説明

長尺材の吊持移送方法

【課題】長尺材を吊持移送する場合に、その長尺材の吊持移送途中の姿勢状態を移送方向に沿って長く延びるように調整することができる長尺材の吊持移送方法を提供する。
【解決手段】ブレード16の重心Gを通る鉛直線上に吊り支点を設定すると共に、その吊り支点から第1〜第3の各吊索部材13,14,15を垂らす。一方、ブレード16の長手方向には、重心Gよりも基端側に第1吊索部材13を玉掛けする第1玉掛け点17を設定し、重心Gよりも先端側に第2吊索部材14を玉掛けする第2玉掛け点18と第3吊索部材15を玉掛けする第3玉掛け点19を第2玉掛け点18の方が重心Gから離間して位置するように設定する。そして、重心Gから前記第1玉掛け点17までの距離L1と第2玉掛け点18までの距離L2とに差をもたせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺材の吊持移送方法に関し、より詳しくは、例えばヘリコプタやクレーン等の移動体により長尺材を吊持した状態で移送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工事現場等で重量のある長尺材(鋼材等)を移動させる際には、その長尺材をクレーンにより地上側から空中へ吊り上げ、空中に吊持した状態で所望する場所まで移動させる手法が採られている。また、重量のある長尺材を遠隔地まで運搬する際において、その長尺材の長さがトラック等の陸送手段による運搬が困難なほど長い場合には、該長尺材をヘリコプタにより地上側から空中へ吊り上げ、空中に吊持した状態で空輸する手法が採られている。こうしたクレーン又はヘリコプタにより長尺材を吊持移送する際には、長尺材が地上側で略水平に支持された状態にあるときに、該長尺材の長手方向における複数箇所にワイヤやベルト等により玉掛け作業が行われる。そして、長尺材は、その玉掛け作業の完了後に、クレーン又はヘリコプタにより空中へ吊り上げられ、空中に吊持された状態でヘリコプタ等の移動方向へ移送される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−285499号公報(図1〜図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、長尺材は、クレーン又はヘリコプタにより吊持移送される際、通常、玉掛け作業時の略水平状態を維持したままで空中をヘリコプタ等の移動方向へ吊持移送される。そのため、長尺材はヘリコプタやクレーンの移動方向と交差する方向に沿って長く延びた姿勢状態となって空中を吊持移送される場合もあり、そのような場合には、仮に長尺材の吊持移送空間域に柱などの構造物が存在していると、その構造物に吊持移送途中の長尺材の端部が接触してしまう虞があった。また、長尺材をヘリコプタにて吊持移送する場合には、その長尺材がヘリコプタの移動方向と交差する方向に沿って長く延びた姿勢状態になっていると、その長尺物に対する空気抵抗が大きくなってしまう虞もあった。
【0004】
その一方、長尺材がヘリコプタやクレーンの移動方向に沿って長く延びた姿勢状態となって空中を吊持移送される場合には、仮に長尺材の吊持移送空間域に構造物が存在していたとしても、その構造物に吊持移送途中の長尺材の端部が接触してしまう可能性は低下する。また、長尺材をヘリコプタにて吊持移送する場合にも、長尺材がヘリコプタの移動方向に沿って長く延びた姿勢状態になっていれば、その長尺材に対する空気抵抗も小さなものとなる。したがって、長尺材を空中に吊り上げて吊持移送するに際しては、その長尺材の吊持移送途中の姿勢状態を移送方向に沿って長く延びる姿勢状態に調整できる技術が希求されていた。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものである。