説明

間葉系幹細胞の骨形成能力を維持および再誘導するためのVII型コラーゲンの使用

本発明は、間葉系幹細胞の骨形成能を誘導および維持する方法および組成物を提供する。本発明の組成物は、コラーゲン7(C7)、C7のNC1ドメイン、またはC7の27kD断片を含む。本発明の組成物を適用することによるまたは間葉系幹細胞を本発明の組成物とエクスビボで初回抗原刺激し、初回抗原刺激された間葉系幹細胞を患者に適用することによる骨疾患を治療するための方法および骨格の欠陥を矯正するための方法も提供される。本発明は、さらに間葉系幹細胞骨形成誘導キットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2009年7月31日に出願された米国特許仮出願第61/230,600号の利益を主張する出願である。上記の出願は、本明細書中に参照によって援用される。
【連邦政府により援助された研究または開発に関する記載】
【0002】
本発明は、国立保健研究所により与えられた契約番号RO1 AR47981 および RO1 AR33625での政府の援助のもとでなされた。政府は、本発明に特定の権利を有している。
【発明の分野】
【0003】
本発明は、一般的に骨形成の増強に関する。より具体的には、本発明は、間葉系幹細胞の骨形成能を維持および再誘導するために有用な方法および組成物を提供する。
【発明の背景】
【0004】
骨は、2タイプの細胞の協調的な活動を必要とする再形成プロセスを頻繁に経験している。破骨細胞は骨基質(bone matrix)を分解し、骨芽細胞は、コラーゲン、カルシウム、および亜リン酸および他のミネラルを沈着して新しい骨を形成する。破骨細胞および骨芽細胞の活性の間のバランスが骨の質量および密度を決定している。骨質量(bone mass)が非常に減少する閉経期後の女性に共通する年齢関連性の現象である骨粗鬆症および脆性骨疾患(brittle-bone disease)として知られる骨形成不全症を含む多くの骨に関する疾患は、骨芽細胞および破骨細胞の誤制御により生じうる疾患である。
【0005】
国立骨粗鬆症基金によると、現在骨粗鬆症単独を約44,000,000の米国人が患っている。加えて、殆んど34,000,000の米国人が、骨粗鬆症のリスクを増加させる低骨質量を有すると推定されている。2025年までに、USにおける骨粗鬆症骨折(osteoporosis fractures)を治療する年間の直接のコストは、年毎に25兆ドルと推定されている。従って、新しい骨が形成されるプロセスである骨形成の基礎をなす分子機構を理解することは、骨関連疾患を治療するためのツールおよび方法を改善するために決定的に重要である。
【0006】
この点に関して、幹細胞技術、特に間葉系幹細胞(MSC)は、組織培養研究のためのおよび骨芽細胞の細胞決定に関与する最も初期段階を生化学的に精査するための骨芽細胞の魅力的な供給源を提供する。MSCは、自己複製する並びに種々の細胞および組織に分化する能力を有する。それらは多分化能、単離および培養の容易性、および免疫抑制特性を有するので、これらの細胞も再生医療の魅力的な治療上のツールである。自己の細胞を最終的な治療に使用しうるので、MSCは骨および軟骨の修復、同様に他の再建的な適用に関連して特に魅力的である。MSCに基づく治療の臨床試験は、骨形成不全症、ムコ多糖症、移植片対宿主病、および心筋梗塞を含む幾つかの疾患に関して既に進行している。
【0007】
しかしながら、骨格の欠陥に関するMSCに基づく細胞治療の進歩は、MSCの細胞寿命が制限されることおよびこれらの細胞がエクスビボで増殖している間にこれら細胞の骨形成能(osteogenic potential)が進行性に失われるとの事実から妨げられている。更に、MSCを骨形成分化の方向に向けて促進するシグナル伝達経路の複雑さは、MSCのインビボ適用に関する重要な問題の解決を滞らせている。例えば、標準的なWntベータカテニン、骨形成タンパク質(BMP)、および細胞外基質(ECM)媒介性Ras-Erkシグナル経路は、全てMSCの骨芽細胞への分化におよび骨形成(bone formation)に重要な役割を担っており、これらの事項に関連するが、如何にしてそれらがインビボで共に働くかに関して一致した見解は未だに得られていない。このようなことから、MSCの骨形成能を誘導および停止させることに関してMSCを正確に操作することは困難である。
【0008】
