間葉系幹細胞などの細胞を検出するための遺伝子マーカー
【課題】骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる工程中の各段階における細胞、特に間葉系幹細胞を検出及び/又は識別するのに有用な遺伝子マーカーの提供。
【解決手段】特定の塩基配列を有する遺伝子のうちの少なくとも一以上の遺伝子の発現量または発現量差を検出することによって、骨髄細胞、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞、間葉系幹細胞、骨芽前駆細胞、又は骨芽細胞を検出及び/又は分離する。
【解決手段】特定の塩基配列を有する遺伝子のうちの少なくとも一以上の遺伝子の発現量または発現量差を検出することによって、骨髄細胞、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞、間葉系幹細胞、骨芽前駆細胞、又は骨芽細胞を検出及び/又は分離する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる工程中の各段階における細胞を検出するための遺伝子マーカー、並びに該遺伝子マーカーを用いて上記各段階の細胞を検出・分離する方法に関する。本発明はさらに、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる培養工程をモニタリングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は未分化な細胞で、筋肉、骨、脂肪等、種類の異なるさまざまな細胞に分化できる多分化能を持ち、かつ自己複製の能力を持つ細胞である。間葉系幹細胞の代表的なものとしては骨髄や臍帯血の中にわずかに存在する細胞であるが、近年では脂肪組織や口腔骨膜からも間葉系幹細胞を分離する方法が報告されている。間葉系幹細胞はいろいろなホルモンやサイトカイン(小さな分泌性タンパク質)の添加によって、様々な細胞に分化することから再生医療、細胞医療技術で用いる移植用細胞としては最も有望で、既に骨、軟骨、心筋の再生の他、免疫抑制治療の臨床応用が始められつつある。
【0003】
例えば、Prochymalは、白血病治療時の造血幹細胞移植前に間葉系幹細胞を投与することにより副作用である移植片対宿主病(Graft vs Host Disease)を抑制する療法で、フェーズ1臨床試験を終了し、2005年にフェーズ2に入り、2007年後半の上市を予定している。また、Provacelは、心筋梗塞による心筋の損傷を間葉系幹細胞により修復する療法で、2005年第1四半期にフェーズ1に入り、2006年中期にフェーズ2/3に入り、2009年の上市を予定している。さらに、Chondrogenは、関節の半月板損傷を間葉系幹細胞により修復する療法で、臨床試験入りをFDAに申請中である。
【0004】
間葉系幹細胞の臨床応用を再生医療として広く実用化させるには、十分な量の間葉系幹細胞を確保することが重要であり、そのためには材料となる骨髄や脂肪細胞などにわずかに含まれる間葉系幹細胞を効率よく分離・精製すること、またそれらを培養して多分化能を保有したままの間葉系幹細胞を増殖させる必要がある。
【0005】
しかし、ヒト骨髄ストローマ細胞の中でも比較的小さい細胞が多分化能を示すことが知られているが実際には間葉系幹細胞の由来や性質が十分に分かっているわけではない。そこで間葉系幹細胞を効率よく分離、精製するために、間葉系幹細胞を特異的に識別するマーカーの探索が行なわれている。
【0006】
これまでに間葉系幹細胞のマーカーとしては、特許文献1及び2、及び非特許文献1に報告がある。しかしこれらの報告は全て、間葉系幹細胞と線維芽細胞の分離のみを目的としたものである。線維芽細胞は、骨髄から間葉系幹細胞を分離、精製する時に混在し、培養中も間葉系幹細胞と同様に増殖する上、形態的にも間葉系幹細胞と区別が付かないことから、これらを分離するマーカーを選抜している。マーカーの抽出は間葉系幹細胞と線維芽細胞との発現プロファイルの違いから決定している。
【0007】
その他、間葉系幹細胞へ分化能を有する前駆間葉系幹細胞を識別するマーカーについての報告もある(特許文献3)。すなわち、胚性幹細胞をレチノイン酸存在下で培養すると、前駆間葉系幹細胞が分化の早期段階で出現し、この細胞集団は、神経外胚葉マーカーであるSox1を発現していたことから、インビトロにおいて胚性幹細胞から分化させた前駆間葉系幹細胞を選抜するのにSox1をマーカーとして用いる方法である。
【0008】
間葉系幹細胞の収量向上のために検討されているものとしては、分離精製のための装置・機材などの開発・利用、分離ソースの工夫、生体内での間葉系幹細胞の富化として合成化合物の生体への投与、蛋白性分子などの生体への投与などがある。また、培養による間葉系幹細胞の増殖については、培地成分・添加物の工夫により解決が試されている。
【0009】
また、増殖した間葉系幹細胞を再生医療に実用化する場合、細胞の品質を保証することは安全性確保の面から重要である。培養工程では細胞の突然変異や癌化、目的としない細胞への分化、細菌、ウイルスによる汚染などが生じる可能性があり、細胞の状態を管理することは必須である。生物細胞を医薬品として申請する場合、厚生労働省による指針の中ではマイコプラズマやウイルスの無菌試験が項目の一つとして挙げられており、培養法や核酸配列を利用したPCR法による検出が既存法として知られている。また、癌化を予測する方法としてはhTERTやc-myc等の癌関連遺伝子の発現量を測定する方法がある。しかし、既存の方法でこれらの項目を全て満たす為には多種多様な検査を行う必要があり現実的には困難である。再生医療を商業的に実用化するには細胞やスキャフォールドの調製技術といった基本技術はもとより、細胞の品質管理に関する簡易で安価な検査システムの構築が必要である。
【0010】
さらに、これまでに培養過程における発現プロファイルの変化を調べた報告としては、例えば、特許文献4(脂肪細胞への分化誘導する方法並びに脂肪細胞への分化を制御する化合物およびそのスクリーニング方法)、非特許文献2(マウスのMSCセルラインにBMP-2を発現するようrhBMP2遺伝子を導入したC9細胞を用いてBMP2の発現を誘導することで骨芽細胞に分化する過程における遺伝子発現プロファイルの変化を調べている)、非特許文献3(前筋芽細胞のC2C12はBMP-2に依存して骨芽細胞に分化するが、その過程においてBMP-2処理から24時間以内の7箇所でマイクロアレイデータを解析し、骨分化における遺伝子発現変化を調べている。機能別に分類した遺伝子を羅列した記載がある。)などがある。
【0011】
【非特許文献1】Molecular marker distinguish bone marrow mesenchymal stem cells from fibroblasts, Biochem. Biophys. Res Commun. 332,297-303, 2005
【非特許文献2】DNA microarray analysis using statistical methods and clustering: three case studies Osnat Ravid-Amir M.Sc. thesis submitted to the Scientific Council of the weizmann Institute of Science Prof. Eytan Domany (Research conducted under the supervision February(2003)
【非特許文献3】J. Cellular Biochemistry 89: 401-426 2003
【特許文献1】特開2004-290189号公報
【特許文献2】特開2005-27579号公報
【特許文献3】特開2005-304443号公報
【特許文献4】特開2000-217576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる工程中の各段階における細胞、特に間葉系幹細胞を検出及び/又は識別するのに有用な遺伝子マーカー;該遺伝子マーカーを検出するためのプローブ又はプライマー;骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる工程中の各段階における細胞、特に間葉系幹細胞を検出及び/又は識別する方法、並びに骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる培養工程をモニタリングする方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、骨髄液から間葉系幹細胞、更には骨芽細胞に分化させる培養工程において、細胞の状態から培養工程を5つの群に分け、更にその中を細分して全工程8ポイントでの発現プロファイルを3万遺伝子について得た。それらを5検体に対して行い、全データを精緻に調べることにより、間葉系幹細胞で特徴的に発現する遺伝子群、骨芽細胞で特徴的に発現する遺伝子群などを選抜した。これらの遺伝子のうち、各群に特徴的に発現する遺伝子を用いることにより、各群に含まれる細胞すなわち間葉系幹細胞や骨芽細胞などを培養工程に含まれる他の群の細胞のみならず、これらの培養工程に含まれない線維芽細胞などから識別分離することが可能となった。更にはそれぞれの群で特徴的な発現をする遺伝子を組み合わせることにより、培養工程をモニタリングすることが可能になった。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0014】
すなわち本発明によれば、以下の(1)から(13)に記載の発明が提供される。
(1) 以下の(i)から(v)の何れかに記載の細胞検出用の遺伝子マーカー。
(i)配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(ii)配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iii)配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iv)配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽前駆細胞を検出するための遺伝子マーカー;及び
(v)配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(vi)配列表の配列番号37又は7に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞と骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(vii)配列表の配列番号38又は39に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞と間葉系幹細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(viii)配列表の配列番号40又は21に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる間葉系幹細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(ix)配列表の配列番号28、41又は42に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる骨芽細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
【0015】
(2) (1)に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有する、(1)に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーを検出するためのプローブ。
(3) (1)に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーの塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなる、(2)に記載のプローブ。
【0016】
(4) (1)に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーをPCR法により特異的に増幅することができるセンスプライマーとアンチセンスプライマーの組み合わせからなる、(1)に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーを検出するためのプライマー。
【0017】
(5) (2)又は(3)に記載のプローブの少なくとも1つ以上を支持体に固定化させることにより得られる、細胞検出用のマーカー遺伝子を検出するためのマイクロアレイ又はDNAチップ。
【0018】
(6) 被検細胞中の配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨髄細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨髄細胞を検出及び/又は分離する方法。
(7) 被検細胞中の配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出及び/又は分離する方法。
【0019】
(8) 被検細胞中の配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、間葉系幹細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、間葉系幹細胞を検出及び/又は分離する方法。
(9) 被検細胞中の配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨芽前駆細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨芽前駆細胞を検出及び/又は分離する方法。
【0020】
(10) 配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨芽細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨芽細胞を検出及び/又は分離する方法。
(11) 遺伝子マーカーの発現量の検出を、(2)又は(3)に記載のプローブ、(4)に記載のプライマー、あるいは(5)に記載のマイクロアレイ又はDNAチップを用いて行う、(6)から(10)の何れかに記載の方法。
【0021】
(12) 骨髄細胞を培養して目的細胞に分化させる工程において、下記の(a)から(i)に記載の遺伝子から選択される何れか一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、下記の(A)から(E)の何れか一以上の細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、下記の(A)から(E)の何れか一以上の細胞へ分化させる培養工程をモニタリングする方法。
(a)骨髄細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子;(b)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(c)間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(d)骨芽前駆細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(e)骨芽細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(f)骨髄細胞の培養と、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号37又は7に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(g)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の培養と、間葉系幹細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号38又は39に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(h)間葉系幹細胞の培養と、骨芽前駆細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号40又は21に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(i)骨芽前駆細胞の培養と、骨芽細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号28、41又は42に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(A)骨髄細胞
(B)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞
(C)間葉系幹細胞
(D)骨芽前駆細胞
(E)骨芽細胞
【0022】
(13) 遺伝子マーカーの発現量の検出を、(2)又は(3)に記載のプローブ、(4)に記載のプライマー、あるいは(5)に記載のマイクロアレイ又はDNAチップを用いて行う、(12)に記載の方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の遺伝子マーカーを用いることにより、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる培養工程中の各段階における細胞を検出・分離することが可能になった。また、本発明の遺伝子マーカーを用いることにより、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる培養工程中の各段階の細胞をモニタリングすることができる。すなわち、培養途中でウィルスなどに細胞が感染した場合なども通常の培養工程に含まれる細胞と識別することができる。また、仮に同培養工程において成長の遅滞があった場合なども本来あるべき工程の細胞と区別することができるため、培養工程における品質管理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明は、以下の(i)から(ix)の何れかに記載の細胞検出又は分離、あるいはモニタリング用の遺伝子マーカーに関するものである。
(i)配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(ii)配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iii)配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iv)配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽前駆細胞を検出するための遺伝子マーカー;及び
(v)配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(vi)配列表の配列番号37又は7に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞と骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(vii)配列表の配列番号38又は39に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞と間葉系幹細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(viii)配列表の配列番号40又は21に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる間葉系幹細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(ix)配列表の配列番号28、41又は42に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる骨芽細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
【0025】
骨髄とは、骨の内腔を満たしている柔らかい組織であり、造血器官である。骨髄液とは骨髄に存在するもので、骨髄から採取することができる。本明細書において、「骨髄細胞」とは、骨髄液中に存在する細胞のことを言う。骨髄細胞には、赤血球、顆粒球、巨核球、リンパ球、脂肪細胞等のほか、少量の間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞などが含まれている。骨髄細胞は、例えば、ヒト腸骨、長管骨、もしくはその他の骨髄細胞を採取できる骨から採取することができる。
【0026】
「間葉系幹細胞」とは、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、筋芽細胞、線維芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞等への多分化能を持つ骨髄由来幹細胞である。「骨芽前駆細胞」とは、間葉系幹細胞に骨分化を誘導した後の細胞であって、未だ成熟骨芽細胞のマーカーを発現していない細胞である。「骨芽細胞」とは、ALP活性、オステオカルシンなどの骨芽細胞のマーカーを少なくとも一つ以上発現する細胞のことである。
【0027】
本発明においては、骨髄から骨髄液を採取し、骨髄液中の骨髄細胞を用いる。上記の通り、骨髄液には、赤血球、顆粒球、巨核球、リンパ球、脂肪細胞等のほか、間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞などの各種の骨髄細胞が含まれている。すなわち、本願明細書において、「骨髄細胞」とは、骨髄から得られる各種の細胞からなる細胞群を意味する。この骨髄細胞を後述する培養方法に供することにより、細胞群に含まれている間葉系幹細胞のみを高度に選択的に培養し、ほぼ純粋に間葉系幹細胞のみを含む細胞群を取得することができる。さらに、この間葉系幹細胞を、分化誘導により骨芽細胞等に分化させ、取得することができる。本発明の方法では、これらの工程を確実に管理することができる。
【0028】
上記の(iii)配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカーにより、後述する方法で検出、分離される間葉系幹細胞においては、細胞集団の中に、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の間葉系幹細胞が含まれている。
【0029】
配列表の配列番号1から36に記載の塩基配列を有する遺伝子は、それぞれ下記の遺伝子である。
配列番号1:Homo sapiens CREBBP/EP300 inhibitor 1 (CRI1), mRNA
配列番号2:Homo sapiens peroxiredoxin 1 (PRDX1), transcript variant 1, mRNA
配列番号3:Homo sapiens diazepam binding inhibitor (GABA receptor modulator, acyl-Coenzyme A binding protein) (DBI), mRNA
配列番号4:Homo sapiens cyclin L1 (CCNL1), mRNA
配列番号5:Homo sapiens annexin A2 (ANXA2), transcript variant 3, mRNA
配列番号6:Homo sapiens arginase, liver (ARG1), mRNA