その目的は、長尺材を吊持移送する場合に、その長尺材の吊持移送途中の姿勢状態を移送方向に沿って長く延びるように調整することができる長尺材の吊持移送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、長尺材の長手方向において該長尺材の重心よりも一端側となる箇所及び他端側となる箇所にそれぞれ玉掛け点を設定し、各玉掛け点に空中を移動可能な移動体側から下方に垂らした吊索部材をそれぞれ玉掛けし、前記移動体の上昇移動に伴い前記吊索部材を介して前記長尺材を該長尺材の長手方向が略水平方向に沿うように空中に吊持し、その吊持状態から前記長尺材を前記移動体の移動方向に移送する長尺材の吊持移送方法において、前記長尺材には、前記移動体が前記吊索部材を介して前記長尺材を空中に吊持する際における吊り支点の鉛直方向下方位置であって且つ前記長尺材の長手方向と交差する位置に該長尺材の吊持基準点を設定し、前記各玉掛け点を、前記長尺材の吊持基準点よりも該長尺材の一端側において前記吊持基準点から最も離間して位置する第1玉掛け点と前記長尺材の吊持基準点よりも該長尺材の他端側において前記吊持基準点から最も離間して位置する第2玉掛け点とを少なくとも含む複数の玉掛け点にて構成し、前記長尺材の吊持基準点から前記第1玉掛け点までの距離と前記長尺材の吊持基準点から前記第2玉掛け点までの距離とに差をもたせたことを要旨とする。
【0007】
一般に、長尺材を該長尺材の長手方向が略水平方向に沿うように空中に吊持した状態で移動体が移動した場合、その長尺材の一端側及び他端側には平面視において吊持基準点を中心として移動方向の前側から後側へ向けて水平回転しようとする回転モーメントがそれぞれ働く。そして、その場合における長尺材の一端側及び他端側の各回転モーメントは、吊持基準点から第1玉掛け点までの距離及び吊持基準点から第2玉掛け点までの距離が互いに等しい場合には、両者均等な回転モーメントとなるため相殺される。この点、本発明の長尺材の吊持移送方法では、長尺材の一端側において前記吊持基準点から最も離間して位置する第1玉掛け点と長尺材の他端側において前記吊持基準点から最も離間して位置する第2玉掛け点とを対比した場合、吊持基準点から第1玉掛け点までの距離と第2玉掛け点までの距離との間に差が存在する。したがって、長尺材は移動体の移動に伴い吊持基準点を中心として、重心からの距離が大きい玉掛け点(第1玉掛け点又は第2玉掛け点)の設定された端部側が移動方向後側となるように水平回転し、その吊持移送途中の姿勢状態が移送方向に沿って長く延びるように調整される。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の長尺材の吊持移送方法において、前記吊持基準点は、前記長尺材の重心であることを要旨とする。
上記構成によれば、吊持移送される途中で長尺材を略水平状態の安定した姿勢に保持できる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の長尺材の吊持移送方法において、前記長尺材の吊持基準点から前記第1玉掛け点までの距離は前記長尺材の吊持基準点から前記第2玉掛け点までの距離よりも小さく設定されており、前記長尺材は、その重心が該長尺材の長手方向において第1玉掛け点が設定された一端側寄りに位置していることを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、長尺材の吊持移送途中において、該長尺材は重心が位置する一端側が移動体の移動方向の前側となる略水平の姿勢状態で移送されるため、移動体の移動方向(進行方向)が変更された場合でも、その変更後の移動方向に沿って長く延びる姿勢状態となるように速やかに調整される。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の長尺材の吊持移送方法において、前記長尺材の長手方向において前記第1玉掛け点と第2玉掛け点との間には第3玉掛け点が設定され、該第3玉掛け点に対して吊索部材が玉掛けされていることを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、長尺材が重量物である場合にも、その重量負担を第1玉掛け点と第2玉掛け点に加えて第3玉掛け点でも分担負担することが可能となり、長尺材を安定して吊持できるようになる