説明

開口容器用電子線照射装置

【課題】装置内に持ち込まれる菌や酸素を低減することを簡易な構成で実現し、かつ低エネルギー電子線を用いた開口容器用電子線照射装置を実現する。
【解決手段】容器搬入領域1と、電子線照射領域2と、電子線源11と、容器排出領域3とで開口容器用電子線照射装置を構成し、前記各領域が大気圧よりもわずかに高い圧力のヘリウムまたはネオン雰囲気を保持するようヘリウムまたはネオンを注入する気体注入口を設け、容器搬入領域1と電子線照射領域2との接続部4を容器入口6より高位置に設け、電子線照射領域2と容器排出領域3の接続部5を、容器出口より高位置に設け、電子線照射領域2をヘリウムまたはネオンで実質的に満たされるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口容器用電子線照射装置に係り、特に有底円筒状容器の内面および外周面を殺菌するのに好適な開口容器用電子線照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子線照射装置としては高エネルギーの電子線をその透過作用を利用して対象物に照射するものが一般的であった。しかしこのような高エネルギー型の電子線照射装置ではその施設が大規模となる傾向があり、また、エネルギー効率が悪いという問題があった。近年、施設の簡素化、エネルギー効率の向上を目的として特許文献1のような電子線照射装置が提案されている。
【0003】
この発明においては、電子線が被処理物に照射される搬送面に傾斜を設けることで円筒状容器を転動させ、これに対して電子線を照射することで被処理物の外周面および内面に対し均一に電子線を照射することを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−268100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の電子線照射装置には以下の問題がある。第一に、円筒状容器を電子線照射室内に搬入するにあたり、容器内の空気(酸素)が電子線照射室内に持ち込まれるおそれがある。分子量が大きい酸素が電子線照射室内に持ち込まれることで電子のエネルギーロスが生じるという問題がある。更に、容器内に持ち込まれた酸素に電子線が照射されることにより有害なオゾンが発生し、オゾンによる臭いが生じるという問題がある。
【0006】
他の問題として、照射領域内に生じる気流により装置外部から菌が持ち込まれて殺菌後の円筒状容器に付着するおそれがある。
【0007】
また、電子線を円筒状容器の上面から照射し透過させることで容器の外周面および内面を一度に殺菌するため、電子線の加速電圧をある程度高くしなければならず、容器の変色等が生じるおそれがある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、装置内に持ち込まれる菌や酸素を低減することを簡易な構成で実現し、かつ低エネルギーの電子線を用いて被照射物の殺菌を可能とした開口容器用電子線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、請求項1に係る開口容器用電子線照射装置は、有底円筒状容器を搬入する容器入口を有し、有底円筒状容器を電子線照射領域に搬入する搬入手段を備える容器搬入領域と、前記容器搬入領域と接続し、有底円筒状容器を移動させる移動手段を備える電子線照射領域と、前記電子線照射領域内の有底円筒状容器に電子線を照射する電子線照射手段と、前記電子線照射領域と接続し、有底円筒状容器を排出する排出手段および容器出口を有する容器排出領域と、前記各領域が大気圧よりもわずかに高い圧力のヘリウムまたはネオン雰囲気を保持するようヘリウムまたはネオンを注入する気体注入口を備え、前記容器搬入領域と前記電子線照射領域との接続部は、前記容器入口より高位置に設けられ、前記電子線照射領域と前記容器排出領域の接続部は、前記容器出口より高位置に設けられ、前記電子線照射領域はヘリウムまたはネオンで実質的に満たされるように構成される。
【0010】
ここで、本発明における電子線の被照射物である「有底円筒状容器」とは、軸方向に垂直な断面の形状が略円形状であって、所定の傾斜を有する斜面を自重により転動することが可能な容器をいう。
【0011】