MSCにおいて骨形成を誘導するために、幾つかのECM因子、例えば、I型コラーゲンおよびビトロネクチンが有効であることが認められた。ビトロネクチンおよびI型コラーゲン上に蒔いたMSCにおいて最大の骨形成分化が生じたことおよびフィブロネクチンまたは未コートのプレートにおいてほとんど分化が生じなかったことが報告された。ECMに存在するタンパク質および成長因子が遺伝子発現を制御することによって、幹細胞の分化を誘導できることが受け入れられてきたが、しかしながら、ECM中に存在する因子の真の存在数や互いに相互作用する多数の様々なシグナル伝達経路が存在していることを考慮すると、先験的に何らかの特定のECM因子の効果を予想することは実質的に不可能である。研究によって、骨中に通常認められるECM成分、例えば、ラミニン-1、フィブロネクチン、およびコラーゲン1が骨髄前駆体の分化に既定の効果(defining effect)を有し得ることが示されている。しかしながら、これらのECM成分の効果に関する知見が完成するにはほど遠い状況である。
【0009】
骨または軟骨のダメージに対するMSCに基づく治療分野を進歩させるために、MSCの骨形成を誘導および維持することが可能な更なる研究ツールおよび治療剤が必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
当該技術分野において上記の達成されていない必要性に関して、MSCの骨形成能を誘導および維持するための単純な方法を提供することが本発明の課題である。
【0011】
また、MSCの骨形成能を誘導および維持するための試薬およびリサーチツールを提供することが本発明の課題である。
【0012】
本発明のこれらのおよび他の課題は、VII型コラーゲン(C7)、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインが全てMSCの骨形成能を誘導および維持する能力があるとの発明者の予想外の発見に対応する。
【0013】
C7は、アンカー線維の主要なコンポーネントであり、上皮真皮接着(epidermal-dermal adherence)に主要な役割を担う皮膚の基底膜ゾーン(BMZ)中の付着構造である。従って、C7は、皮膚形成における重要な因子である。図1は、C7の構造を模式的に表現した図である。
【0014】
C7が上皮真皮接着において機能するという重要な役割があることから、骨形成との関連は全く予想外のことである。何らかの特定の理論に縛られることは意図していないが、発明者は、RDEB(遺伝性の皮膚障害)の小児が骨関連疾患を発生することを観察した。このようなことから、多くのDEB患者に認められた骨格の欠陥がC7の非存在に起因しうるとの仮説がたてられた。広範な実験を通じて、発明者は、C7、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインはMSCの骨形成を誘導および維持する能力があることを実証している。
【0015】
この予想外の発見に基づき、発明者は、MSCにおいて骨形成を誘導および維持するための方法および組成物を発明した。
【0016】
一側面において、本発明は、MSCにおける骨形成能を誘導および維持するための方法を提供する。この本発明の側面に基づく態様は、一般的にC7、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される有効量の骨誘導因子(osteoinductive agent)をMSCに提供する工程を含む。
【0017】
別の側面において、本発明は、ダメージを受けた骨または軟骨を修復する方法を提供する。この本発明の側面に基づく態様は、一般的には骨または軟骨中のダメージをうけた部位にMSCを適用すること; C7、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される有効量の骨形成誘導因子(osteogenic inducing agent)をMSCに提供することを有する。
【0018】
更なる側面において、本発明は、ダメージを受けた骨または軟骨の材料を製造するための方法を提供する。この本発明の側面に基づく態様は、一般的には適切な成長培地中でMSCを成長させること; 有効量の骨誘導因子をMSCに提供してMSCの骨形成を誘導すること;およびMSCを骨または軟骨に成長させることを有する。骨誘導因子は、C7、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される一つである。
【0019】
さらなる側面において、本発明は、MSCの骨形成能を誘導および維持するために有用な組成物を提供する。この本発明の側面に基づく態様は、一般的にはC7、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される骨誘導因子を含む。