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の長尺材の吊持移送方法において、前記第3玉掛け点においては前記吊索部材が長尺材の表面上を周方向に滑動可能に玉掛けされていることを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、長尺材を吊持する際の姿勢が該長尺材の軸線を中心として回動調整可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長尺材を吊持移送する場合に、その長尺材の吊持移送途中の姿勢状態を移送方向に沿って長く延びるように調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を、風車用のブレードの吊持移送方法に具体化した実施形態を図1〜図6にしたがって説明する。
図1に示すように、移動体としてのヘリコプタ10の下面10aからは一本の支持ワイヤ11が垂下され、この支持ワイヤ11の下端には回転継手12が設けられている。回転継手12に対しては、この回転継手12を吊り支点とする複数本(本実施形態では3本)の吊索部材13,14,15が下方へ分岐するように接続されている。各吊索部材13,14,15は、回転継手12に上端がそれぞれ接続された吊りワイヤ部13a,14a,15aと、各吊りワイヤ部13a,14a,15aの下端にフック機構(図示略)を介してそれぞれ接続された吊りベルト部13b,14b,15bとから構成されている。そして、本実施形態では、前記支持ワイヤ11及び吊索部材13,14,15を介して風車用のブレード(長尺材)16がヘリコプタ10により空中に吊持された状態で空輸(移送)されるようになっている。
【0017】
前記ブレード16は、その材質が合成樹脂からなり、基端側(一端側)が開口すると共に先端側(他端側)が閉塞された長尺の扁平筒状(具体的には、内部が中空とされた羽根形状)をなしている。すなわち、ブレード16は、その断面形状において、基端側の方が先端側よりも太い形状をなしている。そのため、図1に示すように、前記ブレード16は該ブレード16の長手方向における中央よりも基端側寄りに重心Gが位置する構成とされている。また、ブレード16は、その重心Gよりも先端側の部分が扁平な羽根形状をなしているため、その先端側の部分では図1において上側を向く側縁が尖鋭なエッジ部16aとなっている(図5参照)。
【0018】
図1に示すように、前記ブレード16には、その長手方向における複数箇所(本実施形態では三箇所)に、該ブレード16を吊持移送する場合に前記各吊索部材13〜15(具体的には、それらの吊りベルト部13b,14b,15b)を玉掛けするための玉掛け点17,18,19が設定されている。すなわち、ブレード16の長手方向において、前記重心Gよりも基端側の一箇所には、前記各吊索部材13〜15のうち第1吊索部材13が玉掛けされる玉掛け点(以下、第1玉掛け点ともいう。)17が設定されている。また、前記ブレード16の長手方向において、前記重心Gよりも先端側の二箇所には、前記各吊索部材13〜15のうちの残り二本、すなわち第2吊索部材14及び第3吊索部材15がそれぞれ玉掛けされる玉掛け点(以下、第2玉掛け点、第3玉掛け点ともいう。)18,19が設定されている。
【0019】
ブレード16の重心Gよりも先端側に設定される第2玉掛け点18と第3玉掛け点19とは、ブレード16の重心Gから見た場合、第2吊索部材14が玉掛けされる第2玉掛け点18の方が、第3吊索部材15が玉掛けされる第3玉掛け点19よりも、ブレード16の先端側に位置している。すなわち、ブレード16の重心Gよりも先端側においては第2玉掛け点18が重心Gから最も離間して位置する玉掛け点とされる。一方、ブレード16の重心Gよりも基端側においては第1玉掛け点17のみしか設定されていないため、この第1玉掛け点17が重心Gから最も離間して位置する玉掛け点とされる。また、この基端側の第1玉掛け点17と先端側の第2玉掛け点18とを重心Gからの距離において比較した場合、本実施形態では、重心Gから第1玉掛け点17までの距離L1の方が重心Gから第2玉掛け点18までの距離L2よりも小さくなるように設定されている。
