説明

閉ループセンサにおける高精度フィードバック制御のためのシステムおよび方法

【課題】センサ・システムにおけるフィードバック信号のための改善された方法およびシステムを提供する。
【解決手段】例示的な方法では、アナログ復調器を使用して感知信号を復調し、また、デジタル復調器も使用して感知信号を復調する。アナログ復調器の結果とデジタル復調器の結果との差が算出され、次に積分される。積分された差に基づいて、センサ・フィードバック制御信号が生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ・システムにおけるフィードバック信号のための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
加速度計およびジャイロスコープなどのような、同期検出を含む閉ループ感知システムは、比較的高い帯域、高いダイナミック・レンジ、および高い精度を有するフィードバック・ループを含む場合には最適に動作する。典型的なアナログ・フィードバック・ループは、高い帯域およびダイナミック・レンジを提供するが、オフセット電圧や復調器の不完全性などのアナログ誤差により、精度が限定される。デジタル式の復調器およびアキュムレータを有する一般的な高帯域デジタル・フィードバック・ループは、高い精度を提供するが、ダイナミック・レンジが低い。高速デジタル−アナログ・コンバータ(DAC)は、典型的には約16ビットの分解能に限定される。高い分解能を有するDACも存在するが、帯域が低いという代償を伴う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、感知システムに使用される、高い帯域、高いダイナミック・レンジ、高い精度のフィードバック・ループが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、センサ・システムにおけるフィードバック信号のための改善された方法およびシステムを提供する。例示的な一つの方法では、アナログ復調器を使用して感知信号を復調し、また、その感知信号をデジタル復調器も使用して復調する。アナログ復調器の結果とデジタル復調器の結果との差が算出され、次に積分される。この積分された差に基づき、センサ・フィードバック制御信号を発生する。
【0005】
添付の図面を参照して、本発明の好ましい実施形態および代替実施形態を以下で詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は例示的システム20を示し、このシステムは、感知エレメント24、アナログ・フロントエンド回路コンポーネント36、アナログ−デジタル(A/D)・コンバータ38、アナログ復調コンポーネント30、デジタル信号処理コンポーネント32、デジタル−アナログ・コンバータ(DAC)40、演算増幅器(Op Amp、オペアンプ)50、アナログ積分器52、感知エレメント・ドライブ54、変調用発振器46、およびコンパレータ(比較器)44を含む。アナログ復調コンポーネント30は、アナログ復調器60および低域通過フィルタ62を含む。デジタル信号処理コンポーネント32は、復調器64、アキュムレータ68、および移相器66を含む。共振光ファイバ・ジャイロ(RFOG)(24)は、このタイプの信号処理および制御を使用することができる回転センサである。RFOGでは、感知エレメント・ドライブ54は、レーザ周波数を、ファイバ・リング共振器の共振周波数にするように、制御する。変調用発振器46はレーザ周波数を変調し、それは共振器により光強度信号へと変換される。光強度信号は、光検出器(図示せず)により電圧信号に変換される。電圧検出器信号は、アナログ・フロントエンド36を通り、アナログ復調器60およびデジタル復調器64により復調される。アナログ復調器60の出力は、共振誤差信号と復調器誤差とを組み合わせたものである。共振誤差信号は、共振周波数から共振器共振幅の約半分離れた周波数範囲については、レーザ周波数とファイバ・リング共振器共振周波数との差にほぼ比例する。理想的な共振器では、共振誤差信号は、レーザ周波数が共振器共振周波数であるときにはゼロになる。レーザを共振器共振周波数とするよう制御するために、アナログ積分器52は誤差信号を積分し、誤差信号がゼロ値になるまでレーザ周波数を調整する。しかし、アナログ復調器60およびアナログ積分器52の不完全性のために、積分器入力において直流オフセット誤差が生じる。この直流オフセットは、積分器52により積分され、これは、共振誤差信号が直流オフセット誤差をキャンセルするような振幅および符号を有するまで、共振周波数から僅かに外れてレーザ周波数を調整する。共振周波数からのレーザ周波数の偏差は、回転感知誤差をもたらし得る。デジタル復調器64もまた、レーザ周波数と共振器共振周波数との周波数差にほぼ比例するデジタル値を出力する。