説明

閉ループ式電気浸透流ポンプ用駆動水

【課題】硬度成分を多く含むミネラル水を閉ループ式電気浸透流ポンプ用駆動水として使用するとその循環が止まる。硬度成分の電気分解により生成する陽極液と陰極液のpH値の差が3を超えると陽極液が電気浸透材を通過できずに停止するものであった。
【解決手段】
上記障害を除く手段として希薄な硬度成分のミネラル水を用いる事を図った。即ち、本発明の蒸留水、精製水、雨水の少なくとも一種類の水に硬度既知のミネラル水を混合、溶解して硬度を0.5〜5mg/Lの水に調整して駆動水として用いる事で解決した。ここでミネラル水とは鉱水、水道水、河川水等の硬度成分を溶解している水をいう。これにより使用電圧最高145V用の閉ループ式電気浸透流ポンプの駆動水を廉価、大量に提供できるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は閉ループ式電気浸透流ポンプ用駆動水に関する。詳しくは蒸留水、精製水、雨水の少なくとも一種類の水に硬度既知のミネラル水を混合、溶解して、硬度を0.5〜5mg/Lの水に調整して得る事を特徴とする閉ループ式電気浸透流ポンプ用駆動水に関するものである。ここでいうミネラル水とは鉱水、水道水、河川水等の硬度成分を溶解している水をいう。
【背景技術】
【0002】
電気浸透流ポンプは可動部が無く構造が単純で騒音が無く安価に製造が可能であり、効率は低いが魅力あるものである。特に駆動水を循環させる閉ループ式電気浸透流ポンプ用駆動水は重要であり廉価、大量に製造される事が望まれる。図1は電気浸透流ポンプの駆動水を循環させて形成する基本的な閉ループ式電気浸透流ポンプの模式図である。
この装置は水の電気分解で発生するガスの採取が容易である事、電気浸透材にシリカ製円筒濾紙を用いて大流量を得ることを図った事、駆動電圧が一般家庭用100Vを整流した直流140V前後に限定した事等を特徴とした汎用性装置である。
【0003】
本装置に駆動水として水道水を入れ電極間に直流を印加すると陰極のあるシリカ製円筒濾紙の内部に、電気浸透流により外部から液が流入する。この陰極液はある高さの水頭を出現する。水頭ガイドを経て下部にあるノズルより滴下される。図1では模型の水車を回して円筒濾紙の外部に戻る。この水滴はまた機械や電子機器の温度調節等に循環使用する事ができる。
【0004】
非特許文献1によれば水頭は駆動電圧の高さに比例する。図1の電気浸透材としてのシリカ製円筒濾紙はワットマン製(34mmφx80mmL、t=1.6mm)を加工したもので電極間距離を25mmとした電圧の変化によるの水頭は次の通りであった。
70V 100 mmH
100V 200 ”
130V 300 ”
145V 350 ”
即ち、この電気浸透材の逆流漏洩量は不明であるが最大350mmHO の水頭が期待できるものであった。
【0005】
【非特許文献1】柳澤一郎、電気浸透流ポンプ「電子材料2005年11月号」
【0006】
しかし、この水道水を駆動水に用いた試験ではしばらくして水滴が出なくなり停止してしまうものであった。電流は一定に流れたが水頭は出現しなくなった。市販の鉱水や河川水のみを駆動水に用いた試験でも水道水と同様に停止してしまうものであった。
【0007】
次に、駆動水として蒸留水のみを用いて試験した。電流は殆ど流れず水頭は出現しなかった。即ち、蒸留水のみでは全く実用性の無いものであった。この現象は市販の精製水や雨水のみの試験でも同様の結果であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記水道水を駆動水とした場合、水頭は出現するが電気浸透ポンプとしてはすぐ停止してしまうものであった。その状況を調べてみるとシリカ製円筒濾紙内部の陰極液はPH値がかなり上がっている。反対に円筒濾紙外部の陽極液はpH値が下がっている。このとき陽極側に水道水を補給し続けると陽極液、陰極液各々を連続して分取する事ができる。即ち、閉ループでなければ水頭は生成し続ける。しかし、図1でノズルから滴下する陰極液を下部の陽極液と混合し循環させる形式にすると、即ち閉ループ式にすると水頭の出現がなくなり循環が停止する。