【0020】
なお別の側面において、本発明は、MSC骨形成誘導キットを提供する。この本発明の側面に基づく態様は、一般的にはC7、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される骨誘導因子を含む。
【0021】
C7は天然のタンパク質であるので、本発明の方法および組成物が宿主生物と簡単に適合するという利点が享受される。従って、骨成長を刺激するための高投与量の成長因子に基づく方法とは異なり、本発明の方法および組成物は、望ましくない副作用に対するリスクが低く、比較的安価に実施される。
【0022】
本発明の他の側面および利点は、以下の記載および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】C7の構造の模式的な表現を示す。
【図2】ヒトMSCにおけるC7の骨誘導(osteoinduction)の結果を示す。
【図3】C7処理の用量反応および時間経過を示す。
【図4】C7のNC1ドメインがヒトMSCにおける骨誘導に十分であることを示す。
【図5】C7がMSCの後期継代における骨形成能を持続および増強する能力があることを示す。
【図6】骨形成特異的な遺伝子発現のリアルタイムPCR分析の結果を示す。
【図7】C7がRas-Erkシグナル伝達経路を活性化することを実証する実験結果を示す。
【図8】C7活性化Erk応答がErk特異的インヒビターU0126により無効(abolished)になることを実証する実験結果を示す。
【図9】C7誘導性の骨形成分化におけるERK特異的インヒビターの効果を示す。
【図10】様々な投与量のC7+BMP-2を処理したラットにおける骨形成誘導の例示の結果を示す。
【図11】様々な投与量のC7'+BMP2を処理したラットにおける骨形成誘導の例示の結果を示す。
【詳細な記載】
【0024】
本発明は、添付の図面中で説明される特定の態様を参照して詳細に記載される。
【0025】
VII型コラーゲンは、構造上ホモ三量体を形成する三つの同一のアルファ鎖からなる。これらは整列して逆平行二量体を形成し、側方に集まってアンカー線維を形成する。
【0026】
図1に示されるとおり、各α鎖は、N末端の大きい非コラーゲン性ドメインNC1およびC末端の小さいNC2に挟まれた中心の三重螺旋ドメインから構成される。NC1ドメインは、複数の接着タンパク質と相同性を有するサブモジュールであり、軟骨マトリックスタンパク質(CMP)、9つの連続的なIII型フィブロネクチン様リピート(FNIII)、およびフォンウィルブランド因子のAドメイン(VWF-A)と相同性を有するセグメントを含む。
【0027】
本願の明細書等に使用されるC7の用語は、本来のおよび組換え型のC7〔C7 の全長配列および構造は、Christiano, A. M., Greenspan, D. S., Lee, S., および Uitto, J. (1994) J. Biol. Chem. 269, 20256-20262により完全に記載されており、これらの内容の全体は本明細書中に参照によって援用される〕の両方を意味する。
【0028】
NC1ドメインの用語は、C7の最初の1254アミノ酸を意味する。
【0029】
CMPドメインの用語は、C7の最初の227アミノ酸を意味する。
【0030】
CMPサブドメインを含んでいるC7の任意の断片が一般にMSCの骨形成を誘導および維持することに有効であるが、その程度が様々であることを発明者は発見した。全長C7をNC1へとダウンすることは比較的有効であるが、他方でCMPサブドメインへとダウンさせることに関する有効性は低い。
【0031】
一側面において、本発明は、MSCにおいて骨形成能を誘導および維持するための方法を提供する。この本発明の側面に基づく態様は、一般的にはC7、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される有効量の骨誘導因子をMSCに提供する工程を含む。
【0032】
MSCは、適切な環境、例えば、骨形成培地(osteogenic medium)に配置されるべきである。例示の骨形成誘導培地(osteogenic induction medium)は、16.7%のプレミアムFBS(アトランタバイオロジカルズ Cat# S11550)、2 mM L-グルタミン、20 mM βグリセロリン酸、10-7Mまたは100nMデキサメサゾン、および100 μg/mlの新たに調製したL-アスコルビン酸を含んでいるα-MEMを含みうる。
【0033】