請求項2に係る開口容器用電子線照射装置は、上記移動手段が有底円筒状容器を転動させる転動手段であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る開口容器用電子線照射装置は、上記転動手段が有底円筒状容器を前記容器排出領域に向かって重力により転動させる所定の傾斜を有する複数のレールで構成されることを特徴とする。「所定の傾斜」は、有底円筒状容器が電子線の照射領域を通過するに際し、殺菌に必要かつ十分な時間をかけて転動するように設定される。
【0013】
請求項4に係る開口容器用電子線照射装置は、上記気体注入口が前記容器排出領域に配され、前記各領域が大気圧以上に維持されるようにヘリウムまたはネオンを注入することを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る開口容器用電子線照射装置は、上記搬入手段が有底円筒状容器の軸線が重力軸に対し略直交し、かつ前記搬入手段の搬送面に対し平行に有底円筒状容器を搬入することを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る開口容器用電子線照射装置は、1つの電子線源から有底円筒状容器の外周面および開口面の両方に電子線を照射する電子線の偏向手段をさらに備えることを特徴とする。「偏向手段」としては、磁場発生手段または、電場発生手段があげられる。磁場発生手段としては、例えば、永久磁石や電磁石、またはこれらの組合せがあげられる。電場発生手段としては、例えば、偏向電極を用いたものがあげられる。
【0016】
請求項7に係る開口容器用電子線照射装置は、有底円筒状容器の転動速度は搬入速度以上であり、有底円筒状容器の排出速度は前記転動速度以上であることを特徴とする。
【0017】
請求項8に係る開口容器用電子線照射装置は、上記搬入手段が搬入速度を調整可能なコンベア機構であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の開口容器用電子線照射装置によれば、電子線照射装置内を大気圧よりもわずかに高い圧力に保持しても、ヘリウム雰囲気またはネオン雰囲気とすることで装置内を大気に比べて十分低密度に保持することができる。これにより、特許文献1に記載の電子線照射装置に比べ低エネルギーの電子線を用いて有底円筒状容器の殺菌をすることが可能となる。また、装置内を大気圧よりもわずかに高い圧力に保つ構成とすることで、特許文献1に記載の電子線照射装置に比べ確実に空気(酸素)を装置内から排除することができる。これにより有害なオゾンの発生を防ぐことが可能となり、オゾンによる臭いが生じるという問題を解決することができる。更に、大気とヘリウムまたはネオンの気圧差により簡易な構成でヘリウム雰囲気またはネオン雰囲気の密封空間を構成することができる。
【0019】
請求項2および3に記載の開口容器用電子線照射装置によれば、上記の効果に加えて以下の効果が得られる。すなわち、転動手段により有底円筒状容器を自重により転動させることができるので、簡易な構成で容器を移動させることが可能となり製造コストの低減につながる。また、請求項3において複数のレールを用いた簡易な構成とすることで、電子線照射領域内の電子線の照射が遮られる部分を少なくすることが可能となり、電子線が届かない領域を少なくすることができるので殺菌効果を上げることができる。
【0020】
請求項4に記載の開口容器用電子線照射装置によれば、上記の効果に加えて以下の効果が得られる。すなわち、気体注入口から容器入口へ流れるヘリウムまたはネオンの気流を生じさせることで、容器入口から空中浮遊菌が入り込むことを防ぐことが可能となる。これにより電子線照射後の被照射物に菌が付着するのを防ぐことができる。
【0021】
請求項5に記載の開口容器用電子線照射装置によれば、上記の効果に加えて以下の効果が得られる。すなわち、有底円筒状容器の軸を地面に水平に維持したままの状態で容器をヘリウム雰囲気(またはネオン雰囲気)中上方に向かって搬入するので、搬入過程で容器内の空気(酸素)を効率よくヘリウム(またはネオン)に置換することが可能となる。これにより、容器内に残留した酸素に電子線が照射されることを防ぐことができるので、有害なオゾンが発生する問題を解決することができる。また、オゾンによる臭いが生じるという問題を解決することができる。
【0022】
請求項6に記載の開口容器用電子線照射装置によれば、上記の効果に加えて以下の効果が得られる。例えば、電子線源を有底円筒状容器の開口部側に配置することで容器内面の電子線照射を可能とし、また、容器内面からそれて放射状に照射される電子線を容器の外周面に向けて偏向させることで容器の外周面をも同時に電子線照射することが可能となる。これにより特許文献1に記載の電子線照射装置と比べ低エネルギーの電子線を用いて被照射物の外周面および内面を効率よく殺菌することができる。
