説明

長繊維不織布の製造方法および人工皮革用基材の製造方法

【課題】ウェブ表面の静電気を除去し、ウェブを複数枚重ねた際のウェブのズレや乱れを解消し、折れしわの品位の高い人工皮革を製造することができる長繊維不織布の製造方法および人工皮革用基材の製造方法を提供する。
【解決手段】極細繊維発生型長繊維を紡糸し、前記極細繊維発生型長繊維をネット上に捕集してウェブを形成するウェブ形成工程と、前記ウェブに融着処理を施す融着処理工程と、前記融着処理を施したウェブに水を付与する水付与工程と、前記水を付与したウェブを積重して積重ウェブとする積重工程と、前記積重ウェブに絡合処理を施す絡合工程と、を連続して含むことを特徴とする長繊維不織布の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維不織布および人工皮革用基材の製造方法の製造方法に関し、さらに詳しくは人工皮革等に用いることのできる長繊維不織布の製造方法および人工皮革用基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は織編物とは異なり、縦横斜めの方向による強伸度や物性の違いが少なく、等方性に優れた材料であり、生産性も高いことから広く産業に用いられている。しかし、人工皮革のような高強度、高品質の最終製品を得るためには、幅方向、長さ方向の目付の均一性に優れた高密度化された不織布を用いることが不可欠である。
【0003】
そこで、従来、カーディングマシンを用いて予め捲縮を与えた短繊維から低目付けの繊維ウェブを形成して、クロスラッパーを用いて該繊維ウェブを複数枚数に積重することにより、繊維ウェブの目付け斑を低減して、任意の巾の不織布を製造する方法がとられている。
【0004】
一方で、人工皮革用の不織布として長繊維不織布を用いる場合、当該不織布は、短繊維不織布に比べて、その製造に原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要とせず、強度も高いといった利点がある。しかし、製造時の条件設定が適切でないと、人工皮革として利用可能な不織布物性が得られないことがある。
【0005】
例えば、ウェブをクロスラッパー等の設備を用いて積重する際には、搬送ベルトとの剥離や擦れによる静電気の発生により、ウェブがベルトに貼り付いて積重のズレが生じたり、静電気で捲れあがったウェブの両側端部が折れ重なって目付け斑を生じたりする問題がある。
特に、人工皮革のようにその表面に平滑な銀面を付与した場合には、積重時のズレや目付け斑といった内部の乱れをごまかすことができず、折り曲げた際のしわの品位が非常に低くなるという問題があった。また、スエード調人工皮革に用いた場合の立毛の均一性が低下するという問題があった。
【0006】
そこで、静電気によるシートのズレやシワを防止する方法として、繊維−繊維間の静摩擦係数が0.35〜0.45で、かつ繊維−金属間の静摩擦係数が0.20〜0.30である油剤を付与し、ニードルパンチ処理を施す方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、静摩擦係数がこの範囲にあると、繊維の動きやすさと繊維の損傷に対しては有効であるが、打ち込んだ繊維が元に戻ってしまう傾向にあり、人工皮革の基体として利用可能な不織布物性が得られにくく、充分な解決には至っていない。
【特許文献1】特開2002−69821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する問題点を背景になされたもので、その目的は、ウェブ表面の静電気を除去し、ウェブを複数枚重ねた際のウェブのズレや乱れを解消し、折れしわの品位の高い人工皮革を製造することができる長繊維不織布の製造方法および人工皮革用基材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、下記本発明により解決することができる。