配列番号7:Homo sapiens matrix metallopeptidase 9 (gelatinase B, 92kDa gelatinase, 92kDa type IV collagenase) (MMP9), mRNA
配列番号8:Homo sapiens peroxiredoxin 4 (PRDX4), mRNA
配列番号9:Homo sapiens ATP synthase, H+ transporting, mitochondrial F0 complex, subunit d (ATP5H), nuclear gene encoding mitochondrial protein, transcript variant 1, mRNA
配列番号10:Homo sapiens NADH dehydrogenase (ubiquinone) 1 beta subcomplex, 3,
12kDa (NDUFB3), mRNA
配列番号11:Homo sapiens microsomal glutathione S-transferase 3 (MGST3), mRNA
配列番号12:Homo sapiens pIFI27-like protein mRNA, partial cds
配列番号13:Homo sapiens transgelin (TAGLN), transcript variant 2, mRNA
配列番号14:Homo sapiens CD163 molecule (CD163), transcript variant 1, mRNA
配列番号15:Homo sapiens allograft inflammatory factor 1 (AIF1), transcript variant 2, mRNA
配列番号16:Homo sapiens legumain (LGMN), transcript variant 1, mRNA
配列番号17:Homo sapiens cathepsin C (CTSC), transcript variant 1, mRNA
配列番号18:Homo sapiens CD14 molecule (CD14), transcript variant 1, mRNA
配列番号19:Homo sapiens interferon, gamma-inducible protein 30 (IFI30), mRNA
配列番号20:Homo sapiens insulin receptor substrate 2 (IRS2), mRNA
配列番号21:Homo sapiens latexin (LXN), mRNA
配列番号22:Homo sapiens TSC22 domain family, member 1 (TSC22D1), transcript variant 2, mRNA
配列番号23:Homo sapiens secreted protein, acidic, cysteine-rich (osteonectin)
(SPARC), mRNA
配列番号24:Homo sapiens connective tissue growth factor (CTGF), mRNA
配列番号25:Homo sapiens metallothionein 1H (MT1H), mRNA
配列番号26:Homo sapiens solute carrier family 40 (iron-regulated transporter), member 1 (SLC40A1), mRNA配列番号27:Homo sapiens similar to P311 protein (H. sapiens) (LOC157630), mRNA
配列番号28:Homo sapiens collagen, type XI, alpha 1 (COL11A1), transcript variant A, mRNA
配列番号29:Homo sapiens major histocompatibility complex, class II, DR alpha (HLA-DRA), mRNA
配列番号30:Homo sapiens fibulin 5 (FBLN5), mRNA
配列番号31:Homo sapiens frizzled-related protein (FRZB), mRNA
配列番号32:HLA-DP (DPB1*02012)=major histocompatibility complex class II antigen beta chain [human, LCL 45.1, mutant 45.EM19, mRNA Partial Mutant, 171 nt]
配列番号33:Homo sapiens nuclear protein 1 (NUPR1), transcript variant 2, mRNA
配列番号34:Homo sapiens high-mobility group box 2, mRNA (cDNA clone MGC:2393 IMAGE:2963045), complete cds
配列番号35:Homo sapiens heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A1 (HNRPA1), transcript variant 1, mRNA
配列番号36:Homo sapiens cDNA clone IMAGE:3680553
【0030】
配列表の配列番号37から42に記載の塩基配列を有する遺伝子は、それぞれ下記の遺伝子である。
配列番号37:Homo sapiens cathepsin B (CTSB), transcript variant 1, mRNA
配列番号38:Homo sapiens collagen, type I, alpha 2 (COL1A2), mRNA
配列番号39:Homo sapiens interleukin 8 (IL8), mRNA
配列番号40:Homo sapiens pentraxin-related gene, rapidly induced by IL-1 beta (PTX3), mRNA
配列番号41:Homo sapiens apolipoprotein D (APOD), mRNA
配列番号42:Homo sapiens transforming growth factor, beta-induced, 68kDa (TGFBI), mRNA
【0031】
本発明の遺伝子マーカーは、上記骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化の各段階における細胞中での発現量を公知の方法、例えばマイクロアレイ法等を用いて測定し、各段階における細胞発現量を比較して、特定の分化段階における細胞中の発現量が他の全ての分化段階における細胞中の発現量と区別ができるか、あるいは、それの前後の分化段階における細胞中の発現量と区別ができることを指標として選択される。 本発明の遺伝子マーカーは、骨髄細胞から間葉系細胞を経て骨芽細胞へと分化する各段階の細胞の培養工程をモニタリングすることにも用いられるため、正常に分化していない細胞中の発現量と比較した場合にも、区別がつけられるものが好ましい。
【0032】
遺伝子マーカーの選択を行う際に用いる骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化の各段階における細胞は、オンスペック細胞として、公知の方法で骨髄細胞から培養、分化誘導しながら、顕微鏡による形態変化や増殖の観察や、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化過程における骨基質計測等で確認して調製することができる。
【0033】
また、正常に分化していない細胞(以下、「オフスペック細胞」と称することがある)としては、各培養工程において培養条件を変更して培養したもの、具体的には継代数や培養液組成を変えて培養した細胞、または正常に培養されなかったもの、例えば、培養過程において、脂肪細胞・軟骨細胞といった、骨以外に分化した細胞、細菌・ウイルスなどが混入した細胞、がん化した細胞、異なる系統の細胞、例えば、線維芽細胞等を用いることができる。
【0034】
本発明においては、被検細胞中の上記(i)から(ix)に記載した遺伝子のうち、何れか一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出することによって、骨髄細胞、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞、間葉系幹細胞、骨芽前駆細胞、又は骨芽細胞を検出及び/又は分離することができる。さらには、被検細胞が、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる培養工程をモニタリングすることができる。
【0035】
本発明において、骨髄細胞、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞、間葉系幹細胞、骨芽前駆細胞、又は骨芽細胞(以下、「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」と略記する場合がある)を検出及び/又は分離するため、又は分化培養工程のモニタリングのために、被検細胞中の本発明のマーカー遺伝子の発現量を検出する方法としては、当業者に公知の方法を用いることができる。例えば、mRNAレベルで遺伝子の発現量を検出するためにはノーザンブロッティング法を用いることができる。この際、本発明の遺伝子マーカーのDNA配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有するプローブを用いることができる。該プローブを用いて、「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」における遺伝子マーカーの発現量を検出するには、公知の方法を用いて適宜実施することができる。例えば、配列表に示した遺伝子マーカーのDNA配列から適当な長さのDNAプローブを作製し、放射標識又は蛍光標識等で標識しておき、これを被検試料とハイブリダイズして、その標識量を測定する方法等が挙げられる。該DNAプローブとしては、配列表に示した本発明の遺伝子マーカーの塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなるプローブを用いることができる。また、該プローブは、少なくとも1つ以上のプローブを支持体上に固定化させることによって、マイクロアレイ又はDNAチップとして用いることもできる。
【0036】
上記したDNAプローブの作製において、本発明の塩基配列において、遺伝子マーカーとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする条件としては、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、及び1×SSC(0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)、0.1%のSDS(Sodium dodecyl sulfate)を含む緩衝液による42℃での洗浄からなる条件を挙げることができ、さらに好ましくは65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄からなる条件を挙げることができる。
【0037】
マーカー遺伝子は、定量的又は半定量的PCRを用いてその発現量を検出することもできる。該PCRとしてはRT−PCR(逆転写PCR)を用いることができる。該PCRを行うに際しては、本発明の遺伝子マーカーを増幅するためのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーからなるプライマーを用いることができる。また、該PCRを行う反応液に、一遺伝子マーカーに対するプライマーのみを入れ、遺伝子マーカー毎に該PCRを行っても良いし、該PCRを行う反応液に、複数の遺伝子マーカーに対するプライマーを同時に入れ、複数の遺伝子マーカーに対し一度に該PCRを行っても良い。
【0038】
本発明の細胞検出用マーカー遺伝子を検出するためのプローブ及びプライマーの具体例としては、表4に記載のものを挙げることができるが、これらに限定されるわけではなく、当業者であれば、配列番号1から42に記載したマーカー遺伝子の塩基配列に基づいて、目的とするマーカー遺伝子を検出できるプローブ及びプライマーの塩基配列を適宜設定することができる。
【0039】
また、本発明においては、マーカー遺伝子の発現量の検出を、配列表の配列番号1から42の何れかの塩基配列がコードするタンパク質に対する抗体を用いて、タンパク質レベルで検出することもできる。上記の抗体としては、モノクローナル抗体でもよいし、ポリクローナル抗体でもよい。上記した抗体は、配列表の配列番号1から42の何れかの塩基配列がコードするタンパク質又はその部分ペプチドを抗原として用いて、常法により作製することができる。上記した抗体を用いて、被検細胞における遺伝子マーカーの発現を検出するためには、例えば、例えばRIA法、ELISA法、蛍光抗体法等などの公知の免疫学的測定法を用いることができる。
【0040】
上記抗体を用いて、被検細胞における本発明の遺伝子マーカーの発現量を検出し、後述する方法により間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」分離する際には、公知の方法により間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」を標識化し、その標識の強さ等を指標として分離することができる。該標識化方法としては、例えば、蛍光抗体法を挙げることができる。蛍光抗体法により間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」中に発現する遺伝子マーカーがコードするタンパク質を標識化するには、本発明の遺伝子マーカーがコードするタンパク質に特異的に結合する抗体を蛍光標識し、これを、遺伝子マーカーがコードするタンパク質を発現している間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」に結合させて、該細胞を標識化する(直接蛍光抗体法)か、或いは、遺伝子マーカーがコードするタンパク質を発現している間葉系幹細胞に、未標識の特異抗体を結合させた後に、標識化した二次抗体(抗免疫グロブリン抗体)を結合させて間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」中の遺伝子マーカーがコードするタンパク質を標識化し(間接蛍光抗体法)、該標識化された細胞を、その標識量を指標として分離、採取すればよい。
【0041】
本発明においては、上記したプローブや抗体を用いて、被検細胞における本発明の遺伝子マーカーの発現量を検出し、これにより細胞の状態を識別して、骨髄細胞、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞、間葉系幹細胞、骨芽前駆細胞、又は骨芽細胞を分離し、取得することができる。
【0042】
具体的な「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」の検出のために、該細胞を識別する方法としては、上記のように被検細胞中の一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、これが、「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較して、これと同程度であるかを指標として行う。遺伝子マーカーの発現量の比較は、1つの遺伝子マーカーの発現量の絶対値でもよいし、2つ以上の遺伝子マーカーの発現量の比でもよい。
【0043】
「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」中の同じ遺伝子マーカーの発現量は、後述する方法で、特定の細胞であることを確認した細胞(以下、「オンスペック細胞」と称することがある)中の同じ遺伝子マーカーの発現量(以下、「オンスペック細胞の基準値」と称することがある)として予め取得しておくことが好ましい。
【0044】
基準値を取得する場合、オンスペック細胞は1つの培養系でもよいが、複数の培養系から取得して用いることが好ましく、それぞれの遺伝子マーカーの発現量を統計的に処理して被検細胞中のマーカー遺伝子の発現量と比較することが好ましい。これらの解析は、R言語を使用する統計解析ソフトRやS言語を使用するS−PLUS、SPSS、SAS、StatViewなど公知の方法を使用して簡便に行うことができる。
【0045】
比較を行う遺伝子マーカーは、検出及び/又は分離しようとする骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞のいずれかの分化段階において、他の分化段階とは異なる発現量を示すことがわかっているものを用いる。具体的には、上記(i)〜(ix)に記載のものが挙げられ、これらのうち、1つ以上を用いるか、又は複数の遺伝子マーカーについて組み合わせて解析する多変量解析のいずれも用いることができる。また、ある分化段階を判定するために、該分化段階のみを測定対象とする場合は、上記(i)〜(v)に記載のものが好ましく、一方で、該分化段階及び該分化段階の前及び/又は後の分化段階を測定対象とする場合には、上記(i)〜(v)に記載のものに加えて、隣り合う2工程間で顕著な発現量差を示す上記(vi)〜(ix)に記載のものも好ましい。
【0046】
1つの遺伝子マーカーを用いる場合、具体的には、例えば、特定のオンスペック細胞を複数系用いて、該細胞中のマーカー遺伝子の発現量の平均値±2XSDあるいは±3XSDをオンスペック細胞の基準値と定め、被験細胞中の該マーカー遺伝子の発現量がこの基準値に入ることを指標として判定する方法が用いられる。
【0047】
また、特定のオンスペック細胞を複数系用いて、該細胞中のマーカー遺伝子の発現量についてROC曲線を引き、これをオンスペック細胞のカットオフ値を定め、これを基準値として被験細胞中の該マーカー遺伝子の発現量がこれに含まれるのかどうかを指標として判定することもできる。また、クラスター分析などを用いることもできる。
【0048】
一方、2つ以上の遺伝子マーカーについて解析する場合では、例えば、特定のオンスペック細胞中の該マーカーの発現量について、上記と同様の方法で基準値、あるいはその範囲を定め、被験細胞中の該マーカーの発現量がこの基準となる範囲に含まれるかどうかを判断することができる。具体的な解析方法としては、予測(重回帰分析、数量化I類)、判別(判別分析、数量化II類)、機械学習(最近傍法、決定木、support vector machine、neural network)、相関係数や距離関数を用いた類似度解析などを用いる。
【0049】
また、別の例としては、2つ以上の遺伝子マーカーの発現量に基づいて、オンスペック細胞の基準値群と、該集団に被検物質中の該マーカーの発現量値群を集団として比較して判定することができる。具体的な解析方法としては、クラスター分析、多次元尺度法、主成分分析、因子分析、数量化III類、数量化IV類、自己組織化マップ、ネットワークの推定(ブーリアンネットワーク、ベイジアンネットワーク)などを用いる。
【0050】
さらに詳細に説明すると、例えば、スピアマン相関係数を使用した判定法では、オンスペック細胞の基準値に対して、相関係数値が、0.6以上、好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上であった時に、被検細胞が該特定の分化段階の細胞であると判定される。
【0051】
また、階層型クラスタ解析では、オンスペック細胞の基準値群(クラスター)に、被検細胞の発現量値が入れば、該特定の分化段階の細胞であると判定され、異なるクラスターを形成すれば、該分化段階の細胞ではないと判定できる。
【0052】
また、ユークリッド距離に基づいた多次元尺度法では、オンスペック細胞の基準値をプロットした同じ領域に、披検細胞の発現量値がプロットされた場合には、該特定の分化段階の細胞であると判定され、離れた領域にプロットされた場合には、該分化段階の細胞ではないと判定できる。
【0053】
かくして、骨髄細胞から骨芽細胞までのいずれかの細胞と判定された細胞は、これを公知の方法で分離することができる。
【0054】
本発明では、上記遺伝子マーカーを用いて骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞の培養工程をモニタリング(以下、「モニタリング」と称することがある)することもできる。モニタリングするとは、上記の方法で各分化段階の細胞を検出することを手段とし、各培養工程にある細胞が、オンスペック細胞であるかどうかを判定し、培養工程における品質管理を目的とするものである。
【0055】
モニタリングする各培養工程とは、(A)骨髄細胞の培養、(B)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の培養、(C)間葉系幹細胞の培養、(D)骨芽前駆細胞の培養、及び(E)骨芽細胞の培養工程である。
【0056】
モニタリングのための、遺伝子マーカーの発現量の検出は、各培養工程においてその都度行ってもよいし、複数の工程にまたがって行ってもよい。また、予定している培養工程が全て終了したあと、各培養工程の全て、あるいは一部に対して行ってもよい。
【0057】
各培養工程における遺伝子マーカーの発現量の検出、オンスペック細胞の基準値との比較および判定は、測定したい培養工程の細胞を一部取得して被検細胞とし、上記の方法で行うことができる。
【0058】
モニタリングを行う培養工程の組み合わせを適宜決定し、上記工程(A)から(E)の何れか一以上の培養工程を目的に応じて非常に簡便にモニタリングすることができる。例えば、骨髄細胞から間葉系幹細胞を培養する場合(上記工程(A)から(C)までに相当)には、上記(a)、(b)、(c)、(f)及び(g)に記載の遺伝子から選択される一以上の遺伝子を用いてモニタリングを行えばよい。好ましくは、(a)、(b)、(c)に記載の遺伝子マーカーから選択される何れか一以上の遺伝子マーカーを用い、更に好ましくは、(a)、(b)、(c)に記載の遺伝子マーカーを、工程毎に何れか一つ以上を選択してモニタリングを行えば良い。
【0059】
また、間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化誘導培養を行う場合(上記工程(C)から(E)までに相当)には、上記(c)、(d)、(e)、(h)及び(i)に記載の遺伝子マーカーから選択される何れか一以上の遺伝子を用いてモニタリングを行えばよい。好ましくは、(c)、(d)、(e)に記載の遺伝子マーカーから選択される何れか一以上の遺伝子マーカーを用い、更に好ましくは、(c)、(d)、(e)に記載の遺伝子マーカーを、工程毎に何れか一つ以上を選択して用いればよい。
【0060】
本発明の遺伝子マーカーを検出するためのプローブ、上記プローブを固定したマイクロアレイ又はDNAチップ、本発明の遺伝子マーカーを増幅するためのプライマー、及び本発明の遺伝子マーカーがコードするタンパク質に対する抗体は、それらを装備した間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」の識別用キットとして製品化しておくことができる。
【0061】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
実施例1[材料調製]
(培養試薬の調製)
骨髄液から間葉系幹細胞の培養液(以下、「間葉系幹細胞培養液」)には、Dulbecco's Modified Eagle Medium(Invitrogen社製)に10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加し、最終濃度50μg/mLのビタミンC及び最終濃度10ng/mLのbFGFを添加した培地を調製した。