【0020】
そして、ブレード16は、そのエッジ部16aが上向きとなる姿勢状態で前記各玉掛け点17,18,19に各々対応する吊索部材13,14,15が玉掛けされた後、ヘリコプタ10が上昇移動することにより、図1に示すように、ブレード16の長手方向に延びる軸線Jが略水平方向に沿う姿勢状態にて空中に吊持されるようになっている。そして、その吊持状態において、前記ブレード16は、その重心Gが支持ワイヤ11から下向きに延びる延長線P上に位置するようになっている。すなわち、本実施形態において、前記各玉掛け点17,18,19は、ブレード16が空中に吊持状態となった場合に、その重心Gを吊り支点となる回転継手12の鉛直方向下方位置であって且つブレード16の長手方向と交差する位置に設定される吊持基準点として機能させるように、それぞれの設定箇所が定められている。
【0021】
図2に示すように、第1吊索部材13は、その吊りベルト部13bの末端に、その吊りベルト部13bを玉掛け作業時にくぐらせるためのリング部20を有している。また、該リング部20よりも基端側において玉掛け作業時にブレード16の周面に巻き付けられる部分には、吊りベルト部13bよりも幅広の幅広ベルト部13Bが形成されている。そして、第1吊索部材13は、幅広ベルト部13Bをブレード16の周面に玉掛けする際に、その幅広ベルト部13Bが滑らないようにするべく、該幅広ベルト部13Bとブレード16の周面との間に滑り止めマット21が挟み込まれるようになっている。
【0022】
また、図2に示すように、第1玉掛け点17よりもブレード16の基端側には、第1吊索部材13の幅広ベルト部13Bに対して位置決め索条22が掛け止めされている。この位置決め索条22は、第1吊索部材13の幅広ベルト部13Bがブレード16の吊持状態時に加わる引っ張り力でブレード16の先端側に位置ずれすることを規制するための部材である。また、図2に示すように、ブレード16の基端面(図2では左端面)からは図示しない風車本体にブレード16を取着するための複数本のボルト23がブレード16の軸線Jと平行となるように延設されている。
【0023】
図3に示すように、第2吊索部材14は、その吊りベルト部14bの末端に、その吊りベルト部14bを玉掛け作業時にくぐらせるためのリング部24を有している。また、該リング部24よりも基端側において玉掛け作業時にブレード16の周面に巻き付けられる部分には、吊りベルト部14bよりも幅広の幅広ベルト部14Bが形成されている。そして、第2吊索部材14は、幅広ベルト部14Bをブレード16の周面に玉掛けする際に、その幅広ベルト部14Bが滑らないようにするべく、該幅広ベルト部14Bとブレード16の周面との間に滑り止めマット25が挟み込まれるようになっている。そして更に、第2玉掛け点18においては、ブレード16のエッジ部16aが脆弱であるため、第2吊索部材14にてブレード16を吊持した際の引っ張り力でエッジ部16aが破損・変形するのを防止するために、該エッジ部16aと第2吊索部材14の間に保護マット26が介装されるようになっている。
【0024】
図4に示すように、第3吊索部材15は、その吊りベルト部15bの末端に、その吊りベルト部15bを玉掛け作業時にくぐらせるためのリング部27を有している。また、該リング部27よりも基端側において玉掛け作業時にブレード16の周面に巻き付けられる部分には、吊りベルト部15bよりも幅広の幅広ベルト部15Bが形成されている。そして、第3玉掛け点19においても、ブレード16のエッジ部16aが脆弱であるため、第3吊索部材15にてブレード16を吊持した際の引っ張り力でエッジ部16aが破損・変形するのを防止するために、該エッジ部16aと第3吊索部材15の間には保護マット28が介装されるようになっている。
【0025】