【0023】
請求項7および8に記載の開口容器用電子線照射装置によれば、上記の効果に加えて以下の効果が得られる。すなわち、有底円筒状容器の電子線照射領域における転動速度を搬入速度より速くすることで、有底円筒状容器が電子線照射領域で詰まるのを防止することができる。また、請求項7に記載のコンベア機構を設けることで、搬入速度を適宜調整することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置の側面断面図である。
【図2】図2は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置の電子線照射領域2の上面断面図である。
【図3】図3は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置のA−A矢視断面図である。
【図4】図4は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置のB−B矢視断面図である。
【図5】図5は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置のC−C矢視断面図である。
【図6】図6は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置のD−D矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の開口容器用電子線照射装置を図面に基づいて説明する。説明中、有底円筒状容器の一例としてプリフォームを用いる。プリフォームとは、周知のとおり、ペットボトル容器をブロー成型する前の試験管に似た形状の容器である。
【実施例1】
【0026】
図1は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置の側面断面図である。図1に示すように、本発明の実施例1に係る開口容器用電子線照射装置は、容器搬入領域1、電子線照射領域2、容器排出領域3および電子線源11で構成される。なお、電子線源11は、図中の二点差線で示す位置で、かつ紙面手前側に配される。容器搬入領域1は電子線照射領域2と接続部4で接続し、電子線照射領域2は容器排出領域3と接続部5で接続する。
【0027】
これらの領域は、外枠をラインの流れ方向に伸びる箱形に形成される。この外枠は耐圧構造であって、容器搬入領域1に形成される容器入口6および容器排出領域3に形成される容器出口(不図示)を除いて密封空間を形成する。外枠の材質は、例えば鋼材あるいはステンレス鋼製であり、電子線照領域2の外枠はX線を遮蔽できる遮蔽材料(不図示)で囲われている。
【0028】
また、本実施例に係る開口容器用電子線照射装置はヘリウム注入口14を有する。ヘリウム注入口14からヘリウムガスを注入することで、装置内を大気圧よりやや高い圧力にすることが可能である。装置内外の気圧差により装置内に空中浮遊菌が入り込まないようにすることができる。また、大気より分子量の低い不活性ガスであるヘリウムガスを用いることで、電子線の加速電圧を低下させても十分な飛程距離を確保することが可能となる。
【0029】
容器搬入領域1はプリフォームを開口容器用電子線照射装置に導入するための容器入口6を一端に有し、上方に傾斜して他の一端に位置する接続部4で電子線照射領域2と接続する。
【0030】
また、容器搬入領域1は、上方に垂直に伸びて接続部4で電子線照射領域2と直角に接続してもよい。容器搬入領域1が上方に垂直に伸びた構成とすることで、上方に傾斜して伸びる構成とする場合に比べ、開口容器用電子線照射装置の設置面積を小さくすることが可能となる。
【0031】
容器搬入領域1には、プリフォームを電子線照射領域2に搬入するための搬入手段が設けられる。この搬入手段は、プリフォームの軸線が重力軸に対し略直交し、かつ搬入手段の搬送面に対し平行にプリフォームを搬入することができるものが好ましい。この一例として、本実施例ではベルトコンベア7を用いている。
【0032】
また、この搬入手段は、容器の開口部分が重力方向下向きとなるようにプリフォームを保持して搬入するものであってもかまわない。この一例としてはスクリューコンベアが挙げられる。
【0033】