すなわち、本発明は、極細繊維発生型長繊維を紡糸し、前記極細繊維発生型長繊維をネット上に捕集してウェブを形成するウェブ形成工程と、前記ウェブに融着処理を施す融着処理工程と、前記融着処理を施したウェブに水を付与する水付与工程と、前記水を付与したウェブを積重して積重ウェブとする積重工程と、前記積重ウェブに絡合処理を施す絡合工程と、を連続して含むことを特徴とする長繊維不織布の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ウェブ表面の静電気を除去し、ウェブを複数枚重ねた際のウェブのズレや乱れを解消し、折れしわの品位の高い人工皮革を製造することができる長繊維不織布の製造方法および人工皮革用基材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の長繊維不織布の製造方法は、ウェブ形成工程、融着工程、水付与工程、積重工程、および絡合工程をこの順に含み、適宜、その他の工程を含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0011】
(ウェブ形成工程)
ウェブ形成工程では、極細繊維発生型長繊維を紡糸し、前記極細繊維発生型長繊維をネット上に捕集してウェブを形成する。
ここで、「極細繊維発生型繊維」とは、少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維をいう。このような多成分系複合繊維としては、繊維外周を複数成分が交互に構成するような花弁形状や重畳形状などの剥離分割型複合繊維;繊維断面において繊維外周を主体として構成する海成分ポリマー中に、これとは異なる種類の島成分ポリマーが分布した断面形態の海島型繊維;が挙げられる。これらの中でも、海島型繊維が好ましい。
海島型繊維は、ニードルパンチ処理で代表される繊維絡合処理を行う際に、割れ、折れ、切断などの繊維損傷が極めて少ない。そのため、より細い繊度の複合繊維を不織布構造体の構成繊維として採用することが可能で、その絡合による緻密化度合いをより高めることができるといった利点がある。
【0012】
島成分ポリマーは、表面張力の作用によって、通常は円形かそれに近い形状で分布するが、海成分ポリマーと島成分ポリマーとの比率によっては多角形に変形していることもある。この海島型繊維は、不織布構造体を形成させ、さらに高分子弾性体を含浸させる前または後の適当な段階で海成分ポリマーを抽出または分解して除去される。このことによって、残った島成分ポリマーからなり元の海島型繊維より細い複数本の繊維が集束した繊維束を生成させることができる。このような海島型繊維は、従来公知のチップブレンド(混合紡糸)方式や複合紡糸方式で代表される多成分系複合繊維の紡糸方法を用いて得ることができる。また、剥離分割型複合繊維に比べると、得られる極細繊維の断面形状がより円形に近い形状となり、繊維束として見たときに異方性がより少ない。さらに、個々の極細繊維の繊度、即ち断面積の均一性が高い極細繊維束が得られるという性質を有しており、非常に多くの繊維束を従来にない緻密さで集合させることができる。そして、かかる特性は、人工皮革用基材において、柔軟で膨らみ感がありながら充実感をも兼ね備えた独特の風合いを得る上でも好ましい。
【0013】
本発明で用いられる長繊維としては、従来の人工皮革または合成皮革として用いられている繊維であり、合成繊維が好ましい。ここで、長繊維とは、短繊維のように数cmでカットされることなく、長い繊維状の形態を保っている繊維をいい、ポリマーを紡糸した後にカットを行わず、充分に連続した繊維をいう。
【0014】
極細繊維発生型繊維を構成するポリマーは、本発明においては特に限定されるものではない。例えば、分割可能な貼り合せ構造を有する繊維の場合は、ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−11、ナイロン−12などのポリアミド繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びこれらを主成分とする共重合ポリエステル等のポリエステル繊維;などが挙げられる。
【0015】
海島型繊維の場合、島成分を構成するポリマーは、本発明においては特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する。)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと称する。)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと称する。)、ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂またはそれらの変性物;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂またはそれらの変性物;さらにはポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂;など、従来公知の繊維形成能を有する種々のポリマーが好適である。