詳細な原因は不明であるが、陽極液はpH値が低くなって電気浸透材のシリカと電気的に反発して通過できなくなるためと思われる。しかしそのときのpH値は確定し難く相対的に陰極液のpH値との差が3以上に開くと停止し易かった。即ち閉ループ式電気浸透流ポンプが停止するのは駆動水の問題である事が判明した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一例は蒸留水にミネラル水を少量混合して硬度成分の濃度を低くした場合に可能であった。この点、駆動電圧が高いと硬度成分の電気分解等に対応が早くて有効であると思われる。結果的に本発明は蒸留水、精製水、雨水等の少なくとも一種類の水に硬度既知のミネラル水を混合、溶解して硬度を0.5〜5mg/Lの水に調整して得ることにより実行できるものであった。雨水は酸性ガスや夾雑物を取り除くと蒸留水と同様に使用する事ができるものであった。
ミネラル水は硬度既知の鉱水、水道水、河川水等を用いるが、その点これらのミネラル水は分析値が示されている場合が多いので使用し易い。
蒸留水950mLに硬度59mg/Lの市販の鉱水50mLを混合するとその水の硬度は59x50/1000=2.95mg/Lとなる。
本発明はかくして硬度0.5〜5mg/Lのミネラル水が閉ループ式電気浸透流ポンプ用駆動水として支障無く用いられる事が判明した。ここに示すミネラル水のpH値は6〜10であるが本発明の駆動水として調合して使用すると上記陰極液と陽極液のpH値の差が殆ど3以内に収まるものであった。
【0010】
硬度が0.5mg/L未満のものは水頭が出現せず、また硬度が5mg/Lを越すミネラル水では電流が大きく温度上昇が目立ち実用性の無いものとした。
【0011】
本発明の駆動水を用いて閉ループ式電気浸透流ポンプ運転中に駆動水を交換する際、硬度成分過剰なミネラル水を誤用して不調に陥った場合は電気浸透材を酸処理すれば殆ど完全に復旧する。このように電気浸透流ポンプは半永久的に使用可能であり、これを閉ループ用に用いる場合は本発明の駆動水を用いれば電気分解や蒸発による水の減量分の補給は欠かせないものの半永久使用が可能である。
【0012】
本発明の硬度成分の濃度が低い水を最高145Vの駆動電圧で使用する閉ループ式電気浸透流ポンプ用駆動水は前記、非特許文献1その他には記述されていない新技術である。
【発明の効果】
【0013】
上述したように本発明の閉ループ式電気浸透流ポンプ用駆動水は殆どの電気浸透流ポンプを閉ループ式にする場合に適用される。本発明の駆動水は製造方法が簡単で廉価、大量に提供できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施例として本発明を限定するものではないが、480mLの蒸留水に20mLの鉱水[アルカリイオンの水、キリンビバレッジ(株)、硬度59mg/L]を混合、溶解して図1の駆動水として使用した。
駆動水の硬度:59x20/500=2.36mg/L
駆動水の温度:26℃
電極間隔:25mm、145V、15mA
ノズル高さ:駆動水水面より 100mm、滴下流量:13.3mL/min
陰極液pH値:7、 陽極液pH値:5
駆動水は順調に循環した。
【図面の簡単な説明】
【符号の説明】
【0015】
本発明の駆動水は図1において8;駆動水として用いる。1&2の電極に直流電圧が印加されると3;シリカ製円筒濾紙の電気浸透作用で4;水頭ガイド内に10の高さまで水頭が出現する。下の5;ノズルから6;水滴が7;水車をまわして9;駆動水水面に滴下し、元の8;駆動水に混合される。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留水、精製水、雨水の少なくとも一種類の水に硬度既知のミネラル水を混合、溶解して硬度を0.5〜5mg/Lの水に調整して得る事を特徴とする閉ループ式電気浸透流ポンプ用駆動水。
【請求項2】
ミネラル水が鉱水、水道水、河川水等の硬度成分を溶解している水である事を特徴とする請求項1記載の閉ループ式電気浸透流ポンプ用駆動水。