上記のような搬入手段を用いることで、プリフォームの軸を地面に対し水平にしたまま、もしくはプリフォームの開口部分を重力方向下向きにしたまま、ヘリウム雰囲気中を上方に向かって搬入することができるので、搬入中にプリフォーム内部の空気がヘリウムガスに置換される。これによって、プリフォーム内部に残留する酸素分子に電子線が当たって発生するオゾンの問題を低減、解消することが可能となる。
【0034】
なお、接続部4において、ベルトコンベア7はプリフォームを電子線照射領域2のレール上に落下させることで受け渡せるよう、その先端が領域2のレール上に延びる構成とするのが望ましい。
【0035】
容器搬入領域1内はベルトコンベア7の回転により撹拌されて空気(酸素)が上方に流れるおそれがある。容器搬入領域1の高さ、すなわち接続部4の高さは、空気(酸素)が電子線照射領域2まで運ばれないよう十分高くするのが望ましい。本実施例1においては、容器搬入領域1の高さは2m程度を想定しているが、ベルトコンベア7の搬送速度等を考慮して適宜調整すればよい。
【0036】
電子線照射領域2は、その中に転動手段を有して、接続部5で容器排出領域3と接続する。転動手段によりプリフォームを転動させながら電子線13を照射することでプリフォームをムラなく殺菌することが可能となる。
【0037】
図2は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置の電子線照射領域2の上面断面図である。なお、電子線照射領域2の紙面下側に位置する電子線源11は便宜上省略する。図2に示すように、転動手段としては、プリフォームを容器排出領域3に向かって重力により転動させる所定の傾斜を有する複数のレール(101a乃至108)を用いるのが好ましい。レールを用いた簡易な構成とすることで電子線照射領域2内における電子線を遮る構造を少なくし、電子線の照射を行渡らせることで菌の繁殖を低減することが可能となる。また、簡易な構成とすることで製造コストを低減することができる。
【0038】
図3は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置のA−A矢視断面図であり、図4は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置のB−B矢視断面図である。図2および図3に示すように、電子線照射領域2のA−AとB−B間の容器誘導部8は、ガイドレール101a、ガイドレール102a、支持レール103a、103b、位置決めレール106aで構成される。また、図2および図4に示すように、B−BとB’−B’間の容器位置決め部9は、ガイドレール101a、ガイドレール102a、支持レール103a、103b、位置決めレール106a、107aで構成される。
【0039】
上記レールは加工が容易なステンレス等の金属材料を用いて製造するのが好ましい。また、アルミニウムを材料に用いてもよい。軽元素の方が電子線を吸収し易く、有害なX線の発生を低減することができるためである。電子線が常に照射されるレール部分については冷却装置(不図示)を設けて冷却してもよい。プリフォームと接触する支持レールおよび位置決めレールの上面は梨子地状とするのが好ましい。このようにレール上面に微細な凹凸を設けることで摩擦によりプリフォームを確実に回転させることが可能となる。
【0040】
図2に示すように、容器誘導部8において、ガイドレール102aはA−AからB−Bに向かうにつれガイドレール101aに向かって若干接近する。これにより、容器搬入領域1から受け渡されたプリフォームPFは、容器誘導部8を転動するに際しガイドレール101a側に押され、図4のB−Bに示すように容器位置決め部9においてプリフォームのつば部分が位置決めレール106a,107aの間にはさまれる。これによりプリフォームはその軸がレールに垂直に保持された状態で安定して横転することが可能となる。
【0041】
図5は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置のC−C矢視断面図である。図2および図5に示すように、電子線照射領域2のB’−B’とC−C間の電子線照射部10には、ガイドレール102b、側面レール108、支持レール104、位置決めレール106a、107aが互いに平行に配される。また、プリフォームに電子線照射を行うため、公知の電子線源11が透過膜支持部材12をはさんで電子線照射部10の側面に配置される。電子線13は透過膜支持部材12に設けられた透過膜(不図示)を通してプリフォームに向かって照射される。