但し、この第3玉掛け点19においては、第3吊索部材15の幅広ベルト部15Bをブレード16の周面に玉掛けする際に、その幅広ベルト部15Bとブレード16の周面との間に滑り止めマットは挟み込まれない。すなわち、この第3玉掛け点19においては、第3吊索部材15の幅広ベルト部15Bがブレード16の周面上(表面上)を周方向に滑動可能に玉掛けされている。これは、例えば図5(a)に示すように、ブレード16がそのエッジ部16aを真上としない傾いた状態で地上側に載置されており、その載置姿勢状態から吊持されるような場合、そのエッジ部16aの破損・変形を回避するべく、ブレード16を吊り上げ途中で図5(b)に示す状態へと回動させることを可能ならしめるためである。
【0026】
このように、第3玉掛け点19では、第3吊索部材15がブレード16に固着状態での玉掛け状態になっていないため、第3吊索部材15が第3玉掛け点19からブレード16の長手方向に沿って位置ずれしてしまう虞がある。そこで、そのような位置ずれを規制するべく、第3玉掛け点19には位置ずれ規制ベルト29が巻着されている。この位置ずれ規制ベルト29は、第3玉掛け点19をブレード16の先端側及び基端側から挟むように位置してブレード16の周面に巻着された一対の巻きベルト30と両巻きベルト30の間を「梯子の桁」のように連結する連結ベルト31とから構成されている。そして、第3吊索部材15は、その幅広ベルト部15Bを位置ずれ規制ベルト29における両巻きベルト30の間であって連結ベルト31とブレード16の周面との間を通過するように玉掛けされるようになっている。
【0027】
そこで次に、上記のように各玉掛け点17,18,19に各吊索部材13,14,15を玉掛けされたブレード16がヘリコプタ10により空中に吊持された状態で移送される場合の作用について、図1及び図6を参照しながら説明する。
【0028】
さて、図1に示すように、ブレード16は、玉掛け作業完了後に上昇移動したヘリコプタ10により支持ワイヤ11及び各吊索部材13,14,15を介して吊持された状態にあるとき、その吊持基準点として機能する重心Gが吊り支点たる回転継手12の鉛直方向下方に位置すると共に、その長手方向(軸線J)が略水平方向に沿う姿勢状態となる。そして、この吊持状態からヘリコプタ10が移動を開始すると、その移動方向(進行方向)に向けてブレード16は吊持移送されることになる。
【0029】
ところで、図1に示すようにヘリコプタ10により略水平方向に沿うように吊持された状態にあるブレード16は、平面視で見た場合に、その長手方向(軸線J)がヘリコプタ10の移動方向(進行方向)に沿って長く延びた姿勢状態になっているとは限らない。例えば、図6において二点鎖線で示すように、ブレード16の長手方向(軸線J)がヘリコプタ10の移動方向(図6では矢印A方向)と斜めに交差する方向に沿って長く延びた姿勢状態になっている場合もある。
【0030】
いま、このようにブレード16が斜め姿勢の吊持状態にあるときに、ヘリコプタ10がその移動方向(図6の矢印A方向)に移動すると、そのブレード16の基端側(一端側)及び先端側(他端側)には平面視において吊持基準点となる重心Gを中心として移動方向の前側から後側に向けて水平回転しようとする回転モーメントがそれぞれ働く。そして、この場合、ブレード16の基端側に働く回転モーメントは重心(吊持基準点)Gから第1玉掛け点17までの距離L1の長さに対応し、ブレード16の先端側に働く回転モーメントは重心(吊持基準点)Gから第2玉掛け点18までの距離L2の長さに対応する。
【0031】
この点、本実施形態では、重心(吊持基準点)Gからの距離は、基端側の第1玉掛け点17までの距離L1よりも先端側の第2玉掛け点18までの距離L2の方が大きなものとされている。そのため、ブレード16の基端側及び先端側において重心(吊持基準点)Gを中心として移動方向の前側から後側に向けて水平回転しようとする回転モーメントは、ブレード16の先端側に働く回転モーメントの方が勝ることになる。
【0032】
その結果、ブレード16は、第2玉掛け点18が設定された先端側が移動方向(矢印A方向)の後側となるように、図6の場合は同図に示す矢印B方向に水平回転し、同図に実線で示すように、その長手方向(軸線J)がヘリコプタ10の移動方向(矢印A方向)に沿って長く延びた姿勢状態に調整される。そして、その姿勢状態のまま、ヘリコプタ10の移動方向に移送されることになる。