アナログ復調器60およびアナログ積分器52とは異なり、デジタル復調器64およびデジタル・アキュムレータ68は、直流オフセット誤差を発生しない。デジタル・アキュムレータ68およびDAC40は、デジタル復調器64の出力がゼロになるまで、オペアンプ50でのアナログ信号を調整する。なお、出力がゼロになるのは、レーザ周波数が共振周波数のときだけである。従って、デジタル・フィードバック・ループはアナログ補正信号を与え、この信号は、アナログ復調器およびアナログ積分器により発生する直流オフセット誤差をキャンセルする。直流オフセット誤差の変化は、ほとんどの場合は老化および温度の影響により引き起こされるので、直流オフセット誤差の時間に伴う変化は非常に遅く、典型的には1Hzよりもかなり少ない。従ってデジタル補正ループは、アナログ誤差に対する補正をするためには広帯域信号である必要がない。デジタル・ループに対する帯域の要件は非常に低いので(1Hzより下)、DAC40は、σ−ΔDACなどのような非常に高い分解能を提供するタイプのものとすることができる。DAC40の高分解能は、必要なレベルの精度にするためにアナログ誤差をキャンセルするために必要となることもある。
【0007】
感知エレメント24は、感知信号をアナログ・フロントエンド回路コンポーネント36へ出力し、コンポーネント36は、その感知信号を処理してA/Dコンバータ38、およびアナログ復調コンポーネント30のアナログ復調器60へ送る。アナログ復調器60は、その信号を、ローカル発振器からの位相偏移信号に基づき復調する。この位相偏移信号は、デジタル復調コンポーネント32の移相器(フェーズ・シフタ)66の出力である。移相器66は、比較器44の出力を受け取る。比較器44は、変調用発振器46により発生された変調信号と、例えば0ボルトの閾電圧とを比較する。比較器44の出力は、デジタル信号であり、このデジタル信号は、変調信号が閾レベルを通過するとハイ状態またはロー状態へと遷移する。変調信号はまた、感知エレメント24へも送られる。アナログ復調器60の出力は、低域通過フィルタ62によりフィルタリングされる。
【0008】
復調器64は、A/Dコンバータ38により発生されたデジタル信号を、ローカル発振器からの位相偏移信号に基づいて復調する。この位相偏移信号は移相器66の出力である。アキュムレータ68は、復調器64の出力を受け取る。DAC40は、アキュムレータ68の出力を受け取る。
【0009】
オペアンプ50は、低域通過フィルタ62の出力を受け取り、低域通過フィルタ62の出力信号からDAC40の出力信号を減算する。アナログ積分器52は、オペアンプ50により算出された差を積分して、調整された誤差信号を生成する。感知エレメント・ドライブ54は、オペアンプ50からの調整された誤差信号に基づいて、感知エレメント24の駆動信号を発生する。オペアンプ50は、たとえ誤差信号がゼロであっても、アナログ積分器52を飽和へと向かわせる入力オフセット電圧を有する。しかし、オフセット電圧が十分に小さい限り、積分器の出力は、オペアンプのオフセット電圧を正確にキャンセルする誤差信号を発生するように、レーザ周波数を共振から僅かに外れるように変化させ、それにより積分器52を安定した動作状態に維持する。オペアンプの入力のオフセット電圧のために、レーザ周波数は正確に共振周波数にならず、それが回転感知の誤差を招くことになる。アナログ・フロントエンドおよびアナログ混合器には、同じ影響を及ぼしうる他の誤差原因もあり、実効積分器入力オフセット誤差として表すことができる。デジタル復調器64は、アナログ復調器60よりもかなり誤差が小さく(どちらも復調という同じ機能を実行する)、デジタル・アキュムレータ68は、アナログ積分器52よりもかなり誤差が小さい(どちらも積分という同じ機能を実行する)。アキュムレータ68は、デジタル復調器64の出力がゼロになるまで、DAC出力を調整する。なお、出力がゼロになるのは、レーザ周波数が共振器共振周波数のときである。従ってDAC出力は、積分器入力オフセットなどのアナログ誤差を正確にキャンセルするように調整される。
【0010】
図2Aは、システム20と類似のシステム100を示す。システム100はデジタル復調コンポーネント104を含み、これは、デジタル復調コンポーネント32のすべてのコンポーネントを含み、さらにランダム・ノイズ発生器108および加算器110を有する。加算器110は、ランダム・ノイズ発生器108により発生した乱数信号を、デジタル・アキュムレータ68の出力に加算する。DAC40は、加算器110の出力を受け取る。低域通過フィルタ114は、DAC40により発生されたアナログ信号をフィルタリングする。乱数信号は、DAC40の分解能を向上させるノイズである。アキュムレータ68は、出力値に所望の分解能を与えることができる。しかし、標準的な低価格のDACでは、必要な分解能を提供しないこともある。アキュムレータ出力値へノイズを付加することにより、DACの実効分解能を著しく向上させることができる。