【0016】
これらの中でもPET、PTT、PBT、またはこれらの変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂は、熱処理により収縮を発現しやすく、加工した人工皮革製品において評価したときの充実感のある風合い及び耐磨耗性、耐光性、あるいは形態安定性などの実用的な性能の点から特に好ましい。また、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸湿性があってしなやかな極細繊維が得られることから、加工した人工皮革製品において評価したときの膨らみ感のある柔らかな風合い、及び立毛調外観であれば滑らかなタッチや帯電防止性能などの実用的な性能の点から特に好ましい。
これら島成分ポリマーは、融点が160℃以上であるのが好ましく、180〜330℃の繊維形成性結晶性樹脂であることがより好ましい。島成分ポリマーの融点が160℃以上であれば、極細繊維の形態安定性を満足いくレベルとすることが可能で、特に人工皮革製品において評価される実用的な性能の点からも好ましい。
【0017】
融点は、示差走査熱量計(以下、DSCと称する。)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温からポリマー種類に応じて300〜350℃までポリマーを昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したときに観測される吸熱ピークのピークトップ温度を採用する。極細繊維を構成するポリマーには、紡糸段階で着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、消臭剤、防かび剤、抗菌剤その他各種安定剤などが添加されていてもよい。
【0018】
海島型繊維の海成分を構成するポリマーは、海島型繊維を極細繊維束に変成させる必要があるので、採用した島成分ポリマーとは溶剤または分解剤に対する溶解性または分解性を異にする必要がある。すなわち、紡糸安定性の点から島成分ポリマーとは親和性が小さいポリマーであって、かつ紡糸条件下では溶融粘度が島成分ポリマーより小さいポリマーであるか、あるいは表面張力が島成分ポリマーより小さいポリマーであることが好ましい。このような条件を満たす限り、海成分ポリマーは特に限定されるものではない。好ましい具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、スチレンアクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコール系樹脂およびポリエチレンが好ましい。
【0019】
なお、海成分ポリマーの溶融粘度を島成分ポリマーより小さくすることで、後の融着処理工程においてこれらのポリマーの溶融温度まで温度を上げる必要がなくなる。すなわち、融着処理の際に60〜120℃程度の温度範囲になるように調節することが可能となり、ウェブを構成する海島型繊維の断面形状を大きく損なうことなく、その形態を十分に保持することができる。
【0020】
極細繊維発生型繊維の紡糸およびウェブ形成には、例えば、多数のノズル孔が、所定のパターンで配置された複合紡糸用口金を用いることが好ましい。そして、溶融状態の海島型繊維を個々のノズル孔からコンベヤベルト状の移動式のネット上に連続的に吐出させる。このとき冷却装置により、繊維を実質的に冷却固化させながら、エアジェット・ノズルのような吸引装置を用いて高速気流を作用させることが好ましい。また、ネットの繊維捕集面とは反対面側に吸引装置を設け、吐出される海島型繊維を吸引しながら繊維捕集面上に捕集・堆積させることが好ましい。このようにして、海島型繊維のウェブがネット上に形成される。なお、ウェブの目付けはネットの駆動速度と紡出繊維量によって決定されるので、適宜調整することが好ましい。
【0021】