【0063】
骨芽細胞への分化誘導培地(以下、骨芽分化誘導培養液)には、Dulbecco's Modified Eagle Medium(Invitrogen社製)に10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加し、最終濃度50μg/mLのビタミンC、最終濃度100nMのデキサメタゾン及び最終濃度10mMのβ-グリセロリン酸を添加した培地を調製した。
【0064】
軟骨細胞への分化誘導培地(以下、「軟骨分化誘導培養液」)には、Dulbecco's Modified Eagle Medium(Invitrogen社製)に10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加し、最終濃度50μg/mLのビタミンC、最終濃度100nMのデキサメタゾン、最終濃度10ng/mLのTGFβ3及びITSを添加した培地を調製した。
【0065】
脂肪細胞への分化誘導培地(以下、「脂肪分化誘導培養液」)には、Dulbecco's Modified Eagle Medium(Invitrogen社製)に10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加し、最終濃度1μMのデキサメタゾン、最終濃度10μg/mLのインシュリン、最終濃度0.2μMのインドメタシン及び最終濃度0.5mMのIBMX(3-isobuthyl-1-methyl xanthine:シグマ社製)を添加した培地を調製した。
【0066】
培養液の条件検討のために用いた間葉系幹細胞の培養液(以下、「間葉系幹細胞培養液 (条件検討用)」)は、Dulbecco's Modified Eagle Medium Nutrient Mixture F-12(Invitrogen社製)に10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加して調製した。
【0067】
(細胞培養)
ヒト由来間葉系幹細胞(human mesenchymal stem cell)の増殖培養には、間葉系幹細胞培養液を使用した。ヒト由来間葉系幹細胞の骨分化培養には骨芽分化誘導培養液を、軟骨分化培養には軟骨分化誘導培養液を、脂肪分化培養には脂肪分化誘導培養液を使用した。ヒト線維芽細胞(human fibroblast)の増殖培養には、線維芽細胞培地キット-2 (2%FBS)(Cambrex社製)、もしくは間葉系幹細胞培養液を使用した。また、これらの細胞は37℃、5%炭酸ガス濃度下で培養した。
【0068】
(培養工程)
骨髄液から間葉系幹細胞を分離した後、増殖培養を経て、骨芽細胞・軟骨細胞・脂肪細胞に分化させるまでの一連の培養操作手順について、基本的なプロトコールを以下に示した。
【0069】
骨髄液からの間葉系幹細胞増殖培養:1日目に、骨髄液を間葉系幹細胞培養液に懸濁し、フラスコに播種した。4日目に培養液の70%を交換し、その後は3~4日毎に全量培地交換をした。コンフルエントになったら細胞を継代し、この細胞が再びコンフルエントになったら回収し、分化誘導に使用した。
骨芽細胞分化誘導:回収した細胞を、骨芽分化誘導培地に懸濁、播種した。3~4日毎に全量培地交換を行い、14日間分化培養を行った。
軟骨細胞分化誘導:回収した細胞を、間葉系幹細胞培養液に懸濁、播種した。播種翌日に、軟骨分化誘導培養液に交換し、3~4日毎に全量培地交換をし、21日間分化培養を行った。
脂肪細胞分化誘導:回収した細胞を、間葉系幹細胞培養液に懸濁、播種した。播種翌日に、脂肪分化誘導培養液に交換し、3~4日毎に全量培地交換をし、14日間分化培養を行った。
【0070】
(細胞の回収)
細胞の回収は、以下の8つの培養工程(ステージ)で実施した(図1)。
ステージ1:購入した骨髄液
ステージ2:培養4日目の培養初期細胞
ステージ3:継代数1の培養中期細胞
ステージ4:継代数2の培養後期細胞
ステージ5:分化誘導後、1日間培養した細胞
ステージ6:分化誘導後、4日間培養した分化初期細胞
ステージ7:分化誘導後、7日間培養した分化中期細胞
ステージ8:分化誘導後、14日間培養した分化後期細胞
【0071】
(オンスペックモデルとオフスペックモデルの定義)
骨髄液から骨分化までの間で、上記規定の培養条件で正常に培養された細胞を、オンスペックモデルと定義した。一方、本工程において培養条件を変更して培養したもの、具体的には継代数や培養液組成を変えて培養した細胞、または正常に培養されなかったもの、例えば、培養過程において、脂肪細胞・軟骨細胞といった、骨以外に分化した細胞、細菌・ウイルスなどが混入した細胞、がん化した細胞、異なる系統の細胞、例えば、線維芽細胞をオフスペックモデルとした。
【0072】
実施例2[マイクロアレイ解析]
(マイクロアレイ実験方法)
図1に示す培養工程1〜8ステージの細胞からRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて全RNAを抽出後、Amino Allyl MessageAmp aRNA Kit(Ambion社製)を用いて相補的mRNAを増幅し、その5 μgをDNA microarray(AceGene Human oligo chip 30K 1chip version)にてハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションの方法はAceGeneR-1 Chip Version-取り扱い説明書に従った。さらに、リファレンスとしては、ベクトン・ディッキンソン社より購入した骨髄RNAの混合液を使用した。骨髄RNAの混合液を、上記と同様の方法で相補的mRNAを増幅し、このRNAをリファレンスとして、全てのDNAマイクロアレイ実験に使用した。DNAマイクロアレイのスキャニングにはScanArray Express (PerkinElmer社製)を使用した。取得したスキャニング画像の数値化にはImaGene(BioDiscovery社製)を使用し、正規化にはGeneSight(BioDiscovery社製)を使用した。マイクロアレイデータの統計学的処理は、表計算ソフトExcel(Microsoft社製)と統計解析ソフトR(フリーソフトウェア)を使用した。
【0073】
(マイクロアレイ解析結果)
1.マーカー遺伝子候補の絞込み
骨髄液から骨分化まで、図1に示した8ステージの細胞として正常に培養できたオンスペックモデルを、各5検体(A、B、C、D、E)用いて、それぞれから発現プロファイルデータを取得した。
【0074】
各遺伝子の発現量について、まず上記5検体の平均値を算出し、その最大と最小の間差が2倍以上を示す遺伝子を抽出した。抽出した遺伝子群から、さらに、5検体の中のA検体を基準とし、8ステージの変動パターンについて、A検体と他の4検体のPearson相関係数を、検体AとB、検体AとC、検体AとD、検体AとEの組み合わせでそれぞれ算出した。算出したPearson相関係数の平均値を算出し、0.4以上を示す2080遺伝子を抽出した。
【0075】
2.各培養工程に特徴的な遺伝子群の抽出
次に、上記1.で抽出した2080遺伝子について、図1に示す8ステージの培養工程を図2に示す5つの群(群1=ステージ1(骨髄液)、群2=ステージ2、群3=ステージ3、4(間葉系幹細胞)、群4=ステージ5(骨芽前駆細胞)、群5=ステージ6、7、8(骨芽細胞))に分けて、図3に示した決定樹の流れに従い、多重比較検定を行った。
群総当りの多重比較検定を行った結果、上記1.で抽出した2080遺伝子から、(1)特異的な発現量により、各群を規定できる36遺伝子(P<0.01)(表1)と、(2)隣り合う2群間で顕著な発現差を示す9遺伝子((1)との重複は3遺伝子)(表2)を絞り込んだ。この合計45遺伝子から重複を除いた42遺伝子を、以下「マーカー候補遺伝子」とした。
【0076】
(1)の36遺伝子において、群1を規定する13遺伝子と群2を規定する15遺伝子では、9遺伝子が重複していた。しかし、遺伝子は同じであっても、群1の骨髄液から回収される細胞において検出される発現量と、群2の培養初期細胞において検出される発現量とが有意に異なるため、各群を明確に規定できることがわかった。他の群間で重複する遺伝子についても同様であった。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
実施例3 [培養工程各群を規定できる遺伝子の検証]
(オフスペックモデルの調製)
オフスペックモデルとして、間葉系幹細胞1検体から骨以外に分化させた細胞を調製した。具体的には軟骨分化細胞(分化培養4日、14日)、脂肪分化細胞(分化培養4日、14日)を調製した。各細胞の培養は実施例1に記載の条件で行った。この他に、線維芽細胞(Cambrex社製、製品コードCC-2511)、及びHSV-I(単純ヘルペスI型)ウイルスを人為的に接種した間葉系幹細胞を調製した。線維芽細胞は、線維芽細胞培地キット-2 (2%FBS)(Cambrex社製)、もしくは間葉系幹細胞培養液を使用し、2種類の細胞を調製した。HSV-I(単純ヘルペスI型)ウイルスを人為的に接種した間葉系幹細胞は、図1に示したステージ4の間葉系幹細胞に対して、約107コピーのHSV-Iを接種し、72時間培養を継続して調製した。
【0080】
(マイクロアレイ解析結果)
オフスペックモデルとして調製した全ての細胞に対し、実施例2に記載の方法に従って発現プロファイルデータを取得した。
実施例2の2.で抽出した培養工程の1〜5群を規定できると予測される遺伝子36個(表1)について、オンスペック基準5検体のデータにオフスペックモデルのデータを加えて評価したところ、オンスペックの細胞では、各群で遺伝子の発現量に差が見られ、上記36遺伝子(表1)が特に大きい発現量の差を示した。また、オフスペックの細胞でも、上記36遺伝子の発現量には差が見られ、これら36遺伝子は、各群のオンスペック細胞を他の細胞と区別することができることを確認した。この結果の代表例を図4〜8に示した。図4〜8で群1〜5は、各群のオンスペック細胞中の上記36遺伝子の発現量を示し、軟骨細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、HSV-I接種間葉系幹細胞はオフスペック細胞の代表で、該細胞中の上記の各群を規定できる遺伝子の発現量を示す。
【0081】
このことから、これらの上記36遺伝子(表1)は、その発現量により、各群を規定できる遺伝子マーカーとなり得ることがわかった。
【0082】
実施例4 [培養工程の判別可否の検証−1]
(階層型クラスタリングによるオンスペック基準5検体のステージ判別確認)
オンスペック基準5検体(A,B,C,D,E)に対して、マーカー候補42遺伝子の発現量を、統計解析ソフトR(フリーソフトウェア)を使用して階層型クラスタリング解析を実施したところ、各群において、全てのオンスペック基準検体が同一クラスタに分類された。このことから、マーカー候補42遺伝子の発現量による階層型クラスタリング解析により、培養工程5群の判別が可能であった(図9の群1:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ1、群2:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ2、群3:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ3及びステージ4、群4:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ5、群5:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ6及びステージ7及びステージ8)。
【0083】
実施例5 [培養工程の判別可否の検証−2]
(追加検体を加えたステージ判別確認)
培養工程を判別する目的で絞り込んだ42遺伝子の妥当性を検証するため、新たに、骨髄液から骨分化まで、正常に培養できたオンスペックモデル6検体(F,G,H,I,J,K)を用いて実施例4と同様の解析を行った。図1に示すステージ4とステージ6の発現プロファイルデータを、マイクロアレイを用いて取得し、基準検体5検体(A,B,C,D,E)から得たデータと合わせて、マーカー候補42遺伝子の発現量を用いて階層型クラスタリング解析を行った。階層型クラスタリング解析の結果の代表例として、オンスペックモデル6検体(F,G,H,I,J,K)の2つのステージ(ステージ4及び6)についての結果を図9に示した。図9に示すとおり、オンスペックモデル6検体は、基準検体5検体(A,B,C,D,E)の場合と同じクラスタに含まれることが確認された(図9の群3:オンスペックF,G,H,I,J,K _ステージ4、:オンスペックF,G,H,I,J,K _ステージ6)。この結果から42遺伝子の発現プロファイルデータを取得することにより、培養工程が正常な経過をとったことをモニタリングできることが示された。
【0084】
実施例6 [培養工程の判別可否の検証−3]
(オフスペックを用いた検証)
1.脂肪分化細胞を用いた検証
実施例3で取得した脂肪に分化させた細胞(分化培養4日、14日)の遺伝子発現データを、オンスペックモデルのデータに追加して、前述した階層型クラスタリング解析を行った。その結果、脂肪に分化させた細胞は、どの培養ステージとも異なるクラスタを形成することが確認された(図9の脂肪分化4day及び脂肪分化14day)。このことから、培養過程で、骨芽細胞以外への分化といった、正常な培養に変化を及ぼす異常をモニタリングできることがわかった。
【0085】
2.線維芽細胞を用いた検証
実施例3で取得したオフスペック(線維芽細胞)2検体の遺伝子発現データを、オンスペックモデルのデータに追加して、前述した階層型クラスタリング解析を行った。その結果、繊維芽細胞2検体は間葉系幹細胞のどの培養ステージとも異なるクラスタを形成することが確認された(図9の線維芽細胞1及び線維芽細胞1.1)。このことから、細胞形態的に類似している間葉系幹細胞と繊維芽細胞を極めて明確に識別できることが示された。
【0086】
3.ウイルスを接種した間葉系幹細胞を用いた検証
実施例3で取得したオフスペック(HSV-Iウイルスを人為的に接種した間葉系幹細胞)の遺伝子発現データを、オンスペックモデルのデータに追加して、前述した階層型クラスタリング解析を行った。その結果、人為的にウイルスを接種した細胞は、正常に培養された間葉系幹細胞の全ての培養ステージと異なるクラスタを形成することが確認された(図9のHSVI接種後72hr)。このことから、培養過程にウイルス汚染など正常な培養に変化を及ぼす異常をモニタリングできる可能性が示された。
【0087】
実施例7[リアルタイムPCRによる検証]
(リアルタイムPCR方法)
供試細胞よりRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて全RNAを抽出後、全RNA1μgを鋳型としてcDNAを合成した。合成手順については、Super Script II Reverse Transcriptase (Invitrogen社製)の添付資料に記載されているプロトコール(First-Strand cDNA Synthesis Using SuperScriptII RT)に従った。なお、プライマーについては、Random Primer(6mer)(TaKaRa社製)を使用した。cDNAを合成した後、合成後のcDNA溶液を5倍に希釈した。この希釈液1μLを鋳型としてリアルタイムPCRを行った。使用したプライマー・プローブ試薬については、表3に示した。
【0088】
測定については、ABI PRISM 7700 Sequence Detector(ABI社製)を使用し、プローブ法、もしくはSYBR GreenI法にて実施した。プローブ法の場合には、TaqManR Universal PCR Master Mix, No AmpEraseR UNG (ABI社製品)の反応液を、SYBR Green I法の場合にはSYBR R GREEN PCR Master Kit (ABI社製品)の反応液を用いた。なお、表3に記載した「Hs」で始まるプローブは、ABI社製で製品番号を示した。
【0089】
【表3】
【0090】
(マイクロアレイデータとの比較)
DNAマイクロアレイの遺伝子発現データは相対値で数値化されるが、リアルタイムPCRによる発現量解析は絶対値で数値化される。培養工程を判別する目的で絞り込んだ42遺伝子について、リアルタイムPCRによる遺伝子発現データの評価を行った。実施例2で用いたオンスペックモデル基準5検体について、培養工程8ステージにおける細胞の遺伝子発現量を、リアルタイムPCRを用いて測定した。なお、基準5検体のうち、検体Bのステージ2、及び検体Dのステージ1及び2については、total RNA量が不足していたため、データを取得できなかった。42遺伝子のCt値を測定後、ΔCt値(40−Ct値)を算出した。算出したΔCt値から、培養工程8ステージにおける経時的な発現変動をグラフに示し(図10〜15の左側のグラフ)、実施例2で取得したマイクロアレイの経時的な発現変動(図10〜15の右側のグラフ)と比較した。
【0091】
その結果、培養工程各群を規定できる32遺伝子(表4)、及び隣り合う2群間で顕著な発現差を示す9遺伝子 (表2)について、重複する3遺伝子を除く計38遺伝子の発現変動パターンは、相似型を示すことが確認された(図10から図15)。さらに、相似型を示した38遺伝子についてはマイクロアレイのデータと同様に、群1を規定できる遺伝子はその他の全ての群に対して有意差(P<0.01)があり、群2から5を規定できる遺伝子についても同様であった。
【0092】
【表4】
【0093】
実施例8[培養工程各群を規定できる遺伝子の検証]
(リアルタイムPCRによるオフスペックモデルの遺伝子発現データの取得)
実施例3で調製した1検体の間葉系幹細胞から骨分化させた細胞(分化培養4日、14日)・軟骨分化させた細胞(分化培養4日、14日)・脂肪分化させた細胞(分化培養4日、14日)、2系統の培養液を用いて調製した線維芽細胞2種類、HSV-I(単純ヘルペスI型)ウイルスを人為的に接種した間葉系幹細胞について、それぞれの細胞中のマーカー候補遺伝子の発現プロファイルデータを、リアルタイムPCRを用いて、実施例7に記載の方法に従って取得した。
【0094】
実施例7に示した培養工程の各群を規定できると予測される32遺伝子(表4)について、オンスペック基準5検体(A,B,C,D,E)のデータにオフスペックモデルのデータを加えて評価したところ、オンスペックの細胞では、各群で遺伝子の発現量に差が見られ、上記32遺伝子(表4)が特に大きい発現量の差を示した。また、オフスペックの細胞でも、上記32遺伝子の発現量には差が見られ、これら32遺伝子は、各群のオンスペック細胞を他の細胞と区別することができることを確認した。この結果の代表例を図16〜20に示した。図16〜20で群1〜5は、各群のオンスペック細胞中の上記32遺伝子の発現量を示し、軟骨細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、HSV-I接種間葉系幹細胞はオフスペック細胞の代表で、該細胞中の遺伝子の発現量を示す。
【0095】
このことから、これらの32遺伝子はその発現量により、各群を規定できる遺伝子マーカーとなり得ることがわかった。
【0096】
オンスペック基準5検体(A,B,C,D,E)とオフスペックモデルのリアルタイムPCRによる遺伝子発現データから、実施例7で示した培養工程各群を規定できる32遺伝子の中から、群3を規定できる3遺伝子(IRS2、LXNおよびTSC22D1)および群5の隣り合う2群で顕著に発現が異なる3遺伝子(COL11A1、FBLN5及びFRZB)を選択し、ユークリッド距離に基づいた多次元尺度法による2次元プロット解析を行った。その結果を図21および22に示す。図21および22において、プロットに示したA〜Eは検体を示し、数字はステージ(図1、2)を示す。図21では、群3の基準検体A,B,C,D,Eのステージ3及び4が、全て同領域に存在した。図22では、群5の基準検体A,B,C,D,Eのステージ6、7及び8が、全て同領域に存在した。各マーカー遺伝子により規定される群の検体におけるプロットは、近い範囲に集中し、その他の群やオフスペックモデル検体のプロットとは異なる分布を示した。なお、多次元尺度法には総計解析ソフトR(フリーソフトウェア)を使用した。
【0097】
実施例9 [培養工程の判別可否の検証−1]
(階層型クラスタリングによる基準5検体(A,B,C,D,E)のステージ判別確認)
培養工程各群を規定できる32遺伝子(表4)、及び隣り合う2群間で顕著な発現差を示す9遺伝子 (表2)のうち、それぞれの細胞中のマーカー候補遺伝子の発現プロファイルデータを、リアルタイムPCRを用いて、実施例7に記載の方法に従って取得した。
【0098】
重複する3遺伝子を除く計38遺伝子のΔCt値(40-Ct値)について、統計解析ソフトR(フリーソフトウェア)を使用して階層型クラスタリング解析を実施したところ、各群において、全てのオンスペック基準検体が同一クラスタに分類された。このことから、培養工程5群の判別が可能であった(図23の群1:オンスペックA,B,C,E_ステージ1、群2:オンスペックA,C,E_ステージ2、群3:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ3及びステージ4、群4:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ5、群5:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ6及びステージ7及びステージ8)。
【0099】
実施例10 [培養工程の判別可否の検証−2]
(追加検体を加えたステージ判別確認)
培養工程を判別する目的で絞り込んだ38遺伝子の妥当性を検証するため、新たに、骨髄液から骨分化まで、正常に培養できたオンスペックモデル6検体(F,G,H,I,J,K)の全培養ステージの遺伝子発現データを、リアルタイムPCRを用いて実施例7に記載の方法に従って取得した。
【0100】
オンスペックモデル6検体(F,G,H,I,J,K)を追加して、階層型クラスタリング解析を行った結果、オンスペックモデル6検体の各培養ステージは、基準5検体(A,B,C,D,E)の場合と同じクラスタに含まれることが確認された(図23の群1:オンスペックG,H,J,K_ステージ1、群2:オンスペックH,J,K_ステージ2、群3:オンスペックF,G,H,I,J,K _ステージ3及びステージ4、群4:オンスペックF,G,H,I,J,K _ステージ5、群5:オンスペックF,G,H,I,J,K _ステージ6及びステージ7及びステージ8)。この結果から38遺伝子の遺伝子発現データを取得することにより、培養工程が正常に経過したことをモニタリングできることが示された。
【0101】
実施例11 [培養工程の判別可否の検証−3]
(オフスペックを用いた検証)
1. 軟骨分化細胞、及び脂肪分化細胞を用いた検証
実施例8で取得した軟骨に分化させた細胞(分化培養4日、14日))と脂肪に分化させた細胞(分化培養4日、14日)の遺伝子発現データと、オンスペックモデルの遺伝子発現データについて、実施例10と同様に階層型クラスタリング解析を行った。その結果、軟骨分化細胞、及び脂肪分化細胞は、どの培養ステージとも異なるクラスタを形成することが確認された(図23の軟骨分化4day及び軟骨分化14day、脂肪分化4day及び脂肪分化14day)。このことから、培養過程で骨芽細胞以外への分化といった、正常な培養に変化を及ぼす異常をモニタリングできることがわかった。
【0102】
2.線維芽細胞を用いた検証
実施例8で取得した線維芽細胞2検体の遺伝子発現データと、オンスペックモデルの遺伝子発現データについて、実施例10と同様に階層型クラスタリング解析を行った。その結果、繊維芽細胞2検体は間葉系幹細胞のどの培養ステージとも異なるクラスタを形成することが確認された(図23の線維芽細胞1及び線維芽細胞2)。このことから、細胞形態的に類似している間葉系幹細胞と繊維芽細胞を極めて明確に識別できることが示された。