ノイズの振幅は、DACのおおよそ数ビットでなければならず、それにより、DAC出力がアキュムレータ出力値付近で震える(ディザ、dithered)。各DACサンプルについてのDACの出力は、依然としてDAC最下位ビット(LSB)へと量子化される。しかし、多くのDACサンプルが一緒に平均される場合には、平均値の量子化はDACのLSBよりも小さくなる。平均値の量子化のレベルは、平均の際にDACサンプルの数を増加させることにより低減する。DACサンプル周波数を増加させることにより、平均値の量子化は、固定期間において低下させることができる。従って、この技法では、デジタル・ループ制御帯域幅に影響を及ぼさない平均化時間において十分なDACサンプルを得るために、デジタル制御ループの帯域よりもかなり高い周波数で動作できるDACを必要とする。低域通過フィルタ114は、本質的にDAC出力を平均する。ランダム・ノイズに、デジタル・ループ帯域幅内の周波数成分がある場合、ランダム・ノイズは、望ましくないノイズをセンサへ与える。ランダム・ノイズ発生器108は、ループ帯域よりも高く、また低域通過フィルタ114のカットオフ周波数よりも高い周波数成分だけを有するノイズを与えるように作製することができ、低域通過フィルタ114は、ノイズがアナログ制御ループへ加えられる前に除去する。
【0011】
図2Bはシステム100aを示し、これは、システム100の機能を含むが、共振器光ファイバ・ジャイロ・レーザ・ドライブ構成に適用される。システム100aは、2次フィードバック・ループを使用するための進み遅れ(lead-lag)回路とともに、積分器52aともう1つの積分器52bとを含み、これは、非常に広い帯域を有する安定したループを提供するために一般に使用される。加算増幅器120が、第2積分器52bの出力を受け取り、レーザ・ドライブ・コンポーネント54aへ信号を出力する。加算増幅器120はまた、直接デジタル・シンセサイザ(DDS)である変調用発振器46の出力も受け取る。レーザ・ドライブ54aは、共振器共振周波数の中心を検出するための変調信号と、レーザをその共振周波数にロックするための制御信号との両方を供給する。
【0012】
図3Aは、デジタル復調コンポーネント132を含む別のシステム130を示し、デジタル復調コンポーネント132は、デジタル復調コンポーネント32のすべてのコンポーネントを含み、さらにσ−Δ変調器134を有する。σ−Δ変調器134は、デジタル・アキュムレータ68の出力を受け取る。DAC40と組み合わせたσ−Δ変調器134は、DAC40の分解能を、DACのビット分解能を越えて向上させ、それにより低コストで低電力のDACを使用できるようにする。σ−Δ変調器はノイズを発生するが、ノイズ・スペクトルは周波数が低下するに伴い低下する。低域通過フィルタ114は、σ−Δ変調器134により発生するノイズのほとんどを、それがレーザ・ドライブへ達する前に除去する。
【0013】
図3Bはシステム130aを示し、これは、積分器52aともう1つの積分器52bとを含み、2次フィードバック・ループを使用するための進み遅れ回路を伴い、デジタル復調コンポーネント132を伴うものであり、共振器光ファイバ・ジャイロ・レーザ・ドライブ構成において使用される。
【0014】
図4Aは、デジタル復調コンポーネント162を含む別のシステム160を示し、デジタル復調コンポーネント162は、デジタル復調コンポーネント32のすべてのコンポーネントを含み、さらにパルス幅変調器(PWM)164を有する。PWM164は、デジタル・アキュムレータ68の出力を受け取る。PWMの出力のパルス幅は、アキュムレータ68の出力値に比例する。低域通過フィルタ114は、PWM164からの出力信号を平均し、それによりデジタル出力をアナログ信号へと変換する。PWM164および低域通過フィルタ114がアナログ信号を生成するので、DACが不要であり、従って、能動的なコンポーネントを除去し、設計が簡素になる。
【0015】
図4Bは、システム160aを示し、これは、積分器52aともう1つの積分器52bとを含み、2次フィードバック・ループを使用するための進み遅れ回路を伴い、デジタル復調コンポーネント162を伴うシステム160であり、共振器光ファイバ・ジャイロ・レーザ・ドライブ構成において使用される。
【0016】