なお、複合紡糸用口金のノズル孔のパターンとしては、種々のものを使用することができる。同心円状のパターンを採用する場合、1つの口金に対して作用させる吸引装置は一般的にはノズル状で1つとなる。このため、吸引の際に多数の海島型繊維が同心円の中心点に集束されてしまう。また、一般的には複数の口金を直線状に並べて所望の紡糸量を得ているので、隣接する口金から吐出される海島型繊維の束との間はそのまま捕集したのでは繊維が殆ど存在することはない。そのため、ウェブの地合いを均一な状態へと調節するには開繊の重要性が極めて高くなる。これに対し、並列状のパターンを採用すれば、吸引装置は口金に対向した直線的なスリット状であるため、吸引の際に集束されてしまう海島型繊維は基本的には口金において並列に配置された列間のみに留まる。従って、仮にそのまま捕集したとしても同心円状のパターンを採用した場合に比べるとより均一な地合いでウェブが得られるので、この点においては同心円状のパターンに比べると並列状のパターンの方がより好ましい実施態様である。
【0022】
(融着処理工程)
融着処理工程は、ネット上に形成されたウェブに融着処理を施して、形態安定性を付与する工程である。
融着処理としては、種々の手段を採用することができるが、熱プレス処理が好ましい。熱プレス処理することによりその後の積重、絡合の各工程でのウェブの形態変化をより抑制することが可能となる。
【0023】
熱プレス処理としては、例えば、熱プレスロール(カレンダーロールや凹凸模様が付与されたロール)を使用し、所定の圧力と温度をかけて処理する方法を採用することができる。熱プレス処理する温度は、極細繊維発生型長繊維の少なくとも1成分(表面に存在する少なくとも1成分)の融点より10℃以上低いことが好ましい。10℃以上低いと、ウェブの良好な形態安定性を維持しながら、積重後のウェブを絡合する際の絡合不良や針穴の形成を防ぎ、高品位な不織布とすることができる。熱プレス後のウェブの目付けとしては、20〜60g/m2の範囲であることが好ましい。20〜60g/m2の範囲にあることで、次の積重工程におけるシートの目付斑、特にシートの両側端部の目付けのばらつき(高低差)が発生しにくくなり、風による影響を受けずに、積重スピードを低下させることなく、積重の乱れや繊維集合体の不均一化を防ぐことができる。
【0024】
(水付与工程)
水付与工程は、融着処理後のウェブに水を付与して、静電気の発生を抑制することで、積重工程における積重ズレを防ぐ工程である。
融着処理後のウェブをクロスラッパー等の設備を用いて積重する際には、搬送ベルトとの剥離や擦れによる静電気の発生により、ウェブがベルトに貼り付いて積重のズレが生じたり、静電気で捲れあがったウェブの両側端部が折れ重なって目付け斑を生じたりする問題がある。
【0025】
これらの問題を解決するには、ウェブに帯電防止剤を付与することが一般的に行われる。しかし、生産効率を重視して処理速度を40m/min以上(好ましくは80m/min以上)とし、紡糸設備と積重設備とを隣接して配置した場合には、長繊維を紡糸し積重処理する間に帯電防止剤を付与しても、帯電防止剤が雰囲気中から水分を十分に取り込む時間がなく静電気の発生を効率的に抑制することは困難となる。その結果、目付け斑のない均一な不織布は得られない。
【0026】
また、紡糸設備から積重設備までの工程長を長くしても帯電防止剤が吸湿するためには、25℃75%RHの高温多湿状態に設定する必要がある。しかし、高温多湿状態に設定した場合においても、吸湿に1分以上の時間が必要となるため、40m以上(好ましくは80m以上)の工程長が必要となる。工程長を長くした場合には、融着処理後のウェブが工程を通過する際にテンションをうけ、ウェブ自体に目付け斑が生じてしまい、均一な不織布が得られない。
【0027】
これに対し、当該水付与工程を設けてウェブに水を付与することで、帯電防止剤を使用するような問題が生じず、効率的に静電気の発生を抑制することが可能となり、ウェブを複数枚重ねた際のウェブのズレや乱れを解消し、長繊維不織布の目付、厚み、比重を均一とすることで、目付け斑のない均一な不織布が得られる。その結果、どの部位で折り曲げても分散した微細な皺だけが発生し、折り曲げを解除した場合にもその皺跡が残らない長繊維不織布、すなわち、折れしわの品位の高い長繊維不織布を製造することができる。
【0028】
静電気の発生をより効率よく抑制するには、前記融着処理を施したウェブ質量に対し0.5〜5質量%の範囲で水を付与することが好ましい。0.5〜5質量%の範囲とすることで、静電気の発生の抑制、および残留水分に起因するべとつきによって搬送ベルト等への巻き付きトラブルが生じるのを抑制することができる。
【0029】
水を付与する手段としては、ディップ/ニップ法による水付与手段、ローラータッチ方式による水付与手段、水を霧吹き状に噴霧する水付与手段などが挙げられる。ウェブに対し水を均一に付着させることを考慮すると、上記手段の中でも、水を霧吹き状に噴霧する水付与手段が好ましい。当該手段の具体例としては、ハンドスプレーや連続付与が可能な噴霧装置が挙げられる。