【0033】
以上詳述した実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ヘリコプタ10により空中に吊持されたブレード16の平面視での姿勢状態が、ヘリコプタ10の移動方向と交差する方向に沿って長く延びた姿勢状態にある場合には、ヘリコプタ10の移動に伴いブレード16の先端側が移動方向後側となるように水平回転し、その吊持移送途中の姿勢状態が移送方向に沿って長く延びるように調整される。したがって、仮にブレード16の吊持移送空間域に柱などの構造物が存在していても、その構造物に吊持移送途中のブレード16の端部が接触してしまう可能性を低下させることができると共に、吊持移送途中のブレード16に対する空気抵抗を小さなものにすることができる。
【0034】
(2)ヘリコプタ10によりブレード16を各吊索部材13,14,15によって吊持する際の吊持基準点がブレード16の重心Gと一致しているため、吊持移送途中においてブレード16を該ブレード16の長手方向(軸線J)が略水平方向に沿う姿勢状態に安定保持することができる。
【0035】
(3)ブレード16は、ヘリコプタ10に吊持された状態で移送される際、該ブレード16の重心Gが位置する基端側(一端側)がヘリコプタ10の移動方向(進行方向)の前側となる略水平の姿勢状態にて移送される。そのため、そのブレード16を吊持移送するヘリコプタ10が旋回飛行等により移動方向を変更した場合にも、ブレード16の姿勢状態を、その変更後の移動方向に沿って該ブレード16の長手方向(軸線J)が長く延びる姿勢状態となるように速やかに調整することができる。
【0036】
(4)重量物であるブレード16を第1〜第3の各玉掛け点17,18,19に対して各々玉掛けした第1〜第3の各吊索部材13,14,15を介して多点吊りできるため、ブレード16の重量負担を各吊索部材13,14,15により分担でき、ブレード16を安定して吊持することができる。
【0037】
(5)ブレード16がそのエッジ部16aを真上としない傾いた状態で地上側に載置されており、その載置姿勢状態から吊持されるような場合には、第1玉掛け点17と第2玉掛け点18に玉掛けされた第1吊索部材13と第2吊索部材14が、そのエッジ部16aを上向きとするべく、ブレード16をその軸線Jを中心として回動させる。そして、その際には、第3玉掛け点19に玉掛けされた第3吊索部材15がブレード16の周面上を滑動する。したがって、ブレード16を、その吊り上げ途中で適正な姿勢状態(例えば、図5(b)に示す状態)へと容易に回動させることができる。
【0038】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、例えば図7に示すように、ブレード16の長手方向において玉掛け点を基端側の第1玉掛け点17と先端側の第2玉掛け点18のみの二点吊りの吊持状態にしてもよい。この場合も上記実施形態における(1)〜(3)と同様の効果を奏し得る。また、ブレード16の長手方向において第1玉掛け点17と第2玉掛け点18との間に第3玉掛け点19以外に更に1つ以上の玉掛け点を設定し、全部で4つ以上の玉掛け点を設定するようにしてもよい。
【0039】
・上記実施形態において、ブレード16の重心Gはブレード16の長手方向の中央又は中央よりも先端側寄りに位置していてもよい。
・上記実施形態において、吊持基準点はブレード16の重心Gと必ずしも一致していなくてよい。すなわち、吊持基準点から第1玉掛け点17までの距離L1が吊持基準点から第2玉掛け点18までの距離L2との間に差があればよい。
【0040】
・上記実施形態において、ブレード16の重心Gから第1玉掛け点17までの距離L1が重心Gから第2玉掛け点18までの距離L2よりも大きくなるように設定されていてもよい。この場合は、ヘリコプタ10の移動方向の前側にブレード16の先端側が向いた状態に姿勢調整される。
【0041】
・上記実施形態において、ヘリコプタ10の代わりにクレーンを移動体として使用し、このクレーンから垂らした支持ワイヤ11及び吊索部材13,14,15を介して空中にブレード16を吊持して移送するようにしてもよい。