【0042】
電子線源11は図5に示すように電子線照射部10の紙面右側のみに配置してもよい。この場合、電子線13は図5の紙面右側からプリフォームに向かって照射されるためプリフォームの外周面に十分な電子線を照射することができるかが問題となる。後に詳述するが、電子線の偏向手段を設けることで電子線照射部10内に所定の電場または磁場を形成し、電子線13を偏向させてプリフォームの外周面に照射することができる。
【0043】
偏向手段は、例えば図5に示すように、レール支持部材201上に絶縁部材202を配置しその上に偏向電極203を配置し、偏向電極203と外枠204を直流電源205で連結して構成すればよい。こうすることで電子線照射領域2内の広範囲にわたり安定した電場を構築することができる。
【0044】
また、偏向手段を用いない例として、電子線源11を図5の紙面右側および紙面上側に配置してもよい。この構成によれば、紙面右側に配置した電子線源によってプリフォームの内面を電子線照射し、紙面上側に配置した電子線源によってプリフォームの外周面を電子線照射することができる。したがって、電場または磁場を形成することなくプリフォームの全体を電子線照射することが可能となる。
【0045】
この場合、内面照射用の電子線(上記紙面右側から照射される電子線)および外周面照射用の電子線(上記紙面上側から照射される電子線)は、それぞれ透過膜およびヘリウムガス中を進行する間の電子線広がりに応じて、プリフォームに均一な照射ができるような照射距離に調整すれば良い。
【0046】
図2および図5に示すB’−B’からC−C間のガイドレール102bは図4のB−Bのガイドレール102aと比べ低くなっており、プリフォームの開口部が一部しか塞がれないようになっている。これによって、プリフォームに対し図5の紙面右側から電子線照射を行うに際して電子線がプリフォーム内部に届きやすくなり殺菌効率が向上する。
【0047】
また、B’−B’からC−C間のガイドレールをB−Bのガイドレール102aと同じ高さにしたまま、ガイドレールに電子線が通過できる孔等を設けてもよい。こうすることでプリフォームがより深いガイドレールに支持されるため、プリフォームを安定して転動させることが可能となる。
【0048】
また、側面レール108の上端は所定の傾斜を有し、プリフォームの底部を少ない接触面積で支持する構成となっている。これにより、側面レール108がプリフォーム底部への電子線照射の妨げとなることを防ぐことができる。
【0049】
電子線照射領域2の長さは電子線電流とプリフォームの転動速度により定まる。すなわち、電子線電流を上げれば、領域2の長さを短くしても十分な殺菌効果を得ることが可能である。また、領域2のレールの傾斜をなだらかにすることでプリフォームの転動速度を遅くすれば、領域2を短くしても同等の殺菌効果を期待できる。
【0050】
実施例1では電子線照射領域2の長さを1〜2m程度に想定しているが、電子線の加速電圧およびレールの傾斜を変えることで領域2の長さを適宜調整すればよい。
【0051】
図6は本発明の一実施例である開口容器用電子線照射装置のD−D矢視断面図である。図1および図6に示すように、容器排出領域3は、容器出口(不図示)、レール支持部材201、ガイドレール101b、102c、支持レール105a、105b、位置決めレール106b、107bで構成され、接続部5で電子線照射領域2と接続する。
【0052】
図1において、容器排出領域3は電子線照射領域2との接続部5から容器出口(不図示)に向かって所定の傾斜を有する構成となっているが、次工程との取合部の構成によっては、接続部5から重力方向に垂直に伸びる構成となってもかまわない。これにより、上記所定の傾斜を有する構成と比べて設置面積を縮減することが可能となる。また、プリフォームの排出を自然落下にすることで複数のレールの構成を省くことが可能となり製造コストを低減することができる。
【0053】
容器排出領域3内に配されたレールの傾斜は電子線照射領域2に配されたレールの傾斜よりも急であるのが好ましい。これにより、容器排出領域3におけるプリフォームの排出速度が電子線照射領域2における転動速度より大きくなり、プリフォームが容器排出領域3で詰まるのを防ぐことが可能となる。
【0054】