【0030】
(積重工程)
積重工程はウェブを積み重ねて積重ウェブとする工程である。当該積重工程では積重ウェブの形態を均一にするために、クロスラッパーを採用することが好ましい。積重枚数としては、目付けムラの低減と良好な生産性を考慮して、5〜100枚程度とすることが好ましい。積重時の雰囲気としては、0〜40℃の温度で50〜90%の相対湿度とすることが好ましい。
【0031】
(絡合工程)
絡合工程は、積重ウェブに絡合処理を施す工程である。当該絡合処理には、ニードルパンチを用いることが好ましい。
積重ウェブをニードルパンチ等の絡合処理によって3次元的に絡合させて長繊維不織布とする方法としては、従来公知の設備を用いればよい。
ニードルパンチの条件としては、ニードルのバーブが積重ウェブの両表面まで貫通するような条件でかつニードルパンチ数が400〜8000パンチ/cm2の条件(特に、1000〜4000パンチ/cm2の条件)が好ましい。ニードルパンチの処理方向は、最終製品の感性、物性等必要に応じて片面からのみ行っても構わないが、積重ウェブの両面から行うのが天然皮革用の緻密な外観を得る点で好ましい。
上記のようなニードルパンチ処理によって得られる長繊維不織布は、天然皮革様の充実感ある風合いおよび機械強度に優れる人工皮革の製造に好適である。
【0032】
本発明の製造方法に係る各工程は、ウェブを巻き取ることなく連続して設けられる。
例えば、長繊維不織布の製造方法では、繊維の紡出スピードと後の工程のラインスピードを調整するために、熱プレス後のウェブで一旦巻き取ることも可能であるが、本発明の製造方法では巻き取らずに連続して積重工程等を通過する。融着処理後のウェブは、絡合工程で繊維が移動して容易に絡合が可能となる程度に繊維が融着しているのみとなっている。従って、一旦巻き取ったり、巻き出したりする際のウェブ両側端部の繊維のもつれ等に起因して、ウェブの破れに起因する目付け斑やテンション変動による走行位置のズレが生じて均一な積重状態を得ることが困難となる。これに対し、本発明の製造方法では、途中での巻き取り、巻き出しの工程を無くすことにより、品質(特に、折れしわの品位)の高い長繊維不織布を安定して製造することができる。
【0033】
短繊維を経由する方法に対し、本発明が採用する製造方法は、紡糸から繊維ウェブ形成が途切れることのない1つのまとまった工程となっている。そのため、設備においても非常にコンパクトで簡潔であり、生産速度やコストに優れる。また、工業的な実施において極めて重要な安定生産性の点においても有利である。すなわち、従来のような種々の工程、設備が組み合わさることによる複合的な課題を生じ難いという大きな利点がある。さらに、構成繊維が連続性の高い長繊維であることから、得られる長繊維不織布、それを用いた人工皮革用基材や人工皮革において、繊維間の絡合や高分子弾性体による拘束のみに頼っていた短繊維経由の不織布構造体に比べると、形態安定性、即ち人工皮革用基材や人工皮革の機械的強度や表面摩擦耐久性、銀面調の場合の接着剥離強力などの物性面において優れた特性を発揮し得る。
【0034】
本発明の製造方法で得られた長繊維不織布は、幅方向、長さ方向の目付の均一性と等方性に優れた非常に品質の高いものとなる。特に、スエード調人工皮革に用いた場合の立毛の均一性や銀付き調人工皮革に用いた場合の折れしわの品位が高く、スポーツシューズ、婦人・紳士靴などの靴用途、競技用の各種ボール用途、家具、車両、内装材、インテリア材などの産業資材用途、手帳・ノート等の装丁用途、衣料用途などに好ましく用いることができる。
【0035】
本発明の製造方法で得られた長繊維不織布は、高分子弾性体付与工程、極細化処理工程等を経て人工皮革用基材となる。
高分子弾性体付与工程では、例えば、有機溶剤に溶解されたポリウレタンなどの高分子弾性体溶液、あるいは水に分散されたポリウレタンなどの高分子弾性体水分散液などを長繊維不織布に含浸する。その後、湿式あるいは乾式で凝固し、長繊維不織布に高分子弾性体が付与された弾性体含有長繊維不織布が得られる。
【0036】