【0103】
3.ウイルスを接種した間葉系幹細胞を用いた検証
実施例8で取得したHSV-I(単純ヘルペスI型)ウイルスを人為的に接種した間葉系幹細胞の遺伝子発現データを、オンスペックモデルの遺伝子発現データについて、実施例10と同様に階層型クラスタリング解析を行った。その結果、人為的にウイルスを接種した細胞は、正常に培養された間葉系幹細胞の全ての培養ステージと異なるクラスタを形成することが確認された(図23のHSVI接種後72hr)。このことから、培養過程にウイルス汚染など正常な培養に変化を及ぼす異常をモニタリングできることがわかった。
【0104】
4.遺伝子発現プロファイルに培養条件が及ぼす影響についての検証
図1に示したステージ4の間葉系幹細胞から、オフスペック細胞として、通常の培養液で4回の継代を追加した間葉系幹細胞Aと、4回目の継代以降に培養液を実施例1に記載した間葉系幹細胞培養液(条件検討用)に変更した間葉系幹細胞Bを調製し、リアルタイムPCRを用いて、遺伝子発現データを取得した。
【0105】
オンスペックモデル11検体(A〜K)の遺伝子発現データと、上記で取得した間葉系幹細胞A、及びBの遺伝子発現データについて、実施例10と同様に階層型クラスタリング解析を行った。その結果、これらの間葉系幹細胞A,Bは、どのオンスペック細胞とも異なるクラスタを形成することが判明した(図24の間葉系幹細胞A,B、群1、群2、群3、群4、群5)。
【0106】
また、実施例10で選択した38遺伝子を使用し、オンスペックモデル11検体の間葉系幹細胞(群3)と骨芽細胞(群5)、及び、上記の様に変更して培養した間葉系幹細胞A、Bを、ユークリッド距離に基づいた多次元尺度法によって2次元図にプロットした。この結果を図25に示す。図中プロットに示したA〜Kは検体を示し、数字はステージ(図1、2)を示す。オンスペックモデルの間葉系幹細胞集団(群3)から、間葉系幹細胞A、間葉系幹細胞Bの順で離れており、また、骨芽細胞(群5)とも離れており、その間隔はいずれも顕著に開いていた(図25の群3:基準検体A,B,C,D,Eのステージ3及び4、追加検体F,G,H,I,J,Kのステージ3及び4、群5:基準検体A,B,C,D,Eのステージ6及び7及び8、追加検体F,G,H,I,J,Kのステージ6及び7及び8、間葉系幹細胞A、間葉系幹細胞B)。このことから、細胞の継代数や培養液の組成によって発現プロファイルが変化することが示され、その様な発現プロファイルの変化に基づいて、異なる培養条件下にさらされているかモニタリングできることが確認された。
【0107】
実施例12[培養ステージや細胞の品質判定方法についての検討]
(例1:相関係数を用いた判定)
実施例7に示した培養工程各群を規定できる32遺伝子(表4)から、代表的な23遺伝子(表5)を選抜した。オンスペックモデル基準5検体(A,B,C,D,E)の群1に属する細胞について、遺伝子毎に発現量の平均値を算出し、その23遺伝子の発現パターンを、群1の基準値と規定した。このような計算を群2から群5についても、同様に行い、各群の基準となる23遺伝子の発現パターンを算出した(図26.群1:オンスペックA,B,C,E_ステージ1対群1の基準値、群2:オンスペックA,C,E_ステージ2対群2の基準値、群3:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ3及び4対群3の基準値、群4:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ5対群4の基準値、群5:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ6及び7及び8対群5の基準値)。
【0108】
【表5】
【0109】
次に、検証用としたオンスペック追加2検体(G,K)とオフスペックモデルについて、各細胞の23遺伝子の発現パターンと、群1から群5までの5つ基準発現パターンとのスピアマン相関係数を算出した。その結果、オンスペック追加2検体の群1の細胞は、他の群に対する基準値と比較して、群1の基準値に対して最も相関係数が高く、その値は0.9以上であった(図26のオンスペックG,K_ステージ1対群1の基準値)。群2〜5に関しても同様の結果であった(群2:図26のオンスペックK_ステージ2対群2の基準値、群3:図26のオンスペックG,K_ステージ3及び4対群3の基準値、群4:図26のオンスペックG,K _ステージ5対群4の基準値、群5:図26のオンスペックG,K_ステージ6及び7及び8対群5の基準値)。
【0110】
一方、オフスペックモデルの間葉系幹細胞B、脂肪分化細胞、2検体の線維芽細胞、HSV-I接種細胞については、いずれの群の基準値に対しても、相関係数が0.9未満であった(図26)。但し、間葉系幹細胞Aは間葉系幹細胞の基準値に対し、0.9以上であった。また、軟骨細胞については、骨芽細胞の基準値に対し、相関係数が0.9以上であった(図26)。
【0111】
(例2:ユークリッド距離関数を用いた判定)
実施例7に示した培養工程各群を規定できる32遺伝子(表4)から、代表的な23遺伝子(表5)を選抜した。オンスペック基準5検体(A,B,C,D,E)の群1に属する細胞について、遺伝子毎に発現量の平均値を算出し、その23パラメータを群1の中心座標と規定した。このような計算を群2から群5についても同様に行い、各群の中心座標を算出した。
【0112】
次に、検証用としたオンスペック基準2検体(G,K)と上記のオフスペックモデルについて、各細胞の23遺伝子の発現量を、各細胞の座標とし、群1から群5までの各中心座標からのユークリッド距離を算出した。その結果、群1の細胞は、群1の中心座標から近い距離に集まる傾向を示した。群2〜5に関しても同様の傾向を示した。例として、群3(間葉系幹細胞)および群5(骨芽細胞)の中心座標から各細胞までの距離を図27、図28に示す。図27に示すように、群3におけるオンスペック基準7検体(A,B,C,D,E,G,K,)のステージ3及び4の中心座標からのユークリッド距離は、3.4〜7.2の間で近くに集まり、他の群あるいはオフスペックモデルの中心座標からのユークリッド距離は、8.1〜31.6で遠くに離れていた。また、図28に示すように、群5におけるオンスペック基準7検体(A,B,C,D,E,G,K,)のステージ6及び7及び8の群3の中心座標からのユークリッド距離は、2.9〜8.0の間で近くに集まり、他の群あるいはオフスペックモデルの中心座標からのユークリッド距離は、9.7〜39.3で遠くに離れていた。
例1および例2に示すように、統計解析手法を用いた培養工程ステージ判別、品質管理が可能であることが示された。
【0113】
実施例13[multiplex PCR検出系による検証]
(multiplex PCR方法)
供試細胞よりRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて全RNAを抽出後、全RNA1μgを鋳型としてcDNAを合成した。合成手順については、Super Script II Reverse Transcriptase (Invitrogen社製)の添付資料に記載されているプロトコール(First-Strand cDNA Synthesis Using SuperScript II RT)に従った。なお、プライマーについては、Random Primer(6mer)(TaKaRa社製)を使用した。cDNAを合成した後、合成後のcDNA溶液を5倍に希釈した。この希釈液5μLを鋳型としてmultiplex PCRを行った。なお、培養工程各群を規定できる代表的な23遺伝子を、12遺伝子と11遺伝子の2組に分け(表6)、表に示すプライマー(表7)を用いてPCR反応を行った。2組のPCR反応液は、Distilled Water,Deionized,Sterile(和光純薬工業株式会社製)、dNTP Mixture (2.5mM each:TaKaRa社製)、10×PCR Buffer(Conteins 15mM MgCl2:Roche社製) 、MgCl2 Solution (25mM:Roche社製)、AmpliTaq GoldTM (Roche社製)、鋳型DNA、プライマーを表8に示すように混合し、調製した。PCR条件は表9に示した。2組の反応で得たPCR産物は、DNA 1000 Kit(Agilent社製)を用いて電気泳動し、2100 bioanalyzer(Agilent社製)を用いて検出した。泳動結果を、Agilent 2100 Bio Sizingソフトウェア(Agilent社製)で解析し、各遺伝子産物のモル濃度(nmol/L)を算出した。
【0114】
【表6】
【0115】
【表7】
【0116】
【表8】
【0117】
【表9】
【0118】
骨髄液から骨分化まで、正常に培養できたオンスペックモデル1検体(J)について、群1(骨髄液)、群3(間葉系幹細胞)、群5(骨芽細胞)の遺伝子発現データをmultiplex PCR検出系を用いて取得した。取得した23遺伝子のモル濃度の値を用い、各細胞を、ユークリッド距離に基づいた多次元尺度法によって2次元図にプロットした。この結果を図29左に示す。図中、アルファベットは検体を、数字はステージを示す。また、同じ検体の、リアルタイムPCRのΔCt値(40-Ct)を用い、同様にユークリッド距離に基づいた多次元尺度法によって2次元にプロットした結果を、図29右に示した。図中、アルファベットは検体を、数字はステージを示す。multiplex PCRのプロット図とリアルタイムPCRのプロット図を比較した結果、パターンが類似しており、群1と群3と群5の領域が明らかに離れていることを確認した。以上の結果から、multiplex PCR検出系を用いた培養ステージ判別、品質管理のが可能であることが示された。
【0119】
これらの検討により選抜したマーカー遺伝子について、遺伝子発現の特徴を表10および表11に示した。特異的な発現量により、骨髄液から骨分化までの培養工程における各群を規定できるような32遺伝子(表4)、隣り合う2群間で顕著な発現差を示す9遺伝子(表2)のうち、重複する3遺伝子を除く計38遺伝子は、各群における遺伝子マーカーとなり得る遺伝子であり、組み合わせて利用することもできるが、各群で固有の特徴を示す遺伝子は単独でもマーカー遺伝子として利用できることが示された。また、これらのマーカー遺伝子の発現量を定量、または半定量的な検出系で数値化したデータを統計解析的手法により評価することで、培養ステージや細胞の状態を判別できることを確認した。このことから、遺伝子発現量に基づいた細胞の規格化や品質管理検査が可能であると考えられる。
【0120】
【表10】
【0121】
【表11】
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】図1は、培養工程(ステージ)を示す。
【図2】図2は、培養工程(ステージ)の群分けを示す。
【図3】図3は、決定樹を示す。
【図4】図4は、群1とその他の細胞について、ヒトマトリックスメタロペプチダーゼ9の発現量(log2比)の比較を示す。
【図5】図5は、群2とその他の細胞について、ヒトインターフェロン−γ誘導タンパク30発現量(log2比)の比較を示す。
【図6】図6は、群3とその他の細胞について、ヒトラテキシンの発現量(log2比)の比較を示す。
【図7】図7は、群4とその他の細胞について、ヒトP311タンパク類似タンパクの発現量(log2比)の比較を示す。
【図8】図8は、群5とその他の細胞について、ヒトフリッツルド類似タンパクの発現量(log2比)の比較を示す。
【図9】図9は、オンスペック基準検体(A,B,C,D,E)、オンスペックモデル検体(F,G,H,I,J,K)、脂肪分化細胞、線維芽細胞、ウイルスを接種した間葉系幹細胞における(42遺伝子の発現量(log2比)による階層型クラスタリング解析結果を示す。
【図10】図10は、マーカー候補遺伝子(7遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図11】図11は、マーカー候補遺伝子(7遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図12】図12は、マーカー候補遺伝子(7遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図13】図13は、マーカー候補遺伝子(7遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図14】図14は、マーカー候補遺伝子(7遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図15】図15は、マーカー候補遺伝子(3遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図16】図16は、群1とその他の細胞について、発現量(40-Ct値)の比較を示す。
【図17】図17は、群2とその他の細胞について、発現量(40-Ct値)の比較を示す。
【図18】図18は、群3とその他の細胞について、発現量(40-Ct値)の比較を示す。
【図19】図19は、群4とその他の細胞について、発現量(40-Ct値)の比較を示す。
【図20】図20は、群5とその他の細胞について、発現量(40-Ct値)の比較を示す。
【図21】図21は、オンスペック基準検体(A,B,C,D,E)、脂肪分化細胞、線維芽細胞、ウイルスを接種した間葉系幹細胞における群3を規定できる3遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いた場合の、多次元尺度法による2次元プロット解析結果を示す。
【図22】図22は、オンスペック基準検体(A,B,C,D,E)、脂肪分化細胞、線維芽細胞、ウイルスを接種した間葉系幹細胞における群5を規定できる3遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いた場合の、多次元尺度法による2次元プロット解析結果を示す。
【図23】図23は、オンスペック基準検体(A,B,C,D,E)、オンスペック検証検体(F,G,H,I,J,K)、脂肪分化細胞、軟骨分化細胞、線維芽細胞、ウイルスを接種した間葉系幹細胞における38遺伝子の発現量(40-Ct値)による階層型クラスタリング解析結果を示す。
【図24】図24は、オンスペック検体(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K)、間葉系幹細胞A,Bにおける38遺伝子の発現量(40-Ct値)による階層型クラスタリング解析結果を示す。
【図25】図25は、オンスペック検体(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K)、間葉系幹細胞A,B における38遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いた場合の、多次元尺度法による2次元プロット解析結果を示す。
【図26】図26は、オンスペック検体(A,B,C,D,E,F,G,K)、オフスペックモデル検体における、23遺伝子の発現量(40-Ct値)のパターンを用いて算出した相関係数を示す。
【図27】図27は、オンスペック検体(A,B,C,D,E,F,G,K)、オフスペックモデル検体における、23遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いて算出した、群3(間葉系幹細胞)の中心座標から各細胞までのユークリッド距離を示す。
【図28】図28は、オンスペック検体(A,B,C,D,E,F,G,K)、オフスペックモデル検体における、23遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いて算出した、群5(骨芽細胞)の中心座標から各細胞までのユークリッド距離を示す。
【図29】図29は、オンスペック検体Jにおける群1(骨髄細胞)及び群3(間葉系幹細胞)及び群5(骨芽細胞)の、23遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いた多次元尺度法による2次元プロット解析結果について、multiplex PCRとリアルタイムPCRの比較を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる工程中の各段階における細胞を検出するための遺伝子マーカー、並びに該遺伝子マーカーを用いて上記各段階の細胞を検出・分離する方法に関する。本発明はさらに、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる培養工程をモニタリングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は未分化な細胞で、筋肉、骨、脂肪等、種類の異なるさまざまな細胞に分化できる多分化能を持ち、かつ自己複製の能力を持つ細胞である。間葉系幹細胞の代表的なものとしては骨髄や臍帯血の中にわずかに存在する細胞であるが、近年では脂肪組織や口腔骨膜からも間葉系幹細胞を分離する方法が報告されている。間葉系幹細胞はいろいろなホルモンやサイトカイン(小さな分泌性タンパク質)の添加によって、様々な細胞に分化することから再生医療、細胞医療技術で用いる移植用細胞としては最も有望で、既に骨、軟骨、心筋の再生の他、免疫抑制治療の臨床応用が始められつつある。
【0003】
例えば、Prochymalは、白血病治療時の造血幹細胞移植前に間葉系幹細胞を投与することにより副作用である移植片対宿主病(Graft vs Host Disease)を抑制する療法で、フェーズ1臨床試験を終了し、2005年にフェーズ2に入り、2007年後半の上市を予定している。また、Provacelは、心筋梗塞による心筋の損傷を間葉系幹細胞により修復する療法で、2005年第1四半期にフェーズ1に入り、2006年中期にフェーズ2/3に入り、2009年の上市を予定している。さらに、Chondrogenは、関節の半月板損傷を間葉系幹細胞により修復する療法で、臨床試験入りをFDAに申請中である。
【0004】
間葉系幹細胞の臨床応用を再生医療として広く実用化させるには、十分な量の間葉系幹細胞を確保することが重要であり、そのためには材料となる骨髄や脂肪細胞などにわずかに含まれる間葉系幹細胞を効率よく分離・精製すること、またそれらを培養して多分化能を保有したままの間葉系幹細胞を増殖させる必要がある。
【0005】
しかし、ヒト骨髄ストローマ細胞の中でも比較的小さい細胞が多分化能を示すことが知られているが実際には間葉系幹細胞の由来や性質が十分に分かっているわけではない。そこで間葉系幹細胞を効率よく分離、精製するために、間葉系幹細胞を特異的に識別するマーカーの探索が行なわれている。
【0006】
これまでに間葉系幹細胞のマーカーとしては、特許文献1及び2、及び非特許文献1に報告がある。しかしこれらの報告は全て、間葉系幹細胞と線維芽細胞の分離のみを目的としたものである。線維芽細胞は、骨髄から間葉系幹細胞を分離、精製する時に混在し、培養中も間葉系幹細胞と同様に増殖する上、形態的にも間葉系幹細胞と区別が付かないことから、これらを分離するマーカーを選抜している。マーカーの抽出は間葉系幹細胞と線維芽細胞との発現プロファイルの違いから決定している。
【0007】
その他、間葉系幹細胞へ分化能を有する前駆間葉系幹細胞を識別するマーカーについての報告もある(特許文献3)。すなわち、胚性幹細胞をレチノイン酸存在下で培養すると、前駆間葉系幹細胞が分化の早期段階で出現し、この細胞集団は、神経外胚葉マーカーであるSox1を発現していたことから、インビトロにおいて胚性幹細胞から分化させた前駆間葉系幹細胞を選抜するのにSox1をマーカーとして用いる方法である。
【0008】
間葉系幹細胞の収量向上のために検討されているものとしては、分離精製のための装置・機材などの開発・利用、分離ソースの工夫、生体内での間葉系幹細胞の富化として合成化合物の生体への投与、蛋白性分子などの生体への投与などがある。また、培養による間葉系幹細胞の増殖については、培地成分・添加物の工夫により解決が試されている。
【0009】
また、増殖した間葉系幹細胞を再生医療に実用化する場合、細胞の品質を保証することは安全性確保の面から重要である。培養工程では細胞の突然変異や癌化、目的としない細胞への分化、細菌、ウイルスによる汚染などが生じる可能性があり、細胞の状態を管理することは必須である。生物細胞を医薬品として申請する場合、厚生労働省による指針の中ではマイコプラズマやウイルスの無菌試験が項目の一つとして挙げられており、培養法や核酸配列を利用したPCR法による検出が既存法として知られている。また、癌化を予測する方法としてはhTERTやc-myc等の癌関連遺伝子の発現量を測定する方法がある。しかし、既存の方法でこれらの項目を全て満たす為には多種多様な検査を行う必要があり現実的には困難である。再生医療を商業的に実用化するには細胞やスキャフォールドの調製技術といった基本技術はもとより、細胞の品質管理に関する簡易で安価な検査システムの構築が必要である。
【0010】
さらに、これまでに培養過程における発現プロファイルの変化を調べた報告としては、例えば、特許文献4(脂肪細胞への分化誘導する方法並びに脂肪細胞への分化を制御する化合物およびそのスクリーニング方法)、非特許文献2(マウスのMSCセルラインにBMP-2を発現するようrhBMP2遺伝子を導入したC9細胞を用いてBMP2の発現を誘導することで骨芽細胞に分化する過程における遺伝子発現プロファイルの変化を調べている)、非特許文献3(前筋芽細胞のC2C12はBMP-2に依存して骨芽細胞に分化するが、その過程においてBMP-2処理から24時間以内の7箇所でマイクロアレイデータを解析し、骨分化における遺伝子発現変化を調べている。機能別に分類した遺伝子を羅列した記載がある。)などがある。
【0011】
【非特許文献1】Molecular marker distinguish bone marrow mesenchymal stem cells from fibroblasts, Biochem. Biophys. Res Commun. 332,297-303, 2005
【非特許文献2】DNA microarray analysis using statistical methods and clustering: three case studies Osnat Ravid-Amir M.Sc. thesis submitted to the Scientific Council of the weizmann Institute of Science Prof. Eytan Domany (Research conducted under the supervision February(2003)
【非特許文献3】J. Cellular Biochemistry 89: 401-426 2003
【特許文献1】特開2004-290189号公報
【特許文献2】特開2005-27579号公報
【特許文献3】特開2005-304443号公報