【0042】
・上記実施形態において、ブレード16の代わりに長尺材として電柱や鋼材などの他の長尺な資材を吊持移送するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態のヘリコプタにブレードが空中に吊持された状態を示す正面図。
【図2】図1の第1玉掛け点の近傍を拡大して示す部分正面図。
【図3】図1の第2玉掛け点の近傍を拡大して示す部分正面図。
【図4】図1の第3玉掛け点の近傍を拡大して示す部分正面図。
【図5】ブレードの第3玉掛け点の近傍の断面図であり、(a)はブレードが傾いた吊持状態を示す断面図、(b)はブレードがエッジ部を上向きにした吊持状態を示す断面図。
【図6】ブレードが吊持移送途中で姿勢調整される状態を示す平面図。
【図7】別の実施形態のヘリコプタにブレードが空中に吊持された状態を示す正面図。
【符号の説明】
【0044】
10…ヘリコプタ(移動体)、12…回転継手(吊り支点)、13…第1吊索部材、14…第2吊索部材、15…第3吊索部材、16…ブレード(長尺材)、17…第1玉掛け点、18…第2玉掛け点、19…第3玉掛け点、G…重心(吊持基準点)、L1,L2…距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺材の長手方向において該長尺材の重心よりも一端側となる箇所及び他端側となる箇所にそれぞれ玉掛け点を設定し、各玉掛け点に空中を移動可能な移動体側から下方に垂らした吊索部材をそれぞれ玉掛けし、前記移動体の上昇移動に伴い前記吊索部材を介して前記長尺材を該長尺材の長手方向が略水平方向に沿うように空中に吊持し、その吊持状態から前記長尺材を前記移動体の移動方向に移送する長尺材の吊持移送方法において、
前記長尺材には、前記移動体が前記吊索部材を介して前記長尺材を空中に吊持する際における吊り支点の鉛直方向下方位置であって且つ前記長尺材の長手方向と交差する位置に該長尺材の吊持基準点を設定し、前記各玉掛け点を、前記長尺材の吊持基準点よりも該長尺材の一端側において前記吊持基準点から最も離間して位置する第1玉掛け点と前記長尺材の吊持基準点よりも該長尺材の他端側において前記吊持基準点から最も離間して位置する第2玉掛け点とを少なくとも含む複数の玉掛け点にて構成し、前記長尺材の吊持基準点から前記第1玉掛け点までの距離と前記長尺材の吊持基準点から前記第2玉掛け点までの距離とに差をもたせたことを特徴とする長尺材の吊持移送方法。
【請求項2】
前記吊持基準点は、前記長尺材の重心であることを特徴とする請求項1に記載の長尺材の吊持移送方法。
【請求項3】
前記長尺材の吊持基準点から前記第1玉掛け点までの距離は前記長尺材の吊持基準点から前記第2玉掛け点までの距離よりも小さく設定されており、前記長尺材は、その重心が該長尺材の長手方向において第1玉掛け点が設定された一端側寄りに位置していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の長尺材の吊持移送方法。
【請求項4】
前記長尺材の長手方向において前記第1玉掛け点と第2玉掛け点との間には第3玉掛け点が設定され、該第3玉掛け点に対して吊索部材が玉掛けされていることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の長尺材の吊持移送方法。
【請求項5】
前記第3玉掛け点においては前記吊索部材が長尺材の表面上を周方向に滑動可能に玉掛けされていることを特徴とする請求項4に記載の長尺材の吊持移送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−31128(P2007−31128A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220520(P2005−220520)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(593026959)中日本航空株式会社 (8)
【Fターム(参考)】