幾つかの態様において、骨誘導因子は、外因性に提供される。骨誘導因子を外因性に適用することは、単純に細胞を前記因子と接触させることにより達成されてもよい。例えば、前記因子は、適切な液体培地中に供給され、MSCを含むペトリ皿に送達されてもよい。前記因子を外因性に供給する他の一般的には知られる任意の方法を使用しうる。
【0034】
他の態様において、骨誘導因子は、骨誘導因子を過剰発現するよう構成される発現ベクターを介して内因性に提供される。更に幾つかの態様において、ベクターを、トリガーシグナルが存在する場合のみ誘導因子が発現するように更に構成して発現のタイミングが制御されてもよい。
【0035】
MSCの供給源および継代は、特に限定されない。MSCは、細胞培養で増殖させている期間の早期の継代または後期の継代から得られてもよい。本発明の骨誘導因子は、後期の継代細胞でさえ骨形成を誘導する能力がある。本発明の目的に関して、早期の継代は、2代継代〜5代継代を意味する。後期の継代は、8代継代〜12代継代を意味する。
【0036】
培地に添加される有効量のC7は、一般的には0.5μg〜1μg/mlの範囲であり、骨形成誘導培地に添加される。
【0037】
本発明の骨誘導因子を含むベクターのデザインは、一般的には当該技術分野において既知の任意のベクターデザイン法で得られる。
【0038】
別の側面において、本発明は、ダメージをうけた骨を修復する方法を提供する。許容される刺激または適切な微小環境下で、MSCは、明らかとされている経路を通じて骨形成分化を経験し、骨形成細胞マーカーを獲得し、細胞外基質およびカルシウムを分泌する。
【0039】
この本発明の側面に基づく態様は、一般的には、骨または軟骨中のダメージをうけた部位にMSCを適用すること; C7、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される有効量の骨形成誘導因子をMSCに提供することを有する。有効量の骨誘導因子を外因性にまたは内因性に供給する方法は、前に記載される。
【0040】
外因性に骨誘導因子を供給する場合に、MSCをダメージ部位に適用する前に、MSCがC7またはそのサブドメインNC1またはCMPで処置されることが好適である。
【0041】
更なる側面において、本発明は、ダメージをうけた骨または軟骨の材料を製造するための方法を提供する。この本発明の側面に基づく態様は、一般的には、適切な成長培地中でMSCを成長させること; 有効量の骨誘導因子をMSCに提供してMSCにおいて骨形成を誘導すること;および MSCを骨または軟骨に成長させることを有する。骨誘導因子は、C7、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される一つである。
【0042】
さらなる側面において、本発明は、MSCの骨形成能を誘導および維持するために有用な組成物を提供する。この本発明の側面に基づく態様は、一般的にはC7、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される骨誘導因子を含む。
【0043】
なお別の側面において、本発明は、MSC骨形成誘導キットを提供する。この本発明の側面に基づく態様は、一般的にはC7、C7のNC1ドメイン、およびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される骨誘導因子を含む。
【0044】
以下の実験は、さらに本発明の様々な側面を実証する。
【0045】
実験
C7は有意にヒトMSCの骨形成能を増強する
図2は、ヒトMSCにおけるC7の骨誘導の結果を示す。図2Aは、MSCにおけるアリザリンレッド(AR)染色をスキャンしたイメージ(左)およびそれらの定量(右)を示す。通常、アリザリンレッド(AR)染色を使用して、骨形成に関連するカルシウムの蓄積およびミネラル化が決定される。C7で標識された組織培養皿中の細胞を、1.0μg/mlのC7を含む骨形成誘導培地でインキュベーションした。OSTで標識された組織培養皿中の細胞を、骨形成誘導培地単独(対照)でインキュベーションした。結果は、骨形成培地におけるインキュベーションの21日後のMSCを示している。
【0046】
図2Bは、アルカリホスファターゼ(ALP)染色をスキャンしたイメージ(左)およびそれらの定量(右)を示す。ALPは、骨形成に必要な重要なマーカー酵素の発現を測定する。C7で標識した組織培養皿を1.0μg /mlのC7で処置した。OSTで標識した皿は対照であった。細胞を骨形成培地で14日インキュベーションした。
【0047】