【特許文献4】特開2000-217576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる工程中の各段階における細胞、特に間葉系幹細胞を検出及び/又は識別するのに有用な遺伝子マーカー;該遺伝子マーカーを検出するためのプローブ又はプライマー;骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる工程中の各段階における細胞、特に間葉系幹細胞を検出及び/又は識別する方法、並びに骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる培養工程をモニタリングする方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、骨髄液から間葉系幹細胞、更には骨芽細胞に分化させる培養工程において、細胞の状態から培養工程を5つの群に分け、更にその中を細分して全工程8ポイントでの発現プロファイルを3万遺伝子について得た。それらを5検体に対して行い、全データを精緻に調べることにより、間葉系幹細胞で特徴的に発現する遺伝子群、骨芽細胞で特徴的に発現する遺伝子群などを選抜した。これらの遺伝子のうち、各群に特徴的に発現する遺伝子を用いることにより、各群に含まれる細胞すなわち間葉系幹細胞や骨芽細胞などを培養工程に含まれる他の群の細胞のみならず、これらの培養工程に含まれない線維芽細胞などから識別分離することが可能となった。更にはそれぞれの群で特徴的な発現をする遺伝子を組み合わせることにより、培養工程をモニタリングすることが可能になった。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0014】
すなわち本発明によれば、以下の(1)から(13)に記載の発明が提供される。
(1) 以下の(i)から(v)の何れかに記載の細胞検出用の遺伝子マーカー。
(i)配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(ii)配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iii)配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iv)配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽前駆細胞を検出するための遺伝子マーカー;及び
(v)配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(vi)配列表の配列番号37又は7に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞と骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(vii)配列表の配列番号38又は39に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞と間葉系幹細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(viii)配列表の配列番号40又は21に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる間葉系幹細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(ix)配列表の配列番号28、41又は42に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる骨芽細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
【0015】
(2) (1)に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有する、(1)に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーを検出するためのプローブ。
(3) (1)に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーの塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなる、(2)に記載のプローブ。
【0016】
(4) (1)に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーをPCR法により特異的に増幅することができるセンスプライマーとアンチセンスプライマーの組み合わせからなる、(1)に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーを検出するためのプライマー。
【0017】
(5) (2)又は(3)に記載のプローブの少なくとも1つ以上を支持体に固定化させることにより得られる、細胞検出用のマーカー遺伝子を検出するためのマイクロアレイ又はDNAチップ。
【0018】
(6) 被検細胞中の配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨髄細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨髄細胞を検出及び/又は分離する方法。
(7) 被検細胞中の配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出及び/又は分離する方法。
【0019】
(8) 被検細胞中の配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、間葉系幹細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、間葉系幹細胞を検出及び/又は分離する方法。
(9) 被検細胞中の配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨芽前駆細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨芽前駆細胞を検出及び/又は分離する方法。
【0020】
(10) 配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨芽細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨芽細胞を検出及び/又は分離する方法。
(11) 遺伝子マーカーの発現量の検出を、(2)又は(3)に記載のプローブ、(4)に記載のプライマー、あるいは(5)に記載のマイクロアレイ又はDNAチップを用いて行う、(6)から(10)の何れかに記載の方法。
【0021】
(12) 骨髄細胞を培養して目的細胞に分化させる工程において、下記の(a)から(i)に記載の遺伝子から選択される何れか一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、下記の(A)から(E)の何れか一以上の細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、下記の(A)から(E)の何れか一以上の細胞へ分化させる培養工程をモニタリングする方法。
(a)骨髄細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子;(b)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(c)間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(d)骨芽前駆細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(e)骨芽細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(f)骨髄細胞の培養と、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号37又は7に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(g)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の培養と、間葉系幹細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号38又は39に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(h)間葉系幹細胞の培養と、骨芽前駆細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号40又は21に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(i)骨芽前駆細胞の培養と、骨芽細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号28、41又は42に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(A)骨髄細胞
(B)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞
(C)間葉系幹細胞
(D)骨芽前駆細胞
(E)骨芽細胞
【0022】
(13) 遺伝子マーカーの発現量の検出を、(2)又は(3)に記載のプローブ、(4)に記載のプライマー、あるいは(5)に記載のマイクロアレイ又はDNAチップを用いて行う、(12)に記載の方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の遺伝子マーカーを用いることにより、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる培養工程中の各段階における細胞を検出・分離することが可能になった。また、本発明の遺伝子マーカーを用いることにより、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる培養工程中の各段階の細胞をモニタリングすることができる。すなわち、培養途中でウィルスなどに細胞が感染した場合なども通常の培養工程に含まれる細胞と識別することができる。また、仮に同培養工程において成長の遅滞があった場合なども本来あるべき工程の細胞と区別することができるため、培養工程における品質管理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明は、以下の(i)から(ix)の何れかに記載の細胞検出又は分離、あるいはモニタリング用の遺伝子マーカーに関するものである。
(i)配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(ii)配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iii)配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iv)配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽前駆細胞を検出するための遺伝子マーカー;及び
(v)配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(vi)配列表の配列番号37又は7に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞と骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(vii)配列表の配列番号38又は39に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞と間葉系幹細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(viii)配列表の配列番号40又は21に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる間葉系幹細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(ix)配列表の配列番号28、41又は42に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる骨芽細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
【0025】
骨髄とは、骨の内腔を満たしている柔らかい組織であり、造血器官である。骨髄液とは骨髄に存在するもので、骨髄から採取することができる。本明細書において、「骨髄細胞」とは、骨髄液中に存在する細胞のことを言う。骨髄細胞には、赤血球、顆粒球、巨核球、リンパ球、脂肪細胞等のほか、少量の間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞などが含まれている。骨髄細胞は、例えば、ヒト腸骨、長管骨、もしくはその他の骨髄細胞を採取できる骨から採取することができる。
【0026】
「間葉系幹細胞」とは、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、筋芽細胞、線維芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞等への多分化能を持つ骨髄由来幹細胞である。「骨芽前駆細胞」とは、間葉系幹細胞に骨分化を誘導した後の細胞であって、未だ成熟骨芽細胞のマーカーを発現していない細胞である。「骨芽細胞」とは、ALP活性、オステオカルシンなどの骨芽細胞のマーカーを少なくとも一つ以上発現する細胞のことである。
【0027】
本発明においては、骨髄から骨髄液を採取し、骨髄液中の骨髄細胞を用いる。上記の通り、骨髄液には、赤血球、顆粒球、巨核球、リンパ球、脂肪細胞等のほか、間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞などの各種の骨髄細胞が含まれている。すなわち、本願明細書において、「骨髄細胞」とは、骨髄から得られる各種の細胞からなる細胞群を意味する。この骨髄細胞を後述する培養方法に供することにより、細胞群に含まれている間葉系幹細胞のみを高度に選択的に培養し、ほぼ純粋に間葉系幹細胞のみを含む細胞群を取得することができる。さらに、この間葉系幹細胞を、分化誘導により骨芽細胞等に分化させ、取得することができる。本発明の方法では、これらの工程を確実に管理することができる。
【0028】
上記の(iii)配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカーにより、後述する方法で検出、分離される間葉系幹細胞においては、細胞集団の中に、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の間葉系幹細胞が含まれている。
【0029】
配列表の配列番号1から36に記載の塩基配列を有する遺伝子は、それぞれ下記の遺伝子である。
配列番号1:Homo sapiens CREBBP/EP300 inhibitor 1 (CRI1), mRNA
配列番号2:Homo sapiens peroxiredoxin 1 (PRDX1), transcript variant 1, mRNA
配列番号3:Homo sapiens diazepam binding inhibitor (GABA receptor modulator, acyl-Coenzyme A binding protein) (DBI), mRNA
配列番号4:Homo sapiens cyclin L1 (CCNL1), mRNA
配列番号5:Homo sapiens annexin A2 (ANXA2), transcript variant 3, mRNA
配列番号6:Homo sapiens arginase, liver (ARG1), mRNA
配列番号7:Homo sapiens matrix metallopeptidase 9 (gelatinase B, 92kDa gelatinase, 92kDa type IV collagenase) (MMP9), mRNA
配列番号8:Homo sapiens peroxiredoxin 4 (PRDX4), mRNA
配列番号9:Homo sapiens ATP synthase, H+ transporting, mitochondrial F0 complex, subunit d (ATP5H), nuclear gene encoding mitochondrial protein, transcript variant 1, mRNA
配列番号10:Homo sapiens NADH dehydrogenase (ubiquinone) 1 beta subcomplex, 3,
12kDa (NDUFB3), mRNA
配列番号11:Homo sapiens microsomal glutathione S-transferase 3 (MGST3), mRNA
配列番号12:Homo sapiens pIFI27-like protein mRNA, partial cds
配列番号13:Homo sapiens transgelin (TAGLN), transcript variant 2, mRNA
配列番号14:Homo sapiens CD163 molecule (CD163), transcript variant 1, mRNA
配列番号15:Homo sapiens allograft inflammatory factor 1 (AIF1), transcript variant 2, mRNA
配列番号16:Homo sapiens legumain (LGMN), transcript variant 1, mRNA
配列番号17:Homo sapiens cathepsin C (CTSC), transcript variant 1, mRNA
配列番号18:Homo sapiens CD14 molecule (CD14), transcript variant 1, mRNA
配列番号19:Homo sapiens interferon, gamma-inducible protein 30 (IFI30), mRNA
配列番号20:Homo sapiens insulin receptor substrate 2 (IRS2), mRNA
配列番号21:Homo sapiens latexin (LXN), mRNA
配列番号22:Homo sapiens TSC22 domain family, member 1 (TSC22D1), transcript variant 2, mRNA
配列番号23:Homo sapiens secreted protein, acidic, cysteine-rich (osteonectin)
(SPARC), mRNA
配列番号24:Homo sapiens connective tissue growth factor (CTGF), mRNA
配列番号25:Homo sapiens metallothionein 1H (MT1H), mRNA
配列番号26:Homo sapiens solute carrier family 40 (iron-regulated transporter), member 1 (SLC40A1), mRNA配列番号27:Homo sapiens similar to P311 protein (H. sapiens) (LOC157630), mRNA
配列番号28:Homo sapiens collagen, type XI, alpha 1 (COL11A1), transcript variant A, mRNA
配列番号29:Homo sapiens major histocompatibility complex, class II, DR alpha (HLA-DRA), mRNA
配列番号30:Homo sapiens fibulin 5 (FBLN5), mRNA
配列番号31:Homo sapiens frizzled-related protein (FRZB), mRNA
配列番号32:HLA-DP (DPB1*02012)=major histocompatibility complex class II antigen beta chain [human, LCL 45.1, mutant 45.EM19, mRNA Partial Mutant, 171 nt]
配列番号33:Homo sapiens nuclear protein 1 (NUPR1), transcript variant 2, mRNA
配列番号34:Homo sapiens high-mobility group box 2, mRNA (cDNA clone MGC:2393 IMAGE:2963045), complete cds
配列番号35:Homo sapiens heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A1 (HNRPA1), transcript variant 1, mRNA
配列番号36:Homo sapiens cDNA clone IMAGE:3680553
【0030】
配列表の配列番号37から42に記載の塩基配列を有する遺伝子は、それぞれ下記の遺伝子である。
配列番号37:Homo sapiens cathepsin B (CTSB), transcript variant 1, mRNA
配列番号38:Homo sapiens collagen, type I, alpha 2 (COL1A2), mRNA
配列番号39:Homo sapiens interleukin 8 (IL8), mRNA
配列番号40:Homo sapiens pentraxin-related gene, rapidly induced by IL-1 beta (PTX3), mRNA
配列番号41:Homo sapiens apolipoprotein D (APOD), mRNA
配列番号42:Homo sapiens transforming growth factor, beta-induced, 68kDa (TGFBI), mRNA
【0031】
本発明の遺伝子マーカーは、上記骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化の各段階における細胞中での発現量を公知の方法、例えばマイクロアレイ法等を用いて測定し、各段階における細胞発現量を比較して、特定の分化段階における細胞中の発現量が他の全ての分化段階における細胞中の発現量と区別ができるか、あるいは、それの前後の分化段階における細胞中の発現量と区別ができることを指標として選択される。 本発明の遺伝子マーカーは、骨髄細胞から間葉系細胞を経て骨芽細胞へと分化する各段階の細胞の培養工程をモニタリングすることにも用いられるため、正常に分化していない細胞中の発現量と比較した場合にも、区別がつけられるものが好ましい。
【0032】
遺伝子マーカーの選択を行う際に用いる骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化の各段階における細胞は、オンスペック細胞として、公知の方法で骨髄細胞から培養、分化誘導しながら、顕微鏡による形態変化や増殖の観察や、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化過程における骨基質計測等で確認して調製することができる。
【0033】
また、正常に分化していない細胞(以下、「オフスペック細胞」と称することがある)としては、各培養工程において培養条件を変更して培養したもの、具体的には継代数や培養液組成を変えて培養した細胞、または正常に培養されなかったもの、例えば、培養過程において、脂肪細胞・軟骨細胞といった、骨以外に分化した細胞、細菌・ウイルスなどが混入した細胞、がん化した細胞、異なる系統の細胞、例えば、線維芽細胞等を用いることができる。
【0034】
本発明においては、被検細胞中の上記(i)から(ix)に記載した遺伝子のうち、何れか一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出することによって、骨髄細胞、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞、間葉系幹細胞、骨芽前駆細胞、又は骨芽細胞を検出及び/又は分離することができる。さらには、被検細胞が、骨髄細胞から間葉系幹細胞を経て骨芽細胞へと分化させる培養工程をモニタリングすることができる。
