について評価を行った。
【0265】
【表5】

【0266】
本発明の傾斜位相差フィルムによれば、黒表示でのムラの発生が抑制され、視野角も優れていた。
【符号の説明】
【0267】
1 第1の保護フィルム
2 第1の偏光子
3 第1の位相差フィルム
4 第1の偏光板4
5 ツイストネマチック型液晶セル
6 第2の位相差フィルム
7 第2の偏光子
8 第2の保護フィルム
9 第2の偏光板
10 バックライトユニット
TN TN型液晶表示装置
a 液晶モニター
11 第1の偏光板
12 ツイストネマチック型液晶セル
13 第2の偏光板
14 第1の保護フィルム
15 第1の偏光子
16 第1の位相差フィルム
17 基板
18 液晶
19 基板
20 第2の位相差フィルム
21 第2の偏光子
22 第2の保護フィルム
23 吸収軸
24 遅相軸
25、26 ラビング軸
A 予熱ゾーン
B 傾斜配向ゾーン
C 冷却ゾーン
100 MD張力付加ロール(R1、R2、R3、R4 ニップロール)
101 非接触温度計
102、103 TD延伸装置
104 フィルム巻だし装置
105 フィルム巻き取り装置
106 遮風板
a 傾斜位相差フィルムの幅手方向軸(TD方向)
b 傾斜位相差フィルムの長尺方向軸(MD方向)
c 傾斜位相差フィルムの厚み方向軸
x フィルム面内で屈折率が最大となる方向軸(面内遅相軸)
y フィルム面内で屈折率が最小となる方向軸
z フィルムの厚み方向軸
β 平均傾斜角度
θ フィルムの面内遅相軸と長尺方向とのなす角度
x′ 屈折率楕円体のz′と直交する平面のうち屈折率が最大となる方向軸
y′ 屈折率楕円体のz′と直交する平面のうち屈折率が最小となる方向軸
z′ 屈折率楕円体の厚み方向軸
nx′ x′方向の屈折率
ny′ y′方向の屈折率
nz′ z′方向の屈折率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの長尺方向とフィルム厚み方向を含む平面における、フィルム面からの屈折率楕円体の立ち上がり角度(β)が7°〜85°であり、屈折率楕円体の面内位相差(Ro′)が10〜90nm、厚み位相差(Rt′)が70〜300nm、Rt′>Ro′であり、長尺方向および幅手方向のフィルムの面内位相差Ro、フィルムの倒れ角40度からの位相差R40、βおよびフィルムの面内遅相軸とフィルム長尺方向とのなす角度θの標準偏差がそれぞれ2nm以内、2nm以内、2°以内および2°以内であることを特徴とする長尺傾斜位相差フィルム。
【請求項2】
フィルムの面内遅相軸と長尺方向が直交していることを特徴とする請求項1に記載の長尺傾斜位相差フィルム。
【請求項3】
傾斜配向処理後の長尺方向および幅手方向の膜厚最大高低差が3μm以内であることを特徴とする請求項1または2に記載の長尺傾斜位相差フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の長尺傾斜位相差フィルムの製造方法において、複屈折発現性が0.3nm/μm〜20nm/μmであるフィルムを、一方の面の弾性率(εA)ともう一方の面の弾性率(εB)が、εA<εBの場合には、0.001<εA/εB<0.7を満たす状態で幅手方向に1〜25%の延伸倍率で延伸することにより製造したことを特徴とする長尺傾斜位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の長尺傾斜位相差フィルムの製造方法において、複屈折発現性が0.3nm/μm〜20nm/μmである複屈折発現層を含む積層フィルムを、一方の面の弾性率(εA)ともう一方の面の弾性率(εB)が、εA<εBの場合には、0.001<εA/εB<0.7を満たす状態で幅手方向に1〜25%延伸倍率で延伸することを特徴とする、長尺傾斜位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
幅手方向への延伸倍率が1〜10%であることを特徴とする請求項4または5に記載の長尺傾斜位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の長尺傾斜位相差フィルムを有することを特徴とする偏光板。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の長尺傾斜位相差フィルムを、液晶セルと偏光子の間に配置したことを特徴とするツイストネマチック(TN)型液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−232494(P2011−232494A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101894(P2010−101894)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】