極細化処理工程では、長繊維不織布または弾性体含有長繊維不織布から特定のポリマーを選択的に除去する極細化処理を施し、長繊維を極細繊維とする。例えば、極細繊維発生型長繊維に海島型繊維を使用した場合の極細化処理では、海成分に配したポリエチレン、ポリビニルアルコール系樹脂、またはアルカリ易溶性ポリエステルなどの易溶性のポリマーを溶解除去する。また、海成分にポリエチレンを配した極細化処理にあっては、収縮処理した弾性体含有長繊維を80℃の熱トルエン中に浸漬し、ポリエチレンを完全に除去して乾燥すればよい。また、海成分にポリビニルアルコール系樹脂を配した極細化処理にあっては、収縮処理した長繊維不織布または弾性体含有長繊維を80〜98℃の熱水中に浸漬し、水溶性のポリビニルアルコール樹脂を完全に、または用途に応じて一部除去して乾燥すればよい。このように、海成分の易溶性ポリマーを溶解除去することによって、天然皮革様で充実感のある人工皮革用基材を製造することができる。
【0037】
なお、人工皮革用基材を作製するに当たっては、上記工程の順序に特に制限はない。また、公知の工程を適宜設けてもよい。
また、高品質な不織布とするためには繊維が極細繊維であることが好ましい。繊維の繊度は0.5〜0.001dtexであることが好ましく、0.3〜0.08dtexであることがより好ましい。繊度を上記範囲とすることで、不織布やそれから得られる人工皮革等の風合いが硬くなることを防ぐことができる。
さらに、これらの繊維は単独ではなく数種の繊維が混合したものでも構わない。さらに、長繊維ばかりではなく、短繊維を一部に含むものであってもよい。短繊維を含有することによってさまざまな風合いをとることができる。
【0038】
上記人工皮革用基材は、乾燥後表面を起毛し、染色によりスエード調人工皮革に、あるいは表面に高分子弾性体の着色膜等を形成し銀付調人工皮革とすることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
ウェブ形成工程、融着処理工程、水付与工程、積重工程、および絡合工程の各工程のおける処理を、ウェブを巻き取ることなく連続して以下の通り実施した。
【0041】
ウェブ形成工程
まず、極細繊維発生型長繊維(海島型繊維)の海成分に水溶性熱可塑性のポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略す。)樹脂(融点 約160℃)を用い、島成分にイソフタル酸変性量6モル%のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた。この海島型繊維1本あたりの島数が25島となるような溶融複合紡糸口金を用い、エアージェットノズルで細化しながら、90m/minで移行するネット上に繊度2.50dtexの海島型繊維を捕集しウェブを形成した。なお、紡糸条件は下記の通りである。
・海成分/島成分の質量比:30/70
・温度:250℃
・口金からの単孔吐出量:1.0g/分
・紡糸速度:3600m/分
【0042】
融着処理工程
さらに、下記条件のカレンダーロールを用いて、長繊維からなるウェブを仮接着し、目付け30g/m2のウェブとした。
・温度:80℃
・線圧:70kg/cm
【0043】
水付与工程
融着処理後のウェブの質量に対して2%の水を両面に均等に付与した。なお、水付与の条件は、下記の通りである。
・水付与手段:幅方向にスプレーノズルを等間隔で設置し、幅方向の付着量が均一になる ように噴霧した。
・水付与時間:ウェブが上記のスプレーノズルの下を90m/minで通過している状態で65g/分となるように噴霧した。
【0044】
積重工程
その後、ウェブ12枚相当分を25℃、相対湿度75%の雰囲気下でクロスラッパーにより積み重ねて積重ウェブを作製し、これに針折れ防止油剤をスプレー付与した。
クロスラッパーによる積重時の静電気発生量は非接触型の静電気測定器で測定した結果200Vであり、積重時の折りたたみの位置のズレや皺の発生は皆無であった。
【0045】
絡合工程
次いで、下記条件にて積重したウェブの両面から交互に2400P/cm2のニードルパンチによりウェブの絡合を行い、長繊維不織布を得た。
・針先端からバーブまでの距離:3mm
・スロートデプス:0.04mm(1バーブ針)
・針深度:8mm
【0046】
上記絡合後、長繊維不織布に水(長繊維不織布中のPVAに対し30質量%の量)を付与し、張力がかからない状態で下記条件にて熱処理を行った。当該熱処理により収縮を生じさせ、不織布の見かけの繊維密度を向上させて、緻密化された長繊維不織布を得た。
・相対湿度:95%
・温度:70℃
・時間:3分間
【0047】
この緻密化処理による面積収縮率は45%であった。次いで、緻密化された長繊維不織布を熱ロールでプレスし、目付740g/m2、見かけ密度0.50g/cm3の平滑面を有する長繊維不織布を得た。
【0048】