【0035】
本発明において、骨髄細胞、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞、間葉系幹細胞、骨芽前駆細胞、又は骨芽細胞(以下、「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」と略記する場合がある)を検出及び/又は分離するため、又は分化培養工程のモニタリングのために、被検細胞中の本発明のマーカー遺伝子の発現量を検出する方法としては、当業者に公知の方法を用いることができる。例えば、mRNAレベルで遺伝子の発現量を検出するためにはノーザンブロッティング法を用いることができる。この際、本発明の遺伝子マーカーのDNA配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有するプローブを用いることができる。該プローブを用いて、「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」における遺伝子マーカーの発現量を検出するには、公知の方法を用いて適宜実施することができる。例えば、配列表に示した遺伝子マーカーのDNA配列から適当な長さのDNAプローブを作製し、放射標識又は蛍光標識等で標識しておき、これを被検試料とハイブリダイズして、その標識量を測定する方法等が挙げられる。該DNAプローブとしては、配列表に示した本発明の遺伝子マーカーの塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなるプローブを用いることができる。また、該プローブは、少なくとも1つ以上のプローブを支持体上に固定化させることによって、マイクロアレイ又はDNAチップとして用いることもできる。
【0036】
上記したDNAプローブの作製において、本発明の塩基配列において、遺伝子マーカーとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする条件としては、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、及び1×SSC(0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)、0.1%のSDS(Sodium dodecyl sulfate)を含む緩衝液による42℃での洗浄からなる条件を挙げることができ、さらに好ましくは65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄からなる条件を挙げることができる。
【0037】
マーカー遺伝子は、定量的又は半定量的PCRを用いてその発現量を検出することもできる。該PCRとしてはRT−PCR(逆転写PCR)を用いることができる。該PCRを行うに際しては、本発明の遺伝子マーカーを増幅するためのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーからなるプライマーを用いることができる。また、該PCRを行う反応液に、一遺伝子マーカーに対するプライマーのみを入れ、遺伝子マーカー毎に該PCRを行っても良いし、該PCRを行う反応液に、複数の遺伝子マーカーに対するプライマーを同時に入れ、複数の遺伝子マーカーに対し一度に該PCRを行っても良い。
【0038】
本発明の細胞検出用マーカー遺伝子を検出するためのプローブ及びプライマーの具体例としては、表4に記載のものを挙げることができるが、これらに限定されるわけではなく、当業者であれば、配列番号1から42に記載したマーカー遺伝子の塩基配列に基づいて、目的とするマーカー遺伝子を検出できるプローブ及びプライマーの塩基配列を適宜設定することができる。
【0039】
また、本発明においては、マーカー遺伝子の発現量の検出を、配列表の配列番号1から42の何れかの塩基配列がコードするタンパク質に対する抗体を用いて、タンパク質レベルで検出することもできる。上記の抗体としては、モノクローナル抗体でもよいし、ポリクローナル抗体でもよい。上記した抗体は、配列表の配列番号1から42の何れかの塩基配列がコードするタンパク質又はその部分ペプチドを抗原として用いて、常法により作製することができる。上記した抗体を用いて、被検細胞における遺伝子マーカーの発現を検出するためには、例えば、例えばRIA法、ELISA法、蛍光抗体法等などの公知の免疫学的測定法を用いることができる。
【0040】
上記抗体を用いて、被検細胞における本発明の遺伝子マーカーの発現量を検出し、後述する方法により間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」分離する際には、公知の方法により間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」を標識化し、その標識の強さ等を指標として分離することができる。該標識化方法としては、例えば、蛍光抗体法を挙げることができる。蛍光抗体法により間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」中に発現する遺伝子マーカーがコードするタンパク質を標識化するには、本発明の遺伝子マーカーがコードするタンパク質に特異的に結合する抗体を蛍光標識し、これを、遺伝子マーカーがコードするタンパク質を発現している間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」に結合させて、該細胞を標識化する(直接蛍光抗体法)か、或いは、遺伝子マーカーがコードするタンパク質を発現している間葉系幹細胞に、未標識の特異抗体を結合させた後に、標識化した二次抗体(抗免疫グロブリン抗体)を結合させて間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」中の遺伝子マーカーがコードするタンパク質を標識化し(間接蛍光抗体法)、該標識化された細胞を、その標識量を指標として分離、採取すればよい。
【0041】
本発明においては、上記したプローブや抗体を用いて、被検細胞における本発明の遺伝子マーカーの発現量を検出し、これにより細胞の状態を識別して、骨髄細胞、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞、間葉系幹細胞、骨芽前駆細胞、又は骨芽細胞を分離し、取得することができる。
【0042】
具体的な「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」の検出のために、該細胞を識別する方法としては、上記のように被検細胞中の一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、これが、「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較して、これと同程度であるかを指標として行う。遺伝子マーカーの発現量の比較は、1つの遺伝子マーカーの発現量の絶対値でもよいし、2つ以上の遺伝子マーカーの発現量の比でもよい。
【0043】
「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」中の同じ遺伝子マーカーの発現量は、後述する方法で、特定の細胞であることを確認した細胞(以下、「オンスペック細胞」と称することがある)中の同じ遺伝子マーカーの発現量(以下、「オンスペック細胞の基準値」と称することがある)として予め取得しておくことが好ましい。
【0044】
基準値を取得する場合、オンスペック細胞は1つの培養系でもよいが、複数の培養系から取得して用いることが好ましく、それぞれの遺伝子マーカーの発現量を統計的に処理して被検細胞中のマーカー遺伝子の発現量と比較することが好ましい。これらの解析は、R言語を使用する統計解析ソフトRやS言語を使用するS−PLUS、SPSS、SAS、StatViewなど公知の方法を使用して簡便に行うことができる。
【0045】
比較を行う遺伝子マーカーは、検出及び/又は分離しようとする骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞のいずれかの分化段階において、他の分化段階とは異なる発現量を示すことがわかっているものを用いる。具体的には、上記(i)〜(ix)に記載のものが挙げられ、これらのうち、1つ以上を用いるか、又は複数の遺伝子マーカーについて組み合わせて解析する多変量解析のいずれも用いることができる。また、ある分化段階を判定するために、該分化段階のみを測定対象とする場合は、上記(i)〜(v)に記載のものが好ましく、一方で、該分化段階及び該分化段階の前及び/又は後の分化段階を測定対象とする場合には、上記(i)〜(v)に記載のものに加えて、隣り合う2工程間で顕著な発現量差を示す上記(vi)〜(ix)に記載のものも好ましい。
【0046】
1つの遺伝子マーカーを用いる場合、具体的には、例えば、特定のオンスペック細胞を複数系用いて、該細胞中のマーカー遺伝子の発現量の平均値±2XSDあるいは±3XSDをオンスペック細胞の基準値と定め、被験細胞中の該マーカー遺伝子の発現量がこの基準値に入ることを指標として判定する方法が用いられる。
【0047】
また、特定のオンスペック細胞を複数系用いて、該細胞中のマーカー遺伝子の発現量についてROC曲線を引き、これをオンスペック細胞のカットオフ値を定め、これを基準値として被験細胞中の該マーカー遺伝子の発現量がこれに含まれるのかどうかを指標として判定することもできる。また、クラスター分析などを用いることもできる。
【0048】
一方、2つ以上の遺伝子マーカーについて解析する場合では、例えば、特定のオンスペック細胞中の該マーカーの発現量について、上記と同様の方法で基準値、あるいはその範囲を定め、被験細胞中の該マーカーの発現量がこの基準となる範囲に含まれるかどうかを判断することができる。具体的な解析方法としては、予測(重回帰分析、数量化I類)、判別(判別分析、数量化II類)、機械学習(最近傍法、決定木、support vector machine、neural network)、相関係数や距離関数を用いた類似度解析などを用いる。
【0049】
また、別の例としては、2つ以上の遺伝子マーカーの発現量に基づいて、オンスペック細胞の基準値群と、該集団に被検物質中の該マーカーの発現量値群を集団として比較して判定することができる。具体的な解析方法としては、クラスター分析、多次元尺度法、主成分分析、因子分析、数量化III類、数量化IV類、自己組織化マップ、ネットワークの推定(ブーリアンネットワーク、ベイジアンネットワーク)などを用いる。
【0050】
さらに詳細に説明すると、例えば、スピアマン相関係数を使用した判定法では、オンスペック細胞の基準値に対して、相関係数値が、0.6以上、好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上であった時に、被検細胞が該特定の分化段階の細胞であると判定される。
【0051】
また、階層型クラスタ解析では、オンスペック細胞の基準値群(クラスター)に、被検細胞の発現量値が入れば、該特定の分化段階の細胞であると判定され、異なるクラスターを形成すれば、該分化段階の細胞ではないと判定できる。
【0052】
また、ユークリッド距離に基づいた多次元尺度法では、オンスペック細胞の基準値をプロットした同じ領域に、披検細胞の発現量値がプロットされた場合には、該特定の分化段階の細胞であると判定され、離れた領域にプロットされた場合には、該分化段階の細胞ではないと判定できる。
【0053】
かくして、骨髄細胞から骨芽細胞までのいずれかの細胞と判定された細胞は、これを公知の方法で分離することができる。
【0054】
本発明では、上記遺伝子マーカーを用いて骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞の培養工程をモニタリング(以下、「モニタリング」と称することがある)することもできる。モニタリングするとは、上記の方法で各分化段階の細胞を検出することを手段とし、各培養工程にある細胞が、オンスペック細胞であるかどうかを判定し、培養工程における品質管理を目的とするものである。
【0055】
モニタリングする各培養工程とは、(A)骨髄細胞の培養、(B)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の培養、(C)間葉系幹細胞の培養、(D)骨芽前駆細胞の培養、及び(E)骨芽細胞の培養工程である。
【0056】
モニタリングのための、遺伝子マーカーの発現量の検出は、各培養工程においてその都度行ってもよいし、複数の工程にまたがって行ってもよい。また、予定している培養工程が全て終了したあと、各培養工程の全て、あるいは一部に対して行ってもよい。
【0057】
各培養工程における遺伝子マーカーの発現量の検出、オンスペック細胞の基準値との比較および判定は、測定したい培養工程の細胞を一部取得して被検細胞とし、上記の方法で行うことができる。
【0058】
モニタリングを行う培養工程の組み合わせを適宜決定し、上記工程(A)から(E)の何れか一以上の培養工程を目的に応じて非常に簡便にモニタリングすることができる。例えば、骨髄細胞から間葉系幹細胞を培養する場合(上記工程(A)から(C)までに相当)には、上記(a)、(b)、(c)、(f)及び(g)に記載の遺伝子から選択される一以上の遺伝子を用いてモニタリングを行えばよい。好ましくは、(a)、(b)、(c)に記載の遺伝子マーカーから選択される何れか一以上の遺伝子マーカーを用い、更に好ましくは、(a)、(b)、(c)に記載の遺伝子マーカーを、工程毎に何れか一つ以上を選択してモニタリングを行えば良い。
【0059】
また、間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化誘導培養を行う場合(上記工程(C)から(E)までに相当)には、上記(c)、(d)、(e)、(h)及び(i)に記載の遺伝子マーカーから選択される何れか一以上の遺伝子を用いてモニタリングを行えばよい。好ましくは、(c)、(d)、(e)に記載の遺伝子マーカーから選択される何れか一以上の遺伝子マーカーを用い、更に好ましくは、(c)、(d)、(e)に記載の遺伝子マーカーを、工程毎に何れか一つ以上を選択して用いればよい。
【0060】
本発明の遺伝子マーカーを検出するためのプローブ、上記プローブを固定したマイクロアレイ又はDNAチップ、本発明の遺伝子マーカーを増幅するためのプライマー、及び本発明の遺伝子マーカーがコードするタンパク質に対する抗体は、それらを装備した間葉系幹細胞などの「骨髄細胞から骨芽細胞までの細胞」の識別用キットとして製品化しておくことができる。
【0061】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
実施例1[材料調製]
(培養試薬の調製)
骨髄液から間葉系幹細胞の培養液(以下、「間葉系幹細胞培養液」)には、Dulbecco's Modified Eagle Medium(Invitrogen社製)に10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加し、最終濃度50μg/mLのビタミンC及び最終濃度10ng/mLのbFGFを添加した培地を調製した。
【0063】
骨芽細胞への分化誘導培地(以下、骨芽分化誘導培養液)には、Dulbecco's Modified Eagle Medium(Invitrogen社製)に10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加し、最終濃度50μg/mLのビタミンC、最終濃度100nMのデキサメタゾン及び最終濃度10mMのβ-グリセロリン酸を添加した培地を調製した。
【0064】
軟骨細胞への分化誘導培地(以下、「軟骨分化誘導培養液」)には、Dulbecco's Modified Eagle Medium(Invitrogen社製)に10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加し、最終濃度50μg/mLのビタミンC、最終濃度100nMのデキサメタゾン、最終濃度10ng/mLのTGFβ3及びITSを添加した培地を調製した。
【0065】
脂肪細胞への分化誘導培地(以下、「脂肪分化誘導培養液」)には、Dulbecco's Modified Eagle Medium(Invitrogen社製)に10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加し、最終濃度1μMのデキサメタゾン、最終濃度10μg/mLのインシュリン、最終濃度0.2μMのインドメタシン及び最終濃度0.5mMのIBMX(3-isobuthyl-1-methyl xanthine:シグマ社製)を添加した培地を調製した。
【0066】
培養液の条件検討のために用いた間葉系幹細胞の培養液(以下、「間葉系幹細胞培養液 (条件検討用)」)は、Dulbecco's Modified Eagle Medium Nutrient Mixture F-12(Invitrogen社製)に10%ウシ胎児血清と抗生物質を添加して調製した。
【0067】
(細胞培養)
ヒト由来間葉系幹細胞(human mesenchymal stem cell)の増殖培養には、間葉系幹細胞培養液を使用した。ヒト由来間葉系幹細胞の骨分化培養には骨芽分化誘導培養液を、軟骨分化培養には軟骨分化誘導培養液を、脂肪分化培養には脂肪分化誘導培養液を使用した。ヒト線維芽細胞(human fibroblast)の増殖培養には、線維芽細胞培地キット-2 (2%FBS)(Cambrex社製)、もしくは間葉系幹細胞培養液を使用した。また、これらの細胞は37℃、5%炭酸ガス濃度下で培養した。
【0068】
(培養工程)
骨髄液から間葉系幹細胞を分離した後、増殖培養を経て、骨芽細胞・軟骨細胞・脂肪細胞に分化させるまでの一連の培養操作手順について、基本的なプロトコールを以下に示した。
【0069】
骨髄液からの間葉系幹細胞増殖培養:1日目に、骨髄液を間葉系幹細胞培養液に懸濁し、フラスコに播種した。4日目に培養液の70%を交換し、その後は3~4日毎に全量培地交換をした。コンフルエントになったら細胞を継代し、この細胞が再びコンフルエントになったら回収し、分化誘導に使用した。
骨芽細胞分化誘導:回収した細胞を、骨芽分化誘導培地に懸濁、播種した。3~4日毎に全量培地交換を行い、14日間分化培養を行った。
軟骨細胞分化誘導:回収した細胞を、間葉系幹細胞培養液に懸濁、播種した。播種翌日に、軟骨分化誘導培養液に交換し、3~4日毎に全量培地交換をし、21日間分化培養を行った。
脂肪細胞分化誘導:回収した細胞を、間葉系幹細胞培養液に懸濁、播種した。播種翌日に、脂肪分化誘導培養液に交換し、3~4日毎に全量培地交換をし、14日間分化培養を行った。
【0070】
(細胞の回収)
細胞の回収は、以下の8つの培養工程(ステージ)で実施した(図1)。
ステージ1:購入した骨髄液
ステージ2:培養4日目の培養初期細胞
ステージ3:継代数1の培養中期細胞
ステージ4:継代数2の培養後期細胞
ステージ5:分化誘導後、1日間培養した細胞
ステージ6:分化誘導後、4日間培養した分化初期細胞
ステージ7:分化誘導後、7日間培養した分化中期細胞
ステージ8:分化誘導後、14日間培養した分化後期細胞
【0071】
(オンスペックモデルとオフスペックモデルの定義)
骨髄液から骨分化までの間で、上記規定の培養条件で正常に培養された細胞を、オンスペックモデルと定義した。一方、本工程において培養条件を変更して培養したもの、具体的には継代数や培養液組成を変えて培養した細胞、または正常に培養されなかったもの、例えば、培養過程において、脂肪細胞・軟骨細胞といった、骨以外に分化した細胞、細菌・ウイルスなどが混入した細胞、がん化した細胞、異なる系統の細胞、例えば、線維芽細胞をオフスペックモデルとした。
【0072】
実施例2[マイクロアレイ解析]
(マイクロアレイ実験方法)
図1に示す培養工程1〜8ステージの細胞からRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて全RNAを抽出後、Amino Allyl MessageAmp aRNA Kit(Ambion社製)を用いて相補的mRNAを増幅し、その5 μgをDNA microarray(AceGene Human oligo chip 30K 1chip version)にてハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションの方法はAceGeneR-1 Chip Version-取り扱い説明書に従った。さらに、リファレンスとしては、ベクトン・ディッキンソン社より購入した骨髄RNAの混合液を使用した。骨髄RNAの混合液を、上記と同様の方法で相補的mRNAを増幅し、このRNAをリファレンスとして、全てのDNAマイクロアレイ実験に使用した。DNAマイクロアレイのスキャニングにはScanArray Express (PerkinElmer社製)を使用した。取得したスキャニング画像の数値化にはImaGene(BioDiscovery社製)を使用し、正規化にはGeneSight(BioDiscovery社製)を使用した。マイクロアレイデータの統計学的処理は、表計算ソフトExcel(Microsoft社製)と統計解析ソフトR(フリーソフトウェア)を使用した。
【0073】
(マイクロアレイ解析結果)
1.マーカー遺伝子候補の絞込み
骨髄液から骨分化まで、図1に示した8ステージの細胞として正常に培養できたオンスペックモデルを、各5検体(A、B、C、D、E)用いて、それぞれから発現プロファイルデータを取得した。
【0074】
各遺伝子の発現量について、まず上記5検体の平均値を算出し、その最大と最小の間差が2倍以上を示す遺伝子を抽出した。抽出した遺伝子群から、さらに、5検体の中のA検体を基準とし、8ステージの変動パターンについて、A検体と他の4検体のPearson相関係数を、検体AとB、検体AとC、検体AとD、検体AとEの組み合わせでそれぞれ算出した。算出したPearson相関係数の平均値を算出し、0.4以上を示す2080遺伝子を抽出した。
【0075】
2.各培養工程に特徴的な遺伝子群の抽出
次に、上記1.で抽出した2080遺伝子について、図1に示す8ステージの培養工程を図2に示す5つの群(群1=ステージ1(骨髄液)、群2=ステージ2、群3=ステージ3、4(間葉系幹細胞)、群4=ステージ5(骨芽前駆細胞)、群5=ステージ6、7、8(骨芽細胞))に分けて、図3に示した決定樹の流れに従い、多重比較検定を行った。
群総当りの多重比較検定を行った結果、上記1.で抽出した2080遺伝子から、(1)特異的な発現量により、各群を規定できる36遺伝子(P<0.01)(表1)と、(2)隣り合う2群間で顕著な発現差を示す9遺伝子((1)との重複は3遺伝子)(表2)を絞り込んだ。この合計45遺伝子から重複を除いた42遺伝子を、以下「マーカー候補遺伝子」とした。
【0076】
(1)の36遺伝子において、群1を規定する13遺伝子と群2を規定する15遺伝子では、9遺伝子が重複していた。しかし、遺伝子は同じであっても、群1の骨髄液から回収される細胞において検出される発現量と、群2の培養初期細胞において検出される発現量とが有意に異なるため、各群を明確に規定できることがわかった。他の群間で重複する遺伝子についても同様であった。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
実施例3 [培養工程各群を規定できる遺伝子の検証]
(オフスペックモデルの調製)