染色したイメージの定量は、トリプリケートで行なった実験の平均値+/-標準偏差を表す。この実験で実証されたように、C7処理は、AZおよびALP活性の増加により測定されるようなヒトMSCの骨形成能を有意に増強する。
【0048】
C7は至適な骨形成誘導を達成するために0.6μg/mlで8-12日の間に添加されることのみが必要とされる
図3は、C7処理の用量反応および時間経過を示す。図3Aは、アリザリンレッド染色をスキャンしたイメージ(上)およびそれらの定量(下)を示す。イメージは、21日間骨形成培地の存在下で別々の期間を1.0μg/mlのC7で処置したMSCを示す。
【0049】
図3Bは、アリザリンレッド染色をスキャンしたイメージ(上)およびそれらの定量(下)を示している。イメージは、骨形成培地の存在下でC7 (0.6μg/mlおよび0.9μg/ml)の増加させた用量で21日間処理したMSCを示している。結果は、トリプリケートで行なった実験の平均値+/-標準偏差を表す。MSCは、至適な骨形成誘導が達成されるためにC7を0.6μg/mlで8-12日間暴露されることのみが必要とされることに注意すべきである。
【0050】
これらの実験に関して、蒔かれたMSCは、16.7%プレミアムFBS (Atlanta Biologicals Cat# S11550)および2 mM L-グルタミンを含むα-MEMを含むMSC成長培地中で6ウェルプレートに3X105/ウェルで蒔かれた。細胞が70%コンフルエントに達した後に、上記の期間で添加される0.6μg/mlのC7の存在または非存在の条件下で骨形成誘導培地に培地を変更した。
【0051】
C7のNC1ドメインはMSCの骨形成能の増強に十分である
図1に示されるとおり、全長C7は幾つかのドメインを含み、これらのドメインには軟骨マトリックスタンパク質(CMP)のホモログ、9のIII型フィブロネクチン様リピート(FNIII)、およびフォンヴィレブランド因子(VWF-A)のAドメインと相同的な領域が含まれる。本実験において、NC1の骨誘導能を試験した。
【0052】
実験の結果は、図4に示される。アリザリンレッド染色をスキャンしたイメージ(左)およびその定量が図に示される。本実験でMSCは、骨形成培地中で4μg/mlのNC1を21日間処理された。結果は、トリプリケートで行なった実験の平均値+/-標準偏差を表している。
【0053】
また、一般的に、NC1は、全長C7と比べて有効性が低いが、MSCの骨形成能を増強する。さらに、MSCの骨形成能を増強するために必要なNC1の濃度(4μg/ml)は、全長C7に必要な濃度よりも高い。
【0054】
非骨形成性の後期継代MSCにおいて過剰発現されたまたは外因性に添加したC7はMSCの骨形成能を再誘導する
図5は、C7はMSCの後期継代における骨形成能を持続するおよび増強する能力があることを示している。図5Aは、アリザリンレッド染色をスキャンしたイメージ(上)およびそれらの定量(下)を示している。後期継代のMSCs(継代8)は、骨形成培地の存在下で1.0μg/mlのC7で21日間処理した。
【0055】
図5Bは、アリザリンレッド染色をスキャンしたイメージ(上)およびそれらの定量(下)を示している。緑色蛍光タンパク質(GFP)またはC7の何れかを発現するレンチウイルスベクターで感染された後期継代のMSCを、骨形成培地に21日間供試した。結果は、トリプリケートで行なった実験の平均値+/-標準偏差を表している。
【0056】
本実験は、後期継代のMSCにおけるC7の外因性の添加または過剰発現の双方はMSCの骨形成能を回復する能力があることを実証した。
【0057】
これらの実験に関して、3代継代からのMSCをGFPまたはC7の何れかを発現するレンチウイルスベクターで感染し、付加的に7継代の間培養した。次に、感染したMSC(10代継代)を6ウェルプレートに蒔き、骨形成誘導培地に供した。
【0058】
C7 は骨芽細胞マーカーの発現をアップレギュレートし、マスター骨制御因子、Runx2の発現を劇的に増強する
図6は、骨形成特異的な遺伝子発現のリアルタイムPCR(RT-PCR)分析の結果を示している。本実験において、MSCを6ウェルプレートでコンフルエンスに達するまで成長培地中で培養した。次に、それらを骨形成培地に交換した。それぞれのウェルを、示した収穫日まで1.0μg/mlのC7で処理した。等量のRNAを逆転写し、示された遺伝子のmRNAレベルを、SYBRグリーンマスターミックスおよびアルカリホスファターゼ (ALP)、Runx2、骨シアロタンパク質(BSP: bone sialoprotein)、およびオステオカルシン(OCN)に対するプライマーを用いて分析した。データをハウスキーピング遺伝子GAPDHで標準化し、7Dの無処理細胞と比べて倍率変化(fold-changes)として表現した。結果は、トリプリケートで行なったPCRでのデュプリケート実験の平均値+/-標準偏差を表している。