また、容器排出領域3は、ヘリウム注入口14を有するのが好ましい。ヘリウム注入口14は、配管15およびガス吸気弁16を介してヘリウムガスが貯蔵されたボンベ等(不図示)に接続されている。ガス吸気弁16を調整することで装置内部のヘリウムガス圧を調整することができる。各領域内のヘリウムガスの圧力は、大気圧よりやや加圧状態とするのが好ましく、0.11MPa程度にするのが好ましい。これにより容器排出領域3から容器入口6へ向かうヘリウムの緩やかな気流が生じ、以下の効果を得ることができる。
【0055】
(a)電子線照射部10は、ほぼヘリウムガス100%の照射環境となり、電子線の飛程が1/10気圧の減圧条件程度に伸びるとともに、酸素および酸素プラズマによる照射対象物の変色、異臭の発生、透過膜の損傷が抑制される。(b)電子線照射部10から容器出口に至るまで容器の無菌状態が維持できる。(c)容器入口6から装置内部に侵入する菌を最小化できる。
【0056】
また、ヘリウムガスの圧力を大気よりやや加圧状態とすることで容器入口6および容器出口から装置外に排出されるヘリウムガスの量を少なくすることが可能である。ヘリウムガスの消費量を減らすことで装置のランニングコストを抑えることができる。
【0057】
なお、容器入口6および容器出口(不図示)からヘリウムガスと空気の混合ガスが排出されるが、ヘリウム透過膜を用いたヘリウムガス回収装置等を容器入口6および容器出口に接続することでヘリウムガスを分離回収して再利用することができる。
【0058】
次に、本発明に係る開口容器用電子線照射装置を用いた殺菌工程を、有底円筒状容器の一例としてプリフォームを用いて説明する。
【0059】
図1において容器入口6から投入されたプリフォームは、ベルトコンベア7により開口部を紙面手前に向けた状態で、電子線照射領域2に搬送される。この搬送速度は特に限定されないが電子線照射領域2におけるプリフォームの転動速度との関係で制約を受ける。電子線照射領域2においてプリフォームが詰まるのを防止するためには、プリフォームの搬送速度は転動速度以下であることが好ましい。この搬送過程において、プリフォーム内の空気は、比重の軽いヘリウムガスに置換される。
【0060】
容器搬入領域1の最高地点に達したプリフォームは、接続部4で電子線照射領域2の所定の傾斜を有する複数のレールに受け渡される。その後、プリフォームはレール上を自重により転動しつつ、ほぼヘリウムガス100%の雰囲気中で電子線の照射を受ける。
【0061】
この際、図2に示すA−AとB−B間の容器誘導部8においては、上述の通り、ガイドレール101aとガイドレール102aの構成によりプリフォームがガイドレール101a側に押され、容器位置決め部9のB−B以降では、プリフォームのつば部分が位置決めレール106a、107aの間にはさまれる。これによりプリフォームの軸がレールに垂直方向に維持され安定してレール上を転動することが可能となる。これにより、電子線照射部10においてプリフォームと電子線源11との距離が一定に保たれるようになる。この状態でプリフォームがレール上を転動することで、電子線をプリフォームに均一に照射することが可能となる。
【0062】
図2および図5に示すB’−B’からC−Cにおいて、プリフォームはレール上を回転しながら電子線源11からの電子線照射を受ける。この際、偏向電極203に直流電源205により正極性の電圧を与えることで上向きの電界を作り、電子線13をプリフォーム側に偏向させる。これによりプリフォームの外面に電子線を均一に照射することが可能となる。同様に、プリフォーム内に進入する電子線を紙面下向きに偏向させることでプリフォームの内面についても電子線照射をすることができる。また、他の実施例として、偏向電極をプリフォームの上方に配置し負極性の直流電圧を与えてもよい。
【0063】
また、複数個の電子線軌道偏向用の磁場発生体を用いてプリフォームに対する電子線の照射方向を偏向させてもよい。磁場発生体としては、例えば、公知の永久磁石や電磁石があげられる。また、これらの組合せで構成してもよい。永久磁石等を複数個電子線照射部に位置を変えて配置することで電子ビームの偏向方向を多方向に設定し、プリフォームの内面および外周面に一様に電子ビームを照射することができる。これにより効果的な殺菌効果を低コストで実現することができる。
【0064】
電子線照射を終えたプリフォームは、図6に示すレール上を転動し、容器出口(不図示)を経て次工程へ引き継がれる。
【0065】
また、実施例1の電子線照射領域における複数のレール部分はスクリューコンベアに置換することもできる。
【0066】