オフスペックモデルとして、間葉系幹細胞1検体から骨以外に分化させた細胞を調製した。具体的には軟骨分化細胞(分化培養4日、14日)、脂肪分化細胞(分化培養4日、14日)を調製した。各細胞の培養は実施例1に記載の条件で行った。この他に、線維芽細胞(Cambrex社製、製品コードCC-2511)、及びHSV-I(単純ヘルペスI型)ウイルスを人為的に接種した間葉系幹細胞を調製した。線維芽細胞は、線維芽細胞培地キット-2 (2%FBS)(Cambrex社製)、もしくは間葉系幹細胞培養液を使用し、2種類の細胞を調製した。HSV-I(単純ヘルペスI型)ウイルスを人為的に接種した間葉系幹細胞は、図1に示したステージ4の間葉系幹細胞に対して、約107コピーのHSV-Iを接種し、72時間培養を継続して調製した。
【0080】
(マイクロアレイ解析結果)
オフスペックモデルとして調製した全ての細胞に対し、実施例2に記載の方法に従って発現プロファイルデータを取得した。
実施例2の2.で抽出した培養工程の1〜5群を規定できると予測される遺伝子36個(表1)について、オンスペック基準5検体のデータにオフスペックモデルのデータを加えて評価したところ、オンスペックの細胞では、各群で遺伝子の発現量に差が見られ、上記36遺伝子(表1)が特に大きい発現量の差を示した。また、オフスペックの細胞でも、上記36遺伝子の発現量には差が見られ、これら36遺伝子は、各群のオンスペック細胞を他の細胞と区別することができることを確認した。この結果の代表例を図4〜8に示した。図4〜8で群1〜5は、各群のオンスペック細胞中の上記36遺伝子の発現量を示し、軟骨細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、HSV-I接種間葉系幹細胞はオフスペック細胞の代表で、該細胞中の上記の各群を規定できる遺伝子の発現量を示す。
【0081】
このことから、これらの上記36遺伝子(表1)は、その発現量により、各群を規定できる遺伝子マーカーとなり得ることがわかった。
【0082】
実施例4 [培養工程の判別可否の検証−1]
(階層型クラスタリングによるオンスペック基準5検体のステージ判別確認)
オンスペック基準5検体(A,B,C,D,E)に対して、マーカー候補42遺伝子の発現量を、統計解析ソフトR(フリーソフトウェア)を使用して階層型クラスタリング解析を実施したところ、各群において、全てのオンスペック基準検体が同一クラスタに分類された。このことから、マーカー候補42遺伝子の発現量による階層型クラスタリング解析により、培養工程5群の判別が可能であった(図9の群1:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ1、群2:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ2、群3:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ3及びステージ4、群4:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ5、群5:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ6及びステージ7及びステージ8)。
【0083】
実施例5 [培養工程の判別可否の検証−2]
(追加検体を加えたステージ判別確認)
培養工程を判別する目的で絞り込んだ42遺伝子の妥当性を検証するため、新たに、骨髄液から骨分化まで、正常に培養できたオンスペックモデル6検体(F,G,H,I,J,K)を用いて実施例4と同様の解析を行った。図1に示すステージ4とステージ6の発現プロファイルデータを、マイクロアレイを用いて取得し、基準検体5検体(A,B,C,D,E)から得たデータと合わせて、マーカー候補42遺伝子の発現量を用いて階層型クラスタリング解析を行った。階層型クラスタリング解析の結果の代表例として、オンスペックモデル6検体(F,G,H,I,J,K)の2つのステージ(ステージ4及び6)についての結果を図9に示した。図9に示すとおり、オンスペックモデル6検体は、基準検体5検体(A,B,C,D,E)の場合と同じクラスタに含まれることが確認された(図9の群3:オンスペックF,G,H,I,J,K _ステージ4、:オンスペックF,G,H,I,J,K _ステージ6)。この結果から42遺伝子の発現プロファイルデータを取得することにより、培養工程が正常な経過をとったことをモニタリングできることが示された。
【0084】
実施例6 [培養工程の判別可否の検証−3]
(オフスペックを用いた検証)
1.脂肪分化細胞を用いた検証
実施例3で取得した脂肪に分化させた細胞(分化培養4日、14日)の遺伝子発現データを、オンスペックモデルのデータに追加して、前述した階層型クラスタリング解析を行った。その結果、脂肪に分化させた細胞は、どの培養ステージとも異なるクラスタを形成することが確認された(図9の脂肪分化4day及び脂肪分化14day)。このことから、培養過程で、骨芽細胞以外への分化といった、正常な培養に変化を及ぼす異常をモニタリングできることがわかった。
【0085】
2.線維芽細胞を用いた検証
実施例3で取得したオフスペック(線維芽細胞)2検体の遺伝子発現データを、オンスペックモデルのデータに追加して、前述した階層型クラスタリング解析を行った。その結果、繊維芽細胞2検体は間葉系幹細胞のどの培養ステージとも異なるクラスタを形成することが確認された(図9の線維芽細胞1及び線維芽細胞1.1)。このことから、細胞形態的に類似している間葉系幹細胞と繊維芽細胞を極めて明確に識別できることが示された。
【0086】
3.ウイルスを接種した間葉系幹細胞を用いた検証
実施例3で取得したオフスペック(HSV-Iウイルスを人為的に接種した間葉系幹細胞)の遺伝子発現データを、オンスペックモデルのデータに追加して、前述した階層型クラスタリング解析を行った。その結果、人為的にウイルスを接種した細胞は、正常に培養された間葉系幹細胞の全ての培養ステージと異なるクラスタを形成することが確認された(図9のHSVI接種後72hr)。このことから、培養過程にウイルス汚染など正常な培養に変化を及ぼす異常をモニタリングできる可能性が示された。
【0087】
実施例7[リアルタイムPCRによる検証]
(リアルタイムPCR方法)
供試細胞よりRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて全RNAを抽出後、全RNA1μgを鋳型としてcDNAを合成した。合成手順については、Super Script II Reverse Transcriptase (Invitrogen社製)の添付資料に記載されているプロトコール(First-Strand cDNA Synthesis Using SuperScriptII RT)に従った。なお、プライマーについては、Random Primer(6mer)(TaKaRa社製)を使用した。cDNAを合成した後、合成後のcDNA溶液を5倍に希釈した。この希釈液1μLを鋳型としてリアルタイムPCRを行った。使用したプライマー・プローブ試薬については、表3に示した。
【0088】
測定については、ABI PRISM 7700 Sequence Detector(ABI社製)を使用し、プローブ法、もしくはSYBR GreenI法にて実施した。プローブ法の場合には、TaqManR Universal PCR Master Mix, No AmpEraseR UNG (ABI社製品)の反応液を、SYBR Green I法の場合にはSYBR R GREEN PCR Master Kit (ABI社製品)の反応液を用いた。なお、表3に記載した「Hs」で始まるプローブは、ABI社製で製品番号を示した。
【0089】
【表3】
【0090】
(マイクロアレイデータとの比較)
DNAマイクロアレイの遺伝子発現データは相対値で数値化されるが、リアルタイムPCRによる発現量解析は絶対値で数値化される。培養工程を判別する目的で絞り込んだ42遺伝子について、リアルタイムPCRによる遺伝子発現データの評価を行った。実施例2で用いたオンスペックモデル基準5検体について、培養工程8ステージにおける細胞の遺伝子発現量を、リアルタイムPCRを用いて測定した。なお、基準5検体のうち、検体Bのステージ2、及び検体Dのステージ1及び2については、total RNA量が不足していたため、データを取得できなかった。42遺伝子のCt値を測定後、ΔCt値(40−Ct値)を算出した。算出したΔCt値から、培養工程8ステージにおける経時的な発現変動をグラフに示し(図10〜15の左側のグラフ)、実施例2で取得したマイクロアレイの経時的な発現変動(図10〜15の右側のグラフ)と比較した。
【0091】
その結果、培養工程各群を規定できる32遺伝子(表4)、及び隣り合う2群間で顕著な発現差を示す9遺伝子 (表2)について、重複する3遺伝子を除く計38遺伝子の発現変動パターンは、相似型を示すことが確認された(図10から図15)。さらに、相似型を示した38遺伝子についてはマイクロアレイのデータと同様に、群1を規定できる遺伝子はその他の全ての群に対して有意差(P<0.01)があり、群2から5を規定できる遺伝子についても同様であった。
【0092】
【表4】
【0093】
実施例8[培養工程各群を規定できる遺伝子の検証]
(リアルタイムPCRによるオフスペックモデルの遺伝子発現データの取得)
実施例3で調製した1検体の間葉系幹細胞から骨分化させた細胞(分化培養4日、14日)・軟骨分化させた細胞(分化培養4日、14日)・脂肪分化させた細胞(分化培養4日、14日)、2系統の培養液を用いて調製した線維芽細胞2種類、HSV-I(単純ヘルペスI型)ウイルスを人為的に接種した間葉系幹細胞について、それぞれの細胞中のマーカー候補遺伝子の発現プロファイルデータを、リアルタイムPCRを用いて、実施例7に記載の方法に従って取得した。
【0094】
実施例7に示した培養工程の各群を規定できると予測される32遺伝子(表4)について、オンスペック基準5検体(A,B,C,D,E)のデータにオフスペックモデルのデータを加えて評価したところ、オンスペックの細胞では、各群で遺伝子の発現量に差が見られ、上記32遺伝子(表4)が特に大きい発現量の差を示した。また、オフスペックの細胞でも、上記32遺伝子の発現量には差が見られ、これら32遺伝子は、各群のオンスペック細胞を他の細胞と区別することができることを確認した。この結果の代表例を図16〜20に示した。図16〜20で群1〜5は、各群のオンスペック細胞中の上記32遺伝子の発現量を示し、軟骨細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、HSV-I接種間葉系幹細胞はオフスペック細胞の代表で、該細胞中の遺伝子の発現量を示す。
【0095】
このことから、これらの32遺伝子はその発現量により、各群を規定できる遺伝子マーカーとなり得ることがわかった。
【0096】
オンスペック基準5検体(A,B,C,D,E)とオフスペックモデルのリアルタイムPCRによる遺伝子発現データから、実施例7で示した培養工程各群を規定できる32遺伝子の中から、群3を規定できる3遺伝子(IRS2、LXNおよびTSC22D1)および群5の隣り合う2群で顕著に発現が異なる3遺伝子(COL11A1、FBLN5及びFRZB)を選択し、ユークリッド距離に基づいた多次元尺度法による2次元プロット解析を行った。その結果を図21および22に示す。図21および22において、プロットに示したA〜Eは検体を示し、数字はステージ(図1、2)を示す。図21では、群3の基準検体A,B,C,D,Eのステージ3及び4が、全て同領域に存在した。図22では、群5の基準検体A,B,C,D,Eのステージ6、7及び8が、全て同領域に存在した。各マーカー遺伝子により規定される群の検体におけるプロットは、近い範囲に集中し、その他の群やオフスペックモデル検体のプロットとは異なる分布を示した。なお、多次元尺度法には総計解析ソフトR(フリーソフトウェア)を使用した。
【0097】
実施例9 [培養工程の判別可否の検証−1]
(階層型クラスタリングによる基準5検体(A,B,C,D,E)のステージ判別確認)
培養工程各群を規定できる32遺伝子(表4)、及び隣り合う2群間で顕著な発現差を示す9遺伝子 (表2)のうち、それぞれの細胞中のマーカー候補遺伝子の発現プロファイルデータを、リアルタイムPCRを用いて、実施例7に記載の方法に従って取得した。
【0098】
重複する3遺伝子を除く計38遺伝子のΔCt値(40-Ct値)について、統計解析ソフトR(フリーソフトウェア)を使用して階層型クラスタリング解析を実施したところ、各群において、全てのオンスペック基準検体が同一クラスタに分類された。このことから、培養工程5群の判別が可能であった(図23の群1:オンスペックA,B,C,E_ステージ1、群2:オンスペックA,C,E_ステージ2、群3:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ3及びステージ4、群4:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ5、群5:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ6及びステージ7及びステージ8)。
【0099】
実施例10 [培養工程の判別可否の検証−2]
(追加検体を加えたステージ判別確認)
培養工程を判別する目的で絞り込んだ38遺伝子の妥当性を検証するため、新たに、骨髄液から骨分化まで、正常に培養できたオンスペックモデル6検体(F,G,H,I,J,K)の全培養ステージの遺伝子発現データを、リアルタイムPCRを用いて実施例7に記載の方法に従って取得した。
【0100】
オンスペックモデル6検体(F,G,H,I,J,K)を追加して、階層型クラスタリング解析を行った結果、オンスペックモデル6検体の各培養ステージは、基準5検体(A,B,C,D,E)の場合と同じクラスタに含まれることが確認された(図23の群1:オンスペックG,H,J,K_ステージ1、群2:オンスペックH,J,K_ステージ2、群3:オンスペックF,G,H,I,J,K _ステージ3及びステージ4、群4:オンスペックF,G,H,I,J,K _ステージ5、群5:オンスペックF,G,H,I,J,K _ステージ6及びステージ7及びステージ8)。この結果から38遺伝子の遺伝子発現データを取得することにより、培養工程が正常に経過したことをモニタリングできることが示された。
【0101】
実施例11 [培養工程の判別可否の検証−3]
(オフスペックを用いた検証)
1. 軟骨分化細胞、及び脂肪分化細胞を用いた検証
実施例8で取得した軟骨に分化させた細胞(分化培養4日、14日))と脂肪に分化させた細胞(分化培養4日、14日)の遺伝子発現データと、オンスペックモデルの遺伝子発現データについて、実施例10と同様に階層型クラスタリング解析を行った。その結果、軟骨分化細胞、及び脂肪分化細胞は、どの培養ステージとも異なるクラスタを形成することが確認された(図23の軟骨分化4day及び軟骨分化14day、脂肪分化4day及び脂肪分化14day)。このことから、培養過程で骨芽細胞以外への分化といった、正常な培養に変化を及ぼす異常をモニタリングできることがわかった。
【0102】
2.線維芽細胞を用いた検証
実施例8で取得した線維芽細胞2検体の遺伝子発現データと、オンスペックモデルの遺伝子発現データについて、実施例10と同様に階層型クラスタリング解析を行った。その結果、繊維芽細胞2検体は間葉系幹細胞のどの培養ステージとも異なるクラスタを形成することが確認された(図23の線維芽細胞1及び線維芽細胞2)。このことから、細胞形態的に類似している間葉系幹細胞と繊維芽細胞を極めて明確に識別できることが示された。
【0103】
3.ウイルスを接種した間葉系幹細胞を用いた検証
実施例8で取得したHSV-I(単純ヘルペスI型)ウイルスを人為的に接種した間葉系幹細胞の遺伝子発現データを、オンスペックモデルの遺伝子発現データについて、実施例10と同様に階層型クラスタリング解析を行った。その結果、人為的にウイルスを接種した細胞は、正常に培養された間葉系幹細胞の全ての培養ステージと異なるクラスタを形成することが確認された(図23のHSVI接種後72hr)。このことから、培養過程にウイルス汚染など正常な培養に変化を及ぼす異常をモニタリングできることがわかった。
【0104】
4.遺伝子発現プロファイルに培養条件が及ぼす影響についての検証
図1に示したステージ4の間葉系幹細胞から、オフスペック細胞として、通常の培養液で4回の継代を追加した間葉系幹細胞Aと、4回目の継代以降に培養液を実施例1に記載した間葉系幹細胞培養液(条件検討用)に変更した間葉系幹細胞Bを調製し、リアルタイムPCRを用いて、遺伝子発現データを取得した。
【0105】
オンスペックモデル11検体(A〜K)の遺伝子発現データと、上記で取得した間葉系幹細胞A、及びBの遺伝子発現データについて、実施例10と同様に階層型クラスタリング解析を行った。その結果、これらの間葉系幹細胞A,Bは、どのオンスペック細胞とも異なるクラスタを形成することが判明した(図24の間葉系幹細胞A,B、群1、群2、群3、群4、群5)。
【0106】
また、実施例10で選択した38遺伝子を使用し、オンスペックモデル11検体の間葉系幹細胞(群3)と骨芽細胞(群5)、及び、上記の様に変更して培養した間葉系幹細胞A、Bを、ユークリッド距離に基づいた多次元尺度法によって2次元図にプロットした。この結果を図25に示す。図中プロットに示したA〜Kは検体を示し、数字はステージ(図1、2)を示す。オンスペックモデルの間葉系幹細胞集団(群3)から、間葉系幹細胞A、間葉系幹細胞Bの順で離れており、また、骨芽細胞(群5)とも離れており、その間隔はいずれも顕著に開いていた(図25の群3:基準検体A,B,C,D,Eのステージ3及び4、追加検体F,G,H,I,J,Kのステージ3及び4、群5:基準検体A,B,C,D,Eのステージ6及び7及び8、追加検体F,G,H,I,J,Kのステージ6及び7及び8、間葉系幹細胞A、間葉系幹細胞B)。このことから、細胞の継代数や培養液の組成によって発現プロファイルが変化することが示され、その様な発現プロファイルの変化に基づいて、異なる培養条件下にさらされているかモニタリングできることが確認された。
【0107】
実施例12[培養ステージや細胞の品質判定方法についての検討]
(例1:相関係数を用いた判定)
実施例7に示した培養工程各群を規定できる32遺伝子(表4)から、代表的な23遺伝子(表5)を選抜した。オンスペックモデル基準5検体(A,B,C,D,E)の群1に属する細胞について、遺伝子毎に発現量の平均値を算出し、その23遺伝子の発現パターンを、群1の基準値と規定した。このような計算を群2から群5についても、同様に行い、各群の基準となる23遺伝子の発現パターンを算出した(図26.群1:オンスペックA,B,C,E_ステージ1対群1の基準値、群2:オンスペックA,C,E_ステージ2対群2の基準値、群3:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ3及び4対群3の基準値、群4:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ5対群4の基準値、群5:オンスペックA,B,C,D,E_ステージ6及び7及び8対群5の基準値)。
【0108】
【表5】
【0109】
次に、検証用としたオンスペック追加2検体(G,K)とオフスペックモデルについて、各細胞の23遺伝子の発現パターンと、群1から群5までの5つ基準発現パターンとのスピアマン相関係数を算出した。その結果、オンスペック追加2検体の群1の細胞は、他の群に対する基準値と比較して、群1の基準値に対して最も相関係数が高く、その値は0.9以上であった(図26のオンスペックG,K_ステージ1対群1の基準値)。群2〜5に関しても同様の結果であった(群2:図26のオンスペックK_ステージ2対群2の基準値、群3:図26のオンスペックG,K_ステージ3及び4対群3の基準値、群4:図26のオンスペックG,K _ステージ5対群4の基準値、群5:図26のオンスペックG,K_ステージ6及び7及び8対群5の基準値)。
【0110】
一方、オフスペックモデルの間葉系幹細胞B、脂肪分化細胞、2検体の線維芽細胞、HSV-I接種細胞については、いずれの群の基準値に対しても、相関係数が0.9未満であった(図26)。但し、間葉系幹細胞Aは間葉系幹細胞の基準値に対し、0.9以上であった。また、軟骨細胞については、骨芽細胞の基準値に対し、相関係数が0.9以上であった(図26)。
【0111】
(例2:ユークリッド距離関数を用いた判定)
実施例7に示した培養工程各群を規定できる32遺伝子(表4)から、代表的な23遺伝子(表5)を選抜した。オンスペック基準5検体(A,B,C,D,E)の群1に属する細胞について、遺伝子毎に発現量の平均値を算出し、その23パラメータを群1の中心座標と規定した。このような計算を群2から群5についても同様に行い、各群の中心座標を算出した。
【0112】
次に、検証用としたオンスペック基準2検体(G,K)と上記のオフスペックモデルについて、各細胞の23遺伝子の発現量を、各細胞の座標とし、群1から群5までの各中心座標からのユークリッド距離を算出した。その結果、群1の細胞は、群1の中心座標から近い距離に集まる傾向を示した。群2〜5に関しても同様の傾向を示した。例として、群3(間葉系幹細胞)および群5(骨芽細胞)の中心座標から各細胞までの距離を図27、図28に示す。図27に示すように、群3におけるオンスペック基準7検体(A,B,C,D,E,G,K,)のステージ3及び4の中心座標からのユークリッド距離は、3.4〜7.2の間で近くに集まり、他の群あるいはオフスペックモデルの中心座標からのユークリッド距離は、8.1〜31.6で遠くに離れていた。また、図28に示すように、群5におけるオンスペック基準7検体(A,B,C,D,E,G,K,)のステージ6及び7及び8の群3の中心座標からのユークリッド距離は、2.9〜8.0の間で近くに集まり、他の群あるいはオフスペックモデルの中心座標からのユークリッド距離は、9.7〜39.3で遠くに離れていた。
例1および例2に示すように、統計解析手法を用いた培養工程ステージ判別、品質管理が可能であることが示された。
【0113】
実施例13[multiplex PCR検出系による検証]
(multiplex PCR方法)
供試細胞よりRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて全RNAを抽出後、全RNA1μgを鋳型としてcDNAを合成した。合成手順については、Super Script II Reverse Transcriptase (Invitrogen社製)の添付資料に記載されているプロトコール(First-Strand cDNA Synthesis Using SuperScript II RT)に従った。なお、プライマーについては、Random Primer(6mer)(TaKaRa社製)を使用した。cDNAを合成した後、合成後のcDNA溶液を5倍に希釈した。この希釈液5μLを鋳型としてmultiplex PCRを行った。なお、培養工程各群を規定できる代表的な23遺伝子を、12遺伝子と11遺伝子の2組に分け(表6)、表に示すプライマー(表7)を用いてPCR反応を行った。2組のPCR反応液は、Distilled Water,Deionized,Sterile(和光純薬工業株式会社製)、dNTP Mixture (2.5mM each:TaKaRa社製)、10×PCR Buffer(Conteins 15mM MgCl2:Roche社製) 、MgCl2 Solution (25mM:Roche社製)、AmpliTaq GoldTM (Roche社製)、鋳型DNA、プライマーを表8に示すように混合し、調製した。PCR条件は表9に示した。2組の反応で得たPCR産物は、DNA 1000 Kit(Agilent社製)を用いて電気泳動し、2100 bioanalyzer(Agilent社製)を用いて検出した。泳動結果を、Agilent 2100 Bio Sizingソフトウェア(Agilent社製)で解析し、各遺伝子産物のモル濃度(nmol/L)を算出した。
【0114】
【表6】
【0115】
【表7】
【0116】
【表8】
【0117】
【表9】
【0118】