【0059】
本実験は、C7が早期の骨形成マーカー(ALP、BSP、Runx2) および後期のマーカーOCNの双方をアップレギュレートすることを明らかに実証した。
【0060】
C7は骨形成条件下でMSCにおけるRas-ERK経路を特異的に活性化する
図7は、C7による骨誘導がRas-Erkシグナル伝達経路を活性化することを示す。本実験において、細胞は、血清を48時間飢餓されて、次に1.0μg/mlのC7の非存在または存在下で骨形成培地で刺激された。細胞抽出物を、示した時間に調製し、次に上記の抗体での免疫ブロット分析に供試した。総ERKおよびパキシリンが同等のタンパク質ロードを示すためのコントロールとして含まれた。
【0061】
C7はERK(p-Erk)のリン酸化を刺激するが、p-P38を刺激しないことに注意すべきである。
【0062】
図7に示すように、C7処理は、早くも10分でp-ERKの産生を増加し、1時間まで持続した。対照的に、ERKおよびp-P38のレベルは、不変のままであった。ERK(p−ERK)のリン酸化がRas−ERKシグナル伝達経路を開始させることに注意すべきである。
【0063】
MSCsのC7媒介性の骨形成誘導はERK特異的インヒビターU0126により無効にできる
図8は、C7によるERK活性化がERK特異的インヒビターにより無効にできることを示す。本実験において、細胞を1.0μg/mlのC7の添加前に、それぞれのインヒビターで1時間前処理した。タンパク質を、1時間後に回収し、図に示したように抗体での免疫ブロット分析に供試した。標準のERKを、タンパク質ロードが同等であることを示すコントロールとして含んだ。。
【0064】
ERK特異的インヒビターU0126は、p-ERKのC7媒介性の誘導を妨げたが、非特異的なP38インヒビター、SB10、では効果はなかった。
【0065】
図9Aは、アリザリンレッド染色をスキャンしたイメージ(左)およびその定量(右)である。MSCを、21日間骨形成培地の存在下で1.0μg/mlのC7または1.0μg/mlのC7および15μMのU0126で処理した。図9Bにおいて、MSCは、図9Aのように培養された。RNAを、14日後に集めて、早期の骨形成性の遺伝子マーカーのRT-PCR分析に供試した。染色の結果は、クワドリプリケート(quadruplicate)で行なった実験の平均値+/-標準偏差を表している。RT-PCRの結果は、PCRをトリプリケートで行なった実験のデュプリケートの平均値+/-標準偏差を表している。ERK特異的インヒビターは、C7誘導性のカルシウム沈着および早期の骨形成遺伝子マーカーの発現を無効にした。
【0066】
従って、これらの実験は、ERK特異的インヒビターはC7の骨誘導効果を妨げる能力があることを実証した。
【0067】
図9に示したように、MSCの特異的ERKインヒビター、UO126、とのインキュベーションは、C7媒介性の骨形成誘導を無効にした。これらの事項は図9AにおけるAR染色の減少および図9Bにおける骨形成に関連する2つのマーカーであるBSPおよびALPのmRNA発現により実証された。
【0068】
C7(10μg)の低用量はBMP-2媒介性の骨誘導を有意に増強する。
【0069】
この例は、C7がBMP-2媒介性の骨誘導をインビボで増強する能力もあることを実証した。
【0070】
高濃度のBMP-2を陽性対照として使用した。陰性対照は、コラーゲンスポンジ(ウシ)からなる担体のみであった。サンプルを、異所部位(ectopic sites)における筋肉内インプランテーションを介してラットに投与した。実験を4週間持続した。2つの異なる調製物(C7およびC7')を試験した。試験の用量は10、20および40μgであった。
【0071】
その結果を骨形成に関してアルカリホスファターゼアッセイ(ALP)を用いて組織学的に分析した。低用量(10μg)のC7およびC7'がBMP-2媒介性の骨誘導(bone induction)を有意に増強できたことが認められた。以下の表1は、ALP分析の結果を示している。表2は、組織学的な分析を示している。
【表1】

【表2】

【0072】
図10は、様々な投与量のC7+BMP-2を処理したラットにおける骨形成誘導の結果の例を示している。図11は、様々な投与量のC7'+BMP2を処理したラットにおける骨形成誘導の結果の例を示している。
【0073】