以上の説明は、ヘリウムガスの使用を前提として行ったが、同種の不活性ガスであるネオンガスを用いることもできる。ただし、ネオンガス中での電子の飛程は、ヘリウムガス中の場合と比べて短くなるため、電子の加速電圧を上げる必要があることと、空気と混合した場合の分離がヘリウムガスと比べて難しくなることから、実用的にはヘリウムガスの使用が望ましい。
【0067】
なお、本発明に係る開口容器用電子線照射装置は、プリフォームの殺菌に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。例えば、ガイドレール101aとガイドレール102a間、および側面レール108とガイドレール102b間の幅を狭くすることでペットボトルのキャップのような形状物を電子線照射することもできる。
【符号の説明】
【0068】
1 容器搬入領域
2 電子線照射領域
3 容器排出領域
4,5 接続部
6 容器入口
7 ベルトコンベア
8 容器誘導部
9 容器位置決め部
10 電子線照射部
11 電子線源
12 透過膜支持部材
13 電子線
14 ヘリウム注入口
101a,101b,102a,102b,102c ガイドレール
103a,103b,104,105a,105b 支持レール
106a,106b,107a,107b 位置決めレール
108 側面レール
201 レール支持部材
202 絶縁部材
203 偏向電極
204 外枠
205 直流電源
PF プリフォーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状容器を搬入する容器入口を有し、有底円筒状容器を電子線照射領域に搬入する搬入手段を備える容器搬入領域と、
前記容器搬入領域と接続し、有底円筒状容器を移動させる移動手段を備える電子線照射領域と、
前記電子線照射領域内の有底円筒状容器に電子線を照射する電子線照射手段と、
前記電子線照射領域と接続し、有底円筒状容器を排出する排出手段および容器出口を有する容器排出領域と、
前記各領域が大気圧よりもわずかに高い圧力のヘリウムまたはネオン雰囲気を保持するようヘリウムまたはネオンを注入する気体注入口を備え、
前記容器搬入領域と前記電子線照射領域との接続部は、前記容器入口より高位置に設けられ、
前記電子線照射領域と前記容器排出領域の接続部は、前記容器出口より高位置に設けられ、
前記電子線照射領域はヘリウムまたはネオンで実質的に満たされることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
請求項1において、前記移動手段は有底円筒状容器を転動させる転動手段であることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項3】
請求項2において、前記転動手段は有底円筒状容器を前記容器排出領域に向かって重力により転動させる所定の傾斜を有する複数のレールで構成されることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、前記気体注入口は前記容器排出領域に配され、前記各領域が大気圧以上に維持されるようにヘリウムまたはネオンを注入することを特徴とする電子線照射装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、前記搬入手段は有底円筒状容器の軸線が重力軸に対し略直交し、かつ前記搬入手段の搬送面に対し平行に有底円筒状容器を搬入することを特徴とする電子線照射装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、1つの電子線源から有底円筒状容器の外周面および開口面の両方に電子線を照射する電子線の偏向手段をさらに備えることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、有底円筒状容器の転動速度は搬入速度以上であり、有底円筒状容器の排出速度は前記転動速度以上であることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、前記搬入手段は搬入速度を調整可能なコンベア機構であることを特徴とする電子線照射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−133283(P2011−133283A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291629(P2009−291629)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】