骨髄液から骨分化まで、正常に培養できたオンスペックモデル1検体(J)について、群1(骨髄液)、群3(間葉系幹細胞)、群5(骨芽細胞)の遺伝子発現データをmultiplex PCR検出系を用いて取得した。取得した23遺伝子のモル濃度の値を用い、各細胞を、ユークリッド距離に基づいた多次元尺度法によって2次元図にプロットした。この結果を図29左に示す。図中、アルファベットは検体を、数字はステージを示す。また、同じ検体の、リアルタイムPCRのΔCt値(40-Ct)を用い、同様にユークリッド距離に基づいた多次元尺度法によって2次元にプロットした結果を、図29右に示した。図中、アルファベットは検体を、数字はステージを示す。multiplex PCRのプロット図とリアルタイムPCRのプロット図を比較した結果、パターンが類似しており、群1と群3と群5の領域が明らかに離れていることを確認した。以上の結果から、multiplex PCR検出系を用いた培養ステージ判別、品質管理のが可能であることが示された。
【0119】
これらの検討により選抜したマーカー遺伝子について、遺伝子発現の特徴を表10および表11に示した。特異的な発現量により、骨髄液から骨分化までの培養工程における各群を規定できるような32遺伝子(表4)、隣り合う2群間で顕著な発現差を示す9遺伝子(表2)のうち、重複する3遺伝子を除く計38遺伝子は、各群における遺伝子マーカーとなり得る遺伝子であり、組み合わせて利用することもできるが、各群で固有の特徴を示す遺伝子は単独でもマーカー遺伝子として利用できることが示された。また、これらのマーカー遺伝子の発現量を定量、または半定量的な検出系で数値化したデータを統計解析的手法により評価することで、培養ステージや細胞の状態を判別できることを確認した。このことから、遺伝子発現量に基づいた細胞の規格化や品質管理検査が可能であると考えられる。
【0120】
【表10】
【0121】
【表11】
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】図1は、培養工程(ステージ)を示す。
【図2】図2は、培養工程(ステージ)の群分けを示す。
【図3】図3は、決定樹を示す。
【図4】図4は、群1とその他の細胞について、ヒトマトリックスメタロペプチダーゼ9の発現量(log2比)の比較を示す。
【図5】図5は、群2とその他の細胞について、ヒトインターフェロン−γ誘導タンパク30発現量(log2比)の比較を示す。
【図6】図6は、群3とその他の細胞について、ヒトラテキシンの発現量(log2比)の比較を示す。
【図7】図7は、群4とその他の細胞について、ヒトP311タンパク類似タンパクの発現量(log2比)の比較を示す。
【図8】図8は、群5とその他の細胞について、ヒトフリッツルド類似タンパクの発現量(log2比)の比較を示す。
【図9】図9は、オンスペック基準検体(A,B,C,D,E)、オンスペックモデル検体(F,G,H,I,J,K)、脂肪分化細胞、線維芽細胞、ウイルスを接種した間葉系幹細胞における(42遺伝子の発現量(log2比)による階層型クラスタリング解析結果を示す。
【図10】図10は、マーカー候補遺伝子(7遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図11】図11は、マーカー候補遺伝子(7遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図12】図12は、マーカー候補遺伝子(7遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図13】図13は、マーカー候補遺伝子(7遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図14】図14は、マーカー候補遺伝子(7遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図15】図15は、マーカー候補遺伝子(3遺伝子)のリアルタイムPCRデータとマイクロアレイデータの比較を示す。
【図16】図16は、群1とその他の細胞について、発現量(40-Ct値)の比較を示す。
【図17】図17は、群2とその他の細胞について、発現量(40-Ct値)の比較を示す。
【図18】図18は、群3とその他の細胞について、発現量(40-Ct値)の比較を示す。
【図19】図19は、群4とその他の細胞について、発現量(40-Ct値)の比較を示す。
【図20】図20は、群5とその他の細胞について、発現量(40-Ct値)の比較を示す。
【図21】図21は、オンスペック基準検体(A,B,C,D,E)、脂肪分化細胞、線維芽細胞、ウイルスを接種した間葉系幹細胞における群3を規定できる3遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いた場合の、多次元尺度法による2次元プロット解析結果を示す。
【図22】図22は、オンスペック基準検体(A,B,C,D,E)、脂肪分化細胞、線維芽細胞、ウイルスを接種した間葉系幹細胞における群5を規定できる3遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いた場合の、多次元尺度法による2次元プロット解析結果を示す。
【図23】図23は、オンスペック基準検体(A,B,C,D,E)、オンスペック検証検体(F,G,H,I,J,K)、脂肪分化細胞、軟骨分化細胞、線維芽細胞、ウイルスを接種した間葉系幹細胞における38遺伝子の発現量(40-Ct値)による階層型クラスタリング解析結果を示す。
【図24】図24は、オンスペック検体(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K)、間葉系幹細胞A,Bにおける38遺伝子の発現量(40-Ct値)による階層型クラスタリング解析結果を示す。
【図25】図25は、オンスペック検体(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K)、間葉系幹細胞A,B における38遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いた場合の、多次元尺度法による2次元プロット解析結果を示す。
【図26】図26は、オンスペック検体(A,B,C,D,E,F,G,K)、オフスペックモデル検体における、23遺伝子の発現量(40-Ct値)のパターンを用いて算出した相関係数を示す。
【図27】図27は、オンスペック検体(A,B,C,D,E,F,G,K)、オフスペックモデル検体における、23遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いて算出した、群3(間葉系幹細胞)の中心座標から各細胞までのユークリッド距離を示す。
【図28】図28は、オンスペック検体(A,B,C,D,E,F,G,K)、オフスペックモデル検体における、23遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いて算出した、群5(骨芽細胞)の中心座標から各細胞までのユークリッド距離を示す。
【図29】図29は、オンスペック検体Jにおける群1(骨髄細胞)及び群3(間葉系幹細胞)及び群5(骨芽細胞)の、23遺伝子の発現量(40-Ct値)を用いた多次元尺度法による2次元プロット解析結果について、multiplex PCRとリアルタイムPCRの比較を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)から(ix)の何れかに記載の細胞検出用の遺伝子マーカー。
(i)配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(ii)配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iii)配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iv)配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽前駆細胞を検出するための遺伝子マーカー;及び
(v)配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(vi)配列表の配列番号37又は7に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞と骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(vii)配列表の配列番号38又は39に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞と間葉系幹細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(viii)配列表の配列番号40又は21に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる間葉系幹細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(ix)配列表の配列番号28、41又は42に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる骨芽細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
【請求項2】
請求項1に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有する、請求項1に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーを検出するためのプローブ。
【請求項3】
請求項1に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーの塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなる、請求項2に記載のプローブ。
【請求項4】
請求項1に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーをPCR法により特異的に増幅することができるセンスプライマーとアンチセンスプライマーの組み合わせからなる、請求項1に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーを検出するためのプライマー。
【請求項5】
請求項2又は3に記載のプローブの少なくとも1つ以上を支持体に固定化させることにより得られる、細胞検出用のマーカー遺伝子を検出するためのマイクロアレイ又はDNAチップ。
【請求項6】
被検細胞中の配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨髄細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨髄細胞を検出及び/又は分離する方法。
【請求項7】
被検細胞中の配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出及び/又は分離する方法。
【請求項8】
被検細胞中の配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、間葉系幹細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、間葉系幹細胞を検出及び/又は分離する方法。
【請求項9】
被検細胞中の配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨芽前駆細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨芽前駆細胞を検出及び/又は分離する方法。
【請求項10】
配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨芽細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨芽細胞を検出及び/又は分離する方法。
【請求項11】
遺伝子マーカーの発現量の検出を、請求項2又は3に記載のプローブ、請求項4に記載のプライマー、あるいは請求項5に記載のマイクロアレイ又はDNAチップを用いて行う、請求項6から10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
骨髄細胞を培養して目的細胞に分化させる工程において、下記の(a)から(i)に記載の遺伝子から選択される何れか一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、下記の(A)から(E)の何れか一以上の細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、下記の(A)から(E)の何れか一以上の細胞へ分化させる培養工程をモニタリングする方法。
(a)骨髄細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子;(b)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(c)間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(d)骨芽前駆細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(e)骨芽細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(f)骨髄細胞の培養と、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号37又は7に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(g)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の培養と、間葉系幹細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号38又は39に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(h)間葉系幹細胞の培養と、骨芽前駆細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号40又は21に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(i)骨芽前駆細胞の培養と、骨芽細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号28、41又は42に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(A)骨髄細胞
(B)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞
(C)間葉系幹細胞
(D)骨芽前駆細胞
(E)骨芽細胞
【請求項13】
遺伝子マーカーの発現量の検出を、請求項2又は3に記載のプローブ、請求項4に記載のプライマー、あるいは請求項5に記載のマイクロアレイ又はDNAチップを用いて行う、請求項12に記載の方法。
【請求項1】
以下の(i)から(ix)の何れかに記載の細胞検出用の遺伝子マーカー。
(i)配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(ii)配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iii)配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(iv)配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽前駆細胞を検出するための遺伝子マーカー;及び
(v)配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨芽細胞を検出するための遺伝子マーカー;
(vi)配列表の配列番号37又は7に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞と骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(vii)配列表の配列番号38又は39に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞と間葉系幹細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(viii)配列表の配列番号40又は21に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる間葉系幹細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
(ix)配列表の配列番号28、41又は42に記載の塩基配列を有する遺伝子からなる骨芽細胞と骨芽前駆細胞の間で発現量の差を示す遺伝子:
【請求項2】
請求項1に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有する、請求項1に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーを検出するためのプローブ。
【請求項3】
請求項1に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーの塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなる、請求項2に記載のプローブ。
【請求項4】
請求項1に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーをPCR法により特異的に増幅することができるセンスプライマーとアンチセンスプライマーの組み合わせからなる、請求項1に記載の細胞検出用の遺伝子マーカーを検出するためのプライマー。
【請求項5】
請求項2又は3に記載のプローブの少なくとも1つ以上を支持体に固定化させることにより得られる、細胞検出用のマーカー遺伝子を検出するためのマイクロアレイ又はDNAチップ。
【請求項6】
被検細胞中の配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨髄細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨髄細胞を検出及び/又は分離する方法。
【請求項7】
被検細胞中の配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出及び/又は分離する方法。
【請求項8】
被検細胞中の配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、間葉系幹細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、間葉系幹細胞を検出及び/又は分離する方法。
【請求項9】
被検細胞中の配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨芽前駆細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨芽前駆細胞を検出及び/又は分離する方法。
【請求項10】
配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子マーカーのうちの少なくとも一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、骨芽細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、骨芽細胞を検出及び/又は分離する方法。
【請求項11】
遺伝子マーカーの発現量の検出を、請求項2又は3に記載のプローブ、請求項4に記載のプライマー、あるいは請求項5に記載のマイクロアレイ又はDNAチップを用いて行う、請求項6から10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
骨髄細胞を培養して目的細胞に分化させる工程において、下記の(a)から(i)に記載の遺伝子から選択される何れか一以上の遺伝子マーカーの発現量を検出し、下記の(A)から(E)の何れか一以上の細胞中の同じ遺伝子マーカーの発現量と比較することを含む、下記の(A)から(E)の何れか一以上の細胞へ分化させる培養工程をモニタリングする方法。
(a)骨髄細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の塩基配列を有する遺伝子;(b)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(c)間葉系幹細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号20、21、22、23、24又は25に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(d)骨芽前駆細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号26、27又は28に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(e)骨芽細胞を検出するための遺伝子マーカーである、配列表の配列番号28、29、30、31、32、33、34、35又は36に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(f)骨髄細胞の培養と、骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号37又は7に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(g)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞の培養と、間葉系幹細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号38又は39に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(h)間葉系幹細胞の培養と、骨芽前駆細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号40又は21に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(i)骨芽前駆細胞の培養と、骨芽細胞の培養との間で発現量の差を示す遺伝子である、配列表の配列番号28、41又は42に記載の塩基配列を有する遺伝子;
(A)骨髄細胞
(B)骨髄細胞を培養した後の細胞であって間葉系幹細胞のみが選択培養される前の細胞
(C)間葉系幹細胞
(D)骨芽前駆細胞
(E)骨芽細胞
【請求項13】
遺伝子マーカーの発現量の検出を、請求項2又は3に記載のプローブ、請求項4に記載のプライマー、あるいは請求項5に記載のマイクロアレイ又はDNAチップを用いて行う、請求項12に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2008−178403(P2008−178403A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339937(P2007−339937)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]