該不織布に水系ポリウレタンエマルジョンとしてスーパーフレックスE−4800(第一工業製薬株式会社製)を含浸付与し、150℃で乾燥およびキュアリングを施し、樹脂繊維比率R/F=6/94の弾性体含有長繊維不織布を得た(高分子弾性体付与工程)。
【0049】
ついで、95℃の熱水中でPVAを溶解除去し、弾性体含有長繊維不織布の長繊維を極細繊維とした厚み1.3mmの人工皮革用基材を得た(極細化処理工程)。
人工皮革用基材における極細繊維の単繊度は0.1デシテックスであった。得られた人工皮革用基材の片面をサンドペーパーでバフィングして0.5mm研削した結果、クロスラッパーの積重時のウェブのズレや皺に起因する研削斑は皆無であった。
【0050】
得られた人工皮革用基材の研削面とは反対面に、離型紙上で形成した厚さ50μmのポリウレタン皮膜を二液型ウレタン系接着剤により接着し、乾燥および架橋反応を十分に行った。その後、離型紙を剥ぎ取って、銀付き調人工皮革を得た。
得られた銀付き調人工皮革は、反発感のないやわらかさと腰の有る風合いを兼ね備えると共に、どの部位においても緻密な折り曲げ皺を有する均一なシートであった。
【0051】
(比較例1)
水付与工程で、水を両面に均等に付与する代わりに、水分含有量が0%のアルキルホスフェート系の帯電防止剤をウェブ重量に対して0.05重量%となるようにスプレー付与した以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を作製した。
【0052】
クロスラッパーによる積重時の静電気発生量は5000Vであり、積重時の折りたたみの位置のズレや振り落とし時の皺が多発して均一な不織布を得ることができなかった。
【0053】
得られた不織布を用いて実施例1と同様な方法で、人工皮革用基材を作製し、得られた人工皮革用基材の片面をサンドペーパーでバフィングして0.5mm研削した。研削後の人工皮革用基材は、クロスラッパーの重ね合わせ時のウェブのズレや皺に起因する研削斑がいたるところに発生しており、均一な研削状態が得られていなかった。
【0054】
得られた人工皮革用基材から実施例1と同様にして銀付き調人工皮革を得た。得られた銀付き調人工皮革は、反発感のないやわらかさと腰の有る風合いを兼ね備えてはいるが、バフィング時の研削斑の部位においては折れ皺が大きく、不均一なシートであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維発生型長繊維を紡糸し、前記極細繊維発生型長繊維をネット上に捕集してウェブを形成するウェブ形成工程と、
前記ウェブに融着処理を施す融着処理工程と、
前記融着処理を施したウェブに水を付与する水付与工程と、
前記水を付与したウェブを積重して積重ウェブとする積重工程と、
前記積重ウェブに絡合処理を施す絡合工程と、
を連続して含むことを特徴とする長繊維不織布の製造方法。
【請求項2】
前記融着処理工程における前記融着処理が熱プレス処理であって、その処理温度が前記極細繊維発生型長繊維の少なくとも1成分の融点より10℃以上低いことを特徴とする請求項1に記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項3】
前記水付与工程における前記水の付与量が、前記融着処理を施したウェブ質量の0.5〜5重量%の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項4】
前記極細繊維発生型長繊維を構成するポリマーの一成分がポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とするである請求項1〜3のいずれか1項に記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項5】
前記極細繊維発生型長繊維を構成するポリマーの一成分がポリエチレンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の長繊維不織布の製造方法で得られた長繊維不織布に対し、前記極細繊維発生型長繊維を極細化処理する極細化工程を含むことを特徴とする人工皮革用基材の製造方法。

【公開番号】特開2008−240216(P2008−240216A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86930(P2007−86930)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】