本発明は特定の例示の態様および例に記載されるが、本出願に開示された態様が説明の目的でのみ記載され、様々な修飾および変更が請求項に記載される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者によりなされることが理解されるだろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞において骨形成能を誘導および維持するための方法であって:
有効量の骨誘導因子を前記間葉系幹細胞に適切な成長環境において提供することを含み、
前記骨誘導因子はC7、C7のNC1ドメインおよびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される一つである方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記間葉系幹細胞は、細胞増殖の間の継代P2 - P5からの一つである方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記間葉系幹細胞は、細胞増殖の間の後期継代からの一つである方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記骨誘導因子は、細胞に外因性に提供される方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記骨誘導因子は、前記誘導因子を前記細胞中で過剰発現するよう構成された発現ベクターを介して内因性に提供される方法。
【請求項6】
ダメージをうけた骨または軟骨を修復する方法であって:
ダメージをうけた骨または軟骨のダメージをうけた部位に間葉系幹細胞を適用すること;および
前記間葉系幹細胞に有効量の骨誘導因子を提供して前記間葉系幹細胞において骨形成を誘導することを含み、
前記骨誘導因子はC7、C7のNC1ドメインおよびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される一つである方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記骨誘導因子は外因性に提供される方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法であって、前記骨誘導因子は前記骨誘導因子を過剰発現するよう構成された発現ベクターを介して内因性に提供され、前記発現ベクターはダメージをうけた部位に適用される前に前記間葉系幹細胞に導入される方法。
【請求項9】
骨または軟骨の材料を製造するための方法であって:
間葉系幹細胞を適切な成長培地中で成長させること;
有効量の骨誘導因子を前記間葉系幹細胞に提供して前記幹細胞において骨形成を誘導すること;および
前記幹細胞を骨または軟骨に成長させることを含み、
前記骨誘導因子はC7、C7のNC1ドメインおよびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される一つである方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、さらに前記間葉系幹細胞をErk特異的インヒビターで処理することにより前記細胞における骨形成を無効にすることを含む方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記Erk特異的インヒビターはU0126である方法。
【請求項12】
間葉系幹細胞における骨形成能を誘導および維持するために有用な組成物であって:
C7、C7のNC1ドメインおよびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される骨誘導因子を含む組成物。
【請求項13】
間葉系幹細胞骨形成誘導キットであって:
C7、C7のNC1ドメインおよびC7のCMPサブドメインからなる群から選択される骨誘導因子を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−500723(P2013−500723A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523105(P2012−523105)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/043997
【国際公開番号】WO2011/014824
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(301040556)ユニヴァーシティー オブ サザン カリフォルニア (15)
【Fターム(参考)】