アナログ・ループ(アナログ復調コンポーネント30)の出力信号上でゆらぐ低い周波数は、典型的には1Hzよりもかなり低い周波数で起きるアナログ・ドリフト誤差および温度誤差に起因する。アナログ・ループの出力信号での、より高い周波数変動は、電子回路、レーザおよび共振器のノイズ、ならびに高速アナログ・ループの有限の帯域に起因する。デジタル・ループがあまりに低速である場合には、アナログ復調コンポーネント30の出力信号のゆらぎ部に追従できず、DAC40の出力信号、即ち、デジタル・ループの出力信号は、いくらかの移相遅延を有し、振幅が小さくなり、従って、アナログ誤差を完全にはキャンセルしなくなる。従って、デジタル・ループ(デジタル復調コンポーネント32)は、ドリフトおよび温度により誘発されるアナログ誤差を許容レベルまで追従できるように、十分に高速でなければならない。デジタル・ループが十分に高速であれば、DAC40の出力信号、即ち、デジタル・ループの出力信号は、アナログ・ループの出力信号の低周波ゆらぎ部のように見えるはずであり、また、位相が合っているはずである。一実施形態では、高速アナログ・ループの帯域は1kHzから1MHzの間であり、デジタル・ループの帯域は、ドリフトおよび温度により誘発される誤差を適切に追従するように、数ヘルツ以下である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に従って形成されたシステムの例を示す。
【図2A】図2Aは、本発明の一実施形態に従って形成されたシステムの例を示す。
【図2B】図2Bは、本発明の一実施形態に従って形成されたシステムの例を示す。
【図3A】図3Aは、本発明の一実施形態に従って形成されたシステムの例を示す。
【図3B】図3Bは、本発明の一実施形態に従って形成されたシステムの例を示す。
【図4A】図4Aは、本発明の一実施形態に従って形成されたシステムの例を示す。
【図4B】図4Bは、本発明の一実施形態に従って形成されたシステムの例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ・システムにおいてフィードバック信号を提供する方法であって、
アナログ復調器を使用して感知信号を復調するステップと、
デジタル復調器を使用して前記感知信号を復調するステップと、
前記アナログ復調器の結果と前記デジタル復調器の結果との差を求めるステップと、
求められた前記差を積分するステップと、
積分された前記差に基づいてセンサ・フィードバック制御信号を発生するステップと
を備える方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、デジタル復調器を使用して前記感知信号を復調する前記ステップが、ランダム・ノイズ発生器を使用して、ノイズを、デジタル復調された前記感知信号へ加えるステップを含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、デジタル復調器を使用して前記感知信号を復調する前記ステップが、σ−Δ変調器を使用して、変調信号を、デジタル復調された前記感知信号へ加えるステップを含む、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、デジタル復調器を使用して前記感知信号を復調する前記ステップが、デジタル復調された前記感知信号に対してパルス幅変調を行うステップを含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記センサ・システムが光ファイバ・センサ・システムであり、前記光ファイバ・センサ・システムが共振光ファイバ・ジャイロ・センサ・システムである、方法。
【請求項6】
センサ・システムであって、
センサと、
前記センサにより生成された感知信号を復調するように構成されたアナログ復調器と、
前記感知信号を復調するように構成されたデジタル復調器と、
前記アナログ復調器の結果と前記デジタル復調器の結果との差を求めるように構成された演算増幅器と、
求められた前記差を積分するように構成された積分器と、
積分された前記差に基づいてセンサ・フィードバック制御信号を発生するように構成されたドライブ・コンポーネントと
を備えるセンサ・システム。
【請求項7】
請求項6に記載のシステムであって、前記デジタル復調器が、デジタル復調された前記感知信号へノイズ信号を加えるように構成されたランダム・ノイズ発生器を含む、システム。
【請求項8】
請求項6に記載のシステムであって、前記デジタル復調器が、デジタル復調された前記感知信号へ変調信号を加えるように構成されたσ−Δ変調器を含む、システム。
【請求項9】
請求項6に記載のシステムであって、前記デジタル復調器が、デジタル復調された前記感知信号を変調するように構成されたパルス幅変調器を含む、システム。
【請求項10】
請求項6に記載のシステムであって、前記センサが光ファイバ・センサであり、前記光ファイバ・センサが共振光ファイバ・ジャイロ・センサである、システム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2008−309775(P2008−309775A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−103876(